『私の思い出、私の幸せ』 ... ジャンル:ショート*2 ショート*2
作者:チェリー                

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 タクシーとは人を運ぶ物。人=命を運ぶものであり、時に魂までも運ぶである。




 私は夜に町をタクシーで走り回っている。色々な年代が、しかし20代以上がほとんど客であり、半数を酔っ払いが占めている。
 バックミラーに視線を移した。どうやら今日も酔っ払いが乗り込んだようだ。頬が赤く、中年の男性がふたり。おそらく課長と社員ってところだろう。
「部長、飲みすぎですよ」
 おっと、部長のようだ。運転手浅野 悠二は毎日このように人間観察をしていた。暗いタクシーの中を夜の街の光が照らし、タクシーは住宅街付近へ向かっていった。そして無事に部長と社員を下ろし、運賃を社員から受け取った。
 時に、タクシーの運転手はよく独身があつまる。浅野 悠二も独身である。二年前に妻を亡くし、現在は一人で寂しい生活をしている。まだ妻は25歳だった。悠二も同じく25歳だった。幸せな結婚生活は一ヶ月で終わりを告げ、不幸が自身を取り巻いた。
 血痕等を残して、未だに死体は見つかっていない。ただ、血痕の量から生きている可能性は低いということだ。
 したいが見つかっていれば泣いてすがり付いていただろう。それさえもできず、ただただ時は経ち。思い出だけが儚く残る。
「なにが幸せや・・・・・・」
 最近はよくその言葉を口にする。車を走らせ、どこか、なるべく考え事ができるところへ向かっていった。

 幸せとはもろく、儚く、流れ星のように過ぎ去ることもある
           だから、我々は手放さぬようにしなければならない

 誰かはそう言った。悠二はそのようなことを言った偉い人のことなど憶えておらず、いまだに誰が言ったのかはわからない。
 もしかしたら妻はまだ生きているかもしれない・・・・・・。しかし、そんな希望など現実になることはない。もしかしたら・・・・・・というそんな言葉で続く希望は考えたくない。考えたところで何があるのだろう。
 最近無精ひげが目立ってきた。妻がいたら「ねぇそろそろ剃り時でしょ?」と言ってよくかみそりを用意した。そんな妻が好きで、悠二はいつもひげを剃り、今はもう珍しい“いってきます”のキスをする。
 なぜ2年も経って、未だに妻のことを引きずっているのか。こんなにも愛しく思うのか、それはやはり彼女が初恋の人だからである。初恋は実らない、そんなものなど打ち勝って結婚した。しかし、やはり最終的には実らなかった。今はひとり。コーヒーとたばこが混ざった匂いのする錆びれたおっさんだ。
 最後にみた妻の姿もやはり、いってらっしゃいと手を振って見送る姿だった。そして、帰ってきたときには妻はおらず、大量の血痕を残して消えてしまった。
 ふと山の近くを走っていた。月光も雲によって出ては隠れを繰り返し、ライトをつけていても見えにくい。
 最近髪がすこし伸びてきて、目に前髪がすこしだけかかっている。あまり身だしなみに気を使うことはなくなってしまった。あれから2年・・・・・・。ずいぶん変わってしまったものだ。たばこも本当は止めていたのに、妻がいなくなってからまた吸い始めた。
 くしゃくしゃの箱から新たにたばこを出して、口にくわえて片手で火をつける。渋いこの味が最近はとても好きだ。悠二は煙をふぅっと吐き出した。
 窓をすこし開けてそこからその吐き出した煙を出していく。客が乗ってきたときに不快にさせないためである。といっても、こんなところでは人などいないだろう。すでに上り坂になっている。目的もなしにただ走る悠二。客を乗せることなど考えてはいない。ただ、静粛がほしかった。
 そして、すこしカーブのところに差し掛かり、ゆっくりと曲がった時のことだった。その後、直線なのだが、すこし先に女性が立っていた。
「こんな山道で・・・・・・?」
 しかもタクシーを見るや、手を上げている。不自然なその状況に少々戸惑う悠二。乗せた方が良いだろうか、しかし怪しいため見なかったことにしてそのまま通り過ぎていってしまおうか。
 だが、最終的にはタクシーを止めてドアを開ける悠二。なんらかの事情があるのだろう。それか・・・・・・。悠二はある噂を思い出した。それは、山道で深夜女性がタクシーを拾うという噂である。夜2時頃に現れ、タクシーに乗ると運転手に「家に帰らせて」と言うらしいのだ。
 悠二は時計に目をやる。時刻は2時7分・・・・・・。女性は静かに乗り込んでくる。
「家に帰らせて・・・・・・」
 その言葉を聞いて寒気が悠二の背中を走る。足が自然と震えてくる。本当に幽霊に合うとは思ってもいなかった悠二。そして、恐る恐るバックミラーに目をやる。きれいな女性だ。長い黒髪が襟元を覆っている。そして、今の暑い夏の時期にあった白いワンピース。
 するとその女性と目が合った。月光が女性の顔を照らした。その瞬間、悠二は信じられないといったような表情で言葉が出なかった。
「あ、亜希子か・・・・・・・?」
 座っていたのは、妻亜希子だった。たしかに、妻である。亜希子は悠二に笑みを返してうなずいた。
「家に帰りましょう。あなた」
 車を走らせることなどせず、後ろの席に悠二は上体だけを向いて確認した。たしかに妻である。この声も、この笑顔も、妻だ。
「今まで待たせてごめんね」
「亜希子・・・・・・!」
 そして、亜希子は悠二の唇に唇を重ねた。
「行ってきますのキス、懐かしいね」
 そのすこし照れた亜希子の表情の悠二は大粒の涙を流した。これは夢ではない。頬をなんどもつねるが、痛みが頬を走る。よくある“夢”なんかではない。これは現実なのだ。
「あぁ!帰ろうか!」
 なぜ妻がこんなところにいたのか、なぜ今突然妻が現れたのか。そんなことを気にする事などしない。妻とこれからもずっといれるのならばもうなにも疑問になど思わない。足しに妻に触れる。亜希子の感触をまた感じれるのだ。艶やかなその肌も、きれいなその手も。
「わるいな。こんな姿で」
「いいの。あなたはあなたなんだから」
 笑顔を見せてくれる亜希子。毎日ひげを剃っていればよかった、とすこし後悔する。これでは27が37に見えてしまう。妻でなければ自分のことをおそらくはみな見間違えるであろう。
「なぁ、これからどこかいくか?」
 せっかくなので、どこかへうまいものでも食べに行きたいと思った悠二。来た道を引き返して街へ向かった。街へ入ればおいしい食べ物の店が数え切れないほどある。
「銀たことか、麺龍のラーメンとか。フランス料理でもいいぞ?」
「う〜ん、でも今は家に帰りたいよ。おいしいものよりもあなたといっぱい話したいわ」「そ、そうかぁ?」
 そう言われて照れてしまう悠二。しかし、家の中は多分ごちゃごちゃになっていて、かなり汚いだろう。
「家の中は多分汚いぞ?」
「ふふ、それで良いのよ。あなたとの思い出が残っていれば」
 思い出・・・・・・。汚くなっているとはいえ、ごみが増えただけであのときのまま。思い出はたくさん残っている。悠二自身思い出だけは残そうとなにも手をつけていない。遺品もほとんど残っている。
 今日は限りなく話そう。会社になんか戻らない。妻とずっと話をしたい。自然と心が躍り、笑顔が浮かんでくる悠二。
 街を通り過ぎ、住宅街へ向かう。通り過ぎる多くの店や人。宴会を終わったあとなどで酔っ払いがタクシーに向かって手を上げているものも少なくない。先客がいるため今はそのままかまわず走り去っていった。
「そろそろだな」
 街を抜けて住宅街へ差し掛かった。規則正しく十字路が一定の距離であり、まわりは結構新築が多い。この2年間でここらも変わってしまった。
「ほとんど変わっちまっただろう?」
「うん。でもここにも思い出が残ってる」
 亜希子の視線の先には小さな公園があった。あれはよく休日に散歩をするときによっていたところだ。ブランコもシーソーももうかなり古いが未だに残っている。
「ねぇ、もうちょっとゆっくり走って」
 亜希子にそういわれて、悠二はスピードを落した。とろいタクシーなどなんともおかしなものだが、妻が乗っているというのならばこれはタクシーではなくメリーゴーランドである。悠二はそう考えていた。
「ここも引っ越して、どこかに行こうか?」
「うん!いいね。できれば自然がいっぱいあるところがいいなぁ」 
「明日の朝食はどんなもの?」
「う〜ん、とりあえずベーコンエッグね♪」
 それから40分間ずっと途切れることなく話し続けた。もうすぐ家にも着く。またあの生活が戻っていくるのだ。幸せだったあの生活が。
 家に着き、タクシーを止めた。悠二はせっせとたばこをポケットにしまい、家に入る準備をしていた。
 ふと料金メーターに目をやる。スイッチを切っていなかったようで、今10370円になっている。まぁまぁ距離があったのでやはりすこし高くついた。しかし妻に払えとは言わない。この代金はスペシャルサービスで0円だ。
「ねぇ、あなた」
「ん?」
「私がいたあの場所覚えておいてね」
 あの場所、山道のカーブを過ぎた直線のすこし先のところのことだろう。しかし覚えていてとはどうしたのだろうか。悠二はあきこのほうを向いた。
「なぁでもそれ・・・・・・」
 すると、亜希子の姿はどこにもなかった。車からは出てはいない。ドアがまず開けられていないためありえない。
「亜希子・・・・・・?」
 どこを探してもいない。外に出てあたりを見回すがどこにもいない。
「亜希子――――――――!」
 がくっと崩れ落ち、大粒の涙を流した悠二。わずかに心の中で思っていたこと。“幽霊”それだった。ただ、こういう状況なら妻は生きていた、そしてこれからずっと一緒にいられると心に刻み込んでしまう。


 そしてそれから数週間が過ぎた。

 
 悠二は警察に協力してもらいあの日に亜希子がいた場所を捜索した。するとカーブを過ぎたあとの直線のところガードレールを抜けたところから妻亜希子の死体が見つかった。
 ニュースが報道された数日後に犯人が自主し、こうしてすべては終わった。亜希子の遺骨を手にし、葬式が開かれ数十人という家族や親友が集まった。悠二は亜希子が帰ってきたという想いがあり、心の中の複雑なモヤモヤが晴れたような気がした。
 そして、あの偉い人が言った言葉には続きがあった。それは恋愛小説の一文であり、TVでたまたま言っていたことを悠二は耳にしていたのだ。その時は最後まで聞いていなかった。

 最後の文、それは・・・・・・・


  もしも手放してしまった場合でも、思い出が幸せに変わっていくだろう


 俺は幸せだ。あの時、タクシーで話した亜希子との“思い出”がある限り、幸せといつまでも胸を張って生きていけるだろう。

 

  ――――この思い出がある限り、俺は幸せだ――――




 ・・・・・・・End

2005/06/26(Sun)19:21:53 公開 / チェリー
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■作者からのメッセージ
え〜と、書かせていただきましたチェリーですぅ。いやはや、すんごくへたれですわぁ。もう泣きたいです・・・・・・。これは待ったくをもって切腹物ですねぇ。詰め込みすぎ、とよく言われますが今回も多分詰め込みすぎだーーーーー! 馬鹿!(ノ∀`)フ あほ!(ノ∀`)¬Σ  いやはや、とりあえずこの次は新連載を書きたいと思いますが、幾日書いていないものでこれみたいにつたなくなってしまうでしょうねぇ・・・・・・。とりあえずご指摘いろいろと細かくくださいぃ。よろしくお願いします。最近テンポとか描写とを勉強するためにいっぱい指摘ほしいなぁと思っていますので。とりあえず超辛口で。てかこの話すんごくありきたりですねぇ。もう皆さん退屈そうな表情をして読んでそうです・・・・・・。ではでは、ご覧のなられた方ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。

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