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『ユキト・キングダム』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:伊吹美空
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夏の最も暑い時刻午後1時。
蒸し暑い部屋で、五月蝿いくらいの蝉の鳴き声を聞きながら、扇風機を〔強〕にして、俺は、夏休みの宿題を進めつつ、テレビで高校野球を見ていた(いやはや…長い現状説明だ…)。
“ピッチャー第二球を、投げました…打ちました!!
高めの良い当たり!!センターの後方だセンターの後方だ!!
大歓声の中、打球はバックスクリーンにすいこまれましたーーーーっ!!
9回裏、S高校の勝ち越しホームランっ!!!”
一旦宿題をする手を止めその様子に見入ったが、少年は、ふぅっ…とため息をついてテレビを消し、また宿題をする手を動かし始めた。
俺の名前は「鷲塚優貴斗(わしづかゆきと)」。
県立KY高校の1年生である。
2月末日から3月上旬の受験戦争を乗り切り、それなりにレベルの高い有名な高校に見事合格した。俺は一応、勉強はできるほうで、(ほんとか…?)中学生の時の定期テストでは、それなりにいい点数も取っていた…(気がする…。)
そんな俺は野球が大好きだ。
中学時代は、憧れの監督が野球部にいたのですぐ野球部に入り、熱心に練習した。
1・2年生の時は、県大会で準優勝したほどだ。
3年生になったら、今度は自分が引っ張っていこうと思い、キャプテンになった。
でも、3年生の一番大切なときに、慕っていた監督は離任してしまって。
「監督が変わっても、同様すんな…自分自身で最高の野球をしろ…」
監督は最後にこう言い残して、10年間勤めた学校を去っていった。
そして新しい監督が来たが、その監督は最悪だった。
毎日の練習に全く参加せず、少しでもミスをした後輩を思いっきり怒鳴りつけ、暴力を加えていた。
校長先生に抗議しようとした友達もいたが、
「内申点なんて、こっちじゃどうにもできるんだぜ…」と脅され、抗議できなかった。
俺はとうとう我慢できなくなって、監督を思いっきり殴り飛ばしてしまった。
学校では教師に暴行を加えたことが問題になったが、監督である彼の日頃の暴力行為や公務の放棄が教育委員会に伝わり、監督は懲戒免職になった。
俺も、最初のうちは自宅謹慎を言い渡されていたが、監督のこともあり反省文だけで済んだ。
しかし、そんな先輩が居たら野球部は悪くなると思い、
キャプテンの権利を信用できる友達に相続し、俺は野球部を退部した。
その日から、俺は野球をすることに恐れを抱いていた。
KY高校にも野球部はもちろんあったが、入部する勇気がなく、帰宅部のまま高校最初の夏休みを迎えたってわけだ。
「高校野球か…いいなぁ、青春街道まっしぐらじゃん」
一言そう呟いて、中学の時とは比べ物にならないほどの宿題を着々と進めていく。
と、そんな時、
「わーしーづーかーくーん!!」
と、玄関先から元気いっぱいの声で俺を呼ぶ声がした。
「長年続く近所の草野球チームでピッチャーを務め、KY高校1年で鷲塚君、通称“わっしー”の親友を名乗っております、美濃部憲斗!!草野球チームキャプテンの、わっしーをお迎えに参りましたーーーーーーーーー!!」
長い自己紹介を言い終えた後、おふくろが出てきた。
「あらまぁ、ゆきちゃんのお友達?ちょっと待っててね、ゆきちゃ〜ん!!お友達よ〜〜〜!!」
近所にも聞こえるようなでかい声で、母親と美濃部に呼ばれて、俺は心の底から恥ずかしくなった。
「だぁーーーーっ!!もううるせぇよっ!! おふくろっ“ゆきちゃん”って呼ぶなっ!!それから美濃部っ!!俺はお前の草野球チームのキャプテンになった覚えはないぞっ!!それに、親友だって名乗った覚えもない!!それにそれに…わっしーってなんだよっ!!」
俺は顔に怒りマークを浮かべながら怒鳴った。
「えぇ〜いいじゃ〜ん!!中学時代は野球部のキャプテンだったんだろ?それに、お前は俺の救世主なんだぜぇ??親友も同然だろっ!!」
「そんなのは親友って言わないだろ…」
「まぁ〜ゆきちゃんの親友さんなの??いつもゆきちゃんをありがとね♪ゆきちゃんっ!!行ってらっしゃいよっ!!親友さんが折角来てくれたんだからねっ♪♪」
「おふくろまで…わぁったよ、行けばいいんだろ…ったく、ちょっと待ってろよ美濃部…」
「やりぃっ!!」
紹介が遅れたが、さっきからテンションが高いこいつは「美濃部憲斗(みのべけんと)」(って、さっきも自己紹介してたか)。
俺と同じクラスで、何故だか知らないけど「僕の救世主〜っ」とかなんとか言って、俺にいっつもくっついてくる。というのも、入学式に先輩にからまれて困っていたところを俺が助けてやっただけなんだけどね。
眼鏡に少し長めの髪、きちっとした制服の着こなしからして、いかにも優等生って感じだ。
今日はユニフォーム姿だが。
「おっしゃ、わっしー準備できたか?行くぞっ!!」
「へいへい…てか、わっしーって言うのヤメロ」
俺は軽くスポーツができるような服装に着替え、靴を履いた。
「行ってらっしゃいゆきちゃん☆怪我しないようにね♪」
まったく、おふくろなら俺が野球怖いこと1番知ってるくせに、どうして行かせたりなんかするんだろうと思ったが、細かいことは気にしないことにした。
考えても仕方ない。
俺達は近くの公園についた。すでに野球チームが勢ぞろいしていて、Tシャツにジーンズ姿の俺は、さすがに目立った。
「まぁ俺は今日こんな姿ですし…野球は見学、と…いうことで…」
丁寧語で美濃部に言ったが、
「へ?いいじゃん!!大丈夫大丈夫っ!!今日はキャッチボール程度しかしないから、鷲塚もできるって!!」
「いや、そーゆー意味じゃなくて…」
ヤバイっ!!今此処でグローブなんか持ったら…。
とその時、向こうの方から、叫び声が聞こえた。
「うわぁっーーーーーーーーー!!鷲塚避けろぉーーーーー!!」
「へ…?」
気づいた時には遅かった。向こうから飛んできたボールは、俺の頭を直撃した。
「わ、鷲塚っ!!」
ボールが当たったショックで俺の身体はよろけ、近くに流れている川に落ちてしまった。
川は浅瀬なのだから、俺は溺れることはないはずなのだが…どういうことか、俺の身体は沈み始めたではないかっ!!
「うわぁぁぁぁああああああ!!!!」
俺の叫ぶ声もむなしく、俺の身体は川の奥底へと沈んでいった。
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2005/04/07(Thu)19:54:29 公開 / 伊吹美空
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■作者からのメッセージ
まだまだ未熟な小説です。
野球がしたいのにできない男の子の物語です。
少々ファンタジー混じりかもしれません。
作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で42文字折り返しの『文庫本的読書モード』。
CSS3により、MSIEとWebKit/Blink(Google Chrome系)ブラウザに対応(2013/11/25)。
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2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。