『見える、見えないは関係ない。いるならいるんだ。』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:ベル                

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良く、幽霊を見るだとか、いないだとか、良く耳にするけど。
実際にそんなもん見たことないし、信じる気も毛頭無い。

別に幽霊何かいたって、僕の生活に支障は無いし、僕の人生が変わるわけでもない。
この間まで、そう思っていた。だけど、あの事件がおきたのは今から2年前。

アレは、中学2年生の暑い夏の日だったかな。



「ねぇねぇ、あのウワサ……聞いた?」

クラスの女子が23人程固まって、僕にそう聞いてきた。

「今度はなんなの?」

またか、と僕は思いながら興味なさ気にそう返した。
少し女子たちはムっとした表情になった。
だって、ホントに興味が無いのだからしょうがないじゃないか。

「3年生の校舎の屋上でねっ、『首狩り』って言うのがいるらしんだよっ。でねでねっ、その『首狩り』を見た人は首を取られるんだって!」

よくもまぁここまで上手い作り話が出来るものだ。
そう考えながらも、僕は小さくため息をついて普通に返した。

「へぇ〜、それは怖いね」
「アタシの友達が見たって言うんだって!」

目撃証言か。大抵の人はそういうに決まっている。
でも、実際本当に見たんだったら首、取られているに決まっている。

「何かね、髪の毛が地面につくほど長くて顔が分からないから男か女かわからないんだって」

もうそんな説明はいいから、さっさと本題言って他の人にでも言ってくれよ。
だが、当然僕にはそんなこと言えるはずも無い。言ったらそれこそ幽霊より怖い女子たちに集中攻撃を受けるに決まってる。それなら大人しく話を聞いてた方がずっと楽だ。

「ふんふん」

僕の反応を確かめもせず、女子たちは続けていく。

「それで、放課後の事だったんだけどね……。その子、美術部でね、屋上から見下ろした校庭の姿を書く時に、屋上にエンピツ忘れちゃって取りにいったらしいの」

何で屋上に忘れたのが分かるんだ、たかがエンピツ一本を。
2本、3本だったら分かるけど1本だけだったら気付かないだろ。
心の中で、小さくつっこんでみる。

「それじゃあね、屋上に着いた時、フェンスにその『首狩り』がいたらしいのよ。白いボロキレを着てたっていってたよね」
「うんうん!」

話を脱線させるな。僕に話しに来たのにそこで自分たちで話そうとするな。

「で、どうなったの?」

僕は話が長くなるのがいやなので、こっちから反応を返して見た。

「あ、うんうん。それでねっ、もう怖くてエンピツ探すドコロじゃなかったんだって。暫くそのまま固まってたら……その『首狩り』がコッチをむいたらしいの……顔は見えなかったけど、『首狩り』はこういったらしいの」


『―――オマエノクビヲクレ』


「きゃあああああっ!!」

何、言った自分たちが勝手に怖がってるんだ。
僕から見ればその話よりアンタ等の顔の方が怖いぞ。正直。
怖がったとは思えないような奇声を上げながら、女子たちはそのまま何処かへ走り去ってしまった。

「―――確か首狩りってそこに人が二人いたら消えるんでしょ?」
「―――でねっ、昔ある先生が首、斬られたらしいの!!」
「―――絶対成仏する事は無いんだって!!」

クラス中がまるでそれに興味の無い僕を取り囲むようにその幽霊の話をしていた。
というか、女子って『でねっ』とか『でねでねっ』とか多い……。
僕は話を聞いただけで疲れ果ててしまい、その後の授業は精神的に参ってしまったタメ、グッスリと深い眠りに落ちてしまった。



「……い、……きろ……い!」

何も無い暗い視界の中、誰かが僕を呼んでいる。
なんだよ、寝かしてくれたっていいじゃないか。

いらつきを浮かべながらも、僕は小さく顔を上げた……すると

「いい度胸だなぁオイ? 何も学級会で寝るかコンチクショウ」

余程暑いのかタンクトップ一枚だけの薄着でモノサシ片手に少し頭がはげちゃっている先生がコチラをにらんでいた。

「……疲れていたので」

言い訳にもならない言い訳を言うと、先生は持っていたモノサシで僕の頭を小突いた。いったいなぁ、もう。

「お前、今日は罰掃除だ」
「ええ!?」

オイオイ、何を言い出すんだ先生。
今日は帰って『ササエさん』と『テチ亀』を見なきゃならないという日課ならぬ周課があるのに……。

「当たり前だ! 掃除場所は3年生の校舎の屋上! 逃げたら評価は全て1だ! 分かったな!?」

そんなぁ……。たかが学級会で寝ただけでなんだよソレ。
僕は小さくうなだれて、『学級会を終ります』という挨拶を聞き流して、カバンに手をかけた。
そういえば、3年生の校舎の屋上といえば、例のウワサの……。

僕はソレを思い出しながらも。ほうきとちりとりを両手に屋上へと向った。





長い階段を上りきり、ついた先は屋上の前のドア。
さっきまでは思い切り興味なさそうにしてたり、否定してたりしていたけど、そのウワサの場所に来ると何だか少し不安というか、怖い感情が膨らんでくる。

行くのを少しとまどったが、こんな所でモタモタしていると余計に暗くなってしまう。今はまだ黄昏時、暗くなる前に掃除を終らせないと。
いや、でもなぁ……。

早く終らせないと、という気持ちと、どうしようかなぁ、という気持ちが僕の中でせめぎあっていた。最初の内は戸惑っていたが、とうとう腹をくくり、掃除をすることに決めた。今なら早めに終らせたら、明るいうちに終るだろ。

ゆっくりながらも、僕はドアノブに手をかけた。
思い切ってドアノブをまわして、引っ張った。

―――ダレもいない。

「……そうか、そうだよな」

僕はドアノブを引っ張った体勢のまま、小さく微笑んだ。
やっぱり、ウワサは所詮ウワサなんだ。
体の中を安堵が駆け回るのを、しっかりと分かった。

「さ……さっさとゴミをはいて、終らせるか」

僕は、何処の学校にも必ず屋上に設置されてある給水ポンプに立てかけ、砂埃をほうきで一箇所に集めだした。




意外にも早く終るもんだな、と。
沢山あった砂埃も今では全て無くなり、汚いというイメージがあった屋上が普通に見えてくる。
いや、コレが本来あるべき姿なんだろうケド。
多分、ダレも掃除しないのはれいのウワサのせいだろう。

僕は、チリトリをドアの近くに置かれてあったゴミバコにかぶせ、上からホウキで軽く叩き、砂埃を全てゴミバコへと移した。

「さぁ〜、まだ明るいし、とっとと先生に報告して帰らない……と」

カバンを持とうとした時。
不意に、背後に気配を感じた。

何かが後ろにいる。気配を感じる。否が応でも感じてしまう。
振り返りたくない。その何かを視界に入れたくない。その存在を認めたくない。

……掃除したとき、誰もいなかったはずだろ!?

心の中が、恐怖の色で染まってしまう。
恐怖? アレだけ幽霊の存在を認めなかった僕が?

嫌な汗をかきながらも、僕は背中目に小さく後ろを振り返ってみた。

―――ダレもいない

今度は体ごと大きく振り返ってみた。

―――やっぱりダレもいない

そうだよ、やっぱり霊なんている訳無いじゃないか。
僕はカバンを手に取り、フェンスの方へと歩み寄った。

わきの下ぐらいまでしかないフェンスに、前のめりにもたれかかった。
校庭では、まだサッカー部と野球部が生真面目に「ちゃんとボール取れよ!!」とか叫びながら練習をしていた。

「……こんな時間までご苦労な事だ。さ、もうかえろう」

僕はもう完璧に霊なんていないというのを決め付けてしまったので、後ろに振り返るのにためらいは無かった。

そして、そのまま後ろを振り向いて―――

―――言葉を失った。

明らかにその空間だけがおかしくなっているというのが一目で分かった。
他のトコロは明るいのにその空間一体だけがグルグルと紫や黒、茶色といった暗い感じの色が渦巻いていた。

そして―――

その中心で立ちつくのは―――

今自分を恐怖のどん底に叩き落しているのは―――

ウワサで聞いた地面に着くくらいの長い長い髪の毛。
ボロボロの白いキレ。そしてその手に持っているのは、ウワサでは聞いたことが無かった斧。大木でも切り落とすんじゃないだろうかというほどの大きな斧を、片手で軽々と持っていた。

その恐怖の正体は―――『首狩り』

「本当……に……ウワサ、どおり?」

初めは、誰かの悪戯なんじゃないのかと、あの斧も作り物なんじゃないかと疑っていたが、すぐにそれが『本物』だという事に気付いた。

『首狩り』の移動方法が明らかにおかしい。
通常、人間が歩くならば、その動きにあわせて体も上下にぶれるはず。
だけど、『首狩り』の歩き方はまるで異質だった。
ユックリと、残像を残しながら左右にジグザクに、平行移動しているんだ。

ローラースケートでもはいてるかのように。
そして、ここで僕は気付いた。『首狩り』の足が、膝から下。全てが無い事に。

ホンモノだ、間違いなく、コイツは幽霊……

恐怖に彩られた脳内が、危険信号をビンビンに発している。

『ニゲロ、ニゲナイト―――
 ―――ココデシヌ』と。

だが、その考えを打ち砕くように、『首狩り』は確実にコチラへと向ってきた。
僕は恐怖のあまり、涙をも浮かべながら、腰を抜かしてしまった。
もうだめだ、逃げられない。

『首狩り』はもう一歩手前のところまで来ると、いきなりその動きを止めた。
そして、その場でしゃがんで、僕に向ってその長い髪の毛をグイっと横に引っ張って見せた。

―――男か女か分からないんだって!

頭の中で、クラスの女子の声がフラッシュバックした。
当然だ、顔そのものが無かったら、一目見ただけで男か女か判別するなんて、出来やしない。

首が無いのに髪の毛だけがまるでそこに顔があるかのように不自然に浮かんでいた。何なんだ、何なんだこの異質なものは!?

不意に、『首狩り』が笑ったように見えた。
そして、こう自分に問いかけているのが分かった。

―――オマエノクビヲクレ

イヤだ、なんだってこんな所で死ななきゃならないんだ。
でも、腰が抜けてしまって、動くどころか立ち上がることも出来ない。

そんな絶望といえる状況下を、さらに絶望に落とすように、『首狩り』は僕の首にその大きな斧の刃を密着させた。背筋が凍るほどの冷たい刃が、僕の首に密着させられている。
この斧を少し、首に向って動かせば―――

予想もしたくない。
僕は思わず胃の中からせりあがるものを、また飲み込んでしまった。
苦い味が口の中を包み込む、が、それ以前に恐怖自体が大きすぎてその苦さも全然感じない。

イヤダ、ヤメテクレ、マダシニタクナイ

『首狩り』は、僕の心の中を知ってか知らないでか、その斧を大きく横に振りかぶった。

僕は死を覚悟した、ここで僕は死ぬのか、と。

そして、『首狩り』はその斧を、大きく空気の壁を突き抜けるように走らせた。
銀の閃きが空間を伝い、確実に僕の首筋へと狙いを定めた。
頭の中で、子供頃の様子が沢山無造作に、まるで一つのビデオテープの内容を全て一度に見せられるように浮かんだ。コレが「走馬灯」というものなのか。

銀の閃きが僕の首筋に触れるのが分かった。
瞬間、世界の動きが全てスローモーションに見えた。
良く、火事場の馬鹿力とかあるけど、そんなもんなのかな。
死に直面する瞬間、全神経がどうたらこうたら、そこら辺は良く覚えてない。

父さん、母さん、先立つ僕を許し……て

思わず目を閉じる。
恐らく、この閉じた目が開くことは二度とないのだろう。



「遅いぞ!! 掃除終ったのか!!?」
「……え?」

ところが、僕に向けられたのは、恐怖でも。銀の閃きでもなく、ただの罵声。
慎重に瞼を開くと、目の前にいたのは、あの『首狩り』じゃない。
僕の掃除を押し付けたあの頭の上がちょっとはげちゃってるイヤな先生。

「……何ー……やってんだお前?」

先生は腰を抜かして涙を浮かべている僕を見て目を丸くした。
当然だろう、掃除をしているはずの僕が、泣いているのだから。




これが2年前に起きた不可解な現象。

幽霊は人生を変えない、生活に支障をきたさない? とんでもない。
あの時、先生が来なかったら僕は、今この話を語れていないだろう。

何故、首狩りは僕の首を斬らないで消えてしまったのか。
そういえば、眠る前に人が二人いれば消えるとか何とか誰かが言ってた……。


おわり


2004/09/18(Sat)13:27:47 公開 / ベル
■この作品の著作権はベルさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ

ブギーポップ・ペパーミントの魔術師……。
なんですかあれ、よくあんなに書けますね。
上遠野さん凄い……(ぇぁ

こんにちは。本日。見直した結果。誤字が多いどころか、誤字しか見つからないというやべえ状況になりましたゆえ。UPしました;;

あの日誓ったのに……UPしないt(以下略
ごめんなさい。非常にウザイですね、自分;;
ではでは〜。

(……投稿フォームで最初からちゃんと誤字の確認すればいいんじゃねえの?)
(……それをいったらおしまいさ。めんどくさいしね)
(いっぺん死ぬか?)

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
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