『お葬式 前編』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:森川雄二                

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お葬式。死者を葬るための儀式。
僕はこの儀式が大嫌いだ。いや、正確に言うと理解できないのだ。
生きているものが死んでいるものにしてやれることなんてない。
葬式なんてして得するのは葬儀社と坊主どもくらいのものだ。別に儀式自体を非難するつもりはないが、その単なる儀式に安くはないお金を使うのが理解できないのだ。
もっと有意義な使い道があるだろうに。まぁ、そんなこと言ったところでどうにもならないが(それが伝統というものだし)

今日はその僕の大嫌いなお葬式だ。
死んだのは祖母で、確か死因は心臓麻痺だ。朝方母が朝食のため起こしにいくともう布団の上で冷たくなっていたそうだ。
祖母はまるで眠っているかのように静かに死んでいた。きれいな死に顔だった。僕が知っている祖母のどんな顔よりきれいに見えた。
苦痛でゆがんでいたりでもしない限り人の顔は基本的に生きているときより、死んでいるときのほうが美しいのだ。おそらくそれは死が生より完全なものだからであろう。数式にしても芸術にしても完成されたものは美しい。それと同じだ。
人は生きている間は不完全で、死んだとき初めて完成するのだ。

棺桶に入れられた祖母を見て父や母、周りの親戚たちが悲しみのあまり泣いている。
僕だけが泣いていなかった。
一応それなりに努力してみたが僕の目からは一向に悲しみを象徴する液体は流れてこなかった。僕は逃げ出したくなった。
自分が感情というものを知らない冷血な人でなし、脳のどこかに欠陥をもった人間だと蔑まれているような感覚に襲われたからだ。これだからこのお葬式という儀式は嫌いなのだ。大体まわりの人たちも本当に悲しんで泣いているのか疑問だ。
結局のところ人が死んで悲しいと感じるのは周りがそういうふうに教育しているだけにすぎないのではないか。人が死んだら悲しいんです、だから人が死んだらその人のために泣いてあげましょうねって教えられてきたのを、何の疑問も抱かずに信じただけだ。、人が死んだらパブロフの犬のように条件反射で涙が出るようにできているのだろう。

そんな風に僕が物思いにふけっていると僕以外にも、まったく泣いていない子一人だけいた。その子はただ無表情のままじっと祖母が入っている棺桶を眺めていた。
おそらくは親戚の子であろうが、初めて見る顔だった。年はぼくと同じくらい、15か16くらいだろう。長く美しい漆黒の髪、透き通るような白い肌、完成された芸術品のような無表情で端正な美しい顔。まるで人形のようだ。
とても生きている人間のようには見えなかった。
それはただ単に彼女の美しさだけから来るものではない。
彼女の表情からは生きているものが持つ感情、欲望、妄執、生への執着、そういった人がもつ醜いものがまったく感じ取れなかったのだ。
彼女は生きながら死んでいるかのように見えた。彼女は生きているにもかかわらずすでに完成しているのだ。
お葬式が終わった後も僕の頭はあの少女のことでいっぱいだった。どうやら僕はあの少女に心を奪われたらしい。だが結局彼女の名前すらわからなかった。
なぜこんなにも彼女に惹かれるのだろう?彼女が美しい、ただそれだけだろうか?いや、ちがう。おそらくは彼女が僕と同じ種類の人間だからだ。
なぜそう思ったかははっきりとはわからないが、僕はそう確信した。そう思うとますます彼女に会いたくなってきた。
だがどうやって会おう?彼女と僕との接点はお葬式しかないのに…。
お葬式?そうか、またお葬式をすれば彼女に会えるのだ。僕はこのアイディアに打ち震えた。彼女に会えるという喜び、そして殺人という刺激に対する期待感に僕は柄にもなく興奮した。

だが、誰を殺そう?そしてどうやって殺そう?捕まっては意味がない。さすがに家族はまずいな。なら親戚の誰か?やはり体力のない子供がいいだろうか?しかしどうやって?
ばれないようにするのはそもそも犯罪に見せないようにするのが一番だろう。
だったら事故死や自然死にみせるのが一番だろう。だったら別に子供じゃなくてもいいな。しかしどうやって殺せばいい?事故死は難しそうだな。
だったら病死にみせかけることはできないだろうか?そういえば叔父は心臓が悪いと言っていたな。そうだ、あの家ならよく遊びにいくしちょうどいいだろう。
あとは簡単だ。心臓毒を叔父の飲み物に入れればいい。司法解剖されない限り病死で処理されるはずだ。そして東京23区、横浜、名古屋、大阪、神戸以外では遺族の承諾なしには解剖できないと聞いたことがある。
よし、これでいこう。あとは毒を手に入れるだけだ。

2005/03/10(Thu)01:47:30 公開 / 森川雄二
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