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『青い空』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:なつきのこ
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あがいてもあがいても超えることのできないボーダーライン
もどかしくて、どうにかしたくて、もがき苦しんで
ようやく一つの答えに辿り着く・・・
17歳ってそんな感じだと僕は思う。
たぶん僕達は知りたいのだ。
生きる意味を、明日への希望を、
真っ青なキャンバスに描かれた雲の理由を・・・。
『青い空』
屋上は僕にとって格好の隠れ家だった。
普段は誰も立ち入ることのできない場所なのだが、運の良いことに僕は屋上の鍵を盗むことに成功した。
その頃体育委員だった僕は、教官室に体育館の鍵を借りに行ったのだが、たまたま目に付いた屋上と書かれた鍵を
何を思ったのか、いつの間にか握り締めていた。
先生に気付かれている様子もなく、僕は何食わぬ顔で教官室を出たのだった。
それからしばらく、屋上の鍵が紛失したと騒ぎになったが、教師共はようやく支障はないと気付いたのか
今では誰もが屋上の鍵のことを忘れてしまっている。
僕はいわゆる優等生ってやつで、かといって真面目すぎるという訳でもなく
今日もこうして授業をサボって屋上に来ている。
本日、最高のなかでも特に最高な青空日和・・・つまり快晴だ。
暖かな日差しが気持ちよくってうとうとする。
誰にも邪魔されることのない僕だけの時間。
のハズだったのだが・・・
――――ガラッ
招かれざる訪問者。
今日はうっかり鍵をかけるのを忘れていた。誰だ?先生か??
残念なことにただっ広いだけのこの場所には逃げ場なんてなかった。
だが次の瞬間僕は目を疑った。
だらしなくズボンを腰ぎりぎりまで下ろして、茶髪なのかキンパツなのか分からない頭の彼は
どかどかと僕の聖地に足を踏み入れた。
「・・・芦尾。」
学校内の誰もが彼の名前を知っているだろう。なぜなら彼は校内一の問題児。
ちなみに一年の頃から同じクラスメイトだったが学校にはあまり出席していない。珍しく登校したと思えば乱闘騒ぎ。
そんな芦尾隆志・・・君・・・。はぁ、最悪だ。
だが、自信家で優等生で女の子からモテちゃって困っちゃうのが売りの僕は、ココで引けをとるわけにはいかない。
ビビッていたら負けだ。・・・がこの状況をどうしろと??
先に口を開いたのは芦尾の方だった。
「お前アレやろ?えっと何やっけ、名前。えーと・・・」
アレとは何だ!!!仮にも一年間同じクラスだったのに。
だがあくまで冷静に。
「白石や」
「・・・あぁそんな名前やった。白石あきら。」
・・・正確には“あらき”なんだけど。
「お前何でこんな所おるん?授業出らんでいいんかちゃ?」
それはこっちのセリフだ。無断で僕の聖地に進入してきてその言いようは何だ?
それにしても授業出らなくてもいいのかなんて・・・コイツの口からそんな言葉が出てくるのがなんだかおかしかった。
「お前こそどーなん?」
「俺はこんなやし、別に出らんでも問題無かろ?あー、それにしても気持ち良いなぁココ。青空そうとう綺麗やん。」
そう言って芦尾は空を見上げ立ちすくんでいた。僕は何故かその姿に親しみを感じてしまった。
コイツ、皆が言うほど悪い奴でもなさそうだ。
「あぁ、ほんとに・・・空、真っ青やなぁ・・・」
見上げた空は本当に綺麗だった。
* * * * * * * *
あの日を境に芦尾はたびたび屋上へやって来るようになった。
ただでさえ出席日数足りていないくせに、一体何をしに学校へ来ているのやら。
それはもう、授業を受ける為に学校へ行くのではなく、屋上へ行く為と言ってしまった方が適切だろう。
芦尾がココを訪れるようになって正直最初は戸惑いを隠しきれなかった。
と言うのも、今まで屋上は“僕独り”だけの場所だった。僕は独り静かに、この場所で安らぎを得ていたのだ。
特に天気の良い日は最高だ。この青空を独り占めして流れ行く雲をぼんやりと眺める。
それだけで僕は幸福感のようなものに心満たされていた。
それなのに思わぬ侵入者の登場により今まで保たれていた安らぎと言うバランスを崩されたのだ。
安らぎを得るための条件、それは“独りである”ということだ。
しかし人間慣れるもので、数日後にはすっかり彼のいる事が当たりに感じるようになっていた。
そして僕らは少しずつではあるが色々な話をした。
一見怖そうで、不良特有のオーラをギンギン放ち近寄りがたい存在である芦尾だったが、実際話してみると彼は人懐っこく良く自分の事を話しては僕に聞かせてくれた。
自分の好きなもの、嫌いなもの、最近ムカついた事、面白かったこと・・・
ほとんどが日常的な話題だったが聞いていて嫌な気はしなかった。むしろ、コレが校内一の問題児の真の姿なのかと秘密を握ったような気分になっていた。
僕が屋上へ行くのはほとんど気まぐれだが、ほぼ毎日のように訪れていた。
そんな僕の行動を不審がる人がいないわけがない。それはやはり先生であった。
「おい白石、お前どこ行くんか?」
「あ・・・ちょっと具合悪いんで保健室に。」
「お前な、そんな嘘通用すると思っとんか?もう二年なんやけ進路のことも考えないけん時期なのに、お前たるんどんやないか?!」
何だかムッとした。
先生方は皆そろってこう言う。
僕は優等生の分、先生からの期待も高い。
進学校だから、成績の良い奴にはそれなりに名の知れた大学にいってほしい
そして少しでも世間から見たこの高校の評価の為に貢献して欲しい
きっと教師共の企みはそうに違いない。
たるんでるなんて言われる筋合いはない。学校なんて勉強できてなんぼの所だ。
成績さえ良ければ少しくらい授業サボったって目を瞑ってくれる。
「ほら、教室へ帰んなさい。」
「・・・はい。」
と言い先生を安心させたところで、教室に戻るフリをしつつ屋上へ向かう。
僕は優等生の中でも特にひねくれた優等生なのだ。
屋上へたどり着くと、扉の前で一足先に芦尾が待っていた。鍵は僕が持っているから、僕がいない限り彼は屋上に立ち入ることが出来ないのだ。
「・・・遅ぇちゃ。」
少し不機嫌そうな彼を横目に僕は無言で鍵を開ける。
扉を開くなり芦尾は無邪気に駆け出した。
僕は何だか頭の中がもやもやした感じになっていた。きっとさっきの先生のせいだ。
近頃ほんの些細なことでイラつきやすい。
「はぁ・・・。」
ため息を一つ吐きゴロンと寝そべった。天気はやや曇り気味で気分は更に落ちていった。
こんな日は余計なことまで考えてしまうからいけない。
考え事をすると息が詰まりそうになる。それが何故だか分からないけれど。
学校の事、将来のこと、先生と両親からの期待・・・。まだ二年だぞ、早すぎだろ。
これが優等生の宿命なのか。いや、でもこの憂鬱の理由はこれだけじゃない。一体何なんだろうこの気持ちは。
最終的にはもう自分が何者なのかさえ分からなくなりそうでむしゃくしゃした。
「あーもう、やめやめ!!考えるの止めっ!!!」
せめて今日の空が青色で目が眩むほどの天気だったら良かったのに。
こんな時、ノー天気にボケッとしている芦尾をみると無性に腹が立った。
「白石、お前何しとんの?」
しばらく経って、突然芦尾が僕を見下ろすようにして話しかけた。
「へ?」
「さっきから・・・お前、自分の手ェ見てん?」
「・・・あ。」
気が付いてみると僕は、無意識のうちに空に手をかざし、何かを掴み取るかのように空を切っていた。
* * * * * * * *
ガタッ ガラガラッ
乱暴に扉を開けたのは芦尾だった。
今日も僕は屋上でぼんやりと空を見つめていた。そよそよと気持ちの良い風が吹き上げ、僕の頬をかすめる。
暖かな陽の光りが身体を包み込み今まさに眠りにつこうとしたその矢先の事だった。
一気に現実に引き戻された僕は芦尾を一睨みした。が、僕の視線も彼には敵わなかった。
ものすごい目つきで瞳は冷たく据わっていた。その顔色から窺うと彼は怒りに満ちているようだった。血の気も引くような威圧感が彼を支配していた。
僕は何も声を掛けることができなかった。それは今まで忘れていた芦尾への恐怖からでもあった。
彼は学校一の問題児。こうして関わりを持たない限り、僕はきっと芦尾とは口も利かなかっただろう。
それだけ彼は恐れられている存在であり、僕も以前までは彼のキレた姿しか印象がなくすれ違うだけでビクッとした妙な緊張感に襲われたものだ。
けれど注意深く普段の彼を観察してみると、見かけは別として、特に彼自身に問題があるとは思えなかった。
授業妨害をするわけでもないし、特に目立った悪さをするわけでもない。
ただ、先生から絡まれあれこれ口出しされた時は過剰に反抗していた。けれど、それだけなのだ。
“問題児”とは多分、彼の見た目だけで認知されたにすぎない。
それもそのはず、ココは市内でもそこそこレベルの高い進学校。はみ出した生徒は目立つのだ。
屋上での彼は、本当に普段では想像もつかないくらい明るく、時折見せる笑顔はなんだか僕を安心させた。
芦尾でもこんな表情を見せるのか、と。それから彼に対しての印象は大分代わったのだが、怒りに満ちる姿を見るとやはり怖い。
芦尾は無言のまま僕の右のほうに少し距離を置いて座り、チッと舌打ちした後大きなため息を吐き空を見上げた。
「・・・どうしたん?」
僕はようやく声を掛けることができた。
それでも彼は無言のまま瞬きさえせず、空から瞳を離そうとはしなかった。
僕は彼を残し屋上を後にした。何があったのかは分からないけれど、一人にしてあげたほうが良いような気がして。
彼の目には確かに涙が溜まっていた。
教室へ戻ってみると早速芦尾の情報が流れ込んできた。
「白石、お前聞いた?芦尾、学校退学なるかもっち!!」
ドキッとした。同時にさっきの芦尾の姿が目に浮かんだ。
「一体どうしたん?」
「最近盗難が多くて問題になっとったやん、その犯人が芦尾やったって。」
「は?何ち!?それ本気で言いよんかちゃ!?」
近頃、校内で盗難が多発していた。体育や移動教室の間を狙って誰かが勝手にカバンをあさり財布から金だけをキレイに抜き盗っているのだ。
それは僕のクラス内でも起こった。
この間の体育の時間、教室が空いたのを狙って。3名の生徒が被害にあった。
皆は手口からして犯人は同一犯だろうとにらんでいたのだが・・・
先生たちは真っ先に問題児である芦尾を疑った。
だが彼が盗むはずがなかった。
なぜなら彼はその時間、僕と共に屋上にいたのだから。
聞けばついさっきまで、芦尾は先生に呼ばれ盗難について話していたらしい。彼は違うと身の潔白を証明していたが教師共は聞く耳持たず。
こんな事をしでかすのはお前しかいないだろうと。
そして溜まらず芦尾は先生の右頬に一発パンチを食らわせ、相談室を飛び出した・・・という事らしい。
「あいつがそんな事するわけないやろ!!」
まるで芦尾が盗んだと決め付けたような言い方が気に食わなかった。あぁもう、何で教師っていつもこうなんだろう。
また、芦尾の目に涙を溜めた姿が蘇り居た堪れない気持ちになった。
どこから退学と言う言葉が出てきたのかは知らないが、先生を殴ってしまったのでは反感をかうのは当然だろう。
しかし、何を根拠に犯人が芦尾だなんて無責任な事が言えるだろう。
僕は再び屋上へ戻った。
授業なんて受ける気にはなれなかった。
芦尾は相変わらず、だらしなく座り込みぼんやりと空を眺めているようだった。落ち着いたのか、さっきまでの冷たい表情は消えていた。
けれどその瞳は空を越え、どこか遠くを見つめているようだった。
彼がなぜこうまでして自分のスタイルを貫き通し抗って行くのかその心理は分からないが、きっと彼も葛藤しているのだ。
この学校と言う作られた空間の中で、自分を見失いかけそうになりながら。
きっと彼も、僕とは違った心のもやもやを抱えているのだと思う。
真っ青な空はどこまでも続いていて、見ているとその鮮明な青に吸い込まれそうになる。
「何で空はこんなに優しいんやろう。」
独り言のように芦尾が呟いた。
「・・・うん、人間なんかよりずっと優しくて綺麗やなぁ。」
それが僕の精一杯の言葉だった。
―続―
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2005/05/03(Tue)02:27:26 公開 / なつきのこ
■この作品の著作権はなつきのこさんにあります。無断転載は禁止です。
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■作者からのメッセージ
更新遅れました。今晩は、なつきのこです!!
京雅さん、ゅぇさん、甘木さん、レス有難うございます(><)
嬉しさでいっぱいですvvアドバイス、とても為になります★頂いたアドバイスを生かし少しずつ成長していけたらなと思っています。
どうか温かい目で見守っていてください^^
作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で42文字折り返しの『文庫本的読書モード』。
CSS3により、MSIEとWebKit/Blink(Google Chrome系)ブラウザに対応(2013/11/25)。
MSIEではフォントサイズによってアンチエイリアス掛かるので、「拡大」して見ると読みやすいかも。
2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。