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『Memory of bell』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:Blaze
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「あー、もう朝かー、さみー」
月曜の朝はやけに早く感じる。
そしてこの脱力感がなんとも言えない。
今日からまた、一週間が始まる。
学ランを着て一階に降りていく。階段が冷たい。
「スープにする?コーヒーにする?」
おなじみの母さんの質問。
「コーヒー。」
やはりコーヒーがいい。多分頭が冴えるから。
鞄に弁当を入れて家を後にする。
家の前の田んぼには霜が降り、その光景がさらに寒さを感じさせてくれる。
通りに出るといつもの風景。
白い襟のセーラー服。僕と同じ学ラン。
その中に歩いている女の子がいた。
徒歩で通学する生徒は珍しい。
学校では僕ぐらいしかいない。
ほとんどの生徒は近所に住んでいても自転車通学だ。
僕は部活に入っていないから運動のため徒歩で通学している。
前を歩くセーラー服を眺めながら歩いていると、突然その娘が後ろを向いた。
目が合った。
彼女はこちらまで歩いてくると、
「私、転校してきたんだけど、学校まで一緒にいいかな?」
女の子に話しかけられる事なんてあんまりなかったから、驚いた。
「うん。」
小さい声しか出なかった。恥ずかしい。
そして彼女は僕の横に並んで歩き始めた。
自分の心臓の音が聞こえてきた。
こんな状況、あまり経験したことなかったから緊張してしまった。
勿論、話かけることなんてできない。
僕はこんなに小心者だったのか。そんな事を痛感しながら歩いていると、
「あの、約束覚えてる?」
いきなりそんな質問をされて、
「え?」
こんな返事しか出なかった。なんのことだ。
「あ・・・ごめんなさい!」
彼女の頬は赤くなり、突然走りだした。
それと同時に彼女の手提げ鞄についていた鈴が鳴る。
僕はわけがわからないまま、学校に着いた。
教室はいつも通り、後ろの方で男子達がトランプ。
女子はあちこちで談笑。
僕は自分の席に鞄を置くと、男子の集まりの中に入った。
男子達はトランプをしながら、こんな話をしていた。
「今日転校生が来るらしいぞ。」
「女子?男子?」
「女子。」
「マジ?かわいい?」
「さあ。」
今日会ったあの娘に違いない。
でも、気になっていたのが、彼女が言っていた「約束」。
その事を考えながら、トランプを見ていると、担任が教室に入ってきた。
生徒達はそれぞれの席に着く。
「今日、隣のクラスに転校生が来たそうだ。こんな時期に転校なんて大変だな。」
もう大学受験が近かった。そんな時期に転校なんて確かに大変だ。
それとも就職希望だろうか。だが、自分には関係ない。
いつものように教科書を机の上に出し、ノートを開ける。
放課後、帰路に着く。
すると、今朝の女の子が前を歩いていた。
小さい体で一生懸命歩いている姿がなんだか可愛かった。
家の近くまで帰ってくると、前にいた彼女が突然しゃがみこんだ。
どうしたのだろう。落し物だろうか。
しゃがみこんでいる彼女の横を通ると、普通じゃない呼吸の音が聞こえた。
とっさに彼女の方を見ると、滝のように汗を流していて、ただ事じゃない様子だった。
「大丈夫?」
反射的に聞いた。
「あ、健一・・君。」
僕を見上げた彼女は息が絶え絶えの声で僕の名を呼んだ。
その瞬間、彼女はその場に倒れた。
「!」
僕は突然の事でどうしていいかわからなくなったが、冷静になって携帯で救急車を呼んだ。
家の近くだったので大体の住所を伝えると、しばらくして救急車が大きな音を辺りに響かせながらやって来た。
救急車の中から担架を持った人が出てきた。
小さな彼女の体は担架に乗せられ、中に運び込まれた。
僕も一緒に乗った。彼女一人だとなんだか心配だったからだ。
「健一君、はぁ、はぁ、健一く・・ん」
救急車の中で彼女は僕の名を呼び続けていた。
僕は彼女の小さな手を握っていた。
どうして僕の名を知っているのだろう。状態が良くなったら聞いてみるつもりだった。
でも、もう生きている彼女に会うことなんてなかった。
彼女は病院に着くと大急ぎで集中治療室に運び込まれた。
しばらくすると彼女の両親らしき二人がやってきた。
二人は不安な面持ちで治療室の前に立っていた。
10分ほど経ったころだろうか、中から医師が出てきて二人に何かを告げた。
二人は抱き合って泣きだした。
おそらく彼女は手遅れだったのだろう。
その後、僕は治療室から運ばれてきた彼女を見た。
なぜだろう、彼女の顔にはかすかな笑みがあった。
彼女は、可愛かった。
病院からの帰り道、辺りはすっかり暗くなっていた。
その中に光る物を見つけた。
鈴だった。これは、彼女の鞄についていた物だ。
拾い上げると、綺麗な音が鳴った。
その瞬間、僕はすべてを思い出した。
僕は、彼女を知っている。
まだ小さかった頃、幼稚園に通っていた頃だろうか。
彼女は僕の家の隣に住んでいた。
名前は美鈴。
毎日のように遊んでいた。でも、美鈴には持病があった。
病名は知らなかったが、重い病気らしい。
時々、調子が悪くて幼稚園を休む事もあった。
幼稚園を卒園後、美鈴は治療のため東京に引っ越した。
その別れ際、僕は美鈴と約束をした。
「帰ってきたら、恋人になろう。だから頑張って!」
「うん!絶対だよ!健一君。」
美鈴があの時言っていた「約束」とはこのことだろう。
どうして忘れてしまっていたのか。僕は残酷なことをした。
でも美鈴は最後、笑顔だった。
僕に会えたからだろうか。
でも、今の僕は笑顔なんかじゃない。
美鈴のことを忘れていた罪悪感と後悔でいっぱいだった。
涙が止まらない。
思い出す、彼女の赤い頬。
美しい鈴の音。
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2004/12/24(Fri)02:01:13 公開 / Blaze
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■作者からのメッセージ
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