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『ルート ─完─(一部修正&タイトル変更)』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:亜季瀬
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死ぬ事ばかり考えていた。
やりたいことなんてなかった。
自分なんてどうでもいいや、人生なんてどうでもいいや。
いつもこんなことばかり考えてきた。
親からは小さい頃捨てられ、そのあと親戚の家に引き取られて、もう高校生だから、と私を家から追い出した。
もうどうでもよかった。
すがすがしくて、一人暮らしもそんなに悪いもんではない。
だいたい一人は慣れている。
学校では、ずっといじめられていた。
最初の方は、友達がいたものの、裏切られたり裏切ったりしていくうちに、友達ってのがウザったくなってきて、友達の付き合いをやめていった。
私の行動がムカついたのかなんなのか知らないけど、いじめられるようになった。
だれも助けてはくれなかった。見て見ぬふり。
担任の教師に言っても、冗談ですまされる。
こんな毎日が絶えることなく続いていった。
はっきり言って、もう生きるのもウザったくなってきた。
1
毎朝毎朝、うるさいくらいに聞こえてくる。
「おはよう」と交わす声。
妬み半分で、私はこの時いつも無愛想な顔をする。
友達関係がウザったい、とはいっても、やっぱり少し寂しいのだ。
十七年間も生きてきたけど、信頼できる奴がいない。
一人でいい、親友と呼べる奴がほしい。
きっと心の片隅でこう思っているのだろう。
教室に入って、自分の机に鞄を置く。
その机には殴り書きで「死ね」と書いてあった。
またか、と思ってそのままにして、椅子に座ろうとすると、太ももの辺りが
チクッと痛んだ。
飛び跳ねるように椅子から離れると、先がきらりとひかる画鋲が置いてあった。
さすがに痛かったが、もうどうでもよかった。
どうせ私の存在なんて、一ミリにも満たない。
そんな事はわかっている。
授業開始のチャイムがなった。
一時間目は国語。
国語の担当教師が教室に入ってから、十五分後の事。
「先生、熱っぽいんで保健室にいってきます」
教室を出て保健室に向かう。
勿論、熱などない。
学校がタルイから早退する計画を実行中なのだ。
最近はよく、このテを使う。
ようやく担任もクラスメートも怪しいと思い始めたらしい。
だけど私はおかまいなし。
なんとでも思えばいい。
ガラガラ、と保健室のドアを開けて入っていった。
「どうしたの?」と保健の先生が言うと、私は真っ先に「体温計貸してください」と体温計を手に取った。
そして、保健の先生がよそ見をしている隙に、体温計を上下に動かしこする。
ピピッ、と音がして私は脇にはさんでいた体温計を取り、保健の先生に渡した。
「三十八度もあるじゃない!!親に連絡・・・」
「親は今いません」
ありもしない嘘をつく。
親なんぞいない。
「仕方ないわね、家まで送っていくわ」
そう言って、保健の先生に家の玄関まで送ってもらった。
とはいっても、家にいても何もすることがない。
暇だ。
何かないか、と辺りをきょろきょろとしていると、目線の先にあったパソコンに興味をひかれた。
昔はよくやっていたが、もう何年もやっていない。
「つまんないし、久しぶりだからいいよね」
そう言ってパソコンの電源をつけた。
インターネットをやることにした。
本当に久しぶりである。
しかし、見たいサイトや調べることがない。
その時、一瞬だけこんなことが頭を走った。
ずっと前に、テレビで「自殺サイト」のことをやっていた。
そこでは色んな人たちが集まり、私みたいな人がたくさんいるらしい。
私は少し、自殺サイトに惹かれた。
そして私は、自殺サイトを開いた。
甘い気持ちで。
それが、どれだけの恐怖なのかも知らずに。
2
暇つぶしに開いた自殺サイト。
画面にでてきた色を見て、私は思わず「うげっ」と顔をパソコンからはなした。
背景が血の色みたいな赤。
赤は、画面全体を埋め尽くしている。
その真ん中には「自殺ネット」と書いてある。
来客者の数、一万二千五百人・・・。
ふうん、結構ここに集まってるんだ。
そう思いながら、自殺ネットのなかにあった「自殺掲示板」を開いてみた。
掲示板の背景は赤ではなく、黒い。
その黒いなかに赤い文字がたくさん。
たくさんの書き込みの内容は、ほとんどが「一緒に死んでくれる人募集」だとか「どうやって死ねるか」とかばっかり。
本当に辛かったのであろう。
生きることが。
こんな時代が。
とりあえず、私も「クミ」という名前で掲示板に書き込みをした。
「こんにちは、初めてですがどうぞよろしくお願いします」
すると、一分もたたないうちに返信が来た。
「こんにちは。初めてですか。大歓迎ですよ」
コメントの上にある名前の欄には「まい」と書いてある。
それにしても、なんだか対応が普通っぽくて気が抜けた。
私のイメージでは、語尾に「ふふふ」とかついてるのかな、とか思ってたけど
全然違う。
いかにも普通だ。
「自殺サイトって、みんなが思ってるほど怖くないんだ」
口に出してしまうほどだった。
私はその後も、書き込みを続けた。
「私学校で今いじめられてるんですよ。私の存在なんか無視されてます。
もう死にたいです。」
まいさんから早くも返信が来た。
「私もですよ!もうすっごい最悪。自分は何様だって感じ。
だからもう死にたい」
「ですよね!私何もしてないのに何で殴られたりしなきゃならないんでしょうかね?」
「机とか教科書とかに『死ね』とか書いて何が楽しいんでしょうね。こっちの身にもなってみろ!って言いたくなりますよね」
「私のところなんか椅子に画鋲が置いてあるんですよ!?これひどすぎだと思いません!?」
こんなことが2時間も3時間も続いた。
まいさんとはどうやら話が合うみたいだ。
そう書き込もうとしたら、まいさんに先を越され、
「クミさん、貴方とは気が合うみたいです。」
少し嬉しかった。
今までこんなこといわれたことなかったから。
急いで、
「そうですね。」
と書き込んだ。
「よければ私と友達になりませんか?」
まいさんからとんでもない書き込みがあった。
友達。
そこで少し戸惑った。
友達って言うと、過去のことを思い出す。
確か私が小学3年生の時だったろうか。
クラスがえで、友達ができた。夏樹という名前だった気がする。
夏樹とは、いつでもどこでも一緒だった。
でも夏樹は、活発なのでどんな子でも仲が良かった。
しかし、ある日聞いてしまった。
私がトイレに入っているとき、トイレの外で夏樹とクラスの女子が話していた。
「ねぇねぇ、夏樹なんであのクミって子と友達なの?」
「えー?何で?」
「だぁってさぁ、あの子暗いしキモくない?」
「何言ってんの、あたしはクミを利用してるだけ。
あの子何言っても断れないから便利なんだよねー。」
トイレから出られなかったはずが、足が勝手に夏樹たちの方へ向かっていった。
「夏樹・・・?」
その日から、私と夏樹は縁を切った。
だからもう、信用できる人しか友達にはならない。
そう思った。
でも、多分、まいさんは違う。
そう信じたい。
「いいですよ。すごく嬉しいです。」
気がついたら、時計の針は12を指していた。
そして外は暗闇に包まれているように暗い。
いい時間なので、もう寝ることにした。
3
窓からこぼれた太陽の日差しと、少しうるさい目覚まし時計の音で私は目覚めた。
今日も嫌な一日がくるのか、と思うと学校に行きたくなくなる。
ベットからおりようとした時、ふと昨日の出来事が浮かんだ。
「よければ私と友達になりませんか?」
まいさんを信じてる。
多分まいさんは優しい。
私を見殺しにしたりしない。
私を置き去りにしたりしない・・・。
それでも、まだ少し信じられない私がいる。
ううん、信じなきゃ。
それでなきゃはじまらない。
それに、もう一人じゃないし。
そうやって自分に言い聞かせ、身じたくをし、こんがり焼けたトーストをかじって家を出た。
「帰れよ!」
教室に入るなり、複数の女子に言われた。
別に驚きはしない。悲しいわけじゃない。傷なんかつかない。
もう慣れている。
私はその複数の女子の言葉を無視し、自分の机に向かった。
すると、私の前に女子がずらっと並び、
「帰れっつってんの。」
もう本当にくだらない。
私は女子のリーダー格をきっと睨み、
「邪魔だからどいてよ」
それでもどかないから、彼女らを押しのけて机に向かった。
私の行動に腹を立てたのか、彼女らは私を突きとばした。
私の身体はななめになり、身体の後ろにあった机が、ガラガラガッシャンと音をたてて倒れた。
「帰れ」
私を見下ろして言った。
これも慣れている。
制服のスカートについていたほこりを払って自分の机に向かおうとした。
瞬間、いきなりむなぐらをつかまれ、平手打ちをくらった。
「帰れっつってんのが聞こえないのかよ!」
もうここまでされたら学校にいる気もなくなる。
授業を受ける気分にはなれなかった。
仕方なく、教室を出る。
「死ねよ」
教室を出る間際に聞こえた。
それに構わず、私はつかつかと廊下を歩き始めた。
はぁ、とため息をついて家のドアを閉める。
結局今日も学校サボり。
まぁ、いいか、と思いスクールバックを適当な場所に置く。
その直後、私は真っ先にパソコンの前に向かう。
そう、自殺サイト。
まいさんに会うため。
電源をつけ、すぐにインターネットを開き、自殺サイトにいった。
掲示板には、まいさんがいて、私はほっと安心する。
だって私一人じゃつまらないし、なんといっても意味がない。
愚痴る相手がいなければ、話にならないのだ。
そして、カタカタとキーボードを打ち始めた。
「こんにち。今日学校サボっちゃった。まいさんもサボり??」
まいさんの早い返信が来た。
「やっほクミさん。やっぱクミさんも?あたしもサボっちゃった。」
予想は当たった。
やっぱり気が合う同士、やられていることも一緒みたいだ。
するとまいさんからまたレスが。
「てゆーかさんづけやめない?タメ口タメ語で。なんかぎこちないし。それに友達っしょ?」
とても嬉しかった。
特に友達ってのが。
「じゃぁ・・・まい?」
私がそう書き込むと、
「うん。それそれ。これからもよろしくねクミ。」
なんだか嬉しくて、なんだかおかしくてつい、笑えた。
その後、私達はいつものように愚痴る。
「ホントさぁ。今日、机にゴミ箱置いてあったし。もうムカついた。自分らなんなんだよ!って感じ。」
「だよねぇ。私なんか今日、教室いきなり入ったら『帰れ!』だよ!?もう嫌になったから帰ったけどさぁ」
「そーゆーの最悪だよね」
私はこの場が好きだ。
ここが自殺サイトだということを忘れてしまう。
自殺サイトなんて、名前が重々しいわりにはあまり怖くはない。
楽しい場所である。
「ねぇクミ」
「何?」
「死ぬときは一緒だからね」
「当たり前じゃん」
「逃げないでよね」
「平気だよ」
思えば、こんな約束が、私を恐怖のどん底におとしいれたのかもしれない。
この無責任な約束が。
4
朝8時。
いつもなら学校に行く時間だが、今日は学校をサボる。
なんだかタルイし、行く気もない。
学校に電話し、担任に「熱っぽい」と嘘を言って休んだ。
そうすれば、いじめられずにすむ。
タルイ授業も受けずにすむ。
私はニヤついて、いつものようにパソコンの電源をつけ、自殺サイトを開く。
「あれ・・・?」
驚くことに、まいがいない。
いないというほうが珍しいあのまいが。
なぜいないのかはすぐにわかった。
親か担任かに何か言われて学校に行ったんだろう。
現在、掲示板には誰もいないのでつまらないから、パソコンをやめることにした。
パソコンの電源を切った後、ゴロンと床に寝転がった。
暇だ。
本当にやることがない。
天井をずっとみていると、だんだん眠くなってきて、まぶたを閉じた。
「・・・さん!宮地さん!」
その言葉ではっ、と目覚めた。
ピンポンピンポン、とチャイムの音が家に響く。
急いでドアを開けると、担任の教師が立っていた。
「体調の方は、どう?」
担任が微笑んで聞いたので、
「結構よくなってきました。心配かけてすみません。」
と私も笑顔で答えた。
でも、心の底では「せっかく寝てたのに起こしやがって」と腹をたてていた。
それから数分、担任が話をして、最後に「明日、来るのを楽しみにしてるわ。」と言って帰った。
誰が来るもんか。
ふてくされて時計を見ると、時間は7を指していた。
朝からずっと寝てたんだ。
瞬間、自殺掲示板を思い出す。
あ、7時ならまいも学校から帰ってきてるはず。
まいが掲示板にいることを祈りつつ、パソコンの電源を入れ、自殺サイトを開いた。
掲示板を見て安心した。
よかった、まいはいる。
「まいー。こんちにー。」
私が書き込む。
「死にたい」
驚いた。
いつもと違う。
いつもなら「やっほ」とか「ちわぁ」とかそんな感じなのに、今日はのっけから「死にたい」。
私は気になって、「どうしたの?」とたずねる。
「死のう」
え?
「クミ一緒に死のう」
よく分からなかった。
「どうして?」
聞き返すと、
「もう私生きてても仕方ない。もう嫌。死ぬ。だから一緒に死のう」
びっくりしたけど、私も生きてる意味ないし、なによりまいと一緒に死ねるなら怖くないと思って、「いいよ」と返信した。
「詳しい日時はまた明日書き込むから。それまで待ってて」
それを最後に、まいは掲示板から去っていった。
「11月6日、昼12時に新宿東南口で待ってる。黒い帽子かぶって、灰色のトレンチコート着てるから。ヨロシクね。」
朝8時、私はまた学校をサボって自殺サイトにいくと、まいの書き込みがあった。
11月6日。
つまり3日後だ。
これで私は自由になれる。
くだらない毎日が終わる。
そう思うと、気が楽になった。
東南口ってことは、まい都内に住んでるんだ。
私と同じ。
結構近くに住んでることがわかって少し嬉しかった。
3日後、私は、自由になれる。
5
コートを着て、家のドアをパタン、と閉める。
もうさすがに11月なので、吐息が白い。
11月6日。
この3日間、私は心臓が高鳴っていた。
楽しみで仕方なかった。
もう苦しくない。
私は自由になれるんだ。
まいを待たせてはいけない、と思い駅まで走って行った。
「新宿駅〜、新宿駅〜、お出口は左側になります」
特長のあるアナウンスの声で、私達は一斉に車両から出る。
押しつぶされながらも無理強いに、やっとこホームまで出られた。
混みあっている階段を駆け抜けて、東南口の改札を出る。
ふぅ、と息をついて、壁にもたれかかり少し休んだ。
左には大きな駅ビル、真正面にはパチンコ店やデパート、右には・・・。
灰色のトレンチコートを着て、黒い帽子をかぶっている人。
あれ・・・、まさか・・・。
「まいっ」
足が勝手に動きだす。
「クミ?」
かすかにそう聞こえて、まいだと確認し、まいのもとへ駆けた。
「待ってたよ」
サラサラした茶色い髪の毛からのぞかせている細い目が、穏やかに笑っていた。
「あたし達、今日で自由になれるんだね」
まいがコクンと頷く。
「行こうか」
手を引っ張られ、まいの後をついて行った。
「ここは・・・?」
見た事もない、とても古びた建物の屋上まで来た。
「廃墟された病院の屋上。」
廃墟・・・。
そうか、だから上ってきた階段もギシギシ音がなっていたのか。
屋上のフェンスも、ほとんどなくなっている。
あっても、破けているからフェンスの意味がない。
街は見下ろせるし。
自殺には最適な場所。
「ここ、自殺にぴったりだね」
私がそう言うと、まいは自慢げに、
「でしょ?ここ私が見つけ出したんだ。多分知ってる人、少ないと思う。」
その会話を最後に、私達はゆっくりと、意味のないフェンスの近くまで歩いて行った。
大きく破けているフェンスの隙間から、下を見下げる。
「クミ?」
不思議げに、まいが聞いてきた。
私の足が震えている。
怖くなんかないはずなのに?
何故?
この3日間、楽しみで仕方なかったんじゃないのか?
自由になれるんじゃないのか?
飛び降りることが、死ぬことが、怖いのか───────?
「ねっねえまい」
口が勝手に動き出した。
「もう少し計画してからの方がよくない?」
すると、まいは口を半開きにして、
「はぁ?」
「少し早すぎたかなぁー?って思って・・・」
「何言ってんの?今更」
「だって・・・」
「あんたそんなのが通用すると思ってんの?」
「ゴメン。だけど・・・」
「逃げないでよねって言ったじゃん!」
まいの言葉が、屋上じゅうに響いた。
あ─────、掲示板でまいが─────。
「逃げないでよね」
私は真っ青になった。
死ぬ事なんて怖くないのに。
生きたくなんてないのに。
じゃあ、じゃあどうして、自殺に抵抗している?
「逃がさないからね」
「ちょっ・・・まいっ・・・」
その瞬間、後ろからギィ、と鈍い音がした。
振り向くと、ドアが開いている。
ドアの前には若い女の人2人がいた。
「ここさぁ、街が見下ろせてめちゃくちゃいい場所なんだよね」
「えー?あ、ホントだー。」
「ここ知ってんのあたしらくらい・・・」
彼女らも、平気で喋っていたが、死んだ目をしている私達に気付いたらしく、会話を中断しそそくさと屋上の隅に行ってしまった。
チラッとまいに目をやると、悔しそうな顔をしている。
その時、まいがドアノブに手をかけ、ドアを開いた。
「まい」
私が呼びとめたが、気にしないようにまいは歩き出した。
「ま・・・」
「裏切り者」
細い目で睨みつけられ、私はどうすることもできなくなった。
その場に立ちすくし、屋上から去っていくまいの後姿を見ているだけだった。
どうして裏切ったんだろう?
どうして死ねなかったんだろう?
裏切り者?
逃げられない?
もう逃げられることはできない──────?
これから私を待っていたのは、人生至上最悪の事態だった。
自殺サイト、という甘い罠にかかってしまったから。
6
暗い・・・。ここどこ?
人もいないし、明かりもない。
コツ、コツ、と自分の足音だけが虚しく響く。
「どこよ・・・ここ・・・気味悪い」
すると、暗闇のなかから何かが動いていた。
え・・・?誰・・・?
灰色のトレンチコートを着て、黒い帽子をかぶっている。
まさか!
「まいっ!」
そう叫び、まいのところまで駆けていった。
まいは振り返り、あの細い目でにっこりと笑っている。
「裏切り者」
ウ ラ ギ リ モ ノ ?
「やめて!!」
がばっと起きたら、視界にうつっていたのは自分の部屋。
ゆ・・・夢か・・・。
ほっ、と息をついていると、昨日のことが頭をよぎった。
もう、逃げることはできないのか?
何故死ねなかった?
私は裏切り者?
私は生きたいの?
色々な思いを胸に、私はパソコンへ向かう。
電源を付け、自殺サイトを開く。
まいは来てるだろうか。
掲示板にいくと、まいはいた。
みんなと普通に接している。
安心して、まいに「おはよう」と書き込む。
「裏切り者には最適な物を送っておいたから」
まいからの返事はそれだけだった。
最適なもの?
「なによそれ」
「逃げないでね」
まいは早足に掲示板からいなくなった。
最適なものを送っておいた?
ていうかそれ以前に、なんでまいが私の住所知ってんの?
探し出した・・・?
いや、まさかね。
でも、それ以外に何もない・・・。
背筋がゾッとし、気味悪くなってきた。
もうやめよう、こんなこと考えんの。
気分を晴らすため、買い物に出かけた。
買い物から帰り、家の門を開けようとしたとき、門の隣にあるポストになにやら一枚の紙が突っ込んである。
なんだろう、と思い手にとってみた。
「逃げないでよね」
これって。
まいだ。
まいの仕業だ。
きっと私の住所をネットかなんかで探し出したんだろう。
私は囚われてるの?
すぐ後ろにまいがいるような気がして怖かった。
それを始めに、まいのやることはエスカレートしていった。
ポストを傷だらけにしたり、門に血をつけたり。
2日後、私宛に送られたものが届いた。
え?私何か頼んだっけ?
ダンボールを開け、何重にもなっている敷き紙をとる。
敷き紙をとると、小さいビニール袋の中に、カプセル状の薬がある。
これ・・・、これって。
よくみてみる。
あ・・・
青酸カリ・・・?
「・・・によこれ・・・何よこれっ」
無意識にダンボールの中を探ると、手紙があった。
「逃げるな」
瞬間、まいが頭を走った。
「裏切り者には最適なものを送っておいたから」
それ・・・これのことだったの?
震えている私の後ろにある携帯電話が鳴った。
おそるおそる、出てみる。
「もしもし?」
「何年前かにあったよね、ネットで青酸カリ送ってそれ飲んだ人が死んだって事件。すごいよね、青酸カリって一発で逝けるんだって。送ったやつ、かなり純度の高い青酸カリだから、早く飲んでよね。逃げないでよね」
ガチャン、と電話をきられた。
聞き覚えのある声。
まいだ、確実にまいだ!
どうしよう、私は、もう・・・。
マ イ ハ 、 ス グ ソ コ ニ イ ル ?
7
あの青酸カリ事件から、6日がたった。
私が怖がっているのにもかかわらず、まいのやることはエスカレートしていく。
ポストなんかもう傷だらけで多少穴が開いている。
「はぁ・・・」
あれから自殺サイトにはちょくちょく行った。
だけど、まいは私の名前を呼ばず、「裏切り者」と呼んでいる。
それに、私はまいに完全に人間扱いをされていない。
午前9時。
どうせ今日一日暇だから、散歩でもすることにした。
家を出て、近所をブラブラ歩いていると、コツ、と足音がした。
今歩いているのは私だけなのに・・・?
後ろを振り返ってみるが、誰もいない。
どういうことだろうか。
まぁいいか、と気にせずにまた歩き出した。
コツ、コツ、コツ、コツ。
何?
また後ろを振り返る。
誰もいない。
怪しくなってきたので、歩く速度を速めた。
すると奇妙な足音も速くなってくる。
「なに?」
ピタッ、と止まりまたまた後ろを振り返る。
足音もピタリと止まった。
何よ・・・?気持ち悪。
走って逃げようとするが、奇妙な足音も走っている音がした。
「何よっ・・・。何なのよっ」
まさか、まい?
まい・・・まい!
そんな気がした。
目的地を変え、家に猛スピードで帰る。
足音はまだ続いている。
だんだん家が見えてきて、ようやく家のドアを開けて家に入った。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
何とか逃げきれた。
それでも、まだいるんじゃないか、と気になってドアをほんの少しだけ開けて外を見る。
外には誰もいなかった。
「よかった・・・」
気が落ち着いたので、部屋に上がった。
次の日、傷だらけのポストになにやら嫌な気配を感じた。
何?何だろう・・・?
気になり、外に出てポストの中に手を突っ込む。
瞬間、掌に衝撃が走った。
「っつ」
ポストから手をはなし、自分の手を見る。
手は血だらけで、大きな傷があった。
「何で・・・何で?」
再度ポストに、注意して手を突っ込むと、ひやりと冷たい物があった。
え・・・何?
慎重にそれをポストの外に出す。
「包丁・・・?」
先が鋭く光っていた。
一方、掌は血だらけで、痛くて仕方なかった。
何で包丁なんか?
まい?
まいの仕業?
まい・・・そうだ、まいだ。
「いやぁぁぁあぁぁあぁぁあ!!!」
やめて・・・やめて!
もうやめて!
もう・・・こんな・・・こ・・・と・・・。
だんだんだんだん、意識が遠くなっていった。
モウヤメテ・・・。
* * *
「宮路さん!」
その声で目が覚めた。
あれ?ここ・・・病院?
横を見ると、看護婦さんと医師が心配そうに私を見ていた。
「気付きましたね。・・・よかったです。」
未だに状今日が飲み込めない私をよそに、医師は「よかったよかった」と話している。
えー・・・っと・・・。
確かポストに包丁があって・・・。
それから血がドクドクドクドク・・・・。
「一体どうなされたんですか?」
看護婦が聞いてきた。
「まいの・・・」
しまった。
ここでまいのことを言ってしまったら、本当にややこしいことになる。
口が裂けても言えない。
「まい?」
「とっ友達と昼ごはんを作っていて、友達が帰った後、洗い物をしていたらうっかり手をすべらせて包丁で手を切ってしまって・・・」
嘘をついてごまかす。
医師達は信じたみたいだ。
それから私は2日、入院した。
2日後、私は退院して、手の傷は消えてないが痛くはなくなった。
ドアを開け、部屋にはいる。
部屋にはいるなり、私の携帯が鳴った。
「もしもし?」
「あたしぃ〜今から死ぬからぁ〜。あんたも一緒に死なない?死ぬぅ〜。ぎゃはははっ」
プツッと切れた。
聞き覚えのある声。
私は絶対まいだとわかった。
まいが死ぬ?
いや、ありえない・・・。
いや、ありえないくない!
あいつは本気だ!
絶対自殺すると思う!
私にいろんなことしといて、自分は死ぬなんて許せない。
死なせたりなんかしない・・・!
急いでまいの自殺を止めに行こうとしたが、場所に迷った。
どこだ・・・?どこなんだ・・・?
瞬間、私は自殺に失敗した時のことを思い出した。
廃墟・・・廃墟した病院だ!
新宿駅からタクシーに乗って、約15分くらい。
新宿とは思えないほど人の少ない通りの裏にある。
私は走って家をとび出た。
「運転手さん!もっとスピードあげられませんか!?」
新宿駅から少し歩いてタクシーをつかまえ、今乗っている現在。
私の要望に運転手さんは困った顔をして、
「お客さん、これ以上はもう・・・」
早く。
早くしなくちゃまいが死んでしまう。
このまま死なせるもんか。
このまま楽になんてさせない!
やっとこ人通りの少ない路地につき、タクシーおり場で料金を払い、廃墟された病院に走って向かう。
ひたすら走り続けた。
廃墟済みの病院の入り口を通り抜けて、ギシギシと音がする階段を上り、屋上のドアを開ける。
鈍い音と共に、意味のないフェンスの前に立っている人が見えた。
「まいっ!?」
私が呼ぶと、まいは振り返った。
まいに近づく。
私はまいをキッと睨む。
「あんた本当に死ぬの?」
「そうだけど。裏切り者には関係ないじゃん」
まいも私をキッと睨む。
「・・・あんた私がこの数日間、どんな気持ちだかわかった?あんたのせいで掌から多量出血で病院行きになったりしたんだからね!それで自分だけ死んで楽になる?ふざけんなよ!あんたを楽になんかさせない。死なせたりなんかさせないからね!」
今まで思ってきた事をまいにぶつけた。
私とまいは睨み合っている。
まいを死なせないように、私は意味のないフェンス側に立ってそこをふさいだ。
瞬間、まいに突き倒され、私の足がふわっと浮いた。
はっと我に返り、あわてて屋上の端をつかむ。
下は木や土。
この建物が1000メートル2000メートルにも感じた。
このままじゃ死ぬ!
「あんた逃げてばっかりだったよね・・・もう逃がさないから」
「ちがうっ・・・」
「何がちがうのよ!」
まいは私の手に足をのせた。
やめて!
死ぬ!確実に死ぬ!
やめて!やめて!やめて!
「死にたくない!私まだ死にたくない!」
私はまだ死にたくない!
こんな形で死ぬのは嫌だ!
まいは私の手を足で蹴り、私はそのまま身体が軽くなって、下に落ちていった。
そのあと、まいも飛び降りた気がした。
確かな記憶は、それだけ・・・。
* * *
「っつ・・・」
むくりと私は起き上がった。
あれ・・・?
生きている・・・?
辺りを見回すと、警察の人が私達を取り囲んでいた。
まいも隣で不思議そうに警察の人達を見ている。
生きていた。
私は生きていた。
それから、私達は病院に運ばれた。
病院で警察の人達と話しをして、病院に入院するらしい。
なんだかんだ思っているうちに、病院に着いた。
「まいっ!」
私達が病室に運ばれた直後、巻き髪でロングスカートを履いた女の人が病室に入ってきた。警察の人達はまだ病室に来ていない。
「お母さん・・・?」
まいが口を開いた。
すると、まいのお母さんはまいを抱きしめた。
「ごめんね・・・ごめんねまい・・・お母さん気付いてやれなくて・・・。もういいの。もう眠っていいのよ・・・。」
まいのお母さんもまいも泣いていた。
それを私は、横で見ていた。
警察の人に、まいのお母さんは呼ばれ、病室からいなくなった。
「あたし・・・バカだよね・・・」
まいが下を向いて言う。
「こんなに泣いてくれる人がいるのに・・・私を必要としてくれる人がいるのに・・・バカだよね」
私もつられて下を向いた。
「・・・あたしね・・・、ずっといじめられてて、辛かったの。それで、自殺してあいつらに仕返ししてやろうと思った。でもそれは、甘えだって気付いた。強くなることが大切だって、気付いた。」
だんだん、まいの声が震えてきた。
「強くなって、精一杯生きてみせて、幸せになることが大切なんだって・・・。」
強くなって、精一杯生きて、幸せになる──────。
「ねぇクミ」
まいは顔をあげて言った。
「ごめんね。あたしクミの人生の妨げになっちゃった。クミの道はクミのものなのに。あたし、だからあたし・・・」
そのまま、まいは泣き崩れてしまった。
その言葉の続きはいつになっても聞けなかった。
「死」という暗闇に立ち向かった時、私は初めて怖いと実感した。
本当は怖くないのに─────。
だけど、それは口先だけだと知った。
心の奥底では「生きたい」と思っていたのだろうか。
うん、多分そうだと思う。
「死にたい死にたい」と軽々しく言っていたからこそ、「生きたい」という気持ちが膨らんでいったのかもしれない。
突き落とされたとき、初めて「死にたくない、まだ生きたい」って思った。
青酸カリが送られてきた時だって、死の恐怖におびえていた。
「おかしい」「怖い、何か違う」・・・、そう何度も思った。
簡単にそれが命の大切さみたいなものかもしれない。
多分大切なのは今じゃなくて──────。
大切なのは、未来だから──────。
それを勝手に「つまらない未来」とか「どうせ幸せになんかならない」とおもっているから生きたくなくなるかもしれない。
でもそんなのわからない。
今決め付けることじゃない。
生きる事なんて死ぬ事と同じくらいくだらない。
そんなのでいいよね。
また、死にたくなったら──────。
強い自分をイメージしてみれば、少しは生きる気力がわいてくるかもしれない。
いそがなくていい。
今からでも遅くない。
初心に戻って、ゆっくり、ゆっくり。
あれから4年。
私は今、出版社に就職している。
結構それなりのお付き合いもしていて、友達も出来て、オフィスライフも生きるのもそんなに悪いもんではないと感じる。
一方まいは、というと。
どうやら自分の経験を生かして、自殺カウンセラーになっている、らしい。
私も時々、まいの手伝いをしに行く事もある。
場所が田舎の方だから、行き帰りするのが大変だけど。
で、現在、まいの手伝いをしに電車に乗っている。
もうすぐまいのいるカウンセリングの事務所へつく。
駅につき、田舎の景色を見る。
なんだか落ち着く。
ホームにおりて、事務所へ向かう。
駅からは徒歩3分、とかなり近い小さな事務所。
周りの景色を見ながらダラダラと歩いているうちに、すぐに事務所についた。
「いらっしゃい!」
出迎えてくれたのは、4年前とずいぶん変わったまい。
化粧もしているし、何より明るくなった。
「もう来客者がいるのよ。はやく!」
私は用意された椅子に座った。
まいが、「何があったのかな?」と聞くと、来客者は下を向いて、
「死にたいんです。学校でいじめられてて、3ヶ月前まで親友だった奴にも裏切られて・・・」
私は、来客者の顔を見て話した。
「そっか・・・辛いけど、死んじゃダメ。」
「どうして?」
「死んだら無になるだけ。いじめなんかしてるくだらない人達に、あなたの歩む道を妨げされて、死の道を選ばされていいの?」
まいも、口を開く。
「悔しいでしょ?だから強くなって、精一杯生きて、幸せになることがいじめっこへの仕返し。どう?」
来客者は、少し微笑んで頷いた。
「大切なのは今じゃなくて、大切なのは未来だから」
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2004/11/14(Sun)20:16:46 公開 / 亜季瀬
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■作者からのメッセージ
アドバイスにより、タイトルを戻し、一部変更しました!そこのところヨロシクお願いします。
さて!最終回を迎えました。どうだったでしょうか?初めて「自殺」というテーマに挑戦しました。結構大変でした。では!これからも頑張っていこうと思います。感想、アドバイスをくださった皆様には深く感謝です。ありがとうございました!それでは、次回作であいましょう!
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