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『学生服のピエロ』 ... ジャンル:ミステリ ミステリ
作者:並木もこ
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私たちはピエロ
学生服を着て笑い顔をうかべるピエロ
周りを気にしながらおどり、目はよく見えない
そのなかで仮面をぬぎ立ち止まる仲間に手探りで気づき 憎む
自分も素足でおどりたくて
そんな愚かしいものたちに赤い林檎をなげてやろう
赤い_赤い林檎を
私がはじめて「奴」にあったのは誰もいない図書館。ひんやりとしたそこの文庫本「車輪の下」にはさまった貸し出しカードだった。丸くなった鉛筆らしきものでつづられた詩は、いたずらに私の胸をくすぐり、鳥肌につめをたてた。視線をおとしていくと、貸し出し者の欄にはこう記してあった。
学生服のピエロ 4/13日6時。今日愚かしきものたちに私は林檎を投げつけるだろう。
驚きで頭がくらっとした。気づいてしまわなければよかったと後悔し続けているあの話を、他の人間も知っている?_この作者は一体何者なのだろうか。
ふとしたとき、それはちょうど自分が夢中でしゃべっていて、我に返った瞬間
でもいい、だれかが起こした風によって舞い踊っているという事実にむせかえる。「学校」という名のいれものに舞う風は、時に残酷で、時に冷たい。
それを知ってしまった人間は、ひとり苦しみ罪悪感にとらわれる。
なぜあの子をすくえないのか。なぜ立ち向かおうとしないのか。
私は、野々村さんが今日、黄金町に呼び出されているのを知っていた。
あいつらの会話を偶然、裏階段で耳にしてしまったのだ。
校庭にいる生徒がたてる笑い声が、きんとするほど静かな図書館にひびいて、短い指でたどったカードもたよりなげで。臆病者の私をゆるしてください。
祈るような気持ちでポケットのペンをさぐってかきこんだ。緑色の文字。
別れをしめすわけでもないのに、不適切なか細い文字。
「どうか立ち止まったその人を助けて。」
もうすぐ6時になる。私はきっと彼女のもとに走れない。いや、走らない。
自分を意地でもまもろうとする心の壁が憎い。くやしさといらだちで体中がかっかと燃え、その場で座り込んだ私を、古びた本達が見下げている。
「あいつまじおせーよ。」
「まあ待ってやろうよ。どうせすぐくるよ。あいつも昔はいろいろ走ってたらしいじゃん。1回だぶっただけで年下にいじめられるなんて許せないって。」
日が落ちれば、そこは人もまばらで、古びたソープが立ち並ぶ汚く小さい通り。彼らは獲物を待っていた。
「でも、どーすんだよ。あいつが1人でくるはずねーじゃん。暴走族のきっついやつ引き連れてきたら、おしまいだって。」
「ばっかーぁ。あいつはぁ、ゾクから足洗おうとして、結局ばれてダブりくらってるんでしょ。一回裏切った女についてく奴なんていないよぉ。」
男は茶色くまみれた拳をにぎりながら、笑みを浮かべた。
「でも、俺さぁー野々村って結構イイ女だと思うよーぅ。」
「勝手にしたら?うちら言いたいこと終わってけりの2.3発入れたら帰るから。お好きにどうぞ。」
「うへっ、結構楽しみかも。」
下劣な笑い声が響く中、微かに空き缶が転がっていった。ピンクのネオンを見据えたその先に、おもいっきり投げ込む。
「いってっ。」
髪を無駄にさかだてた男が不気味なものでもみるかのように拾い上げる。
「なんだあ!?な.リンゴ??」
「?だれだ?てめえ。」
暗がりに顔も見えぬ、男がにごった細い空を背景に立っている。
こんな細い路地をつきすすんできたというのか。
「お兄ちゃんだれだよ?顔がみえねっうおっ!!」
「いやぁああー!」
今日もこの通りには星ひとつみえない。
悲しい仮面をつけた人間達も照らさない。
続く。
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2005/03/15(Tue)18:30:06 公開 / 並木もこ
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■作者からのメッセージ
はじめて投稿させていただきました。
ミステリーまがいなものになっていく予定です
批評を心からお待ちしております_(._.)_
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