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『それは、うさぎで始まった {その5 -満月-}』 ... ジャンル:リアル・現代 未分類
作者:桃瑞
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あらすじ・作品紹介
「うさぎはね、寂しいと死んじゃうんだよ」そんな生き物。
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私には友達がいなかった。
昔から、友達という友達ができた事もなかった。
というか、別に欲しいって思ったこともない。
明るく、楽しく騒いで、さ。
ばっかじゃないの?
アンタらそれでも高1かっての。
モチロン、私はいつも一人。
ずっとヒトリ。
子供っぽい事騒いでは、裏切っただの裏ぎられただの。
泣いたり怒ったり笑ったり。
そんなのに巻き込まれるんだったら、一人でいた方が全然いい。
ごちゃごちゃごちゃごちゃ
そんなうるさくて、めんどうなもの、持ってるだけ、わずらわしいもんだ――
「どおんっ!!」
可愛らしい声と共に、何者かが後ろから抱きついてきた。
突然の出来事に、口から心臓が飛び出すかというくらいにびっくりした。
「ねーねー、一緒に帰ろう」
振り向くと、クラスの子、藤崎さん(だっけ?)がニコニコしていた。
…なんで残ってるんだよ…
私は人とつるむのが嫌いだ。だから、クラスのみんなが下校するのを見はからって、毎日一人で帰っていた。それくらい、人が嫌いだった。特にこの女子高のヤツらは大嫌いだったから。
今日もいつものように、クラスのみんなが帰るまで、一人で机につっぷしていたのだ。
なのに…
「一緒に帰ろうよ」
コイツは、ここにいて、しかもニコニコしている。
驚くというよりも、呆れてしまった。時々いるんだよ、こういうヤツ。
自分はクラスの嫌われ者と仲良くしてます、誰の悩みでも聞いていますなんていう偽善者。自己満足。マジムカつく。
私は、ちょっと藤崎さんをにらんだ。藤崎さんはニコニコしていた。
アタシはこういうのが一番嫌い。同情なんてイヤだった。ましてやこういう可愛こぶったヤツは…
「帰ろうよお」
「やだ。私一人で帰るから」
私は冷たく言い放った。ちょっとでも好意を持ったらアタシの負けだ。捨てられる前に捨ててやれ、だ…。
彼女はちょっと考えてから言った。
「お願い、帰らない?」
「やだってば。ほかに帰る子いるでしょ」
「みんな先帰っちゃったから」
「知らないよ」
おねがい〜、と彼女はぎゅうっと抱きついてくる。サッとそれを振り払い、もう一度、冷たく言った。
「私、藤崎さんの事知らないから」
「藤崎さん?ミキでいいよーん」
「そうじゃなくて、分かる?アンタウザイ」
このボケにも伝わるよう、声をとがらせて私は言った。
「だから一人で帰って」
「やだ」
藤崎さんは動じることなくきっぱりと言った。
私はだんだんイライラしてきた。
「帰ろうよー寂しくて死んじゃう。ウサギはね、寂しいと死んじゃうんだよ」
藤崎さんは、手で頭にうさぎの耳をつくり、ピョンピョンはねて回った。
「寂しいなあ。ピョンピョン!」
私のイライラは頂点まで達した。
「だあっ、分かったよ。一緒に行けばいいんでしょ?!」
バカ言動に耐え切れず、ついにそう言ってしまった。
藤崎さんは、ニッコリ笑った。
「ありがとう。ウサちゃん嬉しい」
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もう、冬だった。冬は日が暮れるのが早く、辺りは暗くなりかけている。
冬の外は冷たく、風がシンシンとする。冬は嫌いだ。
カサカサ落ち葉をふみながら、早く帰ろうと早足で歩く。
「いやあ、冬ですな。ダンナ!」
…そうだ、コイツと一緒だったんだ。
藤崎さんがケトケト笑う。それをシカトするように私はどんどん早足で歩く。
「ねえねえ、咲帆って名前だよね?咲ちゃんって呼んでもいい?」
「別に」
「やった!じゃあ私の事はミキって呼んでね!」
…疲れた。このテンションにはついていけない。早く家に帰りたかった。
藤崎さん(ミキなんてよべるか)は一人でぴょんぴょん跳ねている。
「咲ちゃん。私ね、ウサギ飼ってるんだ」
「キングって名前でね、王様なんだ。かっこいいでしょ」
「ほかにもハムスター飼ってるんだけどね、おもちって名前なの。こんど写真見せてあげるね。」
「そうそう、キングはいつも抱っこして寝るんだけど、これがまた、ふあふあもこもこで可愛いんだー!」
「キングったらね、いつも」
「お前さあ…」
私はよく分からないけど口を開いた。
「悩みとか、ないの?」
「あるよ」
藤崎さんはさらっと言った。
「オイラ、悩み事いっぱいなんだよ。実は。」
「そんな風に見えないけど」
「ううん!病みまくりの少女なんだ!」
藤崎さんはケトケト笑う。…本当かよ。
冬の冷たい風がピュウと吹いた。私たちは同時に身を縮めた。
藤崎さんのマフラーが暖かそうだった。
「でも咲ちゃん突然、どうしたの?」
「別に」
「やーん、冷たい!」
藤崎さんはきゅうっと抱きついてきた。抱擁癖?道でもなんでも抱きついてくる子だ。
何だか…ウサギみたいな子。
何故か分からないが、ふとそう思った。ピョンピョンはねてて、ふわふわしててさ。
藤崎さんは私のほっぺたに手をあてた。
「咲、ほっぺ冷たいね」
「触るなよ」
「ごめーん!」
藤崎さんは、笑いながらぴょんと飛びのいた。本当にウサギみたいな子だ…
「うんうんっ。そんなに寒いなら、これ貸してあげるね」
藤崎さんは、自分の首からマフラーをとると、私の首にふわっとかけた。藤崎さんの体温がマフラーごしに感じられた。
「いや、いらないから」
「やだやだ。貸してあげる」
「アンタ寒いじゃん」
「平気!寒さには強いから…っくしゅん」
「っておい!」
「いいから、いいから。んじゃ、私帰り道こっちだから!ばいばいきーん、咲ちゃん!」
藤崎さんはテテテと走りだしていた。冗談じゃない。
私は、慌てて藤崎さんを呼び止めた
「おい!ちょっと待て!」
「ばーいばい」
「おいウサギ!」
「ウサギ?」
ピタリと彼女の足が止まった。トテトテとこっちに戻ってくる…しまった。
「それって、私の事だよね?」
「い、いや…」
「それってスゴク可愛い!ありがとう!」
予想に反して、ウサギはペコリとおじぎをした。
そしてまた、くるりと背を向け、ウサギは走っていった。
…おいおい
私は白いマフラーに手をやった。ふわりとした香り。ウサギの匂いは優しかった。
「はぁ…」
ため息をついた。
だが、不思議と悪い気はしなかった。
@
今日は空の機嫌がよろしくないのか、どんよりとして腹の立つ天気だった。灰色の空が腹立たしい。
なんだかんだやっているうちに、日付は一日進んでいて、私はいつものようにつまらない授業を受けていた。
いつもと変わらない、繰り返される日常。
いつもと変わらない……本当に変わってないのか?
いや、今日はちょっとだけ変わっている。
―――キーンコーン……
無駄に大きいチャイムが響いた。一時間目が終わった合図。
眠い授業の古典が終わってか、あくびをしたり、のびをしている人が目につく。古典でも現代文でも、問題はそんなんじゃない。
そんな事よりも…
(ウサギのマフラー、どうやって返せばいいんだ)
そんな小さな事に慣れない私は戸惑っていた。
友達同士だったら、はいって渡せば終わりだろうけど、私たちは友達じゃない。少なくとも私はそう思ってる。
ヤツのロッカーにこっそり入れておこうとも思ったのだが、無念なコトに、ヤツのロッカーには大量のぬいぐるみがつめこまれていて入らない(いったい何を考えてるんだ?)
私は小さくため息をついた。慣れない事されても、困るんだよなあ。
もふっ
「咲ちゃんっ」
もふと抱きつかれた感触。昨日と同じこれは……
「おはよおはよ!」
ウサギの参上。仲のよさそうな私たちを不思議そうな目でクラスの子が見ている。
やっぱりウサギはウサギで、ぴょこぴょこしている。
「次は体育だよ!バスケだー!チーム分けされたの見た?一緒のチームなんだよ!」
ウサギは1分とたたないうちに体育着に着替え終わっていた。この寒い中、ジャージも着ないで半そで半ズボンのウサギが寒々しい。
「私もう着替えちゃったー」
「……寒くない?」
「よくぞ言ってくれました!……寒い。ジャージ忘れちゃって」
ウサギは性格こそ無駄に元気だが、見た目は華奢で弱そうな子だった。
下手すると折れてしまうんじゃないかってくらいに細い手足。色白の肌。それで髪の毛はふわふわ。やっぱり『うさぎ』なんだよな。
「っ…くしゅん!」
半そでの寒さからか、ウサギは可愛らしくくしゃみをした。見るからに寒そうだった。
ふと、半そでのウサギの腕を見ると、ウサギ柄のもこもこリストバンドをしていた。
ウサギは私の視線に気づいたのか、リストバンドを指ではじいて言った。
「うにゃ。可愛いでしょ?留美子ちゃんがくれたんだ」
「留美子…?」
高1の冬にもなってクラスの子の名前を把握していないのは私くらいだろう。まあ、興味がないのだから仕方ない。
ウサギはキョトンとしながら言った。
「高橋留美子ちゃん。知らない?あの子」
ウサギの指さす先に、留美子ちゃんなる人がノロノロと着替えていた。ちょっとぽっちゃりした感じの子で、ふっと目が合うと、留美子ちゃんは慌てて目線をそらした。
おいおい留美子ちゃん。
今更だけど、私ってそんなに嫌われてるのか。分かってたけど。
ウサギはオドオドしながら留美子ちゃんをフォローする。
「あ、あの……留美子ちゃん悪気があってやってる訳じゃなくて」
「分かってるよ」
「ごめんね。怒ってる?」
ウサギは泣きそうな声で聞いてくる。私はなだめるよう、優しめの口調で言った。
「別に怒ってないよ」
慣れてるからね、と付け加えようとしたが、今はやめておこう。
「留美子ちゃんね、私の幼馴染で……っくしゅん!!」
やっぱり寒いのか、またくしゃみをする。私はちょっとため息をついてから言った。
「ウサギ」
「なーあに?」
「貸す」
それだけ言って、私のジャージをウサギにかぶせた。
「ぷあっ、ダメだよ、咲がカゼひいちゃうよ」
「私、カゼひかないから」
「ええ〜」
ジャージをおしつけて、私はウサギから離れた。少し寒かったが、ウサギが寒い思いをするよりは幾分かいい。
いいことをしたとも思ってないし、悪いことをしたとも思わない。
(…あ、そうだ)
寒さで思い出した。
(マフラー、返さなきゃ)
くるりとウサギの方を振り返る。
「ウサ…」
…が、もう一度ウサギから目をそらした。
ウサギは楽しそうに留美子ちゃんにくっついて笑っていた。
「今日の体育バスケなんだって。やったー!」
「ミキったら本当、体育好きだよね。うらやましいな」
クラスのわいわい言う声の中で、かすかに聞こえる二人の声。いつも見ていないが、多分いつもの光景。
でも、なんだかもやもやしていた。
(マフラー…後で渡そう)
二人に背を向け、一人で体育館に向かう。
歩きながら自分に問いかけてみた。
ウサギのコトが好きなの?
好きなんかじゃない。
だって、今悔しいって思わなかった?
そんな事思っていない。
あんな『ウサギ』だって、いつかは裏切るんだよ?
知ってるよ。
小さくて、嫌な人間だね。
……言われなくても自覚してるよ。
なんだか自分に呆れて問うのをやめた。
半そでのまま、私は一人体育館に向かって行った。
くっだらない
@
今日の体育はバスケだった。ボールを奪い、網に入れるゲーム。
好きでも嫌いでもない。
先生の声が耳を通り抜ける。
「今日は練習をするので、一人ひとつ、ボールを持て。試合は来週だ」
えー、とクラスの子の声。
……くだらない、くだらない。
すべてを軽蔑しながら、ボロっちいボールを一つ持った。
ボールを投げて10回中何回入るかをカウントするらしかったが、私は一回しか投げなかった。しかも外れた。
見渡せば女子高という雰囲気の体育。キャーキャー言いながらボールを追い掛け回す。
やっぱり私は、一人だ。
(ウサギ……はどこ?)
一人って思った時、何故かウサギの事を思い出す。ほにゃらっとした笑顔。昨日から孤独につぶされそうになる前にウサギの顔が思い出される。
いやいやいや!何考えてるんだ私は。ふるふると頭をふる。
『偽善』を信じては、いけなかったのだ。
(……あれ?)
そういえば、ウサギがいなかった。
気づけばウサギを探してる自分も悲しかったけど、本当にいないのだ。さっきまでいたはずなのに、どこにもいない。
キョロキョロしていると、体育館のはじっこで誰かがうずくまっていた。
ふわふわの髪。華奢な手足……そして、自分のジャージ。
(もしかして……)
私は、考える前に走り出していた。
(ウサギ!)
すぐさまその子に駆け寄り、至近距離で呼びかけた。
「ウサギ……?ウサギ」
返事がない。
「大丈夫?ねえ。おいってば」
揺すってみるが、やはり返事はない。
ウサギは、震えてきた。ぷるぷるぷるぷる。
突然の事にどうしたらいいのかが分からない。珍しくも私はうろたえていた。
「ウサギ!ウサギ!ウサギ!」
「……ん」
ノロノロとウサギが顔をあげる。ウサギの顔は青ざめていて汗びっしょりだった。
「保健室、行くか?」
「大丈夫大丈夫!元気ぴんぴん!ちょっと貧血なだけ!」
そう言いながら、いつものウサギスマイルを見せた。
「じゃ、バスケやろっか、咲っぺ!」
「無理だよ」
「平気だってばー!」
ウサギはべいっと舌を出して、逃げるように走っていった。一瞬よろけたが、また、いつものように元気にボールを追いかけ始めた。
「ウサギ……」
ねえ、ウサギ。見なかったことにしていいの?
うずくまっていたウサギが、自分の腕を無心にひっかいていた事。
何に憤りを感じたのか分からないが、チッと舌打した。
ぐらりと世界が揺らいだ。
@
―――小学校2年生
「咲帆はお母さんの自慢の子よ」
お母さんが笑う。
「今日の授業参観、頑張って手あげてたなあ。お父さんなんてずっとビデオとってたんだぞ」
「お父さんったら、ずっと山崎さんの奥さんに咲帆の話してたのよ」
「いいじゃないか」
「ふふ。これからお祝いにケーキ買ってきてあげるわね。お父さん、車お願い」
「よっこいしょ、じゃお父さんが車の運転するか」
お父さんが立つ。
「咲帆の大好きなチョコケーキ買ってきてあげるからな」
「咲帆はいい子にお留守番しててね。外は寒いからお母さん達でちゃっちゃと買ってきちゃうから」
「おい、咲帆一人留守番させて大丈夫か?」
「お父さんったら心配性ね。大丈夫よ」
「10分で帰るから!いい子に待ってろよ!」
私は笑顔で答える。
「うん。いい子で待ってるね」
親子3人で仲良くテーブルに座って
楽しくおしゃべりして
美味しいケーキを食べる。
幸せな時間。
だったハズなのに。
授業参観頑張ったよね?
いい子にお留守番してたよね?
――お父さんとお母さんは、帰ってこなかった。
「コイツ、呪われてるんだぜ」
クラスの男の子が言う。
「いっぺんにお母さんもお父さんも死んだらしいよ」
「えーヤダー!」
「近づくと、殺されるよ!」
「やだ、触っちゃった!」
「うわあ、なっちゃん寿命が10年縮んだよ」
「最悪ー!」
あははははは。
クラスの子の笑い声。
何も言えない自分。
「消えろよ」
消える?
――ああ、消えたいよ
「両親がいっぺんに亡くなるなんてねえ。可哀想に」
「交通事故ですって。ねえ、さきほちゃん。いくらお金もらえたか知ってる?」
「何千万らしいわよ」
「いいわねえ!」
近所のおばさんが笑う。
――よくないよ、だったら変わってくれよ……
ケーキなんて、いらなかった
ただ、お母さんとお父さんがいればそんなのいらなかった
死んだのが、私だったら良かったのに……
ふっと目を開けると、ウサギが立っていた。
心配そうな顔。
「咲、大丈夫?」
「……あう?」
真っ白な世界。自分のいる状況が把握できなかった。
「咲ね、あの後パタッと倒れちゃったの。多分貧血だと思うんだけど……」
「そっか」
どこかで見たことのある白い世界は、保健室だった。布団がかけられ、自分は横になっている事がやっと理解できた。
それにしても、どうして自分は倒れたのだろう?
ウサギは、申し訳なさそうに言った。
「ごめんね、咲。私さっき取り乱しちゃって……迷惑かけてごめんなさい。もしかして私の態度が悪いから、咲の体調が悪く……」
「いやいやいや。違うから」
「本当?」
ウサギは震えた声で言った。自分に責任を感じているようだ。もしもウサギに長いうさぎの耳があったら、へにょっと垂れていそうな気がする。
「ごめん。ウサギのせいじゃないから。ちょっと……悪い夢見ただけ」
「夢?」
「そう、思い出したくもない夢を見ただけ」
「そっかあ」
ウサギは、またぎゅうと抱きついてきた。
私を慰めているつもりだろうか、その抱きつき時間は長かった。
「怖い夢だったんだね。でも、もう大丈夫だよ」
ウサギは、震えていた。よく見ると抱きつきながら泣いているようだった。
「……ウサ、ギ?」
「ごめんね、ごめんね、ごめんね」
「何で……」
何でウサギが謝るの?
それに、どうしてこの子は昨日会ったばかりの私のために泣いてくれているの?
ウサギ、優しいな……
ふと、今泣いているウサギと、自分の腕をひっかくウサギの姿が重なった。
この子は、何があったんだろう……
『オイラ、悩み事いっぱいなんだよ。実は』
前にウサギがさりげなく言っていた事が思い出された。
ウサギ……私たち、どこか似ているんじゃない?
色々な考えが私の中に渦巻いて、からまってゆく。
ウサギは、ぱっと顔を上げた。
「ごめんねっ。今日はちょっとテンションがおかしいみたい」
「あ、いや……」
「あはは。いつか、怖い夢が怖くなくなるくらいに薄れたら、教えてね!」
ウサギはニッコリと笑う。いつか、話せる日が来るのだろうか?
ウサギの笑顔を見て、私もちょっとはにかんで笑った。
「ウサギもいつか……」
私は一呼吸置いてからゆっくり言った。
「いつか……辛くなくなったらさっきの自傷行為の理由を教えてね」
ウサギが一瞬表情を強張らせたが、またすぐにニッコリとウサギの表情に戻った。
「じゃあ、約束ね」
指きりを交わす。
ウサギが私に近づいてきたのは、同じような過去を持つって直感的に感じたからなのかなあ?
「あっ」
突然思い出した。私ははっとしてウサギに言った。
「それよりウサギ。寝てて分からなかった。今って休み時間?」
「えー違うよ。四時間目の世界史の真っ最中だよ」
ヘラヘラとウサギは笑顔で言った。悪びれる様子もない。
「はっ……バカ!お前こんな所で何やってんだ。授業は?!」
「んーサボっちゃった。世界史嫌いだから。それに、あの方の力でもあります!」
ウサギは2つ隣のベットをぴっと指差した。見ると、保健の先生が布団を整えていた。先生は、私の視線に気づくと、ピースサインを作った。
「休みたい時は休みなさいね。四時間目はそこでゆっくりしてなさい」
良い先生だ。
「先生も公認なワケですし、四時間目は一緒にお喋りタイムだあ!ヤフー!」
ウサギはハイテンションにぴょんぴょん飛び跳ねた。私たち以外に保健室を使っている人はいないので、別に迷惑にはならないようだ。
その後、私はウサギのペットの話を延々を聞かされ続けた
@
そそらそらそら うさぎのダンス
タラッタラッタラッタ ラッタラッタラッタラ
あしでけりけり
ぴょっこぴょっこおどる
みみにはちまき ラッタラッタラッタラ
そそらそらそら かわいいダンス
タラッタラッタラッタ ラッタラッタラッタラ
とんではねはね
ぴょっこぴょっこおどる
あしにあかぐつ ラッタラッタラッタラ
あしでけりけり、踊っています。
とんではねはね、踊っています。
ずっとずっと楽しそうに踊っています。
うさぎは踊る。
ウサギも踊る。
かわいいダンス。かわいいダンス
足でけりけり、けりけりけりけり。本当に楽しい?
ぴょこぴょこ踊る、うさぎさん…………
@
時間が経つのは早い。気づいたら私とウサギが出会って2週間が経っていた。
保健室で話した日から毎日、ずっとウサギと一緒に帰っている。留美子ちゃんなる子にチロッと睨まれている気がするが、まあいいだろう。
テレビの無機質な声を聞きながら、私はボーッとテレビを見ていた。
一人きりの部屋。一人きりの夜。寂しくなんか、ない。
ふと時計に目をやると、夜の11時ちょっとを回っていた。
突然どっと笑い声が響いた。無駄に明るい番組がワイワイ騒いでいる。
『アタシ天然なんかじゃないですよぉ〜』
どっかで見たことある芸能人が口をとがらせる。天然っ子のつもりだろうが、ただのブリッコのアホにしか見えない。
(バッカじゃないの)
心の中でつぶやき、テレビを消す。ひねくれてテレビを見るんだから、見なけりゃいいのに、ほかにやる事なんて何もない。
やかましい音が消え、部屋の中に静けさが訪れた。私はぽふとベットに倒れこんだ。
両親が死んで、私は従兄弟のうちに引き取られた。ある一部屋を私の部屋としてくれ、テレビを一台置いてくれた。
とても優しい従兄弟の家。温かい夕食だって、ケーキだって何だって用意してくれる。でも、どう頑張ったって私は彼らと本当の家族と同じ距離になれないんだ。
(っと……いけない。そういう事考えたら辛くなるだけだ。寝よう。さっさと寝ちゃお)
ぎゅうと目をつむる。あんまり考えていると過呼吸を起こしかねない。
おやすみなさい。と、相手もいない挨拶……
――ヴヴヴ……
目をつぶるとほぼ同時に、携帯が震え出した。突然のぶるぶるにびっくりして、がばっと飛び起きた。
(誰だ?誰だ?誰だ?)
滅多に携帯電話を使わない自分への電話は、何か怖いものがある。
[着信中:ウサギ]
ウサギからだ。おととい、番号を聞かれた気がする。心臓が高鳴る。
かぱと携帯を開けて耳につけた。ぎこちない口調で、口を開く。
「……もし、もし?」
「もしもし。藤崎です。ウサギです」
電話越しで聞くウサギの声はウサギじゃないような声に聞こえた。声はともかく、いつものウサギのテンションがないように感じられた。
「あ、うん。どしたの?」
「うん。ウサギだよ」
「ああ、うん」
「知ってた?」
「知ってるけど」
くだらない会話。
……こんな夜更けにこの子は何をしたいのだろう。私はよく知らないが、くだらない会話こそが友情ってものなのかな?
なかなかウサギが口を開かないので、仕方なく聞いた。
「ウサギ……どしたの?」
「あのね、咲。今から私のうちに来て欲しいんだ」
「はぁ?」
私は思わずすっとんきょうな声を出した。私がこんな声を出すようになったのも、ウサギのおかげだけれども。
「でもさ、今11時だよ」
「いいから来て欲しい」
今のウサギは、普段のほわほわしたウサギの口調と一変し、何か鋭いものがあった。
「来て?来れるでしょ?住所送るから」
「そりゃ行けるけど……」
「じゃあ来てね。うさぎ、死んじゃうよ」
そこで、電話はプツッと切れた。私は呆然とベットに座り込んでいた。
また、ぷるぷると携帯が震え、すぐにウサギからメールがきた。
[from:ウサギ
題名:うさぎは寂しいと死んじゃうんだよ
東京都、○区、●●● 4−2−29]
題名のうさぎの言う『うさぎ』は、本人を指しているのか、ペットを指しているのかは分からない。
でも、とにかく今、うさぎのそばに行かなきゃいけないのは確かだ。
私は携帯を持って、夜の世界に飛び出した。
ボロっちい自転車に乗り、ひとこぎ、ふたこぎ……
初めはちょっとよろけていたが、すぐに全力疾走に変わった。
何があったのかは分からない。
でも、こんな夜、誰かを望むのは私だって同じだ。
『怖い夢だったんだね。でも、もう大丈夫だよ』
いつかのウサギの言葉が思い出された。
「今いくから、ウサギ……」
薄着の体に夜の冷たい風をピシピシとあびて、私は無心で夜の街を自転車で走っていく。
ビルの合間から見えた満月に、泣きたくなった。
@
夜の街は、眠りに着き始めていた。光が消え始め、満月の光が一層輝いて見える。
ぎしぎし、ぎしぎし。もっと早く、もっと早く……
必死で自転車をこぐが、なかなかスピードは出てくれない。
冷たい風が、体をじわじわと冷やしていく。
寒い。体が縮みそうだ。マフラー持ってくれば良かった……
『あげるよ』
ふとウサギの言葉が蘇った。
『私、たくさんマフラー持ってるからあーげーる。返さなくっていいから。咲にプレゼントしてあげるよーん』
『いいよ。大事なものなんでしょ』
『大事だから大事な咲にプレゼント!』
大事な咲に―――
あの、白いふわふわマフラーは、うちにある。大事だから、なんて。さりげなく嬉しい事言うよ。
自転車のスピードはどんどん上がっていく。ギシとボロ自転車が軋んだ。
……そういえばずっと前、アイツは、ウサギ様のうちは赤い屋根のおうちだぜ、とかなんとか言っていたような気がする。赤い屋根、ウサギの家。
ハンドルをぐいと曲げ、大回りで100円ショップの角を曲がる。
暗がりに電柱にかかる4丁目の看板が目に入った。4−2−29……ウサギのうちは近いようだ。
(あった)
キョロキョロと辺りを見回していると、早くも薄明かりに赤い屋根が目に入った。
四丁目二番地の看板。赤い屋根の小さな家。
(ここだ)
ズズッと足でムリヤリ自転車を止め、自転車から飛び降りた。モチロン、自転車はそこの電柱の下に放置して。
[藤崎 4−2−29]
(間違いない。この家だ)
30分ほどで、到着してしまった。あまりの発見の早さに我ながらちょっと戸惑ったが、そんな事はどうでもいい。
ポケットから携帯電話を出し、着信履歴からウサギに電話をかけた。
3回くらいプルルルルと携帯を鳴らすと、ウサギのうちのドアが開いた。
「いらっしゃいませ、咲様。どうぞお入りくださいまし」
ウサギがぴょこと顔を出して手招きした。意外と元気そうなウサギに、ちょっと肩の力が抜けた。
「えあ……うん。お邪魔します」
「今日はママ達いないから、安心してね」
何を安心するのか分からなかったが、とりあえずウサギのうちにお邪魔する事にした。
初めて入るこじんまりとしたウサギの家。青い星の壁紙と、廊下にちまちまと人形が置いてあるのから、ウサギらしさが伝わってくる。
厚着の寝巻きを着たウサギはぴょんぴょんと私を呼ぶ。
「こっち、こっち」
二階の、ある部屋に手招きされ、ウサギの部屋と思われるその部屋に入った。急いで来たので、自分の呼吸がちょっとだけ、ぜえぜえいっていた。
「そこ、座って」
ウサギの言われるがままにふわふわのソファに座り、次の指示を待った。ウサギは、大きめのダンボールをよいしょよいしょと持ってきて、私の隣にふわんと座った。
「じゃーんっ!このダンボール、開けてみて」
「何?これ……」
「いいから開けて」
ダンボールをつきつけられ、なんだか嫌な予感に背中がゾゾッとした。怖い。なんだか開けるのが怖かった。
早く〜、というウサギの声に押され、そおっと箱を開ける。……黒っぽい毛だらけの物体が入っていた。何が入っているのか、良いものではないことだけは見当がつく。
(巨大まりも……?)
ボケてる場合じゃない。よく目をこらすと、その物体には長い耳がついていて、しっかりした足がついている。『それ』は、ぐっと目をつむり、口を半開きにして固まっていた。
…………うさぎの、死体だ。
何か言おうとしたが、言葉が見つからない。チラッとウサギを見ると、笑っているのか泣いているのか微妙な表情をしていた。
「それ、何だか分かる?咲ィ」
うつろな目で、ウサギは聞く。私も呆然としながら答える。
「……うさぎ」
「の?」
「うさぎ、の……死体」
「うん。それ、大好きなキングだったんだ」
キングとは、ウサギのペットの事。ウサギがいつもいつも溺愛していた子だ。だけど、そのキングはもう動かない物体と化していた。
「キングね、大好きだったんだ。でも、もうおじいさんうさぎだったから……」
「……うん」
「いつも一緒に寝てたんだけど、ね」
「そっか」
「小さい頃から一緒で……大好きだったんだ」
「うん」
「大好きで、大好きでずっと一緒にいられると思ってた」
ウサギはちょっと目をつむって言った。
「大切なものを失うって、辛いよね」
私は小さく頷いた。その辛さは、よく知ってる。
ウサギは笑いながら、泣いていた。泣くものかと堪えているようだったが、ポロポロと涙はこぼれ、ひくひくと震えている。
私はウサギの華奢な背中をさすった。私はやっと電話の意図がつかめ、落ち着いた調子で今度は私が言った。
「ウサギは、キングが死んじゃったから、私に電話をかけたんだね」
「……ひっく……ごめん……っ……」
「落ち着きなって。怒ってないから」
「でも……」
「いいから。大丈夫だから。落ち着きな」
私はウサギの背中をさすりながら思った。
綺麗な子……私は率直にそう思う。ペットが死んで、パニックになって、泣いて悲しんで。
ウサギが愛おしい。
純粋で、綺麗な目をしているウサギ……
「ふぅ」
落ち着いたのか、ウサギは大きく息をはいた。
「えへ。もう大丈夫。明日ゆっくりキングのお墓つくるね」
「そうしな」
ウサギはちょっと申し訳なさそうに言った。
「ごめんね。ちょっとパニクっちゃって。えへへ。咲の前ではいつもパニックになっちゃうね、私」
「いいよ。気にしなくて」
「本当に?」
「しつこい。いいってば」
そう言って、ウサギの頭をこずいた。二人で顔を見合わせて、アハハと小さく笑った。
何故か、胸がいっぱいになった。
「あっ、ほら見て、咲!」
突然ウサギが目を輝かせて言った。
「何?」
「窓ーーぉ!」
ウサギは窓を指差した。指差す先に、満月がぷかりと浮かんでいた。さっきビルの間から見た満月よりも、不思議と優しそうな光だった。
「すごいねえ、綺麗だねえ」
「そうだね。きっとうさぎがお餅ついてるよ」
「きゃはは!咲にしてはドリームな事言うねっ!」
「な、なんだよお」
私は、自分の言った事の恥ずかしさからもう一度ウサギをこづいた。ウサギはくすくすと笑っている。
「うんっ、きっと月にはうさぎさん達が住んでるんだよね。それで、今キングもお餅ついてるんだ、きっと」
「そうだね。ついてるかもね」
「あのね、咲。月には大切な人が沢山住んでるんだよ」
「大切な人?」
「そう!特別ウサギ様が月物語をお話してあげよう!」
ウサギは、わざとらしくオホンとせきばらいをした。
「月にはね、大切な人が住んでるの。モチロンうさぎも沢山住んでるんだけど、月には沢山の人間だって住んでるんだよ。大切な人を残して死んじゃった人は、天国じゃなくって月に行くんだ。それで、毎晩毎晩、大切な人を月から見守ってるの」
「ふーん。初めて聞いた」
「あはは。そりゃそうだよ。だって私が考えたんだもん。でも、そう思うと月の光ってすごく優しいよね」
ウサギはニコニコ笑っている。私もつられて、ふっと笑った。
時計は、12時半を指している。ウサギと私は、ほぼ同時にあくびをした。それを見て、また二人で笑った。
ウサギはぴょんとのびをすると、そのまま、もぞもぞとベッドに入った。
「ん〜眠いね。じゃあ、寝よう!」
「寝ようって言われても……」
「え?泊まっていかないの?今から帰るの、寒いよ?」
「う……」
さっきの寒さを思い出したら、体がブルルッと震えた。これから30分、自転車をこいで帰るのは、ぞっとする。
「ね?泊まりなよお。ほらほら!お布団入って〜」
「え?え?え?」
ウサギと同じ布団に入るのに躊躇していると、ウサギがグイと腕をひっぱってきた。私はよろけて布団につっこんでしまった。
よろけた隙に、もふっと布団にくるまれた。視界が真っ暗になり、私はバタバタと軽く暴れた。ウサギはキャハハ、と笑っている。
「ほーらほーら、布団蒸しの刑ー」
「やーめーれー」
結局、私はウサギのうちに泊まる事にした。
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「月が、綺麗だね〜」
二人仲良く布団に入り、窓からぷかり浮かぶ満月を眺める。暗い部屋に満月の光だけが差し込んでいて、なんともいえない優しい雰囲気だった。
「咲は」
ふいに、ウサギが言った。
「大切な人は、月にいる?」
「いるよ」
私は半分目をつむりながら言った。
「お母さんと、お父さんが、月にいる」
「ん……どうして月に行ったの?」
「交通事故。酔っ払い運転してたトラックにスゴイ勢いでぶつかられたらしい」
「ふうん」
ウサギはころんと、私の方を向いた。何でウサギがこんな事を聞いたのかはわからない。
ウサギはちょっと笑っているようだったが、とても悲しそうな表情だった。ウサギは人を慰めるとき、よくこういう顔になる。
「私もね」
ウサギは、その表情のまま言った。
「月に行きそうになった事があったんだ」
「……何で?」
私は半分閉じていた目をふつっと開けた。
ウサギは何か考えるようじっと月を眺めている。そして、ふっと口を開けた。
「自分から月に行けば、救われると思った。でも、行けなかったの。簡単に行けないから、月は遠いんだねえ」
「それって、自殺ってこと?」
「そういう風に言う人もいるかもね。ねえ、ちょっと見て」
ウサギは、がばっと起き上がった。私もつられて起き上がる。ウサギは寝巻きの袖をくるくるとめくっていく。
そして、いつか腕につけていた、白いふわふわのリストバントを指差した。
「これ、なぁーんだ?」
「高橋留美子ちゃんにもらった、リストバンド」
「きゃは。大正解〜!」
ウサギはふざけて、私の頭をくしゃくしゃとなでた。やめろよ、と振り払うと、にゃははと笑った。
「で、このリストバンドなんですが、これをはずすと、なんとなーんと!」
ウサギは、白いリストバンドをツツッと外した。
リストバンドの下には、黒く太い傷跡がくっきりと残っている。相当深く切ったようだ。
「じゃじゃん。こんなのがありました」
ウサギは、リストバンドを指でくるくるしながら言った。私は、アホ、とさっきより強くウサギをこづいた。ウサギはフツフツと笑っている。
「痛い、って思わなきゃ、生きて行けない気がするから」
「それは……リストカットってやつ?」
「そういう格好いい事じゃないよ。自分に甘えて、月に逃げようとしてただけ」
ウサギはころんと横になった。私もつられてころっと横になる。なんて言ったらいいのか分からず、私は口を閉じた。
「これが手首だったら、月に行ってたんだあ」
「……手首じゃなくて良かった。月なんかに、行くなよ」
「うん、行かないよ。なんとなくね、咲には知っておいてもらいたかった」
「そっか」
私は、それ以上は言わなかった。人間、聞かれてイヤな事だってあるんだ。
……しばらく、沈黙が続いた。二人とも目はつむっていたが、なんとなく起きてるだろうとは感づいていた。
「ウサギはさ」
先に沈黙を破ったのは、珍しくも私だった。ウサギはまあるい目をパッチリ開いて言った。
「にゃあに?」
「何で、私と仲良くしようと思ったの?」
「ん?」
ウサギはキョトンとした顔でこっちを見ている。私はなんとなく恥ずかしくなって、ウサギと反対方向を向いた。
背中に、ウサギの声が聞こえる。
「咲ちゃんとは、前から仲良くしたいと思ってた」
「何で?」
私は、後ろ向きのまま聞いた。
「だって、私と同じ目だったんだもん」
「目?」
「そう。おんなじ目。なんとなくだけど仲間だと思ってた。似てるって思ってた」
「私、あんたみたいに純粋じゃないから」
「そうじゃなくってえ〜……ぎゅうって体縮めて、下向いて、私と同じじゃんかあ」
ウサギは後ろ向きの私の手をきゅうっと握った。私もちょっとだけ、ウサギの手を握った。温かい、小さな手だった。
「……同じか。じゃあ、私も『うさぎ』なのかな」
「うん。うさぎだよ。うさぎ仲間だよ」
眠いのか。ウサギが消えそうな声で答えた。
そうか。やっぱり私達は似てるんだ。
なんとなく前にも思ったことはあったが、相手にはっきり似ている、と言われたのが、嬉しいやら恥ずかしいやらだった。
私もうさぎか。どこか、安心した。
ありがとう……
もう一度、ウサギの手をきゅっと握った。
「ねえ、ウサギ」
私は、後ろ向きのまま呼びかける。
「ちょっと言いにくいけど……私ね、アンタと会ってから随分変わったよ。考え方とか、性格とか……」
慣れない事を話す自分の口調はギシキャクしていた。
「人とこんなに話すのだって珍しいし……そう思わない?だって二週間前まで私、滅多に人と話すようなキャラじゃなかったし。二週間でこんなに自分が変われるなんでビックリだよ。それに……それにさ、私、人をこんなに……」
私は一呼吸おいてから言った。
「好きになったことはなかった……。今更だけど、ありがとう……ウサギ」
かあっと体が熱くなった。告白、という訳ではないが、改めて人に好きって言うなんて恥ずかしいったらありゃしない。よくウサギはいつも好きだ好きだって言えるなあ
「あーもう言わせんなよ、バカ!」
私は、恥ずかしさのあまりウサギを叩こうと(考えてみればひどいな)、くるりと後ろを向いた。
「ウサ……」
ウサギはすやすやと可愛い寝息をたてていた。
(おいおい……)
私は脱力して、へなへなと力が抜けていった。握手していた手が、ぱさりと布団に落ちた。
ウサギは、何も悩みがないかのように、すやすやと幸せそうに眠っている。少し、ウサギの頭をなでてから、呼びかける。
「おやすみ、ウサギ仲間」
ウサギの傷跡が、月に照らされれてうっすらと見えている
胸がいっぱいになった。
気づいたら私は眠りに落ちていた。
@続@
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2005/12/18(Sun)19:52:01 公開 / 桃瑞
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■作者からのメッセージ
始めまして!!
初小説です!(^▽^; 初心者って感じですが…
切磋琢磨しながら書かせてもらいました!
ノロノロと書いていくのでよろしくお願いします
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いつもありがとうございます。感想など、すごくすごく励みになります!!^^
返事遅れちゃってもただのアホだと思って見逃してやってください;;
絶対にお返事は書きますんで!!
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作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で42文字折り返しの『文庫本的読書モード』。
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2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。