『いつか絶対逃げてやる!』 ... ジャンル:恋愛小説 リアル・現代
作者:蒼唯                

     あらすじ・作品紹介
 名門私立校に合格した吾野惟矩は合格発表日当日に両親を交通事故で亡くしてしまう。 部活の仮入部のあとに会長命令で呼び出された惟矩は、生徒会長である梓乃から自分が多額の借金を背負わされたことを教えられ、途方に暮れる。が、梓乃のある提案に乗り九条家に居候することになった。 借金の返済と居候の条件にすることになった手伝いは、梓乃のデザインしたゴスロリの洋服を着ることで、自分の命が握られていることを知った惟矩は渋々ながら引き受ける。 引っ越してきたその日にファーストキスを奪われたり、屋敷内で迷ったりとハプニングが絶えないが、持ち前の気力と根性でストレスに耐えて生活していく。 そして自分が梓乃に惚れられているとわかってしまった惟矩は、道を踏み外す前にいつか逃げてやると誓う。

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「ここが―――今日から、ウチなん?」
 目の前の、威厳を含む大きな門が音もなく自動で開く。
「そうだ。今日からここが惟矩(いのり)の家になるんだ」
 口をこれ以上ないというほどにポカンと開け、屋敷の大きさに声も出ない惟矩の問いかけに当たり前だと言うかのように梓乃(しの)が言う。
「……ほんまに、こないなトコいてええんやろか……?」
惟矩は梓乃が歩き出したのにも気付かずにただ呆然と立ち尽くす。
(いくらなんでも、俺にイヤミでも言うとんのか。……ものごっつデカイやん、家)
 優雅で物静かな緊張感の中、無遠慮な溜め息が惟矩の口から吐き出されていた。



       1


それは桜の季節を迎える前の、肌寒い三月上旬のことだった。
 吾野惟矩(あがの いのり)は、都立病院の一室で顔に白い布をかけらられた、横たわる二つの体を前に立ち尽くしていた。
「……何で、こないな時に…いきなり、こんなことってないやろ……」
 今ではただの独り言でしかない惟矩の声は、既に鼻声交じりだった。
 今日は惟矩の受験した名門私立校「鐘鈴学園」(しょうれいがくえん)の合格発表日だった。
 つい数十分前、惟矩はまだ合格発表の掲示板の前で同じ年の人の波にもまれつつ、喜びを噛みしめていた。
 「惟矩にはまだキツイだろ」と言われていたのがもの凄く悔しくて、灰色の受験生活をさらに濃くしてまで頑張ったおかげで、無事に合格していたのだ。
 それを両親に知らせようと携帯を手に持った時に丁度かかってきたのは、病院からの電話だった。
 惟矩の両親は買い物に行く途中、ハンドル操作を誤って事故になり、病院に運ばれてからまもなくして息を引き取ったらしい。
 惟矩は床に膝をつき、ベッドに突っ伏して、伏せた瞼の下から溢れ出して止まらない涙を流し続けていた。
「事故るんやったら、最初(はな)っから車なんぞ乗るなや、あほんだらぁ……っ」
 悪態をつくと「親にそないな口利くんやない!」と怒鳴るハズの父親も、「いーちゃんてばコワイわっ」と年も気にせず可愛らしさを装う母親も、もう何も言わない。
その言葉は、傾きかけた陽が射す病室に空しく響いたのだった。
その後保険が下りなかったため維持費のかかる家は売る事にし、不動産が慌てて探した都内の安アパートに引っ越すことになった。
当然学校の卒業旅行には行く事もできず、春休みに入ったら引っ越せるようにと荷造りに追われていた。……悲しむ時間など存在しなかった。
「はぁ〜っ。……やっとまとめ終わったぁ」
 家具類がほぼなくなり、中身の詰まったダンボールがフローリングの床に点々と置いてある部屋を見回して、軽く息を吐く。
(あかん……親父やおふくろのこと、思い出してきた)
 鼻の奥のあたりがツンとしてくるのを、目をギュッと瞑り、頭を勢いよく左右に何度も振ることで誤魔化す。
「そやっ、泣いとる場合やあらへん。これからどう生活していくか考えなあかん」
 独り言にしては大きい声で言いきかせ、両手の平で頬を痛いくらいに叩く。
 学校の方はまめに内申点を稼いでいただけあり、学費の二分の一が奨学金制度によって免除されるいわゆる特待生クラスでの入学となったおかげで、生活費を稼ぐバイト代と通帳の中から出せばなんとか三年間通える額だった。ただ制服や教科書、入学金の支払いがこの先の痛い出費になりそうだった。
 まだそれなりの蓄えがまだあるとはいえ入学するのは名門私立校。三年間通うのだから、やはり相当な金額にはなるだろう。
 今時珍しい「駆け落ち夫婦」の子供だった惟矩は、両親の家族とは親が縁を切られているため頼れる親戚が誰一人としていなかった。
 そのためここ数日は求人広告と通帳と計算機に「にらめっこ状態」だ。
「やっぱ時給ええトコは、中卒雇ってへんなぁ……」
 購読していた新聞の折り込みに入っていた求人広告の山に埋もれながら、かつては家族三人で食事をとっていたテーブルに一人で顎を乗せ、溜め息を吐く。
 ピンク色の蛍光ペンでマーキングしてあるところを見ればいかにも怪しい店から普通の店までさまざまだが、どれも時給はまちまちで、生活費を今以上に切り詰めなければ暮らせない状況だった。
 それこそ今日だって、惟矩はコンビニ弁当一食分で三食分をまかなっていたくらいだ。考えただけで腹の虫が合唱しそうである。
 テレビで見た主婦顔負けの節約術を片っ端から実行していき、引っ越すまでの間少しでも出費を少なくさせるために、惟矩は必死だった。

       *

 それから数日経ち、最悪の幕開けとなってしまった春も入学式の時期を迎えた。
 入学金の支払い、その他学用品や制服、学校指定の鞄などの必需品を用意するための出費も何とか乗り切り、惟矩は無事入学式の席へと並ぶ事ができた。
 本当ならば堅苦しい入学式など休んで臨時のバイトを入れたいくらいだったが、入学式で新入生は全員出席が義務付けられていたため、渋々ながらの出席だ。
 少しハゲ気味な校長やらPTA会長やらの長ったらしい祝辞を右から左へ聞き流し、欠伸を噛み殺しきれずに、少しばかり口元を押さえつつ見ていた壇上に、次の瞬間目が釘付けにされてしまう。
「…………っ!」
 見た目五十過ぎの教頭の紹介により壇上に上がったのは、この学園の生徒会長だった。
 癖ひとつなく、綺麗に切りそろえられた程よい長さの黒髪、髪と同じ色をした漆黒の瞳と作り物のような肌の色に顔の形……惟矩は驚嘆の声を上げそうになった。
(かっ…こええ、なぁ。東京のヤツなんて、何もええトコないし、めちゃくちゃ汚いし……こんなトコに、あないな綺麗な人がおるなんて、信じられへん……)
 もっと言わせてもらえば、この世に存在していたのかと疑うほどだ。
 仮にも名門「鐘鈴学園」の外部入学生である惟矩は、気を引き締めて出席している他の生徒の中で阿呆みたいに口をポカンと開け、十分その場から浮きながらじっと生徒会長の言葉を聞いていた。
 否、聴覚すら機能していなかったかもしれない。
 その間「ふぇ〜〜」や「ほぁ〜〜」などという溜め息交じりの惟矩の小声が、両隣に座っている新たなクラスメイトの眉間にしわを寄せる事になった。
 その時壇上で新入生を見回していたであろう生徒会長と、音がするくらいの勢いで視線がぶつかる。一瞬、向こうの目が見開かれた気がしたが、惟矩には唐突な事で単に驚くことしかできなかった。
「ゎ……っっ!」
 小声で思わず声を上げ、慌てて惟矩は口を塞ぐ。
 すぐに視線を戻すと、もう外れていると思ったその視線はまだ惟矩に向けられていた顔が次第に赤くなっていく。
(お、俺…何か変な恰好しとるんやろか? ……い、いや、んなハズあらへん。みんなと同じ制服やし、ネクタイだってちゃんと結んだはずやから……い、今の声、聞こえたんやろか)
 まさか壇上から何メートルも離れている惟矩の、ほんの一瞬の、聞き取れるか取れないかという掠れた悲鳴(?)が聞こえるわけがない。
 しばらくしたあと冷静にそう考えた惟矩は、これ以上目を合わせることができなくて目を瞑ってしまう。
(頼む〜、俺ばかりそない見つめんといて〜っ。心臓に悪すぎや、マヒ起こしてまう)
 おかげで先ほどまであまり役割を成さなかった耳がまた周りの音を拾い始める。
 だが、生徒会長のうっとりするような美声よりも周りでコソコソと囁きあっている言葉の方が気になってしまった。
「なぁ、あれって二年の九条梓乃先輩だろ?」
「綺麗だよね〜。……さすが鐘鈴一の美人だけあるよ」
「ルックスだけじゃなくて家柄もいいんだよな? 確か、九条グループの長男だよ、あの人」
「あの九条グループの!?」
「あぁ。おまけに全国模試は十位以内の常連だし、優しくて人望も厚いってさ」
「はぁ〜。……でも九条先輩、中等部からの持ち上がり組だから、恋人とかもいるんだろうなぁ……」
 始終を掻い摘んで聞いた惟矩は首をかしげる。
(そないな話は、フツー女子同士がするもんちゃうんか? ここって男子校やったよなぁ?)
 声のした方を見てみるとやはり女子は見当たらないが、可愛い系の、でもれっきとした男子がいた。
 男子校ならではの「世間一般には公(おおやけ)にできない風習」というものを惟矩は全く知らない。
(べつにその九条梓乃とかいう人に恋人がいようがいまいが、俺らには関係ないちゃうんかい。あないにかっこええ人なら、いたって……なぁ?)
「―――外部新入生の入学および、在校生の進学・進級に心からの祝辞を申し上げ、生徒代表の言葉とします。生徒代表、現生徒会会長・九条梓乃」
 誰に同意を求めているのかはわからないが、見て見ぬフリの出来ない違和感に苛(さいな)まれていた惟矩は、それでも「鐘鈴一の美人サマ」の名前だけはしっかりと聞いた。
 もう平気だろうと、梓乃が一礼をしている壇上へと視線を戻す。そして頭を上げた梓乃と結局目は合ってしまった。
(も、もしかして、さっきからずっと見られてたんとちゃう……? 俺)
 その考えに惟矩は首をブンブンと振る。
(んなワケあらへん。新入生だけでも四百人はおるし、お、俺ばっかり見とるわけあらへんやろ。た、ただの偶然や、偶然……)
 もっと言わせてもらえば、この総合体育館には中等部も出席しているため、千五百人以上がこの場にいる。
 普通に考えれば、その中のたった一人を見続けていることなんて、故意でなければほぼありえない事だ。
 ……にもかかわらず、偶然だと信じ込もうとしている惟矩に梓乃の視線は確実に向けられていたのだ。
 偶然で片付けるには少々矛盾点が多い気もするが、惟矩はそう信じて疑わない事にした。
 入学早々「生徒会長に目をつけられた」なんて響きが悪すぎるからだ。
 「ここ」でのその意味がどんなことを示しているのか、今まで共学生活を送っていた惟矩には全く理解できてはいなかった。まぁできるはずもないだろう。普通の人だからこそ、わからないのかもしれないことなのだが。
 しかし、それゆえに誰もが目を奪われる梓乃の視線の先に気付かない者など、一人もいない。
 惟矩はわけもわからず身震いをしてしまう。
(あれ、風邪でもひいたんやろか? バイト三昧やったから、その疲れが出てきとんのかぁ〜?)
 今日は早よ寝るかと一人で勝手に思い込んでいる惟矩だけが、その場の雰囲気を読めていなかった。
 それが四方八方から寄せられる「妬み」や「嫉妬」といった、惟矩の最も苦手とする感情の視線によるものだとは微塵も思ってはいない。
 要するに単なる鈍感な人種なのだ。
「ふぁっ、ふゎあ〜ぁ……」
 TPOもわきまえず、呆れるほどの間抜けな惟矩の欠伸に、周りの人間の殺気ともつかぬ強い嫉妬心は殺(そ)がれてしまう。
 そして「コイツなら心配しなくても、九条会長が目をつけるハズはない」と、一息つかせるきっかけでもあった。
「…………?」
(何や、今、もの凄くムカつくこと言われとった気がする……)
 針でちくちくとつつかれているような妙な緊張感を感じつつ、それでもよくわかっていない惟矩は、その後式が終わるまで居心地の悪さに顔を顰める事になった。
 その原因も惟矩は全く見当違いな理由をつけて納得していた。
(周りが金持ちばっかりやから、フツー以下の生活強いられとる俺と雰囲気が違っとるせいや)
 頭の出来はともかくとして、勘は破滅的に当たってはいない。
 そして、不快感に見舞われた惟矩の学園生活が始まりを告げた。



       2



「なぁ〜。なんで俺、みんなによそよそし〜くされとるんやと思う?」
 学園生活がスタートしてから二週間と少しが過ぎた頃、惟矩は新しくできた友人と一緒に弁当を食べながら、ぼんやりと訊いてみた。
「それは……やっぱり、アレなんじゃないかな」
「せーやーかーらー、「アレ」って何やの「アレ」って! 人にモノを言うときはな、ようわかるよう喋ってくれへんと、伝わらんのやで、綾ちゃん」
 惟矩に「綾ちゃん」と呼ばれたのは、都内に大規模なデパートをいくつも経営しているというこの学園ではさほど珍しくもない家柄の一人、綾元凍夜(りょうもと とうや)である。
 クウォーターである凍夜はもともとの地毛が金髪で目立つため、茶色く染め直していた。それでも透けるような美しい髪を持ち、背中の真ん中あたりまで伸ばしたそれを、ゴムでひとつにまとめていた。
 碧眼の瞳と相まって、異国美人の容姿が形成されている。もちろん惟矩達の学年の中ではずば抜けて人気が高い。
 ただひとえに美人と言っても、梓乃とは雰囲気が全くと言っていいほど違う。
 梓乃はいつでも鋭い雰囲気の抜けない「超絶美人」だが、凍夜はのほほんとした雰囲気の漂う「善人の美人」というイメージがある。それでも裏があるのにそれが何なのかが読めず、迂闊には近づけないという威圧的な雰囲気は多少なりとも持っていた。
 そんな凍夜が何故惟矩と一緒にお昼を食べているのかがわからないが。
 凍夜はムスッとした表情で口を尖らせる惟矩を見て、困ったような顔をする。
「……惟矩ってさ、他人から好かれてるって自覚したことないよね? 恋愛対象としてって意味だけど」
「……多分、というか絶対ないな。そんなん自惚れとちゃうの? そないな自意識過剰、俺はせぇへん。……んでそれが、俺が避けられとんのと何が関係するんや?」
「う〜ん……とりあえず、目をつけられてるからみんな寄りたがらないんだよ」
「目って……あの九条っちゅーヤツか? あの人ってそないにおっかない人なん?」
「人物がわかっているのなら、僕が教えなくてもそのうちわかると思う。……念のため聞くけど、弓道部に入るんだよね?」
 惟矩は一瞬返答に迷ったが、コクリと頷いた。
 基本的にこの学園はアルバイト禁止だ。内緒でするにも、限度を超えてしまえばばれてしまう。それは惟矩が一番わかっていることだった。
 全校生徒は、部活動または同好会に所属する事がここでは校則として定められている。アルバイトを優先させようとして無所属のままでいれば、怪しまれてばれる危険性は高くなるだろう。
 せっかく受験生活を死ぬ気で乗り越え、多くはない財産の中から無駄遣いにはできない出費をしてまで入ったというのに、退学にでもなればそれも水の泡になり、なにより大損をしてしまうことになる。
 元々ある程度の立場と財力がなければ入れないこの学園は、入ったはいいものの、惟矩は頭を抱え込みながら生活していかなくてはならない状況だ。
「どうかした?」
「え、あ、いや。何でもあらへん」
 不安が募るばかりの生活の事を頭から追い出して惟矩は慌てて取り繕った。
「ま、部活もそれなら嫌でもわかると思うよ。でもあまりそのことで喧嘩とか、問題起こさないように」
「サッパリわからへん……。喧嘩は御法度やからせぇへんけど、そないムカつくことなんか?」
 どう見てもこの状況を楽しんでいる様子の凍夜に、ますます惟矩の眉間に皺が寄った。
 すると突然、凍夜の制服の内ポケットから携帯の着信メロディーが鳴り響く。
 その着信画面を見てフッと微笑んだ凍夜の顔は、つい一秒前、惟矩のことで楽しんでいたときとはうって変わり、妙に色っぽい大人の表情になっていた。
「あぁ、どうかした?……我慢できないんだ。ダメだよ、そんなんじゃ。……ふ〜ん、どうしようかな?…じゃあ、そのままで待ってるんだよ? すぐ行ってあげるから」
 惟矩は会話と一緒に凍夜の裏の一面を垣間見た気がして、ゾクリとした感覚が背筋を伝った。……もしかしたら、今のが「本当の凍夜」であり、一番近づいていけない要因なのだろうか。
 二つ折りの携帯をまた元の場所にしまった凍夜は、いつもの「のほほんとした善人の美人」の表情に戻っていた。
「と言うわけで、惟矩。僕、用事できたからもう行くよ。じゃ、キレない程度に頑張ってね」
「よう言うわ。この状況を、明らかに楽しんどるくせに」
 立ち上がる凍夜に、パックジュースのストローを銜えながら言う。
「あ、バレてた?」
「バレバレや。ニヤニヤしよってからに、気付かん方がおかしいわ。用あるんやろ? 早よ行っとき」
 シッシッと手を振ると「冷たいなぁ」と呟きながら王子様然とした表情を崩すことなく、凍夜は校内へと戻っていった。
(やっぱ金持ちはようわからん……。綾ちゃんはもっとわからへん)
 謎の多そうな凍夜だが、それでも惟矩はうすうす感づいている。「彼に近づきすぎてはいけない」という事を。
 本能が危機的な要素を凍夜自身から感じ取っているからだ。
(それに、さっきの顔も……)
 それでも自分とまともにしゃべってくれるのは彼しかいないと気付かされたせいもあって、距離は置いたとしても関係だけは切れない存在だった。
 その凍夜との勝負(じゃんけん)に勝って奢ってもらった、自分じゃ絶対買いはしないだろう売店の弁当を残さず食べ、パックを握りつぶす勢いでジュースを飲み干すと、ゴミを手にその場に立ち上がる。 
「綾ちゃん、弓道部やったら嫌でもわかる言うとったけど、何の関係があるんやろ?」
 屋上から広がる都内のビル群に向かって、惟矩は打ち起こしの体勢をとる。
 何の抵抗もない空気の弓づるを引き、引き分けの段階に入るとそのまま会もせず、どこに焦点をあわせることもなくその手を離す。
「俺、頑張るな」
 惟矩は何も持っていない方の手を握り、虚空に向かって呟いた後、何事もなかったようにその場から立ち去った。
    
       *

「はぁ〜、部活のあとは八時から十二時までバイトやろ〜。それから……ぁだっ!」
 HRも終わり、みっちり詰まったこれからのスケジュールを確認していると、どこからか飛んできた消しゴムの欠片が惟矩の額にクリーンヒットした。
 教室内を見回すとクスクスという笑い声がところどころから洩れている。惟矩は声のしたほうをジロリと睨む。
(俺が一体何したっちゅーんや。っつか、ここ男子校やろが。ねちねちネチネチ女かお前らは!)
 その消しゴムの欠片を力任せに投げると、見事にゴミ箱の中へ入った。それでも「ラッキー」とは思えない。
 名門私立男子校のお坊ちゃまと豆モヤシ人間のいじめなど所詮ちゃちな嫌がらせだが、頭に血が上りやすい惟矩は早速イライラを溜め込んでいた。
 放課後の校舎内、優雅な雰囲気に包まれたアフタースクールの時間を鼻息荒くズカズカと蟹股で弓道場へと向かうのは、中高一貫で広しといえど惟矩ただ一人である。
(あーったく、それもこれもみんなあの九条言うヤツが悪いんや! 無意味に人ン事見とったんが悪いっ……部活で会うたら開口一番、文句言ったる!!)
 気合を入れたとはいえ、その前に惟矩は弓道場を探すのに一苦労だった。なんとか高等部の校舎は出られたものの、中等部の校舎との間にある弓道場を見つけるために軽く三十分ほど迷ってしまい、なんとか辿り着いて仮入部申請を出して場内に入ったときには、とっくに練習が始まっていた。
 静粛な空気の中で行われる弓道は、練習風景からしてもまず静かである。とてもじゃないが、関西弁で誰かに文句を言える雰囲気ではない。
 だがそんな空気を全くと言っていいほど読めていない惟矩は、荷物を一度隅に置くなり、ズカズカと場内を横切って弓道初心者の入部希望の一年生に手取り足取り、弓の構え方や矢の番え方、ポイントを事細かく教えている梓乃に歩みよった。
「オイ、九条梓乃ってあんたやろ」
 その言葉に梓乃一人だけではなくその場にいた一年生全員と、二、三年生の何人かの視線が惟矩に集中する。射殺されんばかりのその視線の多さに、惟矩はたじろぐ。
(うっ……何で九条の名前しか呼んどらんのに知らんヤツまで振り返っとんのや。しかもなんか怖いわ……ほんまに殺されてまうほど)
 さすがにそんな空気までは無視できないが、呼んでしまった以上は用件を手早く済ませて、この危機的状況を抜け出した方がまだマシな選択だろう。そう踏んで、梓乃の傍に行こうとすると、揃いも揃ってお坊ちゃま育ちの輩が一人二人と寄ってくる。そして小声で嫌味を言ってきた。最初、惟矩はあきれてものも言えなかった。これが凍夜の言葉の意味だったのかと納得もしていた。
「……何や一体。俺、九条に用あんねん。そこどいてくれへんか」
「どいてくれ、じゃないよ。九条先輩を呼び捨てにするなんて、一体何様のつもりだよ?」
「関西の田舎モンの猿は、こんなにも清楚で優雅な鐘鈴にいちゃいけないんだよ。とっとと山にでも帰りな」
「…………」
(な、何やいきなり。たかが人一人呼んだだけやろっ。だいたい、お前らのせいで用が出来てもうたんやろが。早よどかんかいっ!)
 沸々と怒りが湧き起こり始めている惟矩の心情など知りもしない、自称・清楚で優雅なお坊ちゃまは、梓乃に聞こえない程度の小さな声でさらに攻撃をエスカレートさせる。
「だいたい、九条先輩に目をつけられてるからって、部活まで一緒にするなんてうっとおしいよ。調子乗んないでよ」
「そうだよ。何か勘違いしてるようだから言っておくけど、九条先輩は君なんかが呼び捨てにしていい方じゃないんだ。自分の立場ってものをもっとわきまえ……」
 そこまできたとき、惟矩は大きく息を吸い込み、次の瞬間言葉とともに一気に吐き出した。
「じゃかぁしい(やかましい)っ! そこどけ言うとんのがわからんのか、どアホっ!!」
 弓道場外にまで響き渡る、堪忍袋の緒が切れた惟矩の怒号が飛んだ。
 つい先ほどまでねちっこい視線を惟矩に送り続けていた人もそうでない人も、一斉に目を丸くする。その中で惟矩に呼ばれていた梓乃本人だけが、含んだ笑いを浮かべていた。
「威勢がいいな、一年A組吾野惟矩クン? 丁度僕も話したいことがあったんだよ。後で僕のところに来てくれないかな? 一応会長命令だよ」
 その丁寧口調だが身勝手な言葉に惟矩の怒りはますます膨れ上がる。
「そないな軽率な行動がこいつら怒らせとんのやろがっっ! せやから俺はイライラしとるしかなわんねん。さっきからネチネチと女々しいーんじゃっ。文句言いに来とったんに、余計調子づかせてもうたやないかっ! いたって安全で平穏な俺の学園生活をどないしてくれんねん!!」
 胸倉を掴んだ惟矩は今にも梓乃を持ち上げてしまいそうな勢いだが、身長差が軽く十五センチはあるので胸倉は掴めても持ち上げる事はままならず、顔を近づけて思いっきり睨む事しか出来なかった。
「そんなに接近してくれるのは嬉しいんだが、いいのか? 注目されてるぞ」
「かまへんっ! 注目されとろーが、そんなんで沈む怒りちゃうでっ」
「俺も注目されるのは一向に構わないが、惟矩が受ける害が増えるんじゃないか? それは俺だって嫌だし、惟矩も嫌だろう?……この手を離してくれないか」
 いきり立つ惟矩に対し、被った猫を一時的に剥がした梓乃は至って平然と構えて痛いところを突いてくる。
「…………」
 言われてキョロキョロと小動物のように周りを見回した惟矩は殺気の混じった視線を真っ向から浴びており、氷よりも冷たいその圧力に自然と手から力が抜ける。
「はぁ……。一年用に的を二つ空けてあるけど、弓引いていきなよ。自分の弓を持っているんなら、経験者だろう? それとも僕の指導を受けてみるかい? 惟矩くんならうんとサービスしてやれるんだけど」
「やかましいっ! 余計な世話や、お前こそその手ぇ放さんかい。せっかく放したったのに、お前が掴んでどうすんねんっ」
 常時猫を被っている梓乃は、手首を握って惟矩を引き寄せながら丁寧な「口説きモード」で接してくるが、惟矩は全く気付いていない。
 ただ純粋に、言っていることと梓乃自身の行動の矛盾点と行動自体に怒りが湧いているだけだった。
 だが惟矩にそんなつもりなどなくてもはたから見れば、立派な痴話喧嘩である。
「お前なんぞそこらにぎょーさんおる女々しいヤツらとベタベタしとった方がお似合いや。俺はそんなんゴメンやからなっ。近づかんといてっ」
「と言われてもな。この学校は生徒会長の命令は教職員を除き、従うのが規則なんだ。どっちにしろ今日の放課後、惟矩くんがここの生徒である以上、僕のところに来るのは義務だよ」
「誰が行くかいっ」
「規則を破るといろいろと生活が規制されることになるけど、いいのか? ―――例えば……」
 バイトの事とか、な―――。
 梓乃は耳元でボソリと言う。バイトは禁止ということになっているので、ばれてはいけない惟矩の絶対の秘密だが、どこで知られてしまったのかと驚愕の表情を隠せなかった。
「なっ……」
「というわけだ。部活終わったら、生徒会室に来てもらおう」
 梓乃はにやりと笑う。そんなことは無視してとっとと帰りたかったが、これからの生活を考えると必要不可欠なバイトはさすがに切り離すことは出来ない。……秤にかけるにはその脅しは重すぎた。それ以前に、秤にはかけられないものだった。
(この鬼、悪魔、変態、二重人格! 顔と頭と立場がよけりゃ、何したってええんとちゃうやろっ!)
「……こういうのを職権乱用言うんや」
「うん? 何か言ったかい?」
「いや、何も」
 惟矩は不機嫌な口調で言ったあと、未だにジロジロ見ながら睨みつけてくる他の一年を押しのけ、自分の荷物を持って更衣室に入った。
自分でシャツのボタンを引きちぎるくらいの勢いで制服を脱ぎ、久しぶりに道衣と袴を身につけた。……その間もその後も依然として惟矩の怒りはおさまらない。
(何気に呼び捨てされとったやんか、俺。……一年しか年上じゃないくせに生徒会長やからってずうずうしいんや、あのスカシ男っっ! しかも…何か知らんけど二重人格みたいやしっ)
 弽(ゆがけ)を右手にはめ、自分で持ってきておいた愛用の弓と矢を持って更衣室出て空いている的を探すと、奥の二つが空いていた。
 惟矩は軽く両の手を握り開きして、弓だけの練習に入った。

       *

 部活が終わり、バイトに遅れないようにと他の部員に混じって早めの着替えを済ませた惟矩は、梓乃が高等部の校舎に戻っていくのを確認して、ややげんなりとしながらとぼとぼと生徒会長室に向かっていた。
 夜の校舎ほど不気味な雰囲気が漂うシチュエーションはそうそうないだろう。
 どこかの純日本家屋の大きな屋敷や、つたの生い茂った洋館より、よっぽど身近に感じられるため、惟矩はビクビクとし、時折学舎内を吹き抜ける風の音にさえ飛び上がっていた。ホラー映画を人一倍見ていることが災いしていた。
 心臓が極限状態のまま、やっぱり迷ってやっと着いた生徒会長室はいかにもというような厳粛な雰囲気の扉を構えていた。中心よりも少し上辺りに嵌めこまれた白いプレートに、明朝体で『生徒会長室』と掲げられている。
(んでここだけ周りの教室と違(ちご)うとるんや。見栄張るんは勝手やけど、税金の無駄や、無駄!)
 その税金を払わされているのが自分(達)だと思うと余計に腹立たしい。
 「コンコン」というよりは「ドンドン」という擬音が相応(ふさわ)しい力加減でドアを叩くが、うんともすんとも中からは聞こえてこない。
 試しにドアノブを回してみると、その重厚そうな外観の割に拍子抜けしてしまうほど簡単に開いてしまう。
「おーい、来たったで〜……って、誰もおらんやん。人呼んどいて自分が居てないゆうのはどういうことやっちゅーねん」
 電気は点いているのに、ガランとしている室内を見渡して呆れた声を出したその時。
「誰がいないって?」
「のぅあっ!!」
 さっきまで誰もいなかったはずの背後からいきなり声をかけられて、惟矩は奇声を上げて飛びのいた。
「ど、どどっどっから湧いてきとったんや、ワレ!」
「湧いてくるなんて、失礼な。俺はただ、いつまで経っても来ない惟矩を心配してわざわざ探しに行ってたんだ。足跡と間抜けな関西弁が聞こえてきて戻ってみれば、どこから湧いてきた扱いか。意外と冷たいんだな、関西人も」
「だ、誰が間抜けやて〜っ! だいたい、誰も探せ言うとらへんやろ! 勝手に探しくさって、俺のせいだけにするなっ。今ので寿命が縮んどったら、どないして責任とってくれんねん!」
「後ろから声をかけただけだろう? 何をそんなに怯えている」
「うっ……お、怯えとるわけあらへんやろ! 後ろからいきなり声かけられたら、みんな驚くわ、普通!…だいたい、何でお前に呼び捨てにされなあかんねん。誰もええなんて一っ言も言うとらへんでっ」
 今度は初めから猫を剥がしている梓乃に痛いところを突かれて思わず唸るが、文句を言うついでに誤魔化すことにした。
「俺がそう呼ぶことに決めた」
「答えになっとらん、何やソレ!」
「……少しは静かに出来ないのか。血圧上がりすぎると、体によくないぞ」
 頭に血が上りやすい惟矩に向けて、梓乃は溜め息をつきながら言う。ついでとばかりに扉も閉めた。
「んでお前にそないな心配されなあかんねん。ジジ臭いこと言うな。アンタ一体いくつや」
「平成三年生まれで、今年で十七だ。今時小学生以下でも加法さえ出来れば聞かなくてもわかることだろう?」
「…………」
確かに訊いたのは自分だが、それに何の反応も示さない真面目な梓乃にはもう何も言う気力が起きなかった。暗に「小学生以下の知能しかないのか」と笑われていることに、幸か不幸か惟矩は読めていなかったが。
(やっぱあかんわ……ここ入ったんは間違いやったかもしれへん。変な意地張らなんだらよかった……)
 もう入ってしまったのだから後悔しても遅いことはわかっているが、それでもそう思わずにはいられない。
 これ以上ペースに巻き込まれて、雰囲気に自分が毒されないうちに用を済ませたほうがよさそうだ。
「って、こんなしょーもない言い合いするために呼んだんとちゃうやろ。一体、生徒会長さんが何の用や。早よせぇよ、俺バイトあんねんから」
 どうせばれとるんやと開き直ったのか、堂々と口にする。
「そのバイトを含めた惟矩のことについてだ」
(ギクッ)
 その言葉にビクリと惟矩の体が跳ねる。
 別に違法なアルバイトをしているわけではない。が、それでも学園生活には十二分に支障をきたす過密スケジュールを組んでいることに自覚があったからだ。
「いろいろとしているそうだな。……スタンド、コンビニ、ドーナツショップの店員。新聞配達員にファミレスのウェイター。しかも自宅休養時間はほとんどない」
「せやから何や。しゃーないやろ。家賃やら学費やら食費やらで、ウチ火の車やねんから。別にアンタには関係あらへんやろ。……それだけやったらもう帰るで」
 開き直った惟矩ほど強引で傲慢なものはない。話を勝手に終わらせ、たった今梓乃が閉めたばかりの扉の取っ手に手をかけた。
「待て。まだ話は終わってない」
 そう言い、梓乃は惟矩の腕を掴んで引っ張った。
「ぉわっ」
 予想以上に強い力だったせいで、惟矩は豪快に尻餅をついた。そんな惟矩を上から見下ろす梓乃の表情は、もはや優しい先輩でも、信頼の厚い生徒会長でもない、まさに『キチク』なヤツのそれだった。決して逆らう事などかなわない。
 その瞳で直視されるだけで、何故かゾクリとしたものが体を突き抜けるような錯覚に陥る。
 この感覚には覚えがあった。……そう、昼休みの屋上で凍夜が電話に出たときに垣間見せた、危険な、あの支配感に満たされている艶麗さと酷似していた。
 ただ一つ違うのは、梓乃の顔が限りなく悲しい表情を浮かべていたことだった。
 同時に物を言わせぬ威圧感が全身から滲み出ているような気がして、惟矩は引っ張り倒されたことに文句を言う事ができない。
「惟矩の家が―――多額の借金を抱えていることを知っているか」
「…………は?」
 数秒の沈黙の後、梓乃が放った言葉に惟矩は目を丸くする。
 当然といえば当然である。家のローンも車のローンも完済してから二年は経っているし、両親は基本的に、財産の中でやりくりをしていたからである。
(しかもそないな話聞いとらへん………)
 と言うよりは、むしろ気にしていなかったと言った方が正しい。何せ東京住まいとはいえ、母がきっちり財産管理をしていて父も口出しできないと言うのに、二人に比べればまだまだ子供の惟矩が「ウチ、お金大丈夫やろな?」なんて訊くことができようか。
 「心配せんでもええことや」とデコピンの一発でも食らって終わるのがいいところだろう。
「そないな話聞かされてへんで。口からデマカセぬかすな、アホ」
「嘘じゃない。惟矩の父が借金の連帯保証人にされていたんだ。……つい先日、借りた奴が借金に耐えかねて夜逃げして行方がわからなくなったらしい」
「何でそんなことわかんねん。それにまたって……」
(俺だって知らんことやのに)
 話がやけに現実味を帯びているのは、コイツが話しているせいだと惟矩は思いたかった。
「昨日の放課後、頼みたい事があったんで惟矩の住んでいるアパートに行ったんだ。そしたら丁度、強面の客人が惟矩の部屋のドアの前に二人いたから、訳を聞いたら話してくれた。……惟矩の父親が借金の保証人になっているが、亡くなっていると聞いたので、その子供に請求書を渡しにきた、とな」
 梓乃はおもむろに自分の学生カバンの中から折りたたまれた白い紙を取り出すと、惟矩に渡した。
「読んでみろ」
 そう言われて開いた紙の中に書いてあった驚愕の内容に、惟矩は表情を引きつらせた。
「二千、五百万円っ!?」
 そこに書かれていたのは、連帯保証書のコピーだった。署名されていたのは惟矩の父の名前と、父が生前に親しくしていた友人の名だった。
 借りた金が二千五百万ということは、現在の利子も含めれば相当な額だろう。もっとも、元金だけでも相当だが。
「わざわざ人を使って渡しに行かせるということ言う事は、あちらもかなり痺れを切らしているんだろう。服装や顔からして悪徳金融だろうからな。差し押さえの物品もそのうち出てくるだろう。そうなれば、今のままじゃ住む場所すら奪われるぞ」
「ほんまにか……」
勝手に連帯保証人にした父親の友人を恨んでも遅い話だ。今必要なのは借金を返せる額の金と、それをどうやって手に入れるかだ。
「せやかて、どないすればええんや。二千五百万なんてウチにはあらへんねん。バイトやっていくら数こなしとっても、月々の収入なんてたかが知れとるし……。そないなこと言うたって、困る……誰かに借りるしか、ない」
 今のところは八方塞がり。惟矩だけでどうにかできる問題じゃなかった。
 借りるとは言っても、今の惟矩には知り合いもいない。まさか自分の友人の家に押しかけて頼むことなどできはしない。出来たとして、不景気なこの時代に二千五百万なんて大金を出してくれるとは思えない。
 そこに梓乃が救いの手を差しのべてきた。
「俺が、惟矩に背負わされた借金を全額返してやってもいい」
 その言葉に惟矩の思考が一瞬ストップしたが、寸前のところで拒む力がはたらき、食いつこうとするのを抑える。
「なんぞロクでもないこと企んどるんやろ。そのテには乗らへん。ガキやないんやし、そんくらい考えとるっ」
 年下やからってなめんなと言わんばかりに睨みつけるが、対する梓乃は動じた様子が全く見られない。そして不敵な笑みをその端正な顔に浮かべた。
 そんな表情でも思わず見とれてしまうほど様になっているのが腹立たしい限りである。
「企んでいるなんて、失礼な。こっちはしっかりした利益にもなるし、別に惟矩の害になるわけじゃない。惟矩も借金が帳消しになるんだ。双方のために持ちかけた話だったが……」
「しっかりした利益って……お前一体何しとるんや」
 一概にそれだけとは言い切れないが、要するに『自分に害のない利益』と解釈して少し安心した惟矩は警戒しながらも、その提案に乗ってくる。
「俺の仕事の手伝いをしてもらう。条件として、今惟矩の住んでいるアパートを引き払って俺の家に住み込んでもらうことになるが、それほど大変なことじゃない。生活に必要なものや部屋なども用意させるし、食事も家で賄う。結構いい条件だと思うが?」
 それはそうだろう。衣食住には困らないし、おまけにその『手伝い』をすれば借金が帳消しになるのだから、これほどの待遇をわざわざ蹴る必要はどこにもない。
「その手伝い言うんは?」
「それはまだ言えない。一応学校側にも伏せてあることだし、あまり洩らすとこちら側に不利益になる恐れがあるからな。惟矩がこの条件を呑んで、俺の家に引っ越してくるまでの過程が済んでからだ。保険は持っておきたいからな」
 つまり「梓乃の家に入れば出て行くことは不可能」だということだが、惟矩の頭がそこまで理解できているかは謎だ。
「……お菓子作りと弓道。させてくれるんなら、呑んでやらんこともない」
 ……やっぱり理解できていないようだ。
 図太さは母親の血の名残だが、惟矩の中にはこういう場合の遠慮という言葉は存在しない。
 もちろん梓乃はその条件を呑むといい、そこで契約が成立した。
「じゃ、これからよろしく。惟矩」
「わかったよ……」
 梓乃の言葉に偽りはないが、全て話しているわけではない。そこに気付けないのは致命的なことだった。
(九条梓乃……。あーくそっ、金持ちってほんまに謎な生き物や。何かわからへんけど、意外とええ奴かもしれへん……いや、でもあの二重人格は……もうさっぱりや)
 明らかに誤解している惟矩は家に帰るとすぐ、片付け終わったばかりの荷物をまた段ボール箱に詰め始めた。同時に最近よく起こるようになった身震いを味わっていた。
(何や、もう春やのに……ホント風邪でも引いとるんかなぁ)

 その頃の梓乃は、
(惟矩……。本当に扱いやすいな、あの性格は。あまり思慮が欠けすぎているのも心配だが……。あの条件でこの仕事を承諾した事、いつか後悔するだろう)
 指定の時間に呼んでおいたリムジンの中で、やはり不敵な笑みを浮かべていた。それは運転手が見てもやっぱりゾクリとさせるものだった。
 向かっているのは自宅ではなく、九条グループの高級衣類生地専門店の本店だ。
(さて、腕がなるな……)
 梓乃の『悪魔の囁き』に耳を傾けるどころか、手をも取ってしまったことに惟矩が後悔するのは、まだ先のことである。



       3



 そうと決まればとっとと実行! とばかりに三日で全ての仕度を整えた惟矩は、おんぼろアパートの前に堂々と止まる黒塗りのロールスロイスのリムジンに周囲の目を気にしながらも何とか乗り込み、九条邸へと向かっていた。
 スモークガラスの内側から景色を眺めているうちに広くなる住宅の規模に、思わず驚嘆の声を上げそうになる。これからその中の一角にある梓乃の家に住む(居候)のだと考えて、必死に慣れようとしているのをなぜか迎えのロールスロイスに乗っていた梓乃が面白そうに見ていた。
「……アンタ、俺を笑うために乗ったんか?」
 軽い微笑にも神経質に反応してしまうあたり、落ち着きがないことが一目でわかる。
「いや、今は使用人が毎年恒例の温泉旅行に行っているんだ。SPや秘書はいるが、わざわざ出迎えに来るには逆に仕事の迷惑になるだろうと思って来たんだ。初めから外に出ていれば手間が省けるし、惟矩の荷物運びの手伝いも出来ただろう? 礼を言われることはあっても、勝手な言いがかりで睨まれる筋合いはないと思うがな」
「うぐぐ……っ」
 語彙が圧倒的に不足している惟矩が口喧嘩で勝てる相手ではない。
 唸る惟矩の様子がますます梓乃の微笑を煽っていた。
 一軒の敷地面積が広いため、住宅街にしては若干少ない角を右へ左へと曲がったところに九条邸はあった。
 両親が生きていた頃惟矩が住んでいた家も決して狭くはない、むしろ大きい方だと思っていたのに、九条家の洋式の庭園にすっぽりと納まってしまう。それほど広い土地と面積を持つ家を見るのは生まれて初めてだった。
 車から降りた惟矩は開いた口が塞がらなかった。
(門でかっ、庭広っ、何やコレ。絶対無駄やって。維持費だけでもかなりの額いくでー、コレは……俺に対する嫌味か)
 先ほどの梓乃の言葉と目の前に広がる光景に何故だかイライラしつつ、これなら梓乃が借金全額を肩代わりすると言い出せるのもわかる気がするな、と納得していた。
 手入れされた芝生の中に歩幅より少し狭いくらいの間隔ではめ込まれた石の上を梓乃は歩き始める。あまりにもスケールが大きすぎて、その場に棒のようになっていた惟矩がついて来ないことに気が付いて呼ぶ。
「早く来いよ、何をしているんだ。車の中の荷物も全て惟矩の部屋に運ぶように指示はしてあるから、心配しなくても平気だぞ」
「なっ……誰もそないな心配しとらへんわっ! ちーとボンヤリしとだけや」
 その言われようがまた惟矩のイライラを煽る。数歩分先を歩いてしまった梓乃を追い抜いて、石を一つ抜かしにどんどん進んでいく。
「惟矩、そんなに急ぐと……」
「へっ?……ぅわっ、あでっっ!」
 庭も手入れされているのなら、当然石も磨かれているに決まっている。
 梓乃の言葉を聞き取ろうとして振り返った拍子にふんばった片足を滑らせ、仰向けに惟矩はコケた。
 たった今飛び越えてきた石に後頭部を打ち、惟矩の意識がスーッと遠のいていく。
「だから言おうとしたんだ。大丈夫か? おい、惟矩!」
(あー、アイツに呼ばれとる……。早よ言わんかい、アホ……)
 自分のしたことは棚に上げ、梓乃を少しばかり恨みながら、そこで惟矩の記憶は途切れた。

       *

 意識を失ったあと、惟矩は夢を見ていた。ベッドの上に寝かされているらしく、横になっていた。誰かの会話が聞こえる。
「こちらが…りさまで……はい……」
「俺はこ……だ。少し…みて……ゆう……いろ」
「わ……した」
 会話が途切れ、続いてドアが開いて閉まる音。一人が部屋の外に出たようだ。そして誰かが近づいてくる気配がした。
(やかましいなぁ……誰や、もう…寝かせといてくれ……)
 瞼が重くて開かない。どうでもよくなってくると、また音が遠くなる。
「惟矩……」
 ハッキリと自分の名前を呼ぶ声がした。眠たさが勝っていたので、この際無視を決めこんで寝ようとしたが。
 温かくて柔らかいものが唇に押し当てられるような感触があった。しばらくすると、何かが口の中に入り込んで、口内を蹂躙するように動き回る。
(んぅっ…ぅ……んんっ)
 だがすぐに口の中からその何かは出ていき、唇に押し当てられている感触も完全になくなった。
(何やろ、今の……。すごく変な感じやったけど、コレ……気持ちええ)
 しばらくの間その余韻に浸っていたが、次第に頭の中の霞がかったものが消えてくると、正常に脳が動き出して、思考判断が明確になってくる。
(気持ちええって……一体何や? 何されたんや、俺……。感触ある言うことは、夢やないよな?)
 唇に押し当てられた温かくて柔らかいもの。口の中で動き回って、突然出ていった何か。
 連想と手探りをあわせたようなゲームをしているようで、惟矩にはとても難しい問題だった。そのヒントと残された感触をもとに推理していくうち、惟矩の体の熱はどんどん上がっていった。
(まさか……いや、でも…せやけど……あれは確かに……キ…?)
「んなわけあってたまるかあぁっっ!!」
 力の限り否定の声を張り上げ、惟矩はかけられていた布団を跳ね除けながら飛び起きた。ぜぇはぁと息を乱し、何やら顔が真っ赤である。
(ありえへん、絶っ対に!! せやかて寝込み襲われるなんて間抜けにも程あるやろうっ。……それ以前に、一体誰や? こんなことしてきたんは……っ)
「ぐあ〜〜〜っ、初めてやったのにっ! 誰やもうっっ。逃げるような卑怯モンにだけはやりたなかったわっ。うあ〜、初めてのキスがぁあぁっ」
 頭を抱えながら、名も知らぬファーストキスの相手に向かって女子のような文句を怒鳴ると同時に部屋のドアがノックされる。
「はいっっ!……って返事してもうたけど、そういやここどこや?」
そこで惟矩は自分がどういう状況下にいるのかを改めて考えさせられる。
 ノックの音に応えてしまったのは、いきなりされたせいの条件反射というやつだ。本当なら、誰にも顔を合わせられるような状況じゃないというのに。
「失礼します」
 若い、凛とした男声が室内に響く。
 ドアを開けて入ってきたのは二十代半ばの男の人だ。
すらりとした体型に、凍夜まではいかないが、喉元まで伸ばし気味の髪が後ろで結わえられていた。雪のように白い色をした肌が、黒いスーツと黒い髪に挟まれて際立っている。背丈は梓乃と同じくらいだ。
「どうかなさいましたか? いきなり室内の方から怒鳴り声が聞こえたものですから」
 その躊躇いもなくすらすらと紡ぎだされる敬語と言葉の優しさに、惟矩の体温は平熱に下がっていった。
「い、いえ、何も……」
「そうですか。……自己紹介をさせていただいてもよろしいですか?」
「え、あっ、はい。俺は吾野惟矩です」
「惟矩様、でよろしいですね? 私、この屋敷のSPの統括と現当主・梓貴様の秘書、そして梓乃様の教育係を務めさせていただいている、朝霞悠里(あさか ゆうり)と申します。悠里とお呼びになって下さい。これからは惟矩様の教育兼世話係も務めさせていただくことになっておりますので、宜しくお願いいたします」
「いの…さっ……」
 様づけで呼ばれたことなど生まれて初めての経験故、惟矩は激しく動揺する。
「? どうかなさいましたか?」
(惟矩様、惟矩様、惟矩様、惟矩様、惟矩様、惟矩様、惟矩様…エンドレス)
 悠里に訊ねられた時にはもう、心ここにあらずの状態だった。
 我に返ったのは、悠里が惟矩の顔の前で二、三度手を上下に振ったときだった。
「…………っ!」
「大丈夫ですか? まだ頭がはっきりしていないようでしたら、もう少しお休みになって結構ですよ。夕食の時間まで二時間ほどありますので」
 時刻を確認しながら悠里は言うが、頭はこれ以上ないというほどにはっきりしていた。……キスをされたという事実に気付いたせいで。
「いや、ええ。ところでここ、どこや?」
「屋敷の中です。ちなみにここは惟矩様専用の部屋になります。ここは寝室です。あちらのドアは、簡易バスとトイレの入り口になります。お好きな時間にご使用下さい。それから……」
 そんな感じに、人一人に与えるにしては広すぎる部屋の説明をあらかたしてもらったあと、ふと惟矩は訊いた。
「あの……今この家に誰がおるん?」
「惟矩様と梓乃様、梓乃様の父である梓貴様に料理長と庭師、そして私だけです。使用人は社員旅行みたいなもので、温泉に行っております。戻られるのは来週になります」
「ほんなら……俺が寝とる間にこの部屋に入っとったんは?」
「私と梓乃様です。惟矩様をベッドへ寝かせたあとで、私は惟矩様が起きるまで隣の部屋で待っていろと梓乃様がおっしゃったので、隣の部屋におりました。惟矩様が起きられるまでの間には誰も中にはおりませんでしたが……。それがどうかなさいましたか?」
「い、いや……何も」
 惟矩の顔に明らかな困惑の表情が浮かぶ。二人しかいないという事は、どちらかが自分にキスをしたことになる。
(しかも両方男やし……。呼び捨てにしたんか、聞き取れてへんかったんかわからん以上、露骨に疑う事も出来へんしなぁ。……されたことは確かやったけどっ)
 考えていると、今度はノックもなしにドアが開き、梓乃が寝室へと入ってきた。
 ノックせぇよと思いつつも、心配そうにしている梓乃を見ると、惟矩は文句が出てこなかった。
「梓乃様……仕事の調子はいかがでしょうか?」
「ひと段落ついたから惟矩の様子を見に来たんだが、悠里の声が寝室の方から聞こえてきたんでつい慌てて入ってきた。……惟矩、大丈夫か?」
「おかげ様でな。いくら手入れが行き届いとる言うても、石段を滑るまで磨くんはやめて欲しいわ」
「フッ……その調子だと大丈夫そうだな。屋敷の使用人は優秀だ。言わずともそれなりの仕事はやってくれる。せっかくしてくれているのに、それに文句をつけるのは酷いと思わないか?」
「…………思う」
 まるで子供をあやして納得させるような言い方だが、惟矩自身も思わず素直な言葉を口にしてしまう。
 確かにそこまで気を配ってくれているのに、しなくていいと突っぱねてしまうのはいくらなんでも可哀想だ。
「じゃあこれからは惟矩が気を付けるんだな。……悠里。仕事の件で話しておきたいことがある。一緒に来てくれ」
 梓乃が悠里の方へ向き直ると、不敵な笑みをたたえた意地悪そうな梓乃の姿はなかった。社会人として、人の上に立つ者の威厳を含んだ梓乃の表情がそこにあった。それが惟矩にはどうしてなのかわからない。純粋に、入学式で見たようなその表情に見惚れていた。
「では惟矩様。衣類等は既にこちらでご用意しておりますので、汚れた服はドアの脇のボックスに入れて、お好きなものをクローゼットからお選びになって下さい。惟矩様が持ってこられた荷物はベッドの脇にまとめて置いてありますので、もう動けるようでしたらご自分で整理をしておいて下さい。夕食時には内線で指示をいたします。それまでは自室で過ごすようにして下さい」
「じゃあまた後でな、惟矩」
 そう言い残し、惟矩の部屋から出て二人が遠ざかるのを確認してからゆっくりと大きく息をつく。それから慌しくてゆっくり見ることのできなかった室内を見渡した。
 寝室のこの部屋には天蓋つきのダブルベッドとソファにローテーブル、壁掛け式の液晶テレビ、着替え用のクローゼット、オーディオデッキがあった。隣の部屋に続くドアのすぐ脇には、汚れた服を入れるようにと指示された青いボックスが置いてあった。
 寝室の右側にある、換気のために開いていたドアの向こうには脱衣所があり、カーテンで仕切られた簡易バスが見えていた。ここからじゃ確認はできないが、ユニットバスではないらしい。
 惟矩はベッドから降りると、梓乃達が出て行ったドアを開けて自室へと足を踏み入れる。
 そこも寝室より広いくらいの面積があり、機能性に優れていることで話題になっている新型のデスクはもちろん、最新機種のパソコン、大量の蔵書が入る大きな本棚に、寝室よりも大きなソファとローテーブルが置かれている。カーテンで覆われた窓を開けると、そこはバルコニーになっていた。
 内装は白で統一されており、言ってくれればすぐにでも業者を呼んで惟矩好みの内装に変えると悠里は言っていたが、その必要はなさそうだった。
 部屋のスケールが自分の思っていたのとは全く違っていたので、惟矩は始終開いた口が塞がらなかった。
「ど……えらいところに来てしもうたんかな、俺……」
 ようやく気付いた惟矩はそう洩らすと、少々痛む頭を押さえながらまず着替えようと、寝室へ戻っていった。

「よろしいのですか? いくら在宅中にもかかわらず、梓貴様が何もおっしゃらないとはいえ……」
梓乃のすぐ後ろをついて歩く悠里が心配そうに言うが、梓乃は気にしていない様子だった。
「平気だ。親父には仕事絡みだと言ってある。まぁそれだけじゃないが嘘じゃない。何か言われても、こっちにだって切り札はあるしな。それより悠里、例の新ブランドの件はどうなってる」
「は、はい。梓乃様のデザインを先日業者の方にまわしましたので、試作品が手元に届くのは二週間ほど先になるかと。それで問題がなければモデルの方に直接渡し、ポスターの製作に入ります。比較的低コストなので、資金に関しての問題はないと思われます」
「そうか。ロゴデザインに時間がかかったが、やっと今日納得いくものが出来た。明日までに業者の方にまわしてくれ。部屋にあるデータを渡す」
「わかりました」
 真面目な顔をしているというのに、梓乃の表情はあやしくなり始めている。
 幼い頃からの付き合いだったせいか、梓乃がこういう表情をするときは絶対ロクでもないことを企んでいるというのがわかる悠里は、どうしてか惟矩の身が気がかりになってしょうがなかったのだった。



       4


 
「何をされているんですか? 惟矩様」
 一家庭にしては広すぎる本格的な厨房の大きな冷蔵庫の中をのぞいていた惟矩は、後ろからかけられた悠里の言葉に悲鳴を上げそうになるのを何とか堪えた。
 惟矩が九条家に来てから一週間が経った。
相変わらず授業もバイトもハードだが、持ち前のスタミナと両親譲りの根性で何とかこなしていた。
 だが休憩時間中と部活動中、そして登下校。ひそひそとした噂が惟矩には付きまとっていた。
『あの吾野惟矩っていう関西人、九条先輩に媚売りまくってるよ』
『知ってる知ってる。しかも最近は登下校も一緒だって。調子乗りすぎだしね』
『あんなサル、九条先輩が本気で相手にするわけないじゃん。いつか捨てられるよ。泣きを見るのはあいつの方さ』
『そーだよね〜』
 というようなものだ。わざわざありもしないことを聞こえるように喋りまくるくらいの悪知恵は持っているようで、惟矩はそのことに感心していたが、一切干渉する気はなかった。
 「あんなもの」や「あんなサル」や「野蛮人」扱いにはもう慣れてしまったようで、痛くも痒くもない様子を見せながら「バカか」と言わんばかりに鼻で笑う惟矩のさりげない仕草に、梓乃狂信者達(惟矩曰く「もう親衛隊の域とちゃう」)の怒りは募るばかりだった。
 ギクシャクとした、もっと言えば非常に不愉快な学校生活の合間の休日。惟矩はすっかりストレスを溜め込んで迎えた暇な時間を、余裕がなくて出来なかった菓子作りに使おうと厨房に来ていたのだ。
 梓乃がここに来る前にそれは承諾したし、料理長にもちゃんと許可はもらってあるが、さすがに悠里までは考えがいかなかった。
「ぁ、えーっと、かっ菓子作りしとなったんや。あ、シェフにもちゃんと許可はもろたし、九条もええ言うとったでっ」
「そうですか。……惟矩様はそういうのお好きなんですか?」
「えーっと……」
 本当は好きだが、それを言うと女みたいだと笑われるような気がして、惟矩は言いよどんだ。が、それも意味はなかったようだ。
「別に隠さなくてもいいですよ。私はそれで惟矩様を笑ったりはしませんから。……梓乃様にも多少話は伺っておりますので」
 悠里は柔らかな微笑みを向けるが、惟矩はやはり顔を赤くした。
(あんの自己中めっっ! 余計なことは言わんでええねんっ。……にしても、あかん。慣れへん。様も敬語も)
 あまりにも次元が違うため、敬語はまだしょうがないにしても、様付けはやめてくれと惟矩は一度悠里に頼んだ事があった。だが、『いえ、私は教育係とはいえ使用人と身分はそう変わらないのですから、そういうわけにはいきません。使用人たちが戻ってきたら、今以上に呼ばれることが多くなる事ですし、慣れなければいけませんよ』と笑顔で一蹴されてしまった。
 惟矩自身もそんな生活に慣れようという努力をしているかといえば、欠片もしていない。その辺は自業自得なのかもしれない。
 理由は慣れないものは慣れないし、面倒だという投げやりな物事の考え方によるものだった。
 それもストレスの原因に少なからずなっているのだから、趣味に没頭する前にまず現状の改善を目指すべきである。日頃の態度から相手の心情を察する事のできる悠里は無言でそう思っていた。
「と、ところで何か用でもあるん?」
 惟矩に訊ねられ、本来の用件を思い出した悠里はハッとする。
「梓乃様が惟矩様をお呼びです。すぐに梓乃様の部屋へ行って下さい」
 その言葉に惟矩は「来たか」と思った。
(例の「仕事の手伝い」とかいう……)
 ここ一週間梓乃からは何も聞かされていなかった為、惟矩はずっとそれが気になっていた。「手伝いをするときは梓乃と二人きり」ということ以外は。
 何を何の目的でやらされるのかがわからないので、不安が募っていたところだった。「二人きりで」というのも何か引っかかる。
 引っかかる原因は、ここへ来たときに寝ている間にキスをしたかもしれない相手その一だからだった。
(せやけどそれやったら悠里さんも一緒か……あかんっ、何考えとるんや俺!)
「く、九条の部屋やな、わざわざ来てくれておおきにっ。ほなまた後で!」
「はぁ……。あ、惟矩様!」
 考えないようにしているのについつい疑ってしまうことに罪悪感を感じ、いたたまれなくなった惟矩は厨房を飛び出した。悠里が呼んだ時にはもう惟矩の姿はなかった。
「これを置いていかれてしまっては、迷ってしまうというのに……」
 悠里の手には方向音痴な惟矩が広い屋敷の中で迷わず移動できるように、細かにかかれた屋敷内の地図が握られていた。
「仕方ないですね。梓乃様のところに一度戻ってから探しましょう」
 溜め息をつくと、惟矩の持っていた地図を持ったまま来た道を戻ることにした。
 そして慌てて地図がないことに気付かないまま飛び出してきた惟矩はというと。
「ここ、どこやったっけ?」
 角があるたびに曲がっていたため、惟矩は自分の今いる場所がわからなかった。
(そや、地図地図……)
 持っていたことを思い出してポケットを漁るが、ズボンのポケットにもシャツのポケットにも入っていない。
(しもたっ、厨房に置きっぱなしやった〜!!)
 そこで厨房に置き忘れたことに気が付いたが、今ではもう後の祭りだ。顔がどんどん青くなっていく。
「せっかく作ってもろたのに、これやったら意味ないやんか〜〜っ! オレのアホっ」
 どこでどう曲がったのかさえ覚えていないので、厨房に行くことは到底無理だ。たとえ地図があったとしてもきっと戻れないだろう。曲がった方向がわからないのだから惟矩には現在位置すら確認できない。
 惟矩の声は屋敷の一角にむなしく響いただけだった。
 自分ではどうにもならないと思うと、行儀悪く埃一つない絨毯の敷かれた廊下に座りこんだ。
 胡坐をかきながら周りを見渡すと、有名な某画家たちの作品が壁に均等な間隔で並べられていた。惟矩でもわかるような「ベートーベン」や「モーツァルト」、他にも「バッハ」や「シューベルト」などの肖像画があった。ここは音楽家たちの肖像画ゾーンというところだろうか。
確か地図中にそんな風に記されていたところがあったなと惟矩は思ったが、肖像画の人物の顔を眺めているうちにだんだんと冷や汗をかくようになった。
 惟矩はホラー物が好きだが、それはあくまで空想上、人の恐怖心を煽るために作られているのだと割り切っているので平気なのだが、実際にその雰囲気を体験してみるとそういうわけにもいかなくなってくる。
 以前学校でもそのような恐怖心に囚われていた記憶があった。
 ホラーを人一倍見ていた惟矩は、そのかわり人一倍「怖いと思うシチュエーション」が頭の中を巡るのだ。つまり、
(しょ、肖像画の目が動いたような気ぃする……何かコワイっ)
というような考えが芽生えてしまうのだ。
現実的に考えてみれば「描いてあるものの一部が動くはずないだろう」で済むが、何故かこういう場合はその「普通」の思考が恐怖心に押さえつけられて出てこなくなる。
(誰か〜〜、早く見つけてくれ――!)
 半分涙目になりながら、早く誰かが見つけてくれることを一心不乱に願っていた。

 その頃梓乃は悠里が部屋に惟矩も連れずに戻ってきた理由を聞くと、すぐさまデスクの上に置きっぱなしにしていたノートパソコンを立ち上げた。
 惟矩の部屋に用意されていた服には全て、超小型の端末が服のタグの裏に取り付けてあった。方向音痴だとわかっていた梓乃は、こういう事態を予想できないほど馬鹿ではない。屋敷の中でもそれは同じだ。
 屋敷の地図のデータを引き出し、端末の信号から位置を確認する。惟矩の地図によるとその別棟前の通路は「音楽家たちの肖像画通路」と記されていた。
まだ屋敷の中にいたことに梓乃はホッとして立ち上がった。……一人寂しく待っている惟矩を迎えにいくために。
あとでお仕置きをしようと企んだ梓乃が楽しそうに笑ったのを悠里は見逃さず、そしてやはり惟矩のことを心配した。
 そうして惟矩は「屋敷の中で遭難」という事態からようやく解放されたのだった。

       *

「――――で、これは一体どういうつもりや」
「見ればわかるだろう。今さっき説明した通りのことをしてもらうだけだが」
 梓乃の部屋にようやく落ち着いた二人は、悠里が部屋から出た後でやっと「本題」に入ることが出来た。
 惟矩がさせられることというのは、「梓乃専属のモデル」だ。まぁ「専属」と言っても惟矩は何もしていないのでその言葉は若干不適切だが、惟矩はそう思っていた。
 何故そうする必要があるのか、まずそれが気になるところだろう。惟矩も真っ先にそれを訊ねた。
 梓乃は九条グループの多種多様な事業の中でも「アパレルメーカー」、つまり洋服ブランドの会社の主要デザイナーを務めていた。 
元々九条グループにそのような事業はなかったのだが、梓乃の発案で立ち上げたそれを、梓乃自身の、世間から高く評価されていたデザインの才能で業績を上げ、今では全国でもトップの売り上げを誇る大人気のブランドとなっていた。
 最近では国外での店舗拡大も手がけており、新聞やテレビ、雑誌などで話題になっていた。
 その主要デザイナーなのだから素性は割れてるんだろうと惟矩は思ったが、マスコミや記者に公表した情報には全く偽りの人物を挙げているのでその心配はないそうだ。
 最近では新ブランド設立のこともあって出演依頼や取材依頼が殺到している。なるべく断っているが無理な場合は悠里に出てもらっているとのことだ。
 全てが惟矩の想像の範疇を超えていたため、説明を聞かされたあと何度も「ほんまにそうなんか?」と訊き返していた。
 問題はその次だった。
 以前から客の要望があったため、梓乃はゴシック路線のデザインもしており、その新ブランドである『DarkNight(ダークナイト)』の準備も着々と進んでいた。
 だが思った以上にイメージが掴みにくいということで、被写体に誰か一人を置くことに決めた。その対象になったのが惟矩というわけだ。
 理由は「中性的で自分のイメージにあっていたから」と言う個人的なものだが、それだけではないことに惟矩が気付いた様子はない。
 その他惟矩が訊ねたことは数え切れないほどあるが、梓乃は全てそれらしい理由をつけて何とか言いくるめていた。
 が、さすがにそれでもダメなことはあるらしい。
 平然と構えて「さぁ、早く着替えろ」といわんばかりの視線を向けている梓乃に、眉間に皺を寄せていた惟矩のこめかみはピクピクと動く。明らかに青筋が立っていた。
「……アンタの仕事のことはようわかった。俺をモデルに選んだ理由も不本意やけど認めたる。せやけど何や、このイカレタ服っ!」
 「イカレタ服」の部分を強調しながら惟矩は怒鳴った。仮入部初日に出した声とはいい勝負かもしれない。
 惟矩は渡された服を両手で広げてからすぐにクシャクシャに丸める。
 見るも無残な姿になってしまったその服は所謂、「ゴスロリワンピ」というヤツだった。しかも露出度が極めて高い。
 今は春だが、サマーシーズンに向けてデザインは結構刺激的になってしまったらしい。
今の惟矩はそんなことなどどうでもよかった。ただ「こんなモノを高校生男子に着せようとする目の前にいる奴はどこかおかしい」とだけ思っていた。
 普通に女の子が着たとしても、逆に鼻血を噴く人が出てもおかしくないくらいだ。
「あり得へん……どないしたら、こんなちゃらちゃらとした服を着て街中(まちなか)うろつけるんや? ってかそれ以前に女物やろ、これ。何で俺が着なあかんねん」
 既に呆れモードに入ってしまった惟矩は服を見ただけで怒鳴る気力も失せた。が、軽蔑した瞳を梓乃に向けることはやめなかった。
「俺のイメージに合ってたからだ。選んだ理由にもそう言ったろ。とにかく早く着てくれないと、こっちだってデザイン進まないんだよ。服のサイズは心配するな。ちゃんと合わせてあるし、惟矩は細い方だからな」
「そないな心配なんぞ一秒たりともしてへんわっ! アンタは一体俺を何やと思ってんねんっ」
「アンタじゃない。梓乃だ」
「呼び方なんぞどーでもええねんっ! それ以前に聞いとらんわっ。アンタは俺の中じゃ一生アンタやっ」
「冷たいな。まぁいい、無駄話はそれくらいにして早く着替えてくれ」
「嫌や言うとるやろ。第一、気持ち悪うてかなわん。アンタだって見た瞬間にきっと吐く」
「はぁ……そういうことは鏡を見てから言え」
「はぁ?」
 自分の魅力に気付いているはずもない惟矩は「何でほんまのことを言うんに鏡を見る必要があるんや?」と頭の中に疑問符を貼りつけていた。
 それからしばらく「着ろ」と「嫌や」の押し問答が続き、埒があかないと言った梓乃が一つの提案を出した。
「じゃあこうしよう。惟矩が俺のところの「cherry」の服を着て、外を歩く。それで男だとばれなかったら、仕事をしてもらう。もしばれた場合は何もしなくてもこの屋敷でこのまま生活できる。どうだ?」
 「cherry」といえば十代から二十代を中心に人気のあるブランドだ。ただし、ガールズファッションのだが。
 それに対してメンズファッション中心で展開しているのが「wish」。ちなみに屋敷に用意されていた惟矩の服は全てそのブランドだ。
 元々ブランド云々の話には疎い惟矩なので、「着やすいし、センスがいい」という感想しか持っていなかった。もっとも、その服が上下あわせて平均でいくらするのか聞かされれば、そんなことはないだろうが。
 きっとセンスをどうこう言う前に「金の無駄」とハッキリキッパリ言い切るだろう。
 何としてでも女物の服を着せようとする梓乃の言葉に「アンタは何様のつもりや」と抗議しようにも、明らかに言葉不足の惟矩には限りなく勝てる確率は少ない。
(少しは人の意見も尊重しろやっ、俺は嫌や言うとんねんぞ!)
 また押し問答になるのかと思えばそうではなかった。惟矩は梓乃に背を向けると、そのまま部屋の外へ続くドアに走り出す。梓乃はその様子を見て、一言だけ言った。
「……惟矩の命がどうなってもいいなら、自分の部屋に戻ってもいい」
 その言葉にただならぬ不安を感じた惟矩はドアノブに手をかけながら振り返る。
「い、命って……俺をどないするつもりや」
 梓乃の言葉の迫力に「嘘ではない」という雰囲気が漂っていた。そのためか、惟矩の声は心なしか弱かった。
 梓乃は鼻で笑って続けた。
「惟矩は俺の手伝いをするためにここに来る以前に、二千五百万の借金を俺が肩代わりしてやった。何もせずにここに居座るというのなら、その金は無駄だ。その体と容姿なら、人身売買にかけたって十分今後の足しになるな。今は不経済だ。惟矩の力じゃ返済に何年かかるかわかったものじゃない。つまり……」
「俺を……売る、言うことか……?」
 冗談には聞こえないその言葉に惟矩の声は少し震えていた。
(そんな世界がどこにあんねんっ……って言いたいけど、ほんまにあるかもしれへんし……っていうか犯罪なんちゃうんか)
 そんな惟矩の考えを見透かしたように梓乃は笑った。
「犯罪じゃないのか、って考えたろ」
「……っ!」
「……言っておくが裏の世界はそんなことで足がつくほど単純なものじゃない。金さえあれば人の口はいくらでも塞げるんだからな」
「…んのっ、極悪人!!」
「どうとでも言え。それよりも早くどれかに決めろ。街歩くか、今ここで着るか、人身売買にかけられるか…の三択だ。これでも俺はかなり譲歩しているんだが?」
 さすがに権力を行使されれば惟矩には何も出来ない。怨念でも込めているかのような目で梓乃を睨みつけるが意味はなかった。
 そうなればあとは三択のどれかを選ぶだけしかなかった。少し考え、惟矩は選んだ。
「外、歩く……」
 顔を真っ赤にしながら惟矩は言った。
(もしそれで男やとばれたら、これから先何もせんと暮らしていけるんやからな。気づかんやつは世の中にいとらへんわ!)
 自分が男だということに気づかないヤツはいないと絶対的に思っているが、逆にばれなかったときのことは全く考えていない。自分の容姿がどれだけのものなのか、知らないことほど哀れなものはない。
「ほぉ、それでいいんだな?」
「ああ」
 一度に確認すると梓乃は隣の部屋に引っ込み、戻ってきたときには数着の服を持っていた。
「俺の隣を歩かせるんだ、せっかくだから俺がコーディネートしてやる。女物のセンスは惟矩にはないだろうしな」
「当たり前や。女でもないのに、女の服のセンス覚えてどうすんねん。生きてくのに必要な知識やないやろ」
 暗に「むしろこういうことをさせるお前の生き方自体が間違っている」と匂わせたつもりだったが、梓乃は気にもせずに惟矩の服が着る服を選んでいた。
 数分後、惟矩が手渡された服は派手すぎない、ナチュラルな感じの服だった。
 どうせ男同士なんだからといきなりそのばで服を脱ぎだした惟矩に、梓乃が少なからず驚いたのには気付かなかった。
 そして最後に、梓乃は長袖のTシャツに紺のベストを合わせ、踝まで丈のあるデニムスカートを穿いた惟矩の頭に首元までの長さがあるカツラと帽子をかぶせた。
 キャップ以外の帽子とカツラを被るのは初めてだったため、惟矩は何度となく頭をバリバリ掻いていた。


       5


「……んでこんな街中歩く必要があんねん」
 幾度目かの同じ質問を惟矩は渋谷の真ん中で梓乃に訊ねた。
「なるべく多くの人の目にさらされた方がいいだろう? 男か女か、人の目が多ければ多いほどばれてくるからな。それでばれなければ、惟矩も納得できるだろうと思ったんだよ」
(けっ、どうせばれるんや。その考えが命取りや、アホめ!)
 梓乃が人ごみの中を選んだ本当の理由は、可愛い自分の「お相手」を見せ付けたかっただけだが、「自分は男だ!」と言う周りには全く気づいてもらえないオーラを出し続けている惟矩には決してその本意は読めないだろう。
 周りが梓乃の容姿と惟矩の可愛さに思わず目を追うことも、「男なんじゃないか?」と疑っているようにしか感じていなかったが、露骨に人前では訴えられなかった。
 昼食を摂った後、さすがにここまで誰も口に出さないのはおかしいな、と思い始めた頃。
 惟矩は今最も会いたくない連中を目にし、思わず梓乃の影に隠れる。が、梓乃はそれに気付くと惟矩の気持ちもお構いなしにその集団に近づいていった。
「やあ、こんなところで奇遇だね。何してるんだい?」
 すばやく猫を十匹くらい被った梓乃が声をかけた途端に一斉に振り返り、そして頬を染めたのは九条梓乃親衛隊(狂信者)御一行だった。
「く、九条先輩っっ」
 思わず声を上げたのは、いつも率先して惟矩をいびるリーダー的存在のヤツだ。惟矩はここぞとばかりに顔をしかめた。
「弓道部の一年生が結構いるんだね。もしかして弓道具とかを見に来たのかい? この辺は危ないから、集団とはいえ気をつけなくてはいけないよ」
 そして思わず目をハートにし惚けている親衛隊よりも、梓乃の猫被りな態度に余計に眉間の皺が増えてしまっていた。
(何やこの態度の差! こんな奴のどこがええんや、この狂信者めっ。アホか)
 とか思いつつも、実は自分の正体を見破ってくれることに少なからず期待していた。
 いつも学校でイヤというほど睨みつけているんだから、いくら女物の服を着て、カツラと帽子を身に着けていても一人くらいは気づいてくれるだろうと。……気づかれた後のことはあまり考えてはいなかったが。
 だが現実はそう甘くはなかった。
 集団の一人が梓乃の影でこそこそと隠れていた惟矩を見つけた。
「九条先輩、その後ろの方は……」
 その言葉に他の者も目を向ける。惟矩は余計に縮こまってしまっていたが、そんなことをする必要はないとすぐに思い直し、少しばかり梓乃の後ろから体をずらした。
「あぁ、恋人だよ。今日はデートなんだ。こいつがどうしても街に出たいって言うからさ」
「なっ、ちょっ……もごごっ」
 その言葉に思わず地で叫ぶところだったが、その前に梓乃の大きな手が鼻ごと惟矩の口を塞いだ。
(何言うとんねん! そんな嘘八百どっから出てくんのやっ。しかも狂信者ども、いかにもショックみたいな表情浮かべとんなっ! 気付かんかい、嘘ってことぐらい!)
 目の前にある十人前後の顔色が皆一様によくない。梓乃に恋人がいるとはある程度予想できていたとしてもそれなりにショックは大きいだろう。ノンケだということにも。
「か、可愛らしい方ですね……」
「九条先輩たち、とても…お似合いですよ」
 素直に認めたくないという気持ちが言葉からも感じて取れそうなほどだが、隠すかのように賛辞を並べた。
(オイ! 可愛らしいて何や!? お前らの目はいつからそんな節穴になってもうたんや! いつもケモノのような目つきで俺を睨んどるくせしてー! 何で気付かんのや、どアホっ)
 叫びたくても鼻ごと口を塞がれてはどうにもならない。誰一人として気づいてくれる様子はなく、惟矩は諦め半分に梓乃の手を何とかどかすと大きく溜息を吐いた。
「……早くしろって言ってるから、また明日、学校で」
 ポーカーフェイスの笑顔を嫌味なほどに振りまいて、惟矩を引きずる形で梓乃たちはその場から離れていった。

 「やっぱり梓乃先輩、恋人いたんだ……」
 その場で呆然と立ち尽くしていた親衛隊員たちは幸せそうな梓乃の笑顔(実は惟矩の反応が面白かっただけなのだが)が頭の中に染みのように残っていた。
 本人の前では「九条先輩」だが、普段は「梓乃先輩」と呼んでいるちゃっかりした集団である。
「可愛い人だったよね。僕たちじゃ勝ち目ないよ。女性ってことは梓乃先輩、ノンケってことだろうし……」
「まぁでも、あの野蛮人がつくよりはマシだと思うよ」
「そうだよね。あいつ、このこと知ったらどんな顔するだろうね?」
「フン、やっぱり泣きを見るんだよな。でしゃばった事するから」
「でもあの顔……どこかで見たことなかった?」
「さぁ……確かにそんな気はしたけど、気のせいじゃん?」
 それもそのはずだろう。実際いつも睨んでいびっている相手なのだから。
その野蛮人が女装していたことにも気づかない狂信者たちは、いつの間にか「九条梓乃親衛隊」から「吾野惟矩いびり隊」予備軍になりかけていた。誰も自覚はなかったが……。

「…………」
 そして惟矩は何も言えなかった。梓乃は「どうだ」と言わんばかりに惟矩を見ている。
 平日は四六時中惟矩を睨み、恨み、妬み続けていると言っても過言ではないあの連中たちが誰一人として気づかなかったのは、惟矩がそれだけ「女の子」に見えていたということだ。
 今になって「可愛い」「お似合い」という言葉が反芻し、ショックを受けていた惟矩は、これ以上歩いていても意味はないとわかった。
「……帰る。…もう、ええわ」
「じゃ、俺の手伝い引き受けてくれるよな? 男だとばれていないし、さっきのあれで十分わかったと思うが」
 途端に剥がれた猫をそのままに喋りだす梓乃は、楽しそうな笑みをその顔にはりつけていた。

       *

「ふざけんなっ!」
親衛隊たちとはまた別のショックを抱えたまま屋敷に戻ってきた惟矩は、梓乃の部屋でまた怒鳴り声を上げていた。
 夕食を済ませ、部屋に戻ってきた途端に惟矩に手渡された試着用の服は、先ほど屋敷を出る前に押し付けられたものとは全く異なるものだった。変わらないことといえば、スカートの丈とヒラヒラのフリルがついているという点だ。
 それはアニメオタクが四六時中やっているようなギャルゲームの中に出てきそうな「メイド服」だった。
 「時間ロスをした」などど、自分が提案したにもかかわらずごねた惟矩のせいにして、一種の「お仕置き」が課せられたのだ。
 それが…………。
「コレ着て、クッキー作って持って来いやと? 冗談にも程があるやろ!!」
「冗談を言ったつもりはないんだがな」
「んでそんな普通の顔してえげつないことが言えんねん」
「どこがえげつないんだ? 借金地獄に押しつぶされそうな惟矩を助けて、住む場所や着るものに、食べるものまで与えてるんだぞ? 少しのわがままくらい聞いてくれなきゃな」
「その弱みを盾にとって、言われた方の気持ちも考えんと思い通りにしようとすること自体がえげつないんや」
「もともとそういう条件だったろ?」
「確かに手伝いはする言うたけど、お仕置きなんて聞いとらん!!」
 確かに趣味はお菓子作りだが、メイド服を着て作るような趣味のない惟矩は猛反発した。
「惟矩はお菓子作りが好きなんじゃなかったのか? …俺はその服を着るという「手伝い」をしてもらいながらならお菓子を作っても構わないと言ってるんだ」
「さっきは「お仕置き」言うとらんかったか?」
「さぁ。そうだったか?」
「〜〜〜〜〜っ」
「早くしろ。それとも売られたいのか、変態の金持ちどもに」
 また選択を迫られるが、惟矩にはそんなことに耐えてまで生きていける屈強な心(と言うよりは一種の諦め)はなかったので、渋々ながら着替えることにした。
 簡単に着れるように服もエプロンもファスナー仕様になっていたのだが、あちこちにボタンがついていたりリボンがついていたりで惟矩はなかなか着ることが出来ず、しまいには梓乃に着替えまで手伝わせることになった。これじゃ先が思いやられると梓乃は口には出さずに思った。
 口に出さないでいたのは、言えば惟矩は絶対に反論して煩くなるとわかっていたからだが。
 ガーターベルトを付け、さっきとは違うツインテールの茶色のカツラとヘッドドレスを頭に被せれば「新入りメイド・吾野惟矩」の出来上がりだ。
 鏡を見た惟矩は吐きたいのか、呆れたいのか、悲鳴を上げたいのか、どの気持ちを優先させればいいのかがわからなくなり、結局眉根を寄せた表情になっていた。梓乃は対照的にいい出来ばえだと上機嫌になっていたので、惟矩は仕返し半分に履かせられたヒールの踵で梓乃の足のつま先を踏んだ。
 この日は悠里と梓貴が仕事で深夜まで部屋から出ないので、廊下で誰かに出くわすということはほとんどない。なにせまだ使用人は旅行で留守状態だからだ。
 出来れば誰にも会うことはありませんようにと祈りながら、ゆっくりと廊下を歩いていった。
 地図を頼りに厨房へと辿りつくと、シェフは夕食の後片付けを終わらせて敷地内の寮に帰ったらしく、誰も厨房内にはいなかった。
 昼間の悠里のように誰かが入って来るのを防ぐため、惟矩は即座に鍵をかけた。
「さて〜……こないな格好で、作るモンもあいつの為やなんて嫌やけど、しゃーないか。菓子は作れるんやしな」
(それに自分の命も握られとるんやからな……)
 十分短い袖をいっぱいまで捲り上げ、不満タラタラながら惟矩は気合を入れて作業に取り掛かった。
 母親から教えてもらった惟矩の菓子作りは手際がよく、次から次へと材料をボールの中に放り込んでは梓乃に対する恨みつらみを込めたようにかき混ぜていく。
男とは思えないほど器用に生地の形を整え、あっという間にオーブンでクッキー生地を焼いていた。
「ふぅ〜、後は十七分待つだけや」
 洗浄器に使った容器を入れながら惟矩は息を吐く。洗浄のスイッチを押してから、惟矩は壁に寄りかかった。
「そういや……ほんまに誰何やろか……」
 本の中に出てきそうな探偵のように腕組をして考えているが、探偵と言うよりはその探偵の助手が変装をしたまま考え込んでいるようだった。
『チーン』
 オーブンの音でハッとなった惟矩は、急いでオーブンの中からクッキー生地の敷き詰められた鉄板を取り出し、よく焼けていることを自分の舌で確かめてから、満足げに「うん」と頷いた。
 片づけを済ませて、クッキーをキッチンペーパーに包んだときには梓乃の部屋を出てからもう1時間以上経っていた。
「早よ持ってったらなあかんな。結局小言言われそうやけど」
 見かけの割には人を待たんからなぁとぶつぶつ独り言を呟きながら、シンと静まり返った廊下を早足に進んでいく惟矩は、近くの部屋から聞こえてくる押し殺したような声に足を止めた。
「んっ……く、ぅ……」
 慌てて自分の今いる場所を確認した惟矩は、そこが梓乃の父・梓貴の自室の前だということがわかった。
「ぅっ…くあっ……」
 そして聞こえてくるのは悠里の声だ。
 実際に梓貴と会って話をしたことはなく、声がするほうも梓貴の自室の中からだったので、惟矩は興味半分に部屋のドアへと近づく。
 一つ一つの部屋の防音設備の整ったこの屋敷で部屋の中から声が洩れるということは、ドアが開いているという意味だ。
 せめてどんな人物なのかと部屋を覗いた惟矩は目に飛び込んできた光景に絶句した。
「やぁ…梓貴、さっ…ひぁ…!」
「ほら、自分が動くんだろう? しっかりしてくれないと、私も困るんだが……」
「…………っっ!?」
 惟矩の気になっていた梓貴はそこにいた。だが、その間が悪すぎた。自分の行動と考えの迂闊さを恨むほどに。
 どこかの会社の社長室のよう梓貴の部屋には大きなデスクが置いてあるが、その向こう側に置いてあるゆったりとした椅子の上で梓貴と悠里は息を乱し、情事の最中だった。
 惟矩の見える範囲からでは、二人が本当にどうなっているのかという部分は見えないが、明らかにセックスをしているように見えた。
 梓貴はスーツの上着だけを脱ぎ、自分の腰の上で全裸になりながら快感に喘いでいる悠里を感情の掴めない表情で艶美な笑みを浮かべていた。
(悠里さんが何で……梓貴、って九条の親父やろ……二人とも……えぇっ!? な、何なんや、コレ……)
 あまりにも刺激的過ぎるというよりは、まず現実離れした状況に惟矩は頭が混乱している。持っていたクッキーの包みを落とさずに握り締めていたのは幸いだった。
「も、ぅ……おねがい、です…からぁっ……あぁ……」
「悠里は何を、お願いしているんだ?」
「はぁ……もぅ、イカ…せてっ……下さい…」
 部屋の外では惟矩が離せない目を向けているとは露ほどにも思っていないだろう二人は、惟矩の動揺をよそにどんどん盛り上がっていく。
(イ、イカせて下さいって……ゆゆゆゆ悠里さん…やないよっ……いや、コレは夢や、夢! 頬っぺた抓ったら覚めるんやっ)
 決して強くない握力でも弓を引いて的を射るくらいの力、つまり本気で惟矩は自分の頬を抓る。
 涙が出てくるくらい抓ったにもかかわらず、目の前は何も変わらずに現在進行していた。
 いつの間にか室内にいる二人はクライマックスを迎えようと、律動を激しくしている。
 悠里の喘ぎ声も度を越え、廊下に通りかかった者なら、聞いただけで何をしているのかわかってしまうほどになっていた。
 主な使用人も敷地内に建てられた別棟の寮で寝泊りをするため、惟矩と梓乃以外はこの屋敷にはいないので油断しているようだったが、その油断は惟矩にとって大いに迷惑だった。特に精神面には堪えるものがあった。
 惟矩は足音を立てないようにゆっくりと後ずさり、遠回りだが近くにある階段を使って梓乃の部屋へと戻ることにした。
 二階に上がると、目の前には梓乃が立っていた。
「どうしたんだ、惟矩。随分と遅かったな。……何かあったのか? 地図は持っていったんだろう?」
「うぅ……く、九条ぉ〜……っ」
 何も知らない様子の梓乃に、迂闊に今あったことを喋るわけにもいかない。
 惟矩は何も言えず、ただ梓乃にしがみついた。
「惟矩……? お前…何か見たのか」
 階下には父親の自室があることを思い出した梓乃は、心当たりのあることを惟訊ねる。が、惟矩は首を縦に振ろうとはしない。横に振ることもなかったが。
「見たんだな……二人を」
 今の惟矩にはそれだけ言えば何のことかはすぐにわかるだろう。そして自分の父親が男と関係を持っていることを知っている梓乃に、惟矩は驚いて見上げた。
「何も言うな。……悠里も親父も、多分本気だからな。惟矩がそういうの、ダメだとしてもだ、俺たちには何も出来はしねーよ。他人(ひと)の恋路には首を突っ込まないほうがいい」
 偏見を持つのはあまりいいことじゃないと、梓乃は諭すように言った。
 たとえ世間一般や常識から外れていたとしても、人の本気に偽りはないし、ましてや否定など出来るはずもないと。
 だから何も言える立場じゃない。どんな奴でもそんなことは言えない。
「大丈夫か?」
「…………」
 梓乃は何も言えずにいる惟矩を抱きしめる。高校生にしては小柄な惟矩の体は、梓乃の腕の中にスッポリと納まってしまった。
(……暖かい)
 これじゃあまるで自分も同じじゃないかと自分自身に言い聞かせつつも、惟矩には梓乃に抱きしめられる感覚がとても心地よく感じられていた。
「部屋に戻るぞ。……ここじゃ、居心地が悪くてかなわないからな」
「……ん」
 惟矩は梓乃の腕の中で小さく頷くと、梓乃から離れ、どこか放心しているような様子でよろよろと歩き始めた。
 そんな様子を後ろから見ていた梓乃は、胸がキリキリと締め付けられるような痛みを感じていた。
(どーせ、叶わない片思いしてるよ、俺は)
 自分の父親と秘書の情事をありありと見てしまった惟矩の動揺ぶりを見れば、それは確信に繋がる。
 いつまでも隠し通していけるものじゃない。それだけはわかっていた。
 そして惟矩はあることに気が付く。
(悠里さんは……梓貴さんとのこと…本気や言うことは……あん時、俺にキスしとったんは九条なんやろか? 悠里さんはずっと見てはった言うとるし、やっぱそうなんやろか)
 あの性格からして、悠里は人に嘘をつくということはあまりしない。あの日、自分の部屋に入って来たのが梓乃と悠里だけなら、消去法で考えると自然に答えは梓乃ということになる。
 まさかと思いつつ、つい後ろを振り返ってしまった惟矩は、梓乃がそれに気付いて微笑みながら「どうした?」と訊く仕草に思わず顔を赤らめてフイッと前を向く。
 まだ先ほどのことが引っかかっているのだと思ったのか、梓乃は何も言わなかった。
(あああああ……どないしよっ。気付いた途端に……っ!)
 自分で否定したことだというのに何故だか動悸は治まらず、頭の中は混乱している。
 部屋の中に入ると手中に収めていたクッキーの包みを梓乃に無言で突き付けた。
 あまりの緊張に、ギュウギュウと握り締めていた包みの中に入っていたクッキーは、見事なほどにバリバリに割れていた。
 それでも味そのものは変わるわけではなく、欠片をつまんだ梓乃は「美味いな」と珍しく惟矩を褒めた。
「あ、当たり前やろっ。お袋直伝やからな」
 そないに笑顔を簡単に振りまかんといてくれと言えずに、赤くなりながら照れ隠しに言う。
「それよか早よ着替えさせてくれへんか? 足スースーしとって、穿いた心地せぇへんねん……は、恥ずかしいしっ!」
「あぁ、もういいよ。惟矩がクッキー作ってる間に結構仕事もはかどったしな。今日は早めに寝るか」
 その言葉に惟矩はホッとする。本当は寝ている間にキスをする奴なのだから、こんな露出度高めなメイド服など着ていたら襲われかねないと危惧したからである。
 自意識過剰かもしれないがあながち間違った考えではないので、惟矩も少しは学習したということだ。
 「寝るか」という言葉に惟矩が時計を見てみれば、時刻はもう十一時を回っていた。
 至って健全な惟矩はバイトのない日はすぐに寝てしまう。本当は今日もバイトがあったのだが、梓乃が全て休むと連絡を入れてしまっていたのだった。その分今日は十分な休息が出来るだろうと思っていた惟矩だが、こんなことになるとは思っていなかった。
 いつ部屋から持ち出したのか、惟矩がいつも使っているトレーナーの寝間着が部屋のソファにかけてあった。
 惟矩は迷いもせずにソファの前で着替え始める。それが軽率な行動だとはまだ飲み込めていないようだ。自分で危惧していた割には、共通して考えることが出来ていない。
 やっと脱ぎ終わったところで、トレーナーに手をかけたとき、惟矩は後ろから梓乃に抱きしめられた。
「お前……ホントに鈍いのな。そんな刺激的な格好、目の前でされたら我慢できなくなるだろう?」
 熱のこもった声で囁かれ、惟矩は肩をすくめた。そこでやっと自分の行動がどれほど危険なことだったかを知った。
「は、放せやっ。何抱きついとんじゃ、ワレ! 着替えられへんやろがっ」
 そんなことは問題じゃないとわかっていつつも、梓乃の気持ちを認めたくなくて適当に理由をつけて逃れようとする。
 言っても聞かないのはわかりきっていることだったので必死にもがくが、梓乃の腕は外れなかった。
「アンタが……あん時、キスしたんやな」
「……そうだと言ったら?」
「……い、嫌やぞ。俺は絶対ホモなんかにならんからな!」
 顔を真っ赤にしながら釘を刺すが、梓乃が本当に聞いているのかは定かではない。聞いていたとしても、大抵は無視する性格だということが惟矩には最近わかってきた。
「いいよ、今はそれでもな。……だが、逃がさない。いつか絶対に振り向かせてみせる」
 梓乃の口調はこれ以上ないと言うほど優しいものだった。
 ほんまに振り向いてまうかもしれへんと、ほんの一瞬思ってしまったことは惟矩だけの秘密だ。
「これ以上ないってほどいい男が手に入るんだぞ? 受け入れろよ。偏見はよくないって言ったろう?」
「偏見は確かに良かないけどっ……俺は嫌や言うとるやろ」
「その意地がどこまで続くか見物だな。惟矩は俺だけのメイドだからな」
「だぁぁぁあっ、メイド言うなっっ!!」
 火事場の馬鹿力を発揮してなんとか梓乃の腕を引き剥がすと、トレーナーを慌てて着て三メートルほど後退る。
「だ、誰が振り向くか! こないなとこ、いつか絶対逃げたるからなぁぁあっ!」
 引かれたことに軽く傷ついていた梓乃に向かって、屋敷全体に轟くほどの大声で自分自身に誓うようにそう叫んだのだった。


≪終≫



2005/10/28(Fri)15:19:28 公開 / 蒼唯
■この作品の著作権は蒼唯さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
BL系の話を書くのはなんとなく恥ずかしいですが、真面目に書き上げた作品なので、コメント(感想・批評など)を頂けると嬉しいです。これからの執筆作業に役立てていきたいと思いますので、ヨロシクお願いしますっ!!
えと、人生経験少なすぎるので、現実的に「これは無理!」とか「おかしくない?」ってところはどんどん言ってください。
(公民の授業もまだ受けていないんです……というよりは来年まで無理……)
人にはあまり聞けないので……。


時間の関係もあったりするので、最後は一気に更新させてもらいました。
みなさんからのコメントを頭に置いて、もっと自分の小説に自信が持てるように頑張ります。

どうも、ありがとうございました。

またお世話になる事もあると思うので、その時はまたよろしくお願いします。



作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
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2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。