『目隠し鬼1』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:森川雄二                

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            1「智子」

智子は夢をみていた。
夢の中で智子は走っていた。
あたりは静寂と暗闇につつまれている。聞こえるのは自分の足音だけ。
何のために、何のためにわたしは走っているのだろう?と智子は思った。
わからない。思い出せない。なぜ自分は走っているのか。いつから走っているのか。どこまで走ればいいのか。わたしはどこを走っているのか。
すると後ろから何かが追いかけてきている気配を感じた。
ああ、わたしは逃げるために走っているのだなと智子は思った。
でもなぜわたしは逃げているのだろう?
そうだ、確か何か恐ろしいものを見たのだ。とてつもなく恐ろしい何かを。
でもそれが何なのか思い出せない。あるいは思い出したくないのだろうか?
そんなことを考えている間にも智子とその何者かの距離は少しずつ、しかし確実に縮まっていた。
このままではいつか追いつかれるな、と智子は思った。追いつかれたらわたしはどうなるのだろう?やはり殺されるのだろうか?
智子はそこで目が覚めた。
「また、この夢か」と智子はつぶやいた。
みるとシャツがびっしょり濡れていた。まるで本当に走ってきたみたいだ。
ここ毎日同じ夢を見る。何かに追いかけられる夢。でもそれが何なのかわからない。
普通何度も見る夢なら夢の中で、これは以前見たことある夢だなと気づくものだが、この夢は何度見ても気づかずそれが夢なのだと認識することさえできないのだ。
だから何度見ても恐怖感はかわらない。
「まったく。あいつが変な話しからだわ」
あいつというのは智子が所属する大学のサークルの裕也のことだ。
その裕也から一週間ほど前、変な夢の話を聞かされて以来この夢を見るのだ。
夢というのは裕也がみる夢のことだ。智子は適当に聞き流していただけなので、詳しくは内容を覚えていないが確か夢の中で裕也は誰かを追いかけてるのだそうだ。裕也は個々最近毎日その夢をみているのだという。大学生にもなってそんな夢に悩まされるなんて馬鹿みたい、と智子は内心笑っていたがまさか自分がそんな夢で悩まされるとは思ってもいなかった。もっとも智子の場合追いかけているのではなく追いかけられいるのだが。
すっかり目が覚めてしまったので、智子は少し早いが大学に行くことにした。
大学に着くと智子はすぐに図書館に向かった。読書が趣味の智子は授業がなくて暇なときは大抵この図書館で過ごしている。
図書館に着くと見覚えのある顔があった。
智子と同じ学部の友人である和美だ。和美は智子に気づくと近づいてきて声をかけた。
「おはよう智子。めずらしいやん。低血圧のあんたがこんな早く学校くるなんて」
「うん。ちょっとね」
「なんか辛気臭い顔してんなぁ。何かあったん?」和美は訝しげに尋ねた。
智子は夢のことを話そうかどうか一瞬迷ったが、話すことにした。
「実はね、最近変な夢みて困ってるんだけど」
「変な夢?」
「そう。なんかね、暗い夜道で何かに追いかけられてる夢。朝起きたら汗びっしょりでさ。もうここんとこ毎日その夢ばっかみるの。ホント参っちゃうわ」
智子がそう言うと和美はクスクスと笑い始めた。
智子は不機嫌そうにその様子を眺めていた。
「あはは、ごめんごめん。いや、あんたが怖い夢みて悩むなんてちょっと意外やったからさ」
「本人としてはけっこう切実な悩みなのよ。人の悩みって実際に体感してみないとわからないものよ」智子は口を斜めにして言った。
「でもさぁ、同じ夢を毎日みるってことはさ何か原因みたいなものがあるんとちゃう?」
「うん、まあ原因っていうかサークルの友達から変な話聞かされてさあ」
「へえどんなん?どんなん?」和美が楽しそうに聞いてくる。
「なんか楽しそうだね。まったく他人事だと思って」
「実際他人事やもん。それよりどんな話聞かされたん?怖い話?」
「怖い話っていうか、なんかその友達がみた夢の話。わたしもさあ適当に聞き流してたからほとんど覚えてないし、よくわかんないんだけど誰かを追いかけているとかいう内容だったと思うけど」
「追いかけてる?追いかけられてるじゃなくて?」
「うん」
「ふーん。で、誰に追いかけられてるん?ひょっとしてその友達に?」和美は冗談っぽく言った。
「わかんない。後ろ振り向いたことないから。それにしてもわたし何でこんな夢みるのかわからないわ。その話の内容もちゃんと覚えてないのに」智子はため息をつきながら答えた。
「あっ!もしかして!」和美は突然大声を上げた。
「もしかして、何?」
「智子はだれかに追いかけられて怖い思いとかしたことない?」
「別にないと思うけど」智子は怪訝そうに答えた。
「じゃあさ、きっと覚えてないくらい小さいときにそういうことがあってさ。その友達の話でその恐怖が深層心理となって夢に現れたんやわ、きっと。うわ、和美さん天才ちゃうん?心理学者になれるわ」和美がうれしそうに言う。
「あんた心理学の単位落としてなかったっけ?」
「あ、あんなテストでわたしの能力は計られへんのよ。それよりこういう夢は原因がわかれば見なくなんの。よってこれにて一件落着。かくして天才和美さんによって事件はめでたく解決されたのでした。万々歳ってわけよ」
「ホントかなぁ?どうも納得いかないんだけど」
「そうやって気にしすぎるからそんな夢みてしまうねんって。とりあえずわたしが言ったこと信じて気にしすぎないことよ。そうすりゃ変な夢なんて見なくなるわ」
「う、うん。そうだね。和美の言ってることがあってるとは思えないけどとりあえずそれで納得することにするわ。ありがとうね、和美」
「どういたしまして。それよりそろそろ講義はじまるからぼちぼち行こうか」
「うん」
それっきり智子はあの夢を見なくなった。
                             つづく

2005/03/11(Fri)23:05:13 公開 / 森川雄二
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■作者からのメッセージ
なんかお葬式のほうが行き詰ってきたので、気晴らしに書いてみました。もしかしたらこっちのほうがはやく完結するかも。

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