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『自宅にて』 ... ジャンル:ショート*2 お笑い
作者:緋陽
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あらすじ・作品紹介
俺こと神尾と大学の同級生が織り成す日常。
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「お前ん家って何も無いな」
急に家にやってきた山岡は何の遠慮も無く言い放った。
説明しよう、此処は俺の家だ。今日は日曜日でバイトさえも入っていなくつまらなくだらだらと過ごそうと心に決めていた休みの日だ。我が大学からバイクで二十分という近さを誇る我が家は中々に住み心地が良く、気に入っている。二階建てで二階は俺の部屋と物置というなんともありふれた構造。此処が俺が十八年間暮らしてきた家だ。
俺の部屋は実に簡素。押入れに布団が入っていて、その他は窓際に机、隅の方に今も使っているダンベル。中央にはカーペットとクッション代わりに使っている枕。そして部屋に入ってすぐ奥の壁に在るTV。そして散乱しているゲーム類など……。因みに俺は寝るのに枕を使わない主義だ。案外寝心地が良いので余裕があれば皆さんも試してみるのも一興かもしれない。
それはまぁ、置いといて……。
「山岡、なんで俺の家に居る」
目の前の問題から片付けるとしよう。
さっさと消え去れ、今すぐに。
「いや、何でってお前の家が大学から近いからだろ?」
「理由にもならん理由述べんな。……無視すんな」
それ以前に其処に寝転がるな。其処は俺の領域だ、って違う違う。
先ずコイツが俺の家に来ていることが問題であってその問題を先ず片付けないとやってられない訳でコイツは俺にとっての害虫であって世界の敵であって宇宙のゴミであって……ぐっ。
呼吸が続かなかった。
句読点含まずはかなり無理が在るようだ。ちゃんと今度から付けよう。
山岡は何気無く俺の机の上に在ったポテチを奪い取りそして食べている。テメェ、それは俺の気に入ってる味だっ! 喰うなっ! 止めろっつってんだろ……!
「ああ、悪かった。お前も欲しかったのか。ほれ」
「何自分のものみたく扱ってんだよ! 返せ!」
奪い返した。
山岡は次の獲物に狙いを定めなおそうとしているらしく俺の部屋を舐めるように見回している。
なんとなく右手で拳を作ってみた。
「ああ、そうそう。他にも用事があってだな」
「金なら貸さんぞ」
「何故解った!」
山岡が一気に後ずさった。そのまま窓から果てまで落ちてしまえ、と本当に切に願った。神様、どうかこの憐れな阿呆に均しく死を与えてください。
ふと手元を見るとポテチが無かった。
目線を山岡に戻すと何時の間にかポテチをぼりぼり、と実に満足気に食べている。多分他人から見たら微笑ましい光景なのだろうが、俺にとっては山岡への殺意湧く瞬間だった。いや、殺意ならばいつも湧いている。前面に押し出すのが初めてだという事だ……。いつか殺す、いや、今殺す。
俺の殺気がかった眼を見て山岡がどうした、と言うふうに駆け寄り、
「金、貸してくれるのか?!」
などと呆けた事を言い出したので俺はゆったりと立ち上がり窓を全開にして無理遣りに山岡をその前へと押し出した。
直後、俺の右手が光って唸るッ!
「果てまで打っ飛べやァッ!」
躊躇い無く振り下ろした拳は、山岡のボディを捉えて少しの間宙へと舞わせた。舞った時間は約二秒。腹を抱え込むようにくの字に折れた山岡の体は窓から視界の外へと消え去っていった。どすん、と嫌な音が響く。
ふぅ、と安堵の吐息を漏らしてポテチを自分の手元へと戻す。
一掴み摘まんで口へと入れた。
ばりっ、と良い音がして菓子メーカーによって考え出され、作り出された味が口中に広がり、先程までの最悪を二倍して更に三乗させたような記憶が素っ飛んでいくようだった。
余韻。
その時どたどた、と忙しなく階段を登る音が聴こえて。
「ああ、くそ。ビックリしたぁ……」
などと全く先程の事は堪えていないように呟いて、扉から山岡が出てきた。
復帰時間、三十秒以下。
……どうやら山岡とは本当に人外の存在らしい。
後前回のネタを引き摺るお前はお笑い芸人としての才能はゼロだ、と頭の片隅で思った。全く関係の無いことだが。
基本的に山岡の体の構造は人ではない、ということにして話を進めることにした。きっとコイツならば殺しても死なないどころか元気になるだろう。殺してくれて有難う! 俺、めっちゃ元気になったわ! ……頭が痛くなってきた、考えるのは止めて昼間っから寝てしまおうか。
「おい、暇だよ神尾。なんかしようぜ」
「そうだな、お前が此処から出て行ったら考えてやる」
……ああ、悪い訂正。
地球と言う星の中に居なくなってくれれば考えてやる。
っと、宇宙という存在の中で、にしておこうか。
声には出さないが取り敢えず訂正してみた。
「そうだな、こういうゲームしようぜ! じゃんけんで俺が勝ったらお前が俺に壱万円、お前が負けたら俺に壱万円っつーことでっ!」
完璧にスルーされた。
ムカついたので此方もスルーして話を進める。
「そうだな、こういうゲームをしないか? じゃんけんで俺が勝ったらお前は二度と俺の眼前に現れない、お前が負けたらまた同じっつーことで」
「はぁ? なんでそんなことしなきゃいけねぇんだよ」
黙れボケナス。
にべもなく一蹴してカーペットへと寝転がる。
ハードにムカついてきた。
何故俺がこんな仕打ちを受けなければならんのだ。
俺は基本に忠実で誠実で善良な一般市民だぞ? 何故俺がこんな日曜日の昼間っからこんな変な人外と関わりをもたなきゃいけねぇんだよぉ! 眼前に浮かぶ仮想の神様に正直に心の中で言い放ち、そして握り拳から親指を出して、思い切り下へと突き出した。マジで最悪だ。
「なぁ、神尾〜」
神様が本当に居るのなら、非常に煩く纏わりついてくる山岡を本当にどうにかして欲しかった。
寝転がりながら反応する。
「んだよ……金は貸さんぞ」
「ああ、それは良いんだ。そうじゃなくてだな。飯をくれ」
さっぱりと言い放ちやがった。
「冗談は程々にしろよ……ッ!」
テメェみたいな大食漢に飯喰わせたら俺の家の食材が綺麗さっぱりに消えてなくなってしまうわァ!
例え、宇宙の摂理に逆らうことがあろうともッ! テメェにゃ絶対飯は喰わせねぇ! 俺の家ではな!
決意を固めた俺は強いぜぇ……。
「あー、少しで良い」
お前の少しは俺の沢山以上だろう。
確実に信用ならない。
「お前が帰ってくれたら考えてやるよ」
「あ、俺今日此処に泊まるから」
脊髄反射で近くにあったダンベル(十キロ)をまさに音速ともいえる速度で投げた。ごっ、と嫌な音がして山岡の体が沈んだ。何処に当たったかは知らないが、流石に無傷とはいかないだろう。
案の定そのまま倒れて悶えている。
コイツにも人並みの痛覚は在ったらしく、取り敢えずなんとなく一安心した。
その程度で済んでるうちに家に帰りな。
「……ダンベルはねぇだろ、ダンベルは」
「取り敢えずテメェの体内構造はどうなってるのか訊きたいな」
前回で阿呆だということは解りきっていることだった。
「お前よか優れてる体と頭! イッツ パーフェクトメーン!」
俺の脚が即座に反応した。
風を切り音を超え今、光速の世界へと――!
直後俺は山岡の目の前に移動して思い切り蹴飛ばした。
結果山岡は窓を超えて外へと消えた。だがこれだけでは安心は出来ない……っ。
「ダンベルでも……喰らえやぁ!」
押入れに入っていた二個のダンベルを合わせ、一気に三個窓の外から落とす。
がすん、と音が三つ重なって静かになった。その中に呻き声が入っていたのは秘密だ。
……ぷはぁ。
数十分は経ったか。
山岡は多分再起不能になったんだろう。上がってこないし。
よっしゃ、と心の中でガッツポーズをしながら下へと降りる。
簡素な階段を下りれば目の前に扉が在り、其処がリビングへと繋がっているのだ。
これまた簡素な引き戸を開けて中へと這入る。
誰かがちょこん、と小さいテーブルの横に居てお茶を飲んでいた。
TVがついていてバラエティ番組のチャンネルとなっている。
豪快に笑い声を飛ばす誰かさんは此方に気付いてない模様だ。
俺は嘆息して近づく。
なんで……テメェが……!
「俺の家のリビングでのほほんと寛いでんだよッ!」
踵落としッ!
天高く上げた脚を踵から下ろす。
踵に響く振動はジャストミートした証だ。
「いってぇな。止めろよ」
それでもあまり大して効いていないのは気のせいだろうか。
……突っ込む気力さえ失せた。
俺はその場にへたり込んで、何言うも無く山岡と一緒にバラエティ番組を見ることにした。
「んじゃ、そろそろお暇しますかね。また来るわ」
「オーケー、願わくばもう二度と来ないでくれ」
夕方。
泊まると言ったのはどうやら冗談らしく(しかし冗談には聴こえなかったが)帰ってくれるらしい。ほっと一安心だが、なんか夜に俺の家に来そうで怖い。
爽やかなスカイブルーの一端をオレンジ色が染め上げていく。三原色が織り成す空の色は素晴らしい。
「はぁ、お前の所為で今日という日が台無しだった」
「ふぅん、俺は中々楽しかったけどな」
「成程、自分がどれだけ人に迷惑を掛けているか解っていない訳だな?」
「俺、迷惑掛けてねぇし」
テメェ何言いやがる俺に多大な迷惑を掛けてるじゃねぇか今も昔も未来も多分永劫続くことだろうと思われる。
ちっ、と舌打ちして、
まぁ、今日ぐらいは良いか。
少し背伸びをして考えた。
確かに休日をゆったりと過ごせはしなかったが、悪い気分ではなかった。
つまり、コイツと一緒に過ごすことはあながち悪いことじゃない、ということだった。
……我ながらおかしくも思う。
「はぁ、明日も顔をあわせると思うと気が重いぜ」
「ああ、そうか。明日大学だっけか……」
同じように空を仰ぐ。
少しの時間が流れて、
「其処のコンビニまで付き合えよ」
山岡が言った。
「しゃあねぇな。ポテチ奢れよ。俺の喰ったんだから」
了解、と山岡が返事して先導する。
苦笑して、俺はその後ろをついていった。
ふと、山岡の持っている鞄が視界に入った。
……ちょっと待てよ? 山岡は何も持ってこなかったはず。
よく眼を凝らして見た。
…………。
俺の鞄じゃねぇか!
反射的にポケットに手をやる。
すると昼間から入れていた財布がない!
「……ほとほと愛想が尽きたぜ……!」
山岡が振り返り、少し驚いたように後ずさる。
確実に視線は鞄へと動いていた。
「違う! これは、その、借りていこうと思ったんだ!」
「じゃあ、なんで俺の財布がねぇんだ! 昼言ってた、金はもう良い、ってのは俺の財布を盗ったからかぁ!」
後なんで勝手に借りていくんだよッ! 鞄なんて貸すわけねぇだろ!
だから、テメェは急にご機嫌になったんだな!?
ゆらり、と身を翻して突進する。
驚くほどに冷静だった。多分殺気が出過ぎている為だろう。
鳩尾に一撃を入れ鞄を取り返す。
そしてよろめいている山岡に向かって右腕を振り上げ――
必ず殺す技と書いてぇ!
「必殺技と読むッ!」
――思い切りこめかみに向かいダウンスイング。
鈍い音と共に地面を跳ねた所へ、今度は蹴り上げた。
だが、この地球外生命体はこの程度じゃ蚊に刺された程度としか思わない(はず)!
「うおあぁあぁあ!」
シャァァァァイニングッ!
(暴力的なシーンを含むため省略させていただきます)
拙い、流石に殺り過ぎた。字が違う? ああ、仕様だ。
取り敢えず俺は悪くない。正当防衛だ。うん、でも正当防衛って殺して良いんだっけ?
俺は横倒れになっている山岡のポケットを探ってみる。
「やっぱ盗ってやがった……」
財布を取り出して、呟く。
顔面から血を流していると思われる山岡は放って置いて逃げ……いや帰るとしよう。
「救急車は呼んでおくからな」
俺はそれだけ言い残して、鞄を背負って家へと帰った。
翌日。
「なんで無傷なんだよ」
元気にはしゃいで大学の講義を受けている山岡を教室で見かけた。
取り敢えず此方の存在には気付いてないらしい。
改めて人外だと思った。
本当は宇宙人かなんかじゃないのだろうか? いや、吸血鬼か?
その日は一日中その事に悩んで講義に頭が行かなかった。
今度会う機会があったら大学の科学サークルどもに手伝ってもらって山岡の解剖を行いたいと思う。
それじゃあ、本日の日記はこれまでだ。
また、これからも機会があったら話そうと思う。
それじゃあこの辺で、
「じゃあな!」
「テメェ山岡! 俺の役所を奪ってんじゃねぇ!」
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2005/11/03(Thu)19:12:11 公開 / 緋陽
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■作者からのメッセージ
結局この作品はなんだったんだろう、と書き終わってから考えている緋陽です。取り敢えずコメディということでお願いします(何をだよ
前回の「ファミレスにて」の続編となっておりますが、前回のを見なくても読めます。読めるはずです。そう読めるんだ!(しつこい
つまんねぇな、って方も精進せいや、と仰る方も兎にも角にも、此処まで読んでくださり有難う御座いました。批評等を遠慮なく書き込みになってください。であ
作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で42文字折り返しの『文庫本的読書モード』。
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