『剣士育成学園』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:来来                

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 深い森の中で剣の響き合う音が木霊する。
ちょうど剣を鍛えるときのような甲高い音を出して二人の男は斬りつけあっていた。
片方は黒いマントに身を包み黒いフード、光が奪われるこの深い森では黒い服は完全に消滅して見える。
その黒いマントの袖の部分から銀の剣が見え、恐ろしい早さでもう片方を斬りつけている。もう片方は金髪の頭にギンのピアス、腰には革のベルト
をクロスさせて付けていて、身の丈ほどもある大きな大剣を片手で軽々と振り回している。黒マントの男の鋭く目で追うのがやっとなくらいの剣をその大剣からは想像もつかないような軽快さでかわしていく。
金髪の男の繰り出す剣は一降りで地面に衝撃が走りえぐれていく。


 利き腕の右手に大剣を持ち地面をえぐるように斜めから切り上げていく。確実のとらえたと思ったのだが大剣を振り切ったときには黒マントの男は視界から消えていた。
慌てて前後左右上下を見渡すが何も見えない。
それでも大剣を堂々と両手で前に構えじっと気配を探る。
……上!
 読みは当たった。上を見ると黒マントの男が切っ先を下に向け串刺しの構えで上から降ってきた。
それを大剣の横っ腹で受け黒マントの男の全体重を支えるような状態になったが、かまわず全力で木にたたきつけようとふっとばす。
木に鉛をぶつけたような鈍い音がしたがこんなちんけな攻撃がやられるとは思わなかった。
正解。
黒マントの男は木の横に平然と立っていた。
そのままの状態で木を蹴り、自分に向かって突っ込んできた。
一突き。
大剣の横っ腹で受け止めたが、ふれていないはずの太ももや頬や腕など数カ所から血が噴き出してきた。
「一突きに見せかけて実は五連突き」なわはない。単純に突きからくり出される衝撃波なのだ。


「グゥ…」
思わず金髪の男が声を漏らす。
受け止めている金髪の男の大剣と自分の剣がこすれあい耳に触る音を出す。金髪の男が力ずくで上に跳ね上げるとそのまま大剣を全力で振り下ろしてきた。これをバックステップでかわす。
しかし恐ろしい轟音とともに振り下ろされた大剣から先ほどの自分の繰り出した突きの衝撃はとは比べものにならないほどの衝撃波が自分めがけて来た。受け流しや剣で受けるには限界がある。
この衝撃波は明らかにその限界を超えていた。
全力のバックステップで木の後ろに回り込むと、その木に衝撃波が当たりその木を粉々に吹き飛ばした。
素早い身のこなしで近くの木に駆け上ると金髪の男の位置を探る。
しかし金髪の男はどこにも見あたらない。
近くの木に飛び移りながら目をこらして下を見ても見つからない。
とたんに背中に寒気が走った。
剣で防御の姿勢を取りつつ後ろに振り向くと金髪の男が大きく大剣を振りかぶっていた。
剣を斜めに構えかろうじてその一撃をかわすと左手で木から落ちないように枝を握り、右手で全力で振り下ろして身動きのとれない金髪の男の胸元に向かって突き刺した。


 剣から手を離し体をのけぞらせて鋭い突きの一撃をかわすと、再びまた大剣を握りしめ、枝から引き抜き木から駆け下りた。
木から下りると大剣を横になぎ払い今までいた木を切り倒す。
ところが倒れた木の向こう側に黒マントの男が低く突きの構えをした状態でこちらを見ていた。
殺られる…。
本能がそう直感的に告げた。
次に黒マントの男を目で確認したときはもう自分は地面に突っ伏しのど元に剣を突きつけられていた。

ふと急に辺りの景色がなにやら遺跡のような物に変わった。
四角い台の上で四隅にはとがった柱のような物が建っていて、まるで古代の闘技場のような所だった。
闘技場のような物の真ん中で黒マントの男が馬乗りになり、左手で右手を押さえられ右手で剣を持ちのど元に突きつけている。
「終了! そこまで!」
闘技場のすぐそばから女性の声が聞こえた。
茶色い髪を後ろで束ねて腰下ぐらいまで垂れ下がっている。
その声と同時に黒マントの男がすっと離れて闘技場から降りていった。
「サイ・ラグメント対ディル・サクファーはディルの勝ち…と」
そうつぶやきながら紙に何かを記入していた。
「……」
仰向けになった状態のまま、息をわずかに乱し目をつぶっている。
「また…負けちゃったのね…」
先ほどの女性がそばに来て優しく話しかける。
「うるせぇ。…チクショォ」
「ま、頑張りなさい。貴方はディル君には勝てないけれど、ザイオス村No.2なんだから」
「……あいつに勝てなきゃ意味がねぇんだよ」
そう言うとサイはむくりと起きあがり、闘技場から降りて校舎の方へと向かっていった。








ここはガーフィールド学園。
学園長はトレイニティック・ガーフィールド(愛称トレイン)という世界的にも有名な剣士だ。
なぜ有名かというと、話は2000年前にさかのぼる。
5に分かれていた長のいない部族『戦士』『剣士』『獣士』『魔士』『守士』これらがお互いにただ単に争い合っていたころ、それぞれの部族を統括する『神士』が現れた。
部族と言ってもたった5人。
しかしその5人で1人ひとつ部族をまとめ、それぞれに干渉しないと言う誓いを立て、平和をもたらしたという伝説があった。そのうちの『剣士』の長となったのが現代学園長トレイニティック・ガーフィールドの先祖「ラミキア・ガーフィールド」なのだ。
子孫と言っても実力は本物。
むしろ2000年前よりも強くなっていると言う噂まである。
この学園はそんなトレイン学園長にあこがれて、少しでも強くなってトレイニティック・ガーフィールド近衛隊になり、直々に剣術を教えて貰いたいという子供達の集まる、いわゆる「剣士育成学園」なのだ。
近衛隊に入れるのは全学園生徒3000人の内No.10位以内というものすごい精鋭なのである。もちろんディルもサイも近衛隊だ。
特にこの二人はずば抜けて強く、ガーフィールドのお気に入りなのだ。



闘技場から降りたディルは生徒校舎の自分の教室に戻っていった。
校舎と言っても古代の学校にありそうな砂のブロックで造られた壁に、屋根はない。まさに砂の校舎だ。
ディルが教室にはいると一斉に男子女子生徒がディルの所にやってきてさっきの戦いについて嵐のように絶賛してきた。
「すごかったね〜さっきの戦い! あのサイ君をいとも簡単にあしらっちゃうなんて!」
「さすがですねディルさん! あの軽やかな身のこなし! 剣さばき! さすがはNo1ですね!」
などとものすごい人数が話しかけてくるのだがそれをことごとく無視した。自分のロッカーの所へ行き黒い布製の袋を取り出すと、話しかけてくる生徒を押しのけ教室から出て行った。
校舎の出口のところで先ほど戦ったサイ・ラグメントに会った。闘技場からちょうど帰ってくるところだったのだ。
「よぉ」
右手を挙げて軽く挨拶をしてくるがこれも完全無視。
「相変わらず無愛想なやつだな。幼なじみに挨拶も無しかい」
腰に手を当て、あきれたようにこちらを見ているサイに冷たい言葉を投げかけた。
「貴様を幼なじみと思ったことなど一度もない。幼なじみを名乗りたいのなら俺に一度でも勝ってみろ」
サイがすかさず反発する。
「あぁ? 何でてめぇと幼なじみになりたいからって努力しなくちゃいけねぇんだよ? 俺はてめぇに勝ちたいから努力するんだ。その辺勘違いすんなよ」
サイの放つ恐ろしいほどの殺気をもろともせずサイの横を通り抜けていった。
『今日も修行してから帰るか…』


「ちっ。ほんっっとにむかつく野郎だ」
ディルが校舎から外に出て行くのを見送った後、少し足早に教室へと向かっていった。
教室の前に来ると足を止めた。教室の中から騒がしい声が聞こえてくる。
『ちっ…。またうるせぇんだろうな…』
サイとディルが戦うといつも質問攻めにあうのだ。
しかしディルとの戦績は39戦0勝39敗と一度も勝ったことがない。
それでもサイはこの学園でディル以外には一度も負けたことがない。ディルがずば抜けて強すぎるのだ。
うんざりとしながらも教室に入っていく。
無音。
サイが入って来るなりはたと会話が無くなる。クラスの視線が集まる。
? なんだ?
会話の中心になっていた男子がサイの元に歩み寄る。黒髪に眼鏡。
いわゆる生徒会をやっていそうな奴だ。
「サイ…お前今日、またディルに負けたんだって?」
困った奴でも見るような目で話しかけてきた。
「あん? うるせぇな。お前までばかにすんのかよハルス? お前は変なこと言うような奴だとは思わなかったが?」
「……みんな君をちょっとかわいそうに思っているんだよ。一部を除けばだが…」
その一部とはおそらくディルファンの奴らだろうと推測する。
「あんなに連続して挑んで、返り討ちにあって、それでもまた挑戦して。彼はすごすぎる。君は勝てない。君は彼をのぞけば学園最強なんだ。それでいいじゃないか?」
まるでもう挑むのを止めるように説得するかのように言ってきた。
「うるせぇよ。これはもう意地なんだよ! 幼なじみなのにあいつが俺より圧倒的に強いなんて認めたくねぇんだよ!」
「でもそれは……−−」
ハルスの言葉は一瞬にして飲み込まれた。
「これ以上ごちゃごちゃ言ってみろ…コロスぞ」
低く教室全体に響き渡るかのような声。ディルなどの手練れならともかく通常の生徒を倒れさせるには十分な殺気だった。
「−−−−−分かった…分かったからその殺気何とかしてくれ。僕はともかくみんなが危ない」
「フンッ」
ロッカーから荷物を取り出すと足早に教室から出て行った。
サイが出て行った後には10分ほど誰もしゃべる者はいなかった。





ガーフィールド学園から3Km程離れたところにテントがいくつも張ってあった。その光景は昔の中国軍隊の戦の拠点を思い浮かばせられる。
そのキャンプ地の中心のすこし大きなテントの中で何か重要会議が開かれているようだった。
「次はガーフィールドか…。手強そうだな。あそこには何か危険な情報はあるのか?」
中心に座るボスのような男が偵察員に問いかける。
「はっ! あそこにはディル・サクファーと申す者がおりまして! その者は学園No.1完全無敗のようです!」
まるで本当に軍隊のような報告の仕方ではあるが、ボスのような者以外は鎧は着ておらず山賊のような感じだ。
「フッ。完全無敗などはこの世にはおらんよ。その記録、俺たちが消し去ってやろうじゃねぇか」
“オオーーーー”
広がる草原に振動が響き渡った。向かう先はガーフィールド学園。
それ以外の何物でもなく、ただそれだけを目指して茶色い固まりは全力で突っ切っていった。


!!
最初に異変を感じ取ったのはディルだった。
いつものように学校帰りに森の広場で修行をしていたディルは、明らかに異変を感じ取っていた。
何かがおかしい。
今日は風もなくディルが修行をする音以外考えられないはずなのに、遠くの方で何かが聞こえる。
ただごとではないと感じ取ったディルだが、いつものように冷静にふるまう。
ただちょっとだけ急いで森から街へ行く。
ディルが森からでたその瞬間。
馬がディルの目の前を横切った。
それを止まってよけてまた進もうとする。しかしもう一頭横切る。
もう一頭。もう一頭。
何事かと思い素早く木に登り馬の列を高いところから見下ろす。
その数およそ5000頭。
馬の列を目で追い行き着いた先には、もうほとんどが下校し、近衛隊はおろか100位以内の剣士も居ないであろう事が予想されるガーフィールド学園だった…。




                続

2004/09/28(Tue)02:00:34 公開 / 来来
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■作者からのメッセージ
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