『殺人ゲーム』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:永見健次
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溢れすぎた国民、後戻りのできない資本主義、日々深刻度を増す環境汚染。国家変革推進委員は内閣総理大臣大倉栄吉を委員長とし、これらの問題を包括的に解決するために内閣総理大臣によって秘密裡に徴集された組織だった。九月十一日の夜。場所は総理官邸執務室。副島委員が長い沈黙をやぶった。「合法的に人間の数を減らしていくというのはどうですかね?」他の委員の視線が一気に副島に集中する。「どういうことですか?」一人の委員が副島に尋ねる。「簡単なことです。不必要とされた人間は死んでもらうのです。」室内は一瞬張り詰めた雰囲気となった。「何をもって不必要とするのかね、副島君。」大倉が副島に質問する。「一人にでも死んでもらいたいと思われた人間には死んでもらうのです。」「副島さん、正気ですか?」米山委員が声を張り上げた。「正気ですよ。たとえばですよ。私が米山さんにはどうしても死んでもらいたいとします。わたしはその旨を公安に伝え、公安が米山さんを抹殺するのです。」副島は不気味な笑みを浮かべた。「話になりません。委員長、彼は刑務所から出てきたばかりで気が狂っています。早急に委員から外すべきであると考えます。「面白いね、副島君、詳しく聞かせてもらいたいな。」大倉は恍惚と副島を見つめた。「いいですがその前に賛同できない方がいると先に進めません。ここは多数決で決めましょう。」「そうだな。では副島君の案に賛成の者は挙手を賜りたい。」米山以外の六人の委員が手を挙げた。「委員長、みなさん正気ですか?こんなことをして許されると思ってるんですか?」「ここは国家変革推進委員だ。名称の通りこの国を変えねばならない。それなりの痛みが必要だ。ある程度の犠牲も必要だろう。」大倉は威勢良く応えた。「しかし…」「賛同していただけないのならこれ以上いてもらっても無意味です。改革の足かせとなるばかりです。委員長、米山氏の除名を。」「そうだな。では米山君を当委員会から除名する。異議ある者は?」沈黙したまま挙手する者はいなかった。「どうなるかわかってるんですか?マスコミにリークしますよ。あんた等は人殺しだ。」米山はそう言い残し部屋を出た。「これで邪魔者が一人消えましたね。」副島が繭を細め呟く。「これで米山は消えてくれるか?」「もちろんです。これで実証されます。総理、今送ったアドレスに米山達郎と彼の年齢を打って送ってください。これで政敵が一人消えますよ。」「そうか。それは何よりだ。わたしはもう殺せないのかね?」「そんなことはありません。今のはサンプルです。あと一人殺れますよ。」「そうか、それは何よりだ。」そう言うと大倉は残忍な笑みを浮かべた。「明日マスコミ各社に通達させます。総理の命が狙われる心配はないように配慮してあります。ご安心を。」「本日はこれで解散する。」大倉の声が高らかに響き渡った。
佐山秀介はこの日高校に行かず自分の部屋にいた。中学の時に勉強して都内の進学校に入ったが、秀介の父親が運営している会社が倒産して以来何もかもやる気がなくなった。付き合っていた彼女とも別れ所在無い日々を過ごしていた。テレビが嫌いだった秀介もつぶしにテレビを見るようになった。そしてこの日もテレビを付けた。「昨日の夜、衆議院議員で通産大臣の米山達郎氏が首相官邸で会議の後車に乗った後突如様態が悪化し、病院に運ばれましたが今朝六時十三分に死亡が確認されました。四十八歳でした。」政治家がくたばったのか、いい気味だと秀介は思った。世の中が悪いのは政治家や官僚どもが国民の税金を食い物にしているからだと秀介は思っていた。ついこの前まではいつか自分が政治家になって世の中の不条理をなくそうという夢があった。そんな夢もどこへいったのか秀介はひたすら虚ろな毎日を過ごしていた。おかげでどうでもいいことに詳しくなった。芸能人のプライベートや無駄な雑学まで、知らなくてもいいことまで知ってしまっていた。脳細胞の無駄な消費とは思いながらも他にすることがない。もうすぐ時計の針が十二時を回り、馴染みの番組が放送されようとしていた。秀介は相変わらず所在無くブラウン管を見つめている。始まったかと思いきや、緊急ニュースと題した大きいデロップが画面に写し出された。なんだと思いつつ秀介は釘付けになる。
「緊急ニュースです。つい先ほど経済の回復と国民生活の安定を目的とした内閣勅令が発動されました。」内閣勅令?聞きなれないなと秀介は怪訝に思った。大倉総理大臣に画面が移る。「内閣勅令に基つき、1年を目処に人口を半減させます。これからルールを申し上げます。」人口半減?秀介は耳を疑った。一体どういうことだ?首相に代わって官房長官が発言する。ルール一、今日から来年の九月十一日まで殺したい人間を一人まで殺しても良い。ルール二、殺す際は直接手を下すのではなく、後に公開するアドレスに当該者の氏名と年齢を記入して送ること。送信後三時間以内に死亡する。自分で殺した者は殺人の容疑者として扱う。ルール三、憎しみの連鎖を防ぐために、被害者の遺族は加害者を殺すことはできない。ルール四、相討ちの場合は両方に死を下す。相打ちとは、氏名を書かれた人物が一時間以内に送った人物の氏名を記入し送信することである。ルール五、メールを送信した者は政府の発行する官報に例外なく記載される。秀介は言葉を失った。一体どういうことになっているんだ。殺してもいい?
2005/09/22(Thu)13:29:05 公開 /
永見健次
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