『Wonderfool【読みきり】』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:影舞踊                

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 誰もが一度は夢見たであろうゲームの世界。
 その世界では何でも叶い、何もがうまくいく。たとえ不都合なことが起こったとしても、それは最終的にハッピーエンドにつながる。
 まあ全てのゲームがそうだとは言わないが、子供の頃に遊ぶゲームは大抵そういうものが多い。
 そこで、今の俺の現在の状況を考えてみる。手にはもちろん何も持っていない。頭にも何もなし。足にももちろん何もなし。まあ平たく言えば、いつもと一緒ってことだ。俺の体に関しては。




今、目の前に広がる光景に丸井構造は倒れそうになっていた。目の前に広がるのは赤い湖、黄色い山々、青い土。それらが信号のように全てが点滅したり、色が順々に変わったりしている。
自分が立っている場所には何もない、見渡す限りの大平原・・・・・・ならよかった。自分が立っているのは町のど真ん中。しかし、町のど真ん中には赤い湖(今は黄色だが)があり、そのまわりには黒と白だけで彩られた人々と家が建っている。
気づいたことはそれだけじゃない。自分にはちゃんと色がある。そして普通の人間だ。しかし、目の前にある人、目の前にあるものは全てが角ばっており気持ち悪い。
―なぜ自分がココに立っているのか?
素朴な疑問に答えは見つからず(正確には思い出せないのだが)、構造は近くの黄色く点滅している木の葉っぱを触り、なんとなくちぎって捨てた。するとそれは地面と一体となり吸い込まれるように消えていった。
―この世界は何だ?
あふれ出す疑問に対して答えを見つけるべく構造は一番近くにいたうろうろしているおじいさんと思われる人に尋ねてみた。
「あのーすいません。ここは〜?」
 構造の質問に対して顔を向けることもなくおじいさんは喋り始めた。
「今日はいい天気じゃ。」
空は真っ白で雲ひとつない。この世界ではこれがいい天気なのか。
「ココはワンダーフールランドじゃよ。」
そう言うとおじいさんはすたすたと向こうに行ってしまった。
ワンダーフールランド?・・・記憶のどこかで聞いたことがある、しかし思い出せない。だがこの名前。ゲームの世界の名前っぽいぞ。俺はゲームの世界に入ったのか?どうやって?確かにゲームは好きだが、今はこの世界から一刻も早く出たい。移り変わる色と点滅が目の内部を刺激し、構造は今にも吐きそうなほど気持ち悪くなってきていた。
その時、信じられないことだが、ありえないことなんだが、犬が、話しかけてきたのだ。
「おい。」
初めは辺りを見回しても誰もいないので空耳だと思った。
「おい。」
耳鳴りまでし始めて、もう一刻も早くこの悪い夢が終わって欲しかった。
「おい!」
3度目の正直、それまで否定し続けた可能性がしっかりとした形となって襲いかかってくる。
「おい!」
「うるせぇ!黙れ!くそ犬!」
ついに反応してしまった。角ばったポリゴンの犬。それから発せられる言葉に違和感を感じないのはゲームの世界では一般的なことだからだろうか。どっちにしろ今の構造にとっては気持ちの悪いことに変わりなかった。
「お前はここで何をしてる?」
唐突に今一番知りたいことを聞いてくる犬が無性にむかつく。
「知るかよ!俺が一番知りてぇよ!」
「お前は今気持ち悪い。この世界を自分が望んだものでないと思っている。」
何を言ってるかわからない。まるで俺がこの世界を作ったような言い方だ。というより、とにかくウザイ。
「お前は丸井構造、この世界には適さない。」
ギャグか?ギャグなのか?
「ワンダーフールは高価な世界。お前が望んだ全ての世界。」
「キモイ犬、シネ。キモイ犬、シネ。キモイ犬、シネ。」
とりあえずむかついたので、思いついたまま言葉を続けてみた。それでも犬は何も聞いてないかのように話をやめない。
「ココから出る方法はわからない。キモイ犬、シ―」
構造は話の途中でついに力尽きた。薄れ行く意識はこの世界から解放してくれる気がして心地よかった。







気がついた時、構造は真っ白で温かいベッドの中にいた。どうやら病院のようだ。そこは普通の世界だった。ワンダーフールなんていう犬が喋ったりするおかしな世界は創造できないほど。あの世界はなんだったのか?今になっても思い出せない。結局悪い夢だったのか?いくら考えても思い出せないで悩んでいた構造のところに看護婦がやってきた。
「目が覚めましたか?よかったです。」
親切な手つきで構造を起こしながら、看護婦は言った。
「すいません。あの、俺は一体?」
起こされただけなのに頭がくらくらする。二日酔いの気分だ。
「覚えてらっしゃらないんですか?」
「すいません。覚えてないです。」
それから、看護婦さんの話によると俺は駅の噴水の近くで倒れていたらしい。なぜそんなところで倒れていたのかはわからないが、見つかったのが朝だったので、夜中に酔っ払ってふらついて寝てしまったのだろうということになっていると。何度呼んでも返事をしない構造を心配した人が救急車を呼んでくれたということだった。世の中いい人がいるものだ。検査したがどこも悪いところは見当たらなかったといって、その日の午後には構造は病院を退院することが出来た。
構造はずっと考えていた。なぜ、あのような夢を見たのか?自分は昨日そんなに酔っ払ったのか?記憶がないという点では正しく思えたが、あまりにあの世界が生々しく記憶に残っている。そして、考えれば考えるほどあれほど気持ちの悪かった世界にもう一度いきたいと考えるようになっていた。なぜかはわからない。しかし時間が経つにつれ、その思いははっきりとしてくる。今日は日曜日、昨日は土曜日だった。思い出せる限り、昨日と同じことをしよう。そうすればあの世界にいけるはずだ。
それから構造は映画を見に行った。昨日と同じアニメの映画が上映されている。
「確かにココは来た。」
自分に言い聞かせ映画館に入って何の変哲もない流行のアニメ映画を見た後、構造はとりあえず駅の方に向かって歩き始めた。もうあたりは暗くなってきている。腕時計を見ると針は午後6時半を指している。実際この辺からの記憶がない。すると、聞きなれた声でお姉さんが声をかけてきた。
「あ〜らまた来てくれたの〜?今日も寄ってって〜。」
色っぽい声で話しかけてくる。俺はここに入ったのか?
「今日もって?俺は昨日もココに来たんですか?」
「あら〜、昨日私と楽しくお話したでしょぉ〜。忘れちゃや〜よぉ。」
どうやら俺は昨日ここに入ったらしい。
構造は言われるままにその店に入っていった。いつもならそんな店は無視していく構造だが、その時は二日酔いのような気分ともう一度あの世界に行きたいという気持ちが合わさって慎重さを失っていた。
そして今日も構造はココから記憶を失った。構造は、またあの世界に行き、また気持ちが悪くなり、またあの気持ちの悪いおじいさん、気持ちの悪い犬と同じような会話をして、気づいたら病院のベッドの中だった。
看護婦さんには飲みすぎはほどほどにたしなめられたがその後も俺はまたあの気持ちの悪い世界を探して同じ事を繰り返しました。





とある駅、噴水のそばでの少年達の会話。
―ワンダーフールって知ってる?
―あぁ知ってる知ってる。最近この辺で流行ってるやつだろ。
―この辺の店屋と病院がかんでるらしいぜ。
―オー怖、道理でワンダーフールの体験が似たようなものばっかなんだな。
―この犬の像と噴水と、この辺の木とか・・・だよな?
―間違いないね。まぁそんなのには引っ掛からんようにしねえとな。
―間違いない!
―ハハハハ、超うける〜。




病院とワンダーフールの世界で構造は似たようなことを言われた。
どちらも笑って、
「また来たんですか?」







あなたはドラッグの世界【ワンダーフールランド】をどう思いますか?

2004/12/04(Sat)17:00:01 公開 / 影舞踊
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■作者からのメッセージ
オチがおそらくバレバレだったと思います。ここまで読んで下さってありがとうございました。
特に工夫もありませんでしたが、読みきりを書くのはとても文章をまとめる力が必要なのだと感じました。本当に読んでくださった方どうもありがとうございます。感想等頂けると嬉しいです。(手厳しいものでもありがたいです)

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