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『心の隅っこ。』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:千夏
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「また明日。気を付けて帰ろよ」
「ええ。弘明もね」
そうして僕らは隣同士の、俺は青い屋根の家、和希は赤い屋根の家へと歩いて行った。気を付けて、と言っても目の前にあるこの家なのだから、気を付けるほうが難しいくらいだ。ただなんとなく俺は言ってしまって、和希もそれを突っ込まないだけなのだ。たった、それだけのこと。
和希は、名前は男っぽいが見た目は女らしかった。女らしいと言っても、五つも年下なわけで、一人の女としては見ていない。親同士が昔から仲が良くて、俺たちはずっと兄と妹の様に育って来たのだ。今更和希に好きだとか言われても、俺は応えられない。あくまで俺にとっては、妹なのだから。和希も分かって俺と接しているはずである。
「弘明」
和希が真顔で言った。今は夏休みに入ったところなので、毎日が休日である。和希は白いワンピースを着ていて、少し子供っぽかったけれどしっかりと女の人だった。俺ももう年だなあと思いふけりながらも、こちらを見続けている和希に返事を返した。
「おう和希」
左手を少し挙げた。
和希は笑わない子である。一時期登校拒否になって、小学六年生から登校を拒否した。理由は、勉強がつまらない、と言ったという噂。本当のところは和希の親バカな和代ママにしか知らされていないらしい。
中学時代は一年しか行っていない。受験が辛いであろう中学三年だけは来たのだ。俺はいつも通り学校――俺は大学生だった――へ行こうと外へ出たら、和希の制服姿が見えたので驚いたのを覚えている。よくあの時間丁度に出たなあと今は思う。俺は和希に声をかけ、返された言葉は今でも覚えている。そう、和希らしい言葉だった。――和希、学校行けるようになったのか―― ――ええ。受験があるから。弘明、気を付けて行ってらっしゃい――。何事も無かったかのように言われたその時は、少し和希に怒りを感じた。ずっと心配していたのに、この心配は何だったのかと。けれど今思うとそんな感情馬鹿ばかしい。和希ほど難しい心を持った少女なんてそういないだろう。笑顔もたまにしか見せない、言葉遣いはまるでお嬢様、こんな和希と普通に話せというほうが無理だろう。まあ普通に話せているかは別として。そこで俺は考えた。すぐに答えは出た。結果、和希は本当はクラスの子と馴染めていなかったのだろう、と。
「ああゴメン。少しボーっとしてたな」
「そうね」
和希は突っ込まない。きっとこのまま俺がボーっとしていたら、ずっとこのままだっただろう。
「何を考えていたの」
下を向きながら言った。どうやらアリを見ているらしい。
「尊い命だよなあ。俺アリに生まれなくて良かった。和希と、会話できないもんな」
「人の話聞いてない」
全く、その通りだ。何を言っているんだ俺は。
「いや、和希今アリ踏もうとしただろ。ああ、さっきはある物語を思い出していたんだ」
「どんな」
アリから俺の目へと視線を移し、少し上目遣いで俺を見上げた。色素の薄い瞳は、とても綺麗だなと思った。
「昔、この辺に気難しい姫がいた…」
――姫は誰よりも繊細にできた心を持っていた。とても薄いガラスでできたような、ね。ある日姫は自分が他とは違うことに気が付いた。自分はこの国の姫なのだと。周りに友達のような存在はいなくて、唯一少し年の離れた剣士が姫と話しをしてくれた。姫はこの剣士になら話してもいい、と決心し、小さな声でゆっくりと話し始めた。私はみんなとは違うの、貴方もそう思いますかって。そしたら剣士は姫の頭をそーっと撫でて、真っ直ぐ茶色の瞳を見て言った。姫は、他が持っているものは持っていないかもしれないけれど、僕にはそれが羨ましいです、姫は個性豊かな証拠です、ってね。剣士は姫にそれからもずっと優しく接し続けた。姫は段々明るい子になり、姫自信が城の外へと出て行くようになる。そこで見るものはとても綺麗だと、姫は剣士に語ってくれた――
「って話」
続く。
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2005/01/18(Tue)18:55:26 公開 / 千夏
■この作品の著作権は千夏さんにあります。無断転載は禁止です。
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■作者からのメッセージ
こんにちはv
今回は読みきりにしようと思ったら続いてしまった、という話です;
できたらじっくり書きたいなあと思いまして。
もちろん他の作品もちょこちょこ更新していくつもりです!
感想等、お待ちしています。それでは。
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