『天狼』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:1117-0202
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西暦二千九十一年。世界は、大規模テロリスト《リベリオンズ》によって、壊滅の一途を辿っていた。
リベリオンズは、汚れた大地ソドムと現代を照らし合わせ、《大地の浄化》と称して破壊を開始し始めた。
テロ組織が活動を始め、早五年になる。その間に、世界の半分以上が滅ぼされた。
そして、リベリオンズの対策として立てられたのが《ジャスティス》と言う、政府公認の軍隊だ。
だが、俺のように個人で活動している者達もいる。それを通称、野良などと呼ぶらしいが、そんな事はどうでもいい。
俺の正式な名前は、アシュレイ・ノーブルファー。しかし、現在はアッシュと名乗っている。
個人でテロリスト狩りをしている人間として、本名を知られては後々厄介なことになるから、偽名を使っている。
《天狼のアッシュ》《銀髪の狼》などと世界では呼ばれているが、活動しているのは俺が住んでいる地域だけだ。
無論、住んでいる場所はその時その時によって違うが、そこにテロ組織が潜んでいるなら、俺は撲滅するまでその場を
動かないつもりでテロリスト狩りをやっている。別に誰の為でもない、自分の為にやっている事だ。
その昔、俺の家族はリベリオンズの男に殺された。俺は、今でもその思い出の残滓を引きずって生きている。
その残滓が、今の俺を動かしていると言っても過言ではない。そうでなければ、俺は今頃自殺でもしているだろう。
「神よ、どうか我等に愛を…」
崩壊した教会の前で、沢山の人達が聖母像に拝んでいる。五年前、ちょうどリベリオンズが設立した日。
世界中の聖母像が、血の涙を流したと言う。血の涙を流す聖母像…、神話の中での話だが
『世界が滅ぶ時、聖母は血涙を流す』
と、言う一説がある。あの日、世界中の聖母像が血涙を流した。だが、全世界はまだ滅んではいない。
俺が止める、俺がリベリオンズを壊滅させる。
崩壊した街々では、残った人間達で復興を目指しているが、それは兆しだけだ。
人々に安らぎはない。安らぎは兆しのみで、奴等がいる限り、苦しみは永久に続くのだ。
「ちょっと、あなた…」
声をかけられ、ややためらいがちに振り返った。そこには、ぼろぼろの軍服を着た女だった。
腰には、まだ使えそうな小型の銃。サイドベルトには、まだ銃のマガジンも残っていると見られる。
「《天狼のアッシュ》よね?」
「だったらどうする?」
俺は素っ気なく言ったが、女は目に涙を溜めてその場にへたり込んだ。
こう言うのが一番困る。要求を言ってくれるまでは、平然としていてほしいのに、
要求を言う前にこう言う事をされては、対処のしようがない。今までにも何度となくあったが、
正直疲れる。
「わ、悪かったよ。依頼か? 依頼なら、もう少し落ち着ける所で話そう」
そう言って女を立たせ、来た道を戻った。来た道には、広場がある。広場には避難民達が集い、
情報のやりくりをしていたりする。一時的ではあるが、休める場所もちゃんとある。
俺は女とそこへ行き、とりあえず女をベンチに座らせた。
「で、要求は何々だ? 俺もそんなに暇してる訳じゃないんだ、手短に話してくれ」
「私は政府の軍隊《ジャスティス》の、第六部隊隊長だったわ」
こんな所から話が始まるのか…。やれやれ、当分終わらなさそうだ。
女の話は思った道り、長かった。女の名前は、トーラ。《ジャスティス》の第六部隊長だったらしい。
この街に潜んでいた《リベリオンズ》と交戦していた頃、部隊が全滅させられ、自分は捕虜にされたと言う事だ。
やっとの事で脱走したが、戻って来るとこの有様。街は崩壊し、自分が率いていた部隊の残りかすもない。
政府へのSOSも通じず、一人この街で路頭に迷っていた、と言う事だ。
「そりゃあんたの事だ。事情はどうあれ、要求は何だ? 俺は依頼かと思って話をすると言ったんだ。
誰もあんたの話をしろとは言ってない。俺は聖職者じゃねぇ、依頼でなければ、他人の事を聞いたりはしない」
「力を…、貸してほしいの」
初めからそれを言えば済むのに。全く、面倒な女だ。
「こっちで、いいんだろうな?」
「間違いないわ」
俺は、険しい山岳地帯にいた。迷路のような岩壁がそこらじゅうにそびえ、外敵からの侵入を固く拒んでいるようだ。
ここが彼女が捕らえられていた《リベリオンズ》の駐屯地への道ようで、俺は《リベリオンズ》の一部壊滅と言う事で
依頼を請け負った。しかしまぁ、どれだけ進めば行き着くのだろうか、もう大分歩いているのに…。
「なぁ、いつになったら着くんだ? そろそろ着いても・・」
言葉の途中で、彼女が俺の口に手を当てた。黙れ、と言う事か…。
「今、何か聞こえなかったか?」
「気のせいだろ。 お前、耳悪くなったんじゃないのか?」
すぐ近くで、そのような話し声が聞こえた。とても近いのに、俺の声を空耳ととるとは。
見張りの二人は、耳が悪い。
「ここで待ってろ。 見張りくらいは、片付けてくる」
「ちょっと…!」
彼女が声を発した瞬間、俺は疾風に変わっていた。道を一気に駆け抜け、見張りの二人を見つけた。
音も立てずに、一閃。見張りの二人には、一陣の風が一閃を残して行った、としか感じられなかっただろう。
その考えが、果たして脳まで届いただろうか。風とともに、胴体から首が切り離され、その場に落下した。
それに続くように、体もその場に倒れこむ。あまりに猟奇的なその眺めに、彼女は目をそらした。無理もない。
「こんな眺めはよくないだろう。この先、これが続くぞ。見たくなけりゃ、街に戻れ。依頼は、果たす」
その言葉を聞いて、彼女は腰が抜けたらしく、またその場にへたり込んだ。…本当に困った女だ。
荒々しい突破法だったが、仕方なかった。彼女は、俺が作った穴の中に収め捕らえられないように、蓋をして来た。
ここからは、俺の好き放題やっていい訳だ。俺は一人の方がいい、他人からつべこべ言われるのが嫌いだからだ。
それと、正面から堂々と《リベリオンズ》のアジトに乗り込むのも、大好きだ。
自分達のアジトに乗り込まれた憤激と、自分達が何をしでかしたかの恐怖を、一度に味あわせる事ができるからだ。
この突入法は、シングルで活動している者の中では、俺しかやらない。後は皆、消極的なやり方でしか潜入しない。
今回も、門番を軽く蹴散らして、堂々と入口を蹴破った。
「な、何だ! 誰だ貴様!」
「《天狼のアッシュ》だ! 構うな、戦え!」
自動小銃を構えた男達が、次々と現れ、発砲し始めた。だが、男達の前からその目標は、一瞬にしてかき消えた。
次の瞬間、男達の首からは血の花火が上がり、その場に倒れ伏した。残党は、恐れをなして奥へと逃げようと背後を見せた。
人間の一番隙のある瞬間、それは敵に背後を見せた時だ。俺は剣を素早く抜き放ち、逃げようとする男達の背中に剣を突き出した。
一番最初の男から、一番最後の男まで距離は約二メートルちょっと。男達の腹部を完全に、貫き通っていた。
無論、最初剣を抜き放った時に二メートル近くもある訳がない。この剣は、俺の生命力を喰って威力や形状を
変化させる事ができる闘気剣だ。一般にはオーラ・ブレードと呼ばれているが、これにはオーラ・ブレードにない力がある。
俺の生命力を喰う以前に、人の生命力、つまり魂を喰らえば、俺の生命力を喰わないですむ。
通常のオーラ・ブレードにはない能力がある、異質な闘気剣だ。
「さて、と。ここが隠し通路だな」
俺が蹴り破いたのは、見かけは普通の壁に見える隠し通路の入口だ。《リベリオンズ》のアジトは
大体こんな感じで、必ず隠し通路がある。入口の付近にあるのは、襲撃に備えて、とどこかで聞いた事があるが、
俺はそんな事をさせる程時間に余裕のある人間じゃない。
薄暗い隠し通路に足を踏み入れた。ここから先の《リベリオンズ》のやり方は、これもアジトの作り同様、
多数の罠が仕掛けてある。だが、ここのアジトには罠が無かったのか、通路は普通に進めた。
通路の先には、錆びた鉄の扉だった。俺は剣を引き抜き、これも潜入同様扉を蹴り破った。
「お邪魔させてもらうよ」
一言言って、俺は呆然とする男達に飛び込んで行った。武器を手に取る間も無く、一人、また一人息絶えて行く。
と、部屋の奥にあった扉が吹き飛び、凄まじい気配が部屋に広がった。
完全なる、殺気。生きては返さない、と言う気配。そんな空気が部屋に流れ、扉から一人の男が現れた。
「まさか本当に堂々とやって来るとはな。こいつは驚きだ」
その男は、やや痺れを切らしながら言った。
「俺に関する噂は殆どが真実だと思った方がいいぞ」
俺は不適な笑みを男にぶつけ、そう言い放った。男は眉毛をかすかに動かしたが、俺の言葉に対する反応はそれだけだった。
何だ、おもしろくないな。もっと突っかかって来るタイプかと思ってたのに。
「冥土の土産に教えてやろう、俺の名前はルナウ」
「俺は、名乗る必要なんてないだろ? どうせ死ぬんだ、変わりない」
俺の一言で、ルナウは禿頭に血管を浮かび上がらせて向かって来た。手には、少し大きめのガントレット。
そのガントレットの先端には、銃口のような物が見えていた。普通のガントレットではなく、銃器を仕込んだ
ガントレットのようだ。向かって来るルナウを避け、素早く振り向いた。振り向いた先には、
両手を合わせ、銃口をこちらに向けたルナウの姿が目に映った。
「貴様をハチの巣にしてやるわ! 喰らえ、ランブルバレット!」
ガントレットの銃口から、火炎の弾丸が次々と俺を喰らい尽くそうと、空を切って向かって来た。
俺は体を捩って弾丸を避けながら、コートの裾で弾き返して、何とか防ぎきったかと思った。
しかし、弾丸が切れたのかと思いきや、ルナウのジャケットの下にはベルト状の弾が、体中に巻き付けてあった。
くそっ、あれならいつ弾が切れるのか解らない。一気に勝負を仕掛けようと、俺は瞬間的に間合いを詰めた。
だが、ルナウのガントレットから、突然刃が飛び出した。右手のガントレット近くにいた俺は、刃が飛び出した瞬間、
素早くバックステップで後ろに下がっていた。左の肩口が軽く切れ、もう少し避けるのが遅ければ、恐らくは左腕が
ごっそり抉り取られていただろう。
「ほう、俺の間合いから抜け出した奴は初めて見たぜ。よくやるな、小僧」
「偉そうな口を叩くなよ。今までお前の戦ってきた相手が全部弱かったんだろ?」
ルナウの自信を軽く嘲り、人が嫌になりそうな笑みをぶつけて言った。これにはルナウも相当応えたようで、
顔を真っ赤にして向かって来た。
「小僧! 今度こそとどめだ! ブルクラッシャー!」
刃が出たままのガントレットを、ランブルバレットの時と同様に、両手を合わせた。
するとルナウは、回転しながら滞空し、そのままバズーカの弾のように俺に飛び込んで来た。
俺は一撃目を避けたが、その余波は凄まじいものだった。ルナウの通り過ぎた後は、壁も床も抉り取られ、
凄まじい旋風を巻き起こした。
「どうだ、これでは手が出せんだろう! 一気にカタをつけてやるわ!」
二撃目を与えようと、再度俺に向かって来たルナウに俺はわざと背を向けて、部屋から飛び出した。
あの部屋では、狭過ぎて戦えない。俺は勝手にそう決め付けて、屋外に出る事にしたのだ。
隠し通路内をも激しく破壊し、地下への道は完全に崩壊した。すぐさま外に出た俺の頭上を、ルナウは通り過ぎ
上空で旋回していた。
「どうした? 逃げ回っているだけでは勝負にならんぞ!」
「誰が勝負するっつったんだよ。勝手に決め付けるなよ、ハゲ」
先程の嘲りよりも、確実にショックな言葉の暴力をぶかつけた俺に対し、ルナウは完全に堪忍袋の緒が切れたようだ。
まあ、熱くなった相手ほど手玉に取りやすいモンだ。
ルナウは先程よりも、回転率と飛行速度が上がったのか、速い速度で襲い掛かって来た。
俺はぶち壊したアジトの扉をルナウに投げつけ、ルナウの進行方向の軸から逃げた。
ルナウに当たった扉は、いとも簡単に粉砕され、ルナウは地上を抉ってまた旋回を始めた。
――次で、決める。
「おい、ハゲ頭。次が最後だ」
ルナウはもう無言で、俺に向かって来た。高速で飛行するルナウが、俺との間合いを詰めるのは、一瞬。
俺とルナウの間に、煌きが迸った。 俺の剣撃と、ルナウの一撃が交わった瞬間だ。
回転していたルナウが、突如停止し、やがて体が細切れになって行く。
自分が回転しているために、俺が剣を振るうまでもなく、自分自身で体を切り刻む事になったのだ。
そこまで剣の切れ味をよくするには、偏にオーラ・ブレードの力だと言えよう。
だが、今まで喰った魂と、俺の生命力を少し使ったから、今度はルナウの魂分しか余裕がない。
……また、髪の色薄くなったかな?
商売柄、あんまり生命力を使うのは気が進まない。困ったモンだ。
「おい、あんた。もう終わったよ、起きろ」
蓋を開けると、くしゃくしゃになった顔のトーラと対面した。どうやら、俺が依頼を成している間、
ずっと泣いていたらしい。泣く女と、やかましいガキが苦手なのになぁ。
「やって…、くれたのね?」
「ああ、依頼は果たした。報酬はいらん。どうせ見つけて潰す気だったんだからな。
手間が省けただけさ」
俺はそう言いながら、穴に収まったトーラを引きずり出した。相変わらず腰が抜けているらしく、
立つことができないようだ。未だに泣き止まないトーラに、多少うんざりしていた俺は、
もう先に進むことにした。
「ま、待ってよ」
トーラを尻目に去っていく俺に、後ろから声がかけられた。
「私をここに置いていくつもり? せめて町まで運んでよ」
女とは、なんと理不尽な生き物なのだろうか…。これではまるで、俺は使いっぱしりじゃないか…。
俺は色々と言いたいこともあったが、それを全て飲み込み、無言でトーラを背負った。
背負われてもなお、泣き止まないトーラに俺は尽くす手がないと見た。
「じゃあ、ここでお別れだ」
俺はトーラを町まで運び、中心部の宿屋の一室でそう告げた。あれから泣き止むのに大分時間がかかったが、
何とか泣き止んでくれた。時刻は既に深更。トーラはうつらうつらしながら、それにうなづいた。
「あんたは、ここに残って完全復興を目指してくれ。《リベリオンズ》は、俺が壊滅させる」
その最後の言葉を残し、トーラの顔も見ずに扉を閉めた。
宿屋を出て、俺は中央の広場に足が進んでいた。広場の中心にある噴水は、動いていない。
広場を見渡した後、俺は夜空を見上げた。
こんな時代にはそぐわない、星達が輝く満点の夜空だった。
俺の足は、自然と町の出口へと向かっていた。夜空の星達は、それを祝福しているのか。
または、惜しんでいるのか、それはわからない。
ただ言えることは、俺に祝福も惜しみも必要ない。今あるのは《リベリオンズ》を、世界中から
滅亡させると言う、死命だけだ。それまでは、何も必要あるまい。
――星達が煌びやかに輝く満点の星空に、人々は何を思うだろうか。
夜空を見上げつつ、そんなことを思った。
俺は、次の地へと足を進めた。
2005/02/27(Sun)16:59:02 公開 /
1117-0202
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■作者からのメッセージ
続くのかな? 書いた本人も分かりません。
続くのであれば、また書こうと思います。
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作品の感想については、
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の『文庫本的読書モード』。
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