『Half&Half』 ... ジャンル:童話 ショート*2
作者:黎
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Half&Half
〜girl’s side〜
ねえなんで?
なんでみんなはわたしをにくむの?
わたしがなにをしたの?
わからない。
わたしは・・・・
私はどうしたらいいの?
人間の住む世界から遠く離れた場所。神界と呼ばれる世界は、確かに存在していた。しかし、その中にも争いはあった。天使と悪魔は、相容れないもので、ずっと戦が続いていた。
その中にいた、天使の一人は、普通とは違っていた。羽根が、灰色だったのだ。
私のこの羽根を何度恨んだことだろう。これのおかげで、友も、仲間も、親でさえもいなくなってしまった。ここには私みたいな「異常」なものを快く思わないものもいたから、何度も追われて、殺されそうになって。いつしかそれが日常になっていた。躊躇いなく手を汚していって、それでも何のためにそれをするのか、理解していなかった。別に、自分の命が大事だとかいう訳ではない。正直、そんなものどうでも良い、と思っていた。それでも私の一部はまだ、生きることを望んでいたし、奴等に殺されるのも癪だった。ただ、それだけ。
ある日、私は街外れの川の傍に行った。ここに来たのは初めてだったけど、静かで、落ち着ける場所だった。座ってぼんやりとしていたら、誰か、否、悪魔が近づく気配がした。だけど、それ自体には悪意があるようには思えなかったし、力もあまり強くなかったから、私は別に動かなかった。その悪魔が近付いてきて、私に気づいたらしく、すこし緊張するのが背中ごしに分かった。その後彼は動きもしないので、私は口を開く。
「私、何に見える?」
「分からない。俺の知っている限りでは、判断できないな。そんな羽根をもっているものの話は聞いたことがないからな」
一瞬、彼は驚いたようだけど、すぐに緊張を解いて答えた。何となくだけど、他の悪魔とは違った雰囲気がしていた。
「やっぱりそう?私にもよく分からないの。どちらでもないってことは、分かるんだけど」
素直な彼の返答は私の考えていることにも似ていて、すこし嬉しかった。振り返って、彼と眼を合わせる。黒い眼、漆黒の髪、悪魔の羽根。私みたいに「不完全」じゃないのはすこし残念だったけど、それでもなんとなく好感がもてた。
それでも、一つだけ彼には聞いておくことがあった。
「それで?私を殺す気なら、別にかまわないけど」
彼に武器をむけるのはできれば避けたいことだったけど、本心は隠したまま言い放つ。
「・・・死にたいのか?」
「別に? 多分負けないだろうし」
彼にとっては敵のはずの私にそんな言葉をかけるのが不思議で、それにそんなことを言ってくれるのが、嬉しかった。自分でも自然に笑いがこぼれてくるのが分かる。すぐにいつ戦ってもいいように切り替えたけれど。突然増えた私の殺気に一瞬彼は呆気にとられて、その後口を開く。
「俺からは手を出す気はない」
「そう? それなら私もあなたは殺さない」
私にとってもそれは嬉しいことだったから、すぐに警戒をとく。彼ならいきなり攻撃されても大抵はなんとかできる自信もあった。それ以上に、彼はそんなことしないだろうという妙な確信があった。
これで交渉成立だね、と言ったら彼は妙な顔をしていた。私が何か変なことでも言ったんだろうか?その疑問はさておき、とりあえず聞き忘れていた最後のことを尋ねる。
「あ、そうだ。名前なんていうの?」
これは頭を抱えていた彼もすぐに答えられるようで、すこし安心した。怪我をしているわけではないらしい。
「バレル。お前は?」
「私はセフィー。宜しくね?」
私がよくあそこに行くようになったのは、この時からだった。行って、大抵の場合何もせずにじっとしているバレルに、私が話をする。会話をするわけではない。バレルは、大抵ただ聞いて、相槌を打つことくらいしかしないからだ。それでも、こんな時間、私は持ったことがなかったから、ただ聞いてくれる人がいることが、嬉しかった。
それでも、私が時々血を被ってしまうのは、仕方のないことだった。バレルにも血の臭いは分かるようで、そのたびに顔をしかめていた。そのたびに少しだけ痛む心があって。自分にそんなものが残されていたことが嬉しくて、またそんなことでしか自覚ができないのがつらかった。
ある日、あそこに向かおうとした私の前に、いつものように何人かの天使が現れた。
「お前、昨日俺らの仲間殺したんだろ」
「それがどうかした?あっちが先に私を攻撃してきたのよ?大体、人聞きの悪いこと言わないでよ。少しは生きてるでしょう」
もう、何も感じない。こんな会話が、私の日常だった。この日までは、これでいいのだと信じていた。その中に、彼女がいるのを見るまでは。
「リナ…?」
忌み嫌われていた私の、唯一の友人。その彼女が、彼らと一緒にいた。
「なんで…」
「聞きたいのは私のほうよっ。お兄ちゃんを殺してっ…」
ああ、それではアレは彼女の兄だったのか、と思う。数日前、同じようにして私の前に立ち塞がった者。顔立ちが似ているとは思っていた。もっとも、今となってはこの世の者ではないわけだが。
「彼は、あなたのお兄さんは、私を殺す気だったんだよ?私は自分を守っただけ」
いつか彼女も離れていってしまうのは分かっていた。わざと彼女を挑発するのは、自分のため。どうせなら心から憎まれていたほうが私の気も楽だ。
「それでもっ、セフィは、私のお兄ちゃんを殺したっ」
「別にあなたのお兄さんだから殺したわけじゃないわ。他の誰でも、自分が危険だと思えば殺す。死にたくないもの」
その場にいるものが怒りに震えるのが感じられた。
「いくら私でも、リナを殺すのは心が痛む。できれば、さっさと立ち去ってもらいたいんだけどね?」
俯いていた彼女が顔を上げたとき、その手にはナイフが握られていた。それをみただけで、希望が潰えたのが分かる。
「いいえ。あなたはお兄ちゃんの敵よ。死んでもらうっ」
他の者も次々と武器を呼び出す。私も、自分の愛用も武器、大鎌を取り出した。これは私が「死神」であることの証。他人にそう呼ばれるようになった時初めて手にしたものだ。これを手にしたときに生き残った者はいない。
彼らは一斉に飛び掛ってくる。だが、攻撃が甘すぎた。私が背後にまわったのすら目で追えないらしい。大鎌の一振りで、一気に数が減る。あっけないほど簡単だった。結局、最後に残ったのはリナだったが、私はそれまでに傷一つ負ってはいなかった。対するリナは、大小の傷が体中についている。考えずとも、結果は明らかだった。
「もう一度だけ忠告するよ。今逃げれば殺さない。」
「っ誰がよ!」
できれば、逃げてくれればいいと思っていた。一時的に生き延びるだけなのだろうが、それでも。だけど彼女が引かない以上、私としても仕方がなかった。
「バイバイ」
勝負は一瞬だった。あっけないほど簡単に、リナの体は崩れ落ちる。その体を受け止めて、うずくまる。
「…ごめんね、リナ」
私があなたのお兄さんに殺されていたらよかった?それともあなたに殺されれば?
「逃げてくれれば、良かったのに」
あなたも、あなたのお兄さんも。
「…私に関わらなかったら、死ななかったんだよね」
本当に、「死神」なのかもしれない。失くしたくない物さえ、私の掌から零れ落ちていく。
「本当に、ごめんなさい」
泣いてはいけない。視界が悪くなるのは、今の状態を悪化させるだけだ。それでも、心からは血の涙が流れ出す。
その場を立ち去る時、一度だけたった一人の友人を振り返る。いや、彼女の亡骸を。そして、そうしたのは自分だった。
そのまま、いつもの場所に行く。思ったよりも遅くなってしまったらしく、バレルはもうそこにいなかった。そのまま膝をかかえて座り込む。今日はどうやっても戻れる気がしなかった。今頃は彼らの死体も見つかっているはずだ。戻るのは危険すぎた。特に今の私にとって。
夜はただ静かに過ぎていった。
翌朝、気がついたら私の目の前にはバレルがいた。頬に一本紅い筋がはしっている。どうやら、怪我をしているようだ。
「あれ?バレル?何やってるの。怪我してるよ?」
正直な感想には、呆れたような視線が返ってきた。
「おまえのせいだろう…」
私が何かやったのだろうか?思わず悩んでしまったが、特に思い当たることはない。
「とりあえず、大丈夫か?」
心配しているらしい。それももっともなことだろう。私は血で染まっているのだから。普通なら、怪我でもあるのかと思う。
「あ、うん。平気平気。昨日から追いまわされていただけだから」
言いたくないから、隠していた。それだけでは繕えないのは分かっているけど。
一瞬彼は何か聞きたそうにしたけれど結局、そうか、と言っただけだった。明らかにわざと聞かないでくれたのだ。その心遣いが嬉しかった。だから、私も何も言わなかった。リナを殺してしまったことは、胸の中にしまいこんで。
それからしばらく経っていたが、リナのことは私の頭から離れなかった。あのあと私を狙う者は一気に増え、今まで以上に戦闘ばかりの日々が続いていた。その中にいても私には躊躇いのようなものがあった。今更、何を考えているのだろう。今まで殺した者の数など数え切れない。それなのに、今になってたった一人を殺したことに負い目を感じている。
そんな自分が、情けなくて、酷く滑稽だった。
今まで殺してきたのは、何のため?
イキルタメ。イキノコルタメ。
リナを殺したのは何のため?
イキルタメ。イキノコルタメニ。
生きてなんの意味があるの?
ワカラナイ。
それなのに、生き続けてしまう。
ねえ、私はいつになったらやめる事ができるの?
望むことなんて、もとから無い。
叶うなんて、思っていないから。
ただ早く、終わらせたいだけなんだ。
届かない光なら、見えなくたっていい。
それでも、光を求めてしまう。
すべてを終わらせるヒカリを。
それだから、死にたいんだ。
だからこそ、消えたいんだ。
意味の無いものならば、無くたって、良かった。
それなのに、生き続けてしまう私は、どうしたらいい?
ねえ、いつになったら私はヒカリを見ることができる?
そんなある日、また私はあそこに向かった。いつもの場所。唯一つの、居場所に。
いつかのように座っていると、ふいに頭の中に映像が浮かぶ。
どうやらいつものやつがやってきたらしい。
先読みは私の能力の一つ。と言っても、自分ではコントロールができないから、あまり使い道は無い。それでも、時々見る時は必ずその通りのことが起こった。
自然と湧き上がる映像に身を任せ、できる限り見ようとした。
夕暮れの空。私。あそこにいる。
周囲。敵。危険。戦う? 否。
微笑む。
嬉しそうに。
紅い紅い空。
紅い紅い海。
血が流れた。
倒れてる。
死んでるの? 是
言葉が溢れる。思いも、溢れる。
モウドウダッテヨカッタンダヨ。
「っは…」
最悪だ。よりによって自分の死を見るとは思わなかった。
だが、休む暇もなくもう一組の映像がやってくる。
昼間。私。彼。
泣いている、彼。
その手には紅い紅い血。
笑っている、私。
これを望んでいましたか?
雫。落ちる。
ココロ。儚く。
散りゆく花。
とても、とても。綺麗だった。
「セフィー、どうした?」
ふいに、声が聞こえる。彼の声。でもそれはどこか霞がかっていて、私はほとんど気にしていなかった。
オーケー。どっちに転んでも逃れられないのね?じゃあ、これをどうやって決める?
「セフィー。おい、大丈夫か?」
肩を揺すられる。夢から覚めたような気分で、私は目の前のバレルの顔を見た。
「あー、バレルだ」
自分でも、下手な笑顔だと思える。とってつけた、借物。
「本当に、大丈夫か?おかしいぞ」
彼に決めてもらうのも、いいかもね?
「…。ねえ、バレルは私を殺してくれるの?」
予想道理。驚いている。まあ、そんなこと聞かれたら驚くよね。
「前にも言ったはずだ。俺は殺す気はない」
「そっかぁ。残念だな」
そう。失った物ほど大切に思える。今は彼に殺されるほうがましに思えた。
「本当にどうしたんだ?」
本当のことなんて、言えるわけない。彼にも影響があったらどうする?
「ん、あのね。私もうちょっとしたら死ぬと思うの」
それが、精一杯の、限界の説明。これ以上は言えないし、言わない。
「…思う、だけじゃないのか?確信があるのか、それとも」
「多分あたるよ。私の勘、すごくいいからさ。先に死ぬなら、バレルに殺されるのがいいと思って」
「俺は、殺す気はないと言っているだろう。大体、ただの勘だろう?」
ただの勘ね。私もそう思えたら嬉しいんだけどな。
「…。そうだね。ごめんね、変なこと言って」
他に言える事なんて、なかった。
本当はさ。
死を望んでいたんだ、って言ったら君はどうする?
怒るかな、泣くのかな、それとも同情?
今は、何も欲しくない。
否、いつだってそんなの欲しくなかった。
生に執着することは、いつ死への羨望に変わったんだろう?
生と死が紙一重であることに気づいてしまったのはいつだった?
ごめんなさい。
ひょっとすると君まで死に誘い込むかもしれない。
それでも、きっと君なら大丈夫だって信じてるんだ。
だって、君はヒカリだから。
真っ白で、透明なヒカリ。
どうかそれがいつまでも翳らないように。
最初で、最後の願い。
これ一つくらい、叶えてくれてもいいでしょ?神様。
そして、これが最後の日。
いつか見た光景のまま、立った私は囲まれていて。
痛みはほとんど感じなかったが、これで死ぬのは分かった。
「っおい!大丈夫か!?」
会えるわけなんてないと思ってたんだけどな。
「……バレル。…私は…大丈夫……だから…」
ねえ、来てくれて嬉しいよ。最後に会えたのが、嬉しいんだよ。
「分かってる。けど今は喋るな!」
大丈夫なわけないじゃない?分かってるんでしょ?
そこまでして助けようと思わなくていいんだよ。
「やっとね……死ねるんだよ…」
「お前、何言ってるんだ」
それが、私の望むこと。この世界から、歯車からでる。
動き続ける運命から逃げ出せたんだもの。
「でもさ……やっぱり…ちょっとだけ…怖い………」
だってさ、何があるか分かんないんだよ?先が見えないし。
ああ、でももうお別れみたい。
「っおい!セフィーっ!」
声が段々聞こえなくなってくる。
そして私はヒカリに手を伸ばした。
ありがとうっていったら怒るんだろうね。
それでもさ、嬉しかったよ。
本当に。心から。
闇に包まれた私を、君が照らしてくれました。
ヒカリが照らしてくれました。
そのヒカリは、とっても優しくて、暖かいヒカリでした。
願わくば、それが絶対に翳らぬことを。
消えゆく花は、歌います。
そして、少女は眠ります。
〜Looking for the light〜
2005/09/21(Wed)13:37:44 公開 /
黎
http://wind.ap.teacup.com/tukiuta/
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黎さん
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■作者からのメッセージ
こちらに投稿させていただくのは初めてです。今回は、童話的な話で書いてみました。切ない感じが出てればいいなぁ、と思っています。
何か感想いただけたら有難いです。
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の『文庫本的読書モード』。
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2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。