『Be find me』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:輝月 黎                

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 誰かに、認めて欲しかった。
  でもそれが誰かなんて、知らなかった。
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   1 DUST-ごみ-

 バーンッ……
 黒板に、まるでボールのように放り投げられた、人。
 もう痛みで声も出せないで泣いているのに、投げた側は誰も容赦はしない。
 「馬鹿じゃないの、あんた」
 「何調子ぶっこいてんのブス」
 「マジうぜぇんだよ」
 「存在自体無駄なんだよ。消えろキモい」
 放課後の、教師も近付かない音楽室に響く、音。
 低レベルな罵倒の声。
 不協和音。
 それが発せられるのは、人が投げつけられた、グランドピアノ。
 バーン。
 低いそれは、まるで破滅のメロディー。
 ……汚い。
 それは私自身も思う。
 だけど、それが自分だと。
 私は思っている。
 だから、“いじめ”ることに、抵抗はない。いや、これが本当にいじめなのかも分からない。対象になんの感情も持っていない、これはいじめにはならないんじゃないだろうか――
 そんなことを考えて、私は、自分自身をあざ笑った。
 馬鹿じゃないの。
 だってそれが私なんだから。
 こうして弱い無抵抗な奴をいたぶって此処にいると認識して、初めて自分が存在するんだから。
 否定すれば、そんな私自身を否定したことになる。

 だから私は、腐った渦の一際高い所から、自分を自分で認める為の“生贄”を見下ろして、言う。
 「死ね、虫けら」
 こんな屑のような自分を認める為に。
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   2 RESISTANCE-反抗-

 夜の、目に痛い程明るい街。
 日の光より、私には似合ってる気がする。
 そんな中で、ひっそりと声を掛けられた。
 「お譲ちゃん、ちょっと今晩付き合わない?」
 でろでろに酔った親父に、馴れ馴れしく腰に手を回されて、私は無表情に言った。
 「いくら?」
 知ってる。
 これが所謂援交って奴で、立派な法律違反だって。
 だけどそれが何?
 人間以下のことをやってる私に、今更人間の法律なんて、無駄だ。
 「……これで、どう?」
 手の中に滑り込んで来たのは、万札五枚。
 結構金持ってんじゃん。不景気だってのに。
 その金を着崩した制服のポケットに捻り込んで、私は、作り物めいた“可愛い”笑顔で答えた。
 「いいよ」

 安いラブホの狭い部屋に、最新の着うたが歌い出す。
 メールだ。
 汗臭い親父の腕の中から体を乗り出して、私は携帯を掴む。
 薄暗い部屋の中に、開いた画面の光がぼんやり広がる。
 ……クソババアからだ。
 『麗佳、こんな時間まで何やってるの!! さっさと帰ってきなさい!!!』
 それだけの、くだらないメール。
 勿論、私は一秒も見ないで即刻削除した。
 馬っ鹿じゃないの?
 高校生にもなって、んな言葉にはいそうですかなんて言う奴、そうそういるもんじゃない。
 動いた私に目を覚ましたのか、親父は下卑た笑顔で再び私を抱こうとする。
 だけど私はもう完全にしらけていて。
 「……んじゃね、金ありがとおっさん」
 手早く服を着て、夜の街に飛び出した。

 ……分かってるけど。この行動がガキっぽいって。
 クソどもの言うことに、反発してるだけだって。
 だけど、しょうがない。
 分かってたって、これが私だ。
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   3 WARM-あたたかさ-

 それから暫く、私はひとりでカラオケに籠もっていた。
 アップテンポな曲が大音量で流れ、去っていく。
 一曲歌う度、結構高得点が弾き出される、画面。
 何となく、ずっと眺めていた。
 そうしてやっと、自分の体について気付く。
 ……やばい。すごく眠い。腕時計を覗き込むと、午前二時ちょっと前だった。やっぱあのまま寝ときゃ良かった。
 でも今更どうしようもない。どうせ、今日も家になんか帰らないし。
 あんなクソババアとクソジジイのいる、私の居場所なんて針の筵の上の家なんかには、絶対。
 あいつらを思い出したら何だか歌う気も失せ、ふらふらと当てもなく、深夜でも煌々と電気を消耗し続ける街を彷徨う。
 思えば何度、こんな堕落した夜を繰り返したんだろう。
 一体、あの家に帰った最後はいつだっけ。
 あぁ……
 進路希望の時が、始まりで最後だな。

 『ふざけんじゃないわよ!! 何、進路希望がフリーターって!? まともに生きようって言う気があるの、麗佳!! そんなだからいつまでもあんたは子供なのよ!! 全く、お母さん恥掻いちゃったじゃない――!!』
 クソババアの、ヒステリックな叫び声。
 それに応えた私の声は、恐ろしく淡々として平坦だったと思う。
 『それが何? あんたの恥が何? 別に私はそれが恥だとは思わないから。放っといてよ、煩い』
 “付き合いきれない”。
 それはきっとクソババアも私も思ったこと。
 あいつはこんな『言うことを聞かない駄目な子供』に。
 私はあんな『外聞しか気にしていない馬鹿な親』に。
 クソジジイに至っては、最初から私なんか見てなかった。どっかのキャバクラ嬢みたいな女の尻を追っかけ回すのに忙しくて。
 冷え切った家庭。
 罅の入った、親子。
 世間様から見ればそう言われるんだろうけど、もう私は『家庭』も『親子』も、聞いた途端鼻であしらうだろう。
 何が、親子。
 お互いにお互いを見ようともしない、汚らわしくも同じ血の流れる他人同士が。

 あぁ、次どこ行こう。
 家出したって言ったら友達ん家が普通なんだろうけど――そんなのいないし。
 いじめ仲間は山ほどいるけど、あいつらを友達だと思ったことなんか一度もないし。
 あぁ、私は何をしよう。
 働きたい訳じゃない。でも、このままぐたぐたしていたい訳じゃない。勉強なんかはなから除外。結婚? 笑わせる。
 本当に生きていたいのかな。
 死にたいのかな。
 金が欲しいのかな。
 ……自分自身の何もかもが分からない。
 そもそも何で生まれたんだろう。
 夢って、何だろう。
 いつから自分の為のいじめを始めたんだろう。
 私には、分からない。でも誰も教えてくれない。
 多分、この世界に、私は執着がない。
 愛情も、金も、いらない。
 居場所も、光も、闇も、なくてもこうして生きている。
 親しい友人も大切な人も尊敬する親もいないし、別に。

 私にとっては、此処は温度も色もない世界。

 きっと世界にとって、私はただそこにあるだけの、存在だけの、存在。
 何かを与えることもなければ、何かを授かることもない。

 乾いた、関係とも呼べない、関係。
 絶望って言う程の拘りもない、命。
 多分ここで死んだって、誰も泣かないし誰も喜ばない。
 私に関わる温度は、この世界のどこにもないのだから。 

 ぼんやりそんなことを考えて、でも眠気には勝てず、結局、私は公園で寝ることにした。
 寒かったか、暑かったかなんて、感じなかった。
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   4 FANTASY-酔狂-

 とは言え、どんな人間だってそんな所で寝てたらまともに体が休まらない。
 一晩中丸めてた背中が痛い。髪のつやも落ちて来た。
 こんな日は何にもしないに限る。元々学校なんていじめのターゲットを定める為に来てたようなものだし。でも今日はそれも休み。
 マジメなミナサンが三限のジュギョウとやらをしている時間に学校に入った私は、迷わず教室棟の屋上に上った。だってさ、街行ってもいいけど……いつも入り浸りの賑やかなとこは疲れる。路地に座るのなんか特に、どっかのクソみたいなジジババの馬鹿げた非難の視線がうざいし。……こんな考え方するなんて、私も歳かもね。どっちにしろ、授業中の学校ってのはある意味盲点だったりする。

 自分に言い訳してみたりしながら一歩外に出ると、一体それで何をしたいのか分からない位の晴天が待ってた。馬鹿じゃないんだろうか。色も温度ももう感じない私にまで、その蒼を広げるなんて。はは……憎らしい位ぎんぎんに光ってる太陽も。そういやもう夏が近いっけ。なら梅雨っていつだったんだろ。 ま、いいや。
 そんなの私に関係ないから。
 あーあ。何にもしなくても、何となく世界に在るだけでも、お腹は空くな。でも今更コンビニに行くのもめんどい。
 また街が私の行動時間になるまで、この頭の悪い世界の天井でも眺めてようか。ってか、世界って部屋を管理してんの誰なんだろ。この昼の照明強過ぎ、目がちかちかするよ。……あー、それにしてもお腹空いた。
 そう何度も何度も何度も繰り返し思って、遂に私は言葉にした。
 「……おにぎり食べたい」
 基本的に、パン食派じゃなくてご飯派です。誰も聞いてないけど一応主張する。
 今なら多分賞味期限切れてしなびた食パンだって食べるだろうけど。

 と。
 訳隔てなくどこまでも蒼いお馬鹿な空から、
 おにぎりが降ってきた。

 「……へ?」
 って、ありえないだろうに。駄目だ私、遂に幻覚を見るまで空腹に追い詰められたか。――でも、視界の右端にひしゃげて転がるのは、やけにリアル過ぎるコンビニ鮭にぎり百円なんだけど。
 そんな風にして疑問符が溢れ過ぎてねっころがったまま動けない私に、何故か次は、声が降ってきた。

 「あー、そこのサボりー。 その鮭にぎり取って」
 ……ちょっと待ってよ。あんた人を大声でサボりって言うけどさ。
 理不尽さに体を起こして、一階分高い特別教室棟を見上げた。
 そこに人影、ひとつ。……そしてどう見ても、この学校の男子制服着用。
 そんなあんたもサボりでしょうが。



 でも、私のそんな呆れは長続きしなかった。
 ……と言うか、別のモノにかき消されたって言うか。
 言うとすれば、嫌悪。厭い。拒絶症状。道端に犬のフンがあったら、自然と避けて通るときみたいな感じ。
 避けて当然、触らないのが当たり前……

 鮭にぎり落としたの、そう言う奴だから。



 「やー、悪いねサボり。折角気持ちよく光の中でサボっていたのに」
 こっちの屋上にふらりとやってきても、無視。あてつけみたいにサボりって連呼されても、意地で無視。
 だって、どうよ。
 明らかに駄目なことしてる私に、「へいかもーん」とふざけつつ鮭にぎり渡すよう要求してる馬鹿は。

 生徒会長でしょ?

 ……自分で確認しときながら、やっぱ信じらんないけど。
 きっちり乱れなく制服着て、いかにも優等生って感じの縁のない薄いメガネして、今時ズボン腰まで上げてる、それなりの容姿の奴なんざ、どう思い出してもこの学校には一人しかいない。
 他候補をぶっちぎりで振り切って当選した、『先生(クソ)のお気に入り』。
 人当たりもよくマジメで穏やかな、『みんな(一般人)の人気者』。
 私から見れば、『反吐が出る人間』。
 どっからどう分析したって、生徒会長。

 「おーい、サボり聞いてる? 俺腹減って仕方がないから、今すぐその一〇五円の価値の物体プリーズ」
 ……なのになんなの、この馬鹿。『不良(わたし)』を相手に平気でふざけてるなんて。もしかして多重人格とか? ……最悪じゃん。 何がだか知らないけど。
 「あ、今お前もサボりだろうとか思っただろ。正解〜。同志発見ってとこだな」
 あー……何かすっごくむかつくテンション。こう言う人間、反吐が出るよ、本気で。
 こっちはもう、世界になんの関心もないし、いる意味もないのに。
 こう言う奴見てると、いかにも生きてることを楽しんでるって感じがするから。
 ――馬鹿みたい。 いい加減、気付いたら?
 世界なんて、あんたらの考える程優しかないんだって。
 「なぁ何か反応してくれないと俺馬鹿みたいに見えるんだけど。いや誰も見てないけどさ」
 ………………
 ………………
 …………っ!!

 「うーーーざーーーいーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!」

 もう嫌だ。無視できない、このペース!!
 嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。
 なんか訳分からないけど、もう嫌だ。
 いい加減にしてよ。私には何もかもどうでもいいの。死んだっていいんだから。そうしても意味がないんだから。もう熱さも冷たさも忘れたんだから。それが悲しくないんだから。 あんた、そんな人間を相手にしてんのよ?
 「消えろ馬鹿会長!! 今すぐ!! 私の前から!! あーもー吐き気がする!! べらべらべらべら不良相手に何話してんの!!? 第一なんで優等生がサボってんのよ、っっクソが!!!!!」
 これだけ目ぇ吊り上げて毒吐きゃ、大抵の『一般人(屑ども)』は係わり合いになること自体恐れて、引く。
 引く。
 引く。
 ……なのに!?

 「うん、やっと反応が返った。ってか内容は心外なんだがね。 俺は優等生とやらじゃないんだね〜、これが」
 この馬鹿勝手に語ってやがるよ。しかも意味不明。
 ああもう嫌だ。私は喚き散らす。
 「誰が、優等生じゃないって!? はっ、お気の毒に!! あんたはどう足掻いたってねぇ、根っからクソみたいな優等生なのよ!! この先公(クソ)のお気に入り!!!」
 なのに、それにも馬鹿は飄々と言いやがった。

 「人の話聞いてないだろ。お前絶対B型な。何度も言うが俺は断じて……んな“腐れ”じゃねぇよ」

2005/05/07(Sat)00:12:54 公開 / 輝月 黎
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■作者からのメッセージ
お待ちして下さっていた方々(きっといる筈…………いて欲しいなぁ……)、大変お待たせしました。
『Be find me』、続編です。
……うわ、てか変人がさらに変人+αに。

何かもうこれ以上いえませんな。次回のネタばれになりそうですので。
と言う訳であーでぃおーす。(一度死ね正真正銘の馬鹿が!!!)

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
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