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『夜行列車 夢幻特急便【三】』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:柳城卓
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夜行列車 夢幻特急便「第一話」
「矢幸、起きろ。ゆずが来た」
男の声がし、目を開けて体を起こす。
「なんだ、亮兄かあ…。今仕度するから」
神崎矢幸、俺のこと。十四歳。隣にいる男は俺の兄、亮。十六歳。
俺らは今日、家出する。
この家の生活にはもう、うんざりだったからだ。
会話のない家族。冷たい母親、仕事仕事の父親。
両親など要らない。本気で俺達はそう思った。
一番下の妹、ゆずゆは九歳。明日がゆずの誕生日だった。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん」とよく、俺らの後を追っかけてきた。
そんな妹とも、今日でお別れ。
とんとん、とノックする音が聞こえる。亮兄が「どうぞ」というと、がちゃりと音がしドアが開いた。
「あ、お兄ちゃん。お昼ごはんできたよ」
黄色いエプロンをしたゆずがにっこり笑っていった。
「ああ、わかった。今下にいくよ」
俺らの部屋は二階、ゆずの部屋は一階にある。
俺や亮兄は滅多に一階に行かない。行くとすれば、ゆずにどうしても言わなければならない用事、食事のときだった。
勿論、両親には何も話すことなどなかったから。
亮兄の部屋を後にし、俺は先に下へ降りた。
熱々の炒飯が、食卓テーブルの上に乗っている。母も椅子に座っていた。俺は無言で椅子に座る。
「あれえ? 亮兄は?」
ゆずが不思議そうな顔で俺に聞いた。
「そろそろ、来るんじゃないか?」
予想は当たった。
バタバタと階段を下りてくる音が聞こえてきた。
さっきまでボサボサだった亮兄の茶髪が、奇麗にセットされていた。俺は可笑しくて、ついつい吹き出してしまった。
「矢幸、てめえ! 汚ねえなあ!」
これにはゆずも、大笑いだった。
「あはははっ、幸兄ったら! あはははは!」
でも、母だけは笑わなかった。黙々と、ゆずの作った炒飯を食べている。「おいしい」の一言も言わずに。
さて、楽しいランチタイムも終わり、俺と亮兄は二階へ上がる。
荷物の整理をするためだ。
「矢幸、このお守りやるよ」
ひょいと差し出された白いお守りを、両手で受け取る。
「これまた何でだよ、亮兄」
俺がそういうと、亮兄は口の端を吊り上げる。
「お前お守りとか、占いとか信じるほうだろ? やるよ、俺そういうの信じないほうだから」
俺は言い返せなかった。なにしろ、本当のことなのだ。よく「男なのに珍しい」と言われた。信じてなにがわるい。
俺は渋々と、その白いお守りを胸ポケットに入れた。
そして、夜の九時。
家出決行の時間だ。
「でも、亮兄。汽車とかにのるチケットとか、あるの?」
俺は不安になって聞いてみた。亮兄はニヤリと笑う。
「たりめーだ。ほらよ」
亮兄から手渡された黄色いチケットには、こう書いてあった。
『夜行列車 夢幻特急便』
聞いたこともない汽車の名前に、少し違和感を覚えた。
ベランダから家をでる。靴も、ちゃんと持ってきてある。
お金は、俺が一万五千円。亮兄が二万円持った。
そして、駅へと歩いて向かう。
駅に着いたとき、短い時計の針は、十を刺していた。
そして、駅員にチケットを見せ、
「この汽車に乗るには、どこのプラットフォームに行けばいいんですか?」
すると、駅員は怪しげな笑みを浮かべて答えた。
「ああ、それね。十三番よ」
いち、に…。数えてみても、五番までしかない。いったいどういうことなのだろうか。
「あの、十三番って、どこに…」
駅員は笑みを浮かべ、指差した。
「そこにあるじゃないの」
駅員の指差した方向を見ると、そこには「13」と書かれた看板が、釣り下がっていた。
「早く乗らないと、汽車がいってしまいますよ」
俺は慌てた。慌てて亮兄を探す。…だけど、亮兄の姿が見つからない。
「亮兄? 亮兄!」
叫んでみても、返事がない。さっきまで、一緒だったのに、どこにいったんだろう。
そのとき、プルルルルルルと発車の合図がなる。俺は急いで改札口を通り、乗車口へ走った。
「きっと、亮兄は先に乗ったんだ」
そう思って、俺は汽車に乗り込んだ。
夜行列車 夢幻特急便「第二話」
ガタン…。ドアが閉まり、汽車が動き出した。
「あれえ? 亮兄どこだろう…」
俺は一番前の車両から、亮兄を探すことにした。
客がほとんどいない。俺だけといってもいいくらいだ。
「亮兄? 亮兄ー!」
叫んでみたが、返事はない。この車両にはいないようだ。
ほかを探そうと思い、鞄をもとうとした、そのとき…
「ちょっと、汽車の中では静かにしていてくれない?!」
少女の、怒りが混じった声がした。俺はさっと振り向いた。そこには、黄色い帽子からちょこんと覗く青い髪が揺れる、作業服の少女がいた。
青い髪なんて、こりゃまた珍しい。
染めたのだろうか。しかし、まだ十一歳くらいの背丈、顔も幼い。
「ご、ごめん。気をつけるよ」
俺より年下に注意されるなんて…。
俺はため息混じりに言った。
俺は、ふと思った。
あんな少女が、一人で乗っている?
十一くらいの少女が、夜中にどこへ出かけようというのか。
「ちょっと、君。どこいくの! 親は?!」
俺は慌てて少女の肩を掴んだ。少女は、動揺を見せることもなく答えた。
「親なんていないもの。そして、あたしは夢幻にいくのよ」
何だと…? 夢幻とはなんだ? 親がいないって、どういうことなんだよ?
俺の心の中に、いくつもの疑問が浮かび上がる。
そして…。
俺の中で、何かがふっきれた。
「お前、親いないで一人で乗ってるなんて危険だぞ! 降りるまで俺がついていてやる!」
気がついたら、こんなことを口走っていた。
少女は不思議そうに、目を真ん丸くして驚いていたが、いつしかにっこり笑って、
「ありがとう」
といった。
何故、俺はこんなことを言ったのだろうか。
それはわからない。だけど…。
重なって見えた、守りたいと思った。
自分の大切な人に。
「ゆ…ずゆ…」
俺は、今にも消えそうな声でつぶやいた。
電車のつり革が、ぶらぶらと揺れた。
「…あたし、なずな。ひらがなでなずな。…あなたは?」
俺はその唐突な質問に、ちょっと戸惑ってしまった。
「あ、えっと…矢幸。神崎矢幸だよ」
青い髪の少女、なずなは不思議そうに首をかしげて
「やさち?」
と聞き返した。
漢字がわからないのだろうか。と思い、
「そう、矢幸。弓矢の矢って書いて、幸せの幸」
と教えた。ちょっと、照れくさかった。
ふと見ると、少女はにっこりと笑っていた。
「よろしく、矢幸」
その少女の幸せそうな笑顔に、何が隠されているのか。
――俺は、知らない。
夜行列車 夢幻特急便「第三話」
なずな、という少女とであってから、数分が経ったころ。俺はあることを思い出した。
「いけない! そうだ、俺亮兄を探してたんだ!」
と叫んだ。
当初の目的、「亮兄探し」だ。なずなは、ちょっと驚いたような顔をしたが、すぐに、
「なら、あたしも一緒に探してあげるよ。矢幸」
と言われてしまった。俺はちょっと困ったが、この少女が降りるまでついているといったのは自分だったので、そうしてもらうことにした。
「じゃあ、一緒に探そうか」
俺はちょっと長めの自分の髪を、ファサ、とかきあげた。なずなは、かぶっている黄色い帽子をかぶりなおし、すくっと立ち上がった。
「じゃあ行こう、矢幸!」
なずなの小さな手が、俺の手を掴んだ。なずなの、暖かい体温が伝わってくる。
と、俺は不思議な感覚に見舞われた。
視界がぐにゃりと曲がり、立っていられないほどふらつく。そして、目の前が真っ暗になった。でも、どことなく懐かしい感じがした。
バタン、と俺はその場に倒れた。
――静かだなあ…。
何の音も聞こえない。なずな? なずなはどこだろう…。
「さちにい。さちにい」
聞き覚えある可愛い声が聞こえ、俺はすっと目を開けた。
目の前に広がる青空。ここは、ちょっと高めの丘のようだ。丘の上にねそべっている俺の顔を、見慣れた顔が覗き込んだ。
「ゆずゆ?!」
その言葉を聞いたゆずは、照れくさそうに「えへへー」と笑う。そして俺の手を掴む。
「さちにい、おさんぽしよ?」
にっこりと可愛く微笑む妹には勝てまい。俺は、仕方なく体を起こす。
いつもより、背も低くて幼いゆずゆ。
…あれ?
自分の目線が、何故かいつもより低い気がした。
ゆずとの身長差も、気のせいか、いつもより低い気がする。
「ゆ、ゆず。じゃあいこうか」
ゆずゆの手を引き、丘を降りる。
ちょうど道路にあったみずたまりを覗いた俺は、驚きを隠せなかった。
「なっ…」
まだ、少し幼い顔、今より低い背。そこには、くっきりと俺の姿が映し出されていた。
「さちにい?」
心配そうに俺の手を、ぎゅっとにぎるゆず。
「…なんでもない、大丈夫だよ。ゆずゆ」
それから俺とゆずは手をつないで、野原をあるいた。花も見つけた、虫も見つけた。
「さちにい、ゆずね。あしたね、ごさいになるんだよお!」
ゆずゆが明日五歳…ということは、四年前? そうだ、ゆずゆと一緒に散歩した、あの日だ…。四年前の、今日…?
…この懐かしさはなんなんだ?!
「矢幸、矢幸。ねえ起きてよ、矢幸!」
少女の声がし、目を覚ますと、そこはあの汽車の中だった。
続く
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2004/12/07(Tue)18:29:30 公開 / 柳城卓
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■作者からのメッセージ
途中で日本語わからなくなったりした卓です(汗
パソコン禁止令がそろそろ出される可能性が高いので、とにかく空いた時間に更新していこうと思います。では、続きもがんばってみます!
作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
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