『Tea Time Lover(読み切り)』 ... ジャンル:恋愛小説 恋愛小説
作者:浪速の協力者
123456789101112131415161718192021222324252627282930313233343536373839404142
「拓海(たくみ)〜、紅茶入れて〜。」
拓海の家に遊びに来ている私は、だらだらした感じで言った。
「あのな、ぐ〜たら姫。俺は今、仕事中なのだが?」
こちらに背を向けたまま、パソコンに向かって文字を打ち続けながら、彼は言った。
「だって、退屈なんだもん。」
「だから『今日は来ても相手できない』って言っただろ?」
「家にいたら、余計につまらないじゃない。」
彼は手を止め、私の方を向き、じっと見つめてから、すくっと立ち上がり、台所へと向かった。
短編小説 『Tea Time Lover』
私たちは付き合い始めてから、3年目のカップル。
彼とは高校2年の頃に知り合い、現在は同じ大学に通っている。
先ほど彼の発言にあった『仕事』というのは、執筆のことである。
実を言うと、彼は高校生の頃に、作家としてデビューを果たしているのである。
作品の売り上げも決して悪くは無い。
「お前、大学の友達とは遊びにいないのかよ?」
台所で紅茶を入れている拓海が言った。
「だって、遊びに行ったら、そっちが妬くじゃない。」
「男が相手じゃないだろ?」
「じゃあ、男だったら妬くんだ〜。」
「…………………………。」
何も返事が返ってこなかった。
どうやら図星だったようだ。
しばらくして、可愛らしいティーポット1つと、取っ手が金縁のティーカップ2つをお盆に載せて持ってきた。
その時、彼の顔が少し赤かった事は言わないでおいた。
「ありがと〜♪」
「ったく、紅茶ぐらい自分で入れろよな。」
「だって、拓海の入れる紅茶って美味しいんだもん。」
それは本当だった。
拓海の入れる紅茶は、そんじょそこらのカフェよりも数段美味しい。
『優しい』という表現がぴったり合いそうな味だった。
「じゃあ、お前はこれを飲むためだけに俺の家に来たのか?」
「うん♪」
私が元気良く返事すると、彼はやや残念そうな表情を見せた。
何がそう残念なのかは大体察しが着く。
要するに、私はただ遊んでいるだけだ。
というわけで、もう少しからかってみることにした。
「こんな可愛い彼女を放っておいて、自分だけ良い思いをしようなんて、そんなの不公平でしょ?」
「普通、自分で自分のことを可愛いって言うか?」
「うっ………い、いいの!」
逆にからかわれてしまった。
少し腹が立ったので、入れてもらった紅茶に口をつけた。
ふぅ………やっぱり拓海の紅茶は美味しい。
「美味いか?」
「もちろん♪」
「今日のは、いつものとは違って、特別な紅茶だ。」
「特別?」
そう言われてみれば、たしかにいつもと違う感じがする。
普段のと比べて、香りや風味が違う。
「出版社の人からの頂き物さ。本場イギリスの高級ブランドの物だそうだ。」
「え?!そんなの私が飲んでいいの?!!」
「紅茶飲むのが目的で来たくせに、何を今さら………。」
たしかに、それもそうだ。
「お前が、紅茶好きだという話をしたら、向こうの人も気を利かしてくれたみたいだ。その代わり、良い作品を書いてくれ、だとさ。」
「……………。」
「ん?どした?」
私が黙って、ジトーッと拓海の顔を見ていると、彼はそれに気づき、紅茶をテーブルに置いた。
「………拓海ってさ、出版社の人には私の事をどういう風に言ってるの?」
「ああ、そんな事か。」
彼はにやりと笑った。
「我が侭で、ぐ〜たらで、妙に意地っ張りで、まるで猫のよう。」
そう言って、彼は紅茶をまた一口飲んだ。
「………………………。」
ショックだった。
多少は自覚していたが、改めてそこまではっきり言われて、ショックを受けない人が一体どれくらいいるだろうか?
「でも、優しくて、可愛くて、甘えん坊で、俺にとってはめちゃくちゃ大切な彼女です、って言ってある。」
……………ハッキリ言って、恥ずかしい以外の何物でもなかった。
よくもまあ、それだけの事を、普段顔を合わす人に言えたものだ。
「嬉しい?」
彼は聞いてきた。
「し、知らない!」
と言って、ティーカップを持ったまま、身体ごとそっぽを向いてやった。
もちろん、嬉しいかと言われれば、嬉しい。
嬉しいに決まっている。
けど、あまりにも恥ずかしすぎる。
万が一、彼の職場を訪れる時があれば、どういう目で見られるか分からない。
「まあまあ、そう照れるなって。」
「照れてなんかない!!ってゆーか、あんたそんなこと言ってて、恥ずかしくないの?!」
彼は紅茶をテーブルに、ゆっくりと置いた。
「勿論、少しは恥ずかしいかなとも思うさ。でも、俺はそれ以上に、お前を自慢できて嬉しいという気持ちがある。俺にとっては、テレビで話題になってる芸能人や、アカデミー賞を取った女優とは比にならないくらい、誰よりも素晴らしい女性だと思えるから。だから、ちょっとくらい恥ずかしい事でも堂々と言えるんだ。」
……………。
あまりに褒められすぎて、逆にどういうリアクションをすれば良いのか分からなかった。
「え、え〜っと………あ、ありがと。」
「どういたしまして。」
彼の顔は、微笑んだままだった。
とある、昼下がり。
彼の紅茶はいつものように甘かったが、それは砂糖のせいだけではなかったと思う。
Fin
2005/04/05(Tue)21:48:28 公開 /
浪速の協力者
http://www.geocities.jp/c_naniwa/top.html
■この作品の著作権は
浪速の協力者さん
にあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
3日間近くかけて書いたんですけど、あまりちゃんと考えずに書いたもんですから、オチがとてつもなく変になってしまいました(蹴)
しかも、背景が背景なもんですから、駄作な上に読みにくいという特典付き。前はそこまで言うほど短編って苦手じゃなかったんですけどね〜(かと言って、得意だったわけでもない)
もっと修行を積まねば、と思うばかりです。
<2005年3月9日〜12日 執筆>
作品の感想については、
登竜門:通常版(横書き)
をご利用ください。
等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で
42文字折り返し
の『文庫本的読書モード』。
CSS3により、MSIEとWebKit/Blink(Google Chrome系)ブラウザに対応(2013/11/25)。
MSIEではフォントサイズによってアンチエイリアス掛かるので、「拡大」して見ると読みやすいかも。
2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。