『夢の本(読みきり)』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:さかきかず                

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 とてもゆるやかな、でもとても長い坂道へとやってきていた。この坂を降りて図書館を通り過ぎ、そこから見える神社を抜けると小さな古本屋がある。
 そこにある本は、とても小さな光を宿しているらしい。

 本に宿る妖精を知っている?小さくて、とても優しくて物知りで。
 あなたを楽しくさせる魔法を知っている、可愛い妖精たちを。
 
 そんな話を聞いて、ほのかは坂道へとやって来ていた。
 妖精を見つけることができれば幸せになれるなんて、そんなとんでもないことあるわけないと思いながら。
 彼女は、別段容姿に自信があるわけではない。
 ありふれていると言えば、ありふれていて、顔立ちはどちらかと言うと地味な印象を受ける。
 そんな彼女だからこそ、人一倍夢見がちで、空想小説ばかり読んでいた。
 自分がこの本の主人公だったら…なんて、自分で空想を描いたりもしたことがある。
 そんな彼女が、ファンタジーに憧れる一番の要因が、妖精だった。
 小さくて、ふわふわ浮かぶ可愛い妖精を思い浮かべて、おもわず湧き出たにやけ笑いを、両頬をたたいて戒める。
 きっとその妖精は、魔法が使えるんだ。魔法と言えば魔女や魔法使いだが、小説の中では妖精も魔法を使っていたから。
 つまさきをたんたん、と踏み鳴らし、にっこりと微笑む。一歩、一歩、踏み出して降る坂道が、幻想へと続く道なのだと思うと、楽しい。
 それが嘘でも、ひと時でもそんな気分にさせてくれた『妖精』は、本当にいるんだ、とも思える。
 右手にカバン、左手は握り締めて、秋風に短めの髪を揺らしながら、そして頭の中では空想の妖精を描きながら歩く。
 意味もなくこぼれた微笑も、彼女にとってはこの上ない幸せの表れだった。
 あまり笑わない彼女だったが、目的のことを思うと、零れ落ちる笑顔を隠すことも出来ない。
 ほぉ、と漏れた吐息もまた、秋風に消えていった――。

 図書館前の道を歩きながら、ほのかはふと考えた。
 妖精は、私が来るのを知っていたりするんだろうか。
 そんなことが出来るかもしれない、賢そうな妖精を思い浮かべて、首を傾げる。
 だとしたら、簡単には姿を現してくれないかもしれない。本棚や、本のページの間へと逃げ込んでしまうかも…。
 それは悲しいことだ。会いもしないうちから怯えられるなんて、つらい。
 どうすれば良いんだろう、とそこまで考えて、まずは会わないと始まらないな、と思った。
 ようは、会って話して、自分は仲良くなりたいだけなんだと話せば良い。
 出てきてくれなかったら、お店の人に相談し、妖精達に話をつけてもらえるかもしれない。
 もうすでに、ほのかの中に妖精たちは生きて活動していた。本当に居るかも分からないのに、居ることが確定されている。
 
 また暫く、ゆっくりと坂を降っていった。
 不思議な坂だと思う。振り返ると、今まで降りてきた坂道と、脇に聳えるおおきな図書館が見えた。
 結構長い道だったと、自分でも思えるのに、それでも少しも疲れていない。
 それ以上に、空想するのが楽しかった。
 自分と一緒に草原を、小さな透き通るような羽で飛び回る、その羽に負けないくらい小さな女の子。
 小さな古本屋で、これから出会うだろう彼女達と、いろんな会話がしてみたい。
 それをきっと、同級生は馬鹿にするだろう。いつまでも子供みたいなことを言ってるな、って。
 そんな言葉は、聞くだけでつらいのだ。同じ人間として、なんだかとてつもなく大事なものを失ってしまっている気がする――。
 小首をかしげて、あんまりにも夢が無い友人のことを思い出した。
 彼女は、言動がいつもきついし、ほのかが話す内容を面白くないと言い切るほど厳しい。
 運動神経は抜群で、スポーツも得意。勉強もクラスで四番目に出来るから、皆のリーダー的な存在でほのかとは正反対だった。
 自称リアリストで、勿論空想小説なんて読まないし、マンガじみた考えなんて捨ててしまっている。
 いつも行動が遅い、というかのんびりしてしまうほのかに対して、『のろま』とののしることもある。
 本当の友達なんだろうか、なんて思うこともしばしばあった。…なんだか、彼女を引き立たせる為に自分が居るみたいで。
 だから、もしも妖精たちと友達に、本当の友達になれたら、そうしたらこんなこと考えなくてもすむのかもしれない。
 



 暫く、呆然と立ち尽くしていた。
 そこに古本屋などなかった。代わりに、台座のような物が置かれ、その上に本。
 風に飛ばされないように、との配慮か、小石が乗せられた一枚の紙。
 本から目を離して、紙に目を通すと
「ここは小さな古本屋。さあ、本を手にとってごらん?見えないものが見えるはずだから」
 そう書かれてあった。
 小首をかしげて、本を持ち上げると、あまりたいそうな装飾もなく、なんでもない普通の本だった。
 西洋風の、少し薄汚れている古そうな本。埃と砂の混じったような汚れを払っても、題名など見当たらない。
 興味本位にぱらりと開くと、一ページ目には炎と水が入り混じるような挿絵が入っていた。
 その下には、『親愛なるエミリーへ』と英語でかかれている。
 二ページ目もやはり、英語。まだ覚えてない単語もあって、四苦八苦したけれど、ようやくどうにか訳せた一文。
「世界には妖精が宿っていて、この本には、そんな妖精たちを見つけるための方法を載せている。心して読め」
 多分そんな意味。雰囲気だけで訳したから、所々間違っているだろう。
 方法とは、何だろう?
 必死なって目を通していっても、行き着く先は、結局アルファベットの群ればかり。
 英語の苦手な彼女には、流石につらい。苦笑いをして、名残惜しそうに本を台座の上に置く。
 横に置いてあった紙を小さく折りたたんで、誰にも見えないように本の下に隠すと、彼女は坂を駆け上がった。

 
 ほのかが求めているのは、空想であって、本物ではない。
 本当に妖精と出会ってしまえば、それは空想ではなく現実になってしまうのではないかと思ったからだった。
 空想を空想と思い、その中に思いを馳せるから楽しいのだ。やはりほのかはリアルよりもファンタジーが好きだった。
 それに、
「ありきたりだけど、妖精って、もうあたしの心の中に居るもん」
 夢見がちな言葉だと、自分でも思ったけれど、それでも真実である。
 にっこりと微笑んだまま、ほのかは、帰りに本屋へよろう、と思った。

 

 ――夢は自分の中に

 

2004/10/03(Sun)20:41:59 公開 / さかきかず
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■作者からのメッセージ
はじめまして、さかきかずです。
こういう小説を書くのは久しぶりで(最近は歴史物ばかり書いているので…)不安だったんですが、案の定上手くまとまりませんでした。
いろいろ不安定な部分もあって、凄く完成度は低いと思います。それでも気に入っている作品なので、評価お願いしますー。

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