『父さん、アトムはまだいません』 ... ジャンル:ショート*2 SF
作者:新先何                

     あらすじ・作品紹介
コールドスリープ、三十才の父と息子、アトムはまだいない

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 父さん、アトムはまだいません。
 アトムどころか空飛ぶ車も、空中に出てくるTVもまだありません。
 父さん、まだまだ先の未来であいましょう。

 本日、父さんが目を覚ます。
 父さんは、今年になって僕と同い年になった。手塚治虫の代表作「アトム」を読んだ父さんは今、長方形の箱の中で眠っている。
 今から二十年前、コールドスリープという装置が開発された。人間を人工的に冬眠状態させ、体内の細胞の活動を停止させる事により成長自体を止める。つまり、一方通行のタイムマシーン。
 父さんは大金をはたきこの装置を購入した。全てはアトムに会うため。寂しい家と何枚もの借用証書とともに僕は一人で生きてきた。元々僕の事が嫌いだった母は、馬鹿な父さんにあきれて家を出てった。
 学校にも行けず、僕はゴミ捨て場から拾ってきた教科書や、文房具から盗ってきたノートで必死に勉強した。家のほとんどのスペースを埋め尽くした箱と三十才の父さんが憎くて仕方なかった。途中、本気で殺そうかと思った事もあったけど我慢した。僕は父さんに一言文句を言いたかった、だから必死に勉強した。二十年後の自分が父さんよりも上の人間になるために必死だった。そして二十歳のときに、この国のトップとも言える会社に入れた時はものすごく喜んだ。眠った父さんは小さかった。借用証書も枚数が少なくなっていくのが嬉しかった。
 そして三十歳になった今日僕は、借金を完済する事が出来た。これで僕は完璧に父さんに勝ったと思った。少し残った金で生まれて初めての携帯電話手に入れ、憧れのテレビも購入した。薄い最新型のテレビだ。僕は今、社長室のいすに腰を据える。今この国で僕の事を知らない人は少ないんじゃないだろうか。僕の生涯は感動的な話に姿を変え、テレビでも本でも大々的に取り上げられた。
 長々と話したが本日、父さんが目を覚ます。

――プシュー
 大きな音とともに白い煙が僕の部屋を埋め尽くす。冷たい。僕は箱の中の父さんに呼びかけた。そこにある顔は、僕の十歳の頃に見た父さんの顔と同じだった。不覚にも涙が出た。でもこれは感動の涙ではなく、心のどっかで嬉しいと思ってしまった自分への悔しさの涙だろう。
「おお、随分と変わったな。この二十年間で」
――沈黙
「この部屋も随分広くなって偉くなったんだなあ」
――沈黙
「で、もういるのか? アトムは?」
「・・・・・・うるさい」
「え?」
「うるさいんだよ! 僕がこの二十年間どんな思いで過ごしてきたと思う、学校にも行けず地道に努力して、今じゃ大企業の社長だよ。僕はあんたが憎かった。装置の電源を切ってあんたを殺そうとも考えた。けど我慢したさ、あんたに一言言いたくて頑張った、あんたより上の人間になろうと頑張った。けど結局あんたはアトムが見たいだけなんだろ! 親子の感動的な再会だろ、なのに『で』ってなんだよ」
 頭に血が上り少し立ち眩みがした。息を切らしながら父さんの顔を見る。
「そうか、確かに私は悪い事をしたと思っている。それに後悔もしている。本当は母さんにお前を預けるつもりだったが、母さんがお前を虐待しているとは知らなかったのだ」
 父さんはいつも忙しく働き家にいる時間は少なかった、母はそれをいい事に僕に虐待をし父が居る時だけいい母を演じていた。父に言うともっとひどい事を言われそうで黙っていた。
「けど許してくれ、私にとってアトムは家族を捨てるほど大事なモノなんだ。もちろん馬鹿らしい事だとはわかっている、どうか許してくれ」
 父さんは泣き崩れた。
「わかってる、わかってるけど仕方なかったんです。この二十年間僕は両親という存在がなかった、だからこのまま父親でいてくれとは言いません、ただ一言いいたかっただけで」
 僕は奥の部屋から一つの大きな箱を慎重に持ってくる。そして父さんの前に置く。
「父さん、顔を上げてください」
 僕は箱のふたを開け中の物を見せる。
「アトムはまだ無理だったけど、これが今の最新型ロボットです」
 僕はロボット製造会社に入った。アトムを作りたかったから。
 父は涙を流しながら言った。
「ああ、ありがとう」
 僕と父は熱く抱擁した。
「さあ、未来の町の見学に行こうよ。父さんの携帯も買ってあげるし帰ったらDVDで映画を見よう。まだまだ空飛ぶ車も空中に出てくるテレビもないけど」
 肩を組みながら僕と父は部屋を出た。新しくできた友人と酒を買わすのも悪くない。きっと父さんはまた装置を使うのだろう、それでもいいかもしれない。それが僕の友人の生き方なら止めはしない。
 二十年後の未来に向けて僕たち二人は歩いていく。

 父さん、アトムはまだいません。
 アトムどころか空飛ぶ車も、空中に出てくるTVもまだありません。
 父さん、まだまだ先の未来であいましょう。
 その頃までには僕もアトムを作って見せます。

2005/10/01(Sat)21:17:18 公開 / 新先何
■この作品の著作権は新先何さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
最近漫画の「PLUTO」読んで思いついたネタです。
しかし、アトムはおもしろいです。けどPLUTOの漫画が高くて結構ショックです。
はさておき、この話自分の中では不完全燃焼です。再会シーンがいまいち。というか設定を生かし切れない気がします。
できれば、ご指摘ご感想していただけると幸いです。
以上、新先でした。

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