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『東京直下型地震に備えて、第三次関東大震災を生き抜いた者達の物語を。』 ... ジャンル:異世界 リアル・現代
作者:弾丸
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あらすじ・作品紹介
現在から、80年後の世界。全ては、この情景を予言していたのだろうか。突如発生した、第三次関東大震災の裏に、いくつもの謎が浮かび上がる。 ――瓦礫の中から這い出た瞬間、このまま死のうかと思いました。でも、生き延びた仲間がいました。その仲間とともに、生き延びなければならないと思いました。
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――東京直下型地震から、もう80年経つ。人類は22世紀を目前に、新たなる大地震におびえていた。
「20XX年1月22日午前7時56分。東京を震度7、マグニチュード8の地震が襲った。東京は朝から雪が降っており、東京は一瞬にして極寒の瓦礫の街となった。」
教科書ではこう載っている。正直、自分も怖い。80年周期でやってくる大震災が、目前に迫っている。そんな気がしてならなかった。そして、1月13日。今日も雪が降っている、東京。
1 地震の影
大門中学校は、埼玉県K市の市役所の隣にある。生徒数は1200名ほどで、男女共学の市立中だった。学校の前の道路は、今日も忙しく車が行き来している。2階の3年5組の教室は冬の寒さと闘っていた。
「聞いてくれ! アレからめっきりメールがこねぇんだよ淳!」
廊下側の席でホッカイロに神経を集中させていた俺に話しかけてきたのは、親友の凌だった。
「あん?」
気のない返事を返すと、凌は携帯を開いて見せる。
「ほら! 着信メールランキング第一位がお前だぜ! ユカからメールが来ないんだよ!」
「電池切れそうだぞ凌」
凌は携帯を確認してバッグにそそくさとしまった。
「お前から送ればいいだろ? 別に付き合ってるわけでもないんだから」
チャックを閉めながら凌は言った。
「バカヤロウ。 男からメールを送るなんて、どんぐらいの平成BOYだよ」
「ユカの好きな人、聞いといてやろうか?」
俺は窓の方をみて呟いた。凌は後ろ向きに座りなおして、キラキラした目を見せる。
「本当か?」
「嘘だよ」
凌はムッとしたのだろうか、ため息をついた。
「ユカとはあまり仲良くなくてさ。苦手なんだ、あいつ」
俺が単調に言うと、凌は目を丸くした。
「驚いたな。結構喋ってるじゃん」
「お高いじゃん、あいつ」
元々俺は、恋愛に興味ない。そのお相手が3組のアイドルでも、どうでもいい。友達と馬鹿やってればいいのだ。
凌はため息をついて自分の席に歩いていった。
と同時に、教室のドアが開いた。担任相沢のお出ましだ。
「は〜い挨拶ぅー」
ぶん殴りたい。そのぶりっ子に対して起訴したい。10年おせえよ39才。
「起立」
学級委員の凌が短く言うと、皆ノロノロと立つ。
「礼」
軽く頭を下げてガタガタと席に着く。
「はい今日はぁ、避難訓練がありまぁす。どっかの休み時間の間にベル鳴りますんで、自分で対処してくださぁい。以上」
皆はてんで聞いていないが、相沢はまったく気にしない。そういう面ではいい先生でもある。
その瞬間、凌がバッグを探っていた。メールが来たのだろうか?
俺も机の中から携帯を取り出し、軽快にメールを打った。
「メールでも来た?(´・ω・`)」
凌は振り返って俺に笑いかけた。すぐに俺の携帯のバイブがなる。
「きたよ」
「もしかして、ユカ?」
送信して20秒ほどだろうか。いきなり着メロが鳴り出した。流石の相沢もびっくりしてこちらをみた。
「誰ですかぁ?」
机の中に携帯をしまってやり過ごす。相沢はまたテストの答案に目を落とした。
すぐにバイブがなる。
「バカか! ……とにかく、ユカから来た♪」
俺は一安心して、携帯の電源を切った。
一時間目が終わるなり、凌は俺の席に飛んできた。
「見ろ淳! メール送れなくてゴメンね。……だってよ!」
「それは良かった。それより、何でいきなり着メロ鳴り出したんだろ?」
凌は首をかしげた。
「ぶっ壊れてるんじゃないのか?」
「まさか」
俺は短く否定した。
「この前変えたばかりだ……」
♪〜♪♪〜♪♪♪〜
元気よく着メロが鳴り出した。
「馬鹿!」
凌は俺の携帯を取り上げて着メロを止めた。
「メール、か?」
凌は眉をひそめた。
「いや、何も来ていない」
「おかしいな。不良品か」
凌は険しい表情をした。
「……電磁波?」
凌が呟く。
「あん?」
「……電磁波だよ。地震が起きる前の。ほら、今年は東京直下型地震からちょうど80年だろ?」
俺は携帯を眺めながら凌を見た。
「怖いこと言うなよな」
「冗談だよ、冗談」
凌はヘラヘラ笑っていた。
が、とてつもない嫌な予感がした。それと同時に、背中に寒気が走る。
外の雪は、吹雪に変わっていた。
2 前兆 雲
凌が言った電磁波のことは、それほどまで頭には残らなかった。あの後、放課後まで着メロはなることは無かったし、自分自身本気にはしていなかった。凌は部活にそそくさと向かっていったので、自分も男子バレー部に向かった。地震のことは、もちろん全て忘れていたのだ。そして、避難訓練のことも。
4時30分を回った。体育館は部活の熱気に包まれている。外は朝の吹雪とは打って変わり、夕方のオレンジ色の空に変わっていた。雲ひとつない。
「はいオーバー!」
「行け行け行け行け!」
部員の声が体育館に反射する。シューズが床にこすれる音もこだましていた。そんな中、倉庫からスコアボードを運んでいる最中、体育館の反対側でユカが俺を手招きした。(ユカはバスケ部である)運ぶのは後輩に任せ、ユカのところに向かうことにした。
「あんだよ?」
ユカは俺の顔をジッと見つめ、ニコッと笑った。
「淳くん、頼みがあるんだけど」
思わず頬を紅くした自分が恥ずかしい。ユカは自分の髪の毛を耳にかけながら、俺に手紙を差し出した。受け取ってみると、どうやら凌宛てのようだ。
「いい?それを絶対に、避難訓練のときに渡して」
「避難訓練?」
思わず聞き返すが、すぐに思い出した。
「ああ、そういえばあったな。部活の時間になってもやらないなんて、めずらしいな」
「そんなことは、どうでもいいの」
きっぱりと遮られる。
「絶対絶対、避難訓練中だよ?」
俺はあまりにもユカが顔を近づけるので、思わず二、三歩後ずさりする。
「わかった。渡しとく」
ユカはうなずくとスピーカーの方を見つめた。
「そろそろだと思うんだけどね……。ま、とりあえず宜しくね」
俺の肩をポンとたたいてユカは部活の方に走っていった。おれはクシャッと手紙をポケットにつっ込んで、トイレに行くことにした。
用を足しながら考える。とにかく、凌はユカのことがすきなのは確かなのだが、ユカはどうなのだろう?手紙、覗いてみようか?
「ばれないだろ」
そうつぶやいてポケットに手を入れる。
ジリリリリリリリリリリリ……。
大音量で非常ベルがなった。おれは手紙を再びポケットに押し込んでトイレから飛び出た。皆、顧問の所へ集まっているようである。楽しそうに喋っているものもいた。
「えー、ただいま、震度5強の強い揺れを感じました。震度5強の強い揺れを感じました。
生徒は部活動を中止し、顧問の先生の指示に従いなさい。くりかえします……」
おれもバレー部のところに走って行き、二年生を並ばせた。
「先輩先輩。今の、相沢っすよ相沢。あの気色悪い声と来たら」
「そうだな」
俺は軽く受け答えて、凌に手紙を渡すタイミングを考えていた。あいつは卓球部だから、外に出るときに渡そうか……。
「はいじゃあ出るぞ」
俺達は通路を通って校舎に入り、下駄箱に向かった。皆喋りながら歩いている。俺も後輩と喋りながら凌を探した。下駄箱はごった返していて、とても見つけられそうにも無い。
しかし幸運にも凌は下駄箱の外でタカシと喋っていた。
「凌」
凌が振り向くと、俺は手紙を凌に投げた。
「後で内容教えろよ」
凌はサッと手を上げて手紙をしまった。任務完了。とりあえず、外で先公の話さえ聞けばいい。あの手紙、果たしていい内容だったのだろうか?
避難訓練が終わって、体育館に戻ろうと立ちあがった瞬間、凌が走ってくる。なにやら、青ざめているようだ。
「淳! 大変なことになった!」
中腰で息切れしながら凌が叫んだ。
「どうしたんだよ」
薄々気づいてはいたが、思わず聞きかえした。
「あの手紙! 凄いことが書いてあったんだ!」
凌は興奮していた。
「ほら!」
クシャクシャの手紙を受け取って、自分も読んでみる。
「ごめんね、いきなり手紙書いて。今日は、どうしても伝えなければならないことがあるんだ。実は、凌くんの気持ちは随分前から気づいてた。自分も何とかしなきゃ、とか思いつつも、ついほったらかしちゃったんだ。どうでもよかったわけじゃないんだよ? でも、悲しいことに私も好きな人がいるんだ。その人は、凌くんとすっごく仲がいい人。わかるでしょ?淳くんが好き……なんだ。凌くんなら、わかってくれるでしょ? そこでお願いがあるんだ。避難訓練が終わった後、淳君を呼び出してくれないかな?君にこんなこと頼むの、非常識だとおもうけど、お願いできるかな?
実は、この手紙を淳君が見ていないか、心配なんだ。でも、淳君なら、見てないよね?
見てないことを祈ります。じゃあ、宜しくね?」
俺は読みおわっても、しばらく声が出せなかった。凌はショックのあまり、まだ息切れしているようだ。
「やっぱり……俺には、無理だったんだ」
「…………」
凌はゆっくりと言う。
「でも、ユカの好きな人が、お前だったなんて、想像も……してなかった」
凌は俺の目を見つめた。
「行くよな?淳」
凌は握りこぶしを作って、震えていた。
「あぁ、行くよ」
凌はうなずいて、西の方の空を眺めた。
「これで、俺の任務も完了……か」
俺の心はズキズキ痛んだ。呼び出されるには、やはり告白されるのだろうか。それに軽がるしくOKしていいのだろうか。心の中がぐるぐる回る。
「迷ってんのか?淳」
「……いや、迷ってなんか無いよ」
俺も空を見た。まるで俺達のこと無視してるかのよう。憎たらしいほど綺麗な夕焼けだ。
「…………」
凌はしばらく黙っていたが、いきなり口を開いた。
「おい、火事か?」
「あん?どこだよ?」
凌は夕焼けのずっと左を指差した。確かに、煙のようなものが見える。いや、雲のも見えるが。
「動かないから、雲だろう?珍しいな」
夕焼けが沈んでいく山のふもとから、煙のような一すじの雲がのびていた。
「とにかく、ユカの所へ行こう」
凌はすぐに歩き出した。俺も続く。しかし、あの煙のような一すじの雲が頭から離れない。随分違和感があった。どこかで、どこかで見たことがあるのだが。
地震特集で報じていた、あの地震雲とはまだ気づかずに。
3 クルベキオトコ
凌と俺は、何も喋らずに下駄箱に向かった。凌は嫌に落着いている。俺も、落着いている。夕焼けは相変わらず綺麗で、暑いほどの光を発していた。下駄箱に入ると、凌は短く行った。
「ここで待ってる」
凌は下駄箱によりかかり、腕を組んだ。
「待ってるって……待ち合わせ場所は?」
口元に笑みを浮かべた。凌は柔らかいツンツンの自分の髪をボリボリかく。
「わからないか?」
「あぁ、そうか」
すぐに気づいた。俺がよく相談に乗った。ユカは昔タカシのことが好きで、よくそこに俺を呼び出しては手紙を渡された。周りからは、ユカ専用宅急便なんて言われたこともあった。だが、ユカに恋愛感情を抱いたことは無い。友達でいたかった。
理科準備室。3年教室のすぐ隣にあった。(三年教室は、2階にある)俺は大股で歩いていく。凌はどう思っているんだろう?あんなに、ユカが好きなのに、あんな手紙を渡されて。理科準備室前で、立ち止まった。腹は決まっている。返事も、全部。
ガラガラ、と戸を開けると、そこにはユカがいた。当たり前なのだけれど。そこはいつもと変わらず、理科室独特の薬品の臭いが漂っていた。
「あ……」
ユカはうつむいて短く何かを言いかけた。
「あん?」
「逃げて……」
ガシャンと戸の鍵が閉まった。いや、閉められたのか。
「なんのつもりさ?」
気がつけば、俺の前には男子の後輩がズラリと並んでいた。殴りかかってきそうな雰囲気だが。
「よく見れば、バレー部の後輩じゃん。話が違うよな」
後輩達は顔を見合わせてニヤニヤ笑っていた。
「告られると思いました?」
今度は声を上げて笑った。ユカは耳を塞いでしゃがみこんでいる。
「あぁ、そういうことか」
全てを悟った。つまり、そういうことだ。
「あの手紙は?」
「俺らが」
「内容は?」
「嘘です」
淡々と後輩は答えた。ユカは震えている。よく見れば、ジャージがドロで汚れているじゃねぇか。
「嘘かよ……」
後輩達はゲラゲラ笑った。事態は、理解できた。
「見たかったんですよ」
後輩の一人、ワダがゆっくり言った。
「俺が、ユカを守るところをか?」
馬鹿馬鹿しい。二年坊主が考えそうなことだよな。
「勘がいいっすね。そうです」
ワダはぐいとユカの襟を引っ張った。短く悲鳴を上げて、ユカがよろけて立ち上がった。
「これからこいつをぶん殴ります」
「ああ」
あの嫌に落着いた凌の態度は、こういうことか。あいつは、すべてわかっていた、と。
「好きなだけやれよ。俺は行く」
「あれ、助けないんですか?」
ドスン……。
鈍い音がした。ユカは低い声を出して跪く。(オェ、とも聞こえた)
「来るべき男が、ここに来るはずだ」
そう俺が言うと、階段を駆け上がる音がする。
俺は後ろのドアに向かって歩き出す。後輩達は不思議そうに俺を見つめるばかりだったが、我に返ったのだろうか、止めろ!とワダが叫んだ。だが、後輩達は俺を止めることは無かった。前のドアがピシャン!と開いたのだ。来るべき男が、ここに来た。後は、そいつに任せるだけ。残念ながら、こんな事態になるとわかっていたのは、お前だけだよ。
後は任せた。ユカを守るのは、お前だよ、凌。
4 前兆 震度4
下駄箱で待っている間、色んなことを考えた。ユカのあの手紙の内容は本当に全て、嘘だったんだろうか?凌はどうしているだろう?ワダは、なんであんなことをしたのだろう……。気のいい後輩だったのに。
階段を一歩一歩、降りてくる音がした。下駄箱に響く。
「よう」
凌は姿を見せるなり言った。ジャージは敗れて、目の横にアザが出来ていた。
「あいつらは?」
凌はジャージの破れた部分の布を破った。
「さぁ?」
「さぁって何だよ」
「いや、喧嘩した」
もごもごと凌は言った。
「当たり前だろ?」
凌は下駄箱に寄りかかって俺の方を見た。口元が少し切れているのに気づく。
「とりあえず、ユカは無事だ。保健室行かせると面倒くさかったから、裏から帰させたよ」
口元に笑みを浮かべて誇らしげに言った。時刻は、5時30分。校庭にも、グラウンドにも、誰もいなかった。外はもう、薄暗い。
翌日も、朝からよく晴れた。青空のところどころに、真っ白な綿雲が見える。家の前に止めてある車のガラスは、霜が降りていた。
「行ってくるわ」
短く言って玄関から出ると、冷たい北風が体を貫いた。庭の植木が揺れる。革靴の足音を鳴らして、俺は一日の一歩を踏み出した。時刻は、6時15分。
市役所前はやはり車の通行が激しい。忙しくクラクションが鳴り響いている。通行が途切れた隙を見て通りを渡りきると、タカシが立っていた。
「おはようございやす。見かけたからさ」
冬なのに3oの丸坊主。見てる方が寒い。タカシは凌と同じく幼なじみで、家は市役所の裏にある。
「寒そうな頭だな……。また切ったのか?」
タカシは自分の頭をジョリジョリとなでて笑った。
「ヘヘ。監督に殺されたくないからな」
俺も釣られて笑ってみる。……タカシを見ると、和むんだよな、こっちが。
午前6時30分 震度計 震度2の地震観測。
校門で凌と落ち合って、教室へ向かった。女子達がユカの机に集まってなにやら話している。それを横目に俺はバッグを降ろした。やはり、昨日のことだろうか。ユカは、凌のことどう思ったのだろう?凌はユカの斜め前の席なので、なんだかやりにくそうだった。(「本当に大丈夫だった?」などの声をユカにかけているのが聞こえた)
タカシはユカたちのほうを見ながら俺の席に歩いてきた。
「凌、ユカに嫌われてねえかな?」
タカシはフゥ、とため息をついた。
「嫌われる理由が無いだろ」
俺が短く答えると、タカシが腕時計をいじった。
「Gショックかよ。また買ったのか?」
タカシはニカッと笑って手首を俺に見せ付けた。
「いいだろ?赤がすきなんだ。貯金をコツコツと貯めてやっと買ったわけよ」
俺も少し微笑んだ。
「そういえば、ユカ、髪切ったんだね」
そういえばそうだ。肩まであった黒い髪が、耳ぐらいのショートカットになっている。色も少し赤みが増した。昨日のあんな心境で、よく美容院なんかいけたな、と思う。凌もジャージに着替えて俺たちのほうに歩いてきた。
「なんだろう?俺何にもしてないのにすっごいやりにくい」
「ドンマイ」
タカシが励ました。
「お前が嫌われる理由なんて、ないんだから」
凌はノロノロと俺の隣に座った。
「考えてみりゃそうだけどよ」
……ズン……
地響きがした。座っていたイスも、軽く揺れる。
「地震――」
大沢(ユカの親友)が短く言うと、教室がシンとなった。その瞬間だろうか。強い横揺れが教室を襲った。女子が悲鳴を上げる。教室の窓ガラスがガタガタと揺れ、ほとんどの机が激しく横揺れした。黒板消しも音を立てて床に落ちて、女子全員机の下に引っ込んだ。俺たち男子三人は不安になりながらも、天井を見つめていた。
「でかいな」
俺が短く言ったとき、少しづつ揺れが収まった。だが、体の感覚としては、まだ体が大きく横揺れしている。女子達は不安気に机から顔を出した。
「全校生徒に連絡します。ただいま7時3分に強い揺れを感じました。余震の可能性もあります。担任の指示に従って避難しなさい。各先生方は自分のクラスに向かってください」
「なんてこった」
相沢が教室に勢いよく入ってくる。
「全員! 廊下に並びなさい! 急いで!」
ユカたちは廊下になだれ込んで整列した。俺たちも後に続く。
「はい行きますよ!」
相沢は早歩きで階段へ向かった。
「震度何だよ、相沢」
「わからないよ。まだテレビみてない!」
強い口調で言うと、早々と階段を降りた。昨日の避難訓練も、無駄じゃなかったようだ。
「はい下駄箱についたら――きゃぁ!」
また大きな地響き。階段が縦に揺れた。
「皆頭を抱えてしゃがむ!」
ワッと皆しゃがみこんで、シンと静かになった。また大きな横揺れが続く。それに伴って心臓の鼓動も大きくなっていく。
「……はい行きましょう。下駄箱についたら、前から早急に外に出ること。靴は履かない」
皆それからは黙って下駄箱に向かった。
後で聞くと、この地震は震度4。震源は茨城県北部で、震度4強だったようだ。外で校長の話を聞いて、俺たちは30分ほど外にいた。
ふと、頭によぎる。夕焼けの隣にいた、一すじの煙雲のこと。やっと思い出す。あれが地震雲だということ。ハッと西の方を見た。
……やはりあった。山のふもと付近から一すじのびる、煙雲が。また、予告しているのだろうか?悪魔の鉄槌と呼ばれた、東京直下型地震を。
5 突然
1月14日 天候 晴れ (乾燥注意報)
今日の朝は、誰とも会わなかった。というのも、俺の家は学区内ギリギリの位置で、隣町の学校へ行っていても全く問題は無い。だが、幼稚園からの友達の凌とタカシがいたため、少し遠くても通うことにした。
凌とタカシはまだのようで、教室は8人ぐらいしかいなかった。ドッカと鞄を机の上に置き、ストンと椅子に座ると、ユカがぬっと現れた。
「ねぇ、どう思う?」
「相沢の今日の格好か?」
ユカはちょうど入ってきた相沢を見て、愕然とした。
「彼氏でも出来たか?あいつ」
「ま、まさか」
ピンクのフリフリの服に、ピンクのフリフリスカート。ファーコートを着て、ニコニコしていた。
「吐いていいぞ」
「そんなことじゃないの」
ユカは気を取り直してまたこっちを見た。
「昨日の地震よ。どう思う?」
「どうって……」
グァッと耳を裂くような風が教室を襲う。教室のすぐ右を電車が通過した。
「バカヤロウ! この時間帯は窓開けるなって言っただろうが!」
俺が叫ぶと自動窓がプシュ〜ッとしまった。町は進化した。少なくとも、直下型地震の時よりは。直下型地震で東京とその周辺都市はことごとく壊滅した。開発・研究設備も崩落し、町は希望を失った。が、コツコツと20年間再建を進め、以前には劣るがすこしだけ輝きを取り戻し始めた。今から60年前についに新未来開発が開始され、東京の街はもの凄い勢いで成長する。今では学校の隣の市役所だってまるで高層ビルだし、この学校だって設備の充実、エスカレーター完備の学校となった。もちろん俺は昔の学校なんて知らないし、今の学校が普通だと思っているが。
「どう思うの?」
「あぁ、うん」
俺がうなだれるとユカは眉間にしわを寄せた。
「なにかあるのよ、きっと。淳も見たでしょ?私がハメられた時のこと……あ」
慌てて口を塞ぐユカ。俺はハッとした。
「やっぱり!! お前、ハメられてたのか!」
教室中がシンとなった。俺は椅子に座りなおして声を細めた。
「あの手紙、やっぱり凌宛てだったんだろ?」
「え…あ……あぁ、あの手紙か。うん。凌宛てだよ」
うーん。安心したような、残念なような。
「あの後は凌が助けてくれて、裏から私を帰してくれたの」
「ふぅん」
気のない返事を返すとユカは首を横に振った。
「だぁかぁらぁ! 昨日の地震のこと! 淳も見たでしょ?地震雲……あっと」
ガラガラガラとドアが開いた。凌が息切れしながら入ってきたのである。ユカは慌ててササッと自分の席に戻ったが、凌の様子がおかしいのに気づき、動揺しているようだった。
「どぉしたんですかぁ? 高木野内くぅん」
「相沢……おぇぇ」
教室中笑いを堪えるのに精一杯だった。
「そんな場合じゃない! みんな! ……和田が……飛び降りた」
凍った。何が凍ったって、教室の空気、みんなの表情だ。
「二年の、和田か……?」
凌は息絶え絶えにうなずいた。俺は勢いよく教室から飛び出ると下駄箱に向かった。(出る間際に凌の「行くな!」という声が聞こえた)
「3年5組! 若葉淳!」
ガタンと下駄箱の機械が動くと、俺の靴を棚から下ろしてきた。(その機械、まるで漫画に出てくるような形の手のロボットが名前に反応して靴を持ってくる仕組みだ)
急いで靴を履いて外に出ると、和田はそこに、あった。いたんじゃない。もう既に、[人間]としての形を失っていた。つぶれた頭の中からは、どす黒い赤色の物が噴出していた。その周りに頭皮だったのであろう部分が散らばっており、髪の毛が生えた肉もあちらこちらにある。それらの肉片は、確実にアスファルトの赤い面積を広げる。同時に俺の胸の辺りが詰まり、吐き気を催してきた。意味が分からない。目の前の光景の、意味が。だがよく考えてみる。その光景が意味するものは、和田の死一つだ。
和田の遺体を囲んで2年の生徒は叫び、泣き叫び、走り出すものがいる。教頭と江口先生が駆け寄ってきた。
「はい下がって下がって!」
「俺警察呼んできます」
2年生徒は後ずさりして泣き叫んでいた。
俺は和田の死体から目を逸らし、跪いた。遠くに、タカシと凌の声が聞こえる。
「おぃ、淳!」
「こりゃぁひでぇよ。人じゃなくて、物だ」
タカシが気分悪そうに死体を見つめて、目を逸らした。凌も極力見ないようにしているようだ。
おれは緑の装飾されたアスファルトに嘔吐した。凌は俺の背中をさすりながら校舎の上を見上げる。
「あんな高いんだ、即死だよなぁ」
地上10階建て。屋上は見上げれば首が痛くなるほど、高い。高所恐怖症のものは絶対に出ないと思う。
「なんで、屋上の鍵が開いてたんだよ?」
「そりゃわからねぇけど」
「ゲホォ…。屋上から……とは、限らない……」
俺がむせながら言うと、遠くからサイレンが鳴り響いた。凌は俺の嘔吐物を見つめて目をつむった。
「なんで、いきなり?」
タカシが肩を落とした。
「戻ろう」
凌が短く言うと、俺たちは下駄箱に入った。あの光景は、頭から消えないだろう。
靴を履くと、サイレンの音はすぐ後ろに来ていた。なんで、こんなに嫌なことが続くのだろうか。
6
揺れ
――俺は、冷たいアスファルトの上に倒れていた。ビルが立ち並ぶ都市の、大通りの真ん中のようだ。その通りを、満月が薄暗く照らす。口の中は血でいっぱいで、息も満足に出来ない。そんな中、俺を見下ろす一人の男。顔は…よく見えない。
「苦しいか?」
男の存在を、月の光が照らし出す。銀色の髪は肩まで伸びている。黄土色のコートに体を隠し、所々に血がついていた。
「……何者だ?」
「忘れたか?」
俺は頭を持ち上げて、体を起こそうとした。同時に、体中に電撃が走ったように感じた。
それと同時に、自分がもう起きられぬほどの傷を負っていることに気づく。諦めてまたアスファルトに倒れこんだ。
「助けてくれそうにもないな」
「そうでもない」
「じゃぁ、助けてくれ。死にそうだ」
男はフッと笑った。手に握った漆黒の剣を少し揺らした。刀身は真っ黒で、柄の真ん中に、赤い宝石がはめ込まれている。日本刀、というのだろうか。
「貴様はそこにいたら、死ぬ」
「知ってるよ」
「では、動かなきゃな」
俺は自分の肩に手を置いた。……肉の塊の感触。どうやら傷は、肩から脇腹まで一すじに伸びているようだ。
「動くな」
男はサングラスを外した。……何て冷たい目なのだろう。睨みつけられたら、体の心まで凍る。そんな気がした。北風に、銀色の髪がなびく。男は俺を見下ろして言った。
「これから、お前の世界で何かが起こる。だが、決して動じないことだ。そのとき俺が現れる。時間がないんだ」
「バカいうな」
俺はゆっくり目を閉じた。いや、閉じるしかなかった。これ以上あの男の目を見ていたら、本当に凍りかねない。
不思議と、傷の痛みはなかった。
「――ん……。淳!」
俺はハッと目を開けた。
「いい加減にしなさい! いつまで寝てるの?」
「あぁ……」
体を起こす。
……夢か。夢だったのか。あの街も、満月も、あの傷も……あの男も。もちろん体に傷なんてない。
「夢だよな」
自分に言い聞かせた。分かってることなのに、不思議と不安だった。
時は、二時間目の休み時間へ進む。俺は今朝の夢を完全には忘れ去れてはいなかった。
凌はこの頃元気がない。そのせいか学校へも来ない。おそらく、和田のことが気にかかるのだろう。ついこの間喧嘩したばかりなのだから。和田の自殺から、もう10日たった。警察はまだうろちょろしている。タカシはよく分からないが、特別休暇を貰って休んでいる。
「なんでだろ」
ユカが俺の隣で言った。
「何だよ」
二時間目は、自習だ。ユカには宿題を打ちさせてもらうために隣にいてもらっている。他の皆は喋るなり勉強するなり。とにかく教室は騒がしかった。
「この頃ね、夢を見るんだよ。……ほら、そこは3xだよ」
俺が消しゴムでゴシゴシとノートをこすっていると、ユカはため息をついた。
「それが怖い夢なんだよ」
「どんなだよ」
「目の前に、血を流して人が倒れてるの」
ハッと今朝の夢を思い出す。
「考えすぎだよ」
ノートの上の消しカスを払いながら言った。そう言う俺も、今朝の夢が頭から抜ききれないでいた。
ガタン……。
地響きがする。カタカタと教卓の花瓶が揺れる。
「地震だ……」
ユカは天井を見上げてジッとしていた。だんだんと揺れが大きくなる。
「でかいぞ!」
誰かが叫ぶと、激しい縦揺れが教室を襲った。目の前の視界が揺れる。
「キャァァァァァァァァ!」
縦揺れの中で、女子が叫ぶ。揺れの中でかろうじて捉えたのは、激しい揺れで壁に叩きつけられる大沢の姿と、倒れるロッカー。そしてうずくまるユカの姿だった。
「伏せろ!伏せるんだ!」
富田が叫ぶと、蛍光灯が机の上に落下した。何人かが短い悲鳴を上げる。机に隠れる余裕もなく、クラスメイト全員は床に叩きつけられる。俺も、棚に頭を叩きつけた途端、深い暗闇に落ちていった。
ほんの、数十秒の出来事だった。
7
ユカの関東大震災
暗闇に堕ちても、揺れは続いていていることが感じ取れた。というより、さっきよりもっと激しくなっている。自分は今この揺れの中の、どこにいるのか?教室の状態は?なにも、わからない。ただただ、俺は落ちていく。耳元から、轟音も何も、聞こえなくなっていく。ついに、起きたのだ。恐れていた、関東大震災。
――ユカからの視点の、関東大震災。
机の下は窮屈だった。必死に机の脚を持ったけれど、さすがにこの縦揺れには耐えられなかった。
「ユカァァ!」
その声の主は、私の親友大沢カオミ。
「カオミ!カオミィ……」
必死の問いかけも、轟音でかき消されていく。周りに皆がいるのに、何故か孤独を感じた。目の前の視界全てが揺れる。何も見えない……。ガタンと机が倒れた。私は必死に立ち上がって机を持ち上げようとしてもダメだった。足元が覚束無い。諦めて窓際に落ちていた布切れで頭を隠した。なおも揺れは続く。クラスメイトの悲鳴さえ聞こえない。
そのとき、私は見た。目の前の席のヤス君の頭の上に蛍光灯(この時代は、今の蛍光灯より強度があり、明るさも今の数倍だ)が落ちた。ヤス君は机に隠れ損ない、必死に机の上で耐えていたのだ。ヤス君は何も言わずにゴトンと頭を机に打ちつけた。
「伏せろ! 伏せるんだ!」
きっと富田君だったかな。必死に叫んでいたけど、隠れそこねたクラスメイトに、容赦なく蛍光灯は落下していく。パン、パンと、蛍光灯の割れる音が聞こえる度、ゴトンゴトンと音がする。私は耳を塞いだ。初めて、身近な人の死を感じた。
いまだ揺れは続く。
布切れから顔を出したとき、私の上にも硬い棒状のものが落ちてきた。
目の前が、真っ赤になった。
死んだ。
死んだのだ。
私は死んだ。
淳君。
ごめんね、先逝く。
8 今朝の男
俺は、トンネルの真ん中にいた。どこのトンネルだろうか。オレンジ色のライトがトンネル内を照らす。車の中から良く見ていた光景。独特の雰囲気。出口は…見えない。俺自身は、ボロボロだった。青のジャージはところどころ紅く染まり、膝の部分は破けていた。
「言っただろう」
ふと振り返る。これも夢なのだろうか。だとしたら、俺はこの男と会話を続けていいのだろうか。
「あのときの……」
勝手に口が動いた。そう。そこに立っている男は、今朝見た夢の中の男だ。
「……これは夢か?」
俺がそう聞くと、男は腕を組んで満足そうに笑みを浮かべた。腰の漆黒の剣は微動だにしない。
「貴様は……何も知らぬのだな」
「嬉しそうじゃないか」
男は剣の柄を握った。
「夢か、否か」
キィン……。
男は剣を抜いた。やはり、今朝の夢で見た剣と同じだ。刀身は真っ黒。柄の真ん中を紅い宝石で飾る。
「人間は、夢の中に感覚を持つことが出来ない。その中でも、痛みというのは夢の中では存在しないのだ」
「声は?」
自分でもバカに思えた。男の話に共感して、くだらない質問を投げかけてしまう。
「声?声もだ。夢の中の声は、脳が創った偽りの声なんだよ」
男は剣を耳の横に構えた。俺は2、3歩後ずさりした。
「これから、貴様を斬ってみよう。それで、夢か夢ではないかを証明しようではないか」
恐怖。それを踏みにじるような、男の笑み。
「ま……待て……」
喉の奥から必死に引きずり出した言葉。男は剣を下ろす。
「俺は今、怪我をしている。その怪我が痛い」
「ということは?」
「夢じゃないんだな?ここは」
男は剣を鞘に収めた。
「いいだろう」
「ここは、どこなんだ」
「死にたくなければ、俺に質問しないことだ」
――今気づいた。男の目は、猫の目に似ている。なんというのだろうか、猫が暗い場所に来たときになる、細い目だ。
「お前の世界で、大地震が起こったはずだ」
「お前の世界?」
思わず口を塞いだ。男はギロリと俺の目をにらみつける。俺は必死に頷く。
「コチラには、もう被害状況も全て届いている。貴様は生きていた」
コチラ?コチラって、ドチラ?俺が……生きている?しかし、そんな俺の疑問も、今は心の中に閉まっておかなければ。
「協議の結果、貴様は絶対生存枠に入った。……色々面倒くさいのだがな」
「俺は地震に逢っただけだぞ」
「その地震が全てを決めることになっていた」
「全てを決めるだと!」
「コチラには全てを決める権利と義務がある」
俺は男に迫った。
「政府はこの地震が起こるのを……知っていたのか!」
男は目を細めた。
「バカを言うな。地震を予知できたとしても、それを国民に知らせないはずが無い」
「ハッ! どうだか!」
男はすばやく剣を抜いた。目の前に黒い刀身が突きつけられる。
「政府とは、東京なのだぞ」
俺はそれ以上追求しなかった。……男は振り返る。
「俺の役目はひとまずここまでだ。お前は帰れ」
男は歩き出した。
「待て!」
「何だ」
俺に背中を向けたまま、男は立ち止まった。
「名前だけ、教えてくれ」
「…………」
トンネルの静けさが、耳鳴りを起こらせる。しかし、甲高い共鳴の中に聞こえた。
「土方 歳三」
9 国が壊れた
――目を開ける。……怖くなって、また閉じる。それを三回ほど繰り返した。そしてやっと全てを理解する。
校舎自体は損壊しなかったものの、二階の三年五組の教室は上の階の天井に押しつぶされ、ほとんど床と地面の空間は無かった。何故俺にこんなことがわかるのか。皮肉にも、俺は教室窓側の隅の本棚に頭をぶつけた後、ベランダに投げ飛ばされていたようだ。ベランダはギリギリ持ちこたえている。俺はそのベランダの一番隅に座り込んでいた。教室の様子は……よく分かる。だが、いつもの机も椅子も、瓦礫に埋もれて見えない。ユカの姿も……ない。床には蛍光灯の破片が散らばっていて、血痕も数箇所にあった。もの凄く埃っぽい……。俺は信じられないほど軽症で、少しジャージが破れているだけ。あの夢と同じ状態だ。もう何も考えられない。
……夢?あれは、夢だったのか……?あの男は確かにいった。
「お前は帰れ」
と。俺は自分の足で帰ってきた記憶はないし、寝起きと同じような感覚だ。やはり、夢だったのかもしれない。……そんなこと、どうでもいい。ただ、周りの景色が信じられない。窓ガラスも目の前に散らばっている。
……あぁ、ヤス……。ガラスの割れた窓枠から、ダラリとヤスの体がベランダ側に乗り出している。下半身は瓦礫に押しつぶされているようだ。頭にはガラス片が刺さって、激しい流血をしている。
「じゅ……ん……」
俺は一瞬で立ち上がり、ヤスのところへ走った。
「ヤス! 生きているのか?」
ヤスはダラリと両手をぶら下げたまま、丸坊主の頭を上げた。
「たす……たすけ……助け…て……」
「……あぁ……なんてこった…」
ひどい有様だった。右目にはガラス片が刺さり、眼球が破裂している。頬辺りまで白い
液体が流れ出しているし、下唇は完全に切断され、真っ赤に染まった歯と大量の出血。細かいガラスが産毛のように刺さっている。どうやら、このガラスが割れる前にヤスはこの窓につっ込んだのだろう。
「目が…痛いぃ……」
「すまん…ヤス…すまん……」
俺は必死に謝った。何も出来ない自分の無力さ。おれにはその瓦礫を持ち上げることも出来ないし、そのガラスを抜いてやる勇気も……無い。ただ、ヤスの頭がダランとまた下がり、死んでいくのを見届けるしかなかった。これをきいたら、タカシはなんていうだろう。(ヤスは野球部だ)タカシはきっと無事だろう。たしか新潟へ行っているはずだ。
ガクリと膝が曲がり、俺はその場に座り込んだ。ヤスは既に息絶え、またダラリと体をベランダ側に投げ出していた。
「うっ…うぅっう……」
きっと、誰も助からないだろう。この丈夫な校舎がここまで壊滅しているのだ。M9(マグニチュード9.0以上)は楽にいってるだろう。そんなことを考えると、涙が溢れてくる。膝を抱えて、ずっと俺は泣いた。ずっと…ずっと……。
助けて…凌……タカシ……。
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2006/03/22(Wed)15:52:28 公開 / 弾丸
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■作者からのメッセージ
弾丸です。この小説は実は一年ほど前から暖めてきた奴なんです。(フェアリィシーフは挑戦的なものもあったので、一度削除させてもらい、もうすこしシナリオを整えたいと思うので。)
東京直下型地震……。はっきり言って、自分も怖いです。
でもそれよりもう一つ未来に、マグニチュード10ぐらいの大地震が来たら?と考えて書いてきました。感想頂けたら幸いです。
(異世界というジャンルは捨てられない……)
2を更新しました。
地震雲ってのは、その震源地の地下のプレートからくる電磁波が原因といわれいていますが、科学的には何の証明もありません。それでもデータ的には地震雲が現れてから地震が発生しているケースが多いようです。
3を更新しました。ありゃりゃ、ちょい臭かったかな?でも凌が手紙を見せたり理由がわかったかな、と。わかってもらえたら光栄です。12月16日。
修正。メール遅れなくてごめんね→送れなくてごめんね
ユカの顔をじっと見つめてニコッと笑った→ユカは俺の顔を見つめてニコッと笑った となります。
なんちゅう間違いだ……
4を更新しました。
地震雲にも種類があって、一つは煙雲。
もう一つが、太い帯状の雲が空一面に一列に並ぶ雲。この雲は阪神大震災の3日前に見えたものだそうです。
5を更新しました。
一部修正しました。
6を更新しました。
地震の最中の情景の短さはご了承下さい。後々加えられますので。
7を更新しました。
小説の表現の見難さはご了承いただけたらと思います。
8を更新しました。
9を更新しました。
これからは淳、タカシ、凌の行動が順々に展開(リンクというのかな?)していく予定です。それぞれの行動が一人一人の行動とつながっていくのかな?と思います。
大幅削除させていただきました。
作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で42文字折り返しの『文庫本的読書モード』。
CSS3により、MSIEとWebKit/Blink(Google Chrome系)ブラウザに対応(2013/11/25)。
MSIEではフォントサイズによってアンチエイリアス掛かるので、「拡大」して見ると読みやすいかも。
2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。