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『T&M 1〜10(1)』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:おんもうじ
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少年は黒いジャケットを身にまとい、夜の闇と街に煌くネオンとの間で上手く溶けこめずにゆっくりと歩を進めていた。まるで獲物を威嚇するかのように大きく背中を丸めポケットに手を入れ歩くその姿はまるで不吉そのものを感じさせる。その姿に恐怖を感じ、彼が歩く周りに近づこうとする者はおらず、そこにはただ空洞ができた。
少年は大きな体に肩をぶつけた。見上げると、ガラの悪いチンピラが一人、彼の前に立ちはだかった。こういう輩はたいてい自意識過剰で、自分の力量と相手の力量を読んだりすること等滅法できないものである。
「スマン、ぶつけた」
少年は何気なく謝り、そしてまた歩き出そうとした。が、一歩を踏み出す刹那、そのチンピラが少年の肩をつかむ。自己を主張して振舞うばかりに、その少年の異様な雰囲気にも気づけないでいたのだ。まあ、年の差は如何見ても離れているし、ましてや、がたいの大きさなどは大人と子供の差で、どちらが優勢で、どちらが劣勢かは、状況だけを見ればそれはもう歴然としている。この状況では、幾ら自意識があったとしてもなかったとしても、その異様な雰囲気に気づけなかったのは幾分かいたし方無かった事なのかもしれない。
「てめぇ、口の聞き方もしれねぇのか……? このガキよぉ」
肩をつかんだまま、下目で睨みつけるチンピラ。周りには横目でこのいざこざを見とめながら、するりと何事もなかったかのように擦りぬけて行く通行人であふれかえっていた。ただうっすらと輝くネオンは何となく、そういったいざこざを保護色に塗り替えて街になじませてしまっているかのような感覚がした。
「ぶつけた、じゃねぇだろうがよぉ? 『申し訳ありません、お金でも何でも払うのでどうかご許しください』、くらい言ったらどうなんだ……?」
黙ってただ話すチンピラの瞳を見つめる少年。その鋭い眼光にチンピラはようやくこの少年の持つ、異様な雰囲気を感じ始めた。
「く、なんだよその眼は……」
「……」
「黙ってねぇでよぉ……――何なんだよその眼は!!!」
チンピラがついにしびれを切らして、手を振りかざし、少年へと向ける。
バコッ、ドコッという低く乾いた音は、街のネオンに溶けて行って、ただ、ぼこぼこになったちんぴらだけをそこにのこして空へと昇華していった。
それを背に、少年はまた歩き出す。今度はネオンから離れ、本物の闇に溶けて行くように……
彼の名は――ブラック――闇影の異名を持つ漢
…………やっぱやめ。
もとい。
彼の名は――玉・子焼――闇影の異名を求める男……
――そして、物語はこの男の高校入学式から始まる――
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第一話 入学、そして、
その日、彼、玉・子焼が見事入試を乗り越え、入学したこのベジタブル高校の入学式で、彼は入学生代表として前前から(といっても多分前日か当日の朝)適当に考えたであろう式辞を読んでいた。そう、彼は成績トップでこの高校に受かったのだ。
このベジタブル高校はこの地方で1,2を荒そう名門校である。大学進学率も半端ではない。にもかかわらず、彼がこの高校を受けた理由は一つ。
『家から近いから』
そう。そのためだけに彼はこの学校を受け、トップで入学したのじゃ。彼はそういう男なんじゃ!!!
「僕はこの学校で〜〜〜なんたら〜〜〜(省」
ちなみに、この後、新入生はこの高校の校歌を歌わされるのだが、その歌詞の中で、野菜のことは一切ふれられず、「肉が全てさ」などと連呼していることについては、玉・子焼(この先両略して玉子)の心には多分一生の疑問としてとどまる事となるだろう。
入学式が終わって、彼は振り分けられた自分のクラスでまずぐったりと自分の席に突っ伏した。
「(何で俺があんなめんどくせーことしなきゃ……はぁ……)」
猫背に体を丸め、あごを机にのせてため息をつく。成績トップで入学し、入学式で式辞を読んだときとはまるで別人である。
そうやってぐったりしていると、後ろから誰かの手が彼の背に乗っかった。
「何ぐったりしてんだよ、優等生さん」
彼は顔を上げた。今まででインプットされてきた顔を頭の中で検索するが、その顔は見つからない。コンピュータはただ「見つかりませんでした」とだけ言い残し、どう言葉をだすか命令さえもしてくれない。
「……誰だ??」
一応何か喋った方が良いと思って放った第一声。話しかけた主はあ、そうだ、すまん、といって自分の名を名乗った。
「俺は目・玉焼。これから一年同じクラスだ。よろしく頼むぜ、玉・子焼」
「お……おう」
玉子は何故自分の名前を知っているのかと一瞬思ったが、すぐに自分がついさっき入学式で行った事を思い出し、納得する。そして、玉子にこの学校ではじめての友達ができた。
「お、先生がきたぜ」
目・玉焼(この先省略して目玉)が、ドアの方を向いて言った。確かに少しずつ足音が近づいてきている。もともと見ず知らずの連中で構成された静かなクラスは、その足音が大きくなるのに比例して更に静かになっていった。教師がドアの前で立ち止まっている頃には、全員自分の席についていた。
ガシャっと音を立てて、男性教師が教室に入ってきた。その眼がねの奥に期待と不安に満ちた瞳を光らせて。
しかし、この眼光に秘められた感情の片方は、このあとすぐに崩れてしまう事に成る。
教師は教卓にざっと持ってきた書類を置く。その表情は堅く、唇をぎゅっとしめ、ひきしまった素振りで両手を教卓においた。平均的な体つきの割に迫力がある。
「今日からおまえらの担任をつとめる、そぼろ・焼だ!!!」
……クラスは静まりかえった……。皆が皆、意表をつかれた顔でその教師を見つめていた。
そう、あまりの迫力に、そのカツラがずれていたのだ!(迫力関係ねぇー)
そぼろは何事もないように話しつづける。がしかし、そのカツラに気づいていない者が、このクラスでそぼろ以外に一人だけいた。
「担当は数学だ……今年で45を迎えるが……ん……」
そぼろは気づいた。クラスの皆が突如目の前に現れた威厳の塊とでも言えようか、この厳かな風格を持った私を、憧れの感情を携えてみている、などというあまりにも愚かでアイタタな思い違いの上、ただ一人入学して初日にもかかわらず、初対面となる担任の話しも聞かずに居眠りなどという愚行をすぐ目の前で繰り広げている愚者がいることに。そして、そぼろはそのギャップに驚愕する。なんとそれは、今年度成績トップの玉子ではないか!!!
そぼろは呆気にとられてしかたなかった。落胆の表情を少し浮かべながら一喝する。
「おい!玉子!……玉子!!!俺はかなし……」
「ん……んん??」
そぼろが声を荒げて、悲しげに嘆き始めた時に、玉子は眼を覚まし、寝ぼけ眼にそぼろの顔を見た。と、同時に、玉子は驚愕の表情を浮かべ、そぼろを指差した。肩は震え、眼は見開いている。
「づ、づ……――づらがづれとるぅーーー!!!」
「「(言っちゃったーーー!!!!!!!!)」」(クラスの心の声である)
「…………」
そぼろは目を剥いて、おそるおそる自分の頭をさわる。つるっとしたなめらかな感触が触覚を刺激する。
「ぎゃゃあっ」
そぼろは泡をふいて倒れた。やむなくそぼろは病院(+精神病院)に運ばれ、治療をうけることになり、そぼろの1年B組には副担任の好み・焼がしばらくの間このクラスを請け負うことになった。(そんな重症なんかい)
何はともあれ、そんな波乱万丈な一日を終え、玉子は目玉と一緒に学校から帰っていた。学校では入学初日なので簡単なオリエンテーションをしただけだった。副担は体育の教師で、何の面白みもない人間だった。(おい!)
玉子は家に帰ったあと、本棚から古びれたアルバムをとりだした。毎年、この時期になると決まって開くアルバム。中には大切なあの写真が。
「……」
その写真には、1つのサッカーボールが写っていた。雨上がりの直後と思われる草むらの上に転がったサッカーボールは、表面に露を残しており、写真の半分ぐらいを占めて丁度真中あたりに写っていた。そして、ボールの中心より少し上のあたりに、サインがかかれてあった。
『今日も、良い日だ。』
勘違いしそうなので言っておくが、人名だ。
彼は写真を胸にあて、涙を流した。キラリ☆とゆるやかなカーブを描いて、それは顔から写真にこぼれおちた。
次の日、早速授業だった。(速
一時間目になって、初見の教師がせっせと自己紹介をはじめる。
「さて、私の名はたこ焼き。体育と数学以外の教科は全て請け負うから」
「「えーーーーー」」
いや、まぁ……作者の都合上……。
「じゃあ、始めるぞー。」
春の心地良い気温を肌に感じながらも、4限までの授業を終えて昼ご飯の時間になり、玉子と目玉は屋上にいった。
――ここから、二人の運命の歯車は大きく動きだすことになる――
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第二話 そして、何処へと走り去るのか――
屋上はただっ広い草原だった。と、言うのも、きっと元は普通の屋上だったのだろう跡がこの硬い地面には感じられる。だが、どういう経緯か、そこから草が生え、さわさわと風になびく心地良い草原になっていたのだ。二人はこの不思議な場所に困惑しながらも、前を見据えると、なんと、そこにはしまうまがいた。
何故しまうまが?と心の中に疑問符を打ちつけつつ、この学校にはしまうまを飼うという伝統があるのかな、という解答をすぐに用意し、そして昼ご飯を食べるのに丁度良い場所を探そうとしたそのとき。
「よぉ、新入り」
しまうまは喋った。一瞬、沈黙がその場を包む。
「うぉ!?!?」
あからさまなリアクションを返す目玉。現実に在りうるはずのないその状況に動じない方がある意味現実離れしているのかもしれない。それに比べ、玉子は相変わらず平然と、それでいてクールに口を開く。この男はその現実離れした一例かもしれない。
「ふ。新入りかどうか、貴様の力量をもって試すがいいさ」
玉子の頭の中で何が起きたのか分からない。脳細胞が一丸となってアルコール中毒になってしまったのか、はたまた今にも脳細胞の攘夷派と維新派が二つに分かれて、大戦争を勃発させようとしているのか。玉子はゆっくりと一歩一歩歩み出る。それに合わせる様に、しまうまも玉子の方へと歩み寄る。しまうまはにやりと口元を吊り上げていた。まるで、こんな猛者は久しぶりだ、と歓喜の声を心の内に秘めて隠しているかのように。
「何と、わしに決闘を挑むか。後悔するぞ?」
「テメーで決めた道だ。後悔なんてオマケはもとよりついてねぇ」
「ほっほ。……――それでこそ漢じゃ」
二人の間に広がる幻想ワールドに入れず取り残され、ただ呆然としている目玉は、横からまじまじとその光景を見詰めてることしかできなかった。未だにこの状況が理解できないのである。そして、
しゅん!! 実際には立つはずのない擬音語と共に、しまうまが姿を消す。目玉の口は大きく開いてしばらくふさがることは無かった。
「チッ……どこへいった」
舌打ちをして、辺りを見まわす玉子。しかし、見当たらない。刹那、「危ない!上だ!」と叫ぶ目玉の声があと少しでもおそかったら確実にクリーンヒットを被っていただろう上空からの攻撃を間一髪で避ける。弁当をかばう暇もなく、その反動で放ってしまったが、目玉が拾ってくれたようだ。(今気づいたが目玉って略することいと気持ち悪し。)
「クソッ、こいつ強ェ……」
一瞬で相手の力量を判断し、玉子は体制を立て直す。しまうまはあざけ笑うかのように言ふ。
「まこと弱き。よやよや」
「意味分からん」
一部のスキも与えずつっこむ玉子。少しでも自分のペースに巻きこもうとする。が、そう簡単にペースを譲ってくれるはずもないようだ。しまうまは平然としている。玉子はまた舌打ちをし、先ほどの攻撃を避けたときに顔についた砂を手の甲で拭う。
「いずれは闇の帝王の異名を手にするこの俺が、ここで負けるわけにはいかねェ。だが、こいつの強さは本物だ……チッ」
玉子が一人で呟いて、頭の中でいろいろな考えを巡らす。そこには計算の世界が縦横無尽に広がっていて、そこに玉子が一歩足を踏み入れると、彼の集中力は激変する。
しまうまはそんな玉子の状況を見て、笑う。
「どんな策を考えているかは知らないが、わしに決闘を挑んだことに後悔を残さないという考えなど、間違っておるとと教えてやろうぞ」
二人は腰を深く構え、お互いに睨みあう姿勢になった。(しまうまのこの姿はよく分からないが……)
そして、一瞬の沈黙の後、ざざっと風邪が草原をなでる音がしたと同時、
しゅんっ!!二人は走り出した。
「うおぉぉーーーー!!!」
「ふんぬーーーーー!!!」
二人とも言葉なのか言葉なのかさえも確かではない、正体不明の何かを発しながらものすごいスピードで互いに向かって走りより、そして、叫ぶ!
「うおぉーーー!!!ら ・ せ……――!!!」
「うおぉーーー!!!ち ・ ど……――!!!」
――――二人とも、待って!!!!!!
その大きな女性の声で二人ははっとして動きを止め、声のした、屋上から校舎内へ通じる入り口のほうを見る。
「無駄な争いはやめて!!!(技名もギリギリすぎ!)」
声の主は、ちゃぶ台だった。
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木製の、丸いちゃぶ台だった。ちゃぶ台の卓上に、円周を数センチのこして穴が広がっていった。しまうまと、玉子、目玉はその卓上にできた大きな穴に入った。
穴の中に入ると、そこは小さな一軒屋の中だった。洋風作りで、一部屋だけの簡単な小屋。四方のどの壁にも窓があって、そこから外が見える。外には木がうっそうと茂っていた。ちゃぶ台の周りを三人が取り囲む形で座った。
「また、与助ったら……。いつも無茶するんだから……」
ちゃぶ台は呆れ顔でしまうまに言った。
「新入りをもてなすのは先導者として当たり前のことじゃろ」
玉子と目玉は唐突にやってきたこの状況にもはや思考する余力さえ残っておらず、眼前にある、現実味の全くないこの現実をただただ呆然と見つめていた。
そして、ふと玉子と目玉は思った。
「(与助っていうんだ……こいつ)」
「迷惑かけてごめんね。あの屋上は与助が仕切っているの。あそこに足を踏み入れたものは皆与助の弟子になる決まりなのよ」
ちゃぶ台のその言葉に、玉子は舌打ちして、クールながらも少し過剰に反応を見せた。
「何だと……!誰が弟子になんて」
そこには玉子のプライドや、先ほどの戦いのときいっていた闇の帝王のことも大きく関わってきている。そして、自分が認めていない相手ならなおさらだ。先ほど、玉子は確かに与助のことを強いと感じた。だが、勝負はまだついていない。玉子は負けてはいないのだ。
それをなだめるかのように静かに言い放つちゃぶ台。といっても、ちゃぶ台の声は、物理的には聞こえるというよりは、頭に直接響く感じだ。
「しかたないのよ……本校の校則にもなっているんだから」
「何ぃ!!!!!」
一拍おいて、横から目玉のリアクションが割り入る。どんな校則だよ、と。そしてこのしまうまはこの学校においてそれほどまでに重要なキャラクターなのであるのか、そんな思考が一瞬で二人の頭を擦りぬける。玉子は信じられないといった顔をして、そして少し怒りにも似たような感情を含めた声色で、与助に指をさしながら、言う。
「じゃあ……本当にこんなやつの弟子になれと……!?」
指をさされた当面は当然、少しむっとする。確かに、しまうまの部下になるなんていうのはふざけている話なのだが。
「失敬な。これでもわしは第……」
「大変だぁーーー!!!」
与助がなんだか言い終える前に、誰かが何やら叫びながら蒼白の形相でドアをけって部屋に入ってきた。びっくりしてびくっとドアの方向に振り向く四人。
「テ、テ・パン焼!!!どうしたの!?」
ちゃぶ台がおどろいて駆け寄る。移動は浮遊だ。
テ・パン焼(以後省略。テパン)と呼ばれた男は、玉子、目玉とは少し違うタイプのもののようだったが、制服を着ていた。どこか違う学校の制服だろうと推測する。少し大きめの制服がよく似合うテパンは息を切らしていて、高すぎずも低すぎないが特徴ある声で喘ぎ喘ぎしゃべった。
「ヤツが……メソポタリンV世が暴走した……!!」
一瞬の間がこの部屋をよぎって行った。もちろん、玉子と目玉には何の事か分からない。しかし、その言葉の意味を理解し得るちゃぶ台と与助は、一瞬、その言葉を理解できず、慌てて頭の中で整理する。ただ数個の文節からなるその一文を整理するだけなのに、実際整理するとなると多くの時間がかかった。そして、少し違和感の残る間を挟んでちゃぶ台はリアクションをとる。
「なんですって!?あのおとなしいメソポタリンが!?」
ちゃぶ台の驚きようは尋常ではなかった。それほどまでの大事なのか。玉子と目玉は全く置いてけぼりにされたまま、それでも何となく話しの内容が気になったが、この慌ただしい状況下で、口を挟むことは何となくできなかった。
「流石の俺でも止められネェ……与助!カリン!!援助を頼む!!」
テパンは少しずつ整う呼吸の合間合間に喋る。ちゃぶ台のカリンという名前のギャップに驚愕しつつ、目玉はカリンになんとかタイミングを見計らって聞く。
「いったいどうしてカリンなんだよ!?――じゃねぇ!いったいどうしたってんだよ!?てかここはどこなんだ!?」
思っていることは口に出てしまうものである。それはさておき、カリンは少し申し訳なさそうではあるが、かなり慌てた様子で言い放つ。
「話しは後よ!!ごめんね、今はここで待ってて!!――行きましょう、テパン、与助!!!
「合点承知!」
と与助は勢いつけてうなずき、
「助かる!行こう!」
とテパンはすこし安心した様子で、言った。そして、よしやを先頭に、3人はドアから駆け出して行った。
残された二人は唖然としてつったったままでいた。どたばた騒ぎの末取り残された二人。全く理解し得なかった展開。分からない事が多すぎる。おそらく今まで生きてきた中で、一番謎が凝縮されている時間だった。二人は、これがどういう状況なのか、もう考える気さえ無くなっていた。
目玉はただ無表情のまま呆然と言う。
「……どうするか??」
しばしの沈黙の後、玉子は目玉の方を見て、そして口を開く。
「……取り敢えず、昼飯、食うか」
二人は忘れかけていた当初の目的を思い出し、その場に座って、昼飯を食べ始めた。
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よしや達は家を出ると、うっそうと広がる森の中の砂利道を走って行った。(一人は浮遊)
「くっそ……よりによってこんなときにハナコはいないネェなんて……」
テパンがおいしげる邪魔な葉を払いのけながら言った。ハナコ、この三文字がテパンの頭の中で連呼される。複雑な気持ちだった。あの時、確かに別れを言ったはずなのに……。
カリンはそんなテパンの様子を見て、同情を言葉に引き連れるように言う。
「皮肉なものね……最強と呼ばれるあなたが、一番苦手な相手に手も足もだせず、そしてこの大事なときにハナコがいないなんて」
「ああ……。ハナコ、ハナコさえいれば二人に手をわずらわせないですんだ……すまねぇ」
二人の会話に、与助が割って入る。
「ほほっ。まぁいいじゃろ。この3人がそろったときて勝てない相手など皆無に近しいわい!それほど難儀なことになることもないじゃろ。安心せい」
無表情で黙ってその言葉を受け入れるテパン。その言葉をじっくりとかみ締める。与助のこの暖かいキャラクタに何度救われた事か。テパンは静かに言い放つ。
「ああ、そうだな。言われなくても分かってるぜ……ありがとう」
ニッと口元に笑みを浮かべた。そしてすぐにそれは真剣な面持ちに戻る。
三人は前をみすえる。森の出口だ。そっと光りがさしこんでいる。眩しくて、出口の向こうが見えない。しかし、光りは段段大きくなっていく――そして、
「ザザザッ!と三人は同時に森から抜け出した!!!そこにはそれほど大きくない広場が広がっていた」
「で、でたぞ!!!」
与助は前を見据える。そう、その広場にはメソポタリンが待ち構えていた。わら人形が五匹円陣を組む形でくっついていて、それぞれの頭だけ5mくらいのびている。そしててっぺんにはUFOのような形の、口のない化け物の頭がついてるという文句なし、正体不明の大化け物である。触覚といって良いのか角といって良いのかよくわからないものが頭の右上と左上からのびており、そこにそれぞれ目がついている。そして、この化け物は、なんとナレーションのごとく台詞を自在に操るのだ。
これほどの化け物が実際の世に存在たら、この世界がどうなるかなんて想像できたものじゃない。しかし、それ以上に三人が驚いたことは、三人がこれままでに見た巨大さを越えて、また数段と大きくなっていたところであった。
「何で……?成長は止まったはずじゃ……??」
カリンは少し悪寒を感じ、言い放った。テパンは苦笑する。額には走っている間にかいた熱い汗と冷や汗がまじって微妙な温度をテパンに感じさせた。
「これは……流石の三人でも簡単にはいかないかもな……」
テパンが言って、その巨大な化け物を見上げる。陽の光りが眩しくて少しだけ目が霞んだ。
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一方、ゴンザレスと校長は、フーフー言いながらマカダミアナッツを食べていた。
「フー!!そーいや、知ってるかーい??」
陽気なリズムでマカダミアナッツを口に放るゴンザレス。校長もそれに答えながらマカダミアナッツを口に放る。
「フーフー!!なんダーイ?!」
空は快晴だ。心地良い具合に降り注ぐ要綱が気持ち良いこの中庭で、マカダミアナッツは今にも溶け出そうとしている。(ナッツが溶けるのかどうかと聞かれたら、身も蓋もない話しなのだが。)
「今年度の成績トップの、玉・子焼きとやら、真・快適王の血をうけづいでるって」
「何ぃっ!?!?」
あまりの驚愕にマカダミアナッツを落としてしまう校長。そしてものすごい形相で感情を表わにする。この世は全て思いやりで出来ていると信じきってやまない少年の心をも踏みにじってしまいそうな形相である。校長と真・快適王の間にそこまで深い因縁があるのであろうか。
「し、しまった……わしとしたことがそんなことに気づかず……」
ゴンザレスは青ざめた校長をニヤリとして見つめ、さらに言葉を足した。
「でもね、校長、それがダヨーふふっ……」
そういってゴンザレスは校長の耳元でマカダミアナッツを噛み砕き、飲み込んだ。そしてその後、彼は成しえる限りの甘い声でコソコソと囁いた。
「……!!」
校長はその激しい表情をゆるめ、ニヤリと笑みを浮かべた。
「フホーイ……!!そう、か……。面白いことになりそうジャ……!!!」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
第三話 いかにして猫へ
玉子と目玉は、弁当を食べ終え、綺麗に片付けて弁当箱をその辺に置いた。そして、はぁーっと疲れの吐息を漏らしながら、その場に寝転がり、ごろごろする。
二人はそれぞれ、頭の中で今日のことについて整理する。授業、草原、屋上、しまうま、ちゃぶ台、異空間、メソポタリン。全てにおいて筋の、通ったものなど一つもありはしない。ただ導かれるままに、時に任せて流れを受け入れただけ。ふいに思う。運命っていうのも人生っていうのも、きっとこういう流れからなっているものなのかと。だとしたら、過ぎ去った運命の理由を追求そして解明しようとすることの意味は大幅に減るし、それを解明する術さえも今の二人には何一つない。頭から足先までナンセンスに染まって行くのである。
簡単に言えば、考えるのがもうめんどくさいので、二人は寝ようとした。だが、寝転がって暫くして、二人はあることに気づく事になる。
「……帰れねぇな……」
「……」
「……」
ぼそっとつぶやいた目玉焼きを横にして、幾分かの沈黙の後、物思いに考え込む。それにはお構い無しに、目玉は続ける。
「……登校二日目にして授業サボリかよー……はぁー」
目玉が一通り喋り終えると、そこにはまた沈黙が広がる。玉子はまだ考えたままだ。
――今ごろ、アイツは……――
今日は、良い日だ。のことを考えながら、食後の眠りにそっとつく玉子。目玉も、それを確認すると、ばったり倒れこんで眠りに落ちた。
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「テパン!!あの連携を使うためにあとどのくらいかかるかしら?」
カリンが、メソポタリンの猛攻――目から手裏剣がでてくるという、何とも奇想天外な、――を避けつつ、テパンに問う。与助は依然、カリンが注意をひきつけている間にスキを見て攻撃していた。
「あれは運気によって左右されるためどうしてもムラがでてくる……運気さえ良ければすぐにでもいけるんだが……カリン!与助!今日の朝の運勢はどうだった!?」
「メソポタリンは五寸釘を放った!!!」
そう良いながら五寸釘を放つメソポタリン。テパンの言葉と、メソポタリンの言葉、その両方をを聞いて、与助は口元に笑みを浮かべた。それを視界の端でとらえるカリン。カリンもどうやら笑み(雰囲気だが)を隠し切れないでいたらしい。与助もそれを見とめた。カリンが先に問う。
「どうしたの!にやにやしちゃって」
与助はにやにやしたまま言う。
「それがな。朝の占い、わしゃ大吉なんじゃ。でな、ラッキーアイテムはのぉ」
カリンに完全に気をひかれていたメソポタリンがさっと与助のほうを向く。与助はそれを予知していたのか、笑みを静めることなく、メソポタリンを翻弄するようにひらりと攻撃を避けながら走りよる。
「五寸釘じゃ」
それを聞いて、カリンは、奇遇ね、といって更にその笑みの雰囲気を深める。
「私も大吉。ラッキーアイテムは……手裏剣!!!」
メソポタリンも気づかぬ内に、与助とカリンはメソポタリンの斜め前左右にそれぞれ立っていた。そして、背後には、与助とカリンからは丁度太陽の逆行で見えないが、テパンがメソポタリンの上空にいる。与助とカリンは太陽に気をおくる。。すると、太陽とテパンが重なった瞬間、背景は闇に包まれていった。
「ありがとよっ。おめぇら最高だ。偶然にもな、俺も大吉なんだ」
テパンの手が光る。そして、闇を切り裂くその光りはただでさえ眩しい太陽の光りさえもさえぎって、メソポタリンに振りかかる。
「ラッキーアイテムは……UFO!!!」
テパンがそういうと、凄まじく眩しい閃光が一本の剣のようになってメソポタリンを貫く。そして闇に包まれた背景はバラバラになって割れて、元の風景を取り戻し始めた。
光りが冷めたあと、そこには先ほどの風景が広がった。ただ一つ、違うことは、そこには先ほど戦っていたメソポタリンの姿はなく、変わりに小さい子猫が一匹いることだった。三人はその子猫に近づいていき、取り囲む。にゃー、と鳴いてその子猫は顔を洗う。
「久しぶりに使ったわね、あの連携技」
「ああ、この痛切な心の痛みを感じて久しいな」
テパンは自分の両手を見つめる。そして、そのまま視線を子猫に動かす。
「これがあのメソポタリンなんて、到底思えないな……」
「のぉ、せっかく育ってきた魂を幼少の頃にリセットするなぞ……罪深いことだ……」
与助の言葉による、少しの沈黙を振り払って言うテパン。
「ああ。分かってる。だがハナコのいねぇ今、こうするしかなかっただろう」
そういってテパンはこの幼少期メソポタリンを抱き上げる。真っ白でつややかな毛並みで、弱弱しくもどこかに、溢れんばかりの勇気を秘めていそうなその瞳を有したその愛らしい子猫が、どうしてメソポタリンに成り得ようか。この世には解明されていない物の方が多いな、とつくづく実感する瞬間である。
テパンは抱き上げたネコを撫でてやる。嬉しそうににゃぁと鳴くメソポタリン。その愛らしさについ緩んでしまっていた口の端をしっかり結び、テパンは真顔で言う。
「さて、まず一段落終了だ。皆、分かってるよな?本当の問題はこれからだ、」
言いながら、テパンはカリンに、そして次に与助に目配せする。二人とも、神妙な面持ちで、こくり、と頷く。そこに漂う張り詰めた空気と、なんとなくこれから向かうだろう未来への予感はうまく調合しあって、何とも落ち着かないぱりぱりした雰囲気を作り出していた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
第四話 未知との接点
玉子が目を覚ましたのは、寝てから15分足らずしか経っていないときのことだった。その場に立ち込める異様な空気に気づいて、目を覚まし、体をおこす。長座の姿勢になり、横でまだ眠っている玉子の方へ目をやる。目玉はすやすやと眠っていた。
「おい、」
声を潜めて目玉を起こすと、目玉焼きはまだ眠てぇよ、寝させろ、といでもいいたげにしぶしぶ体を起こし、目をこすった。
「何だ……?眠たい眠たい……」
「シッ……誰かいる」
といって口に手をやり、制す玉子。目玉は唖然として目だけをきょろきょろ動かす。
「何……??」
少し神経を尖らしてみると、その空気に何となくだが目玉も気づいた。その場の緊張感が高まってゆく。何かが、今にも来そうな予感。不審な気配。まるで空気をむしばむかのようなそれは、二人の体を少しずつ固まらせて行く。まったく未知数のこの世界でいきなりこのような危険な匂いと直面するなどとは、到底想像つかなかっただろう。
少しずつ、その気配が占める割合はましてゆく。それと比例するかのように、玉子の頭にでてくる疑問と回答も増えて行き、
――ふと、玉子は何やら思いついた。それをすぐさまゴニョゴニョと目玉の耳元にその考えを囁く。
「良い案だな」
目玉は頷きかすめた声でいった。そして、何とも無しにうなずきあうと、二人は、点対称の位置になるように、それぞれ部屋の角に移動した。忍び寄る気配は更に増して行く。圧迫感もそれに応じて増える。
そして、それは気配から足元へと変わって行き――
ばたんっ!
大きな音を立て勢い良くドアを蹴倒しながら、明らかに怪しい男が中に入ってきた。手には銃を持っている。二人はそれにひるみながらも顔を見合わせ、最後に一度うなずきあって互いに背面のガラスを勢いよく割った。バリ―んというけたたましい音が響いて、男が怯む。その隙に二人はすばやく窓の外へ出て、すぐに合流して玄関と逆の方の林へと走り去った。怪しい男は何がなんだかわからず、チッと舌打ちして、窓の外を見やる。しかしもう後の祭で、玉子と目玉はこの薄暗く道無き森の中のどこかへと消えてしまっていた。威嚇の意でデタラメに発砲するが、そこには何の意味もなく銃声が轟くばかりで、残された彼はただじっと立ち尽くし、そして残された行動は、諦めて帰るというっことだけであった。
逃げた二人とも額には冷や汗がびっしょりとついていた。走りながら目玉が感心するように、ニッとしながら言う。
「武器持ってたよな!?コワッ!良く分かったな!この危ない状況!」
「カンが騒いだんだよ……。明らかにそこにあった平穏な空気が不穏な空気とすれ違いはじめていたからな……。奴の狙いが何なのかは知らんが、とにかく、あそこに俺達が居たままだったら、どうなっていたことか」
クールに説明する玉子。ますます目玉の感心は研ぎ澄まされる。
「そうだな、流石だよ。ナイス判断、玉子!」
「おう!」
二人は生い茂る森の中を長々と走っていった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ここに漂う火薬の匂いに気づかなかったものは、この三人の中にはいなかった。与助、カリン、テパンとも身体能力は並外れている。嗅覚もその例外ではなく、今確かに風音に流れながらも残っているそれは硝煙の臭いだ、ということはすぐに分かった。
「なんてこと!?」
カリンは青ざめた雰囲気で喋る。
「玉子、目玉が、いない……?!」
「なんてことじゃ……」
与助の額には汗が見て取れる。
「もとはといえばわしがこの世界にひきずりこんだせいで……大変なことになってしもた……」
肩を落とし、落ち込む与助。責任に押しつぶされそうになる。
「ん……?そういえば。」
テパンがふと思い出したように言う。
「今日は……もしかして……何日だ!?!?」
「え……?」
そういって二人は今日の日付を思い出す。そして、思い出されたその日付はゆっくりと二人に青筋を付着させていった。運命は、交差している。いつだって、誰も知らないようなところで歯車は回っているのだ。
「…………しまった!!!やつらが!!!」
与助が言う。そう、三人は気づいてしまった。青ざめた顔はそのままで三人は辺りを見まわす。守らなければ。守り抜かねばならない。なんとしても。大変なことに気づいてしまったから。
しかし、その事実を受け入れたときに少量の安心感もまた降り注ぐ事となる。
「メソポタリンがああなってしまった今……あいつらがどうにかなったらこの世界はただじゃすまんぞ。でも、あの二人が例のあれならそう簡単には捕まらないはずじゃ。今ならそう遠くへは行ってないだろう。……探すぞ!」
「おう!」
「ええ!!」
まだ間に合う、そんな希望が完全にその不安を拭いきってくれるはずも無いのだが、ただ、無事なことを祈って三人は今にも走り出そうとする。テパンがスタートを告げるように言う。
「よし、三人ばらばらになっていこう。夕方日の沈む頃にまたここで落ち合おう!」
そして三人はそれぞれ別の方向へ走り出した。まだ夜の訪れを告げるには早い太陽の位置をかみ締めて。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「なあ、あとどれくらい歩くことになるとおもう?こりゃ日本経済と似たようなもんだよな……さんざん迷いつづけて……なんたらかんたら」
徐に問う目玉をよそ目に、玉子はとぼとぼと歩いていた。正直、疲れ果てて、先ほどから延々と続いている目玉のくだらない小話やら世間話やら……そういうのを聞くのが億劫になっていた。しかし、反応の無い玉子に寂しくなる目玉。なかなか子供っぽい。
「なあ、玉子聞いてくれよー」
少し潤目でしがみつくように言う目玉。流石に無反応を決め込んでいたのじゃあ仕方が無い。玉子も少し悪いなあと思ったようで、素直に謝る。
「す、すまん……だがしかし。なんだこの熱さは……」
森をとっくに抜けたのは良いが、そこに広がるのは延々と続く砂利道だった。砂利道といっても、縦横無尽に広がるようなその砂地に一本、ちょちょっと簡単に整備されたような道が森から何本かでて合流し、まっすぐ続いているだけだった。今はそのうちの一本を発見して、それにそって歩いてきている。森を出た時、広がる壮大な砂地と、森との境界線はくっきりしていた。誰かが整備したのか、そうでもないとありえないようなそのあまりにもくっきりとした区分的な地形は、見た目だけでなく、実際の気温にも大きくギャップを及ぼしていた。そう、森を抜けたときに感じた体感温度の差異は、推定25℃。(んな馬鹿な!?)森の中にクーラーでも利いていたのか?といわんばかりである。誰が言うのかは、まぁ……目玉にでも任せるか。
「まじ、森の中にクーラーでもいたんか!?あそこ!」
唐突に言い出す目玉にびっくりする玉子。森抜け出したのどんくらい前の話しだよ、と。
だが、そんな表現も大げさではないほどそこの気温差、湿度差は大きかった。まあ葉で覆われて日光が届かないだけでもかなり涼しくなるとは思わないのだが。流石自然の力である。緑に大感謝。
「僕らを守ってくれてありがとう、ミスター、グリーン」
急に何かを信仰したような目になる目玉に少し玉子はうろたえた。こいつの頭ついに日光にやられちまったのか、と。
延々と続く砂利道は一向にその風景を変えることはなかった。いや、正確に言えばもともと背後にあった森の景色は無くなったのだが。
――かれこれ、何時間歩いたのだろう。このまま果ててしまうのではないか、という焦りと不安に心を刈られながらもまだまだ歩く。もともと二人の体力はずば抜けていたもので、まだなんとか体力は底をついていなかったのだが、日も沈んで行き、夜の匂いが漂い始めると、嬉しいことにその匂いの量が増えるのと反比例して気温は下がって行った。
そして、辺り一面が暗闇とそれに伴う恐怖で包まれそうになったそのとき、二人の目に明かりがちらついた。二人は呆然と立ち尽くし、それを眺める。もしかして……
最初に口を開いたのは目玉だった。その明かりを指差し、言う。
「おい……あそこ、もしかして……!?」
「ああ。もしてかして、な」
そう、そのもしかしてだった。二人が近づくと案の定、そこには小屋が建っていた。二人は安堵の表情を浮かべ、お互いに目を合わせた。目玉がそうだよな、という確信の気持ちとそうであってほしい、という希望を混ぜ込んで、そっと言う。
「敵の家……じゃ、ねえよな……??」
玉子はうーん、といって答える。だがやはり安心の感情は隠し切れず、少しほころんだ顔をしていた。
「そう信じたいな。ていうか何が敵で何が味方かさえも分からないんだけどな。」
――二人は恐る恐るドアをノックした。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
その頃、与助、カリン、テパンはこの広い地上で二人を見つける事が出来ずに、結局またもとの二人が連れてこられた小屋で合流していた。
「くそっ……見つからんねぇか」
テパンが舌打ちする。焦りの色は三人の顔を不穏にさせる。この焦燥感にあおられて不安で一杯の三人の心は癒されることはなく、ただただこの現状に屈服するしかなかった。
「く……なんで最初に気づかなかったんじゃ!?」
後悔の念が今になってどうしようもないことを知りながら嘆く与助。その憤りにも似た感情は誰にもぶつけられることはなく、ただそこにある一種の圧迫感をうき彫りにするだけであった。
「メソポタリンを私たちが……なんてことよ。あろうことか、快適王の死期とそれが重なってしまうなんて」
「でも、仕方のないことじゃ。メソポタリンが暴走したのを止めるのにはああするしか……!――そうか」
と与助は突然何か納得したように頷く。メソポタリンの暴走、玉子と目玉の登場、そして快適王の死期、これは――
「この運命は遥か前から決まっていたんじゃ!何かが、起ころうとしているぞ――」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
そこにいた老人は、暖かく迎えてくれた。短く丁寧にセットされた白髪が目にとまった。見た目も正確も根ながらのジェントルマンといったかんじで、部屋の中だと言うのにシルクハットをかぶっている。身につけた黒いスーツは、この木製の小屋に変にマッチしていて、後ろの暖炉との調和がなんともいえなかった。
玉子と目玉は少し警戒しながらお邪魔します、といって部屋に入った。といっても危機感は、この老人の人相を見てからずいぶんなくなってしまっていて、取り敢えず今はとにかく休みたい気持ちの方が多かった。
老人は、ようこそ、といって椅子に座るように促してくれた。玉子と目玉は頭をさげ、3つある椅子の2つにそれぞれ座った。ジェントルマンは、コミカルといいます、と軽い自己紹介をしてくれた。二人も自己紹介を返す。玉子が自分の名を名乗ったとき、少しコミカルの眉がぴくりと動いた気がしたが、すぐにそんな様子を振り払うように微笑んで、そうですか、と言った。すると、急に、コミカルは静まった。静寂があたりを包んだかと思うと……刹那!!!
「はーい! 文字通り♪ あ、僕はコミカルですっ! あそっれ! あそっれ!」
「わいわいっがやがっや!!!」
「あそっれこんな気分で♪ 世界説明♪」
「わっいわいがっやがや!!!」
「そぉらっほいほい! こんな世界にようこそよっうこそ!」
「あどっもどっもどっも!!!」
「なんだっかな! なんなんだかな!? わからない! そんなあなたへコッミカルの! 世界説明は、2時間後♪」
「たっのしっみたっのしっみ♪」
「なんじゃいそらああああああああああ!!!!!!!!!!!! いまやらねぇのかよ!!!」
壊れた玉子とコミカル。急な出来事にただ唖然と見つめているだけだった目玉は、最後のオチで我に返ったように叫んだ。ついていけないというか、ついていく気力がないというか。そんな微妙な心境をつっこみによってはらそうとしたが無念、このテンションをそれだけでふっきれるわけは無かった。
だがまあ、しかし、なんとか二人は目玉に耳を傾けてくれたようで……
「わ、ワリィ。俺としたことが」
「す、すまぬ。わしとしたことが」
二人の息はぴったりだった。
それから仕切りなおして、今度は真面目にこの世界の事を二人はコミカルから聞いた。暖かいストレートティー(無糖)を差し出してくれたので、それを口に少しずつ含みながら、二人は真剣にコミカルの話を聞いた。
まず、この世界そのものの話し。そして、この世界と現実世界の接点。いや、この世界の住人から擦ればこちらが現実の世界なのだが。そういう、うやむやを区分するために、こちらの世界の事を、トマトケチャップと言うらしい。突っ込むべき点は、それが今度は食卓を彩る調味料の名前とごっちゃになってしまうということだがそれはよしとしよう。それはさておき、この世界の住人からすれば、玉子達の世界は異世界である。よって玉子達の世界にも名前が付けられているらしい。そして、その名前は、ソイソース。醤油かよ、と妙に突っ込みたくなった人は心の中で。基本的にトマトケチャップとソイソースとの相違点はないらしい。強いて言えばトマトケチャップでは、動物が喋ったり、物が喋ったり、奇想天外な化け物がいたりするぐらいだ。
「充分違うじゃん!!!!!!!」
という目玉の突っ込みも軽くスルーし、コミカルは続けた。ひとつひとつ、慎重に言葉を選んで行くようにして。
トマトケチャップとソイソースの接点は、光と影にあるらしい。言うなれば、トマトケチャップは光りの世界で、ソイソースは影の世界らしく、光と影が交わるところがあれば、そこは全て接点らしいのだが、その話は玉子と目玉には理解しきれなかった。というか、コミカルも実際良く分からないらしいが。
トマトケチャップとソイソースには王と定義されるものがいるという。玉子達の世界、ソイソースは闇の世界なので、それにちなんで闇の帝王と呼ばれるらしい。その話を聞くと、玉子は軽く眉を動かして反応を見せたようだが、二人は気づかなかった。この異世界、トマトケチャップは光の世界なので、この世界の王は光の帝王と呼ばれるらしい。別名もあって快適王ともいうらしい。そしてその2つの帝王にはそれぞれシンボルが与えられるという。そして、それがトマトケチャップとソイソースの接点を深くつなげ、交差させる力を持っているらしい。そのシンボルにも名前があるのだが、その名前を聞いて、二人は驚いた。
「闇のシンボル、それは、ゴンザレスノママ。そしてこの世界のシンボルである光のシンボルはメソポタリンというんじゃよ」
「――な、何!? メソポタリン!!」
目玉が少し声を荒げて言う。何処かで聞いたような――そうだ、あの小屋だ。メソポタリンが暴れ出したとかいって与助カリンテパンは小屋をでていった。そういえば、確かにあのときの3人の焦りようは尋常ではなかった。と目玉は振りかえってみる。
「お、なんじゃ、知ってるのか?」
「ああ」
割って入る玉子。
「てか、生き物じゃないのか? 大人しいとか暴れたとか……よくわかんねーこといってたけど」
「何、暴れた?」
眉をぴくりと動かすコミカル。表情が少し曇ったような気もする。
「ど、どういうことじゃ?そうだ、まず君ら、どうやってきたん――」
ふと、コミカルの目が二人の制服をとらえる
「ああ、与助とカリンか。あいつらにまきこまれたのじゃな。そうか、それにしては何もしらないな、きみ達。あいつらに何も教わってないのかい?え?」
少しずつ口調も早くなってきた。それほどシンボル、とやらは重要なのだろうか。少し気おされつつも、今度は目玉がゆっくり、着実に答えた。
「いや、あの、なんか連れてこられたと思ったらすぐテパンとかいう人が来て、で、その人がメソポタリンが暴れたって言って皆外でてっちゃったんだよ。俺らを置いて。だから、何がなんだか……」
「そ、そうなのか? メソポタリンが、暴れた?あの大人しい、メソポタリンが……――おお!そうか、だから今君がここ――」
はっとしてコミカルは口をつづんだ。そして、いやそれより、といって切りかえる。不審に思いながらも、二人はあえてそのことに示唆はせずに、コミカルの言葉を待った。
「メソポタリンがどうにかなったらなかなかどうしてまずいことになるのう……」
やはり、メソポタリンは相当な意味を持っているらしい。玉子は疑問に思い、問う。
「一体、どうなるんだ?メソポタリンメソポタリンって、シンボルってそんなに重要なものなのか??」
ああ、といってコミカルはシルクハットを被りなおす。
「そうじゃな、まあ、シンボルが単独で所有する意味はそう大してないのじゃ。しかし、問題なのはじゃな」
そういって、コミカルは、一瞬言葉を止めた。そして一息つき、再び話しはじめる。
「現・光の帝王である、今日は、良い日だ、の死期が近づいてるということなんじゃ」
玉子は目を大きく見開いた。
――今日は、良い日だ……?――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
第五話 運命の方向転換
当初14歳の玉子焼きはその日、学校で喧嘩を起こした。その頃から喧嘩はめっぽう強かった玉子はもちろん相手を手玉にとるかの如く圧勝したが、相手にそれほど大怪我をさせるようなことはなかった。
というのも、一発で勝負は決まっていたからだ。その一発のパンチで相手は戦意を失い、歯向かう気力もすり減らされたのだった。玉子はもともと自分から喧嘩をけしかけるような性格ではなく、その日も例の如く相手が勝手にキレだして、殴ってきたから殴り返しただけのことだ。喧嘩というほどでもないのかもしれない。玉子は、ただ立ちすくむ相手の襟首をつかみ、こう一言呟いた。
「すまねえな、ババネロ」
ババネロにはどういう意味だかわからなかっただろう。自分から喧嘩を仕掛けたくせにやり返され、挙句意味の分からない謝罪をされるとは。自分からけしかけたのだから自分が悪いのは明確だ。そこで、痛感することになるのだ。自分のあまりにもかっこ悪い様に。
ババネロはとても悔しい気持ちと憤怒の気持ちで一杯だった。自分にこんな恥をかかせた罰を食らわしてやる。そう心に決めて、その日から彼の復讐劇は始まった。
玉子には、親友がいた。そう、その親友こそが今日は、良い日だ、だ。毎日のように遊んでいたし、学校でもいっつもくっついていた。まるで恋人のようじゃけん。まあ、そこまでは行かなくとも、玉子が、心を許せる唯一無二の親友だった。
ババネロは、彼に目をつけた。そうだ、今日は、良い日だを狙えば良いんだ。と。
そして、ババネロの巧妙な手口により、今日は良い日だは、なんとペット好きになってしまったのだ。それまでペットというものを毛嫌いしていたのに。
玉子は怒った。何故、オレから大切な物を奪う?何で今日は良い日だ、がペット好きにならなあかんねん?!誰が仕組んだんだ!?!?
「うおーーーーーーー!!!!!!!!」
その日の放課後、玉子は夕焼けに向かって叫んだ。そしてその次の日から今日は良い日だは姿を消したのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「こんな世界(ところ)にいたのか!!!今日は、良い日だ!!」
玉子は叫んだ。一瞬にしてフラッシュバックしてきたあの日の思い出と夕焼をかみしめて。コミカルは驚いて目を細める。
「何……? 知ってるのか?」
「ああ……。昔の親友だ」
「何じゃと! あわわ、運命ってすごすぎるわい! わっほいわっほい!」
目玉は何分話の内容が理解しきれないでいたが、このコミカルの壊れ具合にだけはすぐにつっこんでやった。
「壊れるな!!! 真面目にやれよ!!!」
「す、すまない。ああ、そうか……光りの帝王は、君の親友か……」
「ああ、それに……」
玉子は先ほどコミカルが言った言葉を思いかえす。信じられないあの言葉。せっかく再会できるこのチャンスに、どうしようもない現実をつきつける言葉。
「死期って、なんだよ!?」
「いろいろあるのです。この世界には。帝王は、病気にかかっているのです。だから駄目なんです。ソイソースとの平和の均衡が壊れてしまうのです。そこで早く新しい帝王を見つけないといけないんだけど、新しい帝王は……なんと、君じゃ!!!」
驚愕の事実。
眩暈がする。
くらりっ。
――意識が……とお……の、い――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
与助達に連絡が届いた。連絡手段はなんとトマト。収穫したトマトを食べるとメッセージが伝わるという仕組みだ。テパンがそれを食べる。そして、頭の中で、メッセージを読む人をとなえる。オレ、カリン、与助。すると、聞きなれた声が三人の頭に響いた
『あるがまま、に。思うがまま、に。聞いてくれ』
ごくりっ。と三人は生唾を飲む。
『先日、玉子焼と目玉焼という人物が私の小屋に流れついてね。ずっとあの広いマジャラスの砂地を歩いていたらしいへとへとだったんだが、そこで私たちはいろいろと話したんだ。』
コミカルの声が三人の頭の中で起こった事を説明する。長々とコミカルが話しつづけて、数十分、ついにどうでもいいさぼてんやら盆栽やらの趣味の話になりだして、それを話し終え、キリが良いところでやっとコミカルの声はやんだ。
三人は、青筋がはっていくのを感じた。
「やばやば」
「かなり、やばやば」
「やば、すぎる!!!」
「あぎゃあああああああああ!!!!!!!!!」
言葉にならない悲鳴をあげながら三人は走った。コミカルの家へと。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ついに、元のメンバーがそろったのだ!!!玉子達をこんな世界に連れてきた張本人を含め、6人、玉子、目玉、テパン、カリン、与助、コミカルがそろった。
そしてやるべき事はただ一つ!ということだった。
「君には、光の帝王になってもらうっよ!!!」
「なんじゃてええええええ闇じゃあかんのん!?」
「駄目駄目。光の素質しかないから。じゃあ、試練うけてもらうから。皆で行くよ」
「ちょっとだめだよぉ〜、急すぎるよぉ〜!!!」
「オールライト!!!」
そんな玉子とコミカルの意味不明で完全に別キャラになりきった会話を残りの4人はしげしげと見つめ、笑いあい、そして泣き、人生を全うする……。
じゃなくて、そんなこんなで、嫌々ながらも玉子は光の帝王の試練を受ける事になったのだった。
――あの日、
オレは、闇の帝王になると決めたんだ。
大切な友(ツレ)一人守れないオレがふがいなくて、
これからは大切なものは自分だけで全て守れるように、
――あの日、
オレは闇の帝王になると決めたんだ。
その誓いが今、でっかい希望を吸い込んで、光と化す――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
第六章 未来(イマ)、未来(イノチ)
さて、吹っ切れて始めようじゃありませんか。
戦慄の幕開けです――。
コミカルがいやに神妙な面持ちでそう言って、今玉子達の眼前に聳え立つその巨大な塔に、こちらです、とでも言いたげに手をやった。まるでガイドさんの観光地案内みたいな格好だ。
太陽が照りつける中、降り注ぐ陽光に目を刺激されながらもそのでっかい塔を見上げる。丁度塔のてっぺんと太陽が近い位置にあって、眩しくてよく見えないが果てしなく高い。東京タワーとまではいかないものの、330mくらいはありそうだった。
「ほぼ東京タワーやん!!!!!!!!!」
目玉は大げさにリアクションをとりながら目を剥いていた。そのあまりにも巨大な様に。
それにしても何だこの無機質で質素な感じは、と玉子は思う。真っ白に塗りたくられた鉄板に、同じく真っ白な鉄骨がところどころ見うけられる。装飾などと言う物はほとんどなく、ただシンプルに白の平面がずっと上に続くだけであって、ところどころに階層を隔てるようにして白い鉄骨が横線を描いていた。
ここで、何が始まるのだろう、玉子はこれからの不安を表情にはあらわにしないものの、心の内ではその不安はじっくりと体内を徘徊していた。暑さもあいまって、ごくりと生唾を呑む。
「さて、それじゃあ説明しましょうか」
玉子の胸のうちに気づいたかのようなタイミング。玉子は、ん、と言って次の言葉を待つ。他の四人はただ黙ってその二人の会話を見守っていた。
まず、と切り出してコミカルは手をおろし、塔の方を向き、説明し始める。日照で熱くなった体をなんとか意識の端に追いやって、玉子はコミカルの隣まで向かう。
「この塔に入ります。そして上ります。てっぺんまでいきます。おわり」
「はやっ」
間髪入れずに突っ込む玉子。
「そ、それだけかい」
「はい、それだけです」
『いてらーーー!!!』
残り三人が一斉に玉子に向かって声をだす。それは声援のようにも聞こえたし、からかっているようにも聞こえた。
玉子はどうも腑に落ちない様子だったが、太陽も高くなってきているし、意識のはしにどうも追いやりきれなかった熱いという感情どもがうっとうしく感じられたので、しゃあない、と言って踏み出した。
後ろを振り向くと、塔の右手前に生えた木の下で、3人にコミカルが混ざり計4人はくつろいでいた。
「うざっ!」
と小声だが感嘆符をつけて呟き、そして僕はその無機質な鉄のドアに振れた。見た目より案外軽く、ぎぎぎっと嫌な音とともにその扉は開いて、薄暗い塔の内部へと玉子は足をやった。いや、やろうとした、そのとき
「ちょ、ちょまてよっ!」
某人気タレントのモノマネだろうか、似てないヤツがやると非常に腹立たしいその声に玉子は振り向く。そこにあったのは――目玉の姿。
「ちょまてっって!!チョ、、まてっつってんだろ!!!」
そのモノマネ口調のまま、既に止まっているはずの玉子に何度も何度もちょまて発言。4回目ぐらいにもなるとそろそろ鬱陶しくなって
「とまってんじゃろおろろろおおおおおおおおおおおおおはよはなせええええええええええええ」
と玉子は取り乱してしまった。あっちゃー。
すると更にあっちゃーなことに、目玉はこう言う。
「いや、止まってはいない。少なくともおまえの心はな」
あっちゃー。
急に口調を変えて今度はどいつのモノマネだ?!と思ったのだが、これ実は誰のモノマネでもない。作者の趣味です。気をつけよう、こういうクサいことばっかいってると、ヒかれるよ。
玉子もその例外ではなく、そのいきなりクサイモードの入った目玉を薄気味悪いと思って、前に向き直ろうとしたが、ようやく観念しだしたらしく、ごめん悪かったといって目玉は普通モードにかえった。玉子は今一度振りかえり、目玉の話を耳をかたむける。
「実はさ、ここに連れて行くのにはもうひとつ大きな掟があるらしいんだ」
「何?」
「それがだな、こういう話だ。大切で、信頼できて、かっこいい或いは可愛いパートナー同伴だってよ」
「何」
玉子は目玉の言う事を理解する。いや、それ以前に気になるところが
「いや、三番目が意味が良くわからないが、まあいいとしよう。――それで、そういう掟があるんだって??」
「ああ、それでさ、その条件に最もあてはまる――特に三番目の――俺がお前に同伴したい。いや、無理なら良いんだ。でも、お前さえよければ……」
目玉は真剣にそう言っている。ギャグを狙っているのか、単にナルシストなのか。
「そうか」
玉子は少し考え込む。確かに、三番目が特にあてはまるかといえばそれは不審だが――それは別に目玉がかっこよくない、という訳ではなくてあの残り三人の中で唯一人の形をしているテパンに劣る事はあっても勝る事はないだろうからだ――確かに今の自分には一番信頼できるパートナーになりつつある。出会ったのは日が近いにしろ、だ。第一友情なんて年月で作るものではない。ハートだ。その場その時にハートが共鳴していればそれは信頼できるパートナーといえるのだろう。と、これは玉子の言葉ではなく作者の言葉として受け止めてもらいたい。だってかっこいいじゃない。そして信頼できるべきパートナーであるからこそ大切であるのだ。そこにはなんの反発作用も無く、強い因果関係で結ばれている。
だから、玉子はそれほど悩む必用もなく、首肯する。
「ああ、供に来てくれ、相棒」
目玉はふっと口に微笑を浮かべて、着いて来た。そうだ、今この瞬間だ、と玉子は思う。この瞬間、ハートは共鳴している。何年も前に忘れたこの感覚。大切なものを、再び手に入れたこの瞬間。世の中には失くすという現実だけが転がっているわけじゃあない。哀しい事象だけが氾濫しているわけじゃあないんだ。
玉子はその微笑を見ていなかったというようなしぐさをもって、また前に向き直り、そして歩き出す。この先には何が待っているだろう、もちろん、この塔の中身だけの話ではなく、この塔を制覇するという未来のあと。制覇できるかどうかも定かではない、つまりは曖昧な未来のまた先にある未来。そこで自分たちはどう立っているのだろう。どう笑って、どう怒って、どう悲しんでいるのだろう。しかし、それを憂うことはできても、知る術はない。今は自分たちの現実、現在起きている現実を受け止めていくしかないのだ。だから玉子は歩く。この先にある、未来を。そしてその先にある未来を。
自分たちの、未来を心に描きながら――
Fin
第七章 やらねば、と思う(俺が)
そう、Finなのだ。今玉子立ちが目の前にしているのは、他の何者でもない。Finである。玉子と目玉が塔を進み、一つ目の大きな木製の扉を開くとそこには大きな広間があり、そしてその真中には髪が腰くらいまで伸びた、目つきのするどい男――Finがいた。目玉は今目の前にある現状を信じきれず、ただそこに呆然と立ち尽くしていた。信じられない、とその気持ちを言葉に絡ませながらも目玉は言う。
「フィ、フィン……???」
「待ったぜ……。相棒」
フィンはただそう言った。玉子は何、と思って目玉の方に目をやる。目玉は信じられないといった表情で微かだが震えているように見えた。
フィンはただそこに立ちはだかり、不適な笑みを浮かべていた。
「久しぶりだな、目玉――いや、セレナーデ」
目玉はその言葉を聞いた途端、急に硬直する。思い出したくない何かを無理やり思い出させられたようだった。くっ、といって頭を押さえ、目玉はその場に片膝をつく。
「くっ……おまえ……本当に、フィンなのか……??な、何故だ……??」
目玉は未だにこの現実を信じきれていないようだったが、セレナーデ、と呼ばれた事でそのことに核心を持たずにはいられない状況に追いこまれていた。脳がこの現実を逃避しようとするのだが、真実という名の闇がそれをずっと追いかけ続けるような感覚だった。
「何故……おまえがここに??おまえはあのとき……死んだはずじゃ……」
玉子は眉をひそめる。――死んだ?今確かに目玉はそう言った。その言葉が本当だとしたら目玉が震えるのも無理はないし、こんな状況を理解できることなどありえない。
少しの間を挟んで、Finはクックックッと不気味に笑い声をあげた。そして顔を上方に向け、アハハと言って口のあたりに手をやる。そして、その笑い声は段段とボリュームダウンしていき、落ち着いたかと思うと、
「そうか……そうだな。おまえにとっての真実はおまえの頭の中に確かにあった。お前の中で確かに俺はトラックにひかれ、死んだ。だが、俺は違う。俺の真実は今ここにあるし、おまえの真実とは違う道をたどったんだ。それだけの話だ」
「ど、どういうことだ……?」
目玉は立ちあがり、クラリとする気持ちを押さえ押さえ言う。
「すまん、俺も意味はわからん」
「おいっ!!!!!!!!!」
役割チェンジで玉子が突っ込む。
「ま、まぁ気にするな。とにかく気づいたらここにいて……そしてやることはただ一つしかないみたいだ。さあ、始めようか、玉子」
フィンはそう言って、さっと地を蹴って後方へジャンプし、戦闘の構えをとった。右手右足を少し前に出し、腰を軽く落とし、きっとこちらをにらみつけるフィン。当然ながらも、突然のことに玉子はたじろぐ。
「な、なんだ……?どういうことだ?」
「状況を見て判断しろ、玉子。このフロアを制覇するにはまず俺を倒さなければならないということだ」
「……そういうことか」
と割って入ったのは目玉。まだ動いてはいない玉子だが、目玉はここは俺の出番だとでも言いたげに片手で玉子を制し、一歩前に歩み出る。
「俺に……やらせてくれないか??」
「いや、だが」
「――分かってる。分かってるよ。これはお前の試練だ。でもな、お前の力量だけがおまえの実力じゃない。おまえのパートナーとして俺はつれてってもらえたんだ。俺は、お前のパートナーなんだ」
さっとそれだけ話すと目玉は玉子に口を割るすきも与えず、また更に歩み出ながら言う。
「お前のパートナーである俺の実力が、おまえの実力でもあるんだ。なんせ俺らは、仲間だから――」
玉子はその言葉に目を見開く。仲間?一瞬目玉の言う単語の意味を理解できなかった。仲間、と呼べる存在。玉子が久しく感じていなかった感情。そうだ、俺を仲間と認めてくれる人がいる。それに気づいた時、単純に嬉しかった。ただ純粋に、その存在が嬉しかった。玉子は、目玉をパートナーとして連れてきて正解だったと思った。本当に心から信頼できそうな気がする。こいつとなら、目玉とならこれからどんな困難だって乗り越えて行けそうな気がする。そう思った。
玉子はそっと頷く。口には微笑みを浮かべて。
「ああ。そうだな、頼んだ!」
「おう!」
と玉子を背後に目玉は振り向かず返事をし、そしてかつての親友――Finに歩みより、向き合う。ある程度近づくと、目玉も戦闘の姿勢をとる。
「さあ、始めようか、フィン」
「ああ。こういう形で再会を果たすとはな――」
二人は互いに真剣な表情で向き合いながらも、どこか嬉しそうな表情を浮かべていた。
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それほど長くなかったような気がするし、とてもとても長い時間であったようにも思う。時間感覚を忘れさせるようなその緊迫した空気を保ちつつ、二人は姿勢を崩すことなく睨みあっていた。
玉子は、固唾をのんでその光景を見守る。この勝負、出だしが大きな要となる。それは戦いの上級者、と自負する玉子にとって当たり前の事に感じることなのだが。それにしてもこの二人、互いに親友だったようにはもう思えないほど張り詰めた空気でもって互いを睨みあっている。その空気が少しでも揺らいだ瞬間こそがこの戦いの始まりの合図であり、それが大きく勝敗を左右するのだ。
恐らく、形勢はフィンのが上だろう、と今の時点で玉子は読んでいた。目玉はもう先ほどのようなおののきの気配は消えたにしろ、心の何処かに今のこの状況をまだ信じられない気持ちがあるはずだ。それは微かだが確実に目玉の動きを鈍くする。しかし、それはフィンにとっても同じことなのかもしれない。そうだとしてもやはり、フィンがどういう状態なのかは全くの未知数で――
ザザッ、と地面を蹴る音がした。
先手を打ったのは――目玉。てか地の文多くておれらしくないのでここからは簡略化で。
バシッ!
「うげっ!」
ドカッ!!
「うぎゃっ!」
ザクッ!(?!)
「ぐはぁっ」
リングの鐘が鳴った。もちろん、玉子の心の中でだ。そう、勝負は決まったのだ。
やはり、出だしが勝負を決するという玉子の予想は当たっていた。辛くもではあるが、そこに立ち残っているのは、現在(いま)のパートナー、目玉だった。目玉は息を切らしながらも言う
「ハア……ハア、厳しい戦いだった……あそこのパンチが決まっていたら危なかった……」
「そうだな。頑張ったな、目玉。だが、あの時のローキックが最初に決まっていたとしたらそれも大きく勝負を分けただろうな」
「いや、その次の右フックが厳しかった……あれが入っていたとしたら俺は戦意を喪失してただろう……」
「違うな、その次にさり気なく見せたあの頭突きのフェイントにまどわされ――」
この会話からなんとか戦闘シーンを思い浮かべてください。はい、次ー!
かつての親友と、雌雄を決する大勝負を見事作者の悪行によって簡略化された二人は、正体不明の怒りを覚えながらも、フィンが立っていた場所の奥にある階段を上って行った。
フィンは口には笑みを浮かべながら仰向けに倒れていて、二人が去る間際、こう言い残した。
「気をつけろよ……この先の敵は更に手ごわい……そして何よりこの……さ、……しゃ……お……
もうじ……には」
「何だ?何言ってるか分からん」
目玉はかつての親友との別れ際の言葉を聞きとれなくて少し惜しんだが、それでも今は、現在(いま)のパートナーの道を進もう、と心に思って階段を上った。
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暫く上りつづけた。階段は長かった。恐らく、一階一階の高さがそうとうなものであるのだろう。いや、しかし先ほどのフロアは高さあっても4,5mだった。玉子たちはもう数十メートルは上っているんじゃないかと思う。だが次のフロアは現れない。延々と続く螺旋階段を上りつづけてかれこれ数十分。 層と層の間はコンクリートでしきつまっているのだろう。だとしたらこの建物異様に無駄が多いな、と玉子は思う。目玉も先ほどの戦いで疲れた体に鞭を打ちながらも、この鉄とコンクリートのかたまりに延々とグチを吐きつづけていた。
「本当……なあ〜。無駄にたけえんだよこの建物!」
「そうだな……はぁ、次の戦いまでに体がどうかなっちまうぜ」
そんな会話を続けていると、やっと薄暗かった螺旋階段に明かりが射してきた。二人は喜びと達成感を覚えながらも一段一段かみしめるように上る。そんな、登山じゃあるまいし。
そして、最後の一段に二人して足をのせる。
「やああああああっと!!!着ううううい――」
目玉のその歓喜の声を途中で遮るその光景。そして漂う匂い。それは、あまりにも異様だった。真中には大きな漆塗りの壺が置いてあり、その中で何かがぐつぐつと煮えたぎっていた。そこからは薬草とカレーを混ぜて、マーガリンを塗ったような意味不明な香りが漂う。それを大きなゴルフのパットで混ぜながら、マカダミア〜マカダミア〜と呟く真っ白な――骨。人骨。ガイコツ。どう言って言えば一番良いのか目玉には分からなかった。
骨が、ゴルフパターで、何かを煮ている。
謎だ――。
目玉は思った。確かに、本当に謎なその光景。自分たちにこんな状況を理解できるはずが……あった。
「よう、コンサレス」
玉子は軽く手を上げて挨拶する。それに気づくガイコツ。
「来たかあ」
知り合いぃぃぃ!?!?目玉の心の中にその言葉が反響した。いや、それでけだなく目玉は実際いつもの調子でそう突っ込んでいた。
全くそんな事気にせずさらりと流しながら、玉子は続ける。
「おう、まさかおまえが2Fの相手だとはな。まだその癖治ってなかったのかい?」
「察しが良いねー。そうさ、僕が相手さ。あ、この癖?これはね、やめらんないよー」
そう言ってコンサレス、と玉子が読んだガイコツはその壺の中からゴルフパターを抜き出した。そこから赤くドロドロしたものがぼたりと流れ落ちる。それはとても気色の悪い光景で、目玉は少し吐き気まで覚えた。
「マカダミアのご加護は、効き目あるよー?」
目玉は思う。
謎だ――。
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第八章
この世の中、一寸先は闇、何が起こるか分かったもんじゃない。当然のごとく目の前にあったものは刹那消えてなくなるし、ようやく消え去った邪魔なものは一度瞬きしてる間にほら元通り。つまりその場その場で予測しえない事象が繰り出される事こそが人生と呼ぶべきものを構成しているのかもしれない。
さて、今目の前にある現実を二人はただただ見据えるのだが、どうやら、このガイコツ――コンサレス――もその事象のうちの一つのようだった。そう簡単にはこの先は通してもらえないだろうと二人は瞬く間に知らしめられることになる。そう、ここが山場だ、と二人は思うのだ。
コンサレスは戦闘相手である玉子の出だしの一撃を軽くかわし、かわりに懇親の肘鉄を玉子に食らわせていたのだった。そして玉子はその一撃により、一瞬で悟ることになったのだった。『こいつは、強い』と。
見た目だけみればそれはただの骨であったし、別に何ら強そうな気配はないのだ。ただ、怪しい雰囲気だけはそこに充満していたのは事実なのだが、それがこの強さをかもし出しているものだろうとは到底二人には予測できなかった。だからこそ、玉子はスキをつかれた。つまるところ、甘く見ていたのだ。
「本気で来ないと、本当にここで終わるよ」
冷淡にそう言うと、コンサレスは壺からゴルフパターを抜き出す。赤い液体がどろりと流れ落ちた。
「くっ」
玉子は体勢を立て直し、次のコンサレスの攻撃に身構える。
コンサレスは、いくよ、とぼそりと言ってそこにあった自分の実像をまるでテレビの電源を切ったかのように消し、次の瞬間にはその巨体を玉子の前に運び終えていた。
「見えてるの?僕の動き」
語尾は鈍い打撲音によって掠めて聞こえたが、そう聞こえたと思う。コンサレスの片手ににぎられたゴルフパターが振り落とされたのだ。玉子は、間一髪で気づいて体をひねったのは良いが、完全に避けきる事はできず、その一撃は右腕に直撃した。
うっとしびれるような衝撃を感じ、咄嗟に左手をその攻撃を受けた場所にあてる。じーんと少し時間をおいて痛みは襲ってきた。
「速いな」
「違う、君が遅いんだよ。――あの頃のままだ」
連撃として赤い液体を飛び散らせながらゴルフパターが右横腹におそいかかる。赤い液体が鎌のように流線型を描いている。
打撲音がまた軽く鳴り、ゴルフパターは玉子の右の腕で止められていた。赤い液体が腕にかかり、ぬるりと地に垂れる。悔しい、自分はこんなヤツに叶わないのか、てかこの液体不快だな――そう思うと、憤怒にも近い感情が一気にこみ上げてきた。
「ぐおおおおおおおおおきもおおおおおおおおおおい」
そうだ! 玉子は覚醒したんだ!! 小学校のころかけっこでいつもこいつには負けてた! うぜえ! うぜえ! こんなやつに! その憎しみが……その憎しみが玉子を……玉子を覚醒させたのだ!!!!
――玉子の頭に、ティアラのような小さな兜が光り輝き、具現化する――
「ふっ……俺は、俺をとりもどした」
玉子はそう言うと、消えた。
瞬間、と言って言いのだろうか、同時、と言えば言いのだろうか。コンサレスの体に次々と打撃が繰り出された。訳もわからないままコンサレスはたじろぐ。
「ぐはっ。うげっ。わっほいっ。いぇいっ」
その短時間に何発もの打撃をくらっただろうか。コンサレスは打撃をうけるたび意味のわからない言葉を吐き出しながら、最後の一撃を受けて幾分か間髪をいれると、その場で力尽きた。その際、コンサレスは赤い液体の正体を教えた……
「ふっ……血と思ってただろうけどあれただのトマト……さっ。ぐふっ」
「すまねえ……コンサレス。これ、バトル物じゃないんだよ……」
玉子が申し訳なさそうに十字を切る。頭の兜はいつのまにか消え去っていた。
「おそくねえ!? それ言うなら俺のバトルの時にいえばよくねえ?!」
目玉はいかにも頭のうえに落胆の文字――がーん――を浮かべながらつっこんだ。
こうして、第二の試練を乗り越えた二人は、また更に奥から続いている螺旋階段を上り始めた。上る最中、玉子は目玉にコンサレスとのことを話し始めた。
「あいつの父、ゴンザレスは……ベジタブル高校の教頭であいつはいつもそれを誇りに思っててそれが故あいつはいつも俺にかけっこを挑んでていつも俺が負けた。それだけの話だ……」
「おまえ……」
目玉は玉子に哀愁の漂う視線を送った。
「一気に説明しすぎだろ。支離滅裂だ」
「し、しかたないことなんだ!ヤツの陰謀なんだ」
僕のせいでした。すいません。
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第九章 過去の再来
次の階に二人が着いたのは30分も後のことだった。二人は息を切らしながら階段の最後の段の向こうにある鉄の扉を見据える。目玉はすっかり疲れ果ててしまっていて、ひざに手をついた、息を整えながら言った。
「はぁ……はぁ……。なんて塔だよ……さすが東京タワー」
「そうだな……」
とこれは玉子で、息の方もだいぶ整っているらしい。玉子はそのまま扉に歩み寄り、ゆっくりと開けようとしたが、がたっと音がするだけで、ビクともしなかった。何度も力強く押したり引いたりしてもその扉は開かない。そして、そうこうするうちに、隣で傍観していた目玉はあることに気づいた……。
「ってこれ……ふすまやん!!!」
「何ー」
そう、それはドアノブのついたふすまであった。
「そんなもん聞いたことないわ!!!!!!!!!!」
目玉の怒りの鉄拳によってそのふすまは破られた。そして二人は無事中に入ったのだ。
そこは、プールだった。25mプールのようだ。長方形の枠に綺麗な水が湛えられたそのプールの周りは色とりどりの大理石で敷き詰められていて、その更に周りには南国に生えているようなナッツの木がたくさん植えられていた。まるでいきなり違う国へ来たみたいだった(といっても実際二人はいきなり違う世界へ来ているのだが)。突然のこの状況にたじろぐ二人。
「これは……」
と、玉子がきょろきょろして周りを見まわしていると、ふいに声が聞こえた。野太くダンディーな声だ。
「ふははっ。この状況をどう理解するかな?まぁそんなことはどうでもいいんだよ。そうだよ、君たちのことなんてどうでもいいんでね。全ては私中心で事は進んでるのだから」
どこからともなく響くその声の主に玉子は少々ばかり苛立ちを覚えて返答する。
「うざってーなー。何だよ、てめーが第三の試練か?」
「いや、違うね」
その声は姿を表さないまま話を続けた。
「私はカミングアウト。この塔の主。そしてここは、なんという部屋だと思う?さあ当ててみなさい、プールの間というんだがね、あ、言っちゃった。まあいいや。それよりこの部屋を越えればこの塔の主である私と会うことができ、そして私を倒せばこの塔を制覇できるのさっ。ふふんっ。そうさ、僕こそが全て、そうなんだよ、アハハッ!!!君たちなんて、ムシケラのようなもんさっアーハッハッハッハッ!!!!!」
一気にそう喋ってはいるが、途中で声色が変って、声が高くなり、キザで自己中な感じの、うざったれボーイのような声になっていた。うざってーな、と思いつつしぶしぶ返答する玉子。
「そうか、じゃあ早くそこまでいっておまえをぶっ殺さねぇとな。で、この部屋はどう越えるんだ?」
「50m20秒以内に泳いで。……いやいや、もちろん冗談だけ――」
「わかった」
ざっぱーん、じゃぶじゃぶ、ざっぱーん。
「はい。20秒で泳いだよ」
「わーい、じゃあおいで!定期券を、わ・す・れ・な・い・で」
「ねぇよ!」
割りこんで目玉がつっこんだ。
そして、プールの奥にあった扉が開いた!ついに最後の試練だ!やっとこの面倒な試練を終えられる、と思って二人は駆け足でその扉に向かい、絶望した。
ありゃー、また階段。
二人はがっくりとうなだれながらと、恐らく今までで一番長いであろうその螺旋階段をまたとぼとぼと上り始めた。
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そう、本番はここからだったのが。今までのはただのプロローグに過ぎなかった。そう悟った。今までくそ長い階段を登ってきたことも、過去の親友と決着をつけたことも、血のようなトマトをあびて怒り狂ったことも、それはそれで厳しいものではあったが、そんなことは大した問題じゃなかったのだ。そうなのだ。これから始まる大舞台に比べて、そんなことは微塵の存在価値ぐらいでしかなかった。そう、本番はここからだったのだ。
二人が長い、長い、永久に続くかのように思われた地獄の螺旋階段をやっとの思いで上りきった先には、例のごとく扉が目の前に――はなかった。
そこにはただ短い通路があるだけで、よくRPGの最後の面にあるような、主人公を歓迎するように存在する派手な扉は存在しなかったのだ。少し意表をつかれて拍子抜けをくらった二人だが、もう、そんなことはどうでもよかった。疲労がひどい。早くカタをつけてこんな試練抜け出してしまいたかった。
しかし、その通路を抜けると、玉子は驚愕した。
目の前にある風景に、見覚えがあった。そして、目の前にいる人物に、見覚えがあった。
これは……これは――!!!
信じられない、といって玉子は周りを探る。このテレビ、右上の角にばんそーこーが貼ってある。思い出す。自分の以前の記憶を。確かに、ばんそーこは右上だったか?もしかして左上じゃないか???否、記憶に鮮明に残っている。これは、そう。自分がつけた傷だから。ふざけて、治るんじゃないかといって自分が貼ったものだから。
左にはベッドが。ふかふかのベッドだがずいぶんと長い間洗った様子はなくて染みてきている。あの頃と同じだ。自分はいつもこれ汚いぞ、とか文句を言いながらもこのフカフカさには不可抗力を覚え、飛びこんでいた。その度、ほこりが立って目がかゆくなって、あいつに冗談で八つ当たりをした。
あいつ――。そう、こいつだ。玉子は先ほどから極力そいつとは目を合わせないようにしていた。目を合わせたら、最後、全てが崩れてしまいそうな気がしたから。目玉と同じように、この現実を受け入れなければならなくなってしまうから。頭が混乱してしまう。目玉にもあったんだから、今更不思議がることはないはずだ。だが、理屈抜きに、信じられないのだ。目の前のこの現実が。理解できないのだ。
しかし、もうここまできて引き返すようなことはできない。玉子は、決意し、恐る恐るその部屋の真中で座っている男を見る。その男はにやっと笑うと、ぼそっと言った。
「久しぶりだね。玉子。どうだった、さっきの僕の演技?」
その声は何も変ってはいない。この塔の主ことカミングアウトは、『今日は良い日だ』、本人であった。
第十章 人生と言う名のゲーム
1
今日は良い日だ(以下略、今日良)はにやりと微笑を浮かべながら玉子を見据える。玉子はもちろんのこと、目玉も突然のこの状況を理解ができなかった。
「おい、玉子……どういうことだ?」
「分からん……がここは確かにあのころと同じ、あのころの今日良の部屋だ……」
二人の会話に割りこむ今日良。
「そうさ、ここは僕の部屋。あのときのままを再現してある。だって、その方が、ラストバトル、燃えるでっしゃろ!?あと、おまえら僕を勝手に殺してんじゃねえよ!!! スクラップにするよ!? いちお僕は現時点で光りの帝王なんだから。わけないんだけど。でもそれだとこの試練の意味がないよね。だから、今回の勝負は、特別なものにしてある」
どうやら今日良の方は、旧友と会えていささか興奮状態にあるらしい、一気に喋り倒す。玉子と目玉はその意味を遅れずに理解しついていきながら、ただただ今日良の言葉に耳を傾ける。今の時点で分かった事、それは今日良はまだ死んだわけではないということだった。そういわれてふと思い出す。確かコミカルは、死んだ、とは言っておらず、死期が近い、といっていたのを。それを二人はもうとっくに死んだものと勘違いしていたのだ。だからなお更驚いたのだが、今ようやく少しばかり落ち着いてきた思惟で察するに、それは別段理解するのに滞りない事象ではないか。しかし、やはり死んだと思ってた旧友に会うのは感情が高ぶるものである。
「っと、じゃあ、勝負方法を言うね。これさ!」
そういって、今日良は、ひきだしからなんと、なんと!!! 人生ゲーム(ボード版)をとりだした!!! 二人は意表をつかれて唖然とそれを見届けている。
「じゃじゃじゃん! これ、奇想天外人生ゲームってんだ!!!」
「(おまえの行動が奇想天外だよ!)」
と目玉は珍しく心の中でつっこんだ。いや、もちろん声に出して突っ込みたいのはやまやまなんだが、中途半端におかしいこの行動に呆気をとられて声を出すのを憚られてしまったのだ。っていうか何でここにきて人生ゲーム!?
そんな目玉の意を察するように今日良は言葉を放つ。壁にかけられた丸く茶色い時計がコチっと音を鳴らして、それが妙にリアリティを感じさせる。
「何でここにきて人生ゲーム!?とか間抜けな声を出しそうな君たち、今から僕が説明するからね、待ってて」
察しすぎだろ! と目玉はさらに心の中でつっこむ。玉子は、そんなこと思わねえよ、と少々ムットしながらも、今日良の次の言葉を待つ。
「あ、ごめん。普通の人生ゲームと一緒だわ。じゃあはじめよう」
二人はがくっと拍子抜けしながらも、今日良に導かれるままにボードを囲んで座った。スタートからゴールまで何度もS時に迂回したり、T字路があったり、複雑な道順になっているが、基本的に見た目は普通のものと変っていないようだ。二人はざっとそれを一瞥した。そしてゲームの準備をする。まず、それぞれが自分の所持金分の模擬紙幣と、自分のキャラクタのコマを手に取り、0歳、とかかれているスタート地点に置く。すると、ふいにばんそーこーの貼ってあるテレビが光った。
「うわっ、なんだ」
目玉が少々驚いてテレビに目をやる。玉子も、ん? といって目玉につられるかのようにテレビの方に顔を向けた。
「ごめん、言い忘れてた。イベントはここに表示されるから」
「あ、そうなんだ」
と目玉は言いつつ、今日良の放った言葉を時間差を隔てて理解する。明らかに、おかしい!
「ってええ?! じゃあボードでやる意味なくねえ!?」
「駄目だよ。こっちのが雰囲気あるじゃん」
せっかくハイテンションにつっこんだのをかるうく流された目玉は少し目に涙を浮かべた
「ほんっと奇想天外だなあ……とほほ」
何故旧友の玉子より目玉のが今日良とよくしゃべってるのかは疑問だが、そんなことは心の片隅においといて
「じゃあ、はっじめ!!」
ゲームは始まった。二人のゴールしたときの所持金の合計が今日良より多ければ勝ち、というルールらしい。その分、今日良はイベントで稼ぐ金額は倍にされる、ということだ。
先行は、玉子、ボードの真中にあるルーレットを勢い良く回す。びゅっと音をたてて、くるくると回ったあと、ゆっくりと減速していく。そして、でた目は、3。それを見て、急に今日良が急変した。
「うおい3かよ!フー!!!さあじゃんじゃん進んじゃえ!じゃんじゃんじゃんじゃん!!!ヘヘーイ!」
「(何だコイツ!?)」
と、目玉は驚くが、玉子は別段気にかける様子もなく、コマをしっかりと3つ進めた。そう、玉子は今日良のこういう性格も良くご存知であるからね。
「ふふっ……懐かしいぜ……涙がでてくらあ」
玉子は涙をキラリ☆(どっかできいたことある)と流すと、今日良はそれを見て、言う。
「うわあああああんんんん玉子会いたかったよーー」
「や、やめろバカ」
玉子は抱き着いてくる今日良を払いのけた。昔から変らない。この性格、何も変っちゃいない。それを感じて、玉子はうれしさと同時に、これが終わったらお別れだと思うと悲しさをも感じた。
目玉は隣でそれを見て思った。
「(よく玉子とこいつが親友になったな……もしかしてそっちの気が……?)」
目玉がそんなことを思ってると、玉子がすごい形相で目玉を睨んだ。そして、こう言い放った
「違いますから!!!」
「(何で敬語!? てかなんで俺の思ったこと分かったの?!)」
「まあ、良い。誤解すんな。さて、俺の止まったマスは……」
玉子がテンションを切り替えてその止まったマスに目を凝らす。しかし、そこには誕生日、と書かれてあるがそれ以外に何も書かれてなかった。いや、まずこのボード全体として細かい事が何一つ書かれていないことに気づいた。疑問に思いながらどうすれば良いか分からないでいると、テレビから何やら祝福音のようなこうか音が聞こえてきた。
「パッパラッパッパー。あながが止まったマスは……誕生日マスです!あ、申し送れました、わたくし、この奇想天外人生ゲーム、略してゲームの司会を勤めさせて頂く、Mr.三十路と申します。マスの説明はわたくしがします。以後御見知っとけゴラア」
「何これ!? 何こいつ!?」
突然画面に出てきた筋肉質な紳士に驚き、冷然と見ている玉子を傍らにすかさず目玉がつっこむ。
「ああん!? うっせえよてめえ。コイツ扱いしてんじゃねえよガキがおめぇとわたくし何歳離れてると思ってんだ? ああ? ……と部外者にいらぬ反応をしめしてしまいました。こういう部外者はほんと仕方ないですよね、本当、生きてる価値さえあるのかどうか……まあ生まれてきたんだから人の迷惑にならないように生きて欲しいところです。まあそんなことは置いといて」
あらん限りの罵声を受けて、正直目玉は肩を落としかけていたが、その妙な迫力に反抗できないでいた。
「さて、あなたが止まった誕生日マス。あなたは2つの誕生日プレゼントのうちどちらかを受け取ることができます。一つ目はゆでダコ。もう一つは道路交通法の改善案です。さあ、どちらを選びます!?」
「何だその両極端な選択しは!?!?!?!?!?!?!?」
目玉が押さえきれずつっこみ、そしてしまった、と思う。これではまた先ほどと同様の剣幕で気おされてしまう!
と思ったが矢先、三十路は何の反応も示さなかった。その場に沈黙が流れる。ある意味突っ込み役者としてはこれが一番厳しいものである。
「俺は……」
1分ほど悩んで、玉子は言った。
「俺は、ゆでダコを選ぶ」
三十路がにんまりと怪しげな笑みを浮かべる。
「本当に、良いんですね……?」
「ああ。俺が選んだ選択だ……後悔は――なしだ」
玉子が選んだ選択し、ゆでダコ、さて、この選択しに一体どのような真意が!?!? 傍らでただ微笑みながら佇む今日良の眼光には何か怪しい光が宿っているがそれとどのような関係が!?!?
運命は、着実に歩んでいるのだ。いつだって!!!
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2005/08/26(Fri)20:58:50 公開 / おんもうじ
■この作品の著作権はおんもうじさんにあります。無断転載は禁止です。
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■作者からのメッセージ
どうも始めまして、最近少しばかり登竜門にお邪魔させていただいてるおんもうじです。
ふと、昔ちょっとだけノートに書いたいかれた小説をちゃんと書いてみたくなりまして、ここにこうして改正版を乗せてる次第であります。非常に短くてすいません。忙しく執筆にあたれない日も多くありそうですし、恐縮です。
文が下手で、語彙も知識も非常に乏しく、いたまれないところもあると思うので、感想やご指導のほどよろしくお願いします!
根気のないおんもうじですのでいつ諦めるかわかりかねますが、出来れば皆様のご感想を糧に続ける気力を養って行きたいものです!
* 更新です。おっと自分の書き方わからねえ。とついに壁にたちはだかりました。もう開き直って今自分が感覚でかけばそれが俺の書き方だ!とか重いながらがんばって今回更新分執筆いたしました。あとはラストめがけて一直線です。何分力の入れ方が不安定ですが、とりあえずもう光の射す方へとただ今は歩いて行きたいと思います。軽い気持ちで書き始めたんですが四苦八苦でした……もうむちいれながら無理してかいたんで、無理が出てるのはどうかご容赦くださいませ(@_@)もうシリアスなんか混ぜるのやめにしよう!小説の難しさを痛感させられます。やばいなこれ。本当に自分が心から愛せる作品じゃないとやっていけないな、と今回痛感したきがします。
原動力は皆様の感想のみでございます。完結まで燃料不足にならないよためにも、あと少し(のつもり)お付き合い願えたら幸いです!
また、どうかお思いになったことを仰ってくださいませ。それでは
作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で42文字折り返しの『文庫本的読書モード』。
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2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。