『Little love』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:渚                

123456789101112131415161718192021222324252627282930313233343536373839404142
…なんでこんなことになったんだ?


自問自答。ただ、途方にくれた。目の前には、小さな女の子がいた。








Little love






…が、死んだ。


は?なんだって?


…死んだんだよ…が…。


誰が死んだんだよ?





先日かかってきた電話。俺に、不幸を運んできた電話。弘樹は、いつまでも口ごもっていてなかなか真相を話さない。最も、そのほうがよかったのかもしれない。俺は一瞬、ショックで受話器を取り落としそうになった。
夕菜が、死んだ…。



棺桶の中で、静かに眠っている夕菜。俺は黒いスーツを着て、もう目覚めない夕菜を見た。俺がこんなに苦しんでいるのに、夕菜が眠っているのが腹立たしかった。
何で。何で夕菜が。夕菜は通り魔にやられた。後ろから包丁で一撃…。ほぼ即死だった。
憎かった。夕菜を殺したヤツはもちろんだが、他のすべてが憎かった。俺に電話をしてきた弘樹、葬式に出席したすべての人間、そして、俺をおいていった夕菜さえが憎かった。
夕菜が火葬されるところを、俺は見に行かなかった。
「ユナ、あんたに見てほしいと思うよ」
沙良は静かに言った。活発な沙良には、こんな真っ黒いワンピースは似合わない。弘樹も隣で暗い表情をしている。弘樹と沙良と夕菜は高校のときの友人で、大学に入った今でも関係は続いている。いや、夕菜とは続いていた…と言うべきか。
「いってやれよ、叶。ユナだって、きっとそうしてほしいさ」
俺は黙って首を振った。夕菜が火に飲み込まれていくのを見るのは、気が狂いそうだ。何かを感じ取ったのか、弘樹は沙良の肩にぽんと手を置き、行こうと促した。
沙良も抵抗せずに、歩き始めた。俺は黙って二人を見送っていたが、ふと思い出し、二人を大声で呼び止めた。二人は驚いて振り返った。
「あのさ、頼みがあるんだ。ユナの…」


ユナの、骨をとってきてくれ。




ずっと前から考えていた。いつからだろう。多分、小2のとき、祖母がなくなったときだ。おばあちゃん子だった俺に、ものすごいショックを与えた。必死で祖母を生き返らせようとした。両親がどれだけ止めてもきかなかった。あの手この手で何とかしようとした。祖母が炎の中に入れられたときも、俺はまだ納得せずに、泣き喚いていた。
それから俺は、研究し始めた。誰にも言ってない。両親にも、弘樹にも、沙良にも。ただ一人、夕菜には言った。彼女は別に反論しなかった。
俺は、死者をよみがえらせることができると信じていた。研究に研究を重ねて、ついに確証を持った。発明した。人を、よみがえらせる方法を。パソコンにその人が持つ情報を入れる。そして、その人の体となる…やめよう。自分でも結局、いまいちわからないのだ。
今までこれを使わなかったのは、蘇生させる人がいなかったからだ。祖母はもう墓の中だし、天寿を全うしたのに、今頃起こすのは気の毒だ。
だが、ついに使うときがやってきた。夕菜を、生き返らせる。



「叶?叶、いるの?」
ドアをたたく音で目が覚めた。のろのろと起き上がり、ドアを少し開ける。沙良がいた。前のような黒いワンピースではないが、黒いTシャツにジーパンと全体的に地味で、喪に服していた。
「これ、とってきたよ」
沙良はポケットから小さなカンの箱を出し、そっと開いた。そこには、小さい、白い石のようなものがあった。これがもともと、夕菜の形をかたどっていたのだ。
「ありがとう」
俺はそっと箱を受け取った。沙良は心配そうに俺を見ている。
「ほんとにいいの?あんたが小さくてもいいって言うからこれにしたけど…おばさんは、もっと大きい骨でもいいって言ってくれたよ。そのほうが、ユナも寂しくないだろうって」
「いや、ほんとにいいんだ、ありがとう。今日弘樹は?」
「ああ、弘樹のおじさんとおばさんが、ユナのおじさんとおばさんに挨拶に行くって言って、弘樹もついてったの」
「そっか」
俺は両親のことを思い出した。高校生のときからこの、ふるい日本家に一人暮らしだ。築100年近くたっているが、一人で住むには十分すぎるほど広い。ここにいるから、両親は弘樹のことも沙良のことも、もちろん夕菜のことも知らない。
「じゃあね、叶。…あんまり、ムリしないで」
沙良は心配そうに出て行った。


忙しかった。夕菜蘇生のために走り回った。夕菜の情報は、この骨が与えてくれる。体はまぁ、鉄のようなものを本体とし、その表面に人の皮膚に近い素材を取り付け、それを骨が与えた情報どおりに変化させればいい。
一日中パソコンに向かい、材料をかき集めた。目がしょぼしょぼしたが、それでも、決意は一点も曇らなかった。
着実に用意は進んだ。また、夕菜に会える…それが、俺の原動力。きっと、沙良も弘樹も喜ぶだろう。
そして、用意は整った。



「なんだよ、叶?大事な用って」
弘樹が靴を脱ぎながら言った。沙良もそれに習っている。二人とも、もう何度も泊まりに来ているので、自分の家のように思っているらしい。
「ああ、奥言ってから話すよ。沙良、お茶入れてくれない?」
「お客にお茶入れさせるなんてずいぶんな扱いね」
沙良はお茶を入れてくれるきはないらしく、居間へと進んで言った。俺は仕方なく冷蔵庫から麦茶を取り出し、コップを3つ持って居間に向かった。二人は居間にぺたんと座っていた。俺もそれに習い、居間に座る。弘樹が早速麦茶をコップに注ぎ、ぐびりと飲んだ。
「んで、何?話って」
弘樹は水滴がついたコップ越しに俺を見ている。沙良をちらりと見ると、俺をじっと見ていた。俺は大きく息を吸い、はっきりといった。
「ユナのことだ」
「まぁ、そうだろうとは思ったけど」
沙良は別に驚きもせず、麦茶を飲んでいる。
「それで、まぁ…普通のことじゃないんだ」
「どんなことだ?実はユナは生きてるってか?それとも、あの通り魔を捕まえるってか?」
弘樹はははと笑った。なんだが、自嘲気味だった。
「ユナはなぁ、ユナはもう死んじまったんだよ。もう帰ってこないぞ」
「いや、帰ってくる」
俺はきっぱりといった。それまでコップの中の氷をがりがり噛み砕いていた沙良は、ぱっと顔を上げた。その反動で、小さな氷のカケラがたたみの上に飛び散ったが、気にした様子もない。
「帰ってくる?一体どうやって?」
俺は目を閉じた。この二人が理解してくれるだろうか、納得してくれるだろうか。不安に思いながら、俺は話し始めた。



数時間後、俺たちは「死者蘇生装置」に向かっていた。二人は反対などまったくせずに、今すぐに夕菜を復活させよう、といった。俺は装置の電源を入れながら、夕菜の骨を箱からそっと取り出した。
「ほんとに、その骨でいいの?そんなにちっちゃくて大丈夫なの?」
「大丈夫さ。俺は21世紀のドラえもんだぞ」
「ドラえもんは発明者じゃねぇだろ。むしろ、ドラえもんはユナのほうだな」
俺は夕菜の体の元となる鉄の体、そして、皮膚となる物質をセットした。そして、あの骨を、装置の中心にそっと置く。沙良がごくりとつばを飲むのが聞こえた。
「ねぇ、叶…本当にやるの?」
「沙良、ここまで来てやらなかったら、そりゃ馬鹿だ」
俺の言葉に沙良はちょっとむっとしたようだったが、俺は無視した。装置からパソコンへとコードが延びている。パソコンの、エンターキーを押せば装置は作動する。
「じゃぁ…弘樹、沙良…いいか?」
声がかすかに震える。弘樹はこくりとうなずいた。口をぎゅっと結び、緊張した面持ちだ。沙良は返事のかわりに、瞳を閉じ、祈っていた。俺はキーボードをにらんだ。エンターキーが、どうだ押してみろといっているように思えた。俺は思い切ってエンターキーをたたいた。
かちゃり、という音がした。
と、突然ディスプレイからまばゆい光があふれ出した。沙良がわっと言って顔を覆う。あまりのまぶしさに、目を開けていられない。
「おい、叶!どうなってんだよ!?ユナは!?」
俺は装置があるはずの方向に顔を向け、うっすらと目を開けたが、ちかちかしただけで何も見えない。ただ、無造作な機械音が聞こえる。
と、ぷつりとひかりがやんだ。それでもまだちかちかしてちゃんと見えない。目をしょぼしょぼさせていると、沙良が装置に歩み寄るのがうっすらと見えた。と、突然悲鳴のような声を上げる。
「どうしたんだ、沙良!?ユナは!?」
俺は意味もなく大声でわめいた。沙良はしばらくうめいていたが、やがて、小さな声で言った。
「…叶、あんたのTシャツ、借りるよ」
「Tシャツ?んなモン何につかうんだよ?」
「ユナにきせんの!!ユナ、何も着てないじゃない、このヘンタイっ!!」
「え!?いや、それは俺に言われても…」
「とってくるわよ」
少し視界が明るくなってきた俺の目の片隅に、沙良が歩いていくのが見えた。俺はあわててその背中に叫ぶ。
「ジーパンも取ってこいよぉ!!」
「いらないわよっ!!」
沙良はなんだかぷりぷりしながら歩いていった。
「なんだ、あいつ?」
弘樹は目をこすりながら俺も言った。俺も肩をすくめる。とりあえず、装置のほうを見ないようにした。夕菜の裸なんか見たら、沙良に殺される。俺が蘇生される羽目になってしまう。
沙良の足音が戻ってきた。装置のほうに行き、しばらくごそごそしていたが、やがて、いいよ、といった。俺と弘樹は恐る恐る振り返る。沙良が途方にくれたような顔で立っていた。装置にもたれかかっている。
「沙良…ユナは?」
「いるよ…。でも、あの装置、ポンコツなのかもね」
「へ?」
沙良が大きくため息をついた。
「…お願いだから叫ばないで…あたし、頭がパンクしそう…」
沙良がすっと装置の前からどいた。あが、俺は角度的に夕菜が見えない。俺がいらいらしていると、弘樹が息を呑むのが聞こえた。
「こりゃ…またなんで…」
「どうしたんだ?」
弘樹は気遣わしげに俺を振り返った。そして、沙良を手で促し、すっとよけさせる。
俺はあっと叫び、あわてて手で口を覆った。案の定、沙良が頭を抱えていた。俺はもう一度、装置の中を見た。
そこには、一人の少女が眠っていた。
「…誰だ、これ?」
俺は思わずつぶやいた。そこにいたのは、5歳前後の女の子。俺のTシャツはほぼワンピースのようだった。ジーパンがいらないのも頷ける。
「なんか、違う人じゃない?」
「ん〜…失敗だったかなぁ…」
俺はまじまじと女の子を見た。まつげの長い目は閉じられていて、まだあどけない唇はしっかり結ばれている。
「なぁ、叶。こいつ…ユナに似てねぇ?」
「…………!?」
俺はぱっと女の子の顔を見た。確かに、いわれて、いわれれば似ていないような気がしないでもないような気がするが、気のせいなような気もする。
「うーん…難しいなぁ」
「ユナの寝顔の写真なんかないしねぇ…」
沙良がポツリとつぶやいた言葉に、俺は頭の中に電気が走った。大急ぎで物置まで走る。二人が驚いて振り返り追いかけようとしたが、女の子のことを気にしてついて来れないようだ。
俺はほこりっぽい物置の扉をけりあけた。大量においてある物を掻き分け、積み上げてあるアルバムに近づき、それをひっくり返す。いろんなアルバムがある。学校の卒業アルバム、生い立ちのアルバム、そんな中から目的のアルバムを探す。そして、ついに見つけた。青い表紙のアルバムを開く。
「おーい、叶!!どうしたんだよぉ」
二人がようやくやってきた。弘樹はあの女の子を負ぶっている。
「あのさ、去年、4人で旅行行っただろ?あん時、女の子の寝顔隠し撮りしじゃん」
「何それ!?サイッテー!!」
沙良がキーキー怒り出す。
「もう今はそれはいいじゃんか、沙良」
「良くないわよっ!!まったく、あんたらろくな事しないわねっ」
「ま、これで今回は役立つんだから、結果オーライじゃん、な?」
「…まぁ、今は緊急事態だから、もう何も言わないけどサ」
沙良は呆れたように言った。俺はぱらぱらとページをめくり、その写真を探す。それは。程なくして見つかった。夕菜がベットの上で眠っている。もう、この寝顔を見ることはない。夕菜が死んだという現実が、改めて突き刺さる。
「じゃ、検証してみますかぁ」
弘樹は女の子を背中から下ろし、そっと寝かせた。俺はアルバムから写真を取り出し、二人の顔を見比べる。
…疑いようがない。この女の子は、夕菜だ。





…なんでこんなことになったんだ?
自問自答。目の前には、小さな女の子が眠っている。この子が、夕菜だなんて。
沙良も弘樹も黙り込んでいる。どうして19歳の夕菜がこんな5歳前後のような姿で蘇生されてしまったのかわからなかった。
「…なぁ、叶」
弘樹がぼそりといった。
「この装置ってどういうつくりなんだ?」
「…骨からユナの情報をパソコンに取り入れて、その情報を体に与えて、その情報どおりの形に変化させるんだ」
「…んー、あたし思うんだけど」
沙良は前髪をかき上げながら言った。
「情報が、少なすぎたんじゃない?」
「え?」
「だって、あんたが使ったのは、こんなにちっちゃい骨のカケラでしょ?」
沙良が指で3ミリぐらいの大きさを示す。
「だからさ、うーん…なんていうか、情報って、体中に分散されてるんじゃないかな?それで、その骨だけじゃ情報が足りなかったんじゃない?」
…そうか、そうかもしれない。この骨が持っているのは、ほんの一部の情報だけ。そして、情報が不足したため、夕菜は完全な姿で蘇生されなかった…十分考えられる話だった。
「んで、これからどうすんだよ」
弘樹は以前、困った顔で俺に尋ねた。だが、正直俺も困ってた。
「…ねぇ、もう、この子消すことはできないの?」
「はぁ?物騒なこと言うなぁ、お前」
「だって!!…はっきり言って、こんなのってよくないと思う!!」
沙良は俺に食って掛かってきた。
「ユナはもう死んだんだよ!?眠らせてあげればいいじゃない!!死んだ人間をたたき起こすなんて、命を弄んでるのと同じじゃないの!?」
「おい、やめろよ沙良…」
見かねたように弘樹が沙良の肩をつかんだが、沙良はそれを振り払った。
「弘樹は黙ってて。あたしは叶に聞いてるの」
沙良はまっすぐ俺を見た。弘樹も不安げに俺を見ている。俺はじっと沙良を見た。「気が強いのよ」と書いてあるような顔立ち。まあ、実際気は強いが。
「…じゃあ、なんではじめに俺を止めなかったんだよ」
俺は静かに言った。沙良が一瞬びくっとする。
「お前だって、ユナに会いたかったんじゃないのか?だからとめなかったんだろ?」
「それはっ…そう、もちろん、ユナに会いたかったわ。でもそれは…」
「『でも』はナシだ。お前は、俺に反対しなかった。でも、ユナが不完全な姿で再生されて、怖くなったんだろ?自分は何をしてしまったんだ、ってさ」
「違う、そんなんじゃ…」
「じゃあなんなんだよ」
「おい、やめろよ二人とも……」
弘樹が俺たちの間に入る。だが、俺も一度腹が立つと止められないほうなのだ。
「だいたい、ユナは本当に目覚めるのっ!?さっきから寝てばっかりじゃない!!」
痛いところを突かれた。そう、実は、目覚める保証がないのだ。
しかも、もし目覚めても、本当の人間のようになるかは保証できない。ハイテクなロボットぐらいかもしれない。返答パターンはいくつもあるが、意思を持ってるわけじゃない、ということだ。
だが、俺は負けず嫌いだ。ここで引くのは癪だった。
「おきるよ!!」
「あら、じゃあ起こしてよ、今すぐに!!」
「ああ、起こしてやるよ」
俺は肩を怒らせて夕菜に近づいた。夕菜は相変わらず硬く目を閉じている。俺も目を閉じた。そして、覚悟を決めて夕菜に話しかける。
「…ユナ。起きろ」
と、突然ブーンという機械音がした。俺は驚いて飛びのく。後ろで、沙良が弘樹の腕にしがみついたのが見えた。
夕菜がゆっくりと起き上がる。その大きな瞳が開かれ、まっすぐと俺を見る。
俺たちはただ、呆気にとられてそれを見ていた。夕菜はじっと俺を見ている。が、やがて、ゆっくりと口を開いた。
「…ゆな…おきろ……」
「え?」
思わずマヌケな声を上げてしまう。だが、夕菜はまったく動じず、呪文のように繰り返している。
「ゆな…おきろ……ゆな…おきろ……」
「…叶の言葉を…真似してる……」
沙良がつぶやいた。弘樹はただ唖然として夕菜を見つめている。が、やがてゆっくりと口を開いた。
「叶…こいつ、子供と同じなんじゃないか?」
「え?」
「きっと…言葉の意味がわかってないんだ……」
弘樹はつぶやくように言った。俺は夕菜に目を向ける。夕菜は相変わらず、俺を見つめながらつぶやいている。俺はしゃがんで、夕菜と目線の高さを合わせた。夕菜は不思議そうに俺を見る。
「ユナ」
俺はそっといった。
「ゆな」
夕菜がまねする。俺は今度は、夕菜を指差しながらいった。
「ユナ」
夕菜はちょっと首を傾げたが、俺を指差していった。
「ゆな」
「違う違う」
俺は夕菜の手を彼女の胸に当てさせた。そして、俺も夕菜を指差していう。
「ユナ」
「ゆな?」
「そう、ユナ」
俺は手を離した。夕菜は自分を指差して、
「ゆな」
といった。俺はにっこり微笑む。そして、今度は自分を指差して言う。
「叶」
「かぬぅ?」
俺は首を振った。今度はゆっくりと、一つ一つはっきりと発音する。
「か・な・う」
「か・な・う」
「叶」
「かなう」
夕菜は俺を指差した。
「かなう」
「そうだ」
俺はうなずき、夕菜の頭を撫でた。夕菜はちょっと肩をすくめる。俺は振り返って、相変わらず穴が開くほど夕菜を見つめている二人を見た。沙良は不安げに俺を見ている。俺は微笑んで、目で促す。沙良はちょっとためらったようだったが、やがて夕菜に歩み寄り、しゃがんで自分を指差した。
「沙良」
夕菜は沙良を指差した。
「さら」
沙良はにっこり微笑み、うなずく。
今度は弘樹が夕菜に近づいた。夕菜も弘樹を見る。
「弘樹」
「ひるき」
「ひ・ろ・き」
「ひ・ろ・き」
「弘樹」
「ひろき」
「よし」
弘樹は満足そうにうなずいた。
夕菜はちょっと首を傾げてから、まず俺を指差した。
「かなう」
今度は沙良を指差す。
「さら」
そして、弘樹を指差した。
「ひろき」
最後に夕菜は、自分の胸に手を当てた。
「ゆな」
不思議な空気が流れた。この子は夕菜だ。でも、夕菜じゃない気がする。そう…「ユナ」と呼んだほうがふさわしいかもしれない。
「えらいわ、ユナ!!いい子ね!」
沙良がユナに抱きついた。ユナは不思議そうに沙良を見ている。沙良は微笑んでいたが、目にはうっすらと涙がにじんでいた。
「いいこ?」
「そうよ、いい子。えっと…なんて言えばいいかな……」
沙良が頭を抱えていたが、ユナは特に気にした様子もなかった。沙良を見て、ゆっくりと話す
「ゆな、いいこ?」
「…ええ、ユナはとってもいい子だわ」
沙良はうれしそうに話す。ユナもうれしそうにぱあっと笑った。
「ゆな、とってもいいこ!!」
「うん、いい子、いい子!」
「ゆな、いいこ!!」
ユナはきゃっきゃと笑っている。沙良もうれしそうだ。弘樹も、とても穏やかな表情だ。俺も思わず微笑んだ。
これからどうなるかわからない。でも、ユナを見ていると、とても幸せな気持ちになった。




2004/10/11(Mon)15:55:10 公開 /
■この作品の著作権は渚さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
こんばんわ、渚です。
久しぶりに更新です。もうひとつのほうが、なにやらパスワードの関係で更新できないので・・・。
ちなみに、主人公の名前は「かなう」です。もしかしてわかりにくいかな・・・と心配しながらも、書くのをずっと忘れていた大馬鹿者です;
皆さん、レスありがとうございます。とても励みになっています。
意見、感想等お待ちしております。

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で42文字折り返しの『文庫本的読書モード』。
CSS3により、MSIEとWebKit/Blink(Google Chrome系)ブラウザに対応(2013/11/25)。
MSIEではフォントサイズによってアンチエイリアス掛かるので、「拡大」して見ると読みやすいかも。
2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。