『ブラッキーでハイなサンタに[5話]』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:貴志川                

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■5 ごめんけど、引っ張るから



 あーなんというか。この状況はなんだろう。
「いきますよALT(補佐の教師)! 教師たるもの完全とした態度で生徒と向かわなければなりません!」
 ここはあのフェンスに囲まれた小学校の中。三回の第四学年の階。中央階段前。もう授業時間であるからだろうか、生徒の姿は見えない。
 公立高校だけあって普通の木床に普通のコンクリの壁と至ってシンプルなつくり。消火器とかあるところが生々しいというか、なんと言うか。ベルマークの回収箱とかやばいくらい小学生時代にタイムスリップさせるものが満載されている。
 んで、なんでそんなトコに俺がいるかというと
「ALT! リチャード!(rの発音が異常に上手い)リチャード!(「り」にアクセントを置いて不満を強調)しっかり返事をしなさい!」
 黒のスーツに身を包んで赤のアンダーフレームのメガネをかけた、見かけだけ美少女、『鹿』は端からみたら確実に先生という職種についている女に見えただろう。身長が低いのを気にしなければ特に。
 コイツはかなり楽しそうに笑いながら……果てはスキップしかねない様子で……あの二人の小学生(前々前回参照)の教室へ……潜入調査のためだと叫びながら……向かっていた。
んで、俺は
「……俺、リチャードじゃないから」
 なぜか無理やり外人キャラに(「この話に新しいキャラクターを確立するのです! そう! 小説界のボビーオロゴンを!!」)仕立て上げられた俺は、つけ鼻をテープで無理やり固定され、髪はヅラ……わざわざハゲの……をつけられ、さらに日本文化を勘違いした謎のTシャツ。つまり一文字入魂

『尻-SIRI-』

 のプリントされたTシャツを着せられて、(ギャグとして)完璧な外人とさせられていた。
 鹿はチチチと人差し指を口の前へもっていって振った。
「NO〜NO〜(「んのぅ」とわざといやらしく発音している)リチャード(rの発音)イングリッシュがお話できるでしょう〜」
「悪いが大学は理系だったんだよ」
「オーサイエンス!(さぁぃえんす)」
「英語発音をやめろ」
「エイゴハツオン? ワッツ?」
 鹿は両手を軽く肩の位置まで挙げた、いわゆる「マイッタネ」のポーズをするとヘヘヘへ! と笑う。つか、予想以上にムカつくな、これ。
 俺は胸倉を掴むとガクガクと揺らす。
「お前何様のつもりだこんな事させて……!」
「オウ! ォマエノカオハ、チカクデミレバミルホド ワ ラ エ ル ナ! フー(高音)」
…………コイツ
「お前が外人になってどうすんだ!」
「ォマエヨリマシダヨ、ィカャロウ」
「キャラにかこつけてあっさり悪口言ってんじゃねえよ!!」
「ハハハハハハハハハハハハ(高貴な笑い)」
「鹿テメエ……」
 鹿はフハハハハハハ(高貴な笑い)とあざ笑いながら「マイッタネ」ポーズを強調した。

「ヨビステニスンジャネエヨ」

「…………」
 プツッと何かが切れたのは、これで何回目だろうか。
「いった!」
 鹿をチョップで殴ると、大げさに頭を抱えながら彼女は唇を尖らせた。
「ひーん……覚えて置いてくださいよ! 復讐してやりますからね!」
「やってみろ、鹿の分際で。お前の復讐なんてせいぜい食事に鹿せんべい混ぜる程度のものだろう」
 付き合ってられん……ふざけやがって。
 俺は鹿に背を向けるともと来た道を戻りだした。タバコを取り出し、火をつける。
「あ! 待ってくださいよ! どこ行くんですか!」
「奈良公園にいるのに疲れたんだ。エセ外人に付き合うのも性格いかれたエセ美少女に付き合うのも疲れたんだよ」
「ちょっと待ってくださいよ」
 俺は無視して紫煙を吐き出しながら歩き続る。
 と、唐突に腰に衝撃を感じた。思わずタバコを落としてしまう。
 振り返ると、そこには鹿が俺の腰にしがみついて上目遣いに俺を見ていた。
「うわッ」
「待ってくださいよ……私が悪かったですから、そんな急に行かないで下さいよ……ウグ、ヒック……」
 泣くのか
「ごめんなさい、ホントは西神楽君がいないと私、寂しくて心細くて何もできないんです……だから一緒にいるとはしゃいでしまうんです」
 ……ちょっとまて、いきなり素直になりすぎだろ。何だこの展開は。まずいぞ……なんか、これ。
「西神楽君……」
 ……黙って目をつむって、ゆっくりアゴ上げて……って。

 ん?

 これはヤバイのでは?

 ……いやいや、もちつけ俺。いや、落ち着け俺。慌てることは無い、なんと言ってもこいつは鹿、ただの哺乳類じゃないか。そうさ、俺はたとえ美少女といえどこんな変態に興味は無いのさ。そうだそうに違いない。そうだ そうだ。なんと言ったって
 鹿
 ではないか。ハハハそうだ。奴は獣! そう獣だ!! 毛むくじゃらでもなく、姿も人間だがアレはそう! 鹿! シカ! S I K A! SIKA! そうだシカなんぞに俺は興味は無いなんと言っても奴はSIKAだぞ! 鹿! 美少女といえど鹿!

 ……美少女?

 ……美少女。

 …………ハハハハ
 ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
何を迷うか! さあ行け俺! いつもの通り殴――

 美少女

 うああああ! やめろぉぉ! 俺に幻覚を見せるんじゃない! 奴は鹿! 哺乳類! 獣! KEMONO! たとえ立って歩いているといっても人気者になることは無い見ため美少女の鹿なんだ! そう! やつなんて言ってみりゃあ

 美少女

 うわああああああ
「……西神楽君?」
 鹿が薄目を開けた。……ヤバイ。まともに顔が見れない。
 アーまずいぞ。心臓もばくばく言いはじめてる。これって伝わってんじゃねえか? やばくないか? うわ、うわぁぁぁ……
 鹿はその上目遣いのまま少しだけ微笑むと、ポソリと小さな、聞き取れるか聞き取れないか微妙な声で呟いた。
「……復讐、するゾ」
 ……は?


「さて。いい加減巻いていきましょうか」
 たんこぶを放置したままめがねを掛け直した鹿は、隣にある懐かしいような木枠の扉を指しながら言った。
「いいですか。この中に私の同僚がいます。彼の協力によって目標……小学生二名に接近するのです」
 あーえーと……??
「……??」
 鹿は頭を振りながら首を傾げる俺の顔をしたから覗き込みながら不思議そうな顔をした。
「どうしたんですか?」
「いや……なんか鹿を殴ったところから記憶がないし……体が痺れるんだけど……?」
 鹿は呆れたようにしかめっ面を作ると俺の頬に手を置きながらため息をついた。
「大丈夫ですか? これから重要任務だというのに……欲求不満ですか?」
「関係ねえよ」
「欲求不満であることは認めるんですね」
「……そういえば中にお前の同僚がいるんだよな?」
「話をそらすんですか?」
「どんな奴なんだそれ」
「欲求不満なんですね? そうですね? かわいそうに、痛々しいことこの上ない。飢えた男ほど危険なものは……」
 鹿を睨む。
「……無くもないかな。飢えた女とか」
 ケッと鹿を威嚇してからタバコをくわえた。
「あれ、本数減ってる……?」
 いつの間にかポケットに入れておいたマルボロの一本がなくなっていた。あれ? 確か五本あったような? 
 そんなことを思っていると、ぴょんと飛んできた鹿にマルボロのパックをそのまま奪われてしまった。
「……さて、先生がタバコを吸うのはタブーですからね」
「お前、なんか隠してないか?」
 鹿はにっこり笑うと、ゆっくりとした動作で首を振った。

「さて、これから恋愛戦争の中に突入するわけですが」
 鹿は腰から何か黒い……四角い代物を取り出した。なんだ、それ?
「戦争には武器が必要です。第二次世界大戦ならガーランド銃、現在の自衛隊なら八十九式小銃です……そして私は」
 鹿は俺の前にその黒いものを差し出す。……? なんだ? なんというか、細長くて先っぽに突起物がある。銀色の。
 ……え? 銀色の? 突起物?

 バチイッ!!

「うげ!」
「これです。その名もスタァンガーン(英語風)!!」
 ……何言ってんだコイツ。 つか、犯罪だろ。
「そんなもん持ち歩くんじゃねえよ!」
 鹿はニコニコしながら握りこぶしを作って細い腕を俺に見せ付ける。
「大丈夫ですよ私は訓練された人間ですから。。SANTがクリスマスの夜に子供達を起こさないようにするために作った特注品なんですよ」

 ……SANT、リアル思考だな。

「とにかくしまえよ」
 俺は周りを気にしながら鹿の腰のポケットとおぼしき穴にスタンガンを押し込んだ。
「心配性ですね。私がそんな簡単に武器を使うはず無いでしょう?」
 その発言自体がもう怖んだよ。
 鹿はそのままガラガラと教室のドアを開けた。

 中には当たり前のように小学生が並べられた机を前にして椅子に座っていた。男女大体四十人くらいだろうか。子供らしい、ふっくらとした顔つきをしている。うわっ、懐かしい〜俺もこんな頃あったなあ……あはは、椅子とかちっせ。
「おやおや」
 少し思い出し笑いしながら小学生達を見ていると、教卓を前にしてたっていた男が俺たちを見つけて少し驚いたような顔をした。
 優雅な動きをする男だった。黒スーツに身を包み、ウルフカットの(少し時代遅れだなとも俺は思ったが)髪がさらさらと揺れる。なんというか、現代の武士を思わせる風貌だった。髯も渋く決めている。
 鹿はニコニコしながら近づいた。
「こんにちは」
 男は軽く手を上げる。
「もう来たのか……いや、失敬。私は」
 彼が言うが早いか、鹿は当たり前のように腰からスタンガンを取り出す。
 ……え? スタンガン?

 バチイッ

「…………」
 ドサッという音共に、男は倒れた。白目をむき、痙攣する。


鹿はフッと笑うと、スタンガンを愛おしそうになでた。
「俺の前に立つな……」

 ……
 ………
 …………


 ――エエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!?――
 ――何してんですかこの人!?――


「よし、これで恋の障害@がつぶれた……愛は最強なのよ」
「おぃぃぃぃぃぃ!! 何言ってんだおまえぇぇ!!」
 鹿はスタンガンに頬ずりしながら俺に振り返る。
「はい? 何か?」
「何かじゃねえよ! いきなり使っちゃっただろスタンガン!」
 鹿はハハハと笑いながら「マイッタネ」ポーズを決める。
「NO〜『スタンギャァン』オーライト? 『スタンギャァン』」
「発音はもういいよ! あと間違ってる! お前発音間違ってるし! ていうかそんなんいいんだよ! お前何やってるの!?」
ビシッと突きつけた俺の指にスタンガンの金属部分を当てて、にやりと笑いながら胸を張る。
「セクシービームです」
「ウソつけよ! 明らかに文明の利器使ってただろうが!」
「恋の敵に情けは必要ないのです」
「今の人味方! 絶対味方! だってすげえ挨拶してたもんッ 親しげに自己紹介しようとしてたよ!?」
「西神楽君」
 鹿はふうっとため息をつくとゆったりとした動作で俺に歩み寄ってきた。
「恋愛は、戦争です。アーユーオーケー?」
 バチイッと閃光が俺の目の前で走る。ついでに青白く浮かび上がった鹿の顔は、マジだった。
「お……おーけー……」
「あなたの名前は?」
「リ、リチャード」
 バチイッ
「リチャ(r)ード!!」
「OK」
 フフフと鹿は笑った。

2005/07/25(Mon)00:42:33 公開 / 貴志川
■この作品の著作権は貴志川さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
うーん。個人的にちょっとひっかかるというか、スランプですね。自分……。
自分で言うのもなんですが、勢いが落ちてきているような気がします。うおおお……
でも頑張って笑ってもらえるように知恵を絞ります。
できるのであれば、アドバイスや感想をお願いします。

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