『紅の風編:第一話(あらすじ付き)』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:金森弥太郎
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(あらすじ)
空に浮かぶ不気味な蒼い月。
それに誘われるかのように、洞窟の中で一人の男が目覚めた。
男は重なる恐怖から逃れるべく、向かい側にある島、千鳥が島へ泳ぎ始める。
だが、体力が元には戻っていなかったため、途中で溺れてしまう。
そして、気づくとある民家で眠っていた。
記憶を失った男につけられた名前は、「黒雨紀陽」(クロサメキヨウ)。
紀陽はそこで、月と言う名の少女と出会う。
過去の人となった慕い人つきに対する思い、黒雨家の老人剛雷の催眠により次第に紀陽の記憶はよみがえりつつあった。
ある日、剛雷は紀陽に待月神社に行くように言う。
その言葉に従い待月神社へ行ってみると、そこにはかつての同胞斎藤がいた。
斎藤はかつて所属していた「獄死部隊」中好戦家な類で、紀陽を見るなり謎の名前「クロメ」と呼び襲いかかってきた。
なんとか撃退した紀陽の前に、また見知らぬ人物があらわれる。
その人物もまた、紀陽のかつての仲間であった。
だが、その人物は何もせずにただ霧と共に立ち去っていくのであった。
何も覚えていない紀陽は、飾りにつけられていた蒼い月にいざなわれ待月神社の中へと入っていく。
そこで見たものは、慕い人つきの像と一枚の手紙だった。
すべてがつながりかけた紀陽に、剛雷が再び催眠をかける。
そして、紀陽の記憶は再びあやふやなものへと戻ってしまう。
そんな紀陽の元へ、自称昔の友人水城が現われる。
水城は、蒼い月の謎と紅い風が吹くことを紀陽に言った。
そして、水城の予想通り、紅い風が吹き荒れ始めたのであった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――ヒュオー……、ヒュオー……
不気味な音と共に、紅い風が吹き荒れる。
その風と共に、ある学者が千鳥が島にたどり着いた。
生物学者岩崎教授は、この千鳥が島に伝わる伝説を調べた唯一の学者である。
岩崎は風を指ですくうような仕草をしてから、小さく笑った。
「なるほど、私の仮説は正しかったわけか。ふふふ、来たかいがあったな」
――ヒュオー……、ヒュオー……
不気味な音をたてながら、紅い風が岩崎の髪をなでていった。
岩崎は煙草をくわえながら、ある家へと向かっていった。
その家は、黒雨家。
「クロサメゴウライ、元獄死部隊研究班で若手の天才と呼ばれていた男か」
――トントン、トントン
岩崎が黒雨家の扉を軽くたたくと、剛雷が出迎えにやってきた。
「待っておりましたぞ。あがりなされ」
岩崎は軽く会釈すると、剛雷の案内で和室へと招かれた。
しばらく待っていると、小さな足音が聞こえてきた。
――チョコチョコチョコチョコ……、どてっ
岩崎は何事かと思い、外に見に行った。
「うぇーん、こぼしちゃったよー」
そこには、お茶をこぼし転びながらないている幼い少女がいた。
岩崎は自分のバッグから、ばんそうこうとハンカチをもって少女のもとへ行った。
「ほら、大丈夫か?」
「おちゃー……」
「アハハ、お茶なら気にするな。それよりも、……はい。これで、大丈夫だ」
そう言ってばんそうこうをつけ終わると、岩崎は少女の頭を優しくなでた。
少女は岩崎にぴとっとくっつき、気持ち良さそうに目を細めた。
しばらくなでていると、向かい側からクロメがやってきた。
「ま、まさかあんた、月衛クロメか?」
「ん? 人違いだろうな、それは」
「そ、そうか……」
岩崎が考え込みはじめると、少女は、おにいちゃ―ん、と言ってクロメに抱きついていった。
「そうか、……人違いだよな。あれは、六十年前のことだ。いや、待てよ……」
「とんだ恥ずかしい所をお見せしましたな。私も、もう老いたものですわ」
そう言うと、剛雷は再び岩崎を和室に呼び寄せた。
それから、数時間剛雷と岩崎はなにやら小さな声で密談をしていた。
第一話:「野獣の豪咆」
「吹いてきましたな、紅い風はんが。注意しなされや」
「分かってるさ、水城。ところで、水城はどうするつもりだ?」
水城はぽかんとした顔をしながら私に言った。
「そら決まってるやないですか? クロメはんに、ついていくで」
「そうか。ところで、私の名前をいつになったら覚えてくれるんだ?」
水城はうーんとうなり、思いついたように言った。
「そら無理や! あんたが思い出すほうが、早いっちゅうもんやからな」
「おいおい、思い出すといってもだな。これが私の名前である以上は……」
――ウォー!
いきなり狂犬と思しき鳴き声がし、その途端水城の顔がいっきに青ざめた。
そして、水城は月たちに言った。
「月はん、はよう日向はんをつれて、屋敷の奥へ逃げてや!」
「え、え?」
月が何事かと戸惑っていると、水城は力強く怒鳴った。
「はよう逃げろや! 剛雷はんと岩崎はんは、わいが連れて出すから!」
「は、はい! 行くよ、日向」
眠くて目をこすっている日向の手を力強く握ると、月は奥へと逃げていった。
その姿を確認してから、水城が私に言った。
「何してるんや、クロメ! 戦場や! 戦争開始や!」
戦場?
まさか、斎藤が?
私は用心深く、裏玄関から外に出た。
斎藤は私の姿を確認すると、白い息を吐きながら言った。
「キサマヲ……カリコロス!」
そして、野獣の豪咆とともに、紅い砂嵐が舞い起こった。
く、来る!
私はとっさに側転をし、斎藤の第一撃を回避した。
さらに側転をし、第二撃目もなんとか回避に成功した。
が、第三撃目は砂嵐だった。
目に激しい痛みがくる。
斎藤はにやりと笑うと、再び野獣の豪咆を放った。
――グウォー!
明らかに先日の斎藤とは違う。
まるで別人のようだ。
俺は、一瞬恐怖にも似た焦燥を覚えた。
遠くから、水城の声がする。
「気をつけてや、斎藤はんは狂狼になっとるからに」
狂狼……、かつて人食い狼と呼ばれた斎藤。
その力が、この紅い風によって目覚めてしまったのだ。
「くそっ……、どうすればいい?」
斎藤のラッシュを避けながら、私は何かないかと道具を探した。
……、くそ、こんな物で役に立つのか?
私が見つけたのは、ゴミ捨て場に捨てられていた釣竿だけだ。
釣竿を拾い上げると、それで斎藤のこめかみを強打した。
が、……。
「フハハハハ!」
斎藤はへともしない顔をしながら、釣竿をまるで木片のように粉々にした。
ば、化け物め……。
吹き荒れる紅い風と、それに乗じて舞い起こる紅い砂嵐。
まさにこの戦場は、斎藤の力場だった。
ついに一撃が私の脇腹をえぐるようにかすった。
そして、腹部から鮮血が流れ出した。
このままでは、やられてしまう。
「くそ、どうすればいいんだ?」
攻撃することもおろか、防御することもままならない現状。
それを打破するには、何か爆発的な力を発揮する物が……。
「あった、あれを使えば……」
私は斎藤にばれないように、銃へと近づいていった。
どんな銃でもいい。
弾が出さえすれば、なんとかなる。
そう思い、私は最後の運をかけるつもりで斎藤に向けて引き金を引いた。
――ガォーン!
銃弾は斎藤の右肩を貫いた。
――グルルルル
野獣と化した斎藤は、身の危険を感じたのかとっさに退却した。
私は手の痺れと疲労から、その場に力なく倒れこみそうになった。
刹那、後ろから野獣の気配を感じた。
「く、まさか……後ろか!」
私は立て続けに、後ろに向けて発砲した。
銃弾が鉄を貫くような音とともに、野獣の悲鳴が聞こえた。
斎藤が鉄板を盾に、私に突撃をかけようとしていたのだ。
私がとどめをさしに行こうとすると、紅い風が白い霧にかき消された。
「じゃあな、クロメ」
先日会った霧の女が、斎藤を回収しに来たのだ。
ここで決着をつけなければ、ふたたび月たちに身の危険が……。
そう思った私は、霧の中に突撃していった。
――ヒュッ、トスン!
私の足元すれすれにくないが飛び込んできた。
「勝負は終わった。もし追いかけてくるのならば、私はお前を殺さなければいけない」
霧の向こうから白い和服を身にまとった女が、こちらを見つめていた。
そして、霧の外から水城の声がする。
「やめや、やめ! 互いに殺しあったらあかんて!」
「どういう意味だ?」
「岩杜はんは、敵やない。今は敵であってもや。敵は、つきはんなんや!」
つきが敵!?
私は動揺を隠せずに、水城に飛びかかった。
「何だと、もう一度言ってみろ!」
水城は私の手を思いっきりはじき、銃を自分のズボンに入れてから話しはじめた。
「せやから、つきはんが敵なんや。蒼い月、あれは月都の目覚めを表してるんや」
私は思いっきり水城を殴り飛ばしながら言った。
「ふざけるなー!」
その様子を見ながら、岩杜が高笑いした。
「仲間割れしている間に、私たちはおさらばするよ。じゃあな」
「待て、岩杜!」
私が振り返ったときには、もう霧がすっかりはれ再び紅い風が吹き荒れていた。
「いたたた。こいつったらひどいんやつなんやでー、月はん」
私を指さしながら、水城は月に愚痴をこぼしはじめた。
月は困った顔をしながら、黙って私の腹部に包帯を巻いてくれた。
「せっかく助けてやった言うに、わいを殴るなんてな」
「すまなかったな……。だが、お前がでたらめなことを言うからだ!」
私の言葉に、さしもの水城も怒りはじめた。
「なんやとー! わいは嘘を言っておらへんゆうに!」
そして、ついに月までもが怒鳴った。
「けんかは止めてね、日向が眠れないから!」
その一言でシーンと静まり返る部屋。
しゅるしゅると包帯を巻く音だけが、部屋の中の唯一の音になっていた。
しばらくすると、月は微笑みながら言った。
「はい、終わりました。おやすみなさい」
月が電気を消すと、水城がとなりでぼやいた。
「なんで、わいがこいつと添い寝せなあかんのや。なぁ、クロメはん?」
「私に聞くな。それは、私も聞きたいことだ」
再びシーンと静まり返る部屋。
紅い風もその威力を弱め、今はかすかな音だけを立てるようになった。
私は拾った銃を天井に向けて持ち上げ、それを見つめた。
なんだかよく分からない言葉が書いてある銀色の銃。
水城は、その銃を見上げながら言った。
「それは、イスラム製やな。メイドインイスラエルって書いてあるで」
「水城、これ読めるのか?」
「そりゃ当たり前や。わいは、メリケン語の学者やったんやから」
メイドインイスラエルか……。
イスラエルとは、どんな国なのだろうか?
俺は見知らぬ国に思いをよせた。
だが、それをぶち壊す物がいた。
それは、また水城だった。
「なぁ、それ岩杜はんがくれたんちゃうかな?」
「岩杜が? あいつは、私たちの敵だぞ?」
「なぁ、クロメはん。事態は、あんたが考えている以上に複雑なんやで」
複雑か……、たしかにまだ謎は数多くある。
私は、水城がどこまで知っているのかを知りたくなった。
「なぁ、水城。どこまで知っているんだか、私に教えてくれないか?」
「いいけど、クロメはん、くれぐれも怒らないでや。嬢ちゃんに迷惑がかかるから」
「ああ、約束する」
水城は、分かったと言うと静かに語りだした。
「蒼い月に関しては、この前言うた通りや。
せやから、紅いの風について話そ思う。
紅いの風、これは月の都からくる特殊な磁場によって起きるものなんや。
紅く見える成分は、ほとんどが地中に含まれる貴金属粒子や。
そうやな、クロメはんは砂鉄っちゅうのを知っとるか?
砂に磁石を近づけると、くっつきおる面白いやつや。
あれと同じ原理でな、貴金属が舞い上がるんや。
せやから、紅いの風が吹くのは夜中だけや。
蒼い月、紅いの風、まぁこれは互いに起しあう現象ちゅうことやな。
……、なぁ、クロメはん。
ほんとに怒らへんやろな?」
「ああ」
「せやたら言うけど、月の都が復活したんや。
昔話の竹取物語っちゅう本でな、最後に出てくる謎のやつら。
あれが月の都の人間どもや。
うーん、この時代の言葉で言うと、あれや! 宇宙人や!
んでな、ここからが話しにくいところなんやけど……。
あんたが好きなつきはんはな、月の人なんや」
私は思わず飛びあがってしまった。
「おいおい、大人しく聞いてれば、つきが宇宙人だと? 笑わせるなよ」
「こっちが笑いたいもんや。あんたかて、同じ月の人のくせに」
「おい、今なんて言った?」
私は水城の襟元をねじり、床に強く押しつけた。
水城は、約束したやん、と咳き込みながら言った。
「すまない、だがそれは本当なのか?」
「ああ、本当や。せやな、明日岩崎っちゅう先生に聞いてみるとええ。
あの人は、すべてを知っとるからな」
「岩崎……、聞いたことがない名前だな」
水城は、当たり前や、と笑いながら言った。
「あの先生は、まだ二十なんやで。わいらが、知っとるわけないやろ?」
「……分かった。それで、私はこれから何をすればいい?」
水城は黙り込んでしまった。
もしかすると、水城自身これから先のことなど考えられないのかもしれない。
私は、水城が言ったことについて考えはじめた。
月の都、月の人、そして蒼い月……。
私は水城の言うことが正しければ、この世界ではなく月の住人らしい。
……、そんな夢物語が現実にあるはずがない。
私はそう強く否定したくなった。いや、否定するしかなかった。
そうしなければ、俺がやるべきことはただ一つになってしまうからだ。
俺は強く目を閉じた。
とにかく明日になって岩崎に聞けば、全てが分かるはずだ。
そう強く心に念じ、長く重々しかった夜に幕を閉じた。
2004/12/20(Mon)01:13:24 公開 /
金森弥太郎
■この作品の著作権は
金森弥太郎さん
にあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
この話は、「蒼い月」の続編になっております。蒼い月を未読な方でもお楽しみいただけるよう、(あらすじ)なるものを御つけいたしました。ヘタな(あらすじ)ではありますが、よろしくお願いします。
作品の感想については、
登竜門:通常版(横書き)
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等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で
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の『文庫本的読書モード』。
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