『HERO』 ... ジャンル:異世界 ファンタジー
作者:サナギ                

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序/閉じたままの世界 



君の名前は?

―石丸 由希(いしまる ゆき)です。

君は何才?

―18歳だよ。

君は女、男?

―男です。

今、君は何してますか?

―何してるか?見て解らない寝転んでるよ。

今、君は何がしたいですか?

―そうだな、もう直ぐ冬だから制服の衣替えかな。

今、君は何をすべきですか?

―何をすべきかってそりゃあ…







俺は答えもせず現実に返った。
いや、逃げたという方が正しい。
おでこから鼻に伝う汗を拭く余裕も無く俺は頭を軽く2、3回振った。
タオルケットやら毛布やらが散らばるベットから起きて座り込む。
しばらく自分が何をしていたのか、何をするべきかも忘れぼーっとする。
毎回繰り返される自分のカウンセリングも最近になってくると一種の病気の様に感じてしまう。
同じ質問、同じ答え。
それが頭の中でメビウスの輪のように回り続け俺は何かに取り付かれるように、頭が真っ白になってしまうのだ。



ふと、時計を見た。
デジタル時計は夜中の3時を浮かばせているが今はどう見ても昼間だ。
どうやら時計の日付からみて昨日で止まったらしい。
俺はだるい体をベットから無理やり剥がしパジャマから学生服に着替えた。
今日は大丈夫と何度も言い聞かせる。
自分は必要されていると。
無造作に置かれた鞄をゆっくり持ち上げる。
そして目の前のとても大きい茶色のドアに震える体を近づけさせ、手を伸ばす。
ドアノブを握ればこっちのものだ。
俺は一指し指を思い切り伸ばし金属に触ったあの冷たさを感じた。



その瞬間。



また何時ものだ。
誰かが俺に耳打ちをするんだ。
ゆっくりと、一文字一文字を心に刻むように。




行くなよ。




最初の一声を聞いて俺の手から鞄はすり抜ける。



怖いだろ。
それに、いったって何があるんだ?
お前の事なんか誰もまってないぜ。





此処まで聞くと俺は知らぬ間にいつもベットの上に座っているのだ。
そして頭からすっぽりとタオルケットを被る。
顔も隠し開けてあるのは目と鼻だけ。
そして心には沢山の黒いもやが詰まって、沢山の声を聞くのだ。


おもしろくない。
だるい。
めんどくさい。


これは初期段階。
次からが危ない。
俺はゆっくり震える手で耳をふさいだ。


お前いったってばかにされるぞ。
お前なんかなんの意味も無い。
お前は要らない。


お前は要らない。



そう、俺は要らない存在。
誰からも、何も必要とされない。



認めてしまえば自然と震えは止まりもやは消え去った。
怖いと思う気持ちも跡形も無く消える。
こうして俺はまたこの薄暗い四畳半の部屋に閉じこもるのだ。
窓も開けず、掃除もしない部屋で。
2年間時間が止まったままのこの部屋で。


重い頭を動かして本棚の上を見つめた。
部屋の隅に置かれたサッカーボールは埃をかぶっている。
何年つかってないだろうか。
急にそんな疑問が頭をよぎった。




「……引きこもり…」



一つ囁きベットに寝転ぶ。
また、朝を待とう。
待って待って、あの茶色のドアを開けれるように。




俺は自分に暗示をかけてゆっくりとまぶたを落していった。





最後何時も閉じる前に思う。
あの茶色のドアを開ける事等出来ないと。









1/堕ちて





再び目を覚ますと視界には何時もの白い天井は写ってなかった。
真っ青に広がっているなかに白い大きな物体が浮かんでいるのが見える。
風も拭いているのか伸びきった髪が何度か揺れる。
何処と無く草や土の匂いまでもがした。
ああ。
とうとう頭きちゃったかも。
そうしばらく考えていたのだが、段々と目が冴えてくるにしたがって異変に気がついた。
もう何年も夢など見てい無いのだからこれは夢じゃない。
頭がいっちゃってるのなら体で風を感じるか?
ましてや嗅覚にまでくるものだろうか。
未だに寝ている目や体を無理やり起こし、歪に立ち上がった。


「…なっ!!」


一面に広がる緑の草原。
その草原を多いかぶすように先ほど見た蒼い空。
どうなってるんだ。
あの、四畳半の汚い部屋は?
風さえも進入禁止したあの窓は?

夢を手に入れることが出来なかったあのサッカーボールは?


自分に自問自答をするが返事は返ってこない。
聞こえる物といえば自分の心の声ではなく、たださらさら流れる心地よい風の音だけだった。

どうなってるんだ。
此処は一体。

何度も目をこする。
何度も瞬きをする。

だが、あの狭い部屋には戻れずただ遠くを見ても緑しか見れない草原の上に立っているだけだった。


「……どうしよう…」


意外と俺はパニックに陥らない性格だという事が判明した。
冷静に考えてみる。
風の音、草木が揺れる声。
それらが耳に入ってくるうちに考えている自分が馬鹿らしくなった。
夢なら覚めるまで待てば良い。
頭がおかしくなったんなら今、この時間を堪能すればいい訳で。


「…なんか、気持ち良い」


かも。
と心のなかで付け足す。
うーんと背伸びをして太陽の光を浴びた。
何年ぶりだろう。
光なんて蛍光灯かカーテンの隙間から入る光しか見ていない。


あったかいなぁ…


そう、思うと何処かしら涙があふれた。
訳がわからないくらいあふれる涙。
どうしちゃったんだろうか。


「なんで、泣けるわけ」


拭っても拭っても流れ出る涙を抑える事は出来ずしまいには俺は放置した。
別に声は上げず、ただぼーっと立って涙と鼻水が枯れるのを待つ。
風が吹くたびに涙と鼻水が頬や学生服につく。

ああ。
汚くなったよ。

そう思ってしみを見ているとまたそこに涙か鼻水か訳の解らないのが2、3適ついた。
俺はもうつかせるまいと草原の上にすわり先を見つめた。
やっぱり見えるのは緑と青、そして時々流れてくる白だけだ。
それでも俺はその場を動くわけでもなくただ先を見つめた。


見つめることしか出来なかった。






「あ…止まった」


アレから何十分と待った結果やっと止まった涙と鼻水。
俺は最後に目を擦り最後の涙の一滴を拭った。
さぁ。
これからどうするべきだろうか。
これが夢だとしてもここにずっといるのもなんだか嫌だ。

悩むところだ。




「おい、そこで何してる!!」
「はいっっ!!」

肩まである髪のせいで振り返ると目に覆いかぶさってきた。


「お前…男か…」

やっと髪をどかし声の主を見て驚いた。
銀の厳つい鎧を被り乗っている騎士。
凛とした顔立ちの白い馬。

え…どういうこと…

「あの…」
「ジャック様に言うべきだな」

騎士はそう言った瞬間俺のえりを掴み持ち上げた。

「な…!!」

俺はじたばたと暴れ騎士の手から逃れようとしたがびくともしない腕。


「無駄だ…」
「何がなの?」


騎士の声に反応したのは俺の声じゃない。
少し遠くで聞こえた透き通る声
少しソプラノの声。
その声を聞き騎士は俺を掴むのをやめて無造作に下ろした。
下ろされた瞬間俺は騎士が見つめる方向を見る。

金髪のショートヘアー。
整った顔立ちは女性らしさを出しており。
印象的な目は緑で右目には黒い眼帯がしてある。
服は白のカッターシャツでまっ黒なズボンをはいていた。


「お目にかかれて光栄ですな、トム・ソーヤ」



騎士がそう言うと女性は軽く笑った。

え。

トム・ソーヤ。
うそ。
なんで、トム・ソーヤが?
それにトム・ソーヤは男だったはず…



「今すぐ消えなさい、ジャックの犬」

そう言うと彼女は内ポケットから銃を取り出し騎士に突き出した。
もしかして玩具かも。
と思える余裕を与えることもない彼女の圧迫感。
騎士は馬と共に後ずさりして方向転換し先ほど来た道へ帰っていった。

騎士の姿を見送った後彼女は俺に笑顔を向けた。
銃をしまい俺に一歩一歩近づく。


「大丈夫だった?」
「は…はい、ありがとうございます」

先ほどの威圧感は消え去っていた。
俺はとにかく掛けられた言葉に頭を下げた。


「そんな、良いわよ、でもこんな人気の無い所にどうして?」
「ぁ…あの気がついたら」
「どういうこと?」

とにかく助けてもらえそうな人だと思った俺は状況を説明した。
その時の彼女の顔を俺は忘れる事は無い。

2005/08/26(Fri)17:08:47 公開 / サナギ
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■作者からのメッセージ
初めまして。サナギです。
引きこもりという暗いプロローグなんですが…
難しい…
あまりシリアスは書けなくて、ちゃんと書けたか不安です…
説明不足すぎる作品ですがお願いします…!!

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