『『瞳』』 ... ジャンル:ファンタジー 異世界
作者:小杉誠一郎
あらすじ・作品紹介
世界三大怪異の1つ――『恐怖』。人に宿る五つの欠片、『右腕』、『左腕』、『瞳』、『心臓』、『翼』の内『瞳』が発見された。上からの命令で『瞳』の捕獲へと向かった二人だが……。
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■ prologue
「ママ……」
窓の外――吸い込まれそうな星空――から目を放し声のした方を見ると、娘が目をこすりながらこちらを見ていた。
「どうしたの? 眠れないの?」
優しく微笑みながら娘に問いかける。
「ママ……どうしたの?」
娘は私の質問には答えず、こちらを伺っている。
「ココア、入れるわね」
飲ませたら、また歯を磨かなくちゃ。などと考えながら、娘用の少し小さめのマグカップにココアを作る。
「――はい」
目の前に置かれたココアをすすりながら、娘は大きな瞳を揺らしている。どんな時にそんな瞳をするのか、私にはよくわかっている。不安と決意が同居したような、その瞳。
「ママ……」
ココアを置いた娘は、更に大きく瞳を揺らしながら、私のほうを見据える。
――決意。
「ママ……、パパは……パパはどこに行っちゃったの?」
わかっていた――娘が何を聞こうとしていたのか。
けれど、改めて娘の声で聞かされると、頭の中で大きな重みを伴って響く。
娘の瞳は、答えない私の様子に不安の占める割合が大きくなっている。意を決して、声を出す。娘はきっと、この重さに耐えてくれるだろう。
「パパはね……、死んじゃったのよ」
「……」
一口ココアをすすったあと、娘は口を開く。
「人は……。人は死ぬとどうなるの?」
大きな瞳に涙を溜めて、私の顔を必死に見ている。小さな肩は不安に震えているようにも見えた。
――きっと、この子は夫が死んだことはとっくに理解していたのだろう。そして、『死』の恐怖に怯えている。本当に聞きたかったのはこちらに違いない。夫が死んでしまってから、ずっとその恐怖と一人で戦ってきたのだ。
「人はね。死ぬと星に還るの」
「……星に?」
「そう、星に。星の周りにはね、ソウルトレントって言う流れがあって、死んだ人の魂はその流れに乗って星中を回るのよ」
「星中を……」
「そう、星中をよ。きっとこの近くを通ったらパパ、様子を見に来てくれるわね」
「本当に?」
「えぇ。きっと見に来てくれるわ」
自分にも言い聞かせる。幽霊でもいい――逢いたい。
「ずっと……ずっと星の周りを回ってるの?」
「ううん。ずっとじゃないわ。パパは35歳で亡くなったから、35年間ソウルトレントの流れの中にいるのよ」
「歳と……同じ?」
「えぇ、そう。生まれた時からの記憶が1日に1日分ずつソウルトレントに記録されるの。そうして、生きてきた一生分の流れをソウルトレントに全て伝え終わったら……」
「……伝え終わったら?」
娘の瞳が、期待と不安に大きく揺れる。
「伝え終わったら、またこの世界のどこかに生まれ変わるのよ」
「どこかに……パパが?」
「えぇ、そうね。パパだった魂が」
「そっか……じゃあ35年経ったらパパに逢えるんだ」
――記憶は失われてしまっているけれど。
言いそびれてしまったとても大切なこと。それはきっと、自分が信じたくなかったせい。
35年経ったら私は65歳。でも、貴方はまだ生まれたばかりの赤ちゃんね。
「――ママ!?」
「え――?」
涙が頬を落ちていた――気付かないうちに。
娘の顔は動揺に満ちている。
「ごめん。大丈夫よ」
「ママ……」
そっと指で涙を拭いながら、娘に微笑みかける――私がしっかりしていなければ。
「ママ……、人は――」
「……うん?」
「人はどうして死んじゃうの?」
――どうしてかしら? 自分で自分に問いかける。「死のう」と思ったことを最初に思い出した。
「どうしてかしらね……。 きっと――」
「きっと――?」
「……きっと、生き続けるには辛いことが多すぎるから……かも知れないわね」
もはや溢れてくる涙を止めることが出来なかった。顔を両手でおさえて泣く私を見て、娘はきっと不安で心が満たされてしまったに違いない。それでも、それでも涙を止めることが出来ない。
「ママ……」
ぎゅ……
耳元で聞こえた娘の声と一緒に、人の肌の――流れる血の――温かさを感じた。
そっと目を開けると、娘が小さな体で私を抱きしめてくれている。
「ママ……大丈夫だから。ユメがいるから」
「う……うぅ……っう……」
娘の小さな腕の中で、声を出して泣いた。
「大丈夫だから……」
いつも私がそうするように背中を優しく撫でてくれている娘は、夫が死んでからずっと私の事を支えてきてくれたのだ、と私はこの時初めて気付いたのだった。
■ arrival
「つまり……俺たちに死んで来いって言ってんだな?」
不機嫌さを隠しもせず、少年――セレスト――が言い放つ。年齢は10歳前後だろうか。Tシャツにジャンバー、ひざ下までのズボンというその服装が、まだ幼さの残る顔立ちを一層引き立てている。茶色い髪の毛は何箇所かツンツンと立っているが、特別セットしたわけでは無いようだ。
老人はピクリ、と眉を動かした後、答える。
「対象は安定している。『恐怖』と言えど、同様の他のケースから比べれば、はるかに安ぜ――」
「あーあー、お宅らは安全だろうよ。こっちはそんな相対的な安全を保証されたって、ちょっとの危険でそっこー死ぬんだっつの」
と、一息ついて
「行ってくりゃいいんだろ。行くさ」
老人たちがおおいに困ったのに満足したのかもしれない。少年は踵を返し、部屋を後にする。
「む……」
少年の隣にいた大柄な男――縦にも横にも大きい――が、3人の老人たちにゆっくりと頭を下げる。その足取りはどっしりとしていて、彼の体重をむしろ想像できないものへとしている。
老人たちしかいなくなった部屋には、苦々しい空気が立ち込めていた。
「セレの言うとおりだ。危険を若者たちに押し付けるのは心苦しい限りだな」
「しかし、我らはもはやここから動くことも適わぬ」
「それに、『恐怖』の確保は最重要事項の1つだ。セレとオキには悪いが、多少の危険を冒してでも我らが押さえなければならん」
「わしらに出来ることなど、そう多くはないのぉ……」
――無事を祈ること。
誰かを危険な任務に送り出すたびに、自分たちより遥かに短い人生を終えた若者たちのことを思い出す。
「生きて帰ってきてくれ……」
漏れでた言葉は、3人の最大の願いに他ならなかった。
「この街の筈だな」
セレストは、たった今到着したばかりの賑わう街を眺める。賑やかな町並みと人の通りに、自然と彼の心もうきうきとしていた。
夜霧の街――タウ。街の前身は毎週末に開かれていた市場であり、広い大通りには今でも多くの商店や露天が並び、その頃を思わせている。
「む……」
オキは静かにうなずき、少年の行動を待つ。ほとんど表情を感じさせない細い目は街中に向けられている――見えているのは見えているようだ。
オキの視線の先――大通りから離れた方には、高さのある建物もちらほらとある。どの建物もどこか緑がかって見えるのは、この街の特徴である夜霧のせいだろう――今は昼間なので霧は出ていない。
「しっかし、ほとんどノーヒントなんだよな。15歳前後の女なんて腐るほどいるっつーの」
(さーて、どうやって探したもんだか……)
悪態とため息をつきながらも、どうやって探すかを考える。やる気は無いが、それ以上に失敗するつもりもない。
「む……」
「ん? あー、そっか。目みりゃわかるって?」
「む……」
「OK。じゃあ適当に探すか。まぁ、まずは寝るとこ探さないとね」
何もしないでいるよりは建設的だろう、と歩き始めたセレストの後を、オキがゆっくりと着いていく。
「あ!」
「……む?」
「あれうまそうじゃね?」
野菜を焼いている露天に向かって駆けて行くセレストを目で追いながら、道の真ん中で立ち止まる――ちょっとした壁のようだ。
少し待つと、セレストが焼けた野菜の刺さった串を3本持って、オキのもとへ戻ってきた。
「はいよ」
串を2本オキに渡して、自分は残りの一本を食べ始める。
「む……」
おきも受け取った串を食べ始める。二口で2本とも食べ終わってセレストを見ると、セレストはまだ食べ終わっていなかった。
「む……」
「そんなに早く食えないって。まぁ歩きながら食うか」
(二口かよ……)
心の声をそっと飲み込んで、歩き始める。
「しっかし、平和そのものだよな」
程なく見つけた宿の部屋で、セレストがぽつり、とこぼす。
「……む」
「いや、だって、とてもこの街にいるとは思えないって。騒ぎの一つも聞こえねぇもん。やっぱ、俺らが着くまでに移動したんじゃね?」
「む……」
「まー、明日探してみりゃいいか。見つかんなきゃ見つかんないで平和でいいしね」
「む……」
オキは、セレストが本心からそれを言っているのではないことは充分わかっていた。
セレストは自分の中のポリシーに反しない限り、途中で仕事を投げ出したりしたことはない。
「さーて、とりあえず寝るか」
と、3台あるベッドの2台をくっつける。まだ陽もようやく落ちた時間だ。普通ならば寝るには早いが、深夜に行動を起こすつもりの二人にとっては、決して早すぎる時間では無い。
「どっちにしたって狭いけど、……我慢だね」
「む……」
オキは、2台並んだベッドに体をよこたえる。やや斜めに体を置くが、やはりはみ出してしまう。
「でっかくはなりたいけど、あんまりでっかいのも不便だね」
「む……」
なんとか収まろうと体の向きを変えているオキを見ながら、少年は――見えないように――ため息をつき、部屋の明かりを落とした。
……キィ
静かに扉を開く音が、しかし夜の静寂の中では大きく響く。
男がベッドの傍まで足音を消して近づき、持っている斧を大きく振り上げる。
ドスッ、とベッドに刃物がめり込むが、手応えが無い。
「――っ!?」
「あーあ、布団ちゃんと弁償しろよ?」
声とともに部屋の照明が灯る。壁に寄りかかって目を細めながら男を確認するセレストの顔には余裕が滲み出ている。
バリィンッ! 窓の割れる音に続いて男が二人部屋に飛び込んでくる。
「何者だ?」
「――シッ!」
セレストの質問には答えず、男たちはセレストに襲い掛かる。
「うっ!」
「ぐっ!」
鈍い音と共に少年に飛び掛る筈だった男たちは壁に叩きつけられる。
「む……」
男たちを殴りつけたままの体勢でオキが息をつく。
「さーて、と。まだやんの? それとも仲間置いて逃げるか?」
最初に入ってきた男に対して、ゆっくりと重心を壁から足に移しながらセレストが問いかける。
「……」
一瞬の沈黙のあと、男は扉に向けて走り出す。
「まぁ、いい判断だと思うよ――逃げ切れないことを除けばね」
「っ!?」
扉から出た男が廊下の端――階段のある場所――に立って待ち構える少年を見て声を詰まらせる。
「ば……ばかな……」
「で? 何の用だったの?」
「……化け物どもがっ!!」
はき捨てるように言って、男がセレストに斧で切りつける。
「よっと……」
ゆっくりとした動きで――スピード自体が遅いわけではない――男の背後にまわり、首の後ろに手刀を叩き落す。昏倒した男がそのまま床にキスをするのを、セレストは目を細めて眺めていた。
「……違うとは言わねぇよ」
(そう。……違わねぇさ)
男の言葉を思い出しながら、自然と呟いていた。その視線は既に男からは離れ、どこか遠い場所を見詰めていた。
「で、なんかわかった?」
縛り上げた男たちを調べるオキに、セレストが寝っ転がったまま尋ねる。
「む……」
返事とともにセレストに向けて小型の銃器を投げる。
「FoRCE? こいつら……ハンドラーなの?」
「む……」
オキは首を振ってそれに答える。
「こいつらのじゃないんだ? ……なるほど、どっかでたまたま拾ったわけか」
FoRCEを持つにはBH協会の試験に合格する必要があるが、たまたま遺跡などで拾った他人のEPや発掘品のFoRCEを無断利用する賞金稼ぎや盗賊、冒険者も珍しくは無かった。
「これが……FoRCEか。手にとって見るのは初めてだな」
セレストが感慨深げに手の中の銃器――EP、もっとも一般的なFoRCE――を眺める。
「えい!」
引き金を引くがEPは動く気配を見せない。
「む……」
「あー、適正か何かがあるんだっけ? わかってても『お前には出来ない』って感じだとむかつく」
セレストはいらだたしげに握り締めた銃器を睨みつける。
(動け……)
少し精神を集中させて再び引き金を引くが、やはりEPはうんともすんとも言わない。
「……まぁ、これは明日にでもBH協会に届けてやりゃいいだろ」
半分ふてくされた様子で机の上に放り投げる。
「……む」
怪訝そうな顔をするオキに対して
「だーいじょうぶだって。ぱっと見でばれるわけはないし、ついでに何か『瞳』に関わるような良い情報がもらえるかもしれないじゃん?」
セレストやオキが所属する団体『鼓動』と、FoRCEやハンドラーを管理する団体『BH協会』は決して温厚な関係には無い。これに金属製の武器を扱う集団『HAGANE』を加えて、三つ巴のにらみ合いが続いていた。
「……む」
「だーいじょうぶ大丈夫。うまくやれるって」
心配そうなオキをよそにセレストは軽い口調で答えて布団にもぐる。
(くそったれ……)
実際に手にとってみれば簡単に扱えると思っていたFoRCEが少年の意志に全く反応を示さなかったことに――決して表には出さないが――少なからず傷ついていた。いわゆる『ふてね』である。
「む……」
そんな様子を察したのか、それとも単純に男たちの調査が終わったからなのか、オキもベッドへと戻る。……またしばらく寝返りを繰り返さなければならない。
■ association
「お届けいただき有難うございます」
反射の強い眼鏡をかけたBH協会の受付の男が、にこやかにセレストからEPを受け取る。EPにはナンバリングが施されており、どのハンドラーのものかは調べればすぐにわかる。――概ね、EPが見つかった場合は持ち主のハンドラーがどうなっているのかは明らかだった。
にも関わらず男がにこやかなのには理由がある。
ハンドラー以外のものが協会にFoRCEを引き渡すのは非常に珍しいことだからだ。協会にFoRCEを引き渡した場合、ハンドラーならばハンドラーズランクに関係するポイントが発行される。だが、ハンドラー以外にはこのポイントは価値が無い――もちろん、発行もされない。そこでハンドラー以外がEPなどを届けたとき用の報酬が用意されていたが、それは微々たるもので、それ以上の額で買い取ってくれる人間はいくらでもいた。
「こちらがお礼です」
受付の男は、いくらかの金額と名刺をテーブルの上に置く。
『夜霧の街 タウ 駐在
ハンドラー ランクA シェルトン』
「こちらの名刺があれば、BH協会に仕事の依頼をするときに割引が受けられます。ぜひご利用ください」
「はい」
一通り説明を聞いて――システムについて把握し――満足したセレストは本題を切り出す。
「ところで俺たちも一応賞金稼ぎみたいなことしてるんだけどさー、最近なんかこの街で変わったことってないの?」
「変わったこと……ですか?」
男はオールバックにした赤みがかった髪を左手で撫で付けながら考える。こちらの機嫌を損ねるわけにはいかないのかも知れない。
「そういえば、ここ二週間ほど深夜に男が何人か行方不明になる事件が。どれも素行の悪い男ばかりで『天罰だ』なんて声が聞こえないでもありませんが、そろそろハンドラーに正式な調査依頼が来るのではないか、という話でした」
(行方不明……か。――それより)
「む……」
オキに一瞬目を向けて合図する。
(――わかってるさ)
「なんでそんな話を俺たちに? ハンドラーに仕事が回ったほうがいいに決まってるよね?」
セレストの言葉にシェルトンは少し驚いたようだったが、
「えぇ、そうですね。話すか少し迷ったのですが、実は今、この街にいるハンドラーはごくわずかなんです」
「……?」
怪訝そうな顔をするセレストを確認しながらシェルトンは話を進める。
「軍の支部もあるグッサニンデで人手が必要らしく、周辺の町からハンドラーが集められています。なので、あまり些細な事件にハンドラーを割いている余裕がないのです」
「軍支部がある街でわざわざハンドラー集めてるの? なんで?」
「私もあまり詳しくは知りませんが、脱獄騒ぎだと聞いております」
「ふーん……」
「む……」
オキが退散を促す。
(だな、そろそろ『お互い』怪しみだしたし……)
「じゃ、行くわ。情報ありがと。仕事がんばってね」
軽く手を振りながら協会を後にする。
「はい、ありがとうございました」
言いながらシェルトンは少年たちの特徴を事細かに紙に書き始める。
「普通の冒険者や賞金稼ぎなどではないな……。十中八九『HAGANE』か『鼓動』だろう。武器を携帯していなかったということは『鼓動』か?」
更に覚えていることを全て書き出していく。
「これでグッサニンデにでも行ってくれれば有難いのだが……どうかな?」
簡単な事件から食いつかせることでグッサニンデの脱獄騒ぎに興味を向かせたつもりだった。彼にしてみれば、グッサニンデに行ってくれれば大量のハンドラーや軍が待ち構えているので『鼓動』(あるいは『HAGANE』)を捕らえるチャンスだと考えてのことだったが、実際にはこれは誤りだ。
グッサニンデは今、たった一欠片の『恐怖』によって壊滅的な被害を受けていた。軍支部の6割は既に死亡。終結したハンドラーのうち80人近くが既に返り討ちにあっていた。
「む……」
オキがセレストに対して厳しい視線を向ける。
「悪かったって。だってなんか気になるじゃん」
「む……」
「怒るなって。飯食い行こうぜ? 腹減ってるからだって」
(食いつくかな……?)
セレストはそっとオキを見上げ様子をうかがう。
「……む」
オキはやや憮然としながらも、しかし若干食欲が勝る。
「うわ、待ってって」
飯屋を探して歩き出すオキを、少し頬を緩ませながら小走りで追いかける。
(ほんと飯のこととなるとオキは……)
「どうすんの? グッサニンデ行ってみる?」
少年の問いにオキは首を振って答える。
「じゃあ、深夜の失踪事件が先か」
「む……」
オキはゆっくりと頷く。
「お、あの店とかいいんじゃね?」
セレストの指差した「揚げ物・定食」の看板を見て、オキは更に歩みを速めた。
■ encounter
夜。
まだ明かりの灯る店も多いが――
「すごい霧だな」
「む……」
10m先が見えないほどの、濃霧。
ついでに切り裂くほどの寒さが、七分丈のズボンをはいているセレストを襲う。
「さみぃー。昼間ぜんぜんあったかかったのに……」
夜霧の街、タウ。この街の代表的な特徴はもちろん市場と夜霧であるが、霧の出た夜には気温が一気に下がることも――地元では――有名だ。
「こんなんじゃ探せないんじゃ――」
ドッ!
強烈なプレッシャーが心臓をわしづかみにする。体がすくみ、立っているのも辛いほどのめまいに襲われる。
「っ!!?」
「……むっ!」
「な……なんだっ!?」
渇いたのどから声を絞り出し、誰にとも無く聞く。だが、もちろんわかっている。
――『恐怖』。
(ま……まさか……、こんな……)
対峙している訳では無い。姿も見えないし、このプレッシャーも自分たちに向けて放たれたものでさえない。――だが、
「こ……こんなん、捕まえられるかよ……」
既に気配は消えていたが、セレストの全身からは汗が噴き出していた――この寒さにも関わらず、だ。それはオキにしても同じことだった。
(『恐怖』……人に宿る怪異)
話にしか聞いたことの無い『それ』に今更その名の意味を知る。
出発する前の資料と説明を思い出す。
「『瞳』は『恐怖』の五つの欠片の中で最大の魔力を有する欠片です。小さな村を一瞬で焼き尽くす程度の火力があると考えてください」
「どうすんだよ、そんなもん」
呆れ果てた口調で説明に口をはさむ。説明員は気にせず進める。
「ですが、その魔術の効果は『見えている範囲』であることが過去のデータからも明らかです。そこで、『常に対象の視界に入らずに目的を達成する』ことが求められます」
(なるほど、それで俺か……)
セレストは単純な身体能力においても自身のスピードに自信を持っていたが、それとは別にスピードを強化する魔術を得意としている。並の相手ならば、簡単に『視界に入らないうちに目標達成』出来る自信があった。
「対象の外見の特徴ですが、まず一番の特徴は目です。『右腕』や『左腕』と違って、『瞳』は常時『恐怖』が解放された状態なので一目でわかる筈です。まだ15歳の女性で――」
――だが、
間近に感じる『それ』はセレストの予想を遥かに超えるものだった。体の震えが止まらない。
(心臓が……重い。どうなってんだ……くそっ!)
嘔吐感にも似た体の不調を必死に抑え、腹を据える。
「行くしか……ねぇ」
「む……」
プレッシャーを感じた方へと足を――ゆっくりと、慎重に――向ける。
全身が鉛のように重く感じられる。
「……てくださいっ!」
男に絡まれているのだろうか、女性が叫んでいる。普段ならば助ければ良いが、今はそうはいかなかった。
(先手を取られるわけにはいかない。ばれないように近づき――一瞬でやる)
「いいから来いって言ってんだろっ!!」
絡んでいる男が声を荒げている。
(このあたりの筈だ。どこだ……? どこに行った?)
先ほどプレッシャーを感じた位置はこの付近の筈だが、周辺にそれらしき痕跡は無い。
「む……」
「……オキ?」
立ち止まっているオキの視線を追う。
(……絡まれてる女?)
女性は既に男二人に壁際まで追い詰められている。
「オキ、今はまずい。気付かれないように――」
しかしオキは既に動き始めていた。こうなったら静かに済ませるとか、そういう考えには至らないだろう。
(……仕方ない)
「オキ、俺がやる」
言って静かに神経を集中する。ゆっくりと星の血脈(ソウルトレント)の流れが見え始める。右手の薬指をそっと流れに逆らうように動かすと、わずかな重さと共に流れが指先に引っ掛かるような感覚が生まれる。
(――速くっ!)
目的を明確に、強く念じ右腕を振って足を風が包み込むイメージを現実のものとする。
(……さて)
男たちと自分の距離を確認し、跳ぶ。
「――っ」
着地と同時に首筋に手刀を打ちつけ、そのまま気絶した二人の襟をつかみ後ろに跳び退る。
(……よし)
男たちを放しオキの方を確認すると、こちらを見てうなずくのが見えた。
(まずは一安心か。……だが)
――今ので『恐怖』に気付かれたかもしれない。
そう考えると自然と心拍が上がるのを感じる。
「大丈夫?」
ともあれと、絡まれていた少女に近づき声をかける。
「あ……あ……あの、……あり、ありがと……う……ございます」
少女は消え入りそうな声でそう言いながらゆっくりと顔を上げる。
濃い霧でほとんど見えなかった少女の姿が、夜の闇のなかでゆっくりと見え始めた。
後ろで結わえた薄い青色の髪。体のラインの目立たないゆったりとした服。そして――
「右目を覆う……包帯」
『まだ15歳の女性で――』。出発前の説明が再び頭に響く。
ドッ ドッ ドッ ドッ
再び全身から汗が噴き出す。
セレストの様子がおかしいのに気付いたオキが警戒しながら近づいてくる。
一気に喉が渇いていく。あまりにも不用意に近づき過ぎたこの事態がセレストの冷静さを奪う。
「あ……、あ……あの……?」
少女は心配そうな――怪訝そうな――声で少年の様子を気遣う。
(――どうする?)
セレストは考える。
どうやってこの状況を打開するか、を。
だが、その手段は浮かばない。
――「そこで、『常に対象の視界に入らずに目的を達成する』ことが求められます」
セレストの考えでは、先手を取ることは必須条件だった。懐にしまってある封印具――軍と『鼓動』が共同開発したもの――を確認しながら、だが間合いを離すことばかりを考えていた。
「あの……も、もしかして……私を?」
「っ!?」
少女の言葉に驚き、後ろに跳び退る。そのまま星の血脈(ソウルトレント)への干渉を始める。右手の薬指に風の記憶が感じさせる重さが溜まっていく。
(――遅い。もっと速く集まれっ!!)
既に通常の先頭で使うには充分な規模の魔術が使える状態にあったが、セレストにはそれが目の前の状況を打破するのに全く足りていないことがよくわかっていた。
「む……!」
オキが足を踏み鳴らす。と、同時に少女とセレストの間に分厚い土の壁が生まれる。
(よし、いける!)
セレストはオキの稼いでくれた時間と塞いでくれた視界を最大限有効に利用するべく、一瞬で少女の後ろに移動する。
セレストのイメージした風の刃がセレストの手刀にあわせて少女の首筋へと向かう。
ブンッ……
(手元が――っ!?)
セレストの手元が歪んだように見えた次の瞬間――
「……ぁっ!」
オキの作り出した壁に叩きつけられる。
「……あ……」
少女が右目に右手を当てながら膝をつく。その指の間からは赤黒い血がしたたり落ちていた――セレストのつけた傷では無い。包帯の隙間からはかすかに異形が見て取れる。
「む……!」
オキは再び足を踏み鳴らしてセレストと少女の間に土壁を生み出す。そのまま急いでセレストの基へと向かい、ダメージを回復するべく星の血脈(ソウルトレント)への干渉を始める。
「……ん……」
少しの間気を失っていたセレストが、起きて周りを確認する。
(失敗……か)
自分を介抱してくれているオキに軽く手を上げ、無事をアピールする。
(しかし……生きてる?)
自分がまだ生きていることに疑問を抱きながら、再び星の血脈(ソウルトレント)へ干渉し、足に風を纏わりつかせる――スピードを速める、セレストの最も気に入っている魔術の一つだ。
「……あ……」
土壁から姿を現した少年を、顔を――右目を――抑えたままの少女が左目で確認する。
「あ……あの、もし……」
少女の言葉にセレストは動きを止める――動けなかった。
「も、もし出来るなら……」
そこで少女は一瞬間を置いて、静かに言った。
「――殺してください」
■ tender
「……殺せ」
目の前に横たわる少年は、強かった。
出発前に受け取った資料では、まだ8歳の筈だ。
「……殺せ。たまたま死ななかったから生きてきただけだ」
体を動かすことも出来ない状況で、少年は空を見上げながらどこを見るとも無く言い放った。
「む……」
「お前の言いたいことはわかる。だが、その少年が魔術を使う以上、『鼓動』として野放しにするわけにはいかん。『適切に処理』してくれ」
魔術を操る少年が盗賊まがいの行為をしているのでなんとかして欲しい、という依頼だったようだ。
子供を相手にするのは本意ではなかったが、『鼓動』の意思決定を担う『三番』から直々に命を受けたのでは動かないわけにはいかない。
少年を探すこと一週間。依頼のあった街からそう遠くない荒野で少年を見つけた。
実際にみた少年に、気付かれないように静かにため息をつく。
――こんなに小さな子が。
生来の魔術師はそう多くない。この子がどのようにして盗賊のような生活をしなくてはいけなくなったかを思うと、不憫でならなかった。
「『鼓動』のお出ましか……」
こちらを隙無く窺う少年は、私が『鼓動』であることに気付いたようだ。鋭い子だ。
甘く見ていたのだと思う。
まだ子供であること。そして、星の血脈(ソウルトレント)に関しての知識がある筈は無い。いかにして魔術を扱うかを知らず、ただ経験だけで制御するのは現実的では無い。
次の瞬間の驚きを私は生涯忘れないだろう。
「いくぜ――っ!」
少年は器用に風を操り、私の大きな体を吹っ飛ばすほどの威力の突風を巻き起こした。
「――っ!!」
なんとか足から着地した私の目の前に、既に少年が迫ってきていた。
「……むっ!」
少年の蹴りをまともに顎に受ける。ただ蹴られたにしては体重差を考えても重過ぎる。蹴りにも風を孕ませているに違いない。
――こんなことまで出来るとは。
思えばこの時点で私は冷静さを失い始めていた。
「む……!」
足を踏み鳴らし、少年と自分の間に土の壁を生み出す。
「なっ!?」
少年は驚いたようだったが、すぐに気を取り直して横から回ってきた。
――その時間があれば充分だった。
「む……」
ゴゴゴ、という地響きとともに地面が大きく揺れる。
「――っ!?」
少年がなんとかバランスを保とうとしているのが視界の端に確認できた。
ピシッ……
地面の一部にひびが入ったのとほぼ同時。太い土の柱が地面から少年に向かって突き進む。
「……くっ!」
なんとか一本目の柱を避けるが、続けざまに二本目、三本目の柱が少年へと向かう。
本来ならば槍のようにとがらせて相手を貫く魔術だが、今回は目的が違う。
「ぅぁっ!!?」
三本目の柱をまともに体に受け、少年は十数m吹っ飛ばされる。
「む……」
ゆっくりと少年の方に近づいていくと、少年は起き上がり右手をかすかに動かした。
「……む」
左の肩から血が噴き出す。傷はそんなに深くないようだが、何をされたのかわからないのが大きな問題だ。
「む……!」
足を踏み鳴らし、再び少年との間に土壁を生み出す。次の瞬間――
スパン! と土壁の一部に切り込みができた。
そして今、少年は傷だらけで横たわっている。
致命傷は無いが、打撲や骨折は数えるのもばかばかしいほどだろう。
「早く殺せ……」
目の前で死を待つ少年のことを想う。
生まれる場所や環境さえ違えば、このようなことにはならなかった筈だ。
「『適切に処理』してくれ」という『三番』の言葉を思い出す。
――適切に……処理。
「む……」
私が声を出したことに反応し、少年がちらりとこちらを見る。
ようやくか、とその顔に書いてあるように感じた。
ゆっくりと首もとに伸ばされた私の手を確認し、少年は目を閉じる。
「……む」
少年の奥襟をつかみ、右肩に担ぎ上げる。
「――っ!?」
そのまま踵を返し、『鼓動』へと歩き始める。
「何を……?」
「む……」
「いででっ!!」
肩の上で暴れようとする少年を、少し腕を締めて黙らせる――あばらも折れているのか、効果は期待以上だったようだが。
おとなしくなった少年の重みを感じながら私は考える。
今まであった辛いことの分だけ、この子には幸せになる権利がある。
――『鼓動』に戻ったら、うまい飯を一緒に食べよう。
「……」
気を失った少年を起こさないように、星の血脈(ソウルトレント)へ干渉し、少年の傷をゆっくりと癒していく。苦労して覚えた、治療のための魔術。
生来の魔術師以外は、魔術を使えるようになるために激痛が伴う『儀式』を行わなければならない。星の血脈(ソウルトレント)に干渉するには通常の肉体では感度が足りないからだ。そこで、体の一部分を特殊な液体にひたし、星の血脈(ソウルトレント)に干渉できるようにする。
自分の場合は、一度目は相性の良い大地を操る魔術のために右足のかかとに対して『儀式』を行った。一部分でも干渉できる場所があればどんな魔術でも扱うことが出来るが、治療のための魔術を覚えようと考えたときに、足でそれを行うことは自分で許せなかった。
――どこが相応しいだろうか。
そう考えたとき、真っ先に浮かんだのが手の平だった。痛い部分に手を当てるだけでも痛みがやわらぐ気がする。これよりも相応しい場所はない、と周囲の反対を押しきり二度目の儀式を受けた。
体の中で干渉できる面積の占める割合を大きくすればするほど、指数関数的に『儀式』の時の痛みは増大する。発狂しそうになるそれに耐え、ようやく使えるようになったが、治療の類の魔術との適正は決して高くなかった。
練習、勉強、試行錯誤を重ね、なんとか現実的なレベルになったのはごく最近のことだ。
少しずつ安らかになっていく少年の息づかいに、自分自身も救われたような気がした。
■ confrontation
「な……なんで」
(――殺してください、殺してください、殺してください……)
セレストは、少女の悲痛な――静かな――叫びを耳にし、声を漏らしていた。
『なぜ殺して欲しいのか』などという意味では無い。セレストには痛いほど少女の気持ちがわかっていた。
涙の溢れてくるのを感じた。
――好きでキャリアになったわけではないのだから。
涙の溢れてくるのにあわせて、一気に冷静さを取り戻す。
「――っ!」
腕で不自然にならないように――少女に気付かれないように――目元をぬぐい、少女に向き直る。
「俺たちはあんたを殺しに来たわけじゃない。『恐怖』への対抗策を研究しているんだ。一緒に来て欲しい」
しかし、少女は首を振ってそれに答える。
「あんたにとって辛い実験もあるかも知れないが、逆に『恐怖』を抑え込むことに成功するかも知れない」
「無理です。……わかってるんです」
少女じゃ、今までで一番はっきりとした声で否定した。
「あの……殺してくれるのでないなら……どこかへ……」
右目を押さえながら少女が一歩後退る。
「殺さない。死ななくたって、他に方法はいくらでもある筈だ」
「無理……なんです。……また……またみんな殺して終わりなんです」
「なんでわかるんだよ、そんなことっ!」
「わかるんです。無理なんですっ!」
「わかってねぇよっ!」
大きな声で叫ぶ。
――しまった、と思ったがもう遅い。
「あんたを殺しに来た連中が死ぬのは当たり前なんだよっ! あんたを殺しに来てるんだから、逆にあんたに殺される覚悟があるべきだっ! だけど……っ! だけど……っ!」
言いながら数年前の自分を想う。もはやあふれる涙を拭うこともしない。
声を詰まらせ、聞こえるか聞こえないかわからない程度の声で続ける。
「だけど……あんたは違うだろ。……あんたにだって幸せになる権利があるはずだ」
ぽん、と優しく肩が叩かれる。
オキが穏やかな表情で少年の肩に手を当てていた。
少女の右目から流れ出た血が包帯を赤黒く染めていた。左目から透明な涙が頬を伝う。少女はこのとき初めて『瞳』も涙を流す、という事を知ったのだった。
パチ、パチ、パチ……
場違いな拍手の音が静かな夜の街に響く。
「いや、素晴らしい。『鼓動』っていうのは演技の勉強までするんですか?」
眼鏡をかけた男が笑いをかみ殺すようにしながら手を叩いていた。
セレストはその姿に見覚えがあった。
「――BH協会の……」
「えぇ、受付ですよ。こんばんは」
言いながら銃を構える。
「まったく、グッサニンデにでも行ってくれれば良かったのですが、まぁもう仕方の無いことです。この時間にこの霧です。誰に気付かれることもないでしょう」
「どういうことだ?」
「こういうことですよ」
ガウンッ!
男が放った弾丸を、少女を抱えて横に跳んでかわす。
「む……」
オキが足を踏み鳴らし、男の目の前に壁を作り出す。
「少々潔癖でしてね。これ以上この街に『鼓動』などにいられたら私の胃に穴が開いてしまうでしょう?」
ダンッ! ダンッ! 続けて踏み鳴らされる音とともに男の三方が土壁で塞がれる。
「大丈夫?」
セレストが少女に声をかける。少女は特別変わった様子も無い――実際には少女は状況が把握できておらず、ただ少年が自分を持ったまま跳ぶ力があったことに驚いていた。
大きな破壊音とともに、男の目の前に土壁に大きな穴が開き、崩れる。
「……ふむ」
男は左腕のFoRCEを確認しながらこちらに目を向ける。
「面白い攻撃だ。楽しませてくれるようだな」
「楽しめないと思うぜ?」
言いながら一気に男の横へ移動する。
「速いな」
しかし放った手刀は男に寸前のところで避けられてしまう。
男はそのまま少年の右肩に手を当てる。
ドンッ! 鈍い衝撃とともにセレストは大きく吹っ飛ばされる。
「直前で体を浮かせたか。いい反応だ」
「む……」
ズズズ……
オキが足を踏み鳴らすと同時、地面から地鳴りのような音が鳴り響く。
ピシッ!
地面に亀裂が走った瞬間、一部が槍のように尖って男を貫くべく伸びる。
「ふん……」
男は余裕の表情で迫ってくる岩の槍を避ける。瞬間――
ズドドドッ! 男が避けた方向に更に十数本の槍が地面から生み出される。
「――っ!?」
男は大きく跳びあがってそれをかわす。
「くらえっ!」
セレストが男が飛びあがった先を狙って圧縮した空気で叩き落す。
「――んぬっ!!」
地面へと叩きつけられた男の位置を確認しながら、息を整える。
激しい戦闘によって、周囲の霧が少しずつ薄まっていく。
「……やったか?」
「ふむ……、大したものだ。だが、一撃で殺せるほどの威力は無いようだな」
男はゆっくりと立ち上がる。
(頑丈な野郎だ……くそったれ)
「むっ!」
オキが吹っ飛ばされる。
「っ!?」
急いで足に風を纏い、一気に間合いを詰める。
「ぅおらっ!」
走りこむ勢いをそのままに、男の頭めがけて右足で蹴りを放つ。
軽くしゃがんで避ける男に、体を捻って左足を打ち下ろす。
「……くっ」
男はさすがに避けきれず、左手で蹴りを防ぐ。
「――悪くない動きだ」
余裕のある口調で言いながら男はセレストの蹴りを受け止めた左腕のFoRCEを発動させる。
「うあっ!?」
「……む」
吹っ飛ばされてきたセレストをオキが受け止める。
「ところで君たちは……ハンドラーと戦うのは初めてか?」
男が左手のFoRCEの弾(カートリッジ)を入れ替えながら少年たちに聞く。
「こんなのは……見たことがあるのかな?」
言いながらEPを構える。
男の構えたEPのカートリッジが静かに回転を始める。
キュイーーーーーーン……
カートリッジが高い音を立てて回る。
「さて……死ぬなよ?」
行った瞬間――
右肩から血が噴き出す。
「オキッ!?」
「見えたか?」
男がEPから排莢させながら、落ち着いた様子でこちらに話しかける。
(銃口が光ったのは見えた。その一瞬後にはオキの肩に着弾した。つまり――)
「――超高速弾」
「ふむ、的外れでもない」
言いながら男が今度は銃口をセレストに向け、カートリッジをまわし始める。
「さて……避けられるかな?」
男がゆっくりと引き金を引いた。
2006/02/03(Fri)06:08:44 公開 /
小杉誠一郎
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■この作品の著作権は
小杉誠一郎さん
にあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
投稿は二度目になります。
更に修正しています。
表現を変えるところもそうでないところも、
一度、全て打ち直しました。
よろしくお願いします。
/*--- 更新履歴 ---*/
2006/01/14(土)
・全体的に描写の追加をしました
・1話分追加しました
2006/02/03(金)
・話を書き加え、構成を変えました
・1から全て打ち直しました
作品の感想については、
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