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『カイゾク 第一話』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:ストレッチマン
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「カイゾク」
第一話 受験生
オレンジ色の光が窓から差込み廊下を照らす。6時になり沈みかけの夕日が学校を照らし、外からはまだサッカー部の声が廊下に響いていた。
中川由香は窓から視線を外し、ため息をつくと生徒指導室のドアをノックした。
「失礼します。」
ガラガラとドアを開け、正面の机には担任の尾口がやや唇を尖らせて座っていた。
「五分遅刻」
尾口は腕時計を見ながら静かに言った。
「すいません。掃除が少し長引いて…」
「言い訳はいいから。座りなさい」
由香は尾口の正面の椅子に座った。
「で、どうういうことなのかしら?」
尾口は由香を睨みつけ、威圧するように言った。由香は少しうつむいて黙り込んでいる。
「中川さん、あなた3年生よね」
「…はい」
「あと半年で受験だってわかってるわよね?」
「…」
尾口はため息をつき、腕組みをしながら威圧的な口調で続ける。
「中学生でアルバイト、しちゃいけないって習わなかった?」
由香はうつまいたまま、固まっている。
「どうしてアルバイトなんかしちゃうのかなぁ?」
「…すみません」
由香は小さな声で言った。
「あのねぇ、ミサキさん。先生も学期末でいろいろ忙しいわけ。そこへもってきて、こういうくだらないことでいちいち時間とられるのって、すごく迷惑なの。わかる?」
「…はい」
「この学校の生徒である以上、校則は守ってくれないと。…でしょ。先生の言ってること間違ってないよね。」
由香は少し間をおいて「はい。」と再び答えた。
「一応聞くけど、何でバイトなんかしたわけ?お金?」
由香は小さくうなずいた。
「あなた、別に飲まず食わずの生活してるわけじゃないでしょ。ご両親もいて、家もあって、そうでしょ。」
「…ハイ」
「てことは、早い話、オシャレだとか、遊びだとか、そういうためのお金がほしくてやっちゃったわけよね。」
「…まあ」
尾口はあきれたように顔をしかめた。由香は30代前半の尾口のしかめた顔がやや老けたように見え、クスっと笑ってしまった。
「何がおかしいの?」
尾口は苛立ったように言った
「…いえ。」
尾口は畳み掛けるように続ける。
「とにかく校則違反には違いないわけだし、特に三年生がこの時期にバイトをしたってことが大問題です。…お手本になるべき三年生がまったく…。
尾口は深くため息をついた。由香はため息をつきたいのはこっちだと心の中でつぶやいた。
「実はおたくの生徒さんが…」なんて連絡受けたこっちの身にもなってごらんなさいよ。」
「…。」
「そりゃ、あなたは、遊びたいけどお金がない、だからバイトでかせぎます、それがどうしていけないのってなくらいの気楽ぅ〜な意識でバイトしたんだろうけど、まわりは大迷惑してるの。そういうこと、わかってる? わかってないでしょ! あなたのしたことは、親や先生や同級生や下級生や、そういうまわりのみんなへの裏切りだし、結果として、卒業生たちが努力して築きあげてきたこの学校の名誉に大変なキズをつけてしまったのよ!」
由香はよくこんな長いセリフがぽんぽんと浮かぶものだと思った。
「処分は明日の職員会議で決めますから…。」
そういうと尾口は携帯電話を取り出し、ボタンを押した。
「あ、はい。そうです…中川由香の件で…わかりました。すぐ行きます」
尾口はピっと電話を切ると、椅子から立ち上がった。
「ちょっと職員室に行ってくるから、その間に反省文書いてなさい。いいわね。」
「はい。」
そういうと尾口はガラガラとドアを開き、部屋から出て行った。
部屋で一人になった由香はう〜ん、と背伸びをして反省文にとりかかった。
(何を書こうか…それっぽいことかかないとなぁ)
由香はしばらく天井を見上げて、気を取り直し書き始める。
私は、校則違反だと知りながらアルバイトをしてしまいました。本校生徒として、また最高学年である三年生として、してはいけないことをしたと反省しています。これからは、気持ちを入れかえ、夏休みになっても、受験生だということを忘れず、この夏の過ごし方で人生が決まるのよ、とおっしゃった先生の言葉を胸に刻んで、一生懸命頑張りたいと思います。もう二度とこのようなことは致しません。どうか許して下さい。…と。
由香はふとペンを止めた。
「二度とこのようなことは致しません。どうか許して下さい」…か。ちょっと卑屈すぎるな。いくらなんでも。
由香は消しゴムでその部分を消した。
「二度とこのようなことは致しません。どうか許してちょんまげ」…アッダメ。ここは笑わすとこじゃないし。これじゃきっと笑ってくれない…。
由香は再び消しゴムで消す。
「二度とこのようなことは致しません。どうか許してほしいのだ」…いかん。相手を完全にナメてる…。バカボンのパパじゃないんだからさぁ…。
「どうか許してほしかった」…過去形かよ。ダメだこりゃ。
どうか許してほしいはず」…違うな。絶対違う。自分のことだかんね。もっと切実な感じがないと…。
「どうか許して、捨てないで」…状況変わってるっつーの。
由香は鉛筆をほうり投げた。
「 ア〜もう、どうでもいいや、面倒くさい。ア〜ヤダヤダ。何だか全部つまんないんですけど。…ていうか、今どきバイト禁止ったって誰も守らんでしょ、普通。たまたまチクられちゃったのがマヌケって言えばマヌケだけどさぁ。…にしても何かムカツク。(教師Aの口まねで)「この学校の名誉に大変なキズをつけてしまったのよ!」ってシラねーっつーの。
由香は机をゴンっと蹴飛ばした。
その時、不意に部屋の電気が消えた。
(て、停電?)
薄暗くなる部屋。その直後、外からサアアア…という雨音と雷の音が聞こえてきた。
(ヒッエ〜。いきなりすぎるよこの夕立。カサもってきてないっちゅーの)
激しい閃光と爆音が響き、由香はひっ、と頭を抱えてしゃがみこんだ。
(落ちたよ…しかもかなり近い)
しばらくして雷雨の音が少しずつ小さくなっていく。
由香はゆっくり立ち上がりはぁ〜とため息をついた。
まだ停電は続いていて薄暗い。その時、窓から男の声が聞こえた。
「…クソッ、油断した。何だコレ? ワッ、ワカメじゃんかよ。…ったく、カッコワリィ〜なぁ〜。」
由香はその声の方向、窓を見た。そこにはバンダナを頭に巻き、奇抜な服を着た若い男が窓から教室に入ってきた。
「誰だ!」
男は由香を見て身構えて言った。
「あ、あなたこそ誰よ!?」
由香は驚きと恐怖で声が震えていた。
男は由香のセーラー服を見て目を見開いた。
「お前、カイグンだな!!!」
「何言ってんの?」
男は身構えながら言った。
「とぼけんな。水兵だろ。服でわかんだよ、服で。」
カイゾクは由香に早足で近ずき、じろじろと由香の全身を見た。
「何だお前。スカートはいてんのかよ。」
カイゾクは由香のスカートを触ろうとした。
「何するのよ変態!!」
由香はバっと男の手を振り払った。
「あんた、変質者?人呼ぶわよ!!」
由香は手で胸を隠しながら言った。
「変なのはお前だろ。カイグンのくせにスカートなんかはいて。…もしかして新しいカイグンの部隊か?」
男はう〜ん、とアゴに手をあてて考えるポーズをしている。
「あんた、さっきからカイグンとか何言ってんの?一体何者なのよ!?」
由香は叫ぶように言うと、男はニヤっと笑って答えた。
「カイゾクだよ。」
由香はぽかん、と口をあけて呆然としていた。カイゾク?ああ、あの宝探しとか一般船を襲ったりするあれですか?…いや、それはわかる。
「何?もしかしてカイゾクしらないの?」
カイゾクはふっと鼻で笑い、由香を上から見下ろした。
「カイゾクは知ってるけど…海賊って海にいるものじゃないの?」
「もちろん」
「ここ学校なんですけど」
「学校?カイグンの?」
「カイグンから離れろ!」
まるでコントのようなやりとりだ。
「カイグンとは無関係なの?」
カイゾクは顔をしかめて言った
「そうよ。」
カイゾクはあたりを見回した。
「それにしても暗いなー学校ってのは」
「停電してるからね。」
由香はこのカイゾク、と名乗る男に対して警戒心が薄れてきた。
(なんだか変な人だなぁ…)
続く
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2004/11/17(Wed)21:45:33 公開 / ストレッチマン
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■作者からのメッセージ
なんか区切りが中途半端になりました。
ネタ不足です(汗
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