-
『夢見た世界の鎮魂歌』 ... ジャンル:異世界 ファンタジー
作者:RUI(元 近衛)
-
123456789101112131415161718192021222324252627282930313233343536373839404142
第0話 非日常の介入〜The intersecting world〜
破壊され尽くした街の跡に、一人の男が立っていた。 大地に染みついた血は略奪の証。折れた剣は絶望の印。 壊れた建物は人気を失い、吹き抜ける風は血の臭いを運んだ。 瓦礫がカラカラと乾いた音を立てる。 そう…戯曲は始まってしまったのだ。 確かに前奏曲も、前口上も流れた。 ただ、それに人が気付かなかっただけだ。 ただの一人も。 死の交響曲を無音で奏でる街は、そんな愚か者達の末路を暗示しているかのように黙していた。 風が止んだ。 男は血に、汚れに、欲望に、また彼の物ではない狂気に染まったその手を見つめた。 唐突に、男は笑った。 嘲笑った。 歓喜の叫びを上げた。 しかし…叫びは狂ったような高笑いに変わる。 その中に僅かな哀しみが混ざっていたことに彼は気付かなかった。
それから、どれ程の時が過ぎたのだろうか? 男はふと笑いを止めて空を仰いだ。 灰色の雲が流れて、空気が重く湿ってきた。雨が降りそうだ。
「雨か…それはいい…。この血を洗い流してくれる」
呟くように言って、男は小石を蹴飛ばした。 小石は瓦礫にあたってはね、ため池に落ちた。 石は水面に波紋を生み出す。
「イー…ス様。僕に…ご用とは…一体?」
何処からか、途切れ途切れに幼さの残る声が聞こえた。姿は見えない。イースはただ、空を見ていた。
「…背徳のシナリオの幕引きを…」
ポツリ、と雨粒がほおを叩く。やがてそれらは大地に、イースに降り注ぎ、辺りをぬらした。独特のしめった香りと、湿気が辺りを包む。
「解りました…では…」
声の主は足音を立てて惨劇の場を後にした。しかし、それはイースにとってとるに足らないことだった。全てが台本通りに用意した役者達が動く。脇役さえ脚本に従う。何という滑稽なストーリーだろう。その先に光明なんて無いことも知らずに…。やはり笑わずにいられない。
「ふふふっ…あはっはっはははっ…」
狂笑が響く。禁断のシナリオは始まりを告げるだろう。逃げるすべは…無い。生か死かのみが残されている様はまるでコイン・トスのよう。笑いながら彼は心の一部で思った。 全ては我らの手の中で。さながら盤上の駒。雷鳴は轟き、雨は降り注ぐ。終末までそうは掛かるまい。
「さぁ………」
空を仰いで…紡ぐ
「開幕だ…」
西日がいっぱいに教室に差し込んでいる。教室はそんな時間帯だからか殆ど人はおらず持ち主のいなくなった30の机達が寂しそうに立ちつくしている。
「やっぱり。お前もそう思うだろ?」
目の前の友は長髪の猫毛がうっとうしいのか軽くかき上げて人なつっこい笑みを浮かべた。開け放たれた曇り硝子からは若葉の臭いを包んだ風が吹き込む。
「悪い、全く聞いていなかった」
猫毛は硬直し、それが溶けるとほぼ同時に睨め付けるように退屈そうに座っている少年を見た。少年は大儀そうに欠伸をすると手のレシートを丸め、今にもあふれそうなゴミ箱に投げた。レシートは放物線を描きゴミ箱に降りる。
「ナイスシュート。…んで、なんでいつも俺の話をスルーするわけ?」
不機嫌そうに唸る猫毛と相殺するように椅子を引いた。静寂が引き裂かれる。掃除したばかりの傷だらけの床に新たな傷が生まれる。
「…お前はそういう奴だったな」
「そうだよ…。社は気づくのが遅すぎる」
廊下には人がいない。廊下の静寂は永久にも感じられて、軽い畏怖もあった。もしかすると、人の一人や二人はいるかもしれないのだが、そこは気にしなくてもいい。どこか現実離れした現実の非現実さが怖くて、何も話す気になれない。こんなことは、あの時以来か。彼はそう考えて口を閉じたまま、教室を跡にした。
町はすでに黄昏時、まだ会社勤めにははやい、学生たちには遅い時間帯だ。そんな理由からか、道を行きかう人はまばらで、すれ違う人などはさらに少ない。指折りで数えることが出来るほどに。
「彼が、あの?」
「えぇ、あの方が間違っていなければ」
声が聞こえる。足音よりもクリアに。だが、彼の頭にはほとんど入っていない。先ほどの違和感がそうさせるのか、それとも別の。わからない。
わからないけれども、彼は考えることをやめなかった。やめることが出来なかった。
「なら、試せばいい。こいつで、な」
頭が痛い。目の前の現実に引きずり込まれるような痛み。思考が鈍る。めまいに似た感覚。彼は、軽くよろめきながら、前を歩いていたであろう人にぶつかった。
「ス、スミマセ…!」
言葉がうまく出ない。のどに張り付いている?陳腐な表現、だけどそれが一番正しいように思える。人が、目の前の人はまるでマネキンのように固まっていた。それどころか、見渡すすべてが、質の悪い写真のように切取られていた。馬鹿な、そんなことがあるはずがナイ。頭の中にはその言葉以外ほとんど何も浮かんでいない。
「驚いた?無理もないわ。外界の人には、こんな風景を見る機会はないもの」
唐突な女の出現。そいつだけは色を失っていなくて、そして少し笑っていた。
風はない。ただ、足音だけが聞こえる。
「…何者?」
「何者という程のものではない。ただ、言うなれば君を迎えに来たものさ」
男は笑う。傾いた陽光。色あせたキャンパスに色が戻ってこない。いや、それよりも、むかえ、だと?何処に?居場所はここにあるのに?…いや、本当に居場所といってよいものかわからないが。
「私たちは内界からきたの、あなたを私たちの世界に迎えるためにね」
女は、言う。頭が付いてこない。状況と、言葉に。理解できないことがこの数分で起こりすぎた。頭が少し痛んだ。
「まぁ、いいけどな。時間はまだある。君の、整理が付いたとき、もう一度迎えにこよう。さようなら、神崎君」
おとこは、わらった
『今日未明、京都府福知山市の交番が何者かによって爆破されました。警察は威力の低い手製の爆弾による犯行とみて捜査を進めている模様です』
テレビの中でニュースキャスターが淡々と原稿を読み上げていた。神崎は焼きたてのパンにバターを少しだけ塗る。ジャムは、切れていた。
『さて、次のニュースを』
テレビの電源を切り、トーストをほお張った。焼きすぎているのか少し硬かった。入れたてのコーヒーで流し込み、またトーストをかじる。
「そういや、今日から夏休みだったな」
マナーモードにしたままの携帯電話が机を削るかのように振動する。耳障りな音。聞くに堪えられない、それに携帯も傷つく。
「ハイ、神崎だけど」
『神崎だけどじゃねぇ!早く来い!』
社の無駄に元気のいい声が音の聞こえの悪いはずの携帯から大音量で流れた。急いで通話時設定をいじり、音量を下げる。そうすると電話口の怒声がやっとまともに聞こえるようになった。
『判ったな。今すぐ図書館だからな』
「は?何のようがあ」
回線を遮断された。耳に当てているのもアホくさいのですぐに携帯電話を閉じ机の上に置きなおした。
「切りやがった…」
不機嫌なままに、薄手の長袖のシャツをはおり、ジーンズに履き替えた。携帯電話を入れるスペースが無いことに気づいたが、これ以上着替えるのも面倒なので携帯電話は置いて行くことにした。
季節はもう夏なのだが、わずかに早朝は肌寒い感じが残っている。空は雲だらけで青さが見えない。いやな天気だ。
「遅いぞ〜。今までナにやってたんだよ?」
社はさほど憤慨した様子も無く、今の季節には不釣合いなくらい厚着であった。悪趣味なトルコ石色のベストに視線がよってしまう。
「別に、たいしたことはしていない」
「そのくだらないことを聞こうとしたんだけどな。まぁいいや、はやいとこ調べ物は済ましちまうか」
図書館の手動ドアを社がゆっくりと開けた。中はクーラーでも効いているのだろうか?外よりわずかに涼しく、空けた瞬間にひんやりとした風が体の上を流れていった。
「寒くないか?」
「だから厚着してきたんだろうがよ」
至極当然といった顔で社は笑った。それにしても、トルコ石色とは趣味が悪い、ついつい人間性を疑いそうになる。
「座ろうぜ」
椅子が、床との摩擦により鈍い音を立てる。あの静かな教室と同じくらい大きな音。周囲の視線が一瞬集中した。…非常識な奴だ。
社はすぐに立ち上がり一番近くの本棚を物色し始めた。
「ネム…」
神崎は大儀そうに欠伸をすると、ところどころ塗料が故意に削られてぼろぼろになった机に突っ伏した。机からはわずかに木の香りがした。
「なぁ…この本、読めるか?」
「ん?」
社が机に皮の表紙に鉄の留め金の付いた本を目の前に置いた。文字はなんだろうか?見たところ日本語ではなさそうだし、英語やドイツ語でもなさそうだ。むしろそれより別次元の文字のような、そんな感じ。
「読めるわけないだろう…」
「第一の部屋には太陽が第二の部屋には月が堕ちた。それにより第3の部屋に闇が満ちた。闇を払う銀翼は月とともに」
歌うような旋律が広がったかのように錯覚した。何故?その言葉を紡ぐことができる?社がソラでいうにはセンスがよすぎる、それに、こんな下らないことでかつぐ必要もない。
「読んでるのか?」
「多分な。自分でも信じられないんだけどな、読める。マァ、世の中には不思議なこともあるんだなぁとでも思っておくよ」
ふと、顔を上げると、銀縁めがねの男性が前の席に座っていた。男の人はずっとこちらのことを見ていたのか、すぐに目が合った。ミッドナイトブルーの瞳に吸い寄せられるような感覚。
「お二方、古文書など読んで何の研究を?」
どこか、含みをこめた笑いがこぼれた。いったい、この人は、誰?
「いえ、何も聞かないことにします。初対面ですからね私たちは」
ニコリとわらって、すぐに男の人は立ち上がった。ミッドナイトブルーの瞳が空を泳いだ。エアコンの風が彼の紫暗色の髪を揺らす。
「では、またお会いしましょう」
一種の社交辞令のように頭を少しだけ下げ、背中を見せた。ダークスーツの後姿に寒気を感じた。それが何を意味するのか、わからない。
何かのはぜるような音、否、はぜる音が響く。イスがけり倒されざわめきが響く。
「何があったんだ?」
「カウンターのほうで何かあったらしいが…行ってみよう」
静かに立ち上がりそれほど遠くないカウンターの前の人だかりへと向かった。近づけばざわめきは大きく、焦げ臭いような匂いが漂う。
「何か、あったんですか?」
人ごみで何があったかまではわからない。神崎は、背の高い男性に問うた。男性は振り返り、それほど驚いていないような間延びしたような声を出した。
「ん?あぁ、なんか爆発があって職員が怪我をしたみたいだね」
「ば…爆発ですか!?」
社の素っ頓狂な声に振り向く人はなかった。ただ背の高い男性が一瞬目じりにしわを寄せたくらいだった。男性はついと、色素の薄いためか赤く見える瞳を人だかりにむける。
「良くあることさ。良くあること。最近、爆発がよく起こるじゃないか」
男性は続ける。まるで、何かをあきらめてしまったかのように。人々の反応を楽しむかのように。
「誰もが、否定できないのさ。たまたま、必然的にそうなっただけさ。君たちは帰る?僕はもう戻るけど」
男性はうれしそうにクスリと笑った。そして足元の紙切れを拾い上げる。それをきれいに折りたたんでポケットに押し込んだ。
「じゃぁ、ねぃ…」
頭が痛かった。それから何があったか、覚えていない。ただ、頭が痛くて、クラクラして、恐かった。
「おい、大丈夫かよ?」
横で心配そうに社がつぶやいた。パーカーの色が目に痛い。
「大丈夫じゃない…。よくわからないことばっかりおきるからな」
「ちょっと、その辺で腰掛けるか?」
社は顔を上げて辺りを見回した。人通りは全くない。それほどにぎやかな町ではないが…オカシイ。まるではじめから無人だったかのようにひっそりと静まり返っている。
「…見ぃーつけちゃった♪」
こえが聞こえた。何処から?辺りを見回しても人の気配はなく、ベンチの上にも人影もない。ただ、整備された土が日差しに焦がされている情景が移るだけ。昼下がりの公園にとって以上とも言える光景。
「姿くらい、見せるべきだね」
空間が忽然とゆがむ。テレビでいつか見た蜃気楼のように。目の錯覚?そんなはず無い。そこまで呆けたつもりは無い。意識はむしろしっかりしている。太陽が頬を焦がす感覚も鮮明だ。
「…お前は?」
気だるそうな神崎の声。錯覚はエメラルドグリーンの瞳を細めた。嘲笑を含んだ微笑。そして、異常な寒気。
「僕の名前はこの世界では無意味さ。さぁ、僕は君を連れに来たんだ」
錯覚は手を差し出す。きれいな手だ。だがどこかやはり、異物感を感じる。…寒い。なぜ?そう感じる?
「…得体の知れないやつについていく気は毛頭無い」
「あれ?酷いなぁ。僕は君のあるべき所に案内するつもりなのに」
錯覚は声を上げて笑った。嘲笑った。そして、ポケットに手を突っ込み小さな石を取り出した。
「あっそ、じゃ、力づくでも♪」
「ハッ、お前みたいなガキに何ができるっていうんだよ?」
社は言う。だが、本当にそうだろうか?それ以上に本当にそう思っているのだろうか?それはわからないが、錯覚…もう錯覚と呼ぶのは相応しくないのかもしれない、紅い髪の 少年は笑った。
「こーゆーこと♪」
投げ放たれた小石は放物線を描き、神崎と社の間に落ちた。そして、爆ぜた。太陽光より熱い風が吹き抜ける。
「…爆発、した?」
「うん、爆発した」
地面は小さく抉れ、黒煙を上げていた。まるで爆弾が爆発したように。小石を投げただけなのに地面が爆弾が破裂したように?
そんな分けない。あり得ない。
「なっ…そんなわけが」
「あるよ」
少年は笑い、神崎の言葉をさえぎる。冷たい微笑。少年は別の小石を今度は拾い上げた。それを見せるように神崎とは全く関係ない方向の木に向かって投げた。爆音と、熱風。炭素化合物である木は地面以上の黒煙を上げる。
「これは『U』と呼ばれる能力の一種さ。これを使えば僕はこの世に存在するすべてを爆弾に変えることができる」
「…んなこと信じられるわけネェだろ!」
また、小石が飛ぶ。今度は社の足元に。それは爆ぜ、風が舞う。それほど強い爆発ではなかったが社は吹き飛ばされた。
「ガッ…」
「信じる、信じないは聞いてないよ。僕におとなしくついてくるか、ついて来ないか聞いているんだ」
また、小石を拾う。それを手の上で弄び続ける。
「どうする?社君に神崎君」
「ついて来てほしいならそれなりの情報を提示したらどうだ?」
神崎は社に手を貸しながら言う。なぜそこまで平静を保っていられる?この普通ではありえないような状況の中で。
「何言ってるんだ?どっちが優位か、莫迦でもわかるじゃないか」
もう一度、石を拾う。今度は拳ほどの大きさ。次は、確実に危険…だ。今までの小石でも多少の危険は感じた。なら、あの大きさならどうだ?
「させないよ」
男の声、この声に聞き覚えがある。何処だ?頭の中から性格に情報が呼び出されない。何故?
「…さすがに早いね…反逆者にしては上出来だ」
「ひどいな、それは。私にも名前はあるんだからね」
彼はそういって肩をすくめた。白に近い銀の髪。記憶にわずかに残っている。そうだ、彼を見たのはあのセピア色の街角で…。
「何時までボーっとしてるんだ?早く下がれ、巻き込むぞ」
ニヤリと男は笑う。少年は不服そうに顔をゆがめた。
「リグ=レイブン…データベースにない能力。要注意人物ッ」
いやな空気だ。今まで感じたことのないような悪寒。それらが織り成す異常な雰囲気に飲まれそうになる。否、すでに飲まれている。
「おや、それはそれはどうも」
穏やかな言葉を残して彼は跳んだ。少年との距離は一気に縮まり驚愕の色が神崎の表情に浮かぶ。考えていることはわかる。『ありえない』ただしそれは目の前にその形で存在する以上『ありえる』ことなのだ。
「挨拶にしては荒っぽいナァッ!」
後ろに跳躍し小石をける。それらはリグに当たったが爆発はしなかった。
距離が零に限りなく近づきついには手が触れるほどになる。
「能力を見せるつもりじゃなかったが、何時までも出し惜しみする気はないんだ。君をここで殺せるなら、使わせてもらうよ」
「莫迦にするなッ!貴様程度の小者にやられるものかァ!」
突き出された拳はリグに当たる寸前、まるで同極の磁石が近づいたときのようにはじかれた。驚愕の表情が浮かぶ。
「これでも私は小者かな?」
「…ッ!」
少年は顔を怒りで紅く染め飛びのいた。嫌なかぜは止んでいた。だが、妙な緊迫感がある。
「こうなったら任務だけでもこなさないと…」
ポケットに手を突っ込みきれいな石を取り出した。それは小さな球体でさながら宝石のようだった。少年はそれを頭上高く投げ上げた。
「選別せよ!」
石はそれ自体の意思であるかのように重力に逆らい、一直線に社に向かって飛んだ。宝石が社にあたり消えた。
「なっ…」
社は石の勢いで尻餅をついた。痛そうに摩り立ち上がる。
「君か、…なら回収は君だけで」
「させないわ」
後ろから何か別の力が加わったように少年は弾き飛ばされ地面に顔をこすり付けた。無様な格好だ。少年はすぐに起き上がり辺りを見回す。しかし、後ろから攻撃を加えたであろう人物は見当たらない。
「ちくしょぉ…。いるんだろ姉さん!」
誰もいない空間に少年は叫んだ。返答はない。少年は不服そうに舌打ちすると、地面に落ちていた石を拾った。
「ならいいよ、会いたくないのならあわないっ。…クルー!頃合だ!」
少年の叫びと同時に先ほど少年が現れたときと同じ嫌なかんじが包む。少年は石を地面にたたきつけた。爆炎が上がり熱風が頬をたたく。爆炎が晴れたあとには彼はいなかった。
「…引いたのか?」
そんなわけは無い。なぜなら、まだ嫌な感じは消えていない。何処に、いる?どこかにいるはずだ。
「バーカ!引っかかったァ」
うれしそうな声が背後から聞こえた。振り返ると左頬に擦り傷の残る笑顔を浮かべた少年がいた。少年はそのまま社を突き飛ばした。
「うわっ」
「コイツはもらって行くよ」
社は突き飛ばされたそばから見えない消しゴムで消されたように消えていく。嘘みたいな、真実の光景だ。信じられない気持ちもありながら、信じなければすべてが説明が付かない。だが、信じていいのだろうか?信じることは今までの現実を否定することにもなる。だが…。
「社ォッ!」
神崎の伸ばしたては指先1センチ足りずに、社の消失をとめることはできなかった。
「では、神崎君は預けておくよ…」
「待て、アクロー」
リグに呼び止められ、少年は顔を上げた、エメラルドグリーンの瞳を挑戦的に向けた。また石を拾った。
「君に呼ばれたくはないね…それに、待つ義理なんてありゃしない」
アクローは静かに笑った。夏の日差しが公園を照らす。神崎は身動きすら取れなかった。頭の中で情報はトビウオのように跳ね、暴れ馬のごとく走り回っていた。
「バイバイ」
アクローもまた、かき消されるように消えた。残されたのは半ば放心状態の神埼と、正体不明のリグという男くらいだった。
-
2005/12/24(Sat)08:58:49 公開 / RUI(元 近衛)
■この作品の著作権はRUI(元 近衛)さんにあります。無断転載は禁止です。
-
■作者からのメッセージ
ジャンルはいつもどおりの異世界ファンタジー。
その上これは「やがて崩れ行く世界で」のリメイクバージョンです。前作は削除しておきましたので大丈夫とは思いますが、何かあれば教えてください。
作品についてのコメントですが、今回は伏線を張ることを重点において「主人公を異世界に引き込む下準備」をさせていただきました。若干主人公たちの理解が早いのはお約束、ナのでしょう。できるだけ、自然にやりたかったのですがそれも難しく。今以上のものに仕上げたいと、思っていますのでご指導のほどよろしくお願いいたします。
作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で42文字折り返しの『文庫本的読書モード』。
CSS3により、MSIEとWebKit/Blink(Google Chrome系)ブラウザに対応(2013/11/25)。
MSIEではフォントサイズによってアンチエイリアス掛かるので、「拡大」して見ると読みやすいかも。
2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。