『愛しい君へ。』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:竜紀                

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愛しい君へ。


第1章:始動



 私は、何もわかってなんかいない。
 ただ、つまらないことはつまらないし、興味のない事に興味のあるふりをしたりする人間は、愚かだと感じる。

 学校なんてつまらない。

 私の望む情報を少しも与えてくれず、ただ強制して、ただ束縛して。

 つまらない。つまらないよ。

 先生とか友達とか、干渉されたくないし。
 一人の方が楽だもの。



 ――そんな私を変えられる人が、居るだなんて思っていなかった。






 今日も眩しい日差しが窓から差し込んで、私にとっての、一日が始まる。
 綺麗すぎて、明る過ぎて、闇のような私にはいたすぎる。

 学校に行く……。

 起きてすぐに担任やクラスメイトの、五月蝿い声が聞こえてくる。 脳で響いて、吐き気がする。
 基本的に、学校は余り好きではない。休みがちなのも、確かだ。


「真希? 起きたの……?」

 耳元で心配そうな姉の声がする。
 私は寝たふりをして目を瞑っていたが、姉の視線に耐え切れず、目を開ける。

 二段ベッドを共用している私のただ一人の家族、姉は、私にとって世界中で最も大切な存在だ。私をわかってくれるのは、姉しか居ない。私と同じ血を持つ、ただ一人の私の必要な存在。今日は確か、仕事が休みだとカレンダーに書いてあった。



「真希……」


 姉の声が、悲しく響く。 私はもう一週間も外に出ていない。
 別に意味なんてない。ただ…気分で。
 三日も声を発していないし、別に発する必要もなかった。

 
「おはよう、お姉ちゃん」

「おはよう、真希、大丈夫?」

「何が?」


 姉は私の心を心配しているのだ。それくらい義務教育もろくに受けずにこうして家に居る私にだって、わかる。
 でも、何事もなかったように学校に行くには、はぐらかすのが一番なんだ。

 だって、私はそうして今まで生きてこれたから。
 誰とももめずに、友達もちゃんと居るから。



「ううん。何でもないよ。学校行く?」

「うん」

「じゃあ、私ご飯作るね」


 朝食なんて、取る気しない。一般の社会での時間的には、もう昼食だってとっくに終わった時間だろう。
 気分は、珍しくのってるから、こんな日くらい学校に行かなきゃいけない気がする。もう、きっと六時間目くらいだろうな…。


「ご飯、いらないや。私もう行く」


 そう言って三日ぶりに微笑むと、鞄を持って家を飛び出す。

 勉強道具?そんなもの持たない。
 別に興味のないものについて、詳しくノートに書き留める必要もないし、教科書だってどうせ見ないからね。


「真希! 久しぶり! ずっと、ずっと待ってたんだから!」
「真希ー! 会いたかったぁー」
「久しぶり、どうしてたのさぁ、もう後一時間しか授業ないよぉ」

 感動の再会?私にとってはうざったいクラスメイト。抱きついて、凄い笑顔で私を迎えて、毎回毎回、いつぞやの特別番組ばりの感動の再会をしてくれる。

 いつも私にまとわりついてくるうざったいクラスメイトが、何人か居る。
 そのうちの一人、野田 朝美(のだ あさみ)は、飽きずにまた私のところへ寄って来た。
 友達だとか言って、そういう熱い青春みたいのって、一番嫌。
 拒否するのが面倒だから、とりあえず受け流しておく。


 そういう自分が、本当は一番嫌だけど。


「真希、今日まで何してたの?」

「別に。サボッてた」

「サボッてたのかぁ。さすが真希、かっこ良いね」

「何が」




 コミュニケーションは大切だ。
 私がまだ幼い頃、両親が私にくれた言葉。

 私は両親が大好きなんだ。
 もう、もう会えないけど。

 ――どうしたのかって?
 引っ越したの。日本からは見えない。ううん、地球からじゃ見えない。ずいぶん遠くに。

 ただね、手紙も言葉も一方通行だから、たまに寂しくなって、泣きたくなる。
 だけど、生きてるってだけで、ただそれだけで、両親の返事が見つかる気がするから。
 だから、両親みたく常識に縛られて苦しんで、結局消えていくなんて嫌だから。
 だから私は好きに生きてる。それだけ。


「そうだ、真希、新しい先生が来たんだよ! 音楽の先生の、産休で」

「そうなんだ。男?」

「うん! かっこ良いんだから! 真希もすぐ仲良くなれるよ」

「それはないかな」


 どうしたら私が先生と容易く仲良くなれるだなんていうふうに考えられるのでしょうか。そんなの私には、無理です。

 教師が教えてくれるのは、数学やら国語やらの勉強と、それから、大人の卑怯さと悲しさだけ。
 縛り付けるだけ。だから教師って嫌い。
 私は自由に生きたいから。


「七時間目何?」

「七時間目は、あ、音楽じゃん! 行こうよ、音楽室」

「ああ…ごめん、私、サボるね」

「学校来た意味ないじゃん、真希!」

「じゃね」


 朝美の言葉を無視して、いつもの私の学校での居場所、屋上へと向かう。
 定番だ、って自分でも思う。
 でも良いでしょ?空も見えるし…

 屋上へ向かう短い階段をさっと駆け登る。
 眩しいだろうと目を細める準備をして重いドアを押すと、意外にも真っ暗だった。

 ――雨が降っている。

 さっきまでの日差しが、嘘のようだ。
 私の躰を小刻みに叩いては塗り潰していく。
 真っ暗な空は、私に近くて、押し潰されそう。似たもの同士。

 別に寒いとかは感じない。すっかり濡れきって、私は屋上にあるコンクリートの段差に優しく座る。
 その段差というのは、恐らく以前、天体望遠鏡かなんかを置いていたのではないだろうかと思われるものだ。そう、私の居場所ね。


 安らぐ。久しぶりにこうして居ると、もう自由すら捨て去っても良いようにも思えてしまう。
 真っ暗な空が、私には何よりお似合いだ。
 そう、これが自由なんだ。
 何にも縛られない。ただこの空間にあるのは、私と空だけ。



 ギィ…

 私は咄嗟に音の方へ顔を向ける。
 重たいドアがゆっくりと開く。

 見なれない顔のスーツの男が、現れる。
 彼は微笑むと、私の隣に許可もなく座る。


「こんにちは、基峰 真希(もとみね まき)さんかな?」


 低い声でそう言う。
 私は不信感が溢れるばかりに出て、警戒していた。
 誰…

「普通は先に名乗るものですよ」


 まるで常識人を装って、そう吐き捨てる。


「これは、失敬。僕は、三山 明人(みやま あきと)、音楽の斉野先生の産休代理で来た者で…。次は、そちらの番」


 音楽のか……。わざわざ呼びに来るなんて、熱心な人。ああ、うざったい。自由を邪魔するなんて、最悪だね。
 確かに若いし容姿も良い。好み…ではないかな。


「基峰 真希。三年四組の」

「やっぱり、基峰さんかぁ。何してたの?」

「何って。サボッてた」


 嘘つくのって得意じゃないから。正直に言う方が、楽だって私は思ってる。
 もうこうなったら、音楽の授業に出るつもりなんて一切ないし、だいたい興味がないし。


「そう…。残念だなぁ」


 ほら、出たよ、先生っていう種族の得意な一言、『残念だなぁ』。
 その一言、本当に本当に嫌。
 半分諦めが入ってるように聞こえるし、聞いた感じが、どうも受け入れられない感じ。


「音楽に、興味ないって顔だね。自由が欲しいってとこか」

「……え?」


 三山は『どうよ?』というような表情をして微笑む。
 どうして、そんな見ぬいてるわけ?

 たまたまか。つまらない。


「信じてくれるかくれないか、それは自由だけど、僕は人の心が読めるんだね、これが」

「…は?」

「ちょっと興味持ってくれたみたいだね。意味不明って思ったでしょう」

「思ったけど…」


 意味不明。意味不明。意味不明。
 読めるはずないでしょ?人の心なんて。

 そういうのって、信じる気なんて、ない。
 それよりも、授業に戻らなくて良いわけ?三山は。
 私の自由奪って、何が楽しいわけ?


「授業は、自習にしてきたから、大丈夫」


 自習って……ってえ?
 本当に心が読めるわけ…ないよね?
 意味不明。


「練習すれば、才能さえあれば、誰だって心は読める。世界が変わるよ」

「どういうこと?」

「僕は、練習してこの力を手に入れたって事」

「それって…私でも出来るって事?」

「そうだね、したいなら…教えるのも別に構わないが、まずはその歪んだ心を矯正しないことには始まらないね」


 本当に?
 信憑性は薄い。だけど…こいつおもしろい。
 歪んだ心だってさ、的突いてるし?
 私の名前何で知ってて、何でここにわざわざ来たのかよくわかんないけど。


「基峰さんの名前は、知ってたよ。唯一三年四組で会ってない生徒だったし。何か深く考えてるのがわかったから、屋上に来てみたんだよ」

「ねえ…先生、私にもそれ、教えてよ。歪んだ心の矯正も、興味あるね」

「そりゃあ、光栄だね。じゃあ早速、そうだなぁ、どうしようかなぁ? とにかく明日も学校に来てよ。それまでに色々考えておくから」

「わかった」

「それから音楽の授業、これから出て。行くよ」

「え…うん」


 これはおもしろいな。自由を奪われた分、おもしろいもの、返してもらえるかも。

 もしかしたら、こんな私も…変われるような予感が、溢れてくる。
 














第2章:革命




 あれから三日。

 …力?何も。変わらないよ…

 やっぱり興味なんて持ったのがおかしかった。でも何を期待してるんだろうね、変われる気でもしてるんだろうかね、学校、ずっと来てるんだ…。
 授業も全部ちゃんと出てる。だけど、だけど、何も変わらない。変われない。

 好きに生きてれば良かったのに、良かったのに、どうして。でも縛られてるっていう気もしなくて、つまらないなんて考えなくてすんで。
 こういう生き方、あの日以来。両親の日、あの日以来。



「真希、どうしたの?最近」

「何が」

「真希、真希変わったよ」

「どこが?変わってないよ、私は」


 朝美は笑顔を浮かべる。天真爛漫で可愛らしい、朝美の笑顔が好きだ。前よりも好きになった。どうしてだろう…。


「真希、優しくなったし、表情が豊かになって、可愛いよ!」

「は…何言ってんの!恥ずかしいし!」

「ほらほら、顔が赤いでーすよ笑?」

「は…ちょっと何言ってんの!」


 そんな会話を交わす二人を廊下から見つめる三山の姿があった。

 普通ではない、その目…。




 何か寒気する。何…?
 風邪かなぁ…ううん、違う。朝美は何も感じてないみたいだな、笑って。
 …三山!?
 何、あの目!?普通じゃない。ぐっと下から強く見上げるような、何かおかしい、その目。


 三山、三山。私、変わりたい。こんな気持ち、久しぶりなんだ。本気なんだ。
 三山。私の革命、本物にしてみせてよ。

2004/09/24(Fri)21:41:54 公開 / 竜紀
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■作者からのメッセージ
こんにちは、お久しぶりです、竜紀です。
覚えている方いらっしゃるでしょうか?
旧掲示板で投稿していた者なのですが、また投稿してみようと思い、書いてみました。
まだまだ下手でお恥ずかしいですが、読んで下さった方、本当にありがとうございます。
感想、ぜひお願いいたします。

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