『その向かいまで』 ... ジャンル:リアル・現代 未分類
作者:aiie yumei                

     あらすじ・作品紹介
霧子は霊能力者としてTV、エッセイなどと幅広く活躍しているマルチなタレントだったが、あることがきっかけとなり、精神のバランスを崩してしまう。一方佐倉はカウンセラーとして、霧子を受け持つ事になった。彼女を理解して、彼女の苦しみを少しでもやわらげてあげたいと思っている佐倉医師は霧子の対談に何か手がかりがないかと思い、対話記録を残しすことにした。一方おじさん連中に人気者の田宮敦子(飲み会の語り手)は霧子に聞いた話を含め、面白い体験をしたようで、飲み会にて絶好調に語る。

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その向かいまで

そうですね、いつも思わぬ事に出くわして、びっくりする事ってあります。子猫が蝶を追って、駆け回っていたのに次の瞬間、その猫が犬に追い掛け回されたりとか、チャーハンを頼んだのに、チャーシュータンメン、チャータンって言うらしいんですけど、が出てきたり、かっこいい男の人の(友達の彼氏)趣味が女装だったりとか様様です。びっくりする原因の多くは、そのギャップでしょうか。ああなんだと思い込んだら、ちょっと違うだけで違和感を感じるんです。違いますよお、決して私がそそっかしいとかではありませんよ。でこの前、妙で大変な事があったんですよ。ちょっとおつまみ代わりにお聞きになります?

私は土曜日の夜に、友達の家に集まってお話してました。よく気の合う、高校来のお友達なんですよ。ううん、結構前なんですよ、2年前くらいかなー。そんで、その頃すごく流行っていたソフトMとか言う、お笑い芸人、え、あはは、覚えてます。え、まだいるんですか? え、うそ、昨日TVにでてきた。あははは、すごい偶然。あはは、やっぱり、あの人は今どこってやばいよねーうん、あはははは、ハードなMに変貌を遂げていた。あはは、いやもう見たくないから結構です。あははは。そんな事なんで覚えているかって言うと、さっき言った女装癖のある友達の彼氏がソフトMにそっくりだったからなんですけど。あはははは。そういったくだらない話をしてたら、なんか怖い話でもして、怖がろうよって私が言って、首吊り自殺した女の嘘話をしたんですよ。ええ、私から。好きなんです、怖い話。これが大好評でみんな震え上がって怖がってましたね。ええ、いいですよ。でも帰れなくなるかも。

あはははは、藤村さん!! だめですよここでおしっこ漏らしたら!!我慢しないで下さい。
あっでもここではしないデー。


あんまり調子乗ってると私帰りますよ。


それで、なんか絶好調だったんで従姉妹のキリコに聞いた話をしたんです。キリコは、ある日取材のために、岱号村っていう、山梨の小さな村に出かけていたそうです。村に残る、奇妙な風習を取材しにいったんですって。その風習というのがその村の、初めて生まれてきた赤子を、家の前に物干し竿のようなもので吊るし、神様にお知らせする、といった物だったようです。いえいえ、今は無いそうですよ。そんなおっかない風習。大問題になっちゃいます。

それでね、キリコの話では、実際昔はその赤子が村の権力者によって淘汰されていたのではないかって、ええ、そんなうわさがあったらしいです。つまり選定してたんですね。その、人間を、
その方が怖い話よりよっぽど怖いよね−普通。赤子の選定なんて信じられます? キリコはそれが本当であるか確かめにいったんですよ。ええ、会社の仲間と二人で。

はい、キリコも変わった人ではありますね。普通は行かないよ。おっかないよ。でもキリコは霊感が強いらしく、事前に危険がわかるっぽいんですよ。だから、危険を避ける能力なんかすごいね。この前、彼女とパチンコ打ちに行ったんですよ。そしたら、キリコの台のやつが当りだったみたいで、でまくってたんですよ。でもまだ出てるのに突然席を立って移っていったんです。何か危険な気がするって言って、そのまま帰っちゃったの。私もうーんとね、健康ランニング、そう手で持って足と連動して歩くあれ。あははは、何であんなものもって帰ったんですかね。シュールだよね。やっている所想像つかないもの。うん、それで私も彼女に従って帰りました。その後、なんだかその台はボン!!といって火が出て、火事になったんですよ。あー、疑ってる。ホントデスヨ。新聞に出たことあにゅんだよ。

笑わないで下さいよー。ほんとにあったんだよ。ね、そうそう藤村さんも知ってます? 無楽区のパチンコ屋じゃないです。30年前!!もう真面目に聞いて!!

岡崎の、そう岡崎!

………知らない?

はあ、結局誰も知らないんですね


新聞記者ではないです、前話聞いたら何か心霊関係のライター兼霊媒師みたいなことしてるって言っていました。その岱号村ってのは、キリコの話だと山梨市から、バスが日に4本しか出ていないようなすごい田舎だったらしいです。


加島医院 対話記録 6月24日 

担当医名  佐倉 達弘
患者名   津村 霧子

佐倉
それでは始めましょう。津村さん、その日にあったことを話してみて下さい。
津村
この日にあったこと? 何でございましょうか? 先生。
佐倉
この前、君が話したいといっていたことだよ。山梨県での取材の話です。
津村
ああ、岱号村。
佐倉
それが、津村さんの人生を変えたとおっしゃっていましたね。
津村
………そうですね、今思えばあれが始まりでした。

岱号村に奇妙な風習があるという話を初めて耳にしたのは、5年前くらいでしょうね。雨がよく降っていまして、雨の日が嫌いな私は少しだけ腹立だしい気分でおりましたので、時期はちょうど今ごろでしょうか。私は当時とある雑誌社で月刊雑誌の編集、記事などを任されておりまして。「月刊 怖い話」という雑誌なのですが。………
佐倉
………ちょっと存じませんね。
津村
そうですか。私と同期の飯倉というものと苦労して立ち上げた、結構人気のある雑誌なのですが。ご存じないとは思いませんでした。私もまだ関わっていますのよ。その飯倉から相談などを未だに持ちかけられますので。
佐倉
すみません。ちょっとそういうものには疎くて。そうですか。今度見かけたら、拝見させていただきます。
津村
いえいえ。恐縮でございます。無理に先生にお勧めするほどの雑誌ではございませんのに。
佐倉
いえいえ。どういった雑誌であるか興味が湧いてきたので、ぜひ読んでみたいのです。
津村
たわいもない内容です。でも先生がそうおっしゃるなら、飯倉にいって取り寄せさせますわ。
佐倉
いえ、そこまでしていただかなくても。自分で買いますので。
津村
そうですか。まあ今ならコンビニエンスストアなどでも売っていますし、比較的簡単に手に
入れることはできますので。
佐倉
「月刊 怖い話」ですね。覚えておきます。………話を元に戻しましょう。どういった理由で津村さんは岱号村を取材したいと思うのにいたったのでしょうか?
津村
ええ、それはある投稿写真とある新聞記事がきっかけでした。
佐倉
投稿写真と新聞記事。とおっしゃいますと?
津村
そうですねまず投稿写真の方からお話いたします。あの、先ほど私が話したその雑誌で心霊写真特集というものをまれに組んでおりました。心霊写真というのはもちろんご存知でございましょうが、何気なく撮った写真に人間や動物の霊や霊の一部が写っているというアレでございます。
佐倉
もちろん知っていますよ。僕はあまり見たことはなくて詳しくはないですけど。
津村
そうでございましょう。私共は仕事でたくさんの写真を見てきたので、恐怖感が少々薄れてしまっておりますのでどうって事無いですが、普通の方はあまり見たいと思うものではないですよ。こういう私も実は嫌いなのです。写真を見ると何か良くないことをしているのではないかという残悪感を常に感じてしまうので。でも心霊特集は読者様に、人気がございまして、私共と致しましても読者様から楽しんでいただけたという反応がとっても楽しい仕事でした。心霊写真はイメージが読者に伝わりやすいのがいいのでしょう。
佐倉
そうですね。それに読者としては、自分にもひょっとしたら心霊写真を撮れるのでは、というスリルを味わえて余計に面白いのかもしれませんね。
津村
そうですわね。ああ、そうですわ。先生。
佐倉
はい。
津村
先生はなぜ心霊写真が夏に流行るのかご存知ですか?
佐倉
なぜでしょうかね? ………やはり夏は暑いから、読者は怖い思いをして涼みたいからではないでしょうか。
津村
ふふ、それもそうなのですが私の答えは違います。降参ですか?
佐倉
うーん。わかりませんね。
佐倉
答えはそれは私共雑誌社の都合なのでございます。というのは心霊写真の特集は取材をして、いちいちして裏付けを取っておかなくてもよいというメリットもあるのですよ。仕事が楽になれば長期に休みを取るチャンスになるので、私どもの会社では夏休み、冬休み前に特集を組むことが多かったのです。
佐倉
へーえ、そうなんですか。知りませんでした。
佐倉
ええ、でも一口に心霊写真といっても小さな会社にそんな心霊写真の在庫などというものがあるわけないのですから。ええ、もちろん私ども独自でも写真を集めておりますが。雑誌社では良くあることだと思いますが読者様から賞金つきの一般募集という形で集めておりました。そしてある程度数が集まってから特集をしておりました。でもそうして送られてくる写真のというのは大体が作り物や偶然そう見えるといった偽者が多いのです。雑誌というものは本物ばかり載せているわけではないですのよ。ページの都合上よほど偽者に見えない限りは載せていまして、それでもかなりの読者様はわからないものなのですよ。ですが、勘の良い読者様には葉書やEメール等で指摘されたりして気が抜けません。ほほ、いかに騙すかが私どものテクニックでございまして。秘密なので詳しくお話しすることができませんが、騙されて怖がってくださる読者様の声を聞くのが結構楽しかったりいたしました。………ほほほ、話が脱線していましたね。
佐倉
いえいえ、かまいませんよ。そういった話もカウンセリングの効果がありますのでどんどんしてくださってかまわないのです。
津村
そうなのですか。そういった仕事は私ひとりでしていたわけではないので、仕事がまだわかっていない経験の浅い人間が載せてはいけない写真をたまにでございますが載せてしまうことがあります。
佐倉
載せてはいけない? それはどういった物なんでしょうか。
津村
例えば、投稿者様や被写体様の身元がわかるような物。プライバシーの侵害を犯す事になってしまいます。また、会社やお店に変な噂がかからないように、そういった看板なども消したりする必要があったりします。政治家、ヤクザ、有名人なども気を使って載せなくてはなりません。本当にあらゆる可能性に気を使う必要があって、大変なのですよ。また私の判断で、これは本当に載せてはいけない、読者に災いを引き起こすタイプの写真があります。見るだけで影響を受けえる人様がいる写真というものも、この世にはあるのですよ。
佐倉
………それは、呪われた写真とかそういった物なのでしょうか。
津村
そういうとなんだか俗物っぽく聞こえて嫌なのですが、そうですね。厳密に言うと少し違いますけど、………でもそういった類を雑誌に載ってしまうというミスは私が勤めておりました頃からありませんでした。私の倫理観が許しませんでしたので。ご安心ください。ええ、今もないと思います。うちの会社では、私が徹底的に教育したということもあって、そういった勘が働く人が多いのですよ。私も間接的ではありますがまだその雑誌に関わっておりますので、雑誌を見たりしますが今のところ世に出てしまった危険な写真はございませんでした。でも公にできなかった写真はかなりございました。やはりあるものです。1年に十数枚は。そういった時はもちろん投稿者様へのできる限りの助言を致しました。面倒なことになるからと放置しておくわけにもいきませんし。でも、そのいい訳じみてしまいますが、投稿者さまへの助言というものも向こうが望んでいるとき以外は、押し付けがましくいうわけにもいかなくて大変難しゅう事なのです。ええ、風の噂では、助言が間に合わなかったり、助言を聞かなかったりして、手遅れになり酷い目にあられた方も居られたようです。仕方ないことですが、係わってしまった以上は私に責任があり、力及ばず申し訳ないって思います。そういう具合に心霊写真を特集として行うときは非常に気を使わなくてはなりませんでした。下手をしたら廃刊になってしまいますので。
佐倉
今までの苦労が水の泡になってしまいますものね。
津村
ええ、そういうことは厄介でしたが慣れてしまえばどうってこともないものです。問題の写真はそういったものともさらに違い、どちらかといえば事故に近い物でした。私は、気の合う友達と夏休みに欧州を旅行するという事に向けて、仕事の合間を見てかなり早めに仕事を進めておりました。前年度に仕事が押してしまい旅行に私だけ行けなかった事もあったもので。先ほどお話いたしました心霊写真の特集の編集作業をしていたのですが、前から集めておりました心霊写真の中から選ぶということがメインですのでさほど大変ではありませんでした。この年はいい写真が多くて、さらに時間に余裕があったため、スタッフと、何を選ぶかで結構もめたり、馬鹿な冗談を言い合ったりし、とても楽しい雰囲気で仕事を行えました。
佐倉
いいですね。話を折るようですが、いい写真とはどのようなものなのでしょうか? 気になったので。
津村
記念撮影時に知らない人が写っているとか、手や首がない写真、霊の身体の一部が写っているなどと、霊障レベルが低いものです。素人には見分けづらいのですが、何らかの理由からその場から離れられない危険のない霊がからかっていたずらしている、そういったものです。心霊写真で最もあるパターンがこれです。
佐倉
そうですか。割と良くあるものなのですね。
津村
ええ、そういった写真は本当にたくさんあります。先生も知らず知らずに採ってらっしゃるかもしれませんよ。前に、私の従妹がカップルに頼まれて写真を撮ったところ見事に霊が写っていて
そのカップルが私どもの雑誌社に投稿としてきたことあるぐらいですから。
佐倉
ああ、それ嫌ですね、なんだか気軽に写真撮れなくなりました。
津村
ふふ、あまりお気になさらずに。先生のような珍しいくらい霊体質をお持ちでない方は霊もちょっかい出しようがありませんので安全なのですよ。また話がそれていましたね。………先ほど私が言ったことなどを注意して仕事をして、5月の後半には雑誌内容の大半ができていました。そのおかげで私達もその頃はかなり忙しかったですけど、皆休みを長く取りたい気持ちは同じですので誰も文句を言いませんでしたよ。何事もなく無事に終わりましたし、質も満足のいくもので有意義な仕事でした。その後、私は次の月の自分の仕事をきっちりと終わらせ、後の仕事は先に休んでいた飯倉班に任せて、友達と共に欧州へと旅立ちました。
佐倉
へー、うらやましいですね。どこの国へ行かれたのですか?
津村
主にフランス、ドイツですね。先生は欧州に行かれたことはございます?
佐倉
ええ、新婚旅行でイタリア ナポリに行きました。ほんの半年前くらいです。
津村
まあ、うらやましい。ナポリには行ったことがありません。どうでした。
佐倉
ほとんど二人で食べ歩きをしてました。妻も私もとも横浜出身なので、買い食いが大好きなんです。僕はイタリア語がほとんどわからないけど、食べたいものがあったら、身振り手振りで伝えて。妻はイタリア語を話せますし、何度かイタリアへ行っていたので、どこがうまい店か、どこでお土産を買うか、完璧でしたので、すごく頼りになりましたね。
津村
まあ、姉さん女房なのですね。
佐倉
ええ、まあ、
津村
お勧めの店とがございます?
佐倉
2,3件周りましたけどピザでは、da micheleというところがうまかったですね。駅から近くて
わんさか人がいましたけど、うーん、イタリア人もあんなうまいものばっか食べているから陽気
なんだろうな、って実感しました。他はバイアの港にあるTORTUGAというお店がうまかったです。面白いのは勝手に料理が出てくるというところです。(http://www.iolove.net/参考にしたサイト)
津村
へー、食べ歩きもいいですね。先生はドイツやフランスは周ったことがないですか?
佐倉
はい、残念ながら。でもいつか行ってみたいですね。
津村
ドイツ、フランスはどちらも料理がおいしゅう国ですから、お二人にはぴったりでしょうね。
私達は主に昼間は教会、古城、美術館などの観光名所を周っていました。夜はオペラやオーケストラなどが聞けるレストランで料理を食べ、そして友達へのお土産としてブランドバック、化粧品、香水などを手に入れてまいりました。少し派手にお金を使いすぎてしまい、後で困りましたですけど。あの、話をもどしましょうか。
佐倉
ははは、すみません。私もつい脱線してしゃべってしまいましたね。
津村
ふふふ。旅行も終わって、すっかりリフレッシュして私達は帰ってきました。仕事のことは忘れていましたが、できたものにかなり自信があり、高評価を期待できたのを思い出して、仕事始めには真っ先に読者様のコメントを読み出しました。読者様の声は実に好評でして全部で2000件近くまで上がっていました。こんなに多かったのは雑誌を立ち上げていらい初めてで、私はとても興奮していました。だっていつもは多くて500件くらいなのですから。怖かったです、色んなところから汁が出ちゃいましたとか、あの霊は嘘だ。作り物で俺らをだまそうったってだめだとかとか、あの写真の老人は女でなくて、男だろ!! 性別が違うぞ とか、あの写真の黒い影は実はUFOだ!! といった個性的で心のこもった感想がひしめく中に、私は少し変わったコメントがあることに気がつきました。………それがどういったものかというと

心霊特集の岱号村にて撮られた写真の中に、連続殺人犯がいるぞ。

といったものでした。


2006/01/04(Wed)23:40:38 公開 / aiie yumei
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