『不思議な旅』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:金森弥太郎
123456789101112131415161718192021222324252627282930313233343536373839404142
第一話:「緑の大地」
カムゥは愛刀を背負い、バイクに乗りながら旅をしている。
いつだっただろうか、俺が目覚めたのは。
緑の森の中を愛用のバイクで突き進む、どこへ行くとも無い気ままな旅。
いつの頃か、むせかえるような血の香も消えて戦場は緑が広がる森となっていた。
カムゥはのんきに鼻歌混じりで、小さな村に降り立った。
「やぁ、きれいな村だな。な、村雨」
カムゥの呼びかけに、愛刀の村雨が答える。
「ああ、こんなにきれいな村があるなんてね。で、どうしたいんだ?」
「うん、今日はこの村で休んでいこう。誰か村人はいないのかな?」
カムゥが村の小道を歩いていると、きれいな歌声が流れてきた。
カムゥは微笑みながら、歌声の方に近寄っていった。
唄を止めてきれいな人は、カムゥに言った。
「あなたは誰? どうしてここにいるの?」
「僕はカムゥ。このバイクとともに気ままな旅の途中なんだ」
きれいな人は、ほっとため息をついてから言った。
「私の名前は、ヌウイ。今フクロウの神様の唄を歌っていたの」
「よければ、僕に聞かせてくれないかな?」
カムゥがそう言うと、ヌウイは静かに微笑みながら目を閉じた。
――金の砂よ、ふれふれまわりに
銀の砂よ、ふれふれまわりに
ヌウイはそう歌いながら、ふくろうのごとく舞った。
それを見ながら、村雨は言った。
「やぁ、カムゥ。なんとも言えぬ不思議な唄だね」
「うん。それにしてもきれいな歌声だな」
カムゥがそう言うと、ヌウイは微笑みながら自分の家に招き入れてくれた。
ヌウイはカムゥに言った。
「この里に来てくれたのは、あなたが初めてなの」
「他の村人は?」
カムゥが聞くと、ヌウイは寂しそうな顔をして言った。
「みんな今本島の人たちと戦っているの。こんな戦争、早く終わってくれるといいんだけど」
言い終わった後、ヌウイは寂しそうな笑顔を見せながら言った。
「私ってば、こんな小さい子にぐちを言ったりして。ごめんね」
「いえ、戦争早く終わるといいですね」
ヌウイはまた不思議な唄を歌いながら、食事を作りに行った。
村雨がカムゥに静かにつぶやいた。
「だから、こんなに緑が広がっているんだ」
「どういうことだい?」
「人がいない、だから緑を踏む人もいない。あるのは、小さな畑だけ」
カムゥはあたりを見回した。
小さな畑以外は、きれいな花とともに広大な緑の台地が広がっている。
動物たちもいなければ、人もいない。
だから、まるでその大地が緑の砂漠のようだとカムゥは思った。
「ご飯食べる?」
ヌウイは小さな鍋を木製の丸いテーブルに載せながらカムゥに言った。
カムゥが小さくうなずくと、ヌウイは小さな皿に盛りつけてくれた。
緑色の野菜とジャガイモ、それににんじんなど野菜がたくさん入ったスープだ。
ヌウイが食べる前にお祈りをはじめたので、カムゥもそれにあわせた。
「いただきます」
「たくさん食べてね」
スプーン一杯のスープを口に含むと、ほんのりと甘い香りが漂ってきた。
あたたかく、優しい味が口の中に広がり、体がぽかぽかと暖かくなってくる。
村雨はカムゥにうらやましそうに聞いた。
「美味しいか、それ?」
「うん。美味しいよ」
カムゥがそう言うと、ヌウイは嬉しそうに微笑んだ。
カムゥとヌウイが楽しそうにしゃべりながら食事をとっていると、謎の男たちがやってきた。
ヌウイは怯えながら言った。
「まさかあなたたちは、本島の人ですか?」
男たちは刀を取り出すと、カムゥに刃先を向けながら言った。
「今戦場はどんどんとあんたの村から遠ざかっている。その隙を突いて、連れてこいという命令だ」
ヌウイはきっぱりとした口調で言った。
「いやです、わたしはいきません」
すると、男たちはわざと残念そうな声色で言った。
「ああ、あんたがすんなりと行きますと言えば、この小僧は死なずにすんだのに」
そう言って、カムゥに刀を突き刺そうとした。
――キーン、ズバァ……
村雨が柔らかくしなり、男の刀を受け流して男の体に喰らいついた。
男は悲鳴とともに、もういちど刀をカムゥに向けて振り下ろしてきた。
――ドスッ……
村雨は男の心臓に喰らいつき、男は力なく刀を降ろした。
それを見て、ヌウイは悲しそうな顔をした。
「殺さなくてもよかったものを」
カムゥは立ち上がると、静かに外へ出て行った。
仇と言って斬りかかってくる者たちを村雨の刃先が次々と喰らいついていく。
やがて、あたりが静かになると緑の台地に赤色の水溜りができた。
カムゥはヌウイにおじぎをすると、バイクにまたがってまた旅立ってしまった
その後ろ姿を見ながら、ヌウイは悲しそうに歌った。
――緑の大地に赤い池
緑の大地に赤い池
流れ流れて紅い川に
流れ流れて紅い川に
いつかはなっていくのでしょう
2004/12/24(Fri)14:58:21 公開 /
金森弥太郎
■この作品の著作権は
金森弥太郎さん
にあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
第一話を作成しました
作品の感想については、
登竜門:通常版(横書き)
をご利用ください。
等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で
42文字折り返し
の『文庫本的読書モード』。
CSS3により、MSIEとWebKit/Blink(Google Chrome系)ブラウザに対応(2013/11/25)。
MSIEではフォントサイズによってアンチエイリアス掛かるので、「拡大」して見ると読みやすいかも。
2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。