『闇寂葬月歌一〜六話』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:トーナ                

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闇寂葬月歌

一曲目 風にきえないで


 星空よりも明るい夜景。

 セントラル弐番街……ビルの屋上。

薄暗い闇の中、目を瞑りながら男は足でリズムを取る。

 タンタンタンタンタンタン……タン。

 瞑っていた目をゆっくり開け、地上の星を見下ろし、呟いた。

「いいリズムだ……ゆるい風すら踊っている」

 とたとたとたとた。

 軽い足音が地面を叩く。

「ファニア〜、お仕事〜」

 ゆるいその呼び声に男はゆっくり振り返る。青い月に照らされ浮かび上がるファニアの姿。金色の髪に白いメッシュ、血を映したような赤い瞳、闇に溶け込むような黒いズボン、それとは対照的に月明かりを反射する純白の服。ファニアは優しく微笑み、走りよってきた人影の方に歩み寄る。走りよってきた人影、そいつが立っているほうに月明かりが差し込み、闇に溶けていた人影は輪郭を取り戻す。闇にきらめく栗色の髪、その上で少し動く丸い茶耳、ファニアを見つめる金色の瞳、赤い服の上に白い上着を羽織った幼い少女は、らんらんと金色の瞳を輝かせながらファニアを見つめる。

「じゃあ、いくか」

 優しくファニアが微笑むと、少女は太陽のような笑顔を浮かラ力強くうなずく。その姿を優しく見つめ、ファニアはポケットから薄い携帯電話を取り出す。すばやくボタンを三回叩くと液晶が輝き、3Dホログラフィーが暗闇に浮かび上がる。

 映し出された男……灰色がかった髪に漆黒の瞳、裾の黒い白ズボンに黒いシャツ。両手に大剣を持った細身の男。男の背中には真っ赤な逆十字とそれに絡みつく蛇の骨のエンブレム。それを確認するとファニアはもう一度ボタンを押す。3Dホログラフィーの男が消え、かわりに少女が映し出される。

 映し出された少女……赤く腰まで伸びたツインテールに真紅の瞳。黒いシャツに赤い羽織、白いハーフパンツ。やはり羽織の背中には逆十字に絡まる蛇の骨エンブレム。少女は不敵な笑みを浮かべたままの状態で固まっている。少女を確認するともう一度ボタンを押す。ホログラフィーは切り替わり別の少女を映し出す。大きい金色の縦巻きロールに青い瞳。白いシャツに青い羽織、黒いハーフパンツ。前の少女と同様、羽織の背中には逆十字に絡まる蛇の骨エンブレムが描かれている。

「冥帝直属の特殊部隊が不法入星とは……まったく……厄介だな」

 ホログラフィーを見つめながら少女が声をかけてくる。

「今回のお仕事はその三人の警護? 」

「いや……説得、拘束……だな」

 少し考え、言葉につまりながら言うと少女は不思議そうに聞き返してくる。

「いつもみたいに力技で行かないの? 」

 その問いにファニアは苦笑いする。

「バカ言え……勝てる見込みがない喧嘩は、なるべく避けるもんだ」

 ……………。

 セントラル四番街……ビル屋上給水塔の上。

 風に揺れる縦巻きロール。少女は夜景を見下ろしながら小さくため息をつく。

『どう、スミカ。見つかった? 』

 背後から、少し心配するような少女の声が風に乗って聞こえた。その声にスミカはため息交じりにこたえる。

「さっぱりですわ。神具用結界でも張っているのかしら? 」

「張っているだろうな」

 給水塔の下から男の声が聞こえる。スミカはその声を聞くと急いで給水塔から飛び降りた。

「鏡也さん」

 ゆるい風に揺れる灰色の髪、漆黒の瞳は闇を睨みつけ、小さく息をつく。

「ったく、忌々しい」

 男は苛立ちを押さえながら腕を組むとスミカのほうを向く。

「アリサはどこに行ったんだ? 」

 その問いに、スミカが答えようと口を開いた、その時。

「ここにいるよ。鏡也」

 突如闇の中から赤いツインテールの少女が現れた。

「アリサ……収穫は? 」

 鏡也の問いにアリサは笑顔で顔を横に振る。

「全然……獣人区は収穫なし! やっぱセントラルにあるんじゃないかな〜? 」

 夜景を見下ろしながら三人は考える。

「仕方ない力の強いところを虱潰しに探すか」

「仕方ありませんわね〜。なるべく早く済ましちゃいましょう」

「そうだね。不法入星で強制撤収なんてされたくないし、とっととお仕事しますか」

 三人は気合を入れると夜景を見下ろし、薄く笑う。

「じゃあ、行くぞ。アリサ! スミカ! 目的は神具『Chaos・Key(カオス・キー)』の奪還! 邪魔する者は、薙ぎ払え! 」

『了解! 』

「ひっさびさに楽しめる!やったー! 」

 喜び勇んでアリサがビルから飛び降りる。その姿を覚めた目で見送りながら小さくため息をつき、頭を横に振る。

「アリサ……あまり事を荒立てないで欲しい物ですわね。物事は……エレガントに、ですわ」

 不敵に微笑むとスミカもビルから飛び降りる。二人の姿を見送り、鏡也は目を瞑り、肌を撫でる風を感じる。

「いい風だ。少し血なまぐさくて……十分に殺気立っている。戦前の風だ」

 ………………。

 セントラル……地下、闇の中。

「冥王直属の特殊部隊が動いたか……」

「どうします? 」

「さっさとやっちまうか? 」

「いや、焦ることはない。Projectは順調に進行しているんだからな」

「でも、退屈だよ〜。遊びたい遊びたい遊びたいー! 」

「ふっ、そぅ慌てるな、ミラ。すぐに遊ばせてやる。……クラウン」

「はい〜? 何ですか〜? ランサー様〜」

「『Mk―U』の最終調整はすんだか? 」

「はい〜。準備万端です〜」

「シルビア」

「蜘蛛怪人、ウスバカゲロウ怪人、共に準備OKです。いつでも起動できます」

「マジェスタ。神具の封印はどうだ? 」

「ああ、準備OKだ」

「全ての準備は整ったな」

「あとは……」

「月を引き摺り下ろす」

「鍵はある」

「月を引き摺り下ろせ! 」

「もしかしてそれって〜」

「出撃しろってことだ」

「やった〜」

「マジェスタ……お前は怪人どもを連れて四番街に行け」

「おう! 」

「ミラ……お前は弐番街だ」

「アイアイサー! 」

「シルビアは待機、クラウンはMk―Uと共に七番街にいけ」

「了解」

「はいは〜い」

「では、ミラ、マジェスタ。好きなだけ遊んで来い! 」

 「おう! 」

 「やった〜」

 「クラウンはMk―Uのテストを兼ねて七番街を破壊しろ」

 「はい〜」

 「シルビア……Project『Chaos・Back』最終段階に移行だ」

 「了解」

「世界は正常であってはいけない。常に混沌でなければ不自然なのだ。だから俺達が戻すのだ。世界を正しき形に」




二曲目 ICE


 セントラル弐番街……中央区。

 中央の『マーズ』を中心に七つの街が取り囲むように集まった空間。それがセントラル。火星の首都であり、火星最大の異種交流点。  火星の三割を占める街の集合体セントラル。

「…………」

 街の中心『赤川公園』の噴水脇に腰をかけながら俺は大きく息を吐く。

 この広い星でどうやって探せばいいんだ? とりあえずこの街で一番人通りの多い所に来てみたが……さて、どうしたものか。俺は少し考える。まず、奴らが火星に不法入星してまで来た目的。……多分、軍事以外のことだろう。正確な目的まではわからないが、火星上部に相談できないこと。まぁ、目的はどうであれ早めに撤収してもらわないと。奴らが警察に見つかったら事だ。最悪、冥帝軍(めいていぐん)対軍神隊(ぐんしんたい)。そうなったら最悪だ。火星と冥王星でドンパチはまずい。下手すれば天王星の天零軍(てんれいぐん)、土星の九龍(クーロン)、神刀組(しんとうぐみ)。水・金・木星と海王星は手出ししないと思うが、土星と天王星は黙ってないだろう。火星、冥王星、天王星、土星……この四つ巴が始まったら最後、泥沼だな〜。ふぅ、それを回避させるためには、奴らが暴れだす前に火星を出てもらう。これしかない。警察と激突し、黙認が許されない状態になったら、ドカン! っか。う〜ん、どうしたもんか。凹ませて強制撤収させられたら楽なんだが、奴らと戦うのは自殺行為。いくら俺が獣人区で五本の指に入る凄腕何でも屋と呼ばれている男でも冥帝直属の特殊部隊と戦うのは……ちょっと……。やべ、自信なくなってきた。どうにか説得できればいいが……う〜ん、奴らが、自分はどういう立場の人間かわからないほどの馬鹿だとは思えない。封緘(ふうかん)開放でもしようものなら全面戦争、それを承知の上での不法入星。説得が通じるとは正直思わない。どうしたものか〜。

 頭を抱えてう〜んとうなる。放って置くのが一番いいんだが、仕事として受けちまったしな〜。誰からこんな仕事受けたかって? そりゃ多分火星上部の連中からだよ。正体を知られたくない、匿名の依頼主の詮索はマナー違反、それに俺の主義にも反する。受けたからには100%遂行、それが俺のポリシーだが、だが!今回のは軽率だったな〜。って、持ってきたのテディだし! あ、テディどうしてるだろ? とりあえず七番街に行ってもらったが、まさか発見して戦闘になってたりしないよな? 心配になってきたぞ。そう考えたら心配でいてもたってもいられなくなってきた。

「テディと合流して今日は切り上げるか……」

 小さく呟くと立ち上がり、ズボンのポケットから携帯を取り出す。手馴れた動作でボタンを押し、テディに連絡を取る、予定だったが、俺はボタンを押し間違えた。

「あ、やべっ」

 3Dフォログラフィーが浮き上がり、ほのかな光であたりを照らす。表示されたのは冥帝直属特殊部隊の一人、金髪で、大きい縦巻きロールをした少女。俺はそれを見て、ため息をつき、視線をそらす。

「隠密行動も楽じゃありませんわ〜」

 上げた視線の先、ベンチに座った少女に、目が留まった。お嬢様言葉でしゃべる少女。俺はその容姿に見覚えがあった。金髪の大きな縦巻きロール……闇に溶けるような黒いローブ……その隙間から見える黒いハーフパンツと白いシャツ……。少女はため息をつきながら、ゆっくりとサングラスをはずした。……青い眼! 間違いない! こいつは俺の探している人物。冥帝直属特殊部隊の一人……名前は!

「スミカ=ノーブル=ローズ! 」

「はっ! はいっ、ですわ! 」

 あまりの偶然に、俺は大きな声で名前を呼んでしまった。スミカは、俺の大きな声に驚き、背筋を伸ばし、ベンチから跳ね起きた。それにしてもなんていう偶然。まさかばったり出くわすとは! って、何も対策考えてないよ! 立ち上がったスミカは、そんなことを考えている俺に気づき、焦った様子で踵を返す。やべっ、逃げられる。そう思った俺は咄嗟に走り、スミカに向かって手を伸ばす。

 ガシッ!

 掴んだ!俺はその感触を確認することもなく手前に引き寄せる。

「いたたい、いたたいですわ〜! 」

 スミカの悲痛な叫びに、俺は掴んだものを確認した。……金色の髪の毛……。俺はローブから出ていた縦巻きロールを咄嗟に掴んでしまったらしい。なんかこの絵面……俺がすげぇ〜悪者みたい。

「はっ、離してくださいまし! 」

 怒った声とともに、一瞬殺気が走った。俺はそれを察知して、咄嗟に手を離す。むくれて俺を睨みつけるスミカ。その姿を見て、俺は必死で弁解する。

「ごっ、ごめん!あの、その、悪気は、無いんだ」

「レディの髪の毛を掴むなんて男性として最低ですわ! 」

 ギャーギャー騒ぐスミカ、それを避けるために、俺は話題を変えた。

「あんた、冥帝直属特殊部隊スミカ=ノーブル=ローズだよな? 」

 急に真剣な顔をする俺に、スミカの空気が変わる。

「……そうですわ、っと、言ったらどうします? 」

 威圧するような空気に、一瞬怯む。さすが冥帝直属、殺気だけで冷汗が出てきやがる。噂でやばいって聞いてたが、こうやってあってみるとマジでやばいな。所詮子供とあなどれるレベルじゃねぇ〜な。こりゃ。

「この星から出て行ってもらいたい。騒ぎになる前に」

「いやですわ」

 考える素振りも見せずきっぱりと答える。この様子からだと、説得は100%無理。……どうしよう?

「行かせてもらいますわ。暇じゃありませんの。私」

 そう言ってスミカは俺の前から立ち去ろうとする。俺にはそれを止める事ができなかった。止めても、何もできないから。……この仕事はキャンセルになりそうだな。そう思った、その時だった。

 ヴォン!

 何かの起動音と共に、スミカの右脇腹あたりから、ほのかな緑色の光が溢れた。スミカはそれを確認すると、ローブに手を突っ込み、野球ボールぐらいの水晶玉を取り出した。そして、それを確認してから、もう一度俺の顔を見る。

「ふぅ、そうでしたの。もっと早く教えてもらいたい物ですわね」

 独り言を呟き、スミカは踵を返した。

「『神具』……持ってますわよね? 」

 笑顔で話すその言葉に、俺は殺意を感じ咄嗟に身構える。しかし、遅かった。一瞬で懐に入るスミカ。やばい! やばい! やばい!

「見せてくださいまし。貴方の力」

 スミカの右手が俺の腹に当てられる。そして、そこから青い魔方陣が現れた。

「ブルー……インパクト」

 ドンッ!

「グフッ! 」

 背中に突き抜けるような衝撃。俺の体は宙に浮き、噴水に向かって吹き飛んだ。

 ゴッ! ブシューーーーー―!

 俺の激突により、噴水は粉砕され、堰を失った水が吹き上がり公園に雨を降らせる。

 ばしゃばしゃばしゃばしゃ。

 降り注ぐ水が俺の体を濡らしていく。

「げほっ、げほっ」

 搾り出すように咳こむ。搾り出された咳に混じって赤い液体が体の中から吐き出される。……いてぇ……。力なく首をもたれた。それと同時にかぶっていた帽子が落ち、水がはねる……。その瞬間、俺の中で音が駆け巡った。

 キィーーーーーーーーーーーン。

 何かが……聞こえる。

「いって〜……」

 ザバッ……。

 力を振り絞って立ち上がる。服が水を吸って重い……腹が痛い……。俺は大きく息を吸うと、スミカを睨みつけた。スミカは俺を見詰めながら直立不動でその場に立ち尽くしている。来いって事か。くそっ! 俺は水の抵抗を掻き分けながら噴水から出る。こうなったらもぉ……やるしかない。できるだけ闘いたくないとか言ってる場合じゃないな。敵さんはやる気、なら、俺もやるしかない!

「いいぜ……やってやる。火星から出て行きたくなるまで! トコトンな! 」




三曲目 Crazy 4 U



 セントラル六番街……星間航行艇港。

 懐中時計を手に柱に寄りかかる金髪の少女。少女はため息をつき、横にいる少女に話しかける。

「もうそろそろだよ、カイト」

「……く〜」

 少女は柱に寄りかかりながら安らかな寝息を立てている。それに気づいた金髪少女は足を上げ、思いっきり少女の足を踏んだ。

「いっ! 」

 足を踏まれた少女は短く悲鳴を上げると、声を出さずにうずくまる。刹那、金髪少女に襲い掛かるように立ち上がり、少女の顎の下に銃を突きつけた。

「何すんのよ〜き・り・ん! 」

「仕事中に寝てるあんたが悪いんでしょ。しっかりしなさいよ、カイト。もう、時間だよ」

「えっ? もうそんな時間? 」

 カイトは銃を下げて腕時計を見る。

 二十四時半。

 最終一つ前の便がつく時間。

「あ、ほんとだ〜。早いね〜」

「途中から寝てたあんたはそう感じるだろうね。ずっと起きてた私は長かったわよ」

「嫌味だな〜」

 麒麟の嫌味をひょうひょうとかわしながら、カイトは体をほぐす。麒麟は何時もの事だとため息をつき、星間航行艇発着所の方を見る。段数の少ない階段の向こうに続く広い廊下、その真ん中を二人の女性が歩いてくる。

「あ、カイト。来たみたい」

「え……、ほんとだ」

 ゆっくりと歩いてくる女性二人、それを見詰めながら、カイトは麒麟と小さな声で話す。

「ねぇ、あれって天王星天零特殊部隊の制服じゃない? 」

「のようね」

「何しに来たんだろ? 」

「さぁ、戦争でもしにきたのかもね? 」

「まさかぁ〜。視察かなんかじゃない? 」

「だといいんだけど。なんかやな予感がするのよね〜」

 そんなことを話しているうちに二人はカイトたちの前まで歩み寄っていた。

「あんたたち、迎えの人だよね? MUPのピンズしてるし」

 黒い短髪の女性がカイトたちに向かって聞いてくる。黒い短髪に黒い瞳、真っ白い服、背中から腕にかけて伸びる大きな赤い十字架のデザイン。男っぽい雰囲気のその女性はカイトの胸についたピンズを見つめている。

「ええ、そうよ。ようこそ! 火星へ! とでも言ったほうがいいかしら? 」

 作りきった営業スマイルで麒麟がそういう。その言葉に男っぽい女性は軽く笑い、少し緊張していた空気が解れた。

「面白い火星ジョークね。仲良くしましょ。お二人さん」

 そういって男っぽい女性は手を差し出す。どうやら握手を求めているようだ。麒麟はその手を握るために一歩前に出る。そのとき、男っぽい女性の後ろにうつむいて立っていた、もう一人の女性が倒れこむように前に出た、そして。

「……ちょうだい」

 ささやくように小さくそういうと、腰をかがめて麒麟の唇を奪った。

「んっ! 」

「なっ! 」

 女性のその行動にカイトは固まった。されている本人、麒麟は一瞬固まったが、すぐに我に返り、逃げようと手をばたつかせる。だが、女性の力は思ったより強く、麒麟をがっちりと捕獲し、逃がそうとしない。

「あ〜あ、十夜が来るまで我慢しろって言ったのに……」

 あきれたように男っぽい女性はため息をつき、頭をかく。麒麟とキスを続ける女性。真っ白いローブ、それと一体の真っ白いフード。背中には男っぽい女性と同じ赤十字。フードの先からは黒い癖毛が飛び出し、ゆらゆらとゆれている。無駄な抵抗を続ける麒麟。次第に動きが鈍くなり……止まった。

「ぷはぁ……あ〜、落ち着いた」

 口を離し、大きく息を吐きながら女性は微笑む。そんな女性の腕のなかで麒麟はぐったりとうなだれ、荒い息をついている。そんな麒麟を見て、カイトは恐る恐る声をかけた。

「激しい挨拶だったね。大丈夫? 」

 冗談交じりでいうカイトを殺意の篭った目でにらみつけ、麒麟は搾り出すように言った。

「はぁはぁ、大丈夫な、訳、ないでしょ……あんたも、して、もらえば? はぁはぁ」

「あはは、私そっちの趣味ないし……」

「はぁはぁ、私だって、ない、わよ」

 そのやり取りを見ながら、男っぽい女性が話に割り込んでくる。

「いや〜、悪かったな〜。神霊力の供給が長時間なかったもんだから、禁断症状でちゃってさ〜。ごめん、ごめん」

「神霊力……通りで、力が抜けると思った〜……」

 麒麟はそれだけ言うと床にへたり込んだ。そんな麒麟に、女性が微笑みかける。

「ちょっと吸いすぎちゃったかな〜? 返そうか? 口移しになるけど」

「……謹んでお断りいたします」

 善意? の微笑に対して苦笑いで返す麒麟。その姿を微笑ましく見詰め、ふとカイトは顔を上げる。身体が感じるすごい気配……廊下の、向こう側。カイトがそう思ったと同時に男っぽい女性が口を開く。

「来た……十夜」

 コッ、コッ、コッ、コッ。

 ガッチャ、ガッチャ、ガッチャ。

 廊下の向こうから聞こえてくる足音。一つは硬い廊下を靴で叩く音、もう一つは金属がぶつかり合う喧しく静かな響き。しばらくして、足音の主たちが現れた。黒い髪に黒い目、真っ赤な服に白い大十字、巨大な剣を背負い落ち着いた感じで歩いてくる女性と、女性より二回りほど大きい漆黒の西洋甲冑。

「あ、お〜い。二人ともお待たせ〜」

 歩いてくる女性は手を振りながらそういうと駆け寄ってくる。その様子を見ながら男っぽい女性は不機嫌そうに言う。

「おそい! 何してたのよ! 彼方! 」

「いや〜、ごめん、ごめん。十夜が熟睡しちゃっててさ、起こすのに苦労したんだよ。重いから担ぐわけにも行かないしね〜」

 彼方と呼ばれる女性は笑いながらそういう。十夜と呼ばれた甲冑は鉄の顎を開けて大あくびをするとのんびりと歩いてくる。

「わり〜な〜、あんまりにも暇だったんで寝ちまったぜ。遥は大丈夫か? そろそろ限界だと思うんだが」

 ガチャガチャと音を鳴らしながら十夜は辺りを見渡す。そして、笑顔で小さく手を振る女性に視線を合わせ、男っぽい女性に視線を戻す。

「えらく元気じゃないか。お前の神霊力でも分けたのか? 」

「まさか。私に神霊力なんてあるわけないじゃん。あの子にもらったのよ。MUPのお迎えさん」

 そういって麒麟を指差す。十夜は麒麟をじっと見詰めると、顎に手を当て、ふむふむと考える。

「なるほど……神族か。かなりとられたみたいだな」

 納得したように呟くと十夜は甲冑の中に手を入れ、中から一つの袋を取り出す。それを見て、遥が騒ぐ。

「飴玉! ちょうだい! ちょうだい! 」

「ん? ああ。ほれ」

「あ〜ん」

 袋の中から赤い色の飴玉を出す。そして、口を開けて待つ遥の顔を見て、一瞬考え、飴玉を放り込む。

「ん〜……、おいし」

 幸せそうな顔で飴玉をほおばる遥、十夜は見詰め大きくため息をつくと、もう一つ飴玉を取り出し、男っぽい女性に渡す。

「お迎えさんにやってくれ。今の状態じゃ火星に案内もできんだろ」

「そうね。でも大丈夫? 」

「ん? ……やってみればわかるだろ? 」

 十夜の投げやりな言い方に、男っぽい女性は肩をすくめると、飴をカイトに差し出す。カイトはそれを受け取ると、満面の笑みで麒麟の前に出す。

「甘い甘い飴玉だよ〜麒麟。はい、あ〜んして〜」

「……殴るわよ」

 悪態をつきながらも、麒麟はカイトに言われるまま口を開けた。ただの飴玉じゃないということは麒麟もカイトも感づいていた。多分、天王星製の神霊力回復剤の一種だろう。そんな軽い気持ちで、麒麟は飴玉を食べた。

「ん……ぐっ! げほっ! げほっ! 」

 口に入れ、少し舐めた。その直後、麒麟は激しく咳き込み飴玉を吐き出す。その姿に、カイトは後ずさる。その様子を見ていた十夜はしゃがみ込み、麒麟を見ながら言う。

「わりぃ、身体にあわね〜よ〜だな。勘弁勘弁」

 軽いその言葉に、麒麟は怒ったように十夜に食いかかる。

「なんて物食べさせるのよ! いくら客だってやっていい事と、悪いことが! って、あれ? 」

 麒麟は何かに気づき、自分の身体を確かめるように見る。

「…………神霊力が戻ってる」

「そりゃそうだよ〜、直接神霊力の補給したんだもん」

 身体の自由が戻ったことに驚く麒麟に、遥は微笑みながら言う。そこで麒麟の頭の中に疑問点が浮かぶ。はて? 直接補給?

「直接補給って……まさか! 」

「そのまさかだよ」

 薄く笑いながら、男っぽい女性が十夜を指差して言う。

「こいつ、無限に神霊力溢れ出すから、ほっとくとやばいし、時々こうやって高速魔導超圧縮で飴玉にするんだよ。神霊力を」

「高速魔導超圧縮……そ、そんなこと」

「出来ないってことはないだろ? この世界で。何なら目の前でしてやろうか? 」

「あ、いや、いいです、そこまでして頂かなくても……」

「ん? そうか」

 話している六人を窓の外から見詰める人影が二つ。

「MUPが二匹……『悪魔殺し』『天使食い』『龍殺し』……『神殺し』。情報どおりだよ。K、準備はいいかい? 」

「準備? もぉ、とっくにライブははじまっているんだぜ? 」

「そうだったね。じゃぁ、はじめよう」




四曲目 FINE FINE FINE



「配電盤を打ち抜き、非常電源に切り替わるまでの二秒。その間にMUP一匹に一発、神殺しに二発の順番で撃つ。その後は順番に天使食い、悪魔殺し、龍殺し。ここで俺は弾切れ、最後に残った神族はKがやっていいよ〜」

「そう、うまくいけばいいが。相手は天零(てんれい)部隊、しかも欠番、十三番目の真殺部隊『ロンギヌス』。神を殺す、槍」

「はっ、神を殺す槍か……いいね〜。でも、その槍で、『ウロボロス(蛇)』を殺せるかな? 」

 裂ける重い雲、隙間から差し込む白い月光。月光は二人を照らし、二人を闇から引きずり出す。

 カイトたちを見つめながら薄く笑う人物。光を吸い尽くすような漆黒の髪、黒に赤を混ぜた血のような瞳。黒いTシャツに赤いショートパンツ。小柄な身体で、巨大な銃を持った女の子。銃は黒い十字架形で、赤い紋章が所々に刻まれている。銃の大きさは二メートル以上、相当重いはずなのに、女の子は軽々と扱っている。その隣でギターを奏でる人物。金色の長髪に漆黒の面、ボロボロの黒服にエメラルドの首飾り。漆黒の面は左眼のところだけ十字架形の穴が開いている、そこから見える金色の瞳はカイトたちを見下し、まるで、物を見るような眼で見ている。黒い十字架形のギターを奏でる指は赤く、血を吸ったように月明かりで妖しく輝いている。弦は激しく揺れているが、音はしない……不可思議な光景。

「風が、消えた……さぁ、行こうか」

 優しく微笑み、ゆっくりと銃を窓に向ける。

「アル、肝心な時だ。外すなよ? 」

 嘲笑うようなKの言葉に、アルの表情が凍る。そして、冷酷で冷たい微笑みを浮かべた。

「俺の辞書に、『失敗』なんてだせぇ言葉はねぇ。殺すって言ったら殺す。ONE SHOT・ONE KILLだ」

「はっ、頼もしいな。じゃあ、早く終わらせて帰ろうぜ」











 携帯片手に、話をするカイト。その横で、遥に寄りかかられた麒麟が不機嫌そうな顔をしている。

「はい、四名と合流しました〜。じゃ、直帰でいいですか〜? 」

「いいわけないでしょ。次の指示は? いつになったらこの仕事から解放されるの? 」

 怒りながらカイトに問いただす麒麟。どうやら一刻も早くこの仕事(この人たち)から解放されたがっているようだ。そんな麒麟に頬ずりをしながら遥が言う。

「え〜、そんな事言わないで〜、いっしょにいようよ〜。私、すっごく君の事気に入っちゃったんだ〜。ねぇ〜? 」

「いぃやぁ〜」

 その光景を見詰め、十夜はため息混じりにはき捨てる。

「まったく、これから殺し合いが始まるかもってのに、お荷物つれて歩けってのか? 遥。冗談きつすぎるぜ」

「何? 十夜。やきもち? 」

 嬉しそうに笑う遥。一瞬呆気にとられる十夜、一呼吸おき、変な空気を振り払うと「馬鹿馬鹿しい」と吐き捨て、目を伏せた。

 その刹那。世界が黒く包まれた。

 無……いや、違う、床がある。消えたのは世界じゃなく、明かり。停電?

 ギィン!

 鉄と鉄のぶつかる音と共に空中で火花が飛んだ。微かに香る硝煙の匂い……。

 カチ……パッ。

 非常電源に切り替わる音がして、闇に慣れた眼に突き刺さらない程度の優しい光がともった。

 呆然と立ち尽くすカイト、その目の前に突き出した黒い腕。十夜。握った黒い手の隙間から硝煙の匂いを孕んだ白い煙が立ち上る。

「やれやれ……来るとは思っていたが、早速きやがったか」

 ゆっくりと黒い手を開く。

 カツーンッ。

 手の中からこぼれ物体が床に落ち、金属の美しい音を奏でる。床を転がる金属片……変形円錐の芸術品。弾丸。無数の刻印が刻まれた殺意。











「あ、ミスった」

「おいおい、失敗なんてだせぇ言葉はねぇんじゃねぇのか? 」

「言葉はねぇが、したりはするんだよ。とりあえず、暗殺は失敗。反撃食らう前に逃げようぜ」

「ったく、じゃあ、かく乱するし、上のやつ一つ二つ打ち落とせや。それぐらいできるよな? 」

 Kのあざ笑う言葉にアルは微笑で返す。

「はっ、なめるなよ」











? おかしいぞ。

 音もなく打ち込まれた弾丸。確かに銃の発射音を消す技術ってのはある。しかしこの弾丸、銃にしてはでかすぎる。弾丸というか、むしろ砲弾だ。これだけの大きな弾、打ち出す際に空気が震えなければおかしい。なのに、今回、空気の振れどころか、何の違和感もなかった。音もなく、空気も振れさせない弾丸。そんなことができる銃などありえない。

 麒麟が硬直したまま考えている横で、カイトはしゃがみ込み、弾丸を拾い上げる。

「この弾丸の大きさからして、銃の大きさは二メートル前後かな? しかもこの形状の弾だと、ライフルってわけじゃなさそうね。だとしたらせいぜい飛んで100メートル、いや、そんなに飛ばないかな。とりあえず、そんな感じだし、二メートルの銃持ったやつなんてそうそういないし、調べてみて」

 いつになく真剣に考えながら携帯の向こう側に報告するカイト。その姿を感心したように見詰める四人。そして、十夜が笑い混じりに口を開く。

「はっ、腐ってもMUPか、何でやつらがお前を最初に狙ったかわかったような気がする。かしな」

 そういってカイトから携帯を奪うと、携帯の向こう側に対して十夜が言い放つ。

「こいつらしばらく借りるぞ。いいか? いいな」

 一方的にそれだけいうと携帯を切る。その姿を唖然とした表情で見つめるカイトと麒麟。その突如、はじくような音が鳴り響き、数箇所明かりが消える。そして、巨大な鉄のオブジェ片がすごい勢いで四箇所、カイトたちを囲むように降り注いできた。

 カイトたちを狙ったものじゃない。それはわかった、だが、この鉄の棒の用途に気づいたのは行動が起こってからだった。

 キィィィィィィィィィィィィィィィン!

 ハウリング?

 強烈な超高音、それが四本の鉄の棒に反響してどんどん増幅していく。

 顔をしかめながら、十夜が呟く。

「かく乱か……手の込んだことを! 」

 その呟きに平然とした顔で彼方が返す。

「面白いことするね〜、この鉄棒『音叉』の役割してるよ。やつらの中に音使いでもいるのかな〜? 」

 笑混じりでいうと、背中の剣を抜き、一閃する。

 キンッ!

 断末魔の金属音。そして、音が消えた。

 カンッ……コ、コッ……。

 小気味いい音と共に、四方を囲んでいた鉄の棒が切り落とされた。彼方は剣を納めると周りを見回す。

「完全なかく乱だね〜、気配や殺気の残り香まで消すなんて、只者じゃないよ。さすが殺し屋」

「感心してる場合か。ったく、めんどくせぇ〜なぁ〜」

「にゃはは、任務に障害は付き物だよ〜。来たら倒すの方向で考えようよ〜」

「悠長ね〜、私は攻める方が好きなんだけどな〜」

 なんとなく楽しそうに会話する四人を唖然とした表情で見詰めながらカイトは呟いた。

「なんかヤバイ感じだな〜。勘弁して」










「ん〜、これで暗殺はできなくなっちゃったな〜。どーする? 」

「とりあえず、葎(りつ)に連絡だろ? それから……神の爪も呼ぼう」

「あ? 正気か、K」

「いたって正気だ。俺たち三人じゃ正直きつい」

「まぁな、あ〜、俺、あいつら嫌いなんだよな〜」

「失敗したてめぇがわりぃ」

「ちっ、仕方ねぇ、爪の野郎は盾にでも使うか」

「はっ、いいなそれ。今回は楽しいライブになりそうだ」

「ああ、楽しもうぜ。この……真っ直ぐ捩れた、パラダイスでな」




五曲目 ICE MY LIFE



 降り注ぐ水……それに混じって赤い鮮血が水面を乱す。うつむき、それを見詰めながら、俺は冷静に自分のやった事を後悔した。

まずったな……。

力を振り絞って頭を上げる。目の前にたたずむ少女。水の粒がつき、街灯でラメの様なきらめきを放つ特徴的な金髪の縦巻きロール、不適に輝く青い瞳……破壊された噴水をバックに腕を組んで俺を見下す少女……スミカ。

まさか、ここまで差があるとは……。

荒く乱れた息を整え、頬を伝う鮮血を手の甲で拭う。辛そうな俺を見て、スミカがだるそうに口を開く。

「はぁ〜、私(わたくし)、あなたに付き合っていられるほど暇じゃありませんの。さっさと神具を出していただけません? あなたが探しているやつらと違いましたら、五分の四殺しで許してあげますわ。無駄な時間をとらせたんだから、それぐらい許してくださいね」

優しく微笑みながら恐ろしいことを淡々と口にするスミカ。見下しやがって。血の滴る右腕をゆっくりスミカのほうにむけ、ゆっくり中指を立てて吐き捨てる。

「誰が見せるか! ゴールデンスプリングヘアー! 」

ピシッ!

効果音付でスミカの笑顔が凍りつく。やっちまった〜。どうしてもこういう見下した態度するやつ見ると、ついつい挑発しちまう。しまった〜っと思っている俺を凍りついた笑顔を崩さずに睨みつけている。

「面白いことおっしゃいますわね。私、笑いが止まりませんわ」

殺意のこもった声でそういうとスミカは噴出す噴水の水に、無造作に右手を差し込んだ。

ばしゃっ! ……ブォン!

つっこんだ右腕の周りに青い魔方陣が現れ、噴出す水を青く染めた。

「痛い水浴びはお好きかしら? 」

優しく微笑むスミカ。ヤバイ! くる!

「…Pierce Rain(ピアス レイン)」

青い魔方陣が広がり、水に溶けるように消える。それと同時に無数の殺気が空中に現れた。

「くっ! 」

見上げた空には無数の氷槍。俺は瞬時に落下点を予測し、回避動作に入る。後ろ! 駄目だ! あたる! 右! あたる! 左! あたる! 前! 前だ! 瞬時に判断し、前に飛ぶ!

ズガズガズガッ!

立っていた位置を抉り取るように吹き飛ばし、氷槍が次々と突き刺さる。前に進んだ……なら、攻める!回避から攻撃に、頭を切り替えると薄く溜まった水溜りを蹴散らしながら真っ直ぐスミカに向かって突進する。

魔術師系は直接攻撃に弱い。これは戦闘における一つの常識だ。それは何故か、簡単なことだ。魔術と言う物は少なからずタメと言うものが存在する。気を落ち着かせ、魔術を構成する、その一瞬のタメ。それが隙になる。一発でも打ち込めばあとは済し崩し、多少物理プロテクトを厚く設定していても打ち崩せる。それに痛くなくても殴られれば一瞬集中が切れる、集中が切れれば魔術は発動不能。サンドバック状態になる。それが常識。そして、その常識はさらに俺ら接近系を有利にさせる。それは何故か、これも簡単なことだ。誰だって不利な戦闘は避けたい、だから自ずと魔術師系は中距離、魔術師同士で戦いたがる。そして、その戦闘で強くなろうとする。それはすなわち対接近系に対する対応の衰退を意味する。敵の魔術に絶える為に魔術プロテクトを上げ、ほとんど使わない物理プロテクトを下げる。中距離戦闘は放出系魔術、マナ増幅系魔術、組み換え系魔術。接近に対する魔術はほとんど使わない。だから、接近には弱い。俺は、この考えが、どんな強いやつにでも当てはまると思っていた。

甘かった。

こいつには常識が当てはまらない。

ブォン!

突進する俺の足元に青い大きな魔方陣が浮かび上がる。

下か!

危険を察知し、スミカに向かって跳ぶ!

「Water Thrust(ウォーター スラスト)」

ボンッ!

スミカの言葉と共に、さっきまでいたところの水が爆発するように激しく弾ける。あぶねぇ! だが、これは都合がいい。一気に攻められる! 俺は、跳んだ勢いを殺さずに、スミカに向かって蹴りを放つ。いけるか? そう思った一瞬、スミカの足元に魔方陣が現れた。

「読み通りですわ……Aqua Wall(アクア ウォール)」

げっ!

バシャー。

魔方陣外枠の水が吹き上がり、壁のように俺の蹴りをさえぎる。勢い余った俺の蹴りは水の壁に足首あたりまでめり込む、そして、壁を構成しようとする水の圧力によって、俺は弾き飛ばされた。

「くっ」

バシャ!

水しぶきを上げ、着地する。刹那、俺の足元に魔方陣が浮かび上がった。げっ! 罠!?

「逃がしませんわ……Aqua Shell(アクア シェル)」

言葉と共に魔術が発動。水が蠢き、俺の脚に噛み付いた。ヤバイ! この距離は!

「では、いきますわよ」

余裕たっぷりで微笑み、右手を俺にかざす。かざされた右手の先に魔方陣が描かれる。青く輝く魔方陣、スミカは目を閉じると手を後ろに引き、勢いをつけて足元の水に叩きつけ、吼える。

「Shock Wave(ショック ウェイブ)! 」

魔方陣が一際輝き、空気が張り詰める。

「くっ! ヤバイ! 」

水の貝殻ががっちりと足をくわえ込み、抜こうにも抜けない! くそ! やられた! そう思った刹那、足元に一重の波が流れて……。

ドッ!

凄まじい力の波が、全身に叩きつけられる。

「ぐっ! 」

その力に押され、水の貝殻から足が抜ける。そして、そのまま吹き飛び、公園の街灯に激突した。

「がっ! 」

背中を走る激痛に短く叫びを上げると、俺はそのまま地面に倒れこんだ。

バシャ……。

頬にあたる水の冷たい感覚。やっぱつぇ〜よ、こいつ。全部、計算していんのかよ。いや、全部が罠なのかよ。最初の水の槍もわざと前を開けて、前に跳ぶのを誘ったし、その次の水地雷も上に跳ぶのを誘った罠。そして、水壁にぶつけ、落ちたところに虎鋏、動けなくなったところ、一撃。多分どれを回避してもそれに続く罠を張り巡らしていただろう。思い返せば最初の一撃が罠の始まり、多分あの一撃は俺へのダメージを狙ったものじゃない。噴水を破壊し、公園に水を撒き散らす為、この公園を自分のフィールドにするための一撃。くそ……強い。これほどまでか冥帝軍特殊部隊って感じだな。こりゃ……出さないわけにはいかないか。俺はゆっくりと立ち上がり、大きく深呼吸する。ミシ……。息を吸うと同時に鈍い音が聞こえ、胸に激痛が走る。こりゃ、アバラ何本かいっちまったな。そう思いながら息を吐き、スミカに向かって不敵に笑う。

「見たいなら、見せてやる。いくら水使いだからって漏らすなよ! 」

それだけ吐き捨てると、俺はスミカに向かって一直線に突進する。

「漏ら……そんなはしたないこといたしませんわ! 」

真っ赤になりながらスミカが叫ぶ。ただの売り文句に熱くなるとは思えない、これも芝居か、ガキのくせに策士だな。驚くほど冷静に考えられる自分に軽く笑い、俺は力いっぱいスミカに向かって飛ぶ。全力の飛び蹴り!

「効かないというのに……馬鹿の一つ覚えですわね! 」

期待はずれの俺の行動にスミカは激情し、右手を俺の方に突き出して叫ぶ。

「Ice Shield(アイス シールド)! 」

叫びと同時に青い魔方陣が描かれ、透明の六角形状の盾が現れた。氷の盾か。俺は勢いを殺さずその盾めがけて突っ込んだ。そして、盾に足がついた瞬間、俺は大声で叫んだ。

「来い! 風鳴月(かざめいげつ)! 」

ピシッ!

氷の盾が割れる音、巻き上がる水飛沫、そして、吹き荒れる風。氷の盾越しに、俺を見ていたスミカが呆けたように呟く。

「……Moon Number,s(ムーン ナンバーズ)? 」

ん? 何を言っているんだ? そう思いながらも、俺は力を緩めず、一気に氷の盾を突き破る、そして、俺の蹴りはスミカの顔面を捉えた。

ゴッ!

直立不動で俺の蹴りを受けるスミカ。物理プロテクトで攻撃がかき消されているせいか、ふらつきもしない。もちろん打ち込んだだけでは効かない、それは百も承知だ。だから、ためて打ち抜く! 俺は膝を曲げ、力をためると、後ろに飛ぶように一気に打ち抜く!

ドッ!

空気も揺れる異常な程高密度な点の衝撃。スミカは弾かれた様に吹き飛び、宙を舞う。回ることで勢いを殺し、水飛沫で放物線を描きながらゆっくりと着地する。

バシャ!

手をつきながら、スミカも無様に着地する。少しは……効いたようだな。スミカはゆっくりと立ち上がり、俺を見詰める。

「やって……くれましたわねぇ〜、なかなか、効きましたわよ。靴……ですわね。風鳴月……月……でも、Moon Number,sの威力には程遠いですわ」

靴……そう、俺の神具は靴。名は『風鳴月(かざめいげつ)』。白い靴底に緑色のボディ、爪先と側面は別部品で厚い金属版が貼り付けてある。踵はさらに厚く、濃い緑色の金属で覆われている。ごてごてした靴だが、不思議と重さも使い辛さも感じない。むしろ、羽根のように軽い。

パタ……。

一滴……赤い雫がたれ、水面を揺らす。

「ざまぁみろ」

唇を伝って落ちる血、スミカの鼻血。それに気づきスミカは咄嗟に前屈みになり、両手で鼻を押さえる。

チャンス!

ザッ!

勝機を感じ、俺は一気に距離をつめる、スミカがそれに気づき、顔を上げる。

遅い!

ゴッ!

押さえた両手めがけて、もう一撃、鼻に蹴りを叩き込む。衝撃でスミカは仰け反りながら宙に舞う、俺は宙に舞ったスミカの無防備な腹めがけて、渾身の蹴りを叩き込む。

ドゴッ!

くの字に曲がり、スミカは無様に吹っ飛ぶ。

このまま一気にケリをつける!

そう思い追撃しようと踏み出す一瞬、凄まじい殺気を感じ、瞬間的に、俺は後ろに飛んだ。スミカはゆっくりと反転し、右手を地につける。

ガリガリガリガリッ!

手をつけたところが一瞬で凍りつき、スミカはそれを指で砕きながら吹き飛ぶ勢いを消し、ゆっくり着地する。

「殺す……殺して差し上げますわ! 」

鼻血と殺気を撒き散らしながら、スミカが吼える!

「Blood Strike(ブラッドストライク)! 」

右手に赤い魔方陣が現れ、撒き散らされた血という血を集める(ほとんど俺の血だが)。そして、大きな赤いハンマーを形作った。ハンマーを手にし、大きく後ろに振ると、血まみれの顔で、俺を睨みつけ……。

パシャ……。

消えた! 水の跳ねる音と共にスミカが消えた。いや、一気に来た! 視覚した瞬間、ハンマーを振りかぶったスミカが目の前にいた!

「! 」

瞬間的に足が出た。出た足がスミカを蹴る。

パシャッ……。

蹴った足が、スミカを打ち抜く。いや、これは……水! スミカを模った水! 水のスミカが、微笑み崩れた、その瞬間!

「……Decoy(デコイ)」

囁く声が聞こえる、俺は咄嗟に顔を上げた。凍りつく空気、振り上げられた赤いハンマー、やけに大きくなる心音、スローモーションで動く風景、残酷に微笑むスミカ。

ゴッ!

一撃……。

頭を殴られたのか?

バシャッ!

壁っ!? 何でこんなところに壁が……いや、違う、これは大地か?

何だこれ? 力がはいらねぇ。どうなってやがるんだ? 水が異様に冷たいのに、顔の周りだけがぬるい。何だこれ? 血が出てるのか? 身体が冷える。

ポーン……。

ん? 音……?

ターターターター、ターターターター、タータータータータ〜タタ〜。

音……楽?

音楽が聞こえる……。

これは? 歓喜の……歌?

BLACK OUT……。



六曲目 GOOD MUSIC



「あ〜、やってしまいましたわ〜。十分の九殺しってとこですわねぇ〜。困りましたわ〜」

 血の海に沈むファニアを見下ろしながら、スミカははぁ〜っとため息をつく。突っ伏したままファニアは動かない。

「神具は興味深いですけど、こうなっちゃ私たちの邪魔はできませんわよね。うん、そうですわよね。じゃあ、私、急ぎますんで、もしこのまま死んじゃっても恨まないでくださいまし」

 突っ伏すファニアに向かって無責任にそういうと背を向け、そこを立ち去ろうとする。

 ……勝負あり。

 そう思った次の瞬間。

 パシャッ……。

「! 」

 水音を聞き、スミカはゆっくりと振り返る。そして、その眼に映ったのは……血まみれのファニア。

『音楽が……聞こえる』

 宙を見詰めながらうわ言のように呟くファニア、さっきまでなかった滑稽なウサギ耳が頭上に立ち、音を探すようにぴくぴく動いている。

「獣人……でしたのね。しぶとい」

 苦々しく呟くスミカ。ファニアはスミカのほうを見ず、ずっと宙を見詰めて音を探している。

「急いでいますの」

 戦闘スイッチが入ったのか、スミカは怖いほど冷静に言うと、ハンマーを握りなおし、振り上げた。それでもファニアは音を探している。そんなファニアに、スミカは無言で飛び、頭めがけてハンマーを振り下ろした。

 パーン!

 衝撃音、空気を揺らす振動、驚きの表情を浮かべるスミカ、消えたハンマーの先、砕け散る血の塊、冷めた目でスミカを見るファニア。全てがスローモーションに流れる世界。ハンマーを降りぬいたスミカに、ファニアは静かに言った。

『……うるさい』

 ゴッ!

 一閃。ファニアの蹴りがスミカの横顔を捉える。その蹴りを受け、スミカは受身も取れずに吹き飛び、噴水に突っ込む。その姿を冷めた目で見つめながらファニアは虚ろに呟く。

『……聞こえる』

 その呟きと共に、ファニアは不気味の微笑み、ふらふらと立ち上がるスミカを見据え、呟く。

『君から、聞こえる』

 バシャッ!

 地をけり、ファニアはスミカに向かって一直線に突進する。それに気づき、スミカは身構えようとしたが、遅かった。

 ガッ!

 構える隙も与えぬ速さでファニアの左手がスミカの口を塞ぐように、顔を捉えた。

「んぐっ! 」

 隙をつかれて、慌てるスミカの顔に血にぬれた顔を近づけ、ファニアが囁く。

『……お静かに』

 そっとファニアの右手がスミカの胸に触れる。そして、そのままファニアはゆっくりと目を閉じた。スミカの心音、噴出す水の音、水を叩く水音達、顔からたれる血の一定のリズム、ファニアの中で、全てが一紡ぎのミュージックに生まれ変わる。遠くから微かに聞こえるピアノ……歓喜の歌、それを基にして作られる戦いの歌。GOOD MUSIC。あっという間の出来事に放心状態だったスミカが耳まで真っ赤にして我に返る。

「なっ! どこ触って……るんですの! 」

 叫びと共に噴水の水が、無数の巨大氷槍となってファニアに襲い掛かる。ファニアは目を閉じ、音楽に身を委ねたまま避けようともしない。

 ドッ!

 無数の巨大氷槍がファニアを貫いた……ように見えた。

 「なっ、どっ、どうなっていますの? 」

 巨大氷槍はファニアに向かって突き出したはず、なのに、一発もあたっていない。全ての巨大氷槍がファニアの立っているところを避けるように突き出している。そんな馬鹿な……あたらないはずが……。混乱するスミカに、ファニアが冷たく言い放つ。

『うるさい』

 ゆっくりと左足を上げ、靴底をスミカの腹にあてる、そして、膝を伸ばすように一気に蹴り飛ばした。

 ドゴッ!

「ぐっ! 」

 顔を掴んでいたファニアの左手が蹴りの勢いで外れ、噴水を破壊しながらスミカは反対側まで吹き飛んだ。

 ドンッ、ドドンッ!

 数回バウンドしながら、スミカは大地を転がり、街灯にぶつかって動きを止めた。ファニアはその動きを冷めた目で見つめながらゆっくりとスミカに歩み寄る。

「くっ、つつ……」

 力を振り絞り、立ち上がろうとするスミカ、ファニアはその姿を冷めた目で見下し、ゆっくりと右足を上げる。そして、顔めがけて、勢いよく踏みつける!

 ドゴッ!

「くっ! 」

 苦痛の声を上げながらスミカの顔は大地にめり込んだ。それを冷たい目で見つめながらもう一度足を上げ、踏みつける。

 ドゴッ!

 さらに大地にめり込む。

 く……屈辱ですわ! たかが獣人ごときにいいようにされて! 顔まで踏まれて! 生かしちゃ、おけませんわ!

「Absolute Zero(アブソリュート ゼロ)! 」

 ビシビシッ!

 一気に公園内の水が凍りつき、それと同時にファニアの下半身も凍りついた。

「許せませんわ! この私を、地に這わせ、顔まで踏みつけるなんて、百回死んでも許しませんわ! 」

 地面から顔を引き抜き、怒りを露にしながら叫ぶと地面に青い魔方陣が現れた。

「貫き、殺し尽くしなさい! Ice Spear(アイス スピア)! 」

 ドドドドッ!

 地響きを上げながら巨大な氷の槍がファニアを襲う! ファニアは襲いくる氷の槍を目の前にしても微動だにしない。いや、動けないのだ、下半身は凍りつき、右足を上げた状態で止まるファニア。その顔に焦りは無い。

『……Performance……Start(パフォーマンス スタート)』

 ジュ〜……。

 沸騰音を上げながら、白い湯気がファニアの周りに現れる。そんな変化などお構い無しに氷の槍はファニアに襲い掛かり……あたらない。

「なっ? なぜですの!? 」

 驚愕の表情でファニアを見詰めるスミカ、そして、スミカは一つのことに気づいた。

「……ど、どうなっていますの? 」

 眼に映った異変、それは、ファニア周辺の水溜り。水溜りがあるはずありませんわ。さっき全て凍らせたのですから、それに獣人周辺の大地、水がありませんわ。周辺の水が、消された?異変の答えを出すように、ファニアが動く。

 ジュー!

 踏み出した足元の水溜りが一気に沸騰し、蒸発する。ファニアはゆっくりと目を閉じ、蒸発する水音に耳を傾ける。そして、ゆっくり目を開けるとスミカを見詰め、微笑んだ。

『開放』

 ガシャンッ!

 神具の爪先と側面、踵が迫り出し、変形する。

『Flame(フレイム)』

 ゴォ!

 爪先、側面、踵の迫り出した隙間から炎が噴き出し、周りの氷を一気に溶かす。

「まっ、まさか! ほ、炎使い!? 」

 スミカがそう叫んだ一瞬、ファニアが動いた。

『……Be Quiet(ビー クワイエット)』

 ドゴッ!

「あっ! 」

 一撃。ファニアの爪先がスミカのみぞおちにめり込む。苦悶の表情を浮かべ、宙に浮くスミカ。ファニアは足を下げ、指で腿を叩きながらリズムを取る。一、二、三……そこまで数えて追撃の蹴り。

 ドッ!

「ぐっ! 」

 スミカの身体がさらに宙に舞い上がる。

 じゃりっ……。

 身体をかがめ攻撃態勢をとるファニア。それに気づくが、スミカには今の体勢から出せる攻撃、防御魔術はなかった。

 矢継ぎ早にファニアの蹴りがスミカを襲う。サンドバック状態……最初に言った常識通りの展開。魔術使いは接近戦に弱い。まさに、その通りだった。今のファニアの前では魔術を発動できないスミカはカカシ、ただ、立っていることしかできない、木偶同然。リズムを取りながら蹴りを打ち込むファニア、たん、たたん、たん、たたん、一定のリズム。ファニアはリズムに終止符を打つように深くかがみ力を溜め、鋭い回し蹴りを放った。

「かはっ! 」

 振り下ろし気味な回し蹴りを受け、スミカは大地に叩きつけられる。それでも威力は消えず、二回三回とバウンドしながら無様に大地を転がり、しばらくして止まった。ファニアはその姿を見ず、宙を見ながら足でリズムを取っている。

 こ、この私が……こんな火星の吹き溜まり獣人ごときに……私は……冥帝軍のエリートなんですわよ……こんな獣人ごときに……なめられていいはずがありませんわ! 私は冥帝直属の特殊部隊四番隊『Slaughter Cross(スロータ クロス)』スミカ=ノーブル=ローズですのよ!

 ふらふらと立ち上がり、ファニアを睨みつけると、スミカは右手を上げ、歯を食いしばる。

「冥帝部隊の本当の力……見せて差し上げますわ! ……封緘開っ……」

 ガシッ!

 突然スミカの右腕が誰かに掴まれた。

「だっ! 誰ですの! 」

 そう叫び振り返るスミカ、そして、その人物を確認した瞬間、スミカの顔が青ざめた。灰色がかった髪に漆黒の瞳、裾の黒い白ズボンに黒いシャツ。

「鏡……也さん」

 右手を掴む人物、それは、冥帝直属特殊部隊四番隊隊長『真神 鏡也(マガミ キョウヤ)』鏡也は冷たい目でスミカを見下ろしながら、冷たく言った。

「誰が使っていいって言った? 」

 ドッ!

「あっ……」

 鏡也の拳がスミカのみぞおちにめり込む。スミカは前に乗り出し、そのまま力なく地面に突っ伏した。その姿を見下ろしながら鏡也は苦々しく呟く。

「ったく、使えねぇ〜なぁ〜。帰ったらお仕置きだ。……さて」

 顔をあげ、ファニアを見る。ファニアは相変わらず、足でリズムを取りながら宙を見詰めている。そんなファニアに歩み寄りながら鏡也は微笑む。

「お前強いな。力を抑制しているとはいえ、スミカをここまでぼこるとは……いやいや、恐れ入った」

 のらりくらりと話しながらつかつかと鏡也はファニアに歩み寄る。ファニアもそれに気づき、鏡也の方を見詰める。ファニアの攻撃範囲……そこに鏡也はなんのためらいもなく踏み込んだ。

 ブンッ!

 反射的に放たれたファニアの蹴りが空を切り、鏡也に襲い掛かる。鏡也は蹴りを見ずに、左手を上げた。蹴りが鏡也の左腕に阻まれ、止められる。鋭い蹴りを受けたにもかかわらず、鏡也は微動だにしない。

「いい蹴りだ。だが、本気じゃない。……目障りだ! 」

 苛立ちを込めてそう言うと右手をかざし、ファニアの胸に当てた。当てた瞬間、手の周りに白い魔方陣が現れた。

「Impact(インパクト)」

 ドンッ!

 ファニアの身体のみに伝わる衝撃。その衝撃で、ファニアの意識はとび、ゆっくりと後ろに倒れた。

 どさっ……。

 あっけなく倒れるファニア。その姿を冷たく見下し、鏡也は小さくため息をつき、右手を差し出す。

「死黒陽(しこくよう)」

 言葉と共に右手に剣が現れた。厚い二等辺三角形の剣、つばは無く、柄に刃がついただけのシンプルな剣。シンプルだが、殺傷力は高い。その剣の先をファニアの胸に当て、冷たく言い放つ。

「お前は厄介だ。ここで消えてくれ」

腕を振り上げ、不敵に微笑む。そして、無造作に……振り下ろした。

ドスッ!





つづく




2004/10/30(Sat)03:15:46 公開 / トーナ
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■作者からのメッセージ
トーナです。
変な世界観の小説ですが、読んでいただければ幸いです。
メイルマン様、アドバイスありがとうございます。改善されているかどうかわかりませんが、続きです。
皆様から感想を頂いて、勉強したいと思います。宜しくお願いします

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