『ファントムファング0〜5』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:まじですか
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「ファントム・ファング」
〜序章〜
世界には現代科学では解き明かせない特殊な力を持った子供がいる。その力はファントムと呼ばれる怪物を倒せる唯一のものである。ファントムを倒さない限り人々が地上に住める日はやってこない。そのため、能力を持って産まれてきた子供は「ファントム対策組織」通称FAGという組織に預けられ、ファントムとの戦いに備えて20歳になり能力が消えるまで育てられるのだ。その地上での戦いで命を落とす者も少なくは無い……。その子供達のことをFAGにちなみファングチルドレンと呼ぶ。
僕の名前はシンジ。生まれつき首にタトゥーがある。これはファングチルドレン(以下ファング)である証で、本当ならFAGの施設に入れられているはずなんだけど、僕はそこにいることを拒否し、逃げ出してしまった。
「もうこの町にもいられないよ…もう外に出るしかないんじゃない?」
この子は僕と一緒に逃げ出してきた女の子で、名前はサクヤ。
「うん、それしかないと思う。サクヤの力があればファントムだって怖くない」
「そういえばシンジはなんで能力を使わないの?」
「それは……使わないんじゃなくて、使えないんだ」
「え?」
「一度、訓練で使ったんだ。だけど、そんな力が僕のなかにあると思うと怖くて…。そう思っていたらいつのまにか使えなくなって…」
「そうだったんだ」
「僕は役立たずだから分かるけど、君はなんで一緒に逃げてきたの?」
「私は…悲しい思いをしたくなかった……それだけ」
「そぅ…」
僕はなにを言ってあげればいいのか分からなかった。ただ分かったことはサクヤの過去に何かあったことだ。深く追求しようとも思わなかった。
「それじゃあ行こうか?」
「そうだね」
サクヤは笑顔で答えた。
地上にでるといっても簡単な事では無い。そこまで警備は厳重ではないけれど、見つかったらその場で殺されてしまう。地上に出るというのはこの世界では一番重い罪だからだ。「警備員は4人くらいだね。サクヤの力でなんとかなる?」
サクヤの能力はどんな相手にたいしても脳神経を麻痺させることができるというもの。つまり軽くやれば混乱状態にできるということだ。
「うん。大丈夫」
そういうとサクヤは両手を前に出し、目をつぶった。すると地上への扉を警備していた人が4人ともフラフラといろんな方向へ歩きだした。
「今よ!」
僕とサクヤは警備員の首からIDカードを奪い取り、扉へ急いだ。IDを入力して扉を開けるとそこにはエレベーターがあった。乗り込もうとした時
「なにをしている!!」
と叫ぶ声が聞こえ、銃声がなった。すると同時にサクヤが倒れ込んだ。
「サクヤ! 大丈夫!?」
僕はかけよりサクヤを抱き起こしすぐにエレベーターに乗り、扉を閉めた。
「どこ撃たれたの?」
「足をちょっとね…。でもたいした事ないから」
とあきらかに強がっている笑い顔を見せながらサクヤは言った。
「あんまキレイじゃないけど我慢して」
僕は持っていたハンカチをとりだしサクヤの足にまいた。
「ありがと」
「ごめん…僕の能力が使えたらサクヤにこんな思いはさせなかったかもしれないのに」
僕は自分のなさけなさに腹が立った。
「これくらいの事は地上にでるって決めたときから決心はついてるよ。それにシンジが力を使えない理由もわかってるから」
そういってサクヤは寝てしまった。意識を失ったのかもしれない…。僕はこれからの事の不安で胸がつぶれそうだった。エレベーターは静かに、けれど確かに地上に向かって進んでいた。 序章 終
〜地上編1(新たなる一歩)〜
扉が開いて視界に入ってきたのは人の住めるような場所ではなかった。雰囲気は僕たちの住んでいた町と似てはいるが、ビルは倒れ、地面は裂け、民家はほとんどつぶれてしまっている。
「これは…ひどいね…」
サクヤがあっけにとられたように町の残骸を見ている。
「そうだね……」
僕もここまでひどい場所だとは思っていなかった。
「これからどうするの?なにか考えとかある? 」
「ぅ〜ん、とりあえず地上にでればFAGの追っ手は来ないとしか考えてなかったんだよ」地上にでればなんとかなる。しばらくしたらFAGも忘れてしまうだろう。そしたら二人で戻る。そんな甘い考えだった…けれど、この光景を目にしてしまってはそれがどんなに難しいことか想像もつかなかった。
「私もそれぐらいにしか考えてなかった……それにここにはファントムもいる……」
「とりあえずサクヤの怪我が治るまではファントムとは絶対にあわないようにしないと」「ゴメン…」
サクヤの表情は暗く沈んでいた。ここで励ましてもつらいだけだと思い、僕はなにも言わなかった。
「とりあえず住めそうなところをさがそうよ。とりあえずそれから考えよう」
「うん」
サクヤの腕を片方肩にかけてゆっくりと歩き出した。前途多難だ……。
「結構住めそうな家は残ってるね。」僕は少し希望に満ちた声でサクヤに話しかけた。
「そうだね」
サクヤにも笑みが少しもどった気もする。
「ここなんてどう? 外からは中が見えないし、崩れそうも無い」
「うん。地下への扉からもそんなに離れてないし、いいかもっ」
僕たちが見つけたのは一階建ての一軒家で窓が少ないので外からも見えにくく、そのためなのかまだしっかりと建っている。ファントムが視覚で敵を察知するのかは分からないが最低限の備えだと思う。
「中に入ってみよう」
中はホコリだらけだったがコンクリートで出来ているため基本的にはそれほど荒れてもいない。家具は……
「ねぇシンジ、なんで机とかこんな綺麗なのかな? 」
「あ、ホントだ。ホコリはかぶってるけど、何年も前の物とは思えない」
どこも壊れていないのだ。よく見れば床なども何年も住んでいなかったとは思えないくらいに。
「だれか最近まで住んでたんじゃないかな? 」
サクヤが少しおびえつつ聞いてきた。
「そんな事ってある? だってここはファントムが出てくるんだよ? それに対抗できると言ったら……」
『ファング!? 』
喜びとも不安ともつかないような声で言った。
「ファングがここに住んでたのかもしれない。それにたぶんそのファングはFAGに所属していないと思う」
「ということは私達と同じで抜け出してきたってこと? 」
「たぶん。だけどこのホコリのつもり具合は一日とかそこらじゃない」
「やっぱりもぅ……」
「そうかもね……ファングと言ったって僕たちと同じ子供なんだから……」
僕たちは重い空気の中黙り込んでしまった。少し希望が見えたと思ったが、すぐにその希望は消えてしまったのだからしかたない。そのとき外で物音がした。
「な、なに!? 」
「外で何か音がした」
「もしかして……ファング!? 」
サクヤがドアを開けた。これで仲間が増えて、住む所も、食べる物のある場所も教えてもらえるかもしれない。しかし、そんなに現実は甘いものではなかった。
「きゃっ!! 」
「サクヤ!! 」
外には体長役2メートル、体はまるで映画のエイリアンのようで、背中には羽が生えていた。ファントムだ!そいつにサクヤは吹き飛ばされて壁の所に倒れている。足をけがしているせいか動けないでいる。
「サクヤ!大丈夫!?」
僕はかけよった。サクヤは喋る事さえ辛そうだ。この状況をどうやって切り抜ければいいのか………。 地上編1 終
〜地上編2(新しい光)〜
サクヤはもう動けそうにない…。僕は能力を使えない。最低だ…。このまま死ぬしかないのだろうか。目の前には僕の投げた石が顔面にクリーンヒットしひるんでいるファントムがいる。僕の頭は真っ白だ…。ただ僕が連れ出してしまったサクヤを守りたい、サクヤだけでも逃がしてあげたかった。もしかしたらそう思って自分を落ち着かせているだけかもしれない……ファントムが体勢を立て直しこちらに向かってきた。もうあきらめるしかないのだろうか。………死にたくない、死なせたくない、死にたくない、死なせたくない…
「死にたくない!!!!」
そう叫んだ瞬間、僕のまわりのサクヤ以外の物が凄まじい音と共に消え去ってしまった。ファントムもいない……なんなんだ…なにが起きたんだろう。いや、そんなことより
「サクヤ! サクヤ!」
僕は必死にサクヤを読んだ。
「ぅぅん、シンジ…?……!! ファントムは?!」
「よかった、生きてたんだね」
とりあえず一安心だ。
「それが、消えたんだ」
「消えた? なんで?」
「よくわからない。周りの物と一緒にどこかへ消えてしまったんだ。」
「ほんとだ……無くなってる」
まるでそこに隕石が落ちてきたかのようにくぼんでしまっている。何が起きたのかまったく分からず、僕とサクヤはしばらくの間その場に立ち尽くしてしまった。
「ふぇ〜すごい威力デスね〜」
という声が後ろでしたかと思うとその声のぬしは僕たちの目の前に姿を現した。肩までの髪の毛は金色で、頭に小さめのヘルメットをかぶっている。服は動きやすそうな…そうFAGの戦闘服だ!
「き、君はFAGの子なのかい?」
僕はなによりも先にそれを聞いた。
「そうデスよ〜アメリカ支部から日本支部に移ってきましたデス」
「じゃぁ、もしかしてさっきのファントムを消してくれたのも君?」
外人の子はしばらく悩んだ末
「詳しい話は後にしないデスか? ここにいるとさっきの音でファントムが寄ってくるかもデス」
サクヤも
「うん、そうした方がいいかもね」
と言ったので聞きたいことはあるがひとまずこの子について行くことにした。ーーーしばらく歩いたが、どこもやはり壊れていて人の住めるような場所ではないことを実感した。すると
「ここデス」
「ここが隠れ家?」
そこはさっき見つけた家よりもしっかりしてはいなかったが、ちゃんと原型はとどめていた。
「そうデス。まぁ〜とりあえずなかに入るデス」
中にはほとんど何も無いが、かたずけられていてそれなりにキレイだった。まず僕はサクヤを壁にもたれかけさせた。
「サクヤ大丈夫? さっきので結構くらったんじゃない?」
サクヤは微笑みながら
「ううん、平気。壁に飛ばされた時にちょっと背中うっただけだから」
と答えた。たぶん僕に心配させまいと気を使っているだけで本当は苦しいに違いない…。
「ごめん…」
「え? 何か言った?」
「いや、なんでもない。サクヤはゆっくり休んでてよ。僕はあの子と話してるから」
「うん。ありがとう」
そういってサクヤから外人の子に視線を向けた。
「ねぇ君? さっきのことなんだけど」
「アリス」
「え?」
「あたしの名前デ〜ス」
「あ、僕はシンジ、そしてあそこで寝てる子がサクヤ」
「ヨロシクデス」
「うん、よろしく」
なんかアリスはテンポが普通の人とは違う気がする。
「で、アリス、話してくれないかな」
「OKデスよ〜」
僕とアリスは床に置いてあった木箱に腰掛けて話はじめた。
「なにから聞きたいんデスか?」
「まず、さっきのファントムが消えたやつはアリスがやったの?」
「やっぱり…気付いてないんデスね」
アリスは少し驚いたような顔で言った。続けて
「さっきファントムを消したのはあなたデス」
「え!?」
「僕が消したってどうゆうこと?」
そんな答えが返ってくるとは全く予想していなかった。
「僕はてっきりアリスが倒してくれたのかと…」
「それはデスね〜……つまり……なんて言ったらいいのか……シンジのぉ潜在能力がデスね……勝手に? というか無意識のうちに発動してしまったんデスよ」
アリスは自分で納得してうなずいているが、僕にはあまりわからない。ただ「能力」といっていたから…
「もしかして僕の能力を知らないうちに使ってしまった、ってことなの?」
「そうデス! シィンジが最初にファントムが消えたのはなぜかと聞いて来た時に思ったんですが、やっぱりシィンジは自分の能力を知らないんデスね?」
シィンジとは僕のことのようだ。
「知らないんじゃないんだ…ちょっと理由があって使えなくて…」
「一回も無いんデスか?」
「あるよ。一回だけ、訓練で」
「何の能力だった?」
「重力…」
アリスは確信を持った顔で
「やっぱりそうデシたか」
と言った。
「やっぱりって…重力は消すなんてことはできないだろ? というか僕は能力をその時以来使えなくなってるんだよ!?」
もう分からないことだらけだ。
「ファントムを消すほどの威力がある能力を使えるファングなんていないデスよ。だけどシィンジは今まで能力を使わなかった。そのせいでエネルギィーが貯まっていたのかもしれないデスね。だからあの時サクヤちゃんを守りたい一心で解放したときに爆発してしまった、ということだと思うんデス」
「そんな…僕はそんな力を……恐い……恐いよ……」
「なんで恐いんデスか? すごいじゃないデスか」
「すごい? なんでだよ!? この能力を間違って人にでも使ったりしたらどうるんだよ!」
僕はこんなに感情的になったのは初めてだ。
「そういうことですか。シィンジは訓練の時に自分の能力を知ってからそれが恐くて使えなかった。そしたらいつの間にか使おうと思ったときにも使えなくなってしまったんデスね?」
僕は黙ってうなずく。
「でも、今はそんなこと言ってる場合じゃないんデスよ。そんなことだとサクヤちゃんを守りきれないデスよ?」
「それは分かってるよ! だけど…さっきだってどうやって使ったか分からないし、もしかしたらサクヤも巻き込んでたかもしれない。そう考えると」
アリスが言葉をさえぎる。
「それはシィンジがコントロールできないからデスよ。それにたぶんもうシィンジは能力を使えるようになってるはずデス」
そういうとアリスは立ち上がり少し離れた所に石を置いた。
「ココに置いた石に集中するデス。そうしてから頭でこの石をどうするか、まぁシィンジは重力デスから、この石を重くする程度に考えればいいと思いマス」
「そんな、無理だよ」
「イ! イ! カ! ラ! ヤ! レ! デス!」
「はぃ…」
僕はアリスの迫力に負け、おずおずと立ち上がり石のほうに向き直った。そうして言われた通りに石を見つめ、気持ちを集中させた。
「そこで想像するデス!」
石を重くする、石を重くする、石を重くする!……すると石にヒビが入った。
「つぶれる所を想像するデス! それと同時に床を壊さないことも考えるデス!」
………………!! パァンッという音と共に床に置いてあった石が粉々になった。
「ほぉ〜ら、やっぱり出来たデス♪ まぁやっぱりもうちょっと修行が必要デスけどね〜」
そう言って石が置いてあった床を指差す。そこには床のコンクリートが砕け、下の土が見えていた。そうだね、と僕は力なく返事した。
「嬉しくないんですか? これで能力が使えるようになったし、コントロールも出来るってことが分かったんデスよ?」
アリスは不思議そうに僕の顔を覗き込んで来た。
「いや、ちょっと疲れただけ……」
そのまま僕は倒れ込んでしまった。アリスは「おやすみデス。」と言って僕を横にし、毛布をかけてくれた。 地上編2 終
〜地上編3(新たな遭遇)〜
「くっ! 力がゆうことを聞かないっ!!」
目の前で次々と周りの物が壊れていく。
「サクヤ!! 逃げるんだ!! 逃げてくれ!!」
サクヤとアリスがその場に座りこんで動けないでいる。
「や、やめろ!! 止まってくれ!! お願いだよ!!」
僕から出る重力がサクヤ達に襲いかかった。
『やめろぉーーー!!!!』
「WHAT!?」
「きゃっ!」
アリスとサクヤが驚きと心配のまなざしでこちらを見ている。
「どうしたの? シンジ」
「なにをやめればいいんデスか?」
「え? あ、ゴメン。ちょっと変な夢見ちゃって」
僕の額からは汗が滝の様に流れ出していた。夢で良かった。
「変な夢デスかぁ。それは今サクヤちゃんの能力訓練をしていたからかもしれないデスね。サクヤちゃんの能力は電波で相手の脳に直接影響を与えるものデスから、ちょっとシィンジにも影響がでちゃったのかもってことデス」
「え? そうなの? ごめんシンジ」
サクヤが申し訳なさそうな顔でこっちを見ている。
「いや、気にしないで。どうせ夢なんだし」
僕は笑って答えた。しかし、僕の手は震えていた…。
「それよりサクヤ、怪我の具合はどうなの?」
「うん、だいぶ良くなったよ。アリスが手当てしてくれたの」
アリスの方を向いた。
「そうデス♪ あたしは医療技術の心得も多少もってるデス」
多少で大丈夫なのかと思ったがサクヤは本当に調子が良さそうにしているので心配は無いようだ。
「私のことより、シンジ! 能力が使えるようになったらしいじゃない!? やったね!」
サクヤはきらきらした目で僕の方に笑顔を見せた。
「うん、まだ全然コントロールできないんだけどね」
と力なく笑った。
「理由もアリスから聞いたの…。絶対、絶対大丈夫! シンジなら絶対にうまく使えるよ。私はそう信じてるから」
「ありがとう……」
僕は心の奥が熱くなるのを感じた。
「シィンジは顔に出るタイプなんデスね〜。顔が真っ赤デス」
アリスが笑いながら言った。 カラ…
「なにか音がした」
サクヤが顔をこわばらせていった。確かに石を転がしたような音が聞こえた。僕はドアに集中して体をかまえた。
「ここは先制攻撃で行くデス」
と、アリスが指を三本立てた。そして一本ずつ折り曲げ………ゼロ! 僕とアリスはドアを思いっきり開けて外に飛び出した。アリスが先頭で僕が後だ。僕は気持ちをファントムに集中……? ファントムじゃ…ない!人だ…。
「なんだ、おまえか。」
僕たちがファントムと勘違いしてしまった人がそう言った。
「なぁんだ、リュウじゃないデスかぁ〜。紛らわしいことしてるんじゃないデスよ!」
「スマン、中におまえ以外の気配がしたもんだから」
と言って僕の方を向いた。
「驚かせてしまって悪かった。俺はリュウ。見ての通りファングチルドレンだ。」
首には確かに僕たちと同じタトゥーがあった。
「こっちこそ勝手に上がり込んでしまって……僕はシンジ」
「私はサクヤ」
「あたしはアリスデス♪」
「いや、お前は知ってる」
ツッコミが入る。
「アリスとリュウ君はどういう関係なの?」
サクヤが聞いた。
「それはデスね、シィンジ達と同じようなものデス」
「え? じゃあ二人もFAGにいるのがイヤで逃げて来たの?」
するとアリスとリュウが驚いた顔で僕を見て来た。
「そうだったんデスか!? あたしはてっきり」
リュウがアリスの言葉をさえぎる。
「話が長くなりそうだ。立ち話も何だし建物の中にいったん戻ろう」
僕たちは飛び出てきたばかりの家に戻った。4人とも座り一段落ついたところで話を切り出すことにした。 地上編3 終
〜地上編4(新たなる真実)〜
僕の隣にはサクヤ、前にはアリス、アリスの横にリュウが座っている。
「とりあえずさっきの事を聞く前にリュウについてもっと知りたいんだけど…」
リュウはふと気付いたように
「それもそうだな」
と小さいが重みのある声で言う。
「さっきも言ったが俺の名前はリュウ、そしてファングだ。歳は18。能力は『刀』とでも言っておこうか。詳しいことは実践で見てくれ。」
確かにリュウは背中に刀を背負っている。たぶんただ刀を使うだけではないんだろう。「ちなみに私は15デス。リュウはえらそうな口調だけどとってもいいやつデスよ♪」
「これは…しかたがないだろう!」
リュウの弱点はアリスのようだ、という事も分かった。
「そういえばアリスの能力はなんなの?」
サクヤが興味ありげに聞く。
「あたしデスか? あたしのはみんなのとはちょっと違うんデス。ずばり『獣化』デス!」
『獣化!?』
サクヤとかぶった。
「そうデス。獣化を戦闘時に使うことによってPOWERやSPEEDが格段に上がるんデスよ!」
なんか使っている時のことを考えると恐い気もするが、そういう能力も使えれば便利だ。特にアリスは元気がありあまっているから体術系の方がいいんだろう。
「そ、そうなんだ」
サクヤも同じような事を考えていたんだろうか、顔が少し引きつっている。ここで本題を切り出すことにした。
「で、さっきの事なんだけど…アリスとリュウは逃げて来たんじゃないとすればいったいなんのために地上に来たの?」
少し沈黙が続いたが
「君たち二人はなんでFAGに入るのがイヤなんだ? なんで逃げたりなんかした?」
リュウだ。
「それは…」
と僕が答えようとするとアリスがさえぎってきた。
「それはいいんデス」
アリスが真面目な顔をしていたせいかリュウは何も聞かずにとうなずき話を進めた。
「俺とアリスが地上にいる理由は……FAGの本当の姿を知ってしまったからだ」
「本当の姿って何? FAGは地上のファントムを倒すために私たちファングチルドレンを育成する機関じゃないの?」
「それが本当の目的ではないみたいなのデス…」
「だから本当の目的っていったいなんなの?」
サクヤが急かす。
「FAGの本当の目的、それはファングチルドレンの監禁だ」
「!?」
リュウの口からまったく予想していなかった答えが出たせいなのかサクヤは驚きのあまり言葉を失っているという感じだ。僕も同じような状況だが、逆に疑問点が多過ぎて何から聞いていいのかすら分からない。とりあえず1つずつ聞いて行く事にした。
「な、なんで…なんで僕たちファングを監禁する必要があるの?」
うまく喋れない。
「ファングチルドレンが邪魔なんだよ。俺たちがいるとファントムを倒してしまうから地上に行かせないために地下で監禁しているんだ。実際に地上でファントムと戦っているファングなんて見たことが無い。監禁して20歳になり能力が消えたら家に返せばいいだけのことだ」
アリスが続けて説明する。
「なんで邪魔かと言うとデスね、地上にいるファントムはFAGが昔行っていた生物実験に失敗して生まれて来てしまった怪物なんデス。FAGはこのままファントムが暴れてくれれば証拠も消えてしまい地下で何も無かったかのようにできる、と思ったんデス。BUT、生物実験の影響は人体にも及ぼされていたのデス。その影響が何かわかりマスか?」
「もしかして、その人達から生まれてきたのが僕たちファングなの!?」
「その通りデス。そのファングの能力は個々に違うとしてもファントムを倒すには十分だったんデス」
今度はリュウが言う。
「ここまで言えばだいたい分かるだろう? ファングを地上に送り込めばファントムを倒せる、という希望を引き受けたのが黒幕のFAGだ。そうして今に至っている」
「そんな…」
サクヤはそのままうつむいてしまった。
「なんでそんな事二人は知ってるんだい?」
「それがあたし達が地上にいる理由デス」
「そう、俺たちはFAGの事を不審に思いいろいろ調べたんだ。そうしているうちに絶対に見てはいけない書類を見てしまった」
「さっき話してくれたことが書いてあったんだね」
リュウはそうだと言ってうなずく。
「だけど調べていることがFAGにバレてしまったんデス。捕まったらTHE ENDだと思いあたしとリュウは地上まで逃げて来たんデス。逃げて来たってことに関してはシィンジ達とは変わりませんね」
知るはずも無かった真相を知り頭が変になりそうだ。地下の人が唯一頼りにしていた物が実は地下の人達をだましていただなんて信じたくても信じられないような事だ。それにそのために生まれたばかりの子供を親から引き離すなんて……?…ふと気付くとサクヤが泣いていた。
「どうしたデスかサクヤ。どこかまだ痛いですか?」
アリスが心配して聞く。
「ううん…違うの…私ね…実はFAGにいた時ファントム対策の方面じゃなくて…FAGに反対する人達を鎮圧する役目だったの…」
そうだったのか。だからサクヤには逃げ出す直前まで会えなかったんだ。
「そして、いつものように任務している時にちょっと加減を間違えてしまったの…。そうしたら私の能力をかけた人がその場に倒れて…そのまま……。私は人を殺めてしまった…苦しくて、辛くて、悲しくて…私もうそんな気持ち味わいたくなかったから…シンジと一緒に逃げてきたの。そのことを思い出したんだけど…そんな自分勝手な事で地下の人達をだましているなら私はFAGを許せない!」
アリスがそばに行きサクヤを抱きしめた。サクヤにそんな過去があったのはまったく知らなかった。サクヤは僕の心配していたことを本当にやってしまっていた、なのにサクヤは今までそんなそぶりもみせずに僕の能力を怖がって使えない気持ちを分かってくれていた。僕はサクヤの心の強さをかいま見た気がした。
「今日はここまでにしないか? だいぶ暗くなってきたし、シンジとサクヤは体も精神も疲れきっているだろうしな。質問があるならまた明日聞く」
考えてみれば今日はいろいろなことがありすぎた。地下からの脱出、ファントムとの戦闘、新しい仲間達、能力の覚醒、そしてFAGの真実、本当に体も心もボロボロで疲れきっている。僕は座っていた場所でそのまま眠りに落ちて行った。 地上編4 終
〜地上編5(新たな決意)〜
朝、あまりいい目覚めとは言えなかった。誰かが毛布をかけてくれたおかげで寒くはなかったが、床で寝たせいか少し体が痛いからだ。
「あ、おはようシンジ」
「おはようサクヤ」
サクヤは昨夜とは違い明るい表情をしていて少し安心した。
「よく休めたデスか?」
「うん。まだ体が痛いけどだいぶ疲れがとれたよ」
「それは良かったデ〜ス♪」
相変わらずアリスは元気だ。
「さて、朝の挨拶はそれくらいでいいか?」
リュウも相変わらず無愛想だ。
「これからどうするかを話したいんだが、シンジとサクヤは何あるか?」
僕はこれからのことなんて一度も考えていない。地下から逃げ出すときはそこにいると捕まるのでとりあえず地上に行こうという感じだったし、地上に来てみてからもあまりにいろいろありすぎて先のことなんて考えていられなかったからだ。どうしたらいいんだろうか…僕はサクヤの方を見た。するとサクヤは微笑み、その後なにかを決意したかのような顔でうなずいた。
「サクヤ……いいんだね?」
サクヤはもう一度うなずく。そして僕はリュウの方に向き直り言った。
「アリス、リュウ、僕とサクヤは……FAGを倒しに行くよ!」
「倒す!? あんな大きな機関相手にか? そもそもどうやって倒すって言うんだ。」リュウは驚いた口調で聞いてきた。
「もちろん倒すって言っても、例の書類を取ってくる程度だよ。そして地下の人達に本当のことを教えるんだ!」
「ということはもう一度地下に戻るんデスよね? それでは今のシィンジの能力じゃ力不足デス」
アリスは心配そうな顔をしている。
「それは分かってるよアリス。もちろん今すぐじゃなくてもう少しここで特訓してから行く」
ドンッ。僕の言葉をさえぎるようにして外で大きな物音と震動がした。
「まったく、真剣な話をしているときに表れるなんて非常識な奴らだ」
リュウは不機嫌な顔をしてドアを開けて外へ走って行った。
「そうデスね〜。まぁ悪役なんてそんなもんデ〜ス」
アリスもリュウに続き出て行った。
「シンジ、行こう。」
サクヤは恐れている顔ではなかった。この数日で精神が強くなったのだろう。
「うん、足手まといにならないように頑張ろう!」
僕とサクヤはうなずき合い、外へ向かった。
外ではファントムとリュウ達が戦っていた。アリスは人間とは思えないほどのスピードで相手の周辺を動きまわり、光をおびた手や足で攻撃をしかけている。想像していた獣化とは全然違い見た目の変化はほとんどなかった。リュウも背中に背負っていた刀を抜きファントムの攻撃に対して応戦している。ただ、能力らしきものを使っているわけではなさそうだ。リュウがこっちにむかって叫んだ。
「シンジ達は遠くから援護を頼む!」
僕は分かったと叫び返し、サクヤと援護にまわった。サクヤは人差し指と中指をくっつけた状態で伸ばしたかと思うと、その二本の指の周りに何か青白いものがバチバチと音をたてて渦巻いている。
「サクヤそれってもしかして、電気?」
「そうだよ。アリスと練習してたって言ったでしょ♪」
と言うと腕を上にかざし、そしてファントムの方へとすばやく振り下ろした。するとサクヤの指先から電気が螺旋を描きながらファントムに命中した。ファントムは声をあげてひるんだ。
「サクヤナイスデ〜ス!」
アリスはグッドサインを送るとすぐに懐へ飛び込み、両手を大きく引いたかと思うとそれをものすごい速さで前に突き出した。ファントムは「く」の字に曲がり、あまりの衝撃たえられず後方に5mほど下がった。あれは中国武術の双撞掌というものだ。そして僕も集中すべく目を閉じ、右手を広げて能力をくらわせたい相手の方にむけて出した。
「気持ちを相手に集中してイメージする。気持ちを集中…イメージ…集中……行くぞ!」僕は気合いとともに目を開け、手に力を入れた。その直後ファントムはまるで何かに乗られているかのように動きが鈍くなった。僕は心の中でやったと叫びつつもさらに力を入れた。
「リュウ、ファントムは動けない! 攻撃して!」
その声に反応したのかリュウが刀を大きく振り上げ大きくジャンプした。すると、それを見計らったかのようにアリスがジャンプしたリュウの下に潜りこみ両手を地面について足と足をくっつけ思いっきり上に蹴り上げた。リュウはちょうど身動きがとれないファントムの真上にきて刀にボソっとなにかつぶやくと、刀はそれに応じたかのように光りだした。それと同時に落下速度が急に速くなりリュウは振り上げた刀をファントムの顔面めがけて振り下ろした。
「はぁぁぁあぁぁっ!!!」
ファントムを刀が裂く音と同時に降りてきた衝撃で砂煙が舞い上がった。みんな警戒しつつ近づいていこうとした時、砂煙の中からリュウが出てきた。
「ついて行ってやる」
「え?」
僕はいきなり言われた言葉を理解出来なかった。
「だからぁ、リュウはシィンジ達と一緒に地下に行ってあげるって行ってるんデスよ。もちろんあたしも♪」
アリスは満面の笑みで言った。
「お前達だけでは心もとないし、それに俺達もいつかは行こうと思っていた。シンジ達のおかげで決心がついたよ」
リュウも微笑んでいるように見えた気がする。
「ありがとうアリス、リュウ。心強い味方が出来たね、シンジ」
「そうだね。リュウ、アリス、改めてよろしく!」
「こちらこそデ〜ス♪」
「よろしく頼む」
そう言って僕たちは固い握手をした。 地上編5 終
2005/01/30(Sun)14:11:18 公開 /
まじですか
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