『がんばれユーレイ』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:KR                

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 死んでやる。

 もう、こんなつまらない世の中に生きていたって仕方がない。
 くだらなく笑うクラスメイト。ちっとも面白くない勉強。楽しい事なんか一つも見つけられない学校。こんなものに囲まれて生きてたって、いいことなんか一つもない。
 死んでやる。
 私はちゃんと知っている。保健室の戸棚には、精神安定剤を兼ねた睡眠薬が置いてある。鍵はかかっているけれど、古いからヘアピンでも簡単に開く。
 どこで死のう。
 やっぱり、教室が良い。
 放課後の教室は誰もいない。みんな部活に行ったり、デートに行ったり、遊びに行ったり。家だと家族に邪魔される。それに、家族に死体を見つけさせるのは、悪い気がする。だから、やっぱり教室が良い。
 明日の朝、一番早く来た奴が、私の死体を見つけるんだ。
 教室の自分の席に座って、私はペットボトルの蓋を開ける。これで薬を飲めば良い。どれだけ飲めば死ねるんだろう。解らないから、死ぬまで飲もうか。
 その時だった。
「アナタもユーレイになるの?」
 後ろから声がした。
 私は驚いて振り向いた。
「…誰?」
 見たこともない、同じ制服を着た女子生徒。
「私?アナタの先輩」
 女子生徒は笑って言った。
「アナタと同じようにして、保健室から睡眠薬を持ち出して飲んだの」
 薬を持ち出したことを、知っている?私と同じ?どういう意味だろう。
「ねぇ、アナタもユーレイになるんでしょう?」
「…ユーレイ…?」
 訳が判らなかった。だけど、私はどうでも良くなって、そう言ってきた彼女に答えた。
「そうだよ。私も死ぬ。今から」
 何故かそう言ったところで、この人が私を止めようとするとは思えなかった。
 案の定、その人はこう言った。
「やっぱり!いいよね、ユーレイ!なってみたいって思うよね!」
 ヤケに嬉しそうだった。
「お腹も空かないし、何も欲しくならないし、誰にも文句言われないし。…ただ、友達がいないけど」
「友達なんて生きてたっていないよ。そんなの」
 私は言った。
「そう?」
「そうだよ。みんな自分勝手で、自分のことしか考えてない」
 勝手にグループ分けをして、その中だけで別の人を笑って、外に出たら自分の立場が悪くならない事だけに気を配って、いい顔をして。チャンスを逃せば、もうその中には入れない。
 私はそんな奴らと一緒にいるのが、死ぬほど嫌になったんだ。
「?アナタもそうだったの」
 女生徒が聞いた。
「私?」
 “みんな”自分勝手で…と言うところに引っかかったらしい。
「あぁ、私もそうだったかもしれないね」
 私は答えた。
「だからこうして、家族も何もかも捨てて死のうとしてる」
「家族はいるんだ」
 自称・ユーレイの女生徒が聞いた。
「ねぇ、じゃあ何で学校でユーレイになろうと思ったの?友達いないんでしょ?」
 ユーレイに…とは、自殺しようとした、と言う意味だろう。
「いないよ。だからだよ」
 私は言った。
「嫌がらせにここで死んでやるんだ。クラスのやつらにも先生にも、最期まで大嫌いだったってぶちまけてやる」
 思い出の残る場所でなんか死なない。まだこの世に生き残ってる奴らに、サイアクな思い出を残してやる。それがたとえ誰であっても、死体のあった場所で勉強するのは、さぞかし気分が悪いだろう。
「ふーん。それなら薬より手首切るとか、屋上から飛び降りるとかの方がいいんじゃない?」
 ユーレイはそう言った。
 可愛い顔をして、言う事は残酷だ。私もそれは考えない訳でもなかった。でもやめたのだ。
「やだよ。私は夢を見ながら満足して死ぬの。痛い思いはしたくない。あんただってそうだったんでしょ?」
 彼女は自分で、私と同じようにして死んだ、と言った。どうせ私と同じ事を考えたからだろう。そんなものだ、誰だって。
「うん」
 彼女はこくりと頷き、そして続けた。
「…そうだね、他にもいたよ。そんな人」
「へぇ。じゃあ、あんた友達いるんじゃない」
 ユーレイ仲間か。自殺仲間か。どっちにしろ私の先輩か。
「いないよ」
 ユーレイが言った。
「…みんなユーレイになる前に、私が助けちゃったから」
 言い終わるより早く、ユーレイは私の顔の前に手をかざした。私は何故だか突然、気が遠くなって、そのまま意識を失った。
 ユーレイが言った事も、私には聞こえなかった。
「…私はさ」
 聞こえなかったけど、ユーレイはこう言っていた。
「ずっと昔の時代に、生きてたら売られちゃうからって死んだけど、今の子はみんな贅沢な理由で死にたがるよね。
 友達がいないだなんて、みんな大嫌いだなんて、世界中の人に会ったわけでもないのにさ。贅沢だよ。
 そんな贅沢者のユーレイ、私、友達に欲しくないよ。
 だから、もうちょっと生きてなよ」


「…ユーレイ?」
 目が覚めたのは、気を失ったすぐ後だった。
 ユーレイはもう姿を消していた。
「どこに行ったの?」
 最初からいなかったのだろうか。そう思った時に、私は気付いた。睡眠薬のビンが、一緒になくなっていることを。
「…私を助けたの?」
 聞いても、ユーレイは返事をしてくれなかった。ただ私には、見えないだけで、まだユーレイがすぐ傍にいるような気がした。
「私は…まだ死んじゃいけないの?」
 返事がないのが寂しかった。
 寂しい、そんな感情がまだ自分の中にあったことに私は驚いた。そんな人間らしい感情。生きていなきゃ感じないような感情。
 私は教室を出た。死ぬ気には、もうなれなかった。
 私は気が付かなかったけど、それを見ながらユーレイはこう言っていた。

「がんばれ」



 fin.

2005/02/11(Fri)21:58:40 公開 / KR
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■作者からのメッセージ
高校に入ったばかりの頃,勉強は難しいし,クラスに友達も出来ないしで
暗くなってた時期がありました。
だけど3年後の今,友達と肩を叩き合って大学受験に挑み,来月には卒業式を控えています。
つらいこともあったけど,がんばって良かったな,
素敵な3年間だったな,と胸を張って自慢出来るのです。

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