『ミコト伝』 ... ジャンル:異世界 時代・歴史
作者:刻
あらすじ・作品紹介
日本の戦国時代に良く似た世界「出雲」で、禍神《まがかみ》いう脅威と戦う、命《みこと》と侍《さむらい》の話です。
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■伝承
遠い昔、神の造られた地。
創造の神が去りしあとも、そこには森が広がり、獣が生き、人が暮らしていた。
あるとき、去りし創造の神とは別の神がこの地にやってきた。
新しい神は、人々を束ね国を造り、帝としてそれを治めた。
帝はその国を出雲と名づけた。
ある日帝は人々に言った。
「いずれ、大いなる禍《わざわい》の者がこの出雲に訪れるであろう。我が民よ戦いに備えるのだ」
帝の予言どおり、禍の者は従者を従えて出雲を訪れた。
戦いは数年に及んが、帝と民はなんとか禍の者を砕くことができた。
しかし、禍の者と共に帝の体も砕け散ってしまった。
帝なきあとも人々は、残った禍の者の従者と戦わねばならなかった。
砕けた帝の力の一部は人々に宿り、禍の者の従者と戦う力となった。
人々は禍の者の従者を禍神《まがかみ》と呼ぶようになり、帝の力を宿す者を命《みこと》と、そして命に従い命の盾として戦う者を侍《さむらい》と呼ぶよになった。
禍神と命達の戦いは今も続いている。
■1話
昼下がり。
国境に近い街道の飯屋は、その時間でも客は一人しか居なかった。
男が一人、思案に耽るように酒を口に運んでいる。
伸び放題の髪、擦り切れた草履に薄汚れた袴と着物、顔を覆いそうな無精ひげのため年齢も定かではない。
傍らには丈の長い刀が一振り、男の相方を務めるように立て掛けられている。
珍しくも無い、旅の無頼者。
己の身につけた力を活かせるところ、戦場や争い事のあるところを求め旅をする放浪者。
男はそんな雰囲気を漂わせている。
「お客さん、これからどちらへ」
注文した酒を届けに来た給仕の娘が、暇を持て余してか男に尋ねる。
「西に」
男は短く答えた。
声から感じる印象は若い、二十歳前後だろうか陰気な飲みかたにくらべると意外かもしれない。
「ふ〜ん、じゃあ峠越えだね。あそこは気をつけたほうがいいよ、追いはぎも多いし、それに禍神も出るしね」
自分の発した言葉に嫌悪を感じたのか、娘は眉をひそめる。
「禍神?」
今度は男が尋返す。
「やっぱり、お客さん知らないのね。一人で行く様子だから変だと思った」
男が、ふいに店内を見回す。
それを見て、男の言いたいことが分かったのだろう娘がつづける。
「そう、だからお客さんが少ないの。困ったもんよね」
禍神が出る街道など、わざわざ通る者はまずいない。
普通の人間なら、その名前だけでも禍を呼ぶとしてあまり口にしないのだから。
「でも、もうすぐ退治されるんじゃないかな。峠むこうの宿場に命様《みことさま》が来てるってお客さんから聞いたから」
今度は娘の顔も明るくなる。人々にとって”命”とはそういった存在なのである。
「ほう、良かったな」
「すごいのよ、その命様ってまだ十二なんですって。しかもすごく美しいって話よ。お客さんも無事に着けたら見れるといいね。」
そう言って、娘は店の奥へと戻って行った。
先ほどまであれほど晴れていたのに、今は鉛色の雲が空を覆い尽くしている。
「ついてないね」
男がつぶやく。
飯屋を出て数刻、街道は峠の山道にさしかかっていた。
街道とはいったものの治安が良いわけではない、比較的歩きやすい道が街道となっただけだ。
獣も追いはぎも多い街道を一人で歩くのは余程腕があるのか、正気でないのか、または罪を犯した者くらいである。
勾配のきつくなり始めた山道、道は狭く脇は深い谷へと落ち込んでいる。
男がふと足を止める。
彼の前に男が三人、狭い道を塞いでいる。
彼が振り向くと、後ろにも三人。
それぞれが槍と刀を手に殺気だった視線で男を睨でいる。
前に居た一人、痩せた中年の男が声をあげる。
「継見燈馬《つぐみとうま》だな」
返事はない。
腰に差した刀を抜く様子もなく、逃げ出す気配もなく継見燈馬と呼ばれた男は黙って立っている。
しばしの沈黙。
「とぼけても無駄だ。面は分かっている」
たっぷりと間を空け、呼ばれた男は口を開く。
「あんたは?」
この人数に囲まれても臆したは様子はまったくない。
「お前に斬られた須磨泰蔵の弟、九重郎」
なるほど、継見燈馬には九重郎と名乗る男の兄、須磨泰蔵におぼえがあった。
数日前、たしかにその男を斬っているのである。
「それは気の毒にな、でもな悪いのはあんたの兄だ、あんな貧乏な村を脅してはな」
須磨泰蔵はゴロツキども集めて頭領となり、追いはぎや近隣の村を襲って略奪などをしていた。
継見燈馬は脅されていた村に頼まれ、一人で彼等を壊滅させ須磨泰蔵を斬っていた。
「うるせ〜、死んでもらう」
九重郎の怒号と共に、五人の男が燈馬との間合いを詰めていく。
五人とも、身なりは粗末なもののそれなりの腕らしく、その殺気は容易ならざるものがあった。
一人が間合いを整え、正眼の構えから燈馬に鋭く切り込んでいく。
燈馬はわずかに下がって半身となりそれをかわし、男とすれ違った時には刀を抜き終えていた。
男の手から刀が落ち、苦痛の悲鳴と共にひざを付く。
燈馬はすれ違いざまに、男の腕の筋を切っていた。
他の四人も、次々に踏みこんでくるが、全て同じように燈馬に筋を切られ倒れていった。
あっという間に、残されたのは九重郎一人となっていた。
自分の揃えた”てだれ”の者をあっさり倒され、九重郎はすでに戦う気力を無くしている。
「くそ」
言い残して、すでに背を向けて逃げ出している。
燈馬は刀を左手に持って右手を空ると、素早い動作でその腕を九重郎の方へと伸ばす。
鋭い光が、九重郎の首筋に吸い込まれ、九重郎がどっと倒れた。
首の付け根には小柄が刺さっている。燈馬が投げたものだ。
「悪いが、あんたもやってほしいて頼まれていたもんでね」
九重郎は兄とともに村を襲ったう事が度々あったのだ。
燈馬は刀に付いた血糊を振り落とし鞘に収めると、うずくまりうなり声をあげる男達を置いて再び歩きはじめる。
もうじき雨が降りそうだった。
2005/11/13(Sun)03:26:27 公開 /
刻
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■作者からのメッセージ
こんにちは。初投稿させていただきます刻といいます。
設定など甘く文も稚拙でありまして恥ずかしい次第ですが、投稿さしていただきました。
感想など頂ければと思っています。
用語や時代考証的など、デタラメなことが多々あるかと思いますが、異世界ということで大目にみていただければと思います。
文章の流れや表現法などまったく分からず書いていますので、お気づきの点がありましたら、ご指摘をお願いします。
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