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『虹色吹雪(短編)』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:聖藤斗(ひじりふじと)
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――遥か昔、一本の桜の木があった。
――それは一度花を散らすと、辺りを虹色に染めた。
――それを見たものたちは、いつからか、神のおごし召しと考えるようになった。
――そして、それはいつかこう呼ばれるようになった。
虹色吹雪〜ニジイロフブキ〜
冬の肌寒さの残る四月。神奈川のある町には、雪が残っている。珍しいことだ。雪が降ることさえも珍しいのに、四月一日になると共に、隅で一本の桜が花を咲かせていた。それを物珍しげに見るものがいるが、まだ四月始めだ。寒い中悠々と花見などしている気にはなれない。もう少しすれば満開の桜前線が見れるだろう。皆そう言い、一本の桜の木を一瞥すると、言ってしまう。
そんな中、一人の少年はその桜を見据えている。現代の少年。とは言いにくい着物姿の少年だ。髪は方の辺りまで下げられ、綺麗に纏められている。
「なんで、皆僕を見てくれないの?」
少年は静かに呟き、肩を落とした。そして、少年は桜が一枚はらりと落ちると、静かに消え去ってしまった。
〜〜〜一〜〜〜
「全く、あの馬鹿上司。一体何のためにこんな物探させるのよ!!」
コンパクトサイズのデジカメを首からかけた女性は街中を走り続けていた。右には一枚の写真が握り締められている。清潔な雰囲気を持つさらりとした髪。美女と言う名にふさわしい顔立ち。女性の名は「井野沙良」。今年で三年目のライター。しかし、彼女に任されるのは大きな事件でもなければ、現実的なことでもない。彼女の記事は、とある雑誌の一ページに載っている「不思議探検」と言う物であった。現実では見たことも、体験したことも無いようなことを探し回り、そして、それを実際に体験するというものだった。この前は、つちのこ探し。その前は、魔術と、ありえなさそうなことに沙良が突撃していた。雑誌の記事の中では、中々受けが良く、毎回愛読者がいる。売れていると言えば売れているが、沙良は、そろそろこの記事の仕事をやめようと思っていた。何故かと言うと、やっとの事で調べた都市伝説などが、本当だったと人々に知られると、それは伝説でなくなるからだ。沙良は、毎回それが嫌でたまらなかった。しかし、食いつなぐためにどうしてもやるしかないと考え、やってきていた。
「でも、流石にこんな寂れた町に伝説の木なんてあるのかねぇ」
伝説の木。これから行く取材の場所はそう呼ばれているらしかった。何でも、普通に見ているとただの桜だと言うのに、花びらが吹雪のごとく散って行く時には、鮮やかな虹色になるというのだ。流石にそんな話を信じるわけにはいかなかった。今まで探してきたのは、噂で聞くようなものばかり。しかし、今回のは上司が隠密に情報を手に入れたというのだ。
「あの上司、デマだったらいつか一家心中させたる…」
外見から判断できないほどの汚い言葉を連発する沙良。前までは外見良し、性格良し、といわれていたのだが、今では上司の無理やりな命令に、上司に対しての言葉だけは悪くなっていた。
しかし、本当に凄い田舎だ。辺りを見てもコンビニさえ見当たらない。右を見ても、左を見ても、あるのは野菜や穀物の畑ばかり。まあ、今の道は田舎道だが、あと数百メートルも行けば、この町の都心に着く。そこに着いてすぐ側にある桜の木が、その伝説の木だという。
沙良はとにかく、その気を見るために、再度脚を動かし始めた。コンパクトサイズのカメラ以外は衣服やノートPCが入っているトランクだけ。ハイヒールを履いて来た為、背負うタイプは危険だったためである。疲れたときには、トランクの上に座って休めば良い。
「あそこね」
緑に埋もれるようにして見える灰色の塊の集合地。この町の真ん中だ。やっと着いた。とため息を吐く。
沙良は、灰色の端に桃色の塊があるのを見た。ここからでも良く見え、良く目立つ。あれが例の…、と呟きながら目的地へと歩き出す。
沙良は不意に立ち止まると、後ろを向いた。目の前に広がるのはコンクリートで固められた道路と、青と緑の色に塗られた世界。
気のせいか、と沙良は前を向くと、再び歩き出していった。
春の風が程よく、そして心地よく吹き、周囲の花びらを散らせている。そんな綺麗な風景。一瞬風景画から飛び出てきているのではと思うほどの鮮やかな世界で、沙良は一瞬息を飲んだ。今まで言ったのは、樹海やトンネル。その後には必ずお祓いと言う日常で、そのせいで給料の大半が消えていた。そのため、今回も乗り気では無かったのだが、この風景を見ていると、やる気が沸いてきた。
「ちょっと、今回は良い仕事かも!!」
沙良は微笑みながらカメラのシャッターを軽快に押し、周囲の風景を撮っていく。仕事を忘れているわけではないが、やはり来たのだから楽しみたいと思う。
写真を撮っているうちに、たった一つ孤立している桜の木を発見する。その根元には、藍色の着物を着たショートへアーの少年が一人寝息を立てて眠っている。体格からして、年齢は六〜七台だろう。沙良は、不思議がりながら、少年に近づいていく。
「キミ、どうしたの? 風邪引くんじゃないの?」
沙声で、「ん…」と目を擦りながら少年は目覚める。少しばかりぼうっと沙良を見つめていたかと思うと、沙良に飛び掛った。
「僕が見えるの!? ねえ!! 僕が見えるの!?」
「ちょっと!! キミは誰!!」
沙良は急に抱きつかれて慌てながら少年の言葉の意味を考えるが、理解できず、再度問い返した。
「僕は、この木の精霊だよ!! でも、誰も僕を見てくれないから、助けて欲しいんだ」
「急に、そんなこと言われても…。木の精霊なんて信じれないし…」
じゃあ、見せたげる。とはきはきしながら答えると、少年は一回パチンと指を鳴らした。すると、後ろの桜が反応するように綺麗に花を散らせていく。それだけでも綺麗だったが、沙良の目にはもう一つ驚きの風景が描かれていた。
虹色なのだ。
桜の綺麗なピンクはその、七色の一つでしかなく、散っていく花びらがだんだんと七色へと姿を変え、次々と沙良を魅了していく。沙良はとっさに、手にあったカメラで風景を次々と収めていく。
「これで、信じてもらえた?」
沙良の前に現れた少年は、本当に精霊のようだった。沙良はそう信じざるを得なかった。
〜〜〜二〜〜〜
沙良が泊まる予定だった旅館「三咲」は、木の精霊と言う少年のいたところから三分もしない所にあった。中に入ってみると、以外に広く、旅館と言うか、ホテルな感じだ。田舎な雰囲気は見られない。むしろ、都会と言う雰囲気が漂う不思議な旅館だ。
沙良は部屋の鍵をフロントで受け取ると、鍵を指でくるくると回転させながら部屋へと向かう。横には藍色の着物に包まれた少年がちょこんと立っている。
部屋を見つけ、そして沈黙のままに部屋に入る。荷物をすぐさま脇に置くと、間髪いれずに少年へと向きを変える。
「で、キミが精霊と言うのは信じるけど、私に何のようなの?」
沙良が目を細めながら少年に問いかける。少年は少しうつむき、そして、「見て欲しい」と一言呟く。
「どういうこと?」と沙良はさらに問いかける。沙良は長くなると予想し、持ってきていたクーラーボックスに手を突っ込むと、冷えた缶ビールを一本取り出し、心地よい音を立てて開け、そのままグビグビと胃に流し込む。
「あの木はね。昔は『虹色の桜が舞う木だ』って大騒ぎで、皆に見てもらえたんだ。僕とあの木は一心同体で、大勢の人が見ることで命を保てるんだ。でも、最近は不思議な現象のある物でも、もう時代遅れだとか、そんな事を言われて、この町でも隅でぽつんとしているしかない。あと数ヶ月もすれば、僕達は枯れると思う」
少年はそこで、ガバっと沙良のほうへと視線を向ける。いきなり視線を向けられたのにビクリと驚き、思わずビールを吹く。
「そこで、僕はあなたを見つけた。怪奇現象をネタに、色々なところに取材に行き、ドンドンと都市伝説とかを復興させようとしている。だから、助けてもらえるかもしれない。そう思って、僕が呼んだんだ」
「たすけるったって…。どうすれば良いの?」
「この木を広めてくれれば良いんだ!!」
沙良は、自分のカメラを見て、そして、自分の職業を思い出し、あ、と閃く。そして、なるほど。と少年に笑みを見せると、「そのくらいで良いなら」と頼みを了承する。
二人は早速、虹色の花びらが舞う木の前へと来ていた。カメラを持っているが、一体何をどう写せば良いのだろうか。沙良はレンズ越しに木を見るが、一向に閃かない。
「でも、どうすれば良いの?」
「ちょっと待って…」
少年は木に手を当てると、ゆっくりと、静かに何かを呟いていく。そして、それに反応するように風が吹く。その風は木に向かって思い切りぶつかっていく。その間にいる沙良は、吹き飛ばされそうになるが、何とか堪えてカメラを構える。
咲いているピンクの五枚ごとの花びらが、風によって抵抗もせずに吹き飛ばされていく。木から離れた花びらは淡い紫や赤、青とさまざまな色へと姿を変えていく。それを見て、驚かないものはいないだろうと沙良は思う。沙良自身も、カメラのシャッターを押す手さえ止まるほど、呆然としながら見とれている。少年の「撮って!!」と言う声が無ければ、見逃しているところだったと思う。
カシャ。
カシャ。
カシャ。
軽快に、それでいて正確にその虹色に輝く花吹雪を写真へと収めていく。一枚でも多くとって、このすばらしさを皆に見せたい。いつの間にか、その思いが沙良を突き動かしていた。それは、少年にとっての願いであり、自分が思った本当の気持ちでもある。
桜吹雪が終わった頃、フィルムはあと一枚となっていた。カメラから顔を離すと、カメラには数滴の水が付着していた。あまりの自然の雄大さに、思わず出た涙だった。それは、怪奇現象でもない。都市伝説でもない。幻想の木だ。と沙良は心の中で呟いた。
「お姉さん。ありがとう。これで、たくさんの人が来てくれると思うよ」
「そうだと良いね。そのときは、私も行ってあげるから、楽しみにしてて」
「うん!!」
少年は元気に呟くと、静かに風と共に消えていった。このとき、沙良は本当に木の精霊だったんだ。と気づき、突然な今日の出来事を。静かに心に受け入れた。
〜〜〜三〜〜〜
社内の廊下を、力強く踏みしめながら沙良は顔を真っ赤に染め上げて歩く。目指すは社長室。沙良は社長室のドアを大きな音と共に開けると、机を叩く。
「どういうことですか!! 虹色に輝く木を検査対象にするというこの連絡は!!」
「いや、だから、本当に不思議な木だから、調査するために国の科学部が切り取っていってしまったんだよ」
「そんな…」
沙良は驚き、目に涙を浮かべる。
――そんなことをしたら、あの子は…。
沙良は社長室を飛び出すと、一目散に駅へと走る。あの場所は知っている。一日で着くはずだ。そう呟きながら、新幹線に乗り、あの場所を目指す。
確かに、あの木は有名になった。けれども、それによって、世界でその不思議な実態を暴くという、身勝手な計画が組まれ、日本はそれに了承。すぐさま木を根ごと最先端研究所がある米国へと持っていかれてしまったのだ。
気づけばあたりは夕暮れに染まっていた。木のあった場所には、土を掘り返され、茶の穴が開けられた草原だった。そこに、しゃがみこむ少年がいた。
「大丈夫!?」
「はは、このまま、死んでいたほうが良かった。検査とか良く分からないことにあの木が持っていかれちゃった…」
「私のせいよね…」
こみ上げていた何かが、一気に目からあふれ出す。それを見て、少年は笑みを浮かべると、沙良の方に手を置く。沙良が少年を見ると、少年の脚が消えていっている。
「平気だよ。僕は精霊。また生まれ変わると思う。そのときに、また会おうね」
少年はそこで、静かに消えていった。残ったのは、一つの小さな種。沙良はそれを取ると、木のあった場所にそれを埋める。そして、一回手を合わせ、「バイバイ」と呟き、立ち上がる。涙を拭き、そして、帰り道へと歩いていく。
「また会えるよね」
そういい残し、沙良はその場を後にした。
〜〜〜終章〜〜〜
「今回は、あの不思議な気を最初に取材した女性記者『井野沙良』さんに来ていただきました。沙良さん、何か一言どうぞ」
ニュースキャスターのマイクが近づき、沙良はそのマイクをひったくると、睨みつけるような目でカメラを見つめる。
「あの木を傷つける理由があったのでしょうか?」
渡されていたカンペとは違う言葉が出てきて、キャスターとスタッフは驚く。しかし、なお沙良の言葉は続く。
「人間の身勝手な行動だけで、大切な木が無くなりました。それと共に、私の中の大切な思いでも、砕け散りました」
――何故、あの木の願いが叶わなかったのか。
「私は、あの木を見て、この世界中には、ここまですばらしい自然の恵みがあるのだと。そう思いました。でも、結局は私の想いは、誰にも伝わらなかったようです」
――あの桜吹雪には、人々へのメッセージが込められていたんだと思う。でも、人間はそれを読みもせずに、自分の新しい発見のためだけに、砕いた。
「私は、あの木を奪った人を許しません・・・・」
そこで、ニュースの放送は打ち切られた。しかし、この言葉を聞いて、あの木の大切さをわかってくれた人はいるんじゃないか。私はそう思う。
今では完全な田舎と化したこの町。沙良もいない。町の人々も数少ない。そんな中、地面から強く伸びた目があった。その隣には、藍色の着物を着た少年が、夕日を見ながら、静かに立っていた。
終わり
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2005/06/20(Mon)15:01:50 公開 / 聖藤斗(ひじりふじと)
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■作者からのメッセージ
お久しぶりです。HN変更をして、頑張ろうと決意した「ニラ」です。PC禁止の中をかいくぐり、やっと書いた短編…なのですが、良く分からない作品です、書いていたときには「お、これ良くねぇ?」とか考えていたんですが、今見ると、反省点たっぷり。修正をしたいし、どうしようと思ってるんですが、ここから、また初心者としてやりたいので、アドバイス、感想どんなものでも良いので、お願いします!!
次回作(いつになるか、半年くらいかなぁ…)が出てたら、見てやってください!!お願いします!!
作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
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