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『古の彼方(読み切り)』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:蓮華
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見知らぬ道に私はいた。周りを見渡してみても家ばっかりで、これと言って目印になるような建物はない。
太陽はいつの間にか傾き始めていて、空は褐色に染まっていた。
「どうしよう、迷った…。」
夜羽は文字通り途方に暮れていた。
まさか高校生にもなって迷子になるとは思ってもみなかった。人に道を尋ねようと思ったが、時間が悪いのか誰も通りかからない。
どうしてこんな場所にいるのかと言うと、今日は夜羽が小さい頃から買っていた愛犬“レオ”の命日なのだ。
それはもう一年も前のこと。
レオは夜羽を庇って死んでしまった。原因は飲酒運転をしていた中年の男による暴走だった。いつものように決まった道でレオと散歩をしていたら、その車が通路側に突っ込んできたのだ。もしもレオが庇ってくれなかったら先に天国に行っていたのは夜羽だったかもしれない。
気付いた時にはレオは重傷で大量の血を流しながら倒れていた。頭が混乱して状況を把握するのに数分かかった。驚きのあまり涙が出なかったほどだ。
「…レ…オ?」
レオに呼びかけても返事はなかった。
揺すっても何の反応もなく、温かかったレオの体温は徐々に冷たくなってきた。
頭が真っ白になり、呆然とレオの姿を見つめていると中年の男が車から出てきた。顔が真っ赤で一目で酔っているのが分かるくらい酒臭かった。
「何だ?犬か?…死んだのか。」
「……・。」
「こりゃ即死だな。でも良かった良かった。この犬、雑種だろ?慰謝料はいくら払えばいい?」
中年の男は笑いだした。
レオの傍を通りかかっていく人々はただ見てみぬふりをしていた。いや、自分には関係ないと思っているのだろう。
夜羽はまだレオの頭を撫でていた。反応を見せない夜羽に不満を感じたのか、中年の男の声は大きくなっていく。
「全く、面倒臭いことになった。車にこの犬の血が付いちまった。せっかく気持ちよく帰ろうとしていたのに。」
「…貴方は……。」
「あ?」
「貴方は命を何だと思っているのですか?」
その言葉が意外すぎて面白かったのだろう。今度は大声で中年の男は笑いだした。
「命?お前もしかして人様の命とこの雑種と同じ価値だ、とか言うんじゃねぇだろうな?!これだから子供は困るんだ。世の中を知らねぇ。悪いが俺は行くぞ。じゃあな!」
散々言っておきながら中年の男はさっさと立ち去った。
大人、というものはどうしてこんなにも身勝手なのだろうか。事故だったとしても一言くらい謝罪をしてくれてもいいのに。この怒りをどこにぶつけたらいいのだろうか。
「ごめんね、レオ…。守ってあげるって約束したのに。ごめんね…!!」
レオを抱きしめるともう冷たくなっていた。夜羽の服にレオの血が付いてしまったが、今はそんなことはどうでもよかった。
レオは私にとってたった一人の家族だった。両親は離婚してそれぞれ新しい家庭を作る為に邪魔になった夜羽を捨てた。一応お金は振り込んでくれているが、一度も使ったことがない。自分で働いて、大人になんて頼らずに一人で生きていこうと誓ったからだ。
そんなとき、たまたま通りかかった公園でレオと出会った。段ボールの中でうずくまっているレオを見て、その姿が自分と重なって見えたので思わず拾ってしまった。
レオといる時はとっても楽しくって。一生守ってあげようと思ったのに。
「大人になんかなりたくないよ…レオ、置いていかないで…。」
レオが死んだ、という実感が生まれたのはその後家に帰った時だった。
静まり返った家がこんなにも辛いものだと言うことを思いだしたからだ。
それでも生きている私には月日が流れていく。まるで何事もなかったかのように。何時までも落ち込んでばかりではいられないのでレオを忘れる為に今以上に必死に働いた。やっと心が落ち着いた時にはあの事故から1年も経っていた。今日はレオの命日なので、レオに逢いに行こうとしたのだけれど…。
「まさか道に迷うとは…。1年ぶりだから雰囲気も変わったから仕方ないか。」
夜羽は溜め息をし、ふと空を見上げてみると目の前に綺麗な蝶々が飛んでいた。
見たこともない真っ白な蝶。だけど太陽の光に反射してキラキラと輝いていて綺麗だった。
「変わった蝶だなぁ。」
手を伸ばして捕まえようとしても上手に逃げてゆく。遊びに飽きたのか蝶々はどこかへ飛んでいこうとした。
しかし少し進んで、止まった。蝶々はこちらを伺うように見つめている。
「…付いてこいってこと?」
蝶々はただ伺っているだけだった。不思議に思いながら夜羽は一歩前に進むとまた蝶々は飛んでいく。
しばらく蝶々の後を付いていくと、あることに気が付いた。
「ここって、レオと散歩していた道…?!」
すると蝶々はスピードを上げた。夜羽も蝶々に付いていこうと後を追いかけた。
歩くにつれ繊細に思いだすレオとの日々。そしてあの事故。いつの間にか夜羽はあの事故現場にいた。追いかけているうちに着いてしまったのだろう。
「そう言えば!あの蝶々…!!」
周りを見渡してみても、もう蝶々の姿はどこにも見当たらなかった。
夜羽の瞳から一筋の涙が流れた。
「有り難う、レオ…。いつも見守ってくれてたんだね…。」
真っ白の蝶々は空へと消えていった。
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2005/02/05(Sat)16:39:32 公開 / 蓮華
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■作者からのメッセージ
久しぶりに書いた小説です。
この物語は普段、ふと道を歩いていて閃いた作品なのです。
こんな大人が実際にいて、こんなことが日常茶飯事に行われている。
何かこの小説を通じて思ったことや感じたことを感想として書いて下されば嬉しいです。
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