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『悪夢のささやき』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:liz
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怖い夢を見た。
今は、明け方の4時ごろだ。どうしていいか、分からなくなるぐらい自分が動揺している。あれは、悪夢としか、言いようがなかった・・。
ずっと憧れていた人がいた。彼を本気で愛していた。私は、本気で人を愛すると、周りが見えなくなる。それがいつも災いして、本当に愛している人から愛されたことはない。彼が、突然夢に現れたのだ。
「俺、君の事、好きじゃないんだ。いくら、俺だってね、本当に素敵な人だなって思ったら、付き合うよ。でも、君にその魅力はない。」
心が引き裂かれるようだった。苦しかった。
「ただ、1度くらいなら、抱いてあげてもいい。」
こんなに屈辱的なことを言われたのに、私は、彼に抱かれていた。途中両親が部屋の前まで来て、驚いて逃げたりもした。だが、私は、途中の妨げも全てクリアし、抱かれていた。
屈辱だった。これほど、せせら笑われたことは、今までにない。私は知った。この悪夢を見て、私は、彼を本気で愛しているのだと。
時々、自分がどうしたいのか、自分はどう思っているのか。自分のことなのに、分からなくなってしまうことがある。そう、そんな矢先に、私は、この悪夢を見た。屈辱以外の何も感じなかったといえば、嘘になる。私は、気づかされた、今でも彼を愛していると。どうしようもなく、彼を求めていると。
悪夢のせいで眠れずにいるので、私は、ベッドから起き上がって窓際に立って、外を眺めた。まだ、外は暗いままだった。朝の4時ごろだろうか。朝日がまだ、夜空に現れていない。ああ、今の私の心だと感じた。ここ数日、心から笑うこともなかった。彼を忘れないと、という気持ちが先走って、ろくに笑うこともなく、生活していたのだ。心は冷え切っていた。
ふと、携帯が成鳴った。彼からだった。
びっくりして、思わず、電話に出た。
「もしもし・・。」
「彩香?元気?」
「どうしたの、急に・・。」
「いや、急に目が覚めて、眠れなくなって。」
「私以外に、電話する人たくさんいるくせに。私じゃなくたって。」
「いや、彩香以外、誰にも電話したくなかったんだ。」
「どうして?」
「彩香を好きでもないのに、馬鹿にしながら俺が抱く夢を見たから。」
彩香は、胸がちくりと痛んだ。
「彩香、同じ夢見たんじゃないか。」
一瞬戸惑ったが、正直に告げることにした。
「ええ。」
「彩香、俺は…。あんなふうに彩香のことを思っていないから。」
「え、でも。前、私なんかに本気になるわけない、て言ったのは、龍のほうだよ・・。そして、今日、案の定な内容の夢を見た。とても悲しくて。涙が出たよ。ああ、私は、こんなに龍が好きなのに、て。」
正直に告げると、彼は言った。
「俺は、あの悪夢が何かを暗示したことに気づいたんだ。」
「え?」
「俺が、君のとりこになる。」
私は、言葉を失った。
「抱いているところで、夢が途切れただろう。あの続きが知りたくなった。」
「…。」
「そして、俺は知った。」
「あの、悪夢は現実になるんだって。」
彩香は、急いで、玄関に向かい、ドアを開けた。ドアの前には、龍が立っていた。彩香の手から、携帯が、するりと落ちた。
あとに続くのは、闇、闇、そして、闇。
窓から、朝日が差し込んできた。ベッドには、吐息を立てる龍と朝日を見つめる彩香の姿があった。
「果たして、あの夢は、悪夢だったのだろうか。」
彩香は、自分の心にそう、問いかけた。左手に、愛しい人の温もりを感じながら。
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2005/01/14(Fri)13:02:45 公開 / liz
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■作者からのメッセージ
なーんか、こんな話を書きたくなって。読みきりです。短いですが、よろしくお願いします。
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