『朱の運命−アカノサダメ−』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:虚淵 響                

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 Act.1


 人は、自分と違う物を徹底的にそして恐ろしく残酷なまでに拒絶し、傷つける。
 それが、私…、椎名円華(しいなまどか)が今まで生きてきて唯一確かな事。




 キラキラした夏の木漏れ日が窓から部屋に差し込んでいて眩しいほどだ。
 せっかくの夏休みだというのに私は部屋にこもってずっとパソコンに向かっていた。
 マンションの2階で本当なら日当たりの良い部屋だが、大きな木が生えていて陰を作ってくれている。
 両親は共働きで朝早くから夜遅くまで働いていて、ここ最近殆ど顔を合わせていない。
 姉も都会へ出て仕事をしている。だから実際一人暮らしに変わりはなかった。

 ………

 そう…一人暮らし。…いや独りぼっちと言った方が正しい気がする。
 私には友達らしい友達は居ない。
 理由は…

 私の眼にあった。
 私の左眼の瞳は、感情が高ぶると朱くなる。
 そして、激しい頭痛が私を襲うのだ。
 生まれつきそうなのか、いつからそうなったのかは分からないが、そんな事はどうでも良かった。
 少なくともこの眼のせいで私がクラスの奴らから『特別な扱い』を受けている事は確かなのだから。

 両親にはよけいな心配をかけさせたくないから学校には行っているが、休みの日はこうやってほとんど1日中インターネットをやっている。
 インターネットの中なら『誰も私を知らない』。みんな『普通』に接してくれる。


 そう。『普通』に。


「私だって…普通の高校生の女の子として生活したいよ」
 ふと、そんな言葉が私の口から零れた。


 だが…その『普通』が現実の物となるのはまだ先の話だった。
                 


 Act.2


 すっかり夏の昼間の日差しも和らいで、夕暮れが近づいてきた。
 パソコンの電源を切り、ディスプレイを消す。
 すると、一気に静寂が彼女の部屋を包んだ。
(そう言えば、今日もお母さん達遅いって言ってたな…)
 そんな事を考えながら、私は台所へ向かった。
 台所には、メモとお金が入った封筒が置かれていた。


 円華へ

 今日も仕事でお母さん達遅くなるから、このお金で出前を取るかお買い物に行くかして食べて下さい。

 お母さんより


 無言で封筒を取り、そのままシャワーを浴びるためバスルームへ向かった。
 買い物の前にシャワーを浴びるのが私の日課だ。
 どうしてか分からないが、もう中学生の時からこれを続けている。
 シャワーが終わると、封筒のお金を財布に入れ、家を出た。
 外はそろそろ日も暮れ始めていた。
「今日は…冷やし中華にしようかな」
 そんな事を考えながら、スーパーまでの道を歩き出した。


 …その様子を、マンションの大木の陰から覗いていた者が居た。
 真夏なのに黒いフード付きのコートを着た男だ。
「間違いない…まだ完全ではないがあれはまさしく『隻眼』だ」
 彼は一度だけ目を上げた。
 彼は、円華と同様左眼のみ朱かった。
 男はまた大木の陰に隠れ、次の瞬間にはもう姿は見えなかった。

「えーと、麺につゆ…キュウリに卵に…」
 円華は駅の前で品物を確認した。
 料理をするのは久しぶりだからだろうか、少し笑みが零れた。
 家に帰る足取りも軽く、涼しい風の吹き抜ける商店街を歩き始めた。
(お母さん達今度はいつ休み取れるかな? 今度休みが取れたら晩ご飯作ってあげよう)
 そう思いながら家路を急いでいた円華の前に、人影が立ちふさがった。
「…?」
 顔を上げると、フード付きのコートを着ている男が立っていた。
 反射的に周りを見回したが、もうすぐ日も落ちきってしまう道路には人どころか猫すら居なかった。
「あの…。私に何か?」
「……お前が椎名円華か?」
 円華は、見ず知らずの男に呼び捨てにされた事に少しムッとした。
「そうですけど」
 すると男は、いきなりコートを広げた。
「!!?」
 訳も分からず、円華は家へ向けて走り出した。
「待てっ! 待ってくれ! 畜生! これだから人間は!!」
 しかし、円華はもう50mほど先を走っていた。
(何!? 何なの?)
 円華は混乱し、とにかく自分のマンションへ急いだ。



 Act.3


 夏の夕闇に包まれた物静かな海沿いの国道に、俺は立っていた。
 深く被ったフードを取り、顔に掛かった前髪を直しながら。。
 黒い長髪に、黒い瞳。若く、整った風貌はどこか人間とは違う雰囲気を漂わせていた。
「…ったく。面倒掛けさせやがって」
 これだから俺は人間という者が嫌いだ。
 莫迦で臆病なくせに、自分より弱い奴が居ると寄ってたかって虐める。
 何て低俗な生き物なんだ…。
 心の中で、そう吐き捨てる。
 俺は円華を追う事をやめ、高ぶる心を落ち着かせるために暫く海を見ていた。
「逃げられたようね。新たな『隻眼』から」
 ふと、後ろから女の声が掛かった。
 透き通るような綺麗な声だ。
 俺は、クスリと笑った。
「今夜にでも、また会いに行くさ」
「あらあら、ずいぶんとご執心なようね」
 揶揄を含んだ言葉が俺に投げかけられる。
「莫迦言うな、俺が人間を嫌っているのは知っているだろ?」
 少しムキになった自分が恥ずかしく、再びフードを被り、後ろを振り向いた。
 其処にも、コートを着た女が居た。
「そうだったわね。それじゃ、私も新たな『隻眼』を見つけたから、説得に行かなきゃ」
 急いでいる素振りの女は、そう言い残すと去っていった。
 俺も踵を返し、円華のマンションへ歩を進めた。

                                        
                                   

 バン!と、勢いよくドアを閉め、私はカギとチェーンを急いで掛けた。
 玄関に座り込み、荒い息を整えるのに必死になる。
「何だったの…?」
 今思うと、何故あんなに必死に逃げたのだろう。
 8月も終わりに近いが真っ黒なコートは確かにおかしい。
 でも…ただそれだけ?
 あの人がコートを広げた時、どうしてあんなに心が高ぶったのだろう。
「痛っ…」
 すると、立ち上がろうとした時、突然頭痛が私の頭を走った。
 私は、立ち上がり、痛む頭を抱えながら玄関の鏡を見て愕然とした。
 左眼が、ほんの僅かだが朱くなっていた。

 私は、痛む頭を抱えつつ、洗面所に向かった。
 蛇口をひねると、冷たい水が私の手を打った。
 手を器のようにして差し出すと溜まった水が次々とあふれ、排水溝に吸い込まれて行く。
 私は、溜まった水を顔に当て、バシャバシャと洗った。
 3度それを繰り返し、右の壁に掛けられているタオルで顔を拭いた。
 もう一度洗面所の鏡を見たが、目の朱みはうっすらとしか見えなかった。
 しかし、相変わらず頭痛は続いた。
 でも、あのことから少しでも離れられるなら良いか。
 私は、洗面所を出て台所へ向かった。
「お湯を沸かさなきゃ」
 ナベに水を張り、火に掛けた。
 そのまま、近くの椅子に倒れ込むように座りテーブルに頭を突っ伏した。
(なんなのよ…。どうして私ばっかり!)
 そう思うと、自然と涙が顔と腕を濡らしていた。

 どうして…私ばっかり…。

 そんな事を考えているうちに、私のまぶたは次第に重くなっていった。



 Act.4

 ふと気が付くと、私はあの道路に立っていた。
「あれ!? どうしてここに…?」
 私が今まさに立っているその場所は、先ほど『出来事』があった場所だった。
 日の落ち具合や風の強さなども申し分ないほど同じだった。
「なんなのよ…」
 そう言いかけた瞬間、後ろからコッコッという足音が聞こえてきた。
 足下へ伸びてきた影がどんどん大きさを増して行く。
「椎名 円。これ以上面倒はかけさせるな」
 後ろから、今し方聞いた声が私の耳へと届いた。

 カツ…カツ…と彼の足音が一歩一歩私へ近づいてくるのが分かる。
 しかし、私の足は釘付けになったように動かない。
「…そう逃げようとしなくても良い」
 丁度、私のすぐ後ろで彼の足音は止まった。
「私に、何の用があるわけ?」
 私は出来るだけ語気を強めていった。
「そうだな…。強いて言えばお前の左眼だ」
「左眼…?」
 私は、ゆっくりと後ろを振り返った。
 其処には、さっきと変わらぬコートを着た男が立っていた。
「そう。その「隻眼」に用があるのだ」
 そう言うと、彼は深く被ったフードをゆっくりと取った。


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2005/09/23(Fri)21:51:05 公開 / 虚淵 響
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■作者からのメッセージ
はじめまして! 虚淵 響(ウロブチ ヒビキ)です。
初めて小説を書いたので、拙い部分はあるかと思いますが、どうぞ温かい目で見守ってやって下さい。

少しずつしか更新できませんが、ご了承下さい^^;

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