『カウントダウン第一話』 ... ジャンル:リアル・現代 恋愛小説
作者:囲来優美                

     あらすじ・作品紹介
死にたい。いつもそう思っていた。だが、今 死ぬのは早すぎる気がする。だから今は死ねない。何かが起こるのを期待している。だから一年待とう。一年たっても「死にたい」と思うなら、睡眠薬でも飲んで死ぬ。そう、一年後、私は死ぬつもりだった。あいつに会うまでは。

123456789101112131415161718192021222324252627282930313233343536373839404142


<プロローグ>

 「つまらない日々」が変わり、つまらなくならないなら「死へのカウントダウン」を止めよう。
 「つまらない日々」が続くなら「カウントダウン」は止まらず、ゼロへと近づく。今から一年経ち、「ゼロ」となった時、私は死のうと思う。

 「死へのカウントダウン」を今から始めよう……





<決意>

 すべてがつまらない日々だった。
 そう思ったのは小学校の卒業式の後だった。


――――死んでしまおうか――――


 この中学への準備期間―――つまり春休み―――ずっと考えていた。毎日つらい新聞配達をして、数少ない友達と適当な会話をして、家に帰り、寝る。つまらない。もう死んでもいいと思っている。

 四月一日、エイプリルフール。
 仕事も終わったわけで、今、午前六時。空を眺めた。雲は意外に早く流れていく。
 自分のアパートの階段に腰を降ろした。そして、いつもと同じ事を問いかけてみる。
 ―――今日 死んでみるか―――
 そこでふと、「死へのカウントダウン」という言葉を思い出した。何かの本で、読んで覚えた言葉だった。「死へのカウントダウン」……頭の中で思考がうずまいた。

 腕時計は七時を指していた。
 頭の中の思考の速度は止まった。長い長い、「今日 死ぬか」という疑問の道から、答えへとたどり着いたのだ。
 カウントダウンを今から始める―――そう心に決めたのだ。
 
 しかし、中学校で出会う、ある人物によって、カウントダウンは狂い始めることとなるだろうということは、私はこの時は予想もせず、空をしばらく眺めていたのだ。
 空の色は、少しずつ明るくなっていき、雲は前よりも、早く流れていった。





<そいつと会った>

 そいつの名前は「黒川 真心」。クロカワ シンジ。
 突然、しかも入学式が終わって一週間という中途半端な時期に、学校の教室にやってきたヤツ。転校生だ。
 初めて、黒川を見た時、私を含めて大半の女子は「カッコイイ」と内心で呟いた。ルックスが良かったのだ。
 黒川が初めて教室に入り―――私と目が合った―――そう、あの時から不思議に思っていた。アイツは私のことを凝視したんだ。何? 私は思った。
 黒川はしばらく私をじろじろ見ていたが、やがて目をそらした。
 私はしばらく、ソイツを見ていた。


 私の席は、一番前だった。転校生は普通、一番後ろの席に座るはず―――だった。
 「今日の帰りの会で、席替えをします」
 クラスの担任がこう言ったのだ。理由は多分、今の席が出席番号順だから替えよう、ということであろう。周りは騒ぎ出していた。女子は、おそらく半分以上の人が黒川に興味があったと思う。「隣になりたい」―――そう思っていただろう。
 私は他人にさほど、興味を持たない方だった。芸能人など、ほとんど覚えていない。だが、黒川という転校生には興味があった。ソイツが、さっき、私のことを見た目は「信じられない」といっていたのだ。私が存在することが、信じられないという目だった。だから不思議に思った。そして興味を持った。それだけだった。
 ふと、彼を横目で見た。彼は男子に囲まれていた。ほんの少しだけ、隣の席になりたい。そう思った。





<会話>

 何と、席替えの結果、私は見事に黒川の隣の席になった。自分でも、つくづく変わった運の巡り合わせだと思う。
 黒川を見ると、彼も私を見ていた。彼は口を開きかけたが、同時に、帰りの会での先生の話が始まった。


 放課後、黒川は男子や女子に囲まれていた。あれだけ顔が良ければ、すぐにクラスから慕われる存在になるだろう。心の中では黒い影のようなものが沸き上がってくる。軽い妬み。すぐに抑えた。自分が、すぐに誰かを軽く妬んだり、恨んだりすることがいやだった。それは人間、誰でもあることだとも分かっていた。それでも、いやだった。黒い影が沸き上がってくるだびに思う。自分がきらい。もやもやしていて、どうにもできない。


 次の朝、ホームルームが終わった後だった。
 「名前、なんていうの?」
 黒川が話しかけてきた。
 「上川」
 名字で答えた。彼は机の上に、肘をつきながら聞いてきた。
 「いくつ?」
 心の中で小さな舌打ちをした。中学一年なんだから、十二か十三に決まっているだろう。むだな質問を、なぜ、こいつはする。そう思いながらも答えた。
 「十二」ほとんど、ため息まじりで言った。
 「へぇ、それにしては」 
 黒川の目は、私の容姿全体をとらえた。
 「十二に見えない」
 苦笑した。確かに身長百四十センチピッタリという小さな体だった。顔は童顔で、よく「かわいい」と言われる。
 黒川を見ると、クックッと笑い声をあげながら笑っていた。
 「さっきからラブラブだなぁ」
 不快な、からかい声が割り込んできた。同時に笑い声が止まった。
 振り向けば、うるさい男子共。佐藤涼とその他男子。
 「おい、黒川。コイツはお前のこと大好きだってさ」 
 佐藤が顔をニヤニヤさせて言う。くだらない。そう思いながらも言い返した。
 「んなこと、誰も言ってないじゃん」
 「お前、さっき顔がにやけてたぞ」 
 佐藤の横にいた矢口が口を出す。
 「にやけていない」 
 無表情でまた、言い返した。からかいに来たやつには、無表情で対応するにかぎる。案の定、佐藤達は、つまらないという顔を残して、去っていった。
 「男子の扱いに慣れているのか」
 黒川が話しかけてくる。大人びた口調だった。落ち着いた声。好感を持った。まぁね、と返事を返す。
 「さっきの男子っていつも、あんな感じなのか」
 黒川は教室から出ていこうとする、佐藤達を指さして聞く。
 「そう。いつもバカ騒ぎしている。そして頭も悪い」
 彼らのテストの点は、一教科五十点以下だと聞いていた。
 「へぇ。ところで次、移動教室?」
 教室には、いつの間にか私と黒川の二人だけとなっていた。そうだけど、と返事をすると、そいつは立ち上がった。
 「理科室、どこ?」
 仕方がない。
 「ついてきて」
 そう言い、理科室へと歩き出す。
 彼はついてくるというより、私の横へと歩いてきた。まるで、「一緒に行こう」とでも言うように。
 思わず、フッと笑う。誰かと一緒に歩くなんて、久しぶりだ。まして、男子と横に並んで、歩くなんて初めてだった。








2005/10/29(Sat)20:11:57 公開 / 囲来優美
■この作品の著作権は囲来優美さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
前回失礼致しました。
改めてかきます。初投稿の囲来 優美です。
できる限り、よい作品を書きたいと思います。
よろしくお願いします。

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で42文字折り返しの『文庫本的読書モード』。
CSS3により、MSIEとWebKit/Blink(Google Chrome系)ブラウザに対応(2013/11/25)。
MSIEではフォントサイズによってアンチエイリアス掛かるので、「拡大」して見ると読みやすいかも。
2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。