『JET to GET -第一次大阪戦争-』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:覆面レスラー
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JET to GET ?第一次大阪戦争-
〜朝啼き鳥編〜
1
おまえは「世界の敵」を知ってるか?
いや、別に確認することでもなかったな。
知ってて当然だ。
奴らがこの世界に出現してからもう既に三十年、経つからな。
おまえも大切な人間の一人や二人、奴らに殺されたことあるだろ。
皆そうだ。
おまえだけが特別じゃない。
奴らの目的は所詮、人間を殺す事でしかないからな。
善人、悪人、偉人、廃人、老若男女、人の範疇に含められるものなら取り敢えず殺す。
何があろうと、そのルールは純然としていて不変だ。
だから、奴らはおまえの大切な人を大切な人だと知っていて殺したワケじゃない。
だから、なんだって?
……んー、なんなんだろうな。
どっちにしろ身内を殺される事実は許せねぇってのは分かりきってることか。
……まー、奴らももっとマシな事してくれりゃいいのに、と思うよ。
この仕事長いから妙な親近感さえ沸くんだよな。
なまじっか人を殺すから問題になってくることをちょっとでもいいから理解してくれりゃいいのに、とか
殺しさえしなけりゃ、まあ、逃がしてやっても良いか、
なんてよ。
なぁ?
例えばさ、殺すにしても猫ばっかりとか、犬ばっかりとか殺してりゃ飼い主とか動物保護団体は五月蝿いだろうが、人間の遺伝子に『殺意』が焼き付けられるほどまでに根深く遺恨を残す事はなかったし。
俺だって、大阪の守護神としてこの世に生を授かることも無かった。
人間て奴は、やられっぱなしで我慢できるような定義じゃねぇからなぁ。
こうなるのも仕方なし、なのかな。
お前はどう思う?
お前も戦争を知らない大人達と一緒で、構造の発展性は一見結果論に見えて実はそうでもない、って断言しちゃう派?
まぁ、どっちでもいいんだけどよ。
……兎も角、人間って種族は淘汰し続け勝ち残り続けてきた種族だからな。
どんな窮地に追い込まれても必ず、逆転で必殺の一撃ってのを狙っててよ、
で、その一撃ってのが、受精体のガキを遺伝子操作でもって創り上げた『対抗者』――所謂、俺たちみたいに『次世代』って呼ばれる『能力者』ってワケなんだ。
マジだぜ。
超カッコいいだろ。
かははっ。
そんな俺達の事、テキトーに『能力者』とか呼んでりゃいいのに、
人間の想像力の限界を識る者達とか何とかヒューマノイドクリエイター共は格好つけちゃって言っちゃってくれてます。が、要はありえねー力――『奇跡』ってモンを連発できる人間だと考えてまず間違いないぜ。
頭の中で自分ができると強烈に明確な意志として描けば、なんでも可能になるんだぜ。
一度信じさえすれば、空を飛ぶことは朝飯前。
指先から炎を噴出させるのも可能だ。
瞬間移動なんかは、特定の場所を想像しながら、瞬間移動をするイメージを描かなきゃならないから結構難いし、街一つ消し飛ぶぐらいの行使力は、実際に見たことねーから、想像できねぇ=使えねー。
まー、そんな力あっても仕方ねぇし。
たまーに欲しくなるけどな。
自分の居る場所から攻撃の射程距離が届かなくってイラついたときとか。
別に何が何でも人間って種族を守りたいって考えてるわけじゃないけど、自分の手の届かない場所で好き放題殺戮られるってのは気に喰わねー。
奴ら、史上最強の能力者の肩書きを誇るこの俺が担当する大阪市内地区ですら、生き馬の目を抜くみてぇに年間2000人を抹殺するはた迷惑なノルマを達成してくれてるしな。
この『能力者』において『最強』と自他共に認められた俺ですら年間2000人の人間を守りきれないなんて。
ムカつくけど、さすが「世界の敵」共――やってくれる。
そうでなきゃ、面白くない。
ゲームとして成立しない。
『最強』の俺が勝ちっぱなしってのは、ゲームにならねぇじゃん。
多少殺戮られるのもスパイスって――
ああ、すまねぇ。
不謹慎だったな。
……あー。まぁ、その、なんだ。
そんな奴らをひっくるめて『世』と『界』と『の』と『敵』の四文字で呼称する行為は、なんて分かりやすくて素敵なニックネーミングだ、と俺は時々思うんだよな。
奴らの存在は文字通り「世、界、の、敵」。
世界に存在するありとあらゆる人間を虐殺して回る無意識と本能の怪物。
どこから来たのか誰も知らない。
何を成そうとしているのか誰も知らない。
分かっているのはただ一つ。
奴らがなぜ「世界の敵」なんてクラシックな呼称で呼ばれ続けているのか、の理由ぐらいだ。
Q1.なぜ、奴らは人間しか殺さないのに、「世界の敵」よわばりされなくてはならないのだろうか?
答えは簡潔。
A1.奴らが人間の天敵だからだ。
どうやら人間って奴は、自分達の敵こそが世界中ありとあらゆる種族の天敵になりえるのだと勘違いしているみたいだ。
ステレオタイプな例えを持ち出すと――
全然ステレオタイプじゃねぇよ、なんてツッコミは無しだぜ、ヘコムから――
犬星人が、鎖で奴隷のように束縛され、犬小屋に繋がれた犬を助けに来た、という理由で地球を侵略し、地球人を虐殺し始めたのなら文句無しに奴らには「人間の敵=世界の敵」というレッテルが貼られるだろう。
世界中のありとあらゆる犬が彼らの手によって救われたとしても、だ。
でも……
まぁ、こんだけグダグダのたまわっても、今のところ奴らを殺すしか道はないんだけどな。
俺もおまえと同じだ。
奴らに大切な人間を殺されたってクチ。
幾ら『能力者』でその上『最強』だとは言え、俺だって元は人間と同種族だ。
親友や家族や恋人を殺されて「お前らがヨェーのがワリーんだよ」とか言える筈が無い。
せめて仇はとらせてもらうさ。
一つ殺せば一つ殺される因果応報を理解する暇さえ無くをブチ殺してやる。
これまで通り。
幸いにも仇は順調に見つかり続けてこれまでに九十九人ブチ殺したから、遂に残り一人。
ソイツを殺せば晴れてゲームセット。
グッドエンディングとは遥かに懸け離れた結末を迎えることが出来るわけだ。
ん?
敵討ちが終わったらどうするのかって?
……あー、考えて無かったわ。
まー……今からそんなこと考えなくてもいーんじゃねー?
それまではそれなりのやる気でおまえらの事、守ってやるしさ。
そうそう。
今から心配すんなって。
大事な心配事に気づいてない人間はいっぱい居るし。
俺達「能力者」の総合力は今となって「世界の敵」上回っていると、観測結果にハッキリと数値化されているのに、なぜ誰も俺達が敵に回ると考えたりしないんだろう、とかな。
同じ種族ってのは、それほどまでに強固な絆を有しているのか?
隣人は皆、兄弟だってか。
くだらねー。
…………。
かはは。
――冗談だよ、冗談。
さて、今日も一日が始まる。
『能力者』としてのお仕事、今日も一日ガッチリ勤しむとしますか。
2
通天閣の天辺から見渡した大阪の町は胡麻粒みたいな人間と車がひっきりなしに流れていて、今日も平和風味だ。風味なのは、一見平和に見えるだけで全然平和なんてもんじゃないから、あくまで平和風味なのだ。そして実は平和じゃない大阪をパトロールっているのはこの俺「主人公=リュウスイ」に与えられた任務であり、一種の復讐劇だ。大阪という煤けた街を誰よりも愛していた「妹=サキ」を殺した「奴ら=世界の敵」を、俺の手によって塵一つ残さず滅却するために、最強を冠する「抵抗者=能力者」である俺は「日本平和維持機構=国家警察?」の手先となり大阪市内地区の治安を守り続けている。
今日はいつもより雲の流れが早い。爽快な青空がさわやかな風に乗せて俺に囁きかける。
――もっと狩れもっと狩れ。
任せなベイベー。
俺の殺戮本能は「サキ」がこの世からお別れした時に起動しぱなっしなんだぜ。
殺し殺し殺し貫く殺戮旋風はひと時も休むことなく大阪に吹き荒れる。
ポケットでさり気無いバイブレーション。
するりとクールに携帯を取り出す。
画面表示には、日本維持機構大阪支部の番号が表示されていた。
「サー、こちら「ハミングバード」。こんな時間帯に電話なんて珍しいっすねアソウギ管理官。なんすか? 新しい「敵」でも出現したんすか?」
「ご名答。奴らの出現ポイント、最近ランダムってるからな。場馴れしてない部下が荒挽きトマトにされた挙句、十二時間かけて敷いた『包囲網』からみすみす『目標』を逃がしやがった。連日連戦で疲れてるだろうが始末を頼む。敵の現在ポイントは北緯××度東経××度。通行人をマシンガンらしきもので虐殺しながら時速2Kmで北北西に移動中。サワ長官が生かして捕縛しろとさ」
「ぜってぇ、無理。コロス方向で対処しますから。んで、あー……えーと北緯? 東経? どこっすか、それ? 俺って大阪在住な人間だから、環状線の駅名とかで言ってくれると分かりやすくて嬉しいんですけど」
「JR難波駅半径100メートル付近だ」
「お、ラッキー。こっからバリ近いじゃん。だいたい一キロぐらいか……リョーカイ。直ちに対処に当たります」
俺は携帯をジーンズの尻ポケットに押し込みながら足元のフェンスを軽く蹴って空に身を躍らせる。水泳の飛び込み選手のように姿勢を正した姿でアスファルトに突き刺さるような垂直落下しながら背中に生えた羽を全開に広げると、重力下降は一転して風の流れと空気抵抗を利用した飛翔に転じ、俺の身体は空を滑るように軽やかに上昇していく。あとは宙を旋回し、方向転換した後、時速80Km程度の滑空でとりあえず難波からちと離れた日本橋付近に降り立てば良い。
こうして空は飛ぶのは凄く気持ちが良い。世界が過去に流れていくイメージが目の前で起こる。高速道路を160Kmでぶっ飛ばしているカンジだ。景色がただ背後に流れ、過去の俺も引き摺ってフェードアウトして視界の外に消える。
爽快感に包まれているとあっという間に地下鉄日本橋駅付近を通る、阪神高速上空についた。現場から4、500mってトコか。ここいらで降りとこう。背中の羽を縦に折り曲げて下方向にかかる重力のベクトルを、風の抵抗を利用した斜め上向きのベクトルで緩和しつつ歩道のタイルの上に降り立った。
と、いってもそういう気になっているだけで、多分そんな物理法則は関係ない筈だ。本当に羽を使って飛ぶ、という行為はどうしたって人間には不可能だから。俺が飛べているのは紛れも無く『能力者』として使役する『奇跡』のお陰だ。
「大阪の街を守るため、只今推参!」
一応敵でないことを示すために、着地と同時に両手と翼を広げてポーズをつけるが周囲に人は見当たらなかった。あぁ、成る程。「敵」が出現したからみんな屋内シェルターか地下施設に非難したのか。
……超つまんねー。
毎度のことだけどさ。お前らメタルスライムかっての。俺ってばまた影のヒーローじゃん。たまには関西テレビとかで俺の勇姿をイチローと並んでスポーツコーナーぶち抜きで取り扱ってくれても良さそうなもんじゃん?
って愚痴りたくなるぐらい、人気が消えたミナミの街並は違和感アリアリだった。
ふてくされたまま、ポケットに手を突っ込んで歩き出す。
そのまま直進して200メートルぐらい歩くとビッグカメラビルが見えた。こっからJR難波まで結構近い。直線にしておよそ2、300メートルってトコか。
ホロコーストと隣り合わせなんて雰囲気は全くなくて、心地よさを孕んだ風は穏やかそのもの、平和なモンだ。
けれど、此処と密接した場所では大量殺人が繰り広げられている。
この遥か現実離れしたアンバランスさにもう少し酔って居たかったけれど――
あまり現場に駆けつけるのが遅くなっても、始末班が火薬で吹っ飛んだと屑肉とかを繋ぎ合わせて、片付けて、一個の遺体に復元処理していくのは結構大変だろうから、うんと頷き、ひとつ気合を入れると走って現場に向かった。
このまま三つ角を三つほどやりすごして、左手に曲がるとまず人が居なくなることはない大阪一の繁華街の中央駅にたどり着く――
歩道でとおりゃんせが鳴り響いていた――
幾つもの商業ビルで昼真っからネオンが点滅していた――
そして、それに混じって――
ありえない爆裂音が耳を劈く――
ギャリリリリリリリリリリ!!!!!!!!!!
ドゥルルルルルルルルルル!!!!!!!!!!
地面を掘る工事現場のオッサンが使ってる圧搾機のそばを通り抜けるときと同じオクターブ。
マジで近い。
「敵」は確かマシンガンを持ってるらしいから、マシンガンを撃ちまくっていると考えてまず間違いない。俺は携帯で連絡を入れる。
「こちら「ハミングバード」。「敵」発見につき今より殲滅行動に移行します」
「了解」
携帯向こうで、本部連絡担当のアソウギ管理官が「「ハミングバード」攻撃態勢に入ります!」と誰かに叫んだのを確認して俺は通話ボタン『切』を押した。
押しただけだと思ったけれど、携帯は掌の中でスクラップよろしく握りつぶされていた。
遅れて、
頭蓋骨の奥から鼻に篭る、
太くて体液が沸騰しそうな熱の塊。
沸々と煮えあがるような苛立ちが、
胸の奥底からせり上がってきていた。
急激に脳を巡り始めた血液の熱の本流で、
喉からほとばしる血の臭いが、
昏く視界を覆い脳髄を焼く。
全身の毛細血管が弾けて、
血の涙を流す。
殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。
歯を食いしばる。
今度こそ「咲」を殺した奴を殺せるかもしれない期待感がこうやって「敵」と対峙する直前にいつも俺をさいなむ。
駄目だ――落ち着け、俺。
この前は冷静じゃなかったせいで「敵」をミンチにしちまっただろ?
ああ、
そうだ。
気をつけないと。
奥歯を磨り減るほど噛み締めて、ひとまずボルテージが跳ね上がった感情をなけなしの理性でセーブする。
浮き出た額の汗を生ぬるい風が冷却して消えた。
異常な熱気をかみ殺すために
「……復讐の時間だ」
重く言葉を吐き捨てる。
コンクリートジャングルとガイキチが描いたモノクロームでアスファルトを埋め尽くされた街の中央で、俺はバクバクうねる心臓と、ガンガン唸る鼓膜の痛みに耐えながら、対「敵」――「能力者」専用兵器――「覚醒意識」のスイッチを入れた。
大脳が微振動を起こして、起動していく「覚醒意識」が生温く浸透していく感触が大脳皮革の裏で蠕動を起こす。
来た来た来た来た来た来た来た来た来た来たァッ!!!
俺は舗装タイルを軽やかなステップで蹴り上げ、全力疾走でマシンガン音が聞こえた場所に身を躍らせた。
ソッコー発見。
遠くに一つだけ人影が見える。
「覚醒意識」の効果が加速度的に俺の周囲にたゆたう世界を減速させていく。俺がそのままマシンガン野郎に向けて直線的に突っ込むと、相手も気づいたのかドゥルルルルルルルルルと俺に向けてマシンガンを連射。甘い甘い。聞こえてるっつーの。弾速より音速の方が遅いとかかんけーねー。ガトリング音が聞こえてからでさえ、十二分にかわせる。秒速1000mですら意識を「覚醒」させた俺にとっちゃ鈍い。矢鱈スローモーに溶けていく景色に、マーブル模様の残像を置き去りにして身を捻ると、目の端を通り過ぎていくギュルギュル回転した弾丸が過去の俺の残像に命中したのがくっきり見えた。
あはっ、余裕じゃん。
十メートルほどまで接近するとマシンガン野郎のシルエットがはっきりと確認できた。ギタリスタのみてーな長身痩躯の身体をした野郎は両手からマシンガンを生やしていた。例えでも暗喩でも無く、文字通り手首から掌の代わりにマシンガンを生やしているのだ。
だが、別段不思議ではない。
俺たちも「敵」も「人外」の存在だから多少構造がおかしくて当たり前。 俺だって羽生えてるしな。
川のように滑り流れるアスファルトを蹴り上げ、微妙に軸をずらしながら周囲を旋回すると、肉薄する俺のスピードについて来れず、野郎は見当違いの方角に両手マシンガンを差し向ける。その内の片方を圧倒的鋭角でぶった切って、野朗の背後に駆け抜けると羽の空気抵抗と摩擦係数を利用して(利用したつもりで)急停止した。
「覚醒意識」の速度変化を緩めながら俺はゆっくりと振り返る。
「よー、マシンガン野郎」
野郎に向けてぶった切ったマシンガン付の手首を投げ返してやる。
野郎は濁々と血が溢れる左手首の切断面を右腕で抑えて止血したいみたいだが、隙間からゴボゴボ血の泡が吹き出している。どうやら上手くいってないみたいだ。
なんでこいつ右腕で抑えるだけなんだろう?
あ、そうか。
両手マシンガンだから傷口縛ったり、抑えたりできないのか。
要するに――
マシンガンで人を殺すためだけに創られたのだから、指がついた拳なんてモノ、必要としなかったのか。
「すまん、すまん」
俺が気さくに声を掛けると睨んできた。
やっぱ切られたのを根に持ってるみたいだ。
顔の前で手を合わせ、もう一度謝っておく。
「メンゴメンゴ。でもさ、俺らってあれじゃん? 「人外」仲間じゃん? 仲良くやろうぜー。っつーか仲良くしねぇと屠殺るだけだがよー」
っと危ねぇ。
首の皮一枚で押し殺した殺戮本能がチロッと黒い舌で思考回路を舐めやがった。
「覚醒意識」を一時的にセーブしているせいで、本能が理性をオーバーしそうになってる。
落ち着けー、俺。
深呼吸イチ、ニ。
肩と羽を大きく上下させて、脳に酸素を送り込み、脳の中枢に直接制約を認識させる。
コイツは生かしておかなければならない「敵」だ。
「機構」から生かしたまま捕縛しろって命令が下されてるし、何より「咲」を殺した奴かどうか確認しなればならない。
脳はそれを認識し、理性の稼働率を上げた。
同時に殺戮の意志も緩やかに萎んでいく。
さて、目的を達成しよう。
「お前さぁ「咲」って人間知らねぇか?」
「……××××××――」
俺の質問に、奴は小さい声でボソリと口の中で呟く。
良く聞こえない。
俺は近づくために、迂闊にも一歩踏み出してしまった――瞬間。
奴がギリッと歯軋りを鳴らし、ビクッと右手首のマシンガンを構え、一斉掃射体制に入った瞬間――には、時すでに遅し。
「覚醒意識」の稼動が間に合わない。
クソッタレェ!!!
俺が防御体勢に入ろうと羽をはためかせた瞬間
ドゥルルルルルルルルルルル!!!!!!!!!!!
ガトリング音が破裂する。
今度は音と弾丸にタイムラグは無く、ほぼ同時に俺に着弾した。ガガガガガガガガギギンッ。金属音と戯れながら分厚い衝撃に耐える。
完全に油断してた俺のミス?
いや違うね!
こいつらは自分達に課された物語のお約束を理解してねーんだ!
「敵」共のこういうところが大っ嫌いなんだよッ!
普通ヒーローが変身する間怪人は木偶人形みたいに待ってるのが最低条件だろうがッ!
むせ返るような硝煙の煙を吸い込みながら、俺は視界を開いていく。開いていくにつれ地面にザザザザザギギギギギギンッと激しく擦れあう鋼鉄音を響かせて無数の弾丸が地面に散らばり落ちた。全弾、俺を守るように閉じられた羽に着弾し、威力を相殺されていて、一発として俺本体に掠っていない。自慢の羽は小さな凸凹した窪みだらけになっちまったが。
「イッテーなー、全力で撃ちやがって。流石の俺でもゲキ危なかったっつーの。羽のガードが遅れてたら完全に死ねたっつーの」
ヒーローってのは絶体絶命にあっても助かるから、当然間に合うはずだったんだけどな。
それでも――
「――不意討ちって卑怯じゃねぇ?」
サワ長官が殺さないように捕縛って言ってたって?
そんなバカみたいな規則、どうでも良い。
俺を不意討ちで殺そうとしたんだ。
いいか、殺そうとしたんだぜ?
絶対たる正義の味方のこの俺を。
マシンガン野朗は「サキ」の仇かどうかなんてしらねぇ。
どっちにしろ――殺す。
「……オマエ、ここで終わっとけ」
呟いてる間に羽が撒き散らした硝煙の煙に遮られた視界の向こうから、俺にマシンガンを差し出したままガタガタ震えてるマシンガン野朗が現れた。自分の最後を本能的に悟っているのか、それとも俺のプレッシャーに中てられたのか歯の根が上手く合っておらずガチガチ鳴っている。
俺と言えば撃たれている隙に「覚醒意識」の再稼動作業を完了させていた。
「ウ、ウワワワァァァァァァッ!!!!!」
悲痛なマシンガン野朗の咆哮と失禁とガトリング音。
ガァルルルルルルルルルッ!!!!!
ドゥルルルルルルルルルル!!!!!
ギャリリリリリリリリリリ!!!!!
全部あっさりかわす。こいつはもうこれしか攻撃方法が打開策が残っていないらしい。弱いって最悪だな。
俺にマトリックス気分を思う存分味あわせてくれる。
「アッハッハッハッハーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
弾丸の軌跡すら見ずとも避けれる。あぁ、俺以外の存在はなぜどうしてこうもどうしようもなく儚く脆く弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱いィィィィィィィィィィィィィ。アドレナリンが溜まりすぎてイライラした破壊衝動が全身を突き動かす。
「見苦しいっていってんだろぉぉがぁぁぁぁクソッッタレェェェエー!!!!!」
股間を濡らして必死で四方八方にマシンガンを振り回す野郎に怒鳴る。野郎といえば竹やりで戦闘機を落とす勢いで無意味に当ても無く腕をグルグル回すだけだ。
所詮人間を数段強化した程度の肉体には完全に反応できない速度で背後から首筋にそっと手を差し入れる。その差し込まれた手にすら反応できずに奴は「さよなら」と赤子をあやすような温もりで包み込まれた俺の優しさを最後の言葉として受け取り、指先から繰り出された俺のナイフより鋭利な手刀の一閃によって喉仏ごと首を切断された。ぶちゅ、と弾ける音がして、切断されて平らになった輪切りの断面図から一メートル程血の柱が吹き上がってきてその血が頬から口に流れ込んだのを舌で舐めとってから俺はようやく気づいた。
しまった、
ミスった。
生かして捕縛だった。
あーあ。
今回の野郎も殺しちゃったよ。
また怒られんじゃん、俺。
掌に付着した野郎の体液をひらひら振り落とす。
飛び散った液体は、波紋となって地面を汚して黒く残った。
一仕事終えた感触に、うーんと伸びをしながら、ぐるりと首を捻りながら周囲を見渡すと、うんざりする光景が延々とコイツの進行経路に従って続いていた。
周囲に散乱した穴という穴から髄液を撒き散らして肉屑と、何とか形状を保っているものの触れればそこから醜く崩れていきそうに歪んだ死体と、血塗れの女の死体に抱き付いて穴だらけになったガキの死体と、ボロボロに砕き穿たれた赤レンガと、罅割れた大時計のガラス。
首から噴水を上げて、真っ赤にそれらを汚染していく野郎を取り巻く昼下がりの難波駅で、清々しい気分で佇み、空を見上げる俺の心はどんどん透き通っていく。
サキ、お前の仇はまだまだ取れそうに無いぜ。
どこまでも青く蒼く流れる白い雲の存在すら許容しないほど突き抜けていた日曜日の正午の青空の真下。十二回目のミッションコンプリート。今回も目的を果たせなかった俺は次の「敵」を倒すまでまた大阪の守護神だ。
2004/09/10(Fri)00:40:05 公開 /
覆面レスラー
■この作品の著作権は
覆面レスラーさん
にあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
PN変更して一作目です。
この作品、お蔵入りするつもりだったのですが、個人的にお気に入りなのでやっちゃいました。
作品はけなされてナンボだと思ってるのですが臆病者で小心者なので、PN変更という苦肉の策をもらっていますが……ねぇ?
『僕=覆面レスラー』が誰だかお分かりいただけた方はこっそりメールなどで教えて下さい。
一通もらうたびに、一回僕が喜びます。
今回の作品は、全三回程度のUPで終了する予定です。
最後までいろいろな方にお付き合いいただけたらなぁ……と願っております。
それでは、またノシ
作品の感想については、
登竜門:通常版(横書き)
をご利用ください。
等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で
42文字折り返し
の『文庫本的読書モード』。
CSS3により、MSIEとWebKit/Blink(Google Chrome系)ブラウザに対応(2013/11/25)。
MSIEではフォントサイズによってアンチエイリアス掛かるので、「拡大」して見ると読みやすいかも。
2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。