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『きもだめし』 ... ジャンル:ショート*2 未分類
作者:時貞
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去年の夏休み、僕らは隣町にある古ぼけた墓地できもだめしを行った。
僕は小さい頃から大の怖がりで、お化け屋敷や心霊番組なんかが大の苦手だった。
そんな僕をいつもからかっていた、同級生のケンジ。このきもだめしも元はと言えばケンジの発案で、その魂胆は僕を思いっきり怖がらせてからかってやろう、というものだったに違いない。僕は、何とか言い逃れをして参加を拒否しようとしたのだが、最終的にはケンジに強引に連れ込まれるかたちとなってしまった。
きもだめしに参加したメンバーは、僕とケンジを含めて五人だった。皆、僕と同じ学校のクラスメイトたちである。
ジャンケンで順番を決めて一人ずつ墓地の中を通り、一番奥にある松の巨木の下に置いてあるお札――これは昼間のうちに、ケンジがあらかじめ用意しておいたものだった――を取って帰ってくると言う、きわめてオーソドックスなスタイルのきもだめしであった。
ジャンケンの結果、一番最初は僕に決まってしまった。今から思えば、このジャンケンにも僕が一番にあたるように、他の皆で策略を凝らしていたのかも知れない。
ケンジに背中を押され、懐中電灯を片手に僕は一人とぼとぼと墓地の中へ足を踏み入れた。ひんやりと冷たいような、それでいて妙に生暖かいような夜風がそよそよと流れてくる。僕は歩き始めてすぐに心細くなり、そのまま引き返そうかと思った。しかし、このまま引き返してはケンジに後で何をされるかわかったものではない。僕は周囲にきょろきょろと目を走らせながら、足早に目的の松の木へと急いだ……。
それにしても、あの時代掛かった大きな墓石の裏から白狐の面が現れた時は、本当に息が止まるほど驚いた――!
それはちょうど、僕が何とか墓地内を通り抜けて、ようやく目的の松の木にたどり着いたときであった。
なにやら背後でがさがさと物音が聞こえてきた。
驚いた僕は思わず、その場で飛び上がりそうになってしまった。急いで木の下に置いてあるお札を引っ掴み、踵を返したそのとき――近くの巨大な墓石の裏から、ぬっと現れた白い狐の面!
僕のあまりの驚きようを見て、白狐の面を外して小躍りしていたケンジの得意げな表情を思い出す。ケンジは先回りをして、僕を脅かすために墓石の裏で待ち伏せていたのだ。
この時だけは、本当に心から悔しかった――。
だから僕は、今年の夏休みに再度行われるきもだめしで、ケンジに去年の復讐を果たしてやろうと決めたのだ。
●
午後十一時、去年と同じ墓地にケンジたち五人の姿があった。
僕は入り口にある古井戸の裏に隠れて、彼らの様子をうかがっていた。ニヤニヤと意味深な笑顔のケンジが見える。
僕が不参加の今回のきもだめしで、ケンジが次のターゲットに決めたのは、僕の次に臆病だったダイスケくんのようである。
ジャンケンの結果、ダイスケくんは二番手に決まった。一番手に決まったミツオくんが、懐中電灯片手にすたすたと墓地内に入っていく。
しばらくして、ミツオくんは勝ち誇ったような笑顔を浮かべながら、お札を高々と振りかざして戻ってきた。ケンジがわざとらしい喝采をおくる。
そして、次はいよいよダイスケくんの番だ。
はたから見ても、ダイスケくんは気の毒なくらいにびくびくと怯えている。何とか時間稼ぎをしようとするダイスケくんの背中を、ケンジが張り手で思いっきり突き飛ばした。のけぞりながら、落ちそうになった懐中電灯を慌てて胸に抱える。ダイスケくんは、後ろを何度も振り返りつつ墓地内へと向かっていった。
ダイスケくんの姿が見えなくなって、一分ほど経った時である。
ケンジが他の皆の顔を見てにやりと笑うと、おもむろに持参した手提げカバンからある物を取り出した。僕にとっても忘れようもない、あのいやらしい白狐の面である。
ケンジはそそくさとその面を被ると、懐中電灯を片手にダイスケくんの向かった方向と逆の方向へ、一気に駆け出しはじめた。僕も古井戸の影からそっと立ち上がり、あらかじめ調べておいた最も近道となるコースを静かに移動しはじめる。風はそよとも吹かなかった。
僕の視線の先に、去年と同じ墓石の影に隠れるケンジの後姿が見えている。そして、その少し先には、ダイスケくんの手にした懐中電灯の灯りがゆらゆらと揺れている。僕は静かに、ゆっくりケンジの背後へと近づいていった。
ケンジはまったく僕に気づいていない。ダイスケくんの近づくのを待って、うずうずしている様子である。やがて、ダイスケくんが目的の松の木の下へとたどり着いた。ケンジは足元においた夏草のかたまりを、スニーカーの底で荒々しく踏みつけた。
がさがさと、乾いた物音が辺りに響く。
ダイスケくんが、びくりと肩を震わせるのが見えた。おどおどした表情で振り返ると、ケンジの思惑そのままにきょろきょろと辺りを見回している。
お札を握り締めたダイスケくんが、その場から小走りに立ち去ろうとする。それを見計らったようにケンジが身を乗り出しかけた、そのときだった――。
僕はケンジの肩にぽんと片手を置いた。
一瞬、びくりと跳ね上がるケンジの体。ケンジは白狐のお面を被ったまま、ぐるりと背後を振り返った。僕も思いっきり首を伸ばし、お面越しのケンジの両目を覗き込む。
「――ひぃっ! で、で、で、でたぁぁぁぁぁ――! た、た、た、た、たすけ、たすけてくれぇ――っ!」
ケンジは僕の顔を見て絶叫すると、その場にそのまま失神してしまった。
僕はそっと、ケンジの顔から白狐の面を取ってみた。目が裏返り、口の端から白い泡を吹いている……。
さすがのケンジと言えども、やはり《本物の幽霊》を見た恐怖は大きかったようだ。
僕が去年のきもだめしで白狐の面を見て、《息が止まるほど驚いた》ように、ケンジももしかしたら本当に息が止まってしまったのかもしれない。
了
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2005/08/24(Wed)14:26:19 公開 / 時貞
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■作者からのメッセージ
もうじき夏も終わってしまうということで、なにか夏らしいSSを書いてみたいと思ったのですが、どうやら違う路線にはまってしまったようです(汗)こんな拙作ですが、ご意見やアドバイスなどをいただけたら嬉しいです。よろしくお願い致します。
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