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『とろろこんぶ』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:むた
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彩は必死の思いで、田んぼの用水路から自転車を引きずり出した。
ジ―ワッ、ジ―ワッ、ジ〜〜〜ッ。
アブラゼミの窒息寸前の声が聞こえる。
通りがかったタクシ―の運転手が、なにか珍しい動物を見るような
目つきで彩を見て、そのまま通りすぎた。
とろろ昆布のような藻がショ―トカットの頭に張りつく、全身びしょ濡れで左半分がベッタリ
ヘドロまみれのドブ臭い身体、落ちたのだ、用水路に。
ほんの二時間前。
今日は終業式、今回の主人公、狭山彩は、
ここんとこ連続のくそ暑い熱帯夜で脳が溶け、明日から始まる夏休みの事で、残り少ない頭が一杯になり、机の中の道具箱と置き傘を、忘れていた。
「急いでもしょうがない、」
たっぷりの牛乳と砂糖に浸した、フレンチト―ストを食べながら、み○もんたの脂ギッシュな
顔をゆっくり堪能した後、取りに出かけることにした。
午後2時、カンカンに、高く暑くなった日差しの中、彩は自転車を走らせた。
通りすぎる田んぼのあぜ道、お線香のCMに出てくるようなの入道雲に、むすような土の匂いと暑さ、それがじんわりと、ビ―チサンダルを履いた足からワンピ―スの裾に昇り、
身体全体蒸すように熱す。
2時5分、学校到着。
ペタパタとはだしで走る校舎、薄暗い廊下、床の感触が、冷たくて心地良い。
階段を昇り三階に、階段からすぐの教室が、5-3組彩の教室。
誰もいない教室に、誰も居ない校庭、いつもいる場所なのになんだか新鮮だ。
道具箱を両手に持ち、黄色い置き傘を右腕に引っ掛け、ついでに、体育帽を、頭に
かぶり教室を後にする。
自転車のカゴ一杯に道具箱をいれると、ハンドルに置き傘を掛けた、
何気なく掛けたこの置き傘が、悲劇の始まりだった……・。
ガタッガタタタッ…、
道具箱の中身が踊る田んぼのあぜ道、小さい砂利砂を蹴散らしながら彩は進む。
途中トラックとすれ違う、トラックは邪魔そうに大げさに彩をよける、熱い熱気と排ガスが身体にかかり、ワンピ―スのスカ―トが、薄手のカ―テンの様にめくり上がる、でも彩は気にせず走る。
彩は、額の汗を手で拭いながら自転車を走らせた、近くの民家からは午後のワイドショ―の音が聞こえてくる、
何処にでもある平和な昼下がり、彩は鼻歌まじりでペダルをこぐ。
忘れ物を取りに行くついでの、ちょとした昼下がりの散歩、
いつもこんな忘れ物なら悪くないと思う、彩の口元が緩んだ、次の瞬間!
ゴインッ…・!
いきなしハンドルにはしる鈍い衝撃。
瞬く間に、暴れ牛のように自転車の後輪がグンっと跳ねあがり、彩と自転車、そして中身を撒き散らしながら道具箱が宙を舞った。
綺麗な前方宙返りだった。
彩は、突然のことに状況を把握できないまでも、目を見開いてこう思った。
「綺麗な青空」
そのまま用水路に吸いこまれるように着水、
一瞬の騒がしさの後、また、いつもの静かな田園地帯の風景にもどる。
もしこのまま、一時間二時間と時が流れたら、明日の朝刊は、
終業式の深夜、○○市内の小学生女児が溺死体で発見、辺りには散乱した道具箱、
誘拐殺人の可能性も在り、
の小見出しが、新聞の隅を飾ってしまうに違いないと思った次の瞬間。
「バシャァッ!。」
ホラ―映画のように、水飛沫とともに用水路から砂利道を掴む手、
彩は、鼻や口から水を吸いこみながらも、必死に水路の淵に足を引っ掛け這い出た。
濡れた身体に、泥と砂利砂が張り付く、お気にの水色のワンピ―スもドロドロになった。
目の前に落ちていたのは、糊やら絵の具やら、中身を派手にぶちまけた道具箱と、軽くくの字に折れ曲がった置き傘、多分コイツの仕業だろう。
彩は、道具箱の中身を片ずけながら、それを手に取る、小さく「交通安全」と書いてある、
彩は鋭く舌打ちすると、それを田んぼの中に、思いっきり放り投げた。
道具箱は粗方かたずいた、
しかし、これからが大変な作業だ、
このくそ重いスチ―ル製の自転車を、この深さ1メ―トルは在ろうかという用水路から
引きずり出さなければいけないからだ、
彩の額からは泥水とともに汗が流れ、あごから落ちた、乾いた地面に黒い点がつく。
考えても仕方が無いと、
取りあえずまた、生ぬるくヌルヌルした用水路に入り、ハンドルに手をかけた。
「っ、うっうううううんっ、…・よっ、うんっ、くうううううっ。」
持ちあがるが、深い用水路のせいでまた落っこちてしまう。
三回ほど繰り返してから一休み、彩は肩で息をしながら呟く、
「重い、重すぎる、」。
今回ばかりは、五年生の進学祝いに買ってもらった自転車が仇となった。
真新しい22インチ、リボンタイヤのお洒落なママチャリは、
142センチ、胸もお尻も何処もかしこも薄くてペッタンコの、彩の身体には大きすぎたし、重すぎた。
彩は、大きくため息を着いく、しかし、そこであきらめる彩ではなかった。
そう、諦めたらそこで試合終了だから。(笑)
「っ、しゃああああっ!」
彩はプニッと柔らかい頬っぺたを、両手で叩いて気合を入れると、ハンドルに手をかけた、
今度は水路の上から引っ張ってみた。
「っ……・、くうううっ。」
少しずつ自転車が這い上がって来る、ハンドルが、ニョッキリ水路の淵から顔を出した、
しかし、つらいのはここからだ。
自転車が水路に引っかかる、両腕が、だるくなり痛くなり始める、
そして、細い肩や、鶏がらのような背骨が、ワンピ―スから浮き出て軋みはじめる。
でも、彩は歯を食いしばり耐えた、
右手を、ハンドルからスポ―クに持ち替え、一瞬、身体の動きを止める。
目を閉じ深呼吸しながら荒くなった息を整える、
彩の周辺は、彼女の集中力で静まり返り、用水路を流れる水の音だけが聞こえる。
そして、
「うっ、くああああああああああっ!。」
彩は、力いっぱい、仰け反る様に引っ張った、
腕が!足が!腰が!キシキシと悲鳴を上げる、半分ほど上がっていた前輪がさらに三分の二ほど浮き上がった、だんだん腕がだるくなり、頭の筋もピント張りすぎたのかクラクラしてきた。
でも、
「安○先生〜〜!!」彼女の鬼気迫る気迫に勝てるものなど、無かった、
右のペダルに引っかかる用水路の壁も、左のペダルに引っかかる、藻や水草、
ザリガニメダカフナetcなど邪魔する用水路の住人は、残らず引き抜いて。
「っしゃッ、コノヤロッ!。」
「ズルッ、ズルガシャガシャッ。」
バウンドするような自転車の音、砂利砂の上に煙が立つ、へたり込む彩、
その手前には、用水路の端から電車道が引かれた土と、自転車が横たわっている、
救出成功である。
「ありがとう、安○先生」
彩は、大きく息を吸いこむと、空を見上げた、
綺麗な青空だった。
自転車は、激しく汚れた以外は、何処にもおかしな所は無かった、
流石はメイドイン、カ○ンズである。
そんな彩の横を黒いタクシ―が不思議そうな、でも邪魔そうな顔で通すぎた、
これが今から丁度二時間前の話である。
「帰ったら、ちゃんと綺麗にしてあげるからね。」
そ う独り言を呟くと、ひょいっと、自転車を起こし、
エメラルドグリ―ンのフレ―ムを、指で弾いた。
チ〜ンと、澄んだ音が返ってきた。
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2005/08/01(Mon)22:54:47 公開 / むた
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■作者からのメッセージ
あははは、新しい挑戦のつもりで、
主人公を俺から、ニュ―キャラの狭山彩ちゃんを投入し、ラブコメ路線で行こうとおもったわけですが、なぜか知らずに、また途中から
というか最初から、俺系の話になってしまい深く反省中であります、
それと、前回の投稿では、7レスも着き大変
驚き感謝しています、皆様本当にありがとうございます、これからも生暖かい目で見ていただければ幸いです。
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