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『迅雷日記 【1】』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:wait
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あらすじ・作品紹介
人々の友情だけで迅雷の人生をつづられていくであろう喜怒哀楽日記。
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今日の太陽は、そろそろ東の空に沈みそうだ…。
その最後の日の光が密かに自分を照らしている…。
その光を見ながら、俺の吹っ切れそうにも吹っ切れない災難な人生をふと振り返り呟いた。
「俺はいつまでこんな、貧しい人生を続けるのか…」
日の光に背を向け、ある目的地に行く。
俺の名は、五十嵐 迅雷(22)。
職業は、いっぱしの区間刑事(下っ端)に務めていたが、今思えば、所詮は格好だけの自分であったな…。
一ヶ月とちょっと務めて、その後の早すぎる辞職…。
辞職の理由?
スキル的な問題…、上司からの命令…、言い続けたら終わりがないくらい…。
言ってみれば自分に『合わなかった』と言っていい事なのか…、それとも単に自分が逃げている口実なのか…。
一応、これまでに同じケースだったのが16件近く…。
情けない…。
それにしても、今の不即不離な貧しい生活にはそろそろ、おさらばしたいもんだな…。
職に着くまで何の仕送り無しでここまでやってきたし、耐えつづけてきた…。
増やそうと思っても、一向に増えない残り少ない財産だけで…。
こういう言い方するのも、昔から両親共々、行方知らずだからだ…。
だからと言って、行方知らずの両親を恨んでいるわけではない。
ただ…、何もない状態の俺に、何か残しておいてくれよって言いたいだけだ…。
この根性(辞職多い…)と努力(してない…)と底力(?…)こそが、今の俺を支えている一つの強みが財産…。
まるで、愚痴だな…、またしても、情けない…。
とにかく、一つ言わせれば『住まい』の事だ!
俺の在住都市・東天条区は建物が多いし、実に商業が発展している区だ…。
それに応じ、人口数も区の中では、だんとつに最高値を超えていて、にぎやかではある。
だが!
住宅地の事を言うと建築されている個所が多い割には、物件が高すぎる。
つまり、人がそれだけ集まっているからな…。
だけど、最低限度な生活をしていける小部屋だけでも、最低価格の値段で0が5つ、6つが付く、この破格…。
まったく…、区長のせいだか、人口のせいだか知らんが、おかげさまで、俺は野原住まいだ…。
まあ、慣れてきている自分が恐ろしいが…、どうもな…。
この時俺は、いつもの行きつけの喫茶店『ニーバル』に来ていた…。
「いらっしゃい…、って迅ちゃんじゃねぇかよ! 仕事さぼってきたのかい!?」
彼の名は、この店の店長、大盛道 篤(25)…。
言う時には、ビシッと言ってくれる気が強い大親友。
俺にとっては親代わりみたいな人だ。
飯は、いつもここで破格な(当然安い)値段で食わせてもらっているし、3日に一度、寝床を設けてもらっている…。
もちろん、無料ではないけど…。
でも、東天条区の物件の値段に比べれば、断然こっちの方が大助かりだ。
こうしてくれんのも、俺と篤さんの仲だからかもしれない…。
この大親友には、大感謝の意しかないと言ったところだ。
「この前就いた…ほら…なんだっけ?」
「ああ…、区間刑事…。どうにもこうにも続けられなくてな…。どれも合わないよ、世の中…」
「いや、違う…。お前にどれも、続ける意思がないからだろ!?」
篤さんは、いつも俺に欠けてたものを実直にいってくれた。
でも、なぜかその度に俺は強気に否定する…。
「意思なんか必要じゃないっ!! なんだよっ! 人のことを偉そうに語りやがって! そんな心配するんだったら、店のことを考えたらいいじゃないか!!」
ああ…、止まらない、俺の悪い癖だ…。
その瞬間、頬に重い衝撃を受けた…。
篤さんの怒りの鉄拳だ…。
俺が間違った方向に行こうとしてくれてる時に、必ずと言っていいほど入る。
そして、中腰で俺のえりを掴んで言う。
「迅っ! 俺がお前にどれだけ心配しているのかまだ、気付かないのか!?」
俺は、ここまで怒った篤さんを見たのは、初めてだった…。
それにここまで、心配をかけてしまっていた事に…。
「お前が早く、行方不明の両親に会えるようにと仕事中で日々思ってんだよ! それだけじゃない!」
立て続けに俺のえりをより一層、強く握り締めて言う。
「若くして親元がいないお前を見ているのが…、俺は……」
次第にえりを掴む力が弱くなっていき、中腰の体勢から下へと崩れていく…。
「辛いんだよ…」
俺は、一瞬の静けさにただ、驚いているだけだった…。
(俺は……、篤さんにいったいどうすれば…)
とその時、店の入口から一人の客が入ってきた…。
「おっ! どうした、篤っ!? そんなところでへたり込んで!」
どうやら、常連の客みたいだ。
篤さんは、急に立ち上がる。
「いや、なんでもない…、いつものか?」
「ああ…」
篤さんは、そう言うとバーの所まで急いで戻る…。
相変わらず、俺は、しりもちついたまんまだった…。
いきなり、俺に様子を覗うようにして、常連の客が話し掛けてきた。
「何か問題あり? 君?」
俺は、知らん顔して、その男の4席離れた席に座り込む。
とにかく、その後は、重い雰囲気の喫茶店に変わっていた…。
とその時、篤さんがその空間に割って入るように常連の客に話し掛けた。
「お前…、たしか、仕事情報局の幹部だったよな?」
「…うん。詳しくは、『仕事提案企画事務局』の幹部だな…」
「つまり、人に仕事を与えてくれる立場ってことだろ!?」
「なんだよっ、急に…。お前、仕事には困ってはいないだろ?」
「実は……」
篤さんは視点だけを俺に向かせて、内緒話をするように何かを言っていた…。
おそらく、何か考えているのではないだろうか…。
「そう…、さっきの状態はそれで…ね…。ま、本人のやる気次第でしょ!」
そう言うと、俺の方へ常連の客が近寄ってくる。
「君にいい情報を一つ提供しよう…。無料でね!」
「情報?」
俺は一瞬、篤さんの表情を覗ったがにこやかとしていた…。
「明日の朝、斎峰区の菊叉公園の中央で私が待っている…。その内容とやらは、後日改めてってことで…。とりあえず、来てみてもらえば分かる」
俺は、何の事だかまったく知らずにただ、聞き流していた…。
「篤っ! ここに釣銭置いとくよっ! ごちそうさま!」
そういうと、喫茶店からその男は出て行った。
(俺に無料で告げていった怪しい情報…、なんなんだ!?)
篤さんの数沢山いる常連の客の中で、初めて疑いを持った客というのは初めてだった…。
俺は、篤さんのところへ急いで駆けつけた。
「ねぇ、篤さん! さっきの人は?」
「ああ。彼は仕事提案…なんたらの情報局だよ」
後々明かされる彼だが先に言っておこう。
彼の名は、青井 紫苑(25)で篤の幼馴染である。
「仕事提案?」
「うん。つまり、簡単に言うと仕事人募集中ってことだ」
俺は、それを聞いたのか、救われた思いで飛び上がった。
「そうなんですか!? じゃあ、怪しい情報ではないんですね!?」
「ああ」
俺はとにかく、働けるきっかけが現れるのをひたすら待ち続けていた心構えであった。
これで、十何件目…、と思うと『もう仕事に巡り合えないんではないだろうか』という不安感でいっぱいだったから…。
「とにかく、今日は内に泊れよ…、タダにするからよ」
「いいんですか!?」
「構わん!」
俺は新たなる仕事が見つかり、それと同時に胸をときめかせている日であった…。
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2006/05/03(Wed)02:09:13 公開 / wait
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■作者からのメッセージ
初めまして、waitと申します。
なにか、こう『友情』的なものが感じられる作品が書きたいのでありますので、アドバイスをくださったら、大変ありがたいです。
作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
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