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『Some Day!!!』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:輝世 陽明
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「誠に残念ながら、見送らせて頂きます。以上です。」
という非常に形式的な報告のみの電話が、幾度となく自分の下に寄せられてきたのであった。ここまで来ると、己の心も、腐り汚れてきてしまい
かねない。そんな毎日を、幾日過ごせば、未来ある毎日が、己の目の前に
訪れてくれるのか?そのような、決して答えを探しても、出てこないようなことを何回も何回もオートリバースされたテープレコーダーのように頭の中で、繰り返し考えるのであった。しかし、当然のごとく、終わりなどある
筈が、無い訳で。そして、行く宛もなく途方にくれてしまうのである。
先の見えない明日を見据えながら・・・。
<数ヵ月後>
熱く人肌を刺し、きつく地面を照り付ける太陽も、優しく肌を触っていく
ようにすり抜けていく秋の爽風も過去のものとなり今は、日増しに、寒さの訪れが、近づきつつある今日頃ごろであった。季節は、移ろい変わって
いけども、己の身は、何も変っていく様子は、なかった。己を変えて行く
事に己の気持ちが、折れてしまい、どこに、行くともなく、一人散歩に
出てみることにした。家には、父親と弟の三人暮らし。父親は、遅くまで
会社で仕事。全く家庭を顧みない人。仕事の世界でしか、己の存在の
価値を見出せない人。また、一方、弟は、職を持ち、仕事は、しているが、仕事柄、生活リズムが全く異なる為、一緒に一つ屋根の下で、生活は、
しているが、殆ど、一人暮らしの生活と同じであった。
母親は、早くに病死で亡くしている。その為、俺は、おろか、弟は母親の
ぬくもりなど、知らずに、育ってきたのであった。
そして、今日も誰に「いってきます。」の挨拶を言う訳でもなく
家を後にした。いつもであれば、少しばかりの己の身の向上を求めて
というささやかなる希望と共に・・・。家を後にするわけであるが、
今日ばかりは、いつもの己とは、異なっていた。前に進んでも進んでも
弾き飛ばされてきた己の惨めな姿を目の当たりにしてきた自分にして見れば
「もう、たくさんだ!」という想いが、湧き上がってきても当然だぁと
その時の己は思っていた。少なくとも、その日の己は、思っていた。
だから、そういう鉄の鎖で縛られたような生活から普通の、ごく普通の
生活に、ただ、戻りたかっただけであった。
ただ、それだけであった。
「おいっ! 純!」
と叫んできたのは、この近所では、評判の居酒屋「たけちゃん」のマスター森田武である。気前のよさと人柄の良さで、皆から親しまれている。
「おやっさん。」
「また、なんや、ハローなんとか、って言うところ行ってくるんか?」
「ハローワークです。いい加減に覚えてくださいよ。」
「そんなインテリな言葉なんて、知らんで、
ええねん。知らんでも生きていける」
「・・・そうですねぇ。今日は、違います。」
「違うって、何や?もう、へこたれんか?辛抱が、足りんなぁ。
お前は・・・。少し、ふられた位で負けんなよ。」
「違いますよ。ほんまに、人の話を聴かへん人やなぁ。」
「俺は、おまえのことを、心配して、言ってやってねんやないか。」
「一時休戦です。諦めた訳ではありませんから。自分の将来探し。
居場所探し。」
「そうりゃ、そうやろ、今のままやったら、プーのままやもんなぁ。」
ここは、いつも、迷った時、立ち止まった時に訪れていた場所で、崖越に
見える景色は、心の平穏を誘う景色であり郷愁誘う景色でもあった。
何を求めて、何かの助けを求めて、ここに、やって来るわけでは、ない
のだが、自然と、足が、ここへと、向いてしまうのである。目の前に見える
景色には、一寸の霞も曇りもないのに、何故、己の心からは曇りや霞が、
離れようとしないだろう?
手を伸ばして、この澄み切った青々しい空の破片でも持ち帰る、いや、心の一部にでも出来うるのであれば、どれほど、己の心は、癒され、潤され、
活せられることであろう。
己の心のみすぼらしさが、嘆かわしい。そばで、何一つ、言葉一つ、
発さず、己の横顔を、見つめていた時の、おやっさんの顔が、どうしようもなく、愛しく、優しく、また、力強く思えて仕方なかった。
それまで、快調にコミカルに交わしていた会話も、目の前の景色で、
全てが、止まったいや、目の前の景色が、何もかもの交流を止めさせた
のかもしれない。この雰囲気を、壊すのが、とても、とても、怖かった。
だから、何ひとつ言葉を発せられなかった。
『どういう思いで、見ているんやろう?』
などと、勝手な自分本位の創造ドラマが始まってしまった。などと、
創造ドラマが、勝手に動き始めたところで、おやっさんが、しびれを
きらして・・・
「おい!純、こんな、おもろない所に、いつまで、おるつもりやねん!」
「はい?」
「こんな息詰まる所に、いつまでも、おらんと、行くぞ。今日は、俺の店、手伝え。人手不足やったから、丁度、良かったわ。安く働いてくれそう
やしなあ!まずは、店の中の掃除からや。いくぞ。」
「ちょっと待ってや。本人の許可も取ってないのに、そんなん、勝手に
決めんなや!」
「本人の許可って、おまえ、暇やろう。他に、することも、あらへんのに。自分の将来探しも、せぇへんような奴が・・・。」
「・・・・。せぇへんとは、言ってへんやんか。今は、少し休戦中やって。
諦めたわけやないって。もう、ほんまに、人の話を最後まで聞かへん
ねんから。」
「さっきの、おまえ、そういうおまえやなかった。崖越で遠景を見つめて
いた時のおまえ。とても、これから、もう一回、やってやろうという
パワーには、悪いけれど見えんかったわ。」
おやっさんは、何もかもを、お見通しでいた。己の姿。考え。思い。願い。
全てを・・・。返す言葉は、何もなかった。正直、また、復帰するという
言葉は、言葉上のズルさでとても、今の自分に、それほどの
パワーは、残されていなかった。残された、せめての己の虚栄心と見栄で
覆い尽くされた最後の嘘であった。その嘘も、あっさりと、見破られて
しまった。結局、おやっさんが、経営する居酒屋で、臨時アルバイターと
して働くこととなった。今の己を、忘れて・・・。ただ、働いた。
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2004/09/26(Sun)18:10:59 公開 / 輝世 陽明
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■作者からのメッセージ
この作品は、人生に戸惑い、躓き、それでも、前へ向いていこうとしていく様を観て欲しい。そして本当に大切なものは、何なのか?人生に躓いた人間は、やり直すことが出来ないのか?という命題に対しての
自分なりの1回答です。気長に付きやってください。宜しくお願い致します。
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