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『隆』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:イサイ
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僕は今日から、女の子になりました。名前は山崎純子というらしいです。だけど、僕は山崎隆です。産まれたときからずっと山崎隆だったけれど、今日から佐藤純子として暮らしていかなくてはいけません。
「たか…いや、純子」
お父さんは、僕の5cm前を見ながら言いました。
「僕、隆だよ」
「違うの。あなたは純子っていうのよ」
お父さんの隣にいたお母さんは、悲しそうに僕の肩に手を乗せました。
「だって、僕は隆だよ」
三日前まで僕は山崎隆でした。だけど、今日からは純子だそうです。僕はよく分からなくなってきました。それに、履いているスカートの感触に慣れなくて、なんだか足がむずむずします。
「純子」
強い口調でお父さんは、僕にいいました。
「おまえは、もう純子なんだ。昔の名前を口にしちゃいけない」
「どうして」って聞き返したかったけど、何も言えませんでした。お父さんは、すごく怖い顔をしていたし、隣のお母さんは今にも泣きそうだったからです。
「うん。わかった」
ほっと、お父さんの顔が優しくなっていったので、僕も安心しました。
「それじゃあ、学校へ行っておいで。転校初日から遅刻してしまうよ」
「はい」
お父さんとお母さんに見送られて、僕は家を出ました。今日から新しい学校へ行きます。新しい家から、新しい道をたどって新しい制服で学校へと行きます。
今日は新しい事ばかりです。
「今日から、転校してきた山崎純子さんです。」
新しい先生に背中を押され、僕は新しいクラスメイトに挨拶をしました。
「山崎純子です。よろしくお願いします」
間違えて「隆」と言ってしまわないように、ひやひやしました。僕は新しい席に着きます。新しい隣の席の女の子がにっこりと笑いかけてくれました。
「私、佐藤初美。よろしくね」
佐藤さんは、笑った顔がとても可愛いです。僕は思わず赤面してしまいました。佐藤さんはとっても優しくしてくれます。教科書を見せてくれたり、一緒にご飯を食べたりしました。でも、トイレに一緒に行こうと誘ってくれた時は断りました。だって、女の子と一緒にトイレにいくのは恥ずかしいから。
山崎純子になってから、僕は「隆」という言葉を使わなくなりました。お父さんもお母さんも僕のことは「隆」とは言わないし、学校の皆も「隆」とはいいません。僕は「純子」と皆に呼ばれます。時々、自分の事を呼ばれてると気づかない時もあったけど、最近は大丈夫です。初めは恥ずかしかったけど、今は女の子用のトイレにも入れるようになったし、制服のスカートの感触にも慣れました。自分の胸がちょっと他の男の子よりも膨らんでいることとか、声が高かったりする事も初めは凄く嫌だったけど、今は我慢できるようになりました。相変わらず、佐藤さんは僕に優しくしてくれます。一緒に話をしたり、ご飯を食べたり、この前は買い物に行きました。佐藤さんの笑っている顔を見るのは好きです。彼女が笑っていると、僕も嬉しくなります。
ある日、女の子達と話してると一人が「私、先輩が笑ってくれると、凄く嬉しくなるんだ」と顔を赤くしながら言いました。「え、綾香ってば、先輩の事好きなんだ」と、他の子がはやしたてます。
「笑ってくれると嬉しくなるのは、好きだからなの?」
僕が聞くと、女の子達は皆うなずきます。
「じゃあ、僕、佐藤さんのこと好きなんだ。だって、佐藤さんが笑ってくれると嬉しいもん」
女の子達は目を大きくして僕を見ます。そして、一斉に笑いだしました。
「違うわよ」「そういうことじゃないの」女の子達は笑いながら言います。
「私も純子ちゃんのこと好きよ。だけど、その好きとは違うの」
佐藤さんも笑いながら言います。なんだか、無性に悲しくなりました。
女の子が先輩を好きになる気持ちと、僕が佐藤さんを好きだっていう気持ちは別のものなんでしょうか。僕は一緒の気がします。
そういいたかったけど、とても恥ずかしくなって僕は女の子達の中から走って逃げてしまいました。
男の子が女の子を好きになるっておかしいことなんでしょうか。
「お父さん。僕が女の子を好きになるっておかしいことなの」
夕飯にお父さんに聞いてみました。お父さんは驚いた顔をして僕をみます。
「…おかしいことじゃないよ」
お父さんは相変わらず、僕の5cm前を見ながら言います。
「そうだよね。だけど、女の子達は笑うんだ」
いきなりお母さんがわっと泣き出しました。
「どうして、お母さん泣くの」
「ごめんね。ごめんね」
お母さんは謝りながら、尚泣きます。僕は何か悪い事を言ってしまったのでしょうか。お父さんは、じっと黙って唇をかんでいます。僕には分かりません。
次の日、佐藤さんはいつものように笑って挨拶をしてくれました。
「びっくりしたわ。昨日純子ちゃんいきなり帰っちゃうんだもん」
「うん。ごめんね」
佐藤さんが笑ってくれたので、僕はちょっと元気が出ました。そして、やっぱり嬉しくなります。
「ああ、そうだ。男の子が女の子を好きになるのって、別にへんじゃないってお父さんが言ってたよ」
佐藤さんは、当たり前じゃないというように首をかしげて僕を見ます。
「だから、僕が佐藤さんを好きでも変じゃないんだよ」
「冗談はやめて」
佐藤さんから笑顔が消えました。
「あなたは女の子でしょ。だから、男の子が女の子を好きっていうのとは違うの」
怒ったように、言葉がきつくなっていきます。
「違うよ。僕は男の子だよ」
「私をからかってるの。いい加減にしないと本当に怒るわよ」
「違う。僕は男だ。だって、前は山崎隆だったんだから」
「隆」という言葉を久しぶりに口にしました。ずっとその言葉を言っていなかったから、自分の名前だと一瞬忘れてしまった気分です。
「いい加減にして!!」
佐藤さんは教室を出て行ってしましました。周りの女の子達も、変なものを見るように僕のことをじっと見ています。
「僕は、山崎隆だ! 純子じゃない。隆なんだ!!」
僕は狂ったように叫びました。僕は山崎隆です。産まれた時からずっと山崎隆でした。どうして皆、僕のことを「隆」と呼んでくれないのでしょう。
そのうち僕の声に気づいた先生がやってきて、僕を教室から連れ出しました。教室から出るとき、廊下で佐藤さんと目が合いました。だけど、彼女は笑ってくれません。僕は馬鹿みたいに自分の名前を叫び続けました。
「やっぱり無理があったのよ」
白いベットのカーテンの向こうから、お母さんの声が聞こえてきました。
「医者にすすめられて、そうしたけどあの子のためにはならなかった」
「でも、そうでもしないと隆くんの命は助からなかったんです」
「何であの時、隆と同じくらいの男の子の体が見つからなかったんだ…」
お父さんの声も聞こえてきます。
「それは仕方がなかったんです。あの時見つかったのは、隆くんと同じくらいの年齢の女の子だけでしたから。しかし、他の男の子の体を待っていたのでは、隆君の脳がもたなかったのです」
「だけど、あの子は苦しんでるわ。自分の体じゃない体で生きていることに…」
「それを望んだのはご両親です。あの時事故で大打撃を受けた隆君の体はもう蘇生しようがなかった。だからこそ、隆君の脳だけでも生かしてくれと望まれたではないですか。そして、私たちは、完全に一人の脳死状態の少女の体に隆君の脳を移し変える事に成功した。」
「私達は自信がありません。隆はその事に今苦しんでいます。少しでも苦しみが減るようにと、土地も変わり、名前まで変えたというのに、それでも隆は苦しんでいます」
お父さんとお母さんはずっと泣いていました。だけど、僕は嬉しかったのです。お父さんとお母さんが僕の本当の名前を呼んでくれたから。「隆」と。何度も。
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2004/10/12(Tue)01:59:13 公開 / イサイ
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■作者からのメッセージ
何か、分かりづらい内容になってしまいました。まだまだ未熟だと実感します。短編ストーリーで、ふと頭に浮かんだ内容を書き記してみたいと思ったのですが、短編は難しい… 読んで頂けたら幸いです。
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